不道千景は勇者である 作:幻在
槍が迫る。
「ぐぅあ・・・!?」
それを千景が真正面から受け止める。
防御に使った太刀から伝わる衝撃が、腕を叩き、体を打ち据える。
そのまま靴底をすり減らす勢いで後退させられていく。
「くそったれが・・・!」
(なんて重いの・・・!?)
千景の前に立つのは、漆黒の槍を持った男。
その姿はまさしく戦闘に特化した者の装束であり、その頭は頭全体を覆う兜をかぶっていた。
しかし、男はこちらが反応するよりも早く、槍を振るって千景を襲う。
「白鳥さん―――ッ!!」
(OK!)
武器をすぐさま鞭へと切り替え、男の槍の連撃を凌ぐ。
振るえば振るうほど威力を加速増幅させる鞭をもっての防御は、男のあり得ない程の速度で振るわれる槍を紙一重で弾いていく。
だが、それも長くは続かない。
いつの間にか、間合いを詰められていた所を腹に重い蹴りを喰らう。そして吹っ飛ぶ。
「ぐ・・・あ・・・!?」
建物の壁に叩きつけられ、そのまま砕けた建物の瓦礫に埋もれる。
「・・・・ふん」
男は鼻を鳴らす。その直後に、瓦礫が吹き飛び、中から千景が這い出てくる。
「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」
その体はすでにボロボロで、装束はところどころ破れている。
この、目の前にいる黒づくめの男は、突然、ヒュアツィンテとの戦いに割り込んでくると、瞬く間に戦況を逆転させた。
いや、互角だったのを一気にやられたといった方が正しいだろう。
とにかく、こことは別の場所で、園子と辰巳はすでにやられている。
ほんの一瞬の事だ。目の前の男が辰巳の地面に叩きつけたと思ったら、園子の顔面を蹴り飛ばし、そしてその後に、千景に槍の一撃を浴びせた。その一撃を、千景は球子の楯をもって防いだが、それでもかなり吹き飛ばされた事には変わりない。
「くそ、このままじゃ・・・・!」
「あらあら、まだ抵抗する気なんですか?」
そこで、ヒュアツィンテがやってくる。
これで完全な二対一。絶望的な状況だ。
「ヒュアツィンテ、何しに来た?」
「最高司祭様の活躍ぶりを拝見しに来ました。以外とてこずっているようですね」
「ふん、すぐに仕留める」
槍を手の上で躍らせ、視線を千景に向けて構える。
このままでは、確実に負ける。
相手は、明らかに強い。
このままでは負ける。
(こんな所で負けられる分けがねえ・・・!!)
その手に持つ刀を握りしめる。
奥の手として、あの超真解があるが、あれはあくまで『対城用』。対人に使うものじゃないし撃った後はしばらく御神刀が使えなくなる。
だから、今自分がもてる全てを使って戦うしかないのだ。
(どうする・・・?今の俺の武装は、球子さんの楯、杏さんの弩、歌野さんの鞭に暁さんの刀、そしてご先祖夫婦の拳銃と鎌・・・・そして使える属性は色々ある。炎に氷、水・・・近くに水源があれば上手く立ち回れるかもしれないが・・・・)
ふと、千景は近くに水場はないか思い出す。
「何を考えているのか知らんが、貴様らが死ぬ事には変わりはない」
「ッ!?」
いつの間にか背後にいた男の槍の一撃を、千景は鎌でぎりぎりの所で防御するも吹き飛ばされる。
「ぐぅ・・・!?」
千景の顔が苦悶にゆがむ。
「俺は
男、ジガはそう名乗り上げる。
「くそ、破滅させるとか、そういうの勝手に言ってんじゃねーよ・・・!」
一方の千景は、そう言うや否や、どこかへ向かって飛ぶ。
しかし、そこへヒュアツィンテの剣が迫る。
「づっ!?」
「どこに行こうとしてるんですか?」
吹き飛ばされるも、逃げる千景。そのまま道を曲がって二人の視界から外れる。
「追いかけますか?」
「いや・・・・」
ふと、ジガが右手を持ち上げた。
「俺がやる――――『
その時、ジガの右手から眩い光が迸ったかと思うと、それが赤熱する光線となって放たれる。それは建物を容易に貫通、溶解する。
そして、ジガはそれを、千景に向かって薙ぎ払った。
建物が溶断され、そして爆発する。
一瞬にして、周囲が火の海となる。
「あら?もう終わりですか?」
「いや、躱したか」
崩れていく建物の中、その合間を縫って鎖で立体的に飛ぶ千景の姿を視認するジガ。
「追いかけるぞ」
「はぁい」
地面を踏み砕き、ジガは千景を追いかける。その後を、ヒュアツィンテが追随する。
「だらっしゃぁぁああ!!!」
左の剣を熱気を振り払った直後に、右手の大剣で敵を突く明日香。しかしその一撃は容易に交わされ、頭上からの炎球攻撃をかわす。
超速で行われる空中戦闘。
炎と黒が、空中で入り乱れる。その下では迫りくる無数の氷刃に対して、土の散弾で対抗する将真の姿があった。
「ぬぅ!」
「ほらほら、どうしたの?」
背後から迫る氷刃を弾きつつ、将真は土の拳を形成、それを目の前のヴァッサーに叩きつける。が、それはヴァッサーに触れる前に凍りついて動くなる。
「無駄よ。私の前では全てが凍る。それは大気であっても同じ」
ヴァッサーが冷笑を浮かべる。
「うお!?」
一方の空では明日香の剣が弾かれ、後退を余儀なくされる。
「ハッ!どうした?その程度か?」
「くっそぉ・・・・!」
流石に押され始めている。
(この状態もそこまで長く保てるわけじゃねえ・・・・何か、策はないか・・・!?)
彼らの奥の手である『
さらに、維持にもかなりの集中力を有し、明日香の場合は、一日に三、四回が限界だ。
将真も二回までは可能だが、そこまで持つ訳じゃない。
早々に決着をつけなければならない。
どうする―――?
さらに一方で、うねる大地に対して超高速で駆け抜ける芽吹は、襲い掛かる土の鉄槌から逃げていた。
その最中で、銃剣を撃つ。しかしその弾丸は、エーアデに直撃する直前で土の壁に阻まれる。
「無駄だ。お前の弾丸は私には届かない」
「くっ、なんて固い」
エーアデは、自らが作った高台の上で芽吹を追い立てていた。
エーアデの『地下世界』は、本来の能力である土を操る能力に加え、様々な鉱石を生成する事が出来る。
故に、ダイヤモンドを作り出し、それを弾丸として撃ち出す事も可能なのだ。
「喰らえ!」
「やばっ!?」
芽吹が足場にしている地面から無数のダイヤモンドの弾丸が放たれる。それを間一髪で避け続ける芽吹。
「なんて身のこなし・・・だが、いつまで避けていられる?」
ダイヤモンドの弾丸が、芽吹の戦衣の外装を吹き飛ばしていく。それだけでなく、掠って破ける事も。
「く、せめて近づければ・・・!」
走り避ける中で、思案を巡らせる芽吹。
(あるいは、もう一丁、銃剣があれば・・・!)
そう、思った直後。
「終わりだ」
「ッ!?しまった!」
いつの間にか、四方を固められてしまい、上空からはこれまた巨大なダイヤモンドが芽吹を押し潰さんと迫ってきていた。
「死ね、罪人―――」
そのまま押し潰されるかにみえた、直後。
「――――はいはい、そうはいかないよっと」
突如として、ダイヤモンドが爆発、粉微塵に吹き飛ぶ。
『!?』
それを見て、その場にいる誰もが驚く。
「やれやれ、偶然にも俺が通りかかったからよかったけど・・・・こんなかわいこちゃんと戦うのは、気が引けるね」
いつの間にか芽吹の動きを封じていた壁も破壊されており、そこには、一人の中年の男が立っていた。
トロイアの戦士を服をきこみ、その手には槍を携える男。
「お前は、何者・・・・」
「俺が何者かって?聞かれたからには名乗るしかないね」
男は、槍を手の上で踊らせて、それを肩に担いで名乗り上げる。
「俺は救導者、七つの大罪『怠惰の罪』森谷真武郎だ。よろしくね」
中年男、森谷真武郎がそう言ってウィンクをする。
「そうか・・・死ね」
そして直後にエーアデが真武郎を潰しにかかる。
「そう焦るなよ」
しかし、真武郎が指を鳴らすと、一瞬にしてエーアデが操っていた土は爆散する。
「な・・・!?」
「ありとあらゆるものを『爆』破する。それがこの『爆撃槍』の能力だ」
傍から見れば、真武郎が何にも触れずに自身を潰そうとした岩石を爆破したように見えただろう。だが、芽吹の目には見えた。
真武郎が、目にもとまらぬ速さで岩石に槍の切っ先を当て、その後で指を鳴らして爆破したのを。
(なんて男なの・・・!?)
その男の事を、心底恐ろしいと感じた芽吹。勝つ自信はあるが、油断ならない相手という事を、芽吹はその一瞬の間で理解した。
「そこのお嬢さん、戦ってるところ邪魔して悪いね。ちょっと勝手ながら、援護させてもらうよ」
「それはいいけど・・・確か、私たちは貴方たちを襲ったのだけれど?」
「昨日の敵は明日の友ってね。うちのリーダーはそう気はないし、むしろ狙われて当然と思ってるから気にしなくていいよ」
真武郎が槍を構える。
「そんな事よりも、まずはアイツを倒す方が先決じゃないかな?」
「・・・そうね」
芽吹も、銃剣を構える。しかし、
「芽吹さん!」
「ん?おっと」
そこへ銃剣がもう一丁投げ込まれる。
視線を向ければ、そこにはシズクと昴の姿があった。
「ソイツはあとで問いただす!だからさっさと勝ちやがれ!」
「僕らの事は気にしなくていいから!」
「分かったわ!さぁて・・・」
二丁の銃剣を構えて、芽吹はエーアデと対峙する。
「銃が二丁になった所で、お前たちが敗北するという運命に変わりはない」
「はっ」
エーアデのその言葉に芽吹は鼻で笑う。そして、周囲から、土の腕や岩石やら迫る。
「私たちの運命を――――」
しかし、それらすべてが、切断され、爆散する。
「―――お前が決めるなァ!!」
芽吹の怒声が響き渡る。
その迫力に、エーアデは一瞬気圧され、その直後に、芽吹の地面が爆発。真武郎が芽吹の地面を爆発したのだ。だが、それでいい。爆風によって芽吹は飛び、エーアデに直進する。
「チィッ!!」
エーアデは、すぐさま反撃として岩石の散弾を飛ばす。
空中にいて、突っ込んでくる芽吹にそれはかわせない――――ならば、迎撃すればいい。
「銃剣二丁と、
瞬間、岩石の散弾は全て弾かれる。高速で振るわれた銃剣が、散弾を弾いたのだ。
「なッ!?」
「終わりよ!」
芽吹の右の銃剣の刃が迫る。しかし、エーアデはそれを空に飛んで躱す。
「チッ!」
「いいや、まだ終わらない!」
「え?おいお前なんでオレを持ち上げて――――」
大きく振りかぶる真武郎。その右手には、シズクの胸倉が―――
「レッツゴートゥーヘール!!」
「お前後で覚えてろぉぉぉおおおお!!!」
「シズクちゃぁあああん!!」
投げ飛ばされるシズク。その投げられる瞬間に爆風が巻き起こり、一瞬にして芽吹の元へ。
「芽吹!構えろ!」
芽吹を追い越したシズクはそこで地面に足を突いて急停止、そして銃剣を振りかぶり、後からやってくる芽吹を待ち構える。
「行ってこぉぉぉおおおい!!」
ホームランバットの如く振るわれた銃剣、それを足で受け止め、一気にエーアデに突っ込む。
「逃がさないわよ!!」
「こ、の、罪人風情がぁぁああ!!!」
巻き起こる竜巻の中、『
竜巻は常に内から外へ向かって風が回転しながら吹いている。だから、内に入るのが難しい。
さらに、巻き上げた瓦礫や、雷が襲ってくる為に、うかつには近付けない・・・が、近付けないわけじゃあない。
「覚悟しろ・・・弥勒を傷つけた事を後悔させてやる」
悲鳴をあげるヴェントを睨みつけつつ、優理は徐々に距離を詰めていく。
だが、そこで気付かなかった。
小さな花瓶の存在に。
「づぁッ!?」
頭に直撃し、意識が遠のく。
(しまった・・・・!?)
あまりにもヴェントに集中し過ぎていたがゆえに、警戒を緩めてしまった。
それほどまでに、冷静さを欠いていた。
我ながら、なんと間抜けな事だと思った。何故、こんなにも気持ちが高ぶっているのか――――・・・・
『あなたがゆうりですわね!わたしはみろくゆみこといいますの!』
(ああ、そんなの、当たり前だ)
弓を握りしめる手に、力が入る。食いしばった歯を、さらに食いしばる。
態勢を立て直し、熱くなった額の熱のままに、優理は顔を上げた。
(弥勒を傷つけられて、怒らない道理が無いッ!!)
この時、優理は初めて、冷静さを捨て、激情のままに行動した。
先から、風に沿って進んでいたのを、突如として進路を変更して、一気にヴェントに向かって直進し始めたのだ。
「貴様だけは許さん・・・覚悟しろッ・・・!!」
腰にある柄を抜き取り、そこから光の刃を出現させ、一気にヴェントに直進していく―――!!
「喰らいなさい」
「ぬっ!?」
上空から、無数の氷の刃の雨が降り注ぐ。
「くおおおお!!」
すぐさま土による防壁を形成し、防ぐも、大量に降り注いでくる刃の雨によって削りに削られ、ついには砕かれて、その驟雨を受ける。
「ぐあぁぁああ!!」
「ふふ、良い悲鳴ね」
血みどろになって膝をつく将真。
その上空にて、明日香は体のそこかしこに火傷を作って息を上げていた。
「ゼエ・・・・ゼエ・・・・ゼエ・・・」
「ギャハハハハ!無様だなぁおい。そんなんでこのアタシに勝てると思ってたのか?ああ?」
嘲笑うフォイア。しかし、依然として明日香は諦める気など微塵もなかった。
「ああ、思ってるぜ・・・・」
ちらり、と将真を見る明日香。
それに気付いた将真は、僅かに首を縦に振った。
「アハハハハハハ!どうやって勝つっていうんだぞ?なんか策でもあんのか?ああ?」
「ああ・・・ちょっと命懸けだがなぁ!!!」
明日香が、突如としてフォイアに突進をしかける。
「無駄だっつってんだろうが!」
フォイアが、火球を作り出してそれを一気に明日香に放つ。明日香はそれを薙ぎ払いつつ、どんどんフォイアに接近していく。だが、今のフォイアは周囲を熱気で包み込んでおり、その大気に触れるだけも肌が焼け爛れるほどの高温だ。そんなフォイアに向かって、何故明日香は突撃しているのか。
理由は、すぐに分かった。
明日香は、もうすでにフォイアの目の前に来ていた。それを迎撃しようとするフォイアだったが、明日香は、一瞬にしてフォイアの後ろに回り込み、その襟首をつかんで一気に落下する。
「なッ!?てめっ、何を・・・!?」
「このまま一緒に落ちて行ってもらうぜぇぇえええ!!!!!」
落下していく明日香とフォイア。もちろん、フォイアの周囲は灼熱の大気があり、通常なら一瞬で焼け爛れるところだが、明日香はその手に自分の悪魔の力を纏わせて遅行させている。
その下には、ヴァッサーが一人。
「うぉぉぉおおお!!」
そして、将真は、地面を殴って、ヴァッサーの両側に巨大な壁を作った。
「何を・・・・」
「おとどけものでぇぇええええっっす!!」
「!?」
そして、明日香はフォイアをヴァッサーに投げつけた。
「フォイア!」
「ぐお!?」
フォイアを受け止めるヴァッサー。
そして明日香は、大きく空を飛んで、やがては地面すれすれにフォイアとヴァッサーの元へ、宙を駆け抜ける。
「まさか――――!?」
それを見て、明日香と将真の意図を読み取って青ざめるヴァッサーは、すぐさま上空へ逃げようとする。
「逃がすものか」
しかし、すでにヴァッサーの足は将真の操った土によって掴まれている。
「しまった!?」
「うぉぉぉぉおおおおぉぉぉおおおお!!!」
すでに、最高速度に達した明日香は、まさしく、黒い流星の如く。
右手に持つ大剣を振りかぶって、将真の作った壁の合間を駆け抜ける。
空を飛ぶ芽吹。その先には――――巨大な土の鉄拳を用意して迎え撃とうとしているエーアデの姿が。
「落ちろぉぉぉおおお!!」
エーアデの拳が、振り下ろされる。
「往生際が悪いぜ」
しかし、すでに真武郎はそれの迎撃準備を完了していた。
「標的確認、方位角固定――――『
投擲される槍、それが腕に直撃し、振れた途端に爆発を引き起こし、木端微塵にする。
「な―――!?」
それに、エーアデはただ放心するしかない。
「―――対天武術」
その一方で、芽吹は銃剣を剣のようにもって、それぞれの肩に担ぐように構える。
そして、その刃を、エーアデに叩きつけた。
「喰らえ、ガキ」
『
『霊子滑走』をヴェントの周囲に展開し、その周囲を回転しづ付けるがままに、ヴェントを滅多切りにする。
「終わりだぁぁあぁああああ!!!」
明日香の超速の一撃が、フォイアとヴァッサーを打ち据える。
「―――『
「―――『
「―――『
三ヵ所にて、同時に決着がつくのと同時に―――――
「がぁあぁあああ!?」
千景が川に叩き落される。
「ぐ・・・・げほっ・・・・」
『大丈夫!?』
肋骨が軋み、体中があまりにも痛い。
それほどまでに、敵の追撃を受け過ぎた。
(せっかく川についたってのに・・・!)
視線を上げれば、川の縁にて見下ろす、黒衣の男とドレスの女の姿が見える。
いわずもがな、ジガとヒュアツィンテだ。
そして、ジガが右手を上げる。
「終わりだ」
「ッ・・・白鳥さんッ!!」
『OKよ!』
「『
千景の体を入れ墨のような蛇が生き物のように駆け巡り、目を赤く光らせ、次の瞬間、千景のいる川の水が持ち上がり、数本の槍となってジガとヒュアツィンテを襲う。
「『
しかし、その水の槍は、ジガの放つ赤熱光線によって全て蒸発し、霧散してしまう。
「・・・・無駄だ」
「くっそこれでもダメなのかよ!!」
「そうだ」
逃走を図ろうとする千景。だが、それよりも速く、ジガが千景の横に立っていた。
「無駄なのだ。全て」
次の瞬間、
「がっ・・・・」
防ぐ暇もなく、吹き飛ばされる千景。川に仰向けに倒れ落ち、その水を赤く染めていく。
「が・・・かっ・・・」
『大丈夫ですか!?』
杏の叫び声が響く。しかし、全て急所を穿たれており、致命傷なのも確実。早々に治療しなければ、確実に死ぬほどの重症だ。
「おっと、動かないでください」
しかし、千景が何か行動を起こす前に、ヒュアツィンテの剣が千景の喉元に突きつけられる。
「このまま掻っ切ってもいいですけど、それじゃあ面白くありませんので。このまま苦しみながら死んでください」
清々しいほどの笑顔で笑うヒュアツィンテ。
『野郎・・・!!』
『ひなたさんに、そんな事を・・・・!』
自分の中にいる思念体たちの怒りが伝わってくる。それは、千景も同じだ。
自分の先祖の友人である彼女を、ここまで貶めるなど、言語道断。
断罪の神、やはり許すまじ。
だが、そんな事を思ったところでこの状況が好転するわけじゃない。何か、方法を見つけなければならない。
ヒュアツィンテは、川の上の塀に腰かけている。一方のジガは、ゆっくりとこちらに歩み寄り、下手な事をすれば、すぐさま右手の赤熱光線を放てるように準備している。
剣は相当重く、そしてヒュアツィンテはそれを浮遊させて念力のように動かしている。
その一撃は重く、踏ん張らなければ吹き飛ばされる程に重い。
一方で、あの男は、そんなヒュアツィンテなんて目じゃない程、いや、雲泥の差がある程に強い。
あの赤熱光線もさることながら、単純な格闘技術だけでも群を抜いている。
その一撃は鋭く重く、そして速い。
郡の記憶から読み取る、若葉の超神速居合を連続で繰り出すかのような攻撃ばかりだ。
だから、千景はここまで追い詰められたのだ。
「やめろぉぉぉおお!!!」
『!?』
だが、そこで、千景に突きつけられていた剣が弾かれる。
それは、小さな無数の刃。その刃を操る者は、この場に一人しかいない。
園子だ。
園子が、千景とジガの間に立ちはだかる。
「彼は絶対にやらせないッ!!」
絶対的な決意をもって、園子は千剣八咫烏の能力をフルに生かしてジガを攻撃する。
「ふん」
それを見てジガは鼻を鳴らし、そして襲い掛かる千本もの刃を、槍一本で全て凌ぐ。
「く・・・ぅう・・・!!」
無限に襲い掛かる刃を、ジガは槍を振り回し、全て叩き落し、ねじ伏せる。
「な・・・んで・・・・!?」
その、無数に襲い掛かる刃を、何故ジガは迎撃できる?
一度に四~七本、同時に突撃させているのに、ジガは、その全てを
いや、正確には違う。
突っ込んでくる刃の数に合わせ、それが七本であるなら、
その、単純な動作を、奴は、まるで一度にみえるかのように行っているのだ。
そして、ジガが園子の刃を制して、一気に園子に接近する。
「くっ!」
園子は槍を構えて迎撃の姿勢を取る。
二本の槍が交わる。
超高速で振り回される槍の連撃が園子とジガの間で火花を散らし、激しい金属音と共に、交錯する。
だが、それなりの技量を有している園子であっても、ジガのそれには遥かにも及ばず。
「うあぁ!?」
拮抗はすぐに崩れ、槍を振り回せなくなり、耐えるような形にされ、やがては弾き飛ばされ、飛沫を巻き上げて川の水面の上に落ちる。
「園子!?」
自身の能力で止血をした千景は、思わず園子の名を呼ぶ。
「いい腕をしているが・・・だめだ」
ジガの槍が、園子に突きつけられる。
「貴様では俺には勝てない」
「く・・ぅううぅ・・・!!!」
悔しそうに唸る園子。
しかし、それは事実であり、園子の手は、ジガの重い一撃を受け続けた事によって痺れて動かなくなっている。
「死ね」
そして、ジガの刃が、園子に突き刺さる。
「終わりましたね」
その様子を、傍観していたヒュアツィンテ。
「さて、最後はあの御老体ですが・・・」
今思い出したかのように周囲を探るヒュアツィンテ。しかし、その直後に―――
「■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――――――――――!!!!!」
人間のものとは思えない程の咆哮が轟き、次の瞬間、黄昏色の光柱が、街の中から空に向かって立ち上った。
「な、なに・・・・!?」
突然の事に、ヒュアツィンテは驚きを隠せず、それには流石のジガも攻撃の手を止めた。
その立ち上る光の柱。それは、眩い光を発していたが、やがてその光もなりを潜めて消えていった。
「・・・・なんだったんですか」
そう、呟いた直後に、それは、ヒュアツィンテの背後に落下した。
思わず後ろを振り向けば、そこには、黄昏のオーラを発しながら立つ男がいた。
竜胆を想起させる灰と白の装束。エメラルド色の瞳。山鳩色の髪。
それだけならまだ良い。問題なのは、その特徴を持つ者は、
そして、そんな男の正体を知る者は、この場にいる。
方や、その者と会った事のある人物の子孫、方や、その者から直接師事され、そしてその写真を見た者。
「
「足柄さん・・・!?」
そう、彼の名は辰巳・・・足柄辰巳だ。
「なんで!?」
勿論、驚くのは無理はない。
「
園子の方は感性が可笑しいので突っ込まないが、とにかく、なぜか辰巳は若返っていた。
「足柄辰巳・・・・なるほど、神と交渉して肉体の時間だけ巻き戻したのか」
ジガは、冷静ながらも警戒を解かず、そう指摘する。
「ああ」
それを、辰巳は肯定する。
「流石に、あの体のままでは限界があった。ファブニールどころか勇者の力さえも振るえない。頼れるのはこの鋼の肉体と磨き上げた技のみ。どれほどの時間があろうと、あの日、勇者でなくなった時点で、俺はすでに戦いの場から弾きだされた存在だ。・・・・だから願った。もう一度戦いたいと。そしてこの土壇場でその願いを叶えてもらった。その結果がこれだ」
若返る事によって、勇者の力をもう一度使え、最も力を付けた高校生としての復活を果たした。
今の辰巳は、あの大決戦の日よりも強く、そして、二度と倒れない。
「それで、どうする?まさか、俺に勝てると思っているのか?」
「もちろんそのつもりだ。でなければ、俺はここに立っていない」
両手で手の中にあるバルムンクを握りしめる。
「園子」
「え?なんですか?」
「ひなたを頼む」
そう、短く、頼んだ。
その頼み事に、園子は一瞬目を見開いて、やがて決意するかのように頷く。
「分かりました!」
園子は、ヒュアツィンテに視線を向けた。
「どうする・・・?」
『残念だけど、今の私たちでは足柄さんの足手纏いよ。ここは任せましょう。その代わり、私たちは園子さんの援護を』
「分かった」
郡の指示に従い、千景も園子と同じく、ヒュアツィンテの方をむく。
「・・・頼んだぞ」
「はい」
「おう」
その行動に、ヒュアツィンテは再び浮遊する。
「はあ・・・いいでしょう。切り刻んであげます」
剣を展開し、そうほくそ笑むヒュアツィンテ。
「改めて、足柄辰巳、推して参る」
剣を正眼に構え、辰巳は、敵を睨む。
一方のジガは、その兜の奥で、ほくそ笑む。
「くく・・・・まさか、ここで初代最強の勇者と手合わせ出来るとは・・・この巡り合わせは偶然か必然か・・・・まあ、どうでもいい事だ」
槍を回し、構えるジガ。
「『
今、戦いの火蓋が、切って落とされる。
『――――以外に、手こずるか』
神樹の張る結界の上空。そこに浮遊する城にて、断罪神マギアクルスは、結界内の様子を見て取る。
すでに何人か敗北し、死んだ。この状況から見て、マギアクルスは思案を巡らせる。
『これ以上時間をかけて、『本隊』が到着すればどうなるか・・・流石に、
この城は、マギアクルスが支配している。その気になれば、城内部の構造を根本から作り変える事が可能だ。
だから、城の奥深くに封印されている存在を、いつでも射出できるように作り変えたのだ。
『こいつを投入しようか』
ふと、マギアクルスの視線が、ある少女へと向けられる。
『・・・・結城友奈』
もう、その体のほとんどの
『お前の正体も、すぐに暴かれる事になるだろう。それまで、精々逃げ回るが良い』
そして、マギアクルスは、それを投下した。
不道千景、消滅まで、あと一時間三十分―――――
次回『死へのカウントダウン』
災厄が今、降り立つ。