不道千景は勇者である   作:幻在

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仮令、この身尽きるまで

漆黒の翼をはばたかせて、千景は飛んだ。出し惜しみせずに、戦闘機でいう所のアフターバーナーの仕組みで炎を推進力に、イフに突貫していく。

そして――――

 

「ここから出ていけぇぇぇぇええええ!!」

 

純粋に、鬼の拳で顔面を殴り飛ばした。

(このまま――――!!)

そのまま懐に潜り込んで入れ替え気味にもう一方の拳でイフを殴る。その衝撃はすさまじく、一撃で巨大なイフを大きく下がらせた。

「あぁぁぁぁあぁああああッ!!!」

そこから、なりふり構わずイフを殴り続ける。イフは反撃の間もなくどんどん下げられる。しかし―――――

「ぐぅ!?」

突如として千景が殴り続けていた場所からとてつもない衝撃波が叩きつけられた。それは、千景が殴り続けた事によってイフの体を循環していた拳の衝撃波。それが千景が殴っていた場所から逆に放ったのだ。それによって距離を取らされる。そこへ、イフのミリオンレーザーが飛んでい来る。

「舐めるなぁぁぁぁあああ!!!」

それに対して、千景は反物質による迎撃を敢行。無数に作り出した反物質の球体を、放たれた枝分かれするレーザー全てに叩きつける。

「風遁―――」

天狗が持つ風を操る神通力と、妖狐が使う妖術の合わせ技による、暴嵐の槍が放たれる。

「――――『魔風激槍』ッ!!」

それがイフに直撃し、さらに下がらせる。

当然、その風の一撃を受けたイフは、すぐさま体を最適化させて反撃に出る。

同じ威力の魔風激槍が飛んでくる。しかし―――

 

「人を呪わば穴二つ――――」

 

その手に鎌を構えて、大きく振りかぶる。

 

「『呪詛返し(フルカウンター)』ッ!!」

 

妖狐も呪いを操るゆえに、呪詛を返す事など容易い事―――いや、その倍率は、優のを超えて、おおよそ百五十倍。その威力の風の槍が、イフに叩きつけられ、さらに弾き返す際に手を加えたために、その風は絡みつくようにイフに纏わりつき、そのままイフを―――――壁の外に追い出した。

灼熱の大地と煉獄の地獄が支配する神樹の外。

そこはおおよそ人が住めることは出来そうにない世界。

神々によって奪われた、人の世界。

イフに知性はなく、何も考えず受けた刺激を返す。

「来いよ、パクリ野郎・・・・」

しかしその反撃は当たらず、そこにいるのは一人の人間。否、人間と呼ぶべきかどうかの相貌だった。

髪は絹のように長く、金色の麦のように輝いていて、しかし翼は地に落ちたかのように黒い。さらにその手にはその美しい顔には似合わぬほどの剛腕の手甲がつけられており、そしてその傍には見るも巨大な鎌が浮遊している。

「今ここで、テメエを殺す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ・・・くぅ・・・・」

力を奪われた事で満開が解かれてしまい、さらに記憶が戻ったショックで立ち直れずにいる翼。

「ちか・・・げ・・・くん・・・」

視界の先では、穴の空いた壁の向こうで、いくつもの閃光と爆発音が聞こえてくる。

「おい・・・翼・・・・生きてるか・・・・?」

「人聞きの悪い事を・・・ええ、生きてますよ・・・」

「よし・・・それなら、行くぞ・・・」

剛の言葉に頷き、立ち上がろうとする翼。

もう一度満開して、千景の援護をしにいくつもりなのだろう。

だが――――

「悪いな」

突如として後ろから声が聞こえた。

「そうはいかない」

次の瞬間、視界が急速に変わり、すぐに誰かに担がれている事を認識する。

「「な!?」」

「どっちみち、お前らじゃ勝てねえよ」

それは、黒いコートを着た、自分たちと同じくらいの少年だった。

その少年は、そのまま千景の戦う戦場から背を向けて、走り出す。

「は、離してくれ!どこに連れていくのかしらないけど、今は・・・」

「千景の援護に行くってんなら、悪いがそれはさせねえって奴だ。今は傷を治す事に専念しろ」

「おまっ・・・千景の事を知って・・・」

「ああ、知ってるよ・・・お前らが知ってる時より、前のアイツをな」

その意味を知る事はなく、二人は、とある地点に連れ戻される。

そこは、防人部隊と辰巳、夏凜のいる場所だった。

さらに、他の勇者部の面々や、襲撃者たちの姿もあった。

「冬樹、二人追加だ」

「勘弁、して、結構、キツ、い」

乱暴に落とされ、視界を開けた先では、怪我をした者たちの治療をしている二人の少女がいた。

一方はやや水色の髪をした少女。もう一方は黒髪で褐色気味な肌をした、まだ小学生にも思える少女だった。

「剛、翼、あんたたちも来たのね・・・」

「風・・・」

声がした方向を見れば、かなりやつれた顔でこちらにやってきた風の姿があった。

「・・・ひでえ顔だな」

「そうね・・・・たぶん、アレ見たからかも・・・」

「そうか・・・」

風は剛の隣に座った。

「・・・・どうして、忘れてたんだろ、アイツの事」

その声に、感情は無かった。いや、感情を押し殺しているかのように、抑揚が無かった。

剛は、無言で風の頭をなでる。

一方の翼は、美森を探していた。

奴らの襲撃の後だ。死んではいないだろう。だが、それでも、千景の事を思い出した彼女は、かなりのダメージを負っているはずなのだ。

何故なら、彼らは勇者部の仕事上では、パートナーの関係だったのだから。

そして、見つけた。

膝を抱えて、うずくまっている彼女の姿を。

「須美ちゃん・・・」

どう、声をかければ良いのかわからなかった。

自分も忘れていた。彼女も忘れていた。だが、その衝撃の大きさは、明らかにあちらの方が大きい。

あんな形で思い出したのだ。そして、あまりにも突然過ぎた。

処理が、追い付いていないのだろう。

でも、だからこそ、放ってはおけない。

そっと歩み寄り、翼は、美森の横に座った。

「・・・・・須美ちゃん」

返事は、無い。

いや、すぐには返ってこなかっただけだった。

しばし待つために視線を切った所で、美森が話しかけてきた。

「・・・翼くん」

「・・・」

「翼君、私、今まで、君の事忘れてたよね」

「・・・そうだね」

「忘れたら、相手がどんな気持ちになるか、わかるよね・・・・?」

「・・・うん」

「もう二度と、誰かにそんな思いはさせない・・・・そう、決めてた。決めてたのに・・・・」

すすり泣く声が、聞こえた。

「わたし・・・ちかげくんのこと・・・わすれてた・・・・・!!」

それっきり、彼女の泣き声だけが響いた。

その涙を、止める事が出来ない事に、翼は、ぎりり、と歯を食いしばった。

ふと、そこへまた一人、誰かがやってきた。

「全員、いるでしょうか・・・?」

「まだよ。一人は向こうで。もう一人はまだ探してる」

見れば、そこにはものの見事な十二単を着た女性と、巫女服を着た年上の少女が立っていた。

「足柄辰巳さんはおりますでしょうか?」

「足柄なら俺だが」

少女の言葉に、辰巳が立ち上がって答える。

「私は、千景君がここに来る前にやっていた御役目、救導者の導き手として、そして、我が街の主神、創代様に使える巫女である、神代奏と申します」

礼儀正しく答える彼女に、しかしどこか、彼女の漂わせる雰囲気が、どこか、恐ろしかった。

何か、怒りを必死に隠しているかのような、そんな、雰囲気だった。

「そうか・・・こちらの自己紹介は省かせてもらうが、治療をしてくれている事には感謝している。だが、貴方方は、その為に俺たちを集めた訳ではないのだろう」

「はい。私たちが貴方たちに・・・特に、勇者部の皆様に告げる事があるために、ここに参上した次第でございます」

奏と名乗った少女は、一度周囲を見渡すと、やがて、良く通る声で、話し始めた。

「単刀直入に言いましょう。千景君の命は・・・諦めてください」

 

突然の、死亡宣告だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉぉぉぉおおおおッッ!!!」

迫る剣を鬼の腕力と鎌で弾き飛ばす。

しかしそこへすかさず紫色の火球が無数に迫る。それが近づくと突然変色して、広範囲の爆発を巻き起こす。

その爆発の中で、斥力を発生させてその衝撃全てを防ぎきり、なおかつ反撃として斥力の槍をイフに叩きつけた。

だが、それすら一瞬で再生し、体中から触手のようなものを伸ばして、それを縛るのではなく突き刺そうと迫らせる。

「無駄だ」

しかし、その触手は千景に触れる前に腐食していき、朽ちていく。

「殺生石・・・が、あんまり効果はないか」

朽ちた触手はそのままイフに到達したが、それに対応したのかそれ以上腐食していく事はなかった。

それを見て、千景は鎌を構えて、イフを睨みつける。

「だったら、手当たり次第に叩き込むだけだ」

無数の元素や原子、法則や物質を作り出して、千景は、どこまでも回復し、成長し続ける怪物に向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「諦めろって・・・どういう事よ!?」

夏凜の叫びが、響いた。

しかし、奏は動じずに話を続けた。

「順を追って説明致します。まず、事の始まりは数ヶ月前のあの決戦の日、勇者部と襲撃者たちがぶつかった日、千景君は、敵の大将であるアモルの撃破に成功しました。しかし、問題は、その後に起きました―――」

 

 

 

千景は、アモルを倒した後、神樹にその体を貫かれた。その時、神樹は、彼の体中の機能を奪い、そして、その体に祟りをかけた。

神樹とは、地の神と天の神が、異世界の神々の襲撃によって、自らが集まって現世に現れた存在。

いわば、神々の集合体だ。

その力を、千景は神奪によって奪い続け、とうとう神樹を怒らせてしまったのだ。

そして、その体に、天の神からは祟りを受け、地の神からは体の機能全てを奪われた。

体の機能が奪われたのならまだいい。創代によってまた作ってもらえればいい。

だが、問題なのは祟りの方だ。

その祟りとは、時間がたつにつれて、体中が焼けるような激痛に苛まれていき、そして、最終的にその祟りが体中に完全に回った時、その体は灰となって消失し、その魂は、生と死の間で、永遠に閉じ込められるという事だった。

何も見えず、何も感じず、幸福になる事も、不幸になる事もなく、ただそこに、ただの魂としてあり続けるだけの存在へとなり下がる。

そんな、完全な死よりもつらい、絶対なる孤独となる罰。

それが、千景に与えられた、祟りなのだ。

本来なら、それの完全な発動は来年の三月末、四月になる直前の日なのだ。

だが、その前に敵がやってきた。

千景は、自ら皆を守るために、戦いの場に出て、誰にも干渉せず、ただ戦って勝つだけだったはずなのだ。

だが、そこでいくつもの誤算が生じた。

勇者部の自室捜索、防人の襲撃、そして、勇者部が、自分の事を調べているという事。

忘れられていたはずなのに、まさか自分のことを捜索されてるなんて思いもよらず、しかし彼は一切を干渉せずにやり過ごす気でいた。

だけど、あのイフの登場で、全ての算段が水泡に帰した。

あの、どんな攻撃を受けても再生し、撃ち返してくるあのチート性は、もはや、チートを殺せる()()()で倒すしかない。

だから、千景は、あの切り札を使ったのだ。

 

それがあの、『絶景・人外妖ノ極(ヒトノミニアラズ)』だ。

 

 

そして、それの使用の代償として、祟りの侵攻を速めてしまった――――

 

 

「あの状態の千景君は、いわば、死亡率100%のドーピングをしている状態であります故、勝っても死、負けても死、途中で解除しても死です。何があろうと、彼はもう、死の運命を逃れる事は出来ません」

しばしの沈黙が、場を支配する。

「・・・・それで」

しかし、翼が口を開く。

「もう、千景君は助からないから、ここで指をくわえてみてろっていうのか?」

「その通りです」

次の瞬間、壁が粉砕される。

「ふざけんな」

翼が、裏拳気味に殴ったのだ。

「もし祟りがあるっているなら、それを解除すればいいだけの話だろ?なんでそれをしないんだ?」

「奪われた寿命は、元には戻りませんから」

「・・・・寿命?」

「ええ。彼は、すでに来年の春までしか生きられない程の寿命しか残っていません。文字通り、寿命を奪われたのですから」

想定の外をいく返事に、思わず翼は黙ってしまう。

「だ、だけど、それは祟りを解除できれば、元に戻るんじゃ・・・」

「いいえ、神樹がかけたのはあくまで()()()()()()()()。寿命はすでに、神樹によって供物としてささげられています。ですので、もう二度と元に戻る事はない」

『――――ッッ!?』

寿命が、奪われた?なんだそれは。それじゃあ、例え祟りを解除しても。

「そして、今、彼は全ての寿命を投げ出しました。猶予は十五分。すでに七分が経過しているため、残りは八分といったところでございましょう」

悔しくなってくる。

まさか、ここに来て自分たちの無力さをたたきつける事になるとは。

だが、そうであっても、せめて最後。手伝いに―――――

「どうせ行っても、今の彼の足手纏いになるだけですよ?」

こちらの内心を見抜いたのか、奏は容赦なく言い放つ。

「そんなの、やってみなくちゃ分からないだろう?」

睨みつけて、反論する。他の勇者も、同じ気持ちのようだ。

「いいえ、分かりますよ。貴方たちは、自分の攻撃を防ぐ手段はあるのですか?」

「え・・・」

「自分の全力の斬撃を受け止める覚悟は?自分の最後の力を振り絞った力を撃ち返す体力は?自分の最大の一撃を防ぐ手段は?ないでしょう?何せ、貴方たちはそれだけの力を持っていない。そして、どんな生物であっても、自分の攻撃を防ぐ手段を持っていません。彼を見てください」

千景は、撃ち返された攻撃全てを、自分の力によって防ぎ、返している。

「彼は、自らの攻撃を自らの力で防いでおります。貴方たちに、あの激しい撃ちあいの中で、あれほどの事が出来ますか?」

「それは・・・」

「例えそうであっても、アイツは勇者部の部員よ。友達なの。だから、助けに行くわ」

答えられない翼の代わりに、風が答えた。

「それに、一発でもぶん殴らないとこっちの気が済まないのよ。一言だけでも言ってくれれば、手伝ってあげたのに、それを全部一人で背負い込むんじゃないわよ。あの馬鹿は・・・・!」

拳を握りしめて、風は奏に向かって言い放つ。

「だから、貴方がどういおうと私たちは行くわ。アイツはアタシたちの仲間よ。仲間なら、助けにいくのが道理でしょ」

そう、言い切った時、

「―――ガキが」

底冷えた声が、届いた。

その、暗く、ドロドロな、真っ黒な冷えた怒りの感情が、その口から漏れ出たのだ。

それは、目の前に立つ、巫女服の少女だった。

「もう一度言うわよ―――――お前らが言った所で足手纏いになって時間切れになって負ける。どんな事があっても、お前らがどれほど努力しようとも、お前たちは、千景君の足枷となるだけと言ってるのよ。何をしようが、満開使おうが、お前たちが束になった所で、奴には勝てない。それがなぜ分からないの」

風どころか、辰巳でさえも震えあがるような、凍てついた怒りの感情を迸らせる奏。

そして、その感情に呼応するかのように、彼らの前に、三人、立ち塞がった。

真武郎、雅、そして、信也。

彼らも、軽蔑するような目で、勇者部を見ていた。

「コイツら・・・」

今ここで殺し合いを始めてもおかしくない程の殺気が充満していた。

その気になれば、治療に専念している彼女たちも加勢して、すぐさまこちらを殺しはしないまでも骨の一本や二本は持っていかれるかもしれない。

「分かったのなら。そこで大人しくして。お願いだから」

また発した奏の声は、先ほどよりは和らいでいた。

だが、その声に含まれる怒りと軽蔑の感情は、消えていなかった。

「分かった」

「・・・!?師匠(せんせい)!?」

そして、それを辰巳は承諾した。

「どうして・・・」

「逆に聞くが、園子。お前は奴を倒す事は出来るのか?」

「それは・・・」

「もう、何もかもが遅い。俺たちが今頃動いた所で、もう、誰にもあの戦いを止める事は出来ない――――」

辰巳は、遥か彼方の空で戦う千景の姿を見た。

「――――俺でもな」

その姿に、一人の少女を重ねて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁああぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」

絶叫と共に、撃ち返された攻撃全てを迎撃する。さらには、空から降り注いでくる爆弾やナパーム、レーザーや砲弾を岩の弾丸で全て迎撃し、さらにイフが振るう無数の斬撃を鎌と飛翔能力で全て躱す。

そして、懐に飛び込んだ所で、その顔面に鬼の拳の上に風の一撃を込めて殴り飛ばす。

それだけでは終わらず、雷を落として細胞から分解しにかかるも、それすら効かず、逆に相手に放電させてしまう。

しかし、それに対して絶縁する空間を生成して防ぎ、その最中でレーザーを放って、イフの体中を貫きまくる。だが、それすら回復される。

手はないはず。どれほどやっても無駄なのに、千景はそれでも攻撃の手を緩めない。

火球を生成。巨大な半径五メートルはありそうな程巨大なものを、叩きつける。

水を生成。高圧で首を切断する。

風を圧縮する。圧縮して圧縮して、限界まで圧縮した所で体の中に叩き込んで体内で炸裂させる。

土をかき集めて、巨大な隕石を作って叩き落した。

それでも奴は死なない。

それどころかどんどん強くなっていく。

(まだか・・・まだなのか・・・・!!!)

祟りが体を蝕んでいく。体中が焼かれるように痛い。意識が持っていかれそうだ。視界が黒に塗り潰されている。まだだ。まだ、戦わなければ。

『アレ』を撃たせるわけにはいかない。アレをもう一度撃たれれば終わりだ。

だから、負けられない。

「負けられないんだ・・・・ッ!!!」

絶叫をあげて、千景は鎌を振り上げて、その足を切り飛ばす。

上空からイフの掌が迫る。

しかしその横から風の拳が叩きつけられる。

翼が赤く燃え上がる。

天上を焼いた炎がイフを焼く。しかし、すぐさま再生してしまう。

全てを強奪する鬼の拳がイフの頭部を砕く。しかしすぐに再生してしまう。

しかし、どれほど攻撃しても、イフは決して倒れない。

『――――そこはこうするべきなんじゃないかしら?』

頭の中で声が響く。

それと同時に、今生成していた炎が変化し、青く燃え上がる。そして、その青い炎は、明らかに赤い炎よりも高い威力でイフに叩き込まれた。

『ただ空気を入れただけよ。それだけで、あれほどの威力がでるの』

玉藻の前である。

『来るわよ』

翼を羽ばたかせて、上に飛ぶ。その下を先ほどの青い火炎が通過する。

『―――次は斬撃だ。右斜め上に動け』

別の声が、響く。

その声に従って、右斜め上に避ける。すぐ横を、斜め気味に振り下ろされた刃が通過する。

『俺が指示をする。お前は指示に従って避け、お前のタイミングで攻撃すれば良い』

大天狗だ。

『――――拳を握りしめて、ケツの穴を引き締めて、腕を引き絞れ』

また、別の声。

『そして、今だ。殴れ』

言われた通り、全力でイフの顔面を殴り飛ばす。骨が砕け、気持ちの良い感触と音が響いてイフは下がる。

『もうちょいタイミングは遅い方でいいぜ。その方が威力はもうちっと上がる』

三体を同時に完全同調しているからか、彼らの自我が、自分に話しかけてくる。

彼らがするサポートのお陰で、千景は、自らの力を最大限引き出す事が出来ていた。

それだけではない。

また、無数のレーザービームが襲い掛かる。

『―――させるかぁぁぁああ!!』

球子が防御壁を作りそれを防ぎ、

『ここです!』

杏が、鎌の柄を使ってイフを狙撃し、

『Very slowね!』

歌野が回避を促し、

『死ね』

郡が攻撃をする。

一つの体に、人の意識が五つ、人外の自我が三つ。計八つの人格が点在するこの状況で、彼は人の処理能力を超えた行動に出る事が出来ていた。

「おぉぉぉぉぉおおおおッ!!」

襲い掛かる必殺の攻撃を、千景は全て躱しきって見せる。

鎌で斬り、風を叩きつけ、火炎で燃やし、雷を落とし、水で貫かせ、、土を落とす。

持てる全ての手を使い、イフに、先ほど受けた星殺しの一撃を放たせないようにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど」

そして、その様子を壁の上にて、『第三の罪科(サード・シン)』は傍観していた。

「わざと攻撃の手を休めない事であの大技を放たせないようにする・・・封殺する為に、あのような戦いをしているようですね」

「ハハハハ!!時間を稼いだところでイフを倒す事は叶わんと、まだ分からんようだな」

ブルーメが、必死に戦う千景を嘲笑う。

「ま、その善戦ぶりは、素直に敬意を表してあげるよ」

ラヴァンドは、高速で飛び回る千景を見た。

「だけど、時間切れだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

十五分、経過――――

 

「が――――!?」

とうとう、千景に与えられた猶予が、消えた。

千景の動きが止まる。

倒しきれなかった。

そこへ、イフがその大口を開ける。そこに、光が収束する。

回避に移るべきだ。だが、翼が思うように動かない。

体中を襲う熱さが引いていき、意識も混濁していく。体の表面を駆け巡る紋様が、顔全体を覆う。

その間に、イフはすでに発射準備を整えて、それを千景に向けていた。

千景の背後には、崩れた街と、仲間たち。

 

 

 

 

 

「千景君!!」

美森が思わず叫ぶ。

「もう十五分経過したのか・・・!」

「そんな・・・・」

動きの止まった千景を見て、そう、絶望する一同。

しかし、救導者の者たちだけは、冷静に、しかし、本当に辛そうにな表情で、千景の変化を見た。

「・・・・始まる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラッシュ・ビームが放たれる。

全てを焼き尽くす、星殺しの一撃さえも上乗せされた、絶滅への一撃が、千景に向かって放たれる。

千景は、避けようとしない。いや、避けれない――――

そのまま、光が千景を飲み込もうとした、その時――――

 

 

光が、拡散した。

 

 

 

それは、まるで何かの球体に弾かれ後ろに飛んでいく水のように、千景に直撃する事なく、後ろへと駆け抜けていく。

やがて、収まったその一撃を耐え切った千景の姿を見た時、ありとあらゆる者たちが絶句した。

 

 

一つに、髪が真っ白くなっていた。全ての色を失い、全てを失ったかのような事を象徴するかのようだった。

次に、目の色。茶色かった目が、赤く、血のように輝いていた。

上半身の装束も消滅し、その体中を、真っ黒い紋様が駆け巡っていて、背中の翼は、まるで深淵の闇のような色へと変色していて、そして、鬼の手甲も消え、その額に見るも立派な二本の角が生えていた。

そのさらに上にも、真っ白な三角耳がある。

何から何まで異様で、全てが、彼らの知る千景ではないようだった。

それは、希望と呼ぶには程遠く、化け物と呼ぶには相応しく、そして、事実彼は、人間をやめていた。

 

 

 

 

 

人としての寿命を失った事で得た、『死』のエネルギー。

 

 

 

 

それは、人の体を腐敗させ、白骨化させる、その者の生が終わった時に生み出されるエネルギー。それは無限に溢れ出し、どれほど抗おうとも逆らえない力。

 

この世において、最強にして最悪のエネルギー。

 

それが、『死』

 

 

 

 

「死する事で得られる、死のエネルギー。奴を倒すには、もはや、この力しかありません」

全ての生物に与えられる、回避不可能な結末にして真実。

かの妖狐が、逃げに逃げ、嘘を吐き続けた果てにこの世に唯一にして本物の真実を作り出した、その力。

全ての生にひとしく終わりを与え、そして死を生み出す、絶対絶命の力。

 

 

 

それが、今の彼を動かす力。

 

 

 

 

 

「おぉぉぉぉぉぉおおおおおおお―――――――――!!!」

絶叫が迸り、千景は飛ぶ。

鎌を振りかぶり、翼を羽ばたかせて、イフに突っ込む。

ここに来て、イフは、初めて自分から攻撃した―――ッ!!!

降りかかってきたのは、隕石。それも一つや二つなどではない。

無数――――イフは重力を操って、隕石を呼び寄せたのだ。

しかし、千景はそれを意に介さず、力を行使する。

持ってきたのが物質であるなら、それを全て吸い込めばいい。

重力(グラビティ)展開(オン)―――黒玉・消滅ッ!!」

重力を収束させて作り出した、全てを飲み込むブラックホールを生み出し、それを使って全ての隕石を吸収、消滅させる。

それだけにとどまらず、突如として何もない場所から岩の柱が出現、それがイフの腹を打ち据える。

否、それは岩の柱などではなく――――火薬の塊。

「爆ぜろ」

指を鳴らし、着火。ダイナマイトと呼ばれる、通常の爆弾より威力のある爆弾が、イフの体内で爆発。

それだけにとどまらず、すかさず千景はイフの頭上に今度は何かの丸い爆弾のようなものを出現させた。

それは、人類が作った最低最悪の、小さな孤島すらも吹き飛ばす、原子の力――――

 

原子爆弾だ。

 

それが炸裂し、全てを融解、消滅させる爆発が解き放たれる。

さらに、ダメ押し。

ありとあらゆる属性で作った拳を展開。それを鬼の腕力で、原爆をもろに喰らったイフにマシンガンの如く叩きつけまくる。

何度も何度も殴られ、どんどん下がっていくイフ。

「あぁぁぁぁあぁああああぁぁぁぁぁあぁああああああッッ!!!」

千景の絶叫が迸り、無数の拳がイフへと叩きつけられていく。しかし、その無数の拳を受けてもなお、イフは死なず、何かが光ったかと思うと、極細の熱戦が千景の右肩を貫いた。

「ぐぅ・・・!?」

ぎりぎりの所で冷却したからよかったが、そのまま放置していたら、右肩が一瞬で溶けていた所だ。

『来るわよ!!』

見ればイフは左手を突き出して、その極細のレーザーを放とうとしていた。そして、あの速さからして、迎撃と回避は――――不可能ッ!!

「『神屋楯比売(かむやたてひめ)』ェッ!!」

かつて、球子が使っていた楯を投影し、それによって無数に襲い掛かってくるレーザーを全て防ぐ。

無制限に放たれる攻撃。それらを長く封じていられるのも時間の問題。

否、それ以前に、この体がもたなくなる。

死のエネルギーは、想像以上の速さで生成され、この体を朽ち果てさせようと急速に体中を駆け巡ろうとする。

そこまで、時間はかけていられない。

神屋楯比売を解除すると同時に、飛来してくるレーザーを躱して、飛び上がる。

「手加減はしない――――影分身ッ!!!」

実態ある分身をつくりだし、それら全てがそれぞれ別々の属性による攻撃を開始する。

その暴力の嵐にさらされたイフは、当然の如く反撃に出る。

ミリオンレーザーは勿論の事、ミサイル、ナパーム、クラッシュビームなど、ありとあらゆる攻撃方法を率いて分身たちの数をどんどん減らしていく。

しかし、それでも一向に減る気配がない。それは、回避や防御を担当している者たちがいるからもある。だが、それ以前に、その分身に無意識に与えられた、火傷をするかのような情熱が、消える事を拒んで、イフに攻撃し続けていた。

近接戦に出る者もいれば、拘束をしようとする者もいた。または遠距離から安全に攻撃する者たちもいて、その援護をする者もいて、何が何でも、イフをそこに留めるかのように、全力でイフを攻撃していた。

しかし、それも長くは続かない。

イフの体が、突如として赤く変色する。そして、イフの体から発せられる熱量も、毎秒毎にどんどん上昇していっている。

そして、体を丸めるような姿勢―――熱は、変わらず上がり続け、赤く光り出した部分も、その光をどんどん強める。

それに、千景は気付いた。

(自爆―――――)

気付いた時にはもう遅く、イフは自らの体を爆発させた。

光が全てを包み込み、あたり一面を吹き飛ばす。

強力な再生能力。知性がないから例え脳が吹き飛ぼうとも、その怪物はその事を覚えている事は無い。

だから、こういう事も平気でやるのだ。

そして、イフの周囲には何もいなかった。

全ての敵が消失し、もう、阻む者は誰もいない。

だから、イフは自分の頭の中にある命令に従う。

 

『人間を滅ぼせ』

 

ただそれだけの為に、イフは、考えられない頭で、人間のいる方向を見た。

そして、今度こそ、星殺しの一撃を、そこに叩き込もうとする。

もう、阻むものはいない。だから、力が溜まった瞬間、それを解き放ち、人間を根絶やしにする。

ただ、それだけの為。自分に与えられた存在意義を全うするためだけに、その生物は、人間を――――

 

 

 

「――――咲き乱れるは紅い花、染め()くは死した生命」

 

 

 

 

声が、聞こえた。

 

 

 

 

 

「――――花は時と共に散り、それ故に世界は廻る」

 

 

 

 

 

だけど、気にしない。気にしたところで、無駄なのだ。

 

 

 

 

 

「――――故にこれは世界の真実、我が唯一にして最後の真実」

 

 

 

 

 

 

だから、早くこれを撃たなくちゃ。

 

 

 

 

 

 

「――――生きとし生ける全ての生命(いのち)に、それを逃れる術はなく」

 

 

 

 

 

 

早く、撃たなければ、

 

 

 

 

 

 

「――――故に我等に弱さは許されない」

 

 

 

 

 

 

なんで、早く、なんだろう・・・・?

 

 

 

 

「――――咲き誇れ」

 

 

 

 

気付けば、それは空から降ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――『終わらぬ命など無く、そ(ヒガンバナセ)れでも世界は廻り続ける(ッショウセキ)』」

 

 

 

 

紅い流星が、イフの体を貫いた。

 

 

 

 

「――――終わりだ」

 

 

 

 

それは、あまりにも些細な、鎌の一撃だ。

その程度の一撃、イフには何の意味もなさない。

 

 

それが、ただの一撃なら。

 

 

終わらぬ命など無く、そ(ヒガンバナセ)れでも世界は廻り続ける(ッショウセキ)

それはこの世の理。全ての生命が逃れる事の出来ない、絶対的終着点。

故に、それから逃れる事は出来ず、何があろうとも回避する事などできない。

必然にして運命。定められた、絶対的な理。

だが、イフは完全なる生命。故にその理の輪には外れているはずなのだ。

だが、この技は、全ての命あるものに等しく死を与える。

 

この必殺技の本質は、『運命』。全ての生命のこれからの未来を断絶し、代わりに死の運命を与える。

 

それは、世界の理から外れた存在(生命)であっても例外ではなく、当たればすぐにその死の運命が体を蝕み、問答無用で対象を『死』に至らしめる。

 

死が、イフを襲う。

 

溢れ出る死のエネルギー。そのエネルギーに際限などなく、いくらでも溢れ出てくる。そして、それは時が立つにつれて、その溢れる量はどんどん増えていき、加速する。

それに対抗するように、イフの細胞が必死にイフの体を生き長らえさせようと躍起になって死んだ細胞を捨てて新しい細胞を生成し、回復させようとする。

しかし、いくら体のほとんどが消失しても再生するイフの細胞であっても、『死』のエネルギーには敵わず、どんどん体を蝕まれていく。

やがて、イフが放とうとしていた星殺しの熱量は鳴りを潜めていき、どれほど力を入れても、また再点火される事はなかった。

すでに決定された運命には逆らえず、どれほど抗っても押し流されて、やがて、イフはその体から力を抜けさせて、地面に崩れ落ちる。

死が、イフの体を支配していく。

終わらぬ命など無く、そ(ヒガンバナセ)れでも世界は廻り続ける(ッショウセキ)』が決まった時点で、すでに勝敗は決していた。

もう、イフは立ちあがる事は出来ない。

蘇生する事も不可能だ。すでに決められた運命は、イフを死に繋ぎ止めて、決して復活は出来ないようにしていく。

意識が遠のいていく。

考える事の出来ない頭で、必死に体を動かそうとする。

しかし、それよりも、突然やってきた強烈な睡魔に襲われて、イフの意識は遠のいていく。

眠る機会は何度もあった。それも強制的に。

今回も同じだ。

だから、イフは気にしなかった。

完全なる生命体は、今来ているものがなんなのか理解できず、そのまま眠りにおちていった。

 

そして、イフは完全に沈黙―――――死亡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・」

イフの死を確認した。

もう、戦う必要はない。

勝ったのだ。勝ったんだ。

勝ったのなら、戻ろう。ここにいる必要は、もうない。

 

しかし、その前に、鎌を持っていた手が、ぼろぼろと崩れていった。

 

「・・・ァあ・・・そうか」

 

 

――――身体が、塵と消えていく。

 

 

それもそうだろう。それほどの、無茶をしでかしたのだ。

死んでもはや骸と化した躰で、本来、人が行ってはならない領域へ足を踏み入れて、痛覚の無いまま、時間を許すまま、躰が完全に壊れるまで、全ての感覚が狂っていくのにまかせて、戦い続けた代償がこれなのだろう。

だけど、不思議と後悔は無い。

伝える事は伝えた。

守る事は守れた。

戦える事は戦えた。

やれるだけの事は、やった。

もう、十分だ。

翼が消える。落下する。

その落下の中で、体がどんどん灰となり、空へと消えていく。

すでに両脚が消失していて、腕も、完全に消えていくのも時間の問題で、内臓すらも、おそらく塵となって崩れている事だろう。

このままいけば、体は本当に完全に塵となってきていくだろう。

恐怖は、無い。これから、深淵の闇へと落ちていくのに、怖くはなかった。

 

目のまえに、郡が、悲しそうにこちらを見ていた。

 

「そんな顔、しないでくれよ・・・」

もう、腕が無いから、その涙を拭う事は叶わない。

「これは・・・俺が望んだ事なんだからさ・・・貴方が悲しむ必要なんて・・・どこにもないんだよ・・・」

その言葉に、郡は、消えゆく千景の体を、霊体のまま抱きしめた。

温かいぬくもりが、体を満たす。

ああ、この暖かさ。これがあれば、もう、十分だ。十分なのだ。

だけど―――ああ、だけど、最後に、一言だけ、彼女に伝えたい事が、あった。

 

 

 

 

「―――好きだ。友奈」

 

 

 

 

その、声どころか音にすらならない声で、その言葉を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、不道千景は、二度と抜け出す事の出来ない、無限の闇に身を投じていった。

 

 

温かい、ぬくもりと共に――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不道千景――――死亡。




次回『不浄なるもの』

名も無き怪物は、ただ人になりたかっただけだった。
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