不道千景は勇者である 作:幻在
空が、砕けた。
それは、神樹が作りだしていた幻想が壊されたという事であり、新たな敵の来襲を知らせる、警報となった。
まず、大きかった。
まさしく、怪獣ともいうべきサイズの怪物で、それは一見、ウルトラシリーズで言う所のゴモラのようなサイズを誇っていた。
次に、その姿。
おおよそ、異形ともとれるその怪物は、シンプルなつくりとは言い難く、背中になにかの噴出孔の管が二列に四本づつ、計八本も伸びており、手は三本、そこから体中を縫うように黄色い筋が浮き上がっている。霊長類とはいえない、短い脚と長い尻尾も有しており、その顔は、まさしく恐怖の対象だった。
その巨大さに、その場にいた勇者、襲撃者、防人、救導者は圧倒されていた。
「な、なんだよ・・・あれ・・・」
茫然とする信也。あんな巨大な敵を、今までに見た事が無い。
「分からない・・・・でも、なんか、ものすごく危険だというのは分かる」
隣にいた白露も同様だった。
とにかく、巨大で異質なそれは、有り余る存在感を発して、圧倒していた。
ふと、その怪物が動いた。
まるで屈むように上半身を前に突き出すと、突如としてその背中の管に光が収束する。
そして、その光が限界にまで収束した瞬間―――それは解き放たれた。
―――『ミリオンレーザー』
放たれた光線は、何十、何百、何千にも枝分かれして、香川の街に降り注いだ。
その絶対的な暴力が、建物を、木々や草花、人が築き上げてきた文明を、一瞬にして消し去ってしまった。
後に残ったのは破壊された建造物の残骸と、抉られた地面のみ。
「――――なん、だったんだあれはァ!?」
どうにか躱す事に成功した明日香たち防人組は、その破壊跡に戦慄していた。
「何よこれ・・・」
「全部消し飛んでやがる・・・」
「うわぁぁぁああああ!!終わりだぁぁあ!!この世の終わりだぁぁあああ!!」
「あーもううっさい!雀ちゃんは少し黙れ!!」
「ひどい!?」
だが、確かに喚いていても何も始まらない。
「ッ!そうだ、他の皆の無事も確認しないと」
「そうだな・・・お前たち、動くぞ」
芽吹の言葉に優理がうなずき、他の仲間たちに命令する。それに全員頷く。
「よし、行くわよ!」
「・・・・う、んん・・・」
頭ががんがんと痛む。
ぶつけでもしただろうか。
そう思いつつ、風は目を開けた。
どうやら、崩れた瓦礫が互いに支えになって、どうにか潰されずに済んだようだ。
気付けば、彼女の腕の中には、気絶している樹の姿があった。
「良かった・・・」
その事に安堵しつつ、風は、樹をそこに寝かせて、自分たちがいた場所から抜け出す。
「ひどい・・・」
そして、見た。街の惨状を。
思い出も、居場所も何もかもを過去のものへとしてしまった、あの光の雨。
それが降り注いで、次に気付いたら、この惨状とは、あまりにもひどすぎる。
「う・・・嘘よ・・・こんな・・・・こんな事・・・・」
「!?」
ふと、声が聞こえた。
聞き覚えがある。これは、レジーナの声だ。
どこからだ?そう思って周囲を見渡した結果、風は、四肢を失ったレジーナを見つけた。
「こんな・・・こんな事あっちゃいけない・・・私は、処刑衆の一人、『火刑』のレジーナ様なのよ・・・なのに、どうして・・・」
「それ、は、私、が、貴方、の、四肢を、斬った、から」
呻くように呟き続けるレジーナの傍に、冬樹が立つ。
その体は、ところどころが血にぬれている。
それは、彼女自身が負った傷から溢れたものではなく、返り血によるものだ。
あの雨が降り注いだ瞬間、彼女たちのいた建物は崩れて、落下する事になった。その一瞬の混乱を使って、冬樹は、
もう、こうなれば哀れという他無い。
冬樹は、無言で刀を逆手に持ち上げた。その切っ先は、当然、レジーナに向けられていた。
「ま、待って・・・まさか、殺す気なの?こんな、無防備な私を?冗談言わないで・・・なんで、罪人である貴方なんかに、私が殺されなくちゃならないの?おかしいでしょう?そ、それに、貴方まだ子供でしょ?殺しなんて、早すぎる・・・・」
「―――あなたたちが殺しに来た。それなら、殺される覚悟もあるよね」
レジーナの言い訳の一切を無視して、冬樹は、その切っ先をレジーナの首に突き立てた。呼吸が止まり、窒息、そのまま酸欠で、血の泡を吹いて、レジーナは死んだ。
それを見届けた後、冬樹は、水を使って装束と刀を洗い、そして鞘へと納めた。
そして、初めて風を認識して、振り返った。
「・・・・」
「・・・・妹」
「え?」
「妹、さん、は、寝て、る?」
「・・・ええ。向こうで寝かせてるわ」
「なら、良かった」
何が、とは風は聞かない。
こういうのは、心優しい彼女には重すぎる。
「傷、治す」
「え・・・」
冬樹の呟きに一瞬、きょとんとした風であったが、次の瞬間、風は冬樹が操る水に包まれていた。
「んご!?」
「大丈夫、溺れない」
「んん?・・・・あ、ほんとだ」
何故か水中でも呼吸が出来る事に困惑しつつも、訳が分からず、冬樹が何かをしていた。
やがて、体中の痛みが引き、負っていた怪我や汚れなども全部完治した。
「すご・・・」
水から解放されて、感嘆する風。
「私、は、回復、役、だか、ら」
「なるほどね・・・・」
「それ、よりも、移動、した方、が、良い」
確かに、この惨状の中、一か所にとどまるのは得策ではない。
また、いつあの雨が降り注ぐのか分からないのだ。
「分かったわ。今、妹を連れてくるから・・・・」
風が走り出した瞬間、凄まじい地震が、そこを襲った。
怪物が次の行動を起こすまで、それほど時間はかからなかった。
次に怪物が行ったのは、管から、今度はレーザーではなく、丸い何かを発射した事だった。
それは山なりに、バラバラに讃州の街に降り注いだかと思ったら、着弾した直後に爆発、炎上した。
「―――ナパーム弾だと!?」
その着弾直後に燃え上がった物体を見て、狼狽する翼。
「おーおー、今回も派手にやってるねぇ」
「あれはなんだ!?」
翼の怒声にめんどくさそうにしつつも、ラヴァンドは答えた。
「アレの名前は『イフ』。知性を持っていない、ただの怪物さ」
「知性が、無い・・・・?」
「そ、ただアレの厄介な所は、『受けた刺激を学習し、撃ち返す事』でね。元々
「そんなバカな・・・まさか、実在していたなんて」
翼は、奴と同じような存在を知っている。しかし実在するなんて思わなかった。
まさか、あんな最強の存在が実在していたなんて、夢にも思うまい。
「どうやっても勝てないよ。アイツには」
「――――ていうか!そんなものあるなら先に出しとけよ馬鹿野郎ッ!!」
「ワハハハハ!!貴様は馬鹿なのか!?あんなものなしで片付けられなければ、我々に存在する価値などないだろう!!」
激しい拳の応酬が繰り広げられる剛とブルーメの戦いは熾烈を極めていた。
「喰らえギャリック砲―――――ッ!!!」
「甘いわ!」
いともたやすく躱される。空振りした砲撃はそのまま崩れた瓦礫を吹き飛ばして突き進んでいってしまう。
「しかしアレが出た以上、オレたちに出番はもうない」
「何!?」
「さらばだ。せいぜい生き残るが良い。人間」
ブルーメが何かを取り出し、それを握りつぶした。
中から緑色の煙が出たと思えば、瞬く間にブルーメの姿は煙と共に消えていった。
「な!?逃げられたぁぁあああ!?」
「モドリ玉かよ・・・・」
一方の翼も同じように緑色の煙に紛れて逃げたラヴァンドに舌打ちしつつ、すぐさま剛の元へ向かった。
「剛先輩!」
「おう翼か!」
「今すぐあの怪物の所へ向かいましょう。あれはやばい」
「オーケー。すぐに行く」
翼の提案を受け入れ、二人はすぐさま怪物の――――イフの元へと飛んで行った。
「なんてこと・・・・」
そして、その惨状は奏と雅にも見えていた。
「全武装無力化・・・というか完全に破壊されたわね」
「ただの一掃攻撃・・・それでこの威力だなんて」
初撃でこの惨状。死んではいないながらも何か怪我をしているかもしれない。
「雅さん、ここはもう大丈夫です。貴方は、すぐにみんなの加勢に」
「分かったわ。奏も気を付けて」
重力を操り、それによって浮かんだ雅は飛んでいく。
その様子を見送り、奏は両手を合わせ、懇願した。
「どうか、創代様のご加護があらん事を・・・」
「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」
「当時より確かに強くなっていたとは言え、所詮はこの程度か」
ジガより辛辣な言葉を受けつつ、地面にへたり込む辰巳は、修復されていく疲弊した体に鞭を打って立ち上がろうとする。
そこへ、ジガの槍の一撃が迫り、叩き込まれ、吹き飛ばされ、また倒される。
「みすみす立たせると思うか?」
「ぐ・・・」
圧倒的な力の差に、辰巳は歯噛みする。このジガという男。あまりにも圧倒的な実力を有しているのは確かだ。
少なくとも、辰巳では敵わない。
「もはや、お前に俺を倒す事は出来ない。そのまま倒れていれば、命だけは助けてやろう。だが覚悟しろ。立ち上がったその瞬間、貴様の首を跳ね、その三百年の人生に終止符を打ってやろう」
確かに、いくら辰巳とて、首を切断されれば絶命してしまう。
そう、辰巳の唯一の弱点は、脳だ。
心臓をつぶされようが腕がみげようが脚を切断されようが何事もなかったかのように再生する辰巳の体だが、しかし唯一、脳だけは修復されない。
何せ、人体、というか生物において、決して失ってはならない器官なのだ。
それがなくなれば、すぐさま辰巳は絶命してしまう。
どれほどの再生能力を持っていようと、そこだけはどうやっても無理なのだ。
しかし、それでも辰巳は立ち上がろうとする。
まだ死ねないのだ。
今を生きる
それだけではない。
ひなたが生きていた。
だけど、記憶が無い。ならば、その記憶を取り戻すまで、死んでなんていられない。
だから、立つのだ。立って勝ち、勝って生きなければならないのだ。
「立ったな」
しっかりと、二本の足で大地を踏みしめる。
「ならば、覚悟しろ」
ほぼ一瞬、辰巳ですら反応できない速度で、ジガは辰巳の首に、その槍の刃の切っ先を迫らせていた。
その一撃は、瞬き一つにすら満たない短い時間で繰り出された一撃だ。
だから、ジガの刃は、辰巳の首に、なんの抵抗もなく突き刺さり―――――
そして弾かれた。
「!?」
その、一撃で槍が弾かれ、たたらを踏むジガ。
そして、ジガは、目の前に降り立った、新たな乱入者を認めた。
「・・・・無事ですか?
漆黒の装束を纏い、藁草履で地面を踏みしめる、その男は――――
「・・・春信か」
―――歴代勇者最強の称号を持つ、三好春信だった。
「大丈夫!?」
ふっと安心してしまい、倒れかけた辰巳を支える夏凜。
「夏凜、丁重に扱え。その人は俺の師であり、俺たちよりも三百歳は年上の御方だ。粗相をした暁には貴様の首を刎ねる」
「怖っ!?て、師?え?この人が?あ、えっと妹の夏凜です。兄がいつもお世話になっています」
「いや、気にするな・・・それよりも春信。何故ここに・・・」
「
「それで俺だと分かるお前も十分凄いと思うが・・・・春信ッ!!」
辰巳の声が届く前に、春信の背後からジガが槍を振るってきた。
その神速の一撃を、春信は何も見ずに弾き飛ばした。
「ッ!?」
「・・・・俺は今、
「ひぇっ・・・」
ドスの効いた声に、夏凜は思わず短い悲鳴を上げた。
一方のジガは、自分の槍を見た後、春信の方を見て、感心したように声をあげた。
「見事だ。今のを受け流すとは、貴様かなりの使い手か。少なくとも、そこの男よりも遥かに上だな。だが、武器がお前の動きについていけていないようだ」
気付けば春信の持つ刀は刃こぼれを起こしていた。
「兄貴ッ!!」
「ぬぅ・・・・」
これには流石の春信も難しい顔になる。
「時間をやろう」
ジガはおもむろに夏凜を指さす。
「そこの女は貴様の妹だな。聞いたぞ、勇者システムは血統に起因して継承されると・・・そこの女が使う端末は、お前が使っていたものと同じだな」
「・・・それがどうした?」
「それを使え。使わなくてもいいが、その代わり、お前の寿命がさらに短くなるだけだ」
ジガの提案。それはまさに自分の首を絞めている事と同じ事なのではないのか。
そう疑問に思った夏凜ではあったが、肩を貸している辰巳が春信に言った。
「奴はこれまで戦ってきた奴らとは格が違う。少なくとも、勇者システムなしでまともに太刀打ちできる相手ではない・・・・・決めるのはお前だ」
その問いに、春信は、しばし沈黙した。
「・・・・夏凜ッ!!」
しかし、春信は叫んだ。
「お前の勇者をよこせッ!!」
変身を解除し、スーツ姿へと戻った春信は、その手に持つ刀を夏凜に向かって投げた。
「ええ・・・ええ!受け取って!!」
夏凜も、春信の意思をくみ取り、変身を解除、勇者システムを搭載した端末を春信に向かって投げた。
それを受け取った春信は、ジガを見た。
「・・・起動しろ。それぐらに時間は待ってやる」
「・・・」
春信は、すぐさまアプリを起動した。
赤い閃光が迸り、春信の姿を、変えていく。
それは、さながら武士のような有様だった。
赤い袴と、赤い小袖を着込み、背中に、見るも巨大な大剣を背負う。
想起するはマリーゴールド。
それは悪を挫き、生命の輝きを示し、変わらぬ愛情と、亡き友との信頼を示す。
別れの悲しみを誰よりも理解し、絶望を知り、もう二度と、その悲しみを与えないという誓いの意思を持つ。
太陽神の伝説を纏う、その花は、まさしく春信に与えられるべき花だろう。
「・・・よく見ておけ、夏凜」
「え・・・」
「あれが、『勇者』三好春信だ」
目の前に立つ、兄の姿は、確かに、勇ましくもあり、そして、寂しさもあった。
だけど、だからこそ、彼は、勇者たりえる。
春信は背中の大剣を引き抜いた。鞘はなく、代わりに長い包帯に纏われていたその刃に鍔はなく、柄もなく、ただその刃の部分のみの巨大な剣だった。
「
「分かった。行くぞ」
「え、ええ」
夏凜は、春信が使っていた刀の機能を開放して、身に纏う。
「・・・・」
しかし、すぐにはいかず、兄の後ろ姿を心配そうに見て―――
「・・・・頑張って」
短く、そう告げて、夏凜は辰巳とともに、あの怪物の方へ飛んで行った。
「・・・・頑張って、か」
そう呟いた春信の前に、おそらくこの戦いの最大の敵となりうる男が立っている。
「始めるぞ」
「ああ、いつでも来い」
巨大な大剣を両手でもち、春信はジガを睨みつける。
しばしの沈黙の後、二人は激突した。
「ふふ、アハハハハハハッ!!!」
気付けばヒュアツィンテはこらえきれず笑い声をあげていた。
「何が可笑しいの・・・!?」
しかし、園子の怒号が、轟く。しかしヒュアツィンテは、笑いを抑えきれない。
「ふふ、何が、ですって・・・?この光景を見てまだ分からないのですか?貴方たちの築き上げたものが、たった一度の攻撃によって全て消し飛んだのです。これを笑わずしてどうしろっていうんですか!?ふふ、アハハハハ!!」
「ッ・・!!」
あまりにも、変り果てた讃州の惨状を見て、園子は胸が締め付けられるような思いになった。
ここには、勇者部として大切な思い出がいっぱい詰まっているのだ。
それを、こんないともたやすく破壊されて、それを笑われたなんて、黙っていられる訳が無い。
槍を握る手に、力がさらに込められる。
「―――貴方はぁぁああ!!」
園子の操る刃がヒュアツィンテを襲う。しかし、その全てがヒュアツィンテが操る剣に弾かれる。
「さて、イフが来た以上は私に出番はもうありませんね。今日はここでお暇させてもらいます」
「誰が逃がすって言った」
鎖がどこからともなく飛んでくる。しかしそれすら防がれる。
「無駄です。貴方の攻撃は届かない」
「それはどうだろうなッ!!」
千景が操る鎖が唸る。
「ッ!?」
ヒュアツィンテの足元に仕掛けられていた鎖が飛び出し、それがヒュアツィンテの体を打ち据えようとする。
さらに、剣の防御の合間を縫って、水、弾丸、矢などが一気に飛来してくる。
「もうなりふり構ってられないんでな。どこに逃げようと、鎖の檻がアンタを逃がさない。そして、アンタはこの攻撃を防ぎきる事は出来ない!」
鎖は、彼女の剣を全て封じている。
もはや、ヒュアツィンテに、全方位からの攻撃を防ぐ手段はない。
(当たる・・・!!)
あんな怪物が出てきた以上、もう、ヒュアツィンテの―――ひなたの体の事を気にはしていられない。
体内にある彼女たちの協力によって、文字の分割し、同時使用するこの荒業で、一気に仕留めるのだ。
直撃する―――そう思った時、
「――――『
次の瞬間、ヒュアツィンテの姿は、全ての鎖が断ち切られるのと同時に消えていた。
「な・・・・!?」
突然の事に、千景の思考が停止する。
「時間が無かったので、貴方の元には辿り着けませんでしたが、お陰でこの剣だけは取り戻させてもらいました」
いつの間にか、ヒュアツィンテの手には、一振りの剣が握られていた。
「・・・・おい、待て。その剣は・・・」
彼女が、それを天上に向かって掲げた時、園子もその剣に、顔を強張らせた。
「嘘・・・それは・・・・!」
ヒュアツィンテの口角が吊り上がる。
「―――『
次の瞬間、黄昏の咆哮が、崩れた讃州の街を駆け抜けた。
「何よこれ・・・」
突然の巨大な敵の来襲によって、幸奈たちは陸に降り立っていた。
実は幸奈達はあのミリオンレーザーの射程にいたのだが、その時はどうにかホエール・バーテックスたちと、弘が展開できるだけの楯をもって防いだお陰で大事には至らなかったが、それでも一発でも直撃していたらと思うと、背筋が凍るような思いだった。
そして、彼女らは、街の惨状を見て茫然としていた。
「そんな・・・街が、こんな、あっけなく・・・」
破壊され、炎上する街を、彼女たちはただ眺める事しかできない。
しかし、そんな時間すら与えてくれないように、彼女たちから横にある瓦礫が吹き飛んだ。距離は、百メートル。
「何!?」
「あれは・・・」
見れば、そこから真っ白い体をした四足歩行のバーテックスが、浮遊する巨大な武装をした海路と凄まじい撃ち合いを繰り広げていた。
「海路君・・・!?」
「・・・・今は立ち止まっている時じゃない。彼の手助けをするぞ!」
街の惨状は、ひとまず置いておく。今は、目の前の事を片付けるのだ。
佐奈の指示に従い、彼女たちは、海路の元へ走っていく。
各々が、動きだす。
しかし、怪物はまたしても動きだす。
また、屈んだかと思ったら、体の各部が発光した。
その突き出た口を開き、その口に光が収束する。
「―――まずい」
それを見た奏の血の気が一気に失せた。
『クラッシュ・ビーム』
次の瞬間、全てを破壊するレーザービームが街を抜き抜け、山を穿ち、そしてそのまま薙ぎ払われる。
全てが溶解し、赤く焼け爛れる。
「奏!!」
それを見た雅は、思わずその渦中にあった奏の事を叫んだ。
御神刀の力によって強化された視力で、奏の事を探せば、その焼け爛れた岩石、いや、溶けて溶岩となった山の中、なぜか一部分だけ焼けていない場所があった。
そこに奏はいた。怪我もなく、無事なようだ。
「良かった・・・」
それに思わず安堵して、ついで雅は、すぐさま、怪物に鋭い視線を向けた。
「よくも彼女を――――ッ!!」
扇を振るえば、彼女の左右に巨大な重力の塊が展開される。
全てを吸い込み、消滅させるブラックホールを、直線状にぶっ放す、彼女の最強の必殺技。
その名は――――
「二連『超重力砲』ッ!!!――――消し飛べ!!!」
全てを飲み込み、消滅させる重力の嵐が、怪物に―――イフに叩き込まれる。それも二本、交錯するかのように交わり、その体を貫く。
それだけにとどまらず、その周囲の肉すら吸収して、消滅させていく。
「どうだ・・・・!!」
絶対的破壊、修復する事は敵わない、消滅の一撃。
彼女自身、禁じ手として封じてきたこの必殺技を、容赦もせずに放てるのなら、万々歳も良い所だ。
そう、普通なら、これで終わるはずなのだ。
上半身のほとんどを削られ、下半身すらその原型をとどめていない、その状態において、もはや生命活動は不可能なはずなのだ。
だが、雅は知らない。
その怪物が、
変化は、すぐに起きた。
消滅していた部分の傷口が急激に膨らみ、膨張したかと思ったら、それはすぐに形を成し、やがては、元の形へと再生したのだ。
その、あまりにも速い再生に、雅は、思わず止まってしまった。
「う・・・そ・・・・」
絞りだすかのように呟いた言葉を掻き消すように、イフは、次の行動に出ていた。
手が変形し、手首から二本の角のようなものが飛び出したかと思うと、それの間で電流が発生。やがてそれは一つの球体を生み出し、その手を空中にいる雅に向けられた。
そして次の瞬間――――それが直線状に解き放たれた。
「え―――――」
何かを呟く声すら掻き消して、雅は、その光に飲み込まれた――――
「う・・・そだろ・・・」
「雅姉の、『超重力砲』を・・・・」
体のほとんどを消し飛ばされたはずなのに、一瞬で回復し、そしてすぐさま学習したかのように、雅と同じ『超重力砲』を撃ち返した。その、たった数十秒の間で行われた一連の動作に、信也たちは、絶句するほかなかった。
「・・・!? 雅さん・・・雅さんはどうなったんですか!?」
「雅姉・・・雅姉!!」
白露が叫ぶ。
『・・・大丈夫』
すると突如として右耳から声が聞こえた。
「!雅姉!良かった、生きてた・・・!!」
『ええ、どうにか・・・・樹、だっけ・・・?その子に助けられたわ・・・』
放心しているのか、あまりにも力のない言動に、流石の三人も心配になる。
「怪我はないんだな?」
『ええ、五体満足。丁度、冬樹もいたから、落下の際の傷も回復してもらった。だけど・・・あれは反則でしょ・・・・』
雅がいわんとしている事は分かる。
あの怪物は、あまりにも規格外だ。一挙手一投足全てが何かの破壊につながる。あの化け物は、本当に、あまりにも異常だ。
正直、倒せるかどうかも怪しい。
『手は、限られるわ。すぐに皆で合流しましょう』
「まさか・・・あれをやるつもりか?」
「で、でも、あれは、優ちゃんに一番負担のかかる技で・・・」
「やりましょう」
優の、力強い声が場に響く。
「どうせここでくすぶっていても、時間の無駄です。今は一刻も早く集まって、あの技を使いましょう。あの――――」
「――――『
「・・・・ああ、分かった」
瓦礫の山の上に寝転がり、そう通信をうけた千景は、通信を切る。
「何かあったの?」
「集合して、俺たちの最大の一撃でアイツをぶっ飛ばす」
横で座り込む園子の質問に、そう簡潔に説明した千景。
どうにか、あの砲撃を躱して、こうして五体満足でいられたが、その代わり、ヒュアツィンテには逃げられてしまった。
「くそ・・・辰巳さんのバルムンクなんて反則だろ・・・」
「あれはバルムンクじゃない」
「は?」
「偽物だよ」
「・・・・」
いじけた子供のように、そう言う園子に溜息をつきつつ、立ち上がる千景。
「とにかく、俺は行くからな」
「あ、待って、私も行く」
集合場所へ、急いで向かう千景と園子。
(もしこれが失敗に終わったら、奴は同じ奴をなんのデメリットもなく撃ち返せる事になる。あれは、技そのものを再現するんじゃなく、
藁にも縋らなければ、奴には勝てない。とにかく、今自分たちが放てる最大の攻撃で、奴を倒すしかない。
その為には―――――
突如としてイフの体に何かが直撃する。
「「!?」」
そちらに視線を向けてみれば――――
「あの馬鹿・・・!!」
「ダメか」
スペシウム光線を叩き込んでみたものの、聞いている様子が無い。
まるで効いていないのだ。
それどころか、奴の体中から同じスペシウム光線が無制限に放たれる。
「く、この程度の攻撃じゃ、掠り傷にもならないっていうのか!?」
「ファーイーナールー・・・・」
「!?」
「フラァァァアアッシュゥゥゥゥウウウ!!!」
眩い光と共に、巨大な光線がイフに叩き込まれる。
しかし、その一撃は体を傷つけはしたが一瞬で返され、イフの口から同じだけ返される。
「うおあ!?くそッ!ベジータ最強の技すらも吸収するかこの野郎が!!」
「というか真似ですね。どの技使っても効果が無い・・・しかも攻撃した瞬間、その攻撃がそのまま返ってくる」
「ちまちまやっても意味がねえな・・・・ん?」
宙を舞う翼と剛、その姿を認めたイフが次に取った行動は、手を、剣の形に変形させる事だった。
そして、その巨大さに反した恐ろしいまでの速度で、その刃を振るってきた。
「うおぉぉおおお!?」
「ッ!?」
それを間一髪で避ける二人。
「なんだよあの動き!?」
「空気抵抗とかそういうのを完全に無視して振るってきている・・・・しかも上手い、何か、剣術の使い手にでも斬られたか!?」
出鱈目に見えて、その全てが一撃必殺の一撃。
それらを間一髪で避け続ける翼と剛。
しかし、それでも限界はやってくる。
ついにイフの剣が翼をとらえる。
「ッ!?」
「翼ァ!!」
吹き飛ばされる翼。しかし、ぎりぎりの所で『
「危なかった・・・」
下手をすれば下半身と上半身が真っ二つにされている所だった。
続けてイフは剛をとらえる。
「そう何度も上手くいくと思うな!喰らえ!気円斬ッ!!」
手を真上に掲げて、円盤のような気の塊を作り出して、それを投げる。その一撃はその刃の付け根に直撃し、スッパリをくれて空高く飛んでいく。そして、その刃は焦土と化した街に落ち、地面深くに突き刺さる。
「どうだこの野郎!!」
「剛先輩、まずい!!」
「は?」
また、イフに変化が起こる。
体中に何か、とげのようなものが出現し、その先から円盤状の気が発動される。
「・・・・やべ」
「逃げろぉぉぉぉぉおおお!!」
無数の気円斬が、二人を襲う。
「何やってんだアイツら・・・」
「急ぎましょう!!」
「・・・・いや」
その様子は、辰巳と夏凜の目にも映っていた。
そして、今無数の気円斬に襲われている翼たちを見て、唐突に辰巳は立ち止まって、背中の大剣を引き抜く。
「ここから撃つ」
黄昏色の光が剣から放たれ、それがやがて天高く立ち上る。
溢れ出る力の奔流が、辰巳の持つ剣から溢れ出て、そして辰巳は、それを空に向かって解き放った。
「―――咆えろ『
凄まじい激流が解き放たれ、それが、翼たちとイフの間に駆け抜け、イフが放った気円斬を全て消し飛ばす。
「・・・すっごぉ」
「それでも気休めだ。次が来る。急ぐぞ!」
「あ、はい!」
剣を背中の鞘に叩き込み、走り出す辰巳と夏凜。背後からは、凄まじい戦闘音が響くが、気にしていられない。
(今は、あの怪物をどうにかする事が先決だ)
なりふり構わず、彼らは走り抜ける。
やがて、救導者たちは集合した。
「悪い、遅れた!」
「あ、千景さん」
「大丈夫だ。俺たちも今来た所」
「それで・・・・そちらは確か・・・」
「乃木園子っていいます~」
千景、優、信也、雅、冬樹、白露、真武郎、海路の他に、園子、風、樹の三人もいた。
「そういえば海路、あのキルル・バーテックスはどうしたの?」
「幸奈たちに押し付けてきた。とりあえず懇切丁寧に説明してきたぞ」
「あ、そう・・・」
海路の返答に呆れつつ、彼らはイフを見上げた。
イフの前には、翼と剛がどうにか応戦しており、地上からは、芽吹たち防人部隊が援護しようとしていた。しかし、それでも焼石に水のように、効いている様子はない。むしろ、こちらの攻撃の全てが奴の力となってしまっている。
「とりあえず、やるしかないな」
「やるって何をよ?」
風が、聞いてくる。
「風先輩たちはそこで見ててください」
千景はそれだけを告げて、イフの方を見た。
「・・・・やるぞ」
『応』
そして彼らは、その御神刀に秘められた力を開放した。
「『真解』――――」
『剛蹴脚』―――『
『水誠刀』―――『
『重華扇』―――『
『爆撃槍』―――『
『虎之威』―――『
『射堕填』―――『
『虚像布』―――『
『天鎖刈』―――『
全員が、己の御神刀に秘められた第二の力を開放し、そこに立った。
基本的に、『真解』は『強化型』の方が多い。だが、ごくまれに『一撃型』の真解があり、真武郎の『終局爆破槍』と千景の『滅砲・解業罪乃鎖刀之弾影』がそれにあたる。
信也の装束は赤く燃えるような赤に変わり、炎を纏う。
冬樹の装束はそのだんだら羽織を水へと変えて、その下にある軽装へと装束を変える。
雅の装束は、どこぞの女帝のような赤い鮮血の振袖を着込み、扇を掲げる。
真武郎の装束は、上半身の服が消し飛び、その手に持つ槍も、一回り大きくなる。
白露の装束は、その服を全て消滅させて、体中を白い虎柄の毛皮が覆っていた。目も、猫のような目となっている。
海路の装束は、その体にありとあらゆる銃器や重火器を身に纏い、まさしく完全武装という相貌になった。
優の装束は、それ以前に体がやや成長し、ジャケットが消え、その体中に黒い包帯を巻くような姿となる。
千景の装束は、『
「収束せよ、我は地獄の業火を纏う者――――」
「我は剣を極めし者、故に我はこの世の理を打ち破らん――――」
「刮目せよ。これが皇たる我が力、万物を縛る力を操る、我が力を――――」
「標的確認、方位角固定―――我は全てに終局を与え、塵一つ残さない――――」
「月下に咆える虎は空を見上げる、その爪は万物を引き裂き、万象を切り払う――――」
「
「過ぎ去りし過去をもって、我は征こう。この
彼らは、一斉に、己が最大の一撃を解き放った。
「―――『
「―――『
「―――『
「―――『
「―――『
「―――『
「―――『
悪魔がくべる地獄の業火が、
飛翔する全てを貫く三撃同時の刺突が、
全てを飲み込み消滅させる重力の咆哮が、
そこら一帯全てを更地に帰る終焉の一撃が、
全てを引き裂く虎の爪が、
ありとあらゆる破壊の暴力が、
辛い過去によって放つ、未来への一撃が、
全て、イフに向かって突き進んでいく。
それらが、飛翔する最中で一つに纏まり、強大な一撃となってイフに迫る。
しかし、その全てを消し飛ばしかねない一撃の前に、一人の少女が躍り出た。
優だ。
その小さな体で、強大に膨れ上がったエネルギーの塊の前に、何故彼女は躍り出たのか。
「全ての呪いは私の前で全て跳ね返る。それに千差万別例外なく、呪い如きで他人を苦しめるぐらいなら自分が苦しめ―――」
右手で手刀を作り、それを体の左側に構える。
「――――『
そして、その強大なエネルギーの塊を、
数倍になったそのエネルギーは、さらに巨大となり、救導者たちの元へと戻っていく。
「千景ッ!!」
「おう」
しかし、彼らは動じない。すぐさま、千景は優に巻き付けた鎖を一気に引き戻す。
引っ張られた優はすぐさま彼らの元へ戻っていく。強大なエネルギーとなったその砲撃は、なおも彼らに迫る。
「―――当代救導者、究極奥義――――!!」
そして、優はまた構えた。
「―――『
さらに、
優の『呪詛返し』の特性は倍返し。弾いた技を何倍かにする事が出来るのだ。その最大は三十倍。最初の詠唱によって三十倍の『呪詛返し』で他救導者の必殺技を弾き、そして千景によってその三十倍となった必殺技を、即席で出来る最大の五倍返しでさらに弾き飛ばす。
ただでさえ街そのものを滅亡させる事が出来そうな威力となっている必殺技の合わせ技を、さらに三十倍と五倍にする。
その積は、三十倍×五倍=百五十倍。
惑星一つ消し飛ばす事が可能な一撃が、今、イフに迫る―――ッ!!
「「「いけぇぇぇぇぇええッ!!」」」
信也、優、冬樹、白露が叫ぶ。
星殺しと化したその砲撃は、まさしく画竜点睛、即ち、
その砲撃が、イフに直撃する。その一撃は、等しくイフの全細胞を吹き飛ばし、海を掻き消し、神樹の結界さえも貫いて、宇宙を駆け抜けた。
そして、後には――――何も残らなかった。
そこにイフはなく、ただ抉れ、モーゼの十戒のように割れた海しかなかった。その海底も、大きく削れている。
救導者の皆は、すぐにこと切れたかのように膝から崩れ落ち、全員、息を上げていた。
「や・・・やった・・・?」
そう呟く白露。
それに答える者はおらず、しかし、その返答として、沈黙のみがその場を支配した。
もう、イフは、出てこない。あの、無敵に見えたあの怪物は、跡形もなく消し飛んだ。
「・・・・やったんだ」
「うん・・・もう、いない」
復活する事はない。あれは、八人の必殺技の概念を複雑に絡み合わせて、さらには純粋な威力でも理論上は惑星を破壊する事の出来る一撃だ。
あれで、生きているなんて、あり得ない。
これで、復活なんてすれば、今度こそ絶望する。
「はは、終わった・・・・」
「どうにか、倒せたか」
「やったわね」
どうにか、あの怪物を倒せた。もう二度と会いたくないのが正直な所。
彼らは、あの怪物に勝った。
「やった、やりましたよ、千景さん・・・」
優が、千景にふらふらになりながらも歩み寄る。
しかし―――千景だけはまだ険しいまだだった。
「・・・千景さん」
「・・・・悪い皆」
勝ったと、そう、思っていた。
「・・・・まだ、生きてる」
同じことを、
次の瞬間、
『――――ッッッ!?!?』
背筋が凍る、血の気が失せる、全身の筋肉が硬直する、脳が委縮する、内臓が収縮する、心臓が跳ねる、胸が締め付けられる、その、恐怖を示すありとあらゆる反応が、一度に起きた。
気付けば、目の前の海に、イフは立っていた。
その体を最適化するかのように変形させて、完全に再生して、そこに立っていた。
「・・・・う、そ・・・だろ・・・」
「そん・・・・な・・・・」
あの、自分たちの、最大の技を凌がれた。どんな事があっても防ぐ事の出来ない攻撃を、奴は、凌いでしまったのだ。
「あそこまでやって・・・まだ・・・」
絶望が、広がる。
「もう・・・ダメ・・・戦えない」
諦めが、支配する。
「こんな所で・・・・」
もう、彼らに、成す術なんてない。
「イフはどんな事があっても必ず復活する。例え吹き飛ばされ塵になろうとも、決して死ぬ事はないんですよ」
神樹の作る壁の上で、ヒュアツィンテが呟く。
「そして、イフは、受けた刺激全てを同じように撃ち返す事が出来る――――」
そして、忘れていた。
イフは、全ての刺激を、
イフの腹部の一部が発光しだす。
それは、エネルギーの収束――――惑星をも破壊する、絶対破壊の一撃。
「まさか―――ッ!?」
「アレを撃ち返すつもりか!?」
逃げようと立ち上がろうとする。しかし、先ほどのイフ復活の衝撃が抜けずに、足に力が入らない。
逃げられない――――ッ!!
放たれる、星殺しの一撃。
それが讃州の街に激突する寸前――――突如として出現した防壁に、星殺しの一撃は、上へと逸らされた。
『!?』
街へは直撃せず、遥か後方の空へと、それは消えていった。
『――――皆さん、無事ですか!?』
「奏さんか。全員無事です」
『良かった・・・先ほど、創代様の力でどうにか逸らす事には成功しました。ですが、二度目はありません』
見ればわかる。障壁に『熱量遮断』『衝撃遮断』などの文字が見えた。だが、創代の力をもってしても、あれを防ぐ事は出来ず、逸らす事しかできなかったのだろう。
そして、あの一撃によって、防壁はすでにボロボロ、二度目を受け止めきれる保証はどこにもない。
「あの一撃を喰らって肉体が最適化されてるから、もう通用しないだろうな・・・他の勇者たちを集めるっていうのも考えられるが、時間が圧倒的に足りない・・・」
すでに、イフは次の砲撃の準備に入っている。二度目は、先ほども言った通り、耐える事は出来ない。あの砲撃がここに叩き込まれてなにもかもが消し飛んでしまう。
しかし、もうここにいる救導者たちは戦意を喪失しかけている。
あれほどの攻撃をしても、復活したあの化け物に対する対抗策が見つからないのだ。
もう、成す術は無い――――
たった一人を、犠牲する手以外は――――
「・・・」
『使うのね』
郡が、話しかけてくる。
いつの間にか、自分の左手を見ていた。
『わかっているのよね・・・・それを使えば、もう・・・』
「分かってる。分かってるからこそ、やらなくちゃいけないんだ」
元々、長くはない命。来年の春を迎えられない命なのだ。
だったら、今ここで、その全てを自らの力として、燃やし尽くしても、なんの問題もない。
千景は、彼らの方を見た。
「ありがとう。ここまで戦ってくれて」
その場にいた者たちが、千景を見た。
「今まで楽しかった。もう、残す事は何もない」
「・・・千景さん、まさか」
優が、千景がこれから何をするのかを理解したかのように声を上げる。
「ああ――――『神奪』を使う」
神奪―――それはかつて、郡千景を破滅させ、そして三百年前の災害を引き起こした力。
神を対象に力を奪い、その力を振るう事の出来る、神を冒涜する行為そのものの、忌むべき、『神殺し』の力。
「ダメです・・・ダメですよ!!」
優は、千景に縋りつく。
「ダメです、そんなのだめです・・・!こんな、こんな事で、私は嫌です・・・!貴方一人が犠牲になる必要なんて・・・・!」
「じゃあどうする?あの怪物を倒せる方法が他にあるのか?もうこれしか手がないんだ」
千景は、諭すように言う。しかし、それでも優には到底受け入れられなかった。
「でも、他の誰かが、どうにか・・・」
「それまで、待っていられると思うか?」
「でも、でもぉ・・・・!!」
駄々っ子のように泣き喚く優。
「やだぁ・・・千景さんがいなくなるなんてやだぁ・・・!!」
今、翼や剛たちが、必死にイフを足止めしようとしているが、それでも焼石に水にしかならないだろう。
もう、これ以上時間を無駄にしていられない。
そう思い、千景はしがみつく優を鎖で引き離し、縛り付けようとした瞬間、
「分かった」
「!?」
信也が、優を引き離した。
「信也さん!?」
「信也・・・」
「もう、俺たちには何も出来ねえ。だから頼んだぞ、千景」
信也は、優を引きずって立ち去っていく。
「離して・・・離してください・・・!お願いです・・・このままじゃ、千景さんが・・・」
「いい加減にしろッ!!!」
「ッ!?」
信也の怒号が、優を黙らせる。
「・・・いいか優、男がな、何かを心の中で決めちまったら、もう子供の癇癪で止まるもんじゃねえんだよ・・・」
そんな信也を見て、千景も背中を向けつつ、背中越しに彼に言った。
「・・・・涙は、
それを最後に、千景は、笑うのをやめた。
そして、左手を空へと掲げる。
『・・・・いいんですね?』
杏が、聞いてくる。
「ああ」
『もう、友達にはあえねえぞ』
球子が、警告する。
「分かってる」
『部の皆にも、会えなくなるわよ』
歌野が、心配する。
「承知の上だ」
『そう・・・なら何も言わないわ』
最後に、郡が諦めたかのように呟いた。
『・・・・後悔は残すな』
「・・・・ああ」
最後の言葉に、千景は、鎖を四方八方に放った。
その鎖は、崩れた街の上空を飛翔していき、やがて地面に向かって落ちて――――勇者に突き刺さった。
「な!?」
初めに、園子と風、樹。
「これは・・・!?」
しかし、それに痛みは感じない。突き刺さっているというよりは、中に錨を下ろしたかのような感覚。
次に、夏凜と辰巳。
「ぐぅ!?」
「うあ!?」
防人部隊と合流し、イフを相手にどうにかしようとしていた所で背中に突き刺さった。
「何!?」
「これは、鎖!?」
「うわぁぁああ!?まだ敵がいるんだぁぁああ!」
騒然とする場。
「くッ!!」
その鎖をすぐに断とうとする明日香。しかし――――
『待て』
「ッ!?」
突如として、体が動かなくなる。
「明日香!?どうしたの?」
そんな明日香に芽吹が駆け寄る。
「わ、分からねえ、体が・・・」
まるで、自分よりも高位の存在に威圧されたかのように、全身が委縮していた。
『それを斬るな。でなければ、お前たちに勝利はない』
「ぐ・・・なん、なんだ・・・・!?」
頭の中に響いた声に、まるで逆らえない。
明日香は、そのまま動けずに、その場に立ち尽くした。
次に、翼と剛。
「ぐッ!?」
「がッ!?」
突然つきささった鎖によって、地面に叩き落とされる二人。
「ぐぅ・・・なんだこれ・・・!?」
「分からない・・・でも、痛みは感じない・・・?」
腕に突き刺さった鎖をみて、翼は、その鎖が伸びる方向に目を向けた。
次に美森と、銀。
「これ・・・は・・・!?」
突然突き刺さった鎖に足を取られて転んでしまった美森は、その鎖を見た。
そして、その鎖には、不思議と見覚えがあった。
「あの人の・・・」
鎖の伸びる方向へ、美森は、空を見上げた。
そして、友奈。
「・・・・―――くん?」
外殻が僅かに残ったそのわずかな部分に突き刺さった鎖を、ただ虚ろに眺める友奈。
激しく錯綜する刃と刃の衝突の最中に突き刺さった鎖に、春信は混乱を隠せない。
「これは・・・・!?」
「なんだ、それは・・・?」
どうやら、ジガは何も知らない。しかし、不思議と痛みを感じなかった。そして、鎖が伸びる先を、ただ茫然と見上げた。
「――――全勇者との接続を確認」
『接続連鎖』。鎖によって相手と自分を繋ぐ、あるいは複数の人間を繋ぎ合わせる技。
その、全ての大本である一本の鎖を、千景は左手で持つ。
「・・・『神奪』発動」
そして、一瞬、躊躇ってから、神奪の力を開放した。
そして力が、流れ込んできた。
「ぐぅぅぅうう!?」
一気に力が抜ける感覚が体中を支配し、体を弛緩させてへたり込ませる。
「こ・・・れ・・・は・・・!?」
それは、全ての勇者に一斉に起きた。
力が鎖によって吸いだされるかのように、どんどん力が抜けていく・・・かと思ったが、そうではなかった。
「つぅ・・・俺たちの体を中継点に、神樹の力を奪っているのか!?」
そう、勇者たちを中継地点として神樹にアクセス、そしてそこにあるデータを無理矢理抽出、そして自らの体に流し込んでいるのだ。
「何考えてんだ・・・この鎖の野郎は・・・!?」
「とにかく、早く切らないと・・・・!!」
メビュームブレードを発動させて、その鎖を断ち切ろうとする翼。
しかしその寸前―――
『大切なんだろ!だったら自分の事情なんかより、あいつを優先しろッ!!』
唐突に、誰かの声が頭の中で再生された。
「な・・・!?」
そして、自分の記憶の中にあった、何もなかった。
「あ・・・ああぁぁあああ!!!」
夏凜が絶叫する。
「三好様!?」
「夏凜!?」
涙を流し、頭を抱えてうずくまる。
「そん・・・な・・・なんで・・・なんでよぉ・・・・!!」
信じられない事が、彼女の事なんて関係ないとでもいうように置き続ける。
「なんで・・・アイツの事を忘れてたの・・・!!」
『そうなんだよ。ほんと、優しいよお前のお兄さんは』
「う・・・ああ・・・・・あぁぁぁぁあああああ・・・・・!!」
美森は、泣き叫んでいた。
「どうして、どうしてなの・・・・どうして、今更・・・!!」
『――――お前はここで待ってろ』
『いやお前、これ取られた時かなり動揺してただろ?』
『これぐらいの事はさせてくれよ。他でもない。お前の為にさ』
「どうして、千景君の事を、思い出すの・・・・!!」
神樹から流出していく情報は、神樹が奪っていた記憶も一緒になっていた。それが、勇者たちの空白を埋め、やがては神樹が作っていた誰にも気付かれる事の無い、世界の穴を埋めていった。
そして――――
「―――精霊の
奪ったのは、三体の精霊。
一つは力の権化。
一つは空の覇者。
一つは妖の達人。
それらを、全て、一つの体に押し込める。
「全ての精霊の
『―――あらあら、懐かしい匂いがすると思ったら、貴方だったのねぇ』
『三百年前は世話になったわね』
『あまりからかうな。しかし、凄まじい精神力だ』
『まあ、この人はいわゆる異常ですからね』
『ふん。まあ、『今』の友奈よりはマシか』
『久しぶりね。さあ、ここから反撃といきましょうかッ!!』
「―――――『玉藻の前』『大天狗』『酒呑童子』、憑依、および、
全てを強奪せしめし鬼の王、天空を支配せしめし天狗の長、そして、すべてを騙し嘘を真実とする究極の妖。
それら、日本三大妖怪たちを同時に降ろしたその姿は、まさしく化け物。
人の原型を保ちつつ、その身を、三体の異なる肉体で構成した、その姿は―――――
「―――『
どれもが、神に匹敵する力をもって、千景は、飛ぶ。
不道千景消滅まで、残り、三十分――――
次回『仮令、この身尽きるまで』
守りたいものが、そこにあるから。