不道千景は勇者である 作:幻在
不道千景、六道翼、三ノ輪剛が死に、そして結城友奈が敵に寝返って三日。
防人部隊の拠点、ゴールドタワーの訓練場にて。
「さて、昨日打ち合わせた通り、今日から二週間で俺たちの大幅な特訓を行う事になった」
大勢の集団を目の前にして、落ち着いた様子で辰巳は木刀を片手に話していた。
「この人数では、流石に俺や春信では手が回らない。だから、防人部隊と同様に、勇者たちにも六道家より指導してもらう事になった」
その辰巳の言葉と共に、扉から人が何十人も出てくる。
「犬吠埼風は俺から直々に指導する。そして春信は夏凜と芽吹、そして園子を指導しろ。それ以外は彼らから選んでもらえ。いいな」
木刀を、肩に担ぐ。
「時間が惜しい。始めるぞ」
今回の訓練において、重要視される事は、敵幹部の撃滅。それに対する、『個』の進化だ。
相手は、あまりにも強大だ。故に、連携で倒そうにもそれを崩されてやられれば元も子もない。ならば、個々の力量を引き上げるしかない。
故に、ずっと大赦の闇を担ってきた六道家の実力者を選定し、それらを指導役に指名したのだ。
幸い、六道家はありとあらゆる武術に精通している。この三百年の研鑚は伊達ではないのだ。基本的な実力だけでみるなら、ここにいる勇者や救導者、襲撃者、防人なんかよりずっと上だ。
そして、もうなりふり構っていられない。使えるものはなんでも使うべきなのだ。
「本当に大丈夫なんですよね?」
「ああ。上里家の息は掛かっているが、実力だけは本物だ。それに、彼らが翼の事において、何も思っていない訳じゃないからな」
ゴールドタワー・・・・ではなく、そこから遠い場所にある山奥にて、辰巳と風はいた。
そこは、かつて辰巳が園子を徹底的に鍛え上げる為に使った場所であり、そこには、当時、園子が打ち込みにつかってへこんでいる木などが多く散乱している。
「うっひゃぁ・・・」
「そこにある木は、園子が小学三年の時に折ったものだ」
「アイツ、呑気な振りしてこんな怪力隠し持ってたのね・・・」
「そうだ」
辰巳が木刀を抜く。
「時間が無い。とにかく俺の全てをお前の体に叩き込む」
「ちなみに、園子は貴方の全てを覚えるのに、どれくらいかかったんですか?」
「俺の技を全て体得するまで、おおよそ一年といった所だ。そして、あそこまでの実力を身に着けたのに、三年はかかった。合計、四年だ」
「四年で掛かったものを、二週間でですか・・・・」
「園子の場合は、まだ幼かったからな。体を壊さぬようにプランを考えていた・・・だが、お前は違う」
風の体は、幼少期の園子よりもずっと丈夫だ。それを差し引いても、常日頃、樹の為に体を張っていたがゆえに、体を出来上がっているのだ。
「そこからさらに叩いて伸ばしていく。
空気が、変わる。
それは、かつて園子を鍛えた時のものとは全く別の雰囲気だった。
「ええ、やってやりますよ・・・」
風も風で、我流で構える。
「貴方の全てを覚えなきゃ、私は、アイツに勝てない・・・行きますよ・・・・
次の瞬間、山奥に巨大な粉塵が舞い上がった。
一方のゴールドタワーでは。
訓練場では、六道家のそれぞれの担当が、勇者たちをみっちりと扱いていた。
音を上げるものはいなくても、あまりの激しさに、早急に足ががくがくと笑いだす者が続出していた。
その度に、その者には休憩が言い渡され、その間に別のものが地獄を見ていた。
その様子を、佐奈は懐かしそうに見ていた。
(この空気も久しぶりだな・・・)
この熱気、『表』とは違い、『裏』で修行する者は、常日頃から生き残るために、怪我をする恐れがある程の激しさで訓練に打ち込む。
それで怪我をすれば、その程度。その瞬間、死んでしまうかもしれない。それを、怪我をするたびに怒鳴り散らされるようにみっちりと恐怖を植え付けられるように言われ、その度に怪我をしないように、次こそは次こそはと練習を積み重ねる。
その中で、佐奈は、まだ幼いながらも拳を振るう翼の姿を見ていた。
いつか、六道家の当主として、恥じないような立派な戦士へと鍛え上げる為の訓練を、いつもいつも、汗を滝のように流しながら頑張っていた。
だが、その翼は、もういない。
「佐奈さん・・・?」
ふと、背後から声をかけられる。幸奈だ。
「どうかしたんですか?」
「ああ、いや・・・少し、懐かしいと感じていてな・・・・」
ふと、自分の手を見た。かつて、この手で同胞のほとんどを殺し、逃走したあの夜。かつて想いを寄せていた人は当主の座を降りて、まだ幼かった翼が次期当主へと選ばれてしまった。
人殺しというだけでなく、その相手が同胞であり、その所為で、想い人の人生を狂わせてしまった。
果たして自分に、彼らの指導を受ける資格はあるのだろうか・・・・。
「ずいぶんと腑抜けたようじゃないの、佐奈」
ふと、そんな声が聞こえて、そちらに視線を向ければ、茶髪の佐奈と同年代のような少女が立っていた。
「瑠香・・・」
『
かつては、佐奈のライバル的存在として、切磋琢磨し合っていたのだが。
「私の兄さんを殺しておいて、こうもぬけぬけと私の前に姿を現せたものね・・・・」
「・・・・」
その、刃物のような言葉に、佐奈は何も言えない。
「佐奈さん・・・・」
俯く佐奈を心配する幸奈。だが、次の瞬間、
「ふんッ!」
「ぐぅ!?」
瑠香の強烈な回し蹴りが佐奈の顔面に炸裂する。そのまま佐奈は後ろに向かって吹っ飛ぶ。
「佐奈さん!?」
「っ・・・大丈夫だ」
否、靴底をすり減らしながら後退しており、どうにかぎりぎりという所で腕でガードしたようだ。
しかし、瑠香は攻撃の手を緩めない。その狙い全てが、人体急所。
それを、佐奈は受け流す。
「皆を殺した気分はどうだった?楽しかった?血をまき散らし、もう二度と会えなくした時、どんな気持ちだった?私の兄さん殺してざまあみろって思った?ねえ、どうなのよ!!」
「くっ・・・ぅう・・・・」
重い一撃が、佐奈に襲い掛かる。
鋭さもさることながら、その一撃一撃が凄まじい重さを誇り、打撃を受けた場所に、衝撃を残す。
(まずい・・・・佐奈さんの動きが重い・・・・)
その上、佐奈自身も動きが鈍い。
それに、今にも、泣きそうだ。
膝横に、ローキックが直撃し、膝をつく佐奈。そこへ顔面に向かって飛び膝蹴りが炸裂する。
「があッ!?」
防ぎきれなかったのか、吹き飛ばされる佐奈。
「くぅあ・・・」
「佐奈さん!!」
鼻を抑えて悶える佐奈。
だが、そんな佐奈の上に覆いかぶさり、瑠香は見下した。
「ねえ、どうなの?」
「く・・・ぁ・・・」
「皆の大切なものを奪って、期待を裏切って、どんな気分だったの?」
糾弾の言葉。それが、佐奈に深く突き刺さる。
「ねえ・・・答えなさいよ!」
胸倉をつかんで、顔を近づける。佐奈は、腕で顔を隠したまま。
だが、やがて――――
「・・・・最悪だ」
僅かに漏れた泣き声と共に、掠れるような声で、そう呟いた。
次の瞬間、瑠香の拳が、佐奈に叩きつけられた。
木の板が割れるような音。そして――――
「・・・そう思うなら・・・もう二度と、私たちの前に出てくるな・・・・!!」
拳は、佐奈の顔のすぐ横に叩きつけられていた。
その言葉を、最後に、瑠香は立ち上がって佐奈に踵を返していく。
「今回は、世界の終わりとかそんな話が持ち上がってるから教えるけど、これが終わったら、もう六道とは縁を切りなさい・・・」
そう告げると、背後に控えていたであろう男に、「あと、よろしく」とだけ言って、さっさとどこかに行ってしまう。
そんな、瑠香の後ろ姿を見届ける幸奈の耳に、騒がしい訓練の音に混じる僅かな泣き声が聞こえた。
それは、佐奈の泣き声だった。
今度こそ、何もかもを失ったかのような、そんな、絶望の淵で漏らすような、そんな泣き声。
床の上で情けなく泣くその姿が、幸奈には、あまりにも、哀れに見えた。
ほぼ八連撃の斬撃が、八方から襲い掛かる。
「う・・・っぁあ!!」
それを園子は研ぎ澄まされた感覚で全てを凌ぐ。
「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」
両腕に伝わる、重い連撃。
それが腕を伝い、体に染み込み、やがて足に来て、がくがくと笑いだす。
「く・・・ぅう・・・」
崩れそうになった足を槍でどうにか支える園子。
都合、二十四撃。
先ほどの技、『八艘飛び』なる技を、今までで三回、園子に向かって放っている。
園子は脂汗をにじませて、こちらを見据える。
視線を外せば、夏凜と芽吹が不完全な『鬼気・極限羅刹』を発動させては打ち合っている。
二人とも、凄まじい程の勢いで剣を打ち合っているので、常人では手が霞んで見えるほどだろう。
そして、園子に視線を戻し、春信は改めて実感する。
(貴方の怪訝通りでしたよ・・・・園子は・・・・)
春信は、どうにか立ち上がろうとする園子の姿を見た。その視線は、何かを憐れむかのように細かった。
園子が、槍を構える。
「・・・・園子」
「ハア・・・ハア・・・何?春信さん」
「もし、この二週間の間で俺に攻撃を当てる事が出来なければ、お前はここに残れ」
そうして、一日目が終わった。
山奥にて。
「え、園子を置いてく?」
「このまま春信に一撃を入れられなかったらな」
山でとってきた魚を竹串に差して、木で焚いた火で焼いたものを頬張りながら、向かい側に座る辰巳の言葉に、風はそう驚く。
「お前の実力は、今の園子を遥かに凌ぐほどの伸び代をもっている。この二週間をもってすれば、お前は確実に園子を超えられるだろう」
「園子を・・・超える・・・」
実感が湧かないのか、自分の手を見ながら、そう呟く。
「実感は、今は感じなくていい。ただ、健康には気を付けろ。体調管理を怠ればその瞬間、お前は戦線から外れる」
「それもそうですね・・・・はむ・・・」
魚を頬張る。
「しっかし、この二週間で一気に野生児になりそうね・・・」
「もし生活が困窮して家を売り払ってしまった時は役に立つ知識だ。覚えておいて損はないぞ」
「そうね。ありがとう」
ふと、風は思う。
目の前にいる十七歳ぐらいの青年は、元はかなりの強面の五十代の見た目で、そして本当は三百歳の長寿なおじいちゃんだというが、とてもそうとは思えない。
「俺の年齢について気になるか?」
「なんでわかったし・・・」
「どっちかっていうと、体質の所為か・・・」
「体質・・・?」
「銀の使っている端末が、元は俺のものだという事は知っているか?」
「一応は」
「じゃあ、俺の体質が竜そのものだという話は?」
それには、風は首を横に振った。
それを見て、辰巳は語りだした。
自分の出生、三百年前の事、初代たちの事、千景の先祖である郡千景の事、そして、全ての始まりと今に至るまでの全てを。
そして、失ったと思っていたものが、突然目の前に現れた事を。
「・・・・」
「だから、俺は、ひなたを取り戻す。そのために、俺はここにいるんだ」
握った拳にさらに力を入れて、辰巳は、そう言った。
その姿に、風はしばし呆気に取られて、一旦、その手に持つ魚を置くと、そっと握りしめられた辰巳の手を覆った。
「!」
「あまり気を張り過ぎると、いざって時に失敗しますよ」
まるで、母親のように、優しい声で辰巳に囁く。
「それに、今のひなたさんは貴方の事を忘れている。ですが、きっと貴方が心から全力でぶつかっていけば、きっと思い出してくれますよ」
「・・・・そうだな」
フッと笑う辰巳。
「・・・・お前は随分と母に似ている」
「え?貴方の?」
「ああ、もうずいぶんと昔の事だから、顔も思い出せないが、お前のように、とても温かい人だという事は覚えている」
懐かしそうに、しかし悲しそうに語る辰巳。だが、やがて何かを振り払うかのように、風の方を見た。
「今日はそろそろ寝ろ。明日も早いうえに厳しくするからな」
「ええ。どんと来い!」
「ふっ、しっかりついてこい。俺の全てをお前に叩き込んでやる」
仮初の星空が、酷くすさんだ心に突き刺さる。
あまりの衝撃の連続に、味覚が麻痺してしまった今では、食事はもはや、ただの栄養補給の一環に成り下がっている。
それが、堪らなく虚しく、ぽっかりと空いてしまった胸の穴を、さらに広げているような気がした。
「翼君・・・」
失ってしまった、大切な人。自分が弱かったから、守れなかった、大事な人。
隣に立つ。ただそれだけで良かった。だけど、自分は、彼の隣にすら立てていなかった。
(彼の優しさに、甘えていただけだ・・・・)
そう思うと、もっと自分がみじめに思えて仕方がない。
(私が、あの時・・・)
「てい」
「あう!?」
突如として後頭部に衝撃が走る。
「くぅ・・・ぎ、銀!?」
いつの間にか、銀が後ろに立っていた。
「何辛気臭い顔になってるんだよ」
「あ、いや、その・・・・」
「・・・・翼の事か?」
悲しそうに、そう聞いてくる銀。
「・・・・・うん」
「そっか・・・須美って、いつもネガティブな方向に物事を考えるよな。あれは自分の所為だ。こうすれば良かった。挙句の果てにはどうせ自分なんて。お前の性根はネガティブしかないのか?」
「うう・・・」
図星なために何も言い返せない。事実、美森は他人が不幸になると必ず自分の所為だと自分自身を責め立てる癖がある。
実際、自分で壁を壊した時だって、まるで地獄からの呼び声のような自責の念を作り出して暴走したのだ。
否定するという方が無理だ。
「あんまり、気負い過ぎんなよ。ほら、この銀様に全部ぶちまけちまいな」
銀のその言葉が、妙に胸に刺さる。
しばし、迷った後に、美森は、口を開いた。
「・・・どうして、友奈ちゃんは向こうに行っちゃったんだろうね」
「そうだな。まあ、一番は千景が死んじまったって事だろうけど・・・」
「その千景君が守ろうとした世界を、壊そうなんて、私はどうしても、理解は出来ても納得は出来ない。仮令、千景君がいない世界であっても、この世界を、千景君は守ろうとしたんだよ?なのに、どうして、壊そうとすることが出来るのかな・・・・」
「・・・」
「どうして・・・・翼君を、殺したのかな・・・」
美森の、拳に力が入る。
「・・・・憎い」
その声には、怨嗟が込められていた。
言葉にすることで、初めて自覚した感情が、美森の胸からせり上がり、口から吐き出される。
「友奈ちゃんが・・・大赦なんかよりも・・・・何かよりも・・・ずっとずっと・・・憎い・・・ッ!!!!」
親友と思っていた人の裏切り。自分を救ってくれた人の嘲笑。いつでも自分を支えてくれた人の罵倒。
何もかもを壊された。友情も、友達も、恋人も、信じていた者によって壊された。何もかも、奪われた。
だから、堪らなく、憎いのだ。
「翼君にした仕打ちよりももっと惨いやり方で殺してりたい・・・!!今生きている事が嫌になるくらいの苦痛を与えてやりたい・・・!!この手で、その命に止めを刺したい・・・・!!アイツの、全てを、何もかも壊してやりたい・・・・!!!・・・・なのに・・・・」
美森の膝が、崩れる。
「・・・・憎み切れない・・・ッ!!!」
本当に、悔しそうに、美森は泣いていた。
「まだ、友奈ちゃんを信じたいって思ってる・・・きっと何かの間違いだって、そう信じたい・・・現実から目を逸らしたい私がいる・・・もう、何が正しいのかが分からない・・・・これから、どうすればいいのか分からない・・・・・分からないの・・・」
嗚咽が、夜の闇に響いていく。
残酷なまでに静かな空間に、美森の泣き声だけが響く。
そんな美森の、小さくなっていく背中を、そっと抱きしめた。
「そっか・・・それは、辛かったな・・・」
「う・・・うぅぅう・・・・!!!」
「アタシも、翼を失って辛かった・・・だけど、須美は、アタシなんかより、ずっとずっと辛い思いをしてたんだな・・・」
結城友奈は、友達だ。だから、あの裏切りには、美森と同じように憎しみを抱いていた。
だけど、美森の場合は、記憶を失って不安だった時から、ずっとずっと助けてもらっていた。だから、そんな、恩人とも呼べる人間を憎もうにも、憎むことができないのだ。
憎みたいのに憎めない。そんな複雑な感情を、美森は、自身が思っている以上に巡らせているのだ。
おそらく、その気持ちに整理がつかないから、味覚が麻痺しているのだろう。
「銀・・・」
「ああ、今は、思いっきり泣いていいんだぞ・・・・」
「銀・・・銀・・・ぎぃぃぃん・・・・・!!!!」
銀の顔を見上げる美森の顔は、何かに縋りたい程に、今にも、壊れてしまいそうなほど、弱々しそうだった。
だから、その思いを受け止めてあげる事にした。
美森の、辛い泣き声が仮初の夜空にこだまする。
「・・・・あれ?そういえば園子さんは?」
食堂にて、樹が園子がいない事に気付く。
「いないのか?」
その質問に明日香が聞き返すように答えた。
「ええ・・・」
「確かに、園子さんのお姿が見えませんわね・・・」
夕海子も、園子の不在に気付く。
今、この場、というよりは、席にいるのは、樹、明日香、夕海子、信也、真武郎の五人だ。
「東郷と三ノ輪は先に飯食って外に行ってたが・・・」
「何かあったのか?」
そこで、夏凜と芽吹が信也の後ろをおぼんをもって通る。
「あ、三好に楠。乃木がどこにいるか知らねえか?」
「え、園子・・・?」
すると夏凜と芽吹の顔が曇る。
その事に首を傾げる一同。
夏凜と芽吹は、一度顔を見合わせると、やがて彼らの座る机につく。
「・・・・今は、探さない方がいいかもしれないわ」
「え・・・・」
夏凜の、神妙なその言葉に、芽吹を除いた全員が唖然とする。
「かなり荒れてるわ。今近付けば、槍の餌食になるかもしれないわね」
「何があったんだあの人に・・・」
「・・・・今回の作戦に関わる事よ」
夏凜の言葉は、あまりにも重かった。
場所は変わって、そこは訓練場の一角。
何かが落ちる音が静かな訓練場に響き、その根源には、四つん這いになって息をあげている園子の姿があった。その傍らには、木製の槍。
汗を垂れ流し、今にも泣きそうな表情で、自分の手を見つめていた。
「ハア・・・ハア・・・ハア・・・嘘だ・・・」
信じたくない、信じられない。
でも、
「やだ・・・そんなの・・・やだぁ・・・・」
一人、絶望に打ちひしがれる少女が、一人いた。
次回『園子の強さ』