不道千景は勇者である 作:幻在
――――上里本家。
「―――以上です」
「ご苦労様、もう下がっていいわよ」
召使いによって着替えを行っているまだ十二とも思えるほど小さな少女が、後ろに控えていた男に告げさせる。
「はっ」
その返事とともに、男は闇夜に消える。
上里家直属の暗躍部隊『
「・・・翼さんと剛さん、そして、かの災厄の子孫が死亡ですか・・・そして、かの英雄の名を継ぐ者の裏切り・・・」
着替えが終わり、召使たちが下がっていく。
そして、召使いたちが部屋を出ていった後、少女は、感情の無い表情で呟いた。
「・・・さて、手を打ちましょうか」
少女――――現上里家当主『上里ひより』は、仮初の太陽を見上げて、そう呟いた。
赤が、視界を染める。
綺麗な肌色が、赤に塗り潰されていく。
大切だったものも、大事だったものも、当たり前だったものも、全て赤に塗り潰される。
あまりにも、その景色は赤に染められていた。
その、赤の荒野に、一人の影があった。
その影はその赤の塊の山の上にたたずみ、嘲笑うかのように天に向かって笑い声をあげていた。
――――やめて
声は届かない。
――――お願い
――――やめて、お願い、やめて
あるのは
――――もう、これ以上
その、赤い全てが、今、自分の大切なものを―――
「―――ハッ!?」
唐突に意識が覚醒する。
激しい動悸、荒い呼吸、高鳴る鼓動。
そんな、混乱した状態の中、ゆっくりと納まっていくのをまち、そして、自分が今どこにいるのかを認識する。
見慣れない鉄の天井、知らない個室、知らないベッド、鉄の床。
ここは、自分の部屋でもなければ家でもない。
どこかの、知らない所。
だが、興奮が収まっていくとともに、昨日の事をゆっくりと、しかし鮮明に思い出していく。
「うっ・・・!?」
突頭な吐き気に、美森は思わず個室を飛び出し、トイレへと駆け込む。
「げぇー・・・」
胃の中には何も無い筈なのに、どうしても、吐き気が止まらない。
やっとの事でおさまった吐き気ではあったが、それでも、辛い事には変わりはない。
身体も、精神も、何もかも。
「ハア・・・ハア・・・」
思い出したくもない、昨日の悪夢。いや、それが本当に夢であってくれたならどれほど良かった事か。
「友奈ちゃん・・・・翼君・・・千景君・・・・」
また、吐き気が襲う。
午前五時、彼女なりに言えば、マルゴーマルマル。
そこからの一時間を、東郷美森は吐き気に苛まれる事だけで過ごした。
「分かっていると思うが言わせてもらおう。今の状況は最悪だ」
辰巳の口から、そう告げられる。
今、この場にいるのは、奏、佐奈、春信の四人だけ。
「不道千景、六道翼、三ノ輪剛の死、そして結城友奈の寝返り。数だけみればそれほど重要な事でもない事のように思える。だが、戦力的に言えば最悪だ」
「不道千景は精霊の三体同時憑依が可能、六道翼は類まれなる戦闘の才、三ノ輪剛は持ち前の打たれ強さと戦闘センス。どれをとってもトップクラスの三人だ」
「その三人は、すでに死亡していて・・・そして、結城友奈は」
「正体が負の感情の塊にして、勇者適性過去最高値。そして、勇者の頃を凌ぐほどの戦闘力・・・過去の武将の召喚も可能となると、数による戦力差は一気に逆転される」
一気に暗い方向に空気が澱んでいく。
ここは、大赦の保有するゴールドタワーの会議室。
あの戦いの後、勇者、及び救導者、襲撃者、防人たちは大赦によって保護され、そしてここに運び込まれた。
幸い、創代のお陰である程度の傷は完治しており、一晩は寝れば多少の体力の回復にはつながった。
しかし、精神的な解決には、いたってはいない者が多いのが現実だ。
防人たちは被害が無かった為、そして痛みに対しては多少の覚悟があったためにすぐに戦線への復帰は可能、襲撃者たちも同様である。
だが、救導者、勇者は違う。
千景を失ったショックで立ち直れない者がおり、それでも前を向いて進もうとしている者もいるが、正直言って危ういのが現状だ。
そして、千景の消滅に相次いで翼、剛が死に、そして友奈の裏切りを受けた勇者部は他の者たちよりかなり大きなダメージを負ってしまっていた。
「一応、友奈・・・いいえ、不浄王『サイカ』に対する手段はあるのでしょう?」
「東郷の満開か」
美森の満開は破魔、不浄の浄化の効果が付与されている。
それなら友奈の―――サイカの力に対抗できるのはすでに実証されている。
サイカとは、友奈に与えられた新たな呼称である。
もうすでに人間をやめた彼女には、似合いの言葉だと、春信がそう名付けた。
あの戦いからすでに一晩。体の傷は癒えても、心の傷はそう簡単には治らないのが現状である。
故に・・・
「あの状態でどうする?」
「・・・・そうですね」
今の美森は、完全にやる気を失せている。
彼女だけではない。
剛を失った風も同様であり、銀も、樹も、夏凜も再起できていない。
園子は、一応は再起しているが、それでも危うい所がある。
正直、目を離す事が出来ない。
そして、そんな状態の者たちにも、奏は思う所があるからこそ、何も言えない。
「・・・・このまま続けて、希望なんてあるのか・・・?」
佐奈の、諦めにも似た言葉に、誰も答えを出せなかった。
用意された食事に味は感じなかった。
別段、料理がまずいという訳ではない。他の者たちにはちゃんと味がしたのだろうし、おそらく、自分のものだけがそういう訳ではないのだと思う。
だが、美森の味覚は、目の前に置かれた料理を美味しいとは思えず、むしろ、一切の味がしなかった。
「東郷・・・で、良かったかな?」
ふと、声をかけられてみれば、隣には黒髪の長身の女性がいた。
名前はたしか、桐馬雅だっただろうか。
「調子が悪い・・・というのは当たり前だったわね。味がしないとか、そう思ってる?」
なんと鋭い事か。
「え?東郷先輩、味がしないんですか?」
目の前で、樹が驚いたかのように目を丸くしていた。
ただ、彼女の声は、どこか力の無いように思えた。
「ううん。そんな事はないわ。ただ・・・」
そこから先の言葉が出てこない。
どう言い訳しようか、と思っても、どうしても、次の言葉が出てこない。
そんな美森に、雅が肩に手を置く。
「そんなに、無理するものじゃないわ。それじゃあ、いつか倒れちゃうわよ」
「雅さん・・・」
「それに、失ったものがあるのは、何も貴方だけじゃないし、ね」
雅が見る先、そこには、一人もくもくと食事をする優の姿があった。
他にも、数人、暗い雰囲気で食事をする者たちがいて、その空気が伝わって、食堂の雰囲気全体が重い。
「・・・・はあ」
雅が、溜息を吐く。
「なんか、奏ちゃんも他の代表たちと話し合ってるみたいだけど、これからどうなるのかしらね・・・」
それが問題だ。
現状、大きな戦力を失い、しかも士気も低下してきている。
こんな状態で、また敵に攻め入られてしまったら、とてもではないが防ぎきれる自信が無い。
いや、むしろ、翼がいない世界なんて、いっそのこと・・・
(だめよ、そんなのだめ)
一瞬、頭をよぎった考えを振り払い、また改めて思いなおす。
(翼君が守ろうとした世界を、守らなくちゃ・・・!)
そう思うと、箸を持つ手に力が入る。
その様子を、雅は心配そうに見ていた。
(気負い過ぎよ・・・それじゃあいつか倒れるわ)
だが、それを言葉にする前に。
『――――現在、この場にいる全ての勇者、巫女、襲撃者、防人、そして救導者の方々は、広間に集合してください。繰り返します――――』
「集合・・・?」
「こんな時に・・・ね・・・・」
断る理由もないうえに、このまま何もしないでいるよりは良いかもしれない。
そうして、ゴールドタワーに設けられた広場に集合する。
「一体何の用だよ・・・」
信也が毒吐きながらも、何が来るのか待っていた。
やがて、檀上に、一人の少女が、数人の神官を引き連れてやってきた。
大赦の人間は全て神官の服と仮面を被っている。顔を知られないためか、それとも何かしらの掟か。
そして、その中心に立つ黒髪の少女は、無表情に周囲を見渡していた。
「召集に答えて下さり、ありがとうございます。私は上里家現当主、上里ひよりと申します」
ざわり、と場が騒然となる。
「大赦のトップが、あんな少女だというのか・・・?」
優理は僅かばかり動揺する。
しかし、辰巳は当然のように知っている訳であり、しかし春信は知らなかった。
「先に言っておきますが、この場には私の家に付き従う者が控えています。この場での私への攻撃は、全てその者たちによって阻止されるので、注意されるようお願いします」
一部の人間は認識している。この部屋には、数人、いや、数えるのも億劫な程の人間が控えている事を。
(あじな真似をしてくれる・・・)
心の中でそう毒づき、春信はひよりを睨みつけた。
一度、ひよりは周囲を見渡すと、やがて彼らに向かって、言い放つ。
「単刀直入に言いましょう。今日から二週間後に敵本拠地への逆侵攻を実行してもらいます」
ざわり、と衝撃が駆け抜ける。
「な、なにを言っている・・・!?」
「すでに大赦では決定した事です。そして、この二週間を利用して、貴方たちには今より強くなってもらいます」
有無を言わせずに、彼女は続ける。
「訓練の内容はそちらに任せましょう。ですが、全人類の未来は貴方たちの手にかかっています。生半可な鍛え方は許しません」
冷めた視線を彼らに向け、彼女は続ける。
「拒否権はありますが、ここから出られるとは思わないでください。今、この四国にいる全人類の救済の為には、貴方たちの力が必要である事を理解しておいてください」
あまりにも、一方的な言い様に、誰も彼もが黙ってしまう。
「・・・救済、ですか」
ふと、その中で、一言呟く者が一人いた。
「何故、全ての人間を救わないといけないんですか・・・?」
「優・・・?」
「優ちゃん?」
握りしめた拳をわなわなと震わせて、優は、ひよりを睨みつけた。
その表情は、今にも誰かを殺しそうな程の感情を滾らせていた。
「何故、貴方たちの命令に従わないといけない・・・私たちはただ千景さんについていっただけに過ぎない。だからこれから何をしようと私たちの勝手だ。だけど、その行動をお前たちに決められる筋合いはない・・・!何故私はお前たちに従わなくちゃいけない!うんざりだ!お前ら大赦のクズ共に、これからの事を決められて溜まるか!」
烈火のごとく、叫ぶ優。
「『黙』『り』『な』『さ』『い』」
だが、その言葉、唐突に途切れる事になる。
「・・・ッ!?」
優の口が、突然、縫い合わされたかのようにぴったりと閉じる。
それに、無理矢理口をこじ開けようと、手を使ったりしたが、一向に開く気配がない。
まるで、口を開けられる事を許されていないかのように。
「まさか・・・これが強制遂行・・・!?」
園子が、青ざめた様子で、口を押える。
(意思を持った言葉と命令形で言う事で、狙った、自分よりも
たった一つだけ。テストの点数が低い。運動が出来ない。地位が少しでも低い。下手に出る。自分よりも身長が下。活舌が悪い、など、そんな、身体的にも精神的にも、そして、社会的でもたった一つでも相手が自分より劣っていた場合、それが相手がどれほど優秀で立場が上な相手であろうと、必ず言葉として命令を実行させる、あまりにも隙の無い、対人最強の能力。
その強制力は、例え大切な家族がいようとも、それが体である限り、魂では反抗出来ない程にすさまじい。
まるで、操り人形のように操られるのだ。
まず、逃れる事は出来ない。
(なんて、あまりにも、隙が無い弱点・・・!!)
これを克服するには、自分が彼女より何もかもにおいて勝っていなければならないのだが、泣いた回数、歩いた歩数などもカウントされる。例えば今、この場で数歩後ずさったとしよう。その瞬間、自分はその場で凛々しく立っている彼女との対峙に負けたという認識が生まれ、その瞬間からすでに優劣が決まっている。
背中を向ける行為もそうだ。もし、一瞬でも背中を見せた瞬間、逃亡と視線をそらしてしまったというネガティブ方向にとられて、その瞬間においても敗北したとなる。
そんな、一挙手一投足で全ての優劣が決まってしまう状況において、彼女の強制遂行を逃れる術は、無い。
例え、耳をふさいでも、聞いているのは『魂』ではなく、『体』なのだから。
「貴方たちも、ここに立っている以上、
ひよりは、周囲を見渡す。
「二週間後、貴方たちがさらに強くなっている事を願っています。どちらにしろ、強制遂行を使って無理矢理連れていきますが、せいぜい、生き残る努力をしてください」
嘲るでもなく、見下したような、あまりにも冷たい視線を、ひよりは彼らに向ける。
「・・・ねえ」
ふと、風が、声を発した。
「もし、私たちが全員、自殺したらどうする気なの?」
ぞっとするような言葉に、全員が息を呑む。
「お姉ちゃん、何を言って・・・」
「そうですね・・・その時は、『代わり』を用意しますよ」
即答。
「貴方たちと同様の勇者適性者はいくらでもいるのです。彼女たちの中から選定して、新しい勇者を用意しますよ」
抑揚のない声、そして、感情の灯らない顔で、そう告げた。
「そう・・・」
その答えを聞いた風は、そう呟いて、
「やっぱりアンタもクズなのね」
「どうぞ、好きなだけ。感情の捌け口ぐらいにはなってあげますよ」
風の軽蔑するような視線をうけても、ひよりは動じない。
「・・・分かったわ」
「お姉ちゃん・・・」
「ただし、友奈は私の手で―――
「どうぞご自由に。お陰で無駄に作戦を立てる手間が減るというものです」
そして、一度周囲を見渡したひよりは、彼らに言った。
「では、正確な作戦は後程、報告しましょう。ですので今は、修行にいそしんでください。ああ、考えさせる時間は設けさせますよ。一日だけですけどね」
それを最後に、ひよりは、扉の向こうに去っていく。
残ったのは、勇者や防人、襲撃者や救導者のみだった。
「・・・・お姉ちゃん」
「義姉さん・・・」
「・・・ごめんね。少し先に部屋を戻ってるね」
踵を返すと、風はひよりが行った扉とは反対側にある扉から出ていく。
「フーミン先輩・・・」
「園子、この場は任せる」
「え?
そんな風を見送った園子の肩に手をおいてそう囁いた辰巳は、追いかけるように風が出ていった扉から出ていく。
そして、辰巳は、扉から左に数十歩進んだ先で肩を抑えてうずくまる風の姿を見つけた。
「ハア・・・ハア・・・」
「慣れない言葉を、あまり言うものじゃない」
そんな風の背中に、そっと触れて、辰巳はそうささやく。
「その時は大丈夫でも、後でその言葉の重みが圧し掛かってくる。そうやって、自分を騙し続けていると、いずれ潰れるぞ」
「う・・・あ・・・・」
「仲間には吐き出せないだろう。感情の捌け口ぐらいにはなってやる」
振り向いた風の顔は、あまりにも酷いものだった。まるで、この世の終わりとでもいうような、そんな表情だった。
「・・・お前の恋人のようには、出来ないが・・・」
「・・・ッ!!」
風は、まるで神にでも縋りつく想いで辰巳の胸に飛び込んだ。
「・・・思いっきり泣け。それは悪い事じゃない。むしろ、溜め込む方が悪い事だ」
「うう・・・うぅぅぅぁぁぁぁあああぁぁああああああ!!!」
まるで、今までため込んでいた全てを吐き出すかのように、風は泣き叫んだ。
剛の事も、友奈の事も、何もかも全て、溜め込んできたもの全てを吐き出すかのように、風は、言葉にならない悲鳴を上げた。
懺悔を、自分のありったけを、辰巳にぶつけた。
そして、その泣き声は、広間にも聞こえていた。
あまりにも大きい風の叫び声は、広間の静寂を、確かに破っていたから。
「・・・それで、これをBGMに悪いが、どうする?」
春信の問いかけに、真っ先に答えたのは、明日香だった。
「もちろんやりますよ。確かに、悲しい事はあったけど・・・でも、だからといって諦めるなんて事は俺はしねえ。諦めたら、そこで終了だからな」
そう言った後に、明日香は自分の仲間たちの方を見た。
「お前たちはどうしたい?こういった手前、なんだけど、俺は皆と一緒にやりてえ。正直、俺一人じゃ何もできないからさ」
その言葉に、横から芽吹がチョップをかます。
「おぶぅ!?な、なにするんですかぁあああ!?」
「そんなの今更よ。私たちは一蓮托生。行くときも逃げる時も、皆一緒でないと」
「うむ。生きるも一緒、死ぬときも一緒。我々は、そう言った絆で結ばれているのだからな」
「当然ですわ。ですが将真さん。一つ訂正するべき所があるのではなくて?」
「ん・・・皆・・・生きる」
「やれやれ。ここで反対したら一人駄々こねているようで嫌だからね。僕もやるよ」
「ええー、なんか逃げ道塞がれてきてる・・・」
「俺は初めからやるつもりだ。やられっぱなしというのも性分じゃない」
他の者たちも、同じようだ。
「という訳で、私たちはやるわよ。他の方々はどうなのかしら?」
挑戦的な笑みを見せつける芽吹。
「もとより我々に、拒否権は無い。当然、参加させてもらおう」
佐奈は、そう答える。
「まあ、正直言うと死にたくないしね」
「頑張る・・・!」
「もっと皆と生きていたいからねー!」
「私たちが犯した罪を、償わないといけないから」
襲撃者たちも、同様のようだ。
「勇者と、救導者はどうするつもりだ?」
その問いに、両者は一瞬、たじろぐ。
「・・・正直、言うと」
だが、やがて、美森が口を開いて、話し始める。
「翼君がいない世界なんて、滅んでしまえなんて思ってた。だけど、私は翼君が守ろうとしたものを、壊したくない。それに、風先輩は、友奈ちゃんを殺すって言ってたけど、それを一人で背負い込ませはしないわ。勇者部の不祥事は、勇者部で解決する。友奈ちゃんの事は、私たちで解決するわ」
美森は、真っ直ぐな眼差しで顔をあげる。
「私もやるわ」
次の瞬間、その頭を銀に引っ叩かれる。
「あうち!?」
「お前も抱え込み過ぎだっての。お前の場合は翼を失ったストレスで味覚なくしてんだろうが」
「!? な、何故それを・・・!?」
「分からないと思ったか、どれほどお前の親友として過ごしてきたとおもってんだよ」
「つばくんほどじゃないけど、わっしーの変化ぐらい、簡単にわかるよ」
もう反対側からも、園子がそう話しかける。
「と、いう訳で、アタシら大橋組も参戦させてもらうぜ」
「ゆーゆの事もどうにかしなくちゃいけないからね~」
銀と園子も、賛成の声をあげる。
「わ、私も!」
そして、樹も。
「一緒に行きます。怖いですけど、お姉ちゃんを放っておけないし、それに、私も勇者部の一員です!翼先輩や、剛先輩・・・ううん、お
「やれやれ、アンタたち。勝手に話を進めんなっての」
その後ろから、夏凜が頭を掻きながら進み出る。
「でもま、ここで断ったら完成型勇者の名が廃るわ。当然私も参加よ。兄貴もそうでしょ?」
そう言って、夏凜は壁にもたれかかっている春信に呼びかける。
「もとより俺は辰巳師匠の命令で動いていた身・・・だが、それを抜きにしても、あのジガという男をどうにかしなければならないからな」
そう言って、壁から離れ、夏凜の隣に立つ。
「俺も参加させてもらおう。大人もいた方がいいだろう」
「それもそうだな」
扉から、声がした。
見れば、そこには、風を背負った辰巳が立っていた。
「
「えーっと、背中にいるのは義姉さん・・・ですよね?」
「ああ、泣き疲れて寝てしまってな」
「早ッ!?」
「お姉ちゃん、エネルギー消費速いから・・・」
あの大食いもそれなら納得がいくというものだろう。ありったけを吐き出したのか、憑き物が落ちたかのような寝顔だった。
「この三百年、俺はずっと生き長らえてきた。もう終わりにしたいと思っていた所だったが・・・俺の方も乗り込む理由が出来た。だから俺も行こう」
辰巳も、しっかと答える。
「お前たちはどうする?救導者」
気付けば、残るは救導者のみだった。
その様子に、完全に出遅れた様子で、奏はたじろいでいた。
「えっと・・・・私たちは・・・」
本来、救導者は他の三組とは違い、守るのは四国そのものではなく、高知の一部にある絡久良市だ。
だから、こんな大事に首を突っ込む理由は無い。
「当然、俺たちも参加だ」
「え!?」
しかし、信也は迷う事無く、前に出た。
「千景が世話になった所だ。それに、千景は自分の命を捧げてでも守ろうとしたんだ。だったら俺たちもアイツの意思を継ぐしかねえだろ」
「ま、それもそうだよね」
後ろから、信也の肩に手を置き、白露も同意する。
「千景が全力で守ろうとしたものを、私たちも守らなくちゃいけないもんね」
「というか、もし私たちが参加しなかったせいで世界滅んだら、私の教師になるっていう夢もなくなっちゃうからね」
「孤児院にも小うるさいガキ共がいるんだ。そこの職員としては、守らなくちゃいけないからね」
「うん。頑、張ら、ない、と」
「・・・ふん」
「皆・・・・」
信也、白露、雅、真武郎、冬樹、海路たちの決断に、奏は呆気にとられる。
「あんたも、そうだろ?」
信也の問いかけに、やがて奏も諦めたかのように溜息をつく。
「分かったわ・・・巫女である私は、戦いに参加できないけど・・・それでも、精一杯応援させてもらうわ」
そう、奏も呟いて、同意の意思を伝えようとする。
「・・・どうしてですか」
しかし、反発する者が、一人いた。
「どうして、そんな、簡単に戦うなんて言えるんですか・・・!!」
「優・・・」
まるで、裏切り者でも見るかのように、優は全員を睨みつけた。
「こんな、まともな作戦も話されていない中で、なんで皆戦うなんていえるんですか・・・!こんな、こんなの・・・死にに行くようなものじゃないですか!!」
敵の本拠地への突入。それは、失敗すれば死もありえる状況だ。
過去にも、自分たちの戦いにおいて死者は出ている。
それなのに、何故、死などしらないとでもいうように、戦うなんていえるのだろうか。
「翼さんや剛さんのように、惨たらしく死ぬかもしれないんですよ・・・!!それなのに・・・どうして・・・・!!」
結局の所、優は、もう仲間の誰かが死ぬ所を見たくないのだ。
救導者であるのなら、相手は殺さずに魔器だけ破壊する事が出来る。
だが、味方は死ぬ。
相手の攻撃は、全てが命に直結し得るものばかりだ。だから、いつか味方が死んでしまうかもしれない。
それが、優は堪らなく怖いのだ。
あんな、死を目の前にしたから。
駄々をこねる子供のように、少女は泣く。
「優・・・」
「優ちゃん・・・」
「馬鹿です・・・みんな・・・馬鹿ですよ・・・・」
泣きじゃくる優。
千景が死んでしまった。それだけでも、彼女にとっては相当ショックな事のはずなのに、これ以上、誰かが死ぬ事なんて、見たくないのだ。
それほどまでに、優は、誰かの死を恐れている。
だが、そんな優に、歩み寄る者がいた。
「確かに、私たちは馬鹿だよ」
園子だ。
「勇者になるって言った時から、ずっと、私たちは馬鹿なままだよ。誰かが死ぬかもしれない。もう会えなくなるかもしれない。そんな事を一切考えなかった馬鹿だよ。だけど、だからこそ、私たちは死なないよう努力するんだよ。もう、誰も死なせないように、死なないように、精一杯頑張るんだよ」
あやすように、泣きじゃくる優の頭を優しく撫でる園子。
「私のご先祖様はね、守れなかったんだ。親友も、友達も、誰も。ずっと守られてばかりだった。私だってそう。つばくんやごーさんを守れなかった。だけど、もう誰も失いたくない。だから、私たちはやるんだよ。まだ、守るべきものがあるから。貴方の手の中には、あと、何が残ってる?」
まだ、涙に濡れる瞳を園子に向ける優は、そっとその視線を自分の開かれた手に向ける。
そうして、また手を震わせて、涙を溢れさせる。
「・・・なかまが・・・います・・・!」
「そう。まだ、貴方には仲間はいる。ふーくんはもういないけど、それでも貴方を支えてくれる仲間はいるんだよ」
園子は、そっと優の前に手を差し出す。
「一緒に頑張ろう。今度は、何も失わないように」
「はい・・・はい・・・・!!」
涙を流しながら、そう返事をする優。
これで、全会一致。彼らは、これより、決戦の準備に入る――――
そして、その一方で。
「・・・ほら、やはり彼らはやると言ったでしょう?」
誰に言うでもなく、そう一人呟くひより。
「どちらにしろ、それ以外に選択肢は残されていない訳ですし、彼らにはこうするほかありません。下手な事を言わない方が、彼らは動かしやすいんですよ」
うっすらと笑みを浮かべるひよりの表情は、まるで操り人形で遊ぶ子供のようだった。
「さて、彼らが動き出す以上は私たちもうかうかしていられませんね。訓練によって、彼らはこちらから意識がそれるわけです」
全ては、
翼と剛の死も、彼らが立ち上がるのも、千景の死も、何もかもが思い通りに事が運んだ。
果たして相手はどう思っているだろうか。
愚かだと思うだろうか?豚以下のカスに見えるだろうか?もはやどうでも良い。
今、重要なのは、敵にいかにして勝つか。どれほど手札をそろえる事が出来るかだ。
「至急、生贄の選抜を行ってください。ええ、出来るだけ上等なものが欲しい所ですが、とにかく数を揃えてください。儀式に必要な分をお願いします」
廊下に出来る影に向かって、ひよりは何かしらの指示を与える。
「今のうちに進めましょうか――――」
どれほどの犠牲が出ようとも、それが最小の犠牲であるなら、斬り捨てて見せよう。
ただの人間が出来ない事を、成し遂げて見せよう。
誰にも、異議を唱える事は許さない。これは、我々の、上里の意思なのだから。
故に我等は外道を進もう。
「――――六道翼と三ノ輪剛の神格化を」
まるで、勇者たちの努力を嘲笑うかのように、ひよりは静寂にむかってくっくっくと嗤った。
次回『錯綜する想い』
期限の続く限り。