不道千景は勇者である   作:幻在

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新戦力二人

前回のバーテックスの襲撃から、一ヶ月半。

 

重傷を負った友奈と、脇腹に浅くない傷を負った千景は、すぐさま入院する事となった。

比較的、傷の浅い千景はすぐに治った。

友奈の傷も、見た目ほど酷くなく、わずか半月で完治した程だ。

ただ、その時、友奈と千景の携帯端末は大赦によって回収されたのだが・・・・

 

 

 

「・・・・なんで俺のだけまだ返ってこないんだよ・・・・・」

不満を吐き出す千景。

「大丈夫だよきっと。次の襲撃までは戻ってくるよ」

「アタシとしては、アンタの状態が心配だワ」

「あう!?」

満面の笑みを浮かべる友奈の額を小突く風。

「そうよ友奈ちゃん。次またあんな目にあったら私・・・・」

「大丈夫だよ東郷さん!もうあんな事にはならないから安心して」

「には・・・ねえ・・・」

千景は、友奈をジト目で見る。

 

あれから友奈の様子がおかしい。

 

自分たちへの対応は問題は無い。

ちゃんと名前も覚えているし、知っている趣味も言い当てられる。

部活の事についても何も問題が無い。

 

ならこの違和感はなんだ?

 

千景は、そんな違和感の中で、友奈を注意深く観察していた。

「おい、これはここでいいのか?」

「あ、はい、それはそこでお願いします」

変化があるとすればもう二つ。

神樹の勇者として活動するという事で、剛も勇者部に入った。

その為、力仕事全般を任されている。

「よっと。こんなもんか」

「ありがとうね剛」

風が彼を褒める。

「あ、友奈先輩、その精霊は・・・・」

「ああ。携帯が返ってきた時に、新しく増えた子だよ。『火車』って言うんだよ」

もう一つは、友奈の精霊が増えた事だ。

猫の様で、毛並みは赤い。『火車』の名の通り、火に関するのだろう。

「・・・・・」

千景は思う。

襲撃してきた彼らの事を。

次にバーテックスが来た時、彼らはおそらく、またやってくるだろう。

バーテックスは全部で十二体。うち四体は倒した。

あとは八体。

この全部を倒せば、おそらく、彼らとの戦闘はなくなる筈だ。

戦う必要はなくなる。

友奈が傷付く事は、なくなる。

(だったら早く終わらせねえとな・・・・)

もっとも、今端末を持たない千景ではどうにもならないが。

 

ただ気になる事は、あの、黒い装束を着た少女の事だ。

 

「あいつ・・・・なんで・・・」

そう呟き、千景は昔の事を思い出していた。

 

 

 

彼女の名前は『稲成(いなり) 幸奈(ゆきな)』。

かつて、千景がいた孤児院にいた、同年代の女子の一人。

千景は、その施設で、根暗な性格が理由でいじめられていた。

施設を出る理由も、それが原因だ。

その中で、唯一千景に進んで接してくれたのが彼女だ。

正直、トイレに閉じこもる事無く生活できたのは、彼女のお陰だと言える。

ただ、そんな優しい筈の彼女が、何故、神樹の世界を壊すといっている輩どもと一緒に行動しているのか。

千景にはわからなかった。

 

 

 

 

 

と、千景が修理の為にドライバーを持ち上げた所で、滑り落としてしまった所で。

 

 

 

 

 

時が止まった。

 

 

 

 

『―――――ッ!?』

全員の表情が凍り付く。

「来た・・・!」

「ど、どうしよう、千景君の端末はまだ・・・」

「大丈夫!」

美森の言葉を、友奈がさえぎる。

「大丈夫、私たちが守ればいいよ!それならきっと大丈夫!」

と、友奈は()()()()()()()()笑みでそう答える。

その言葉に、誰も言い返せない。

だが、そんな沈黙を破るかのように風が口を開く。

「考えてもしょうがないわ。とにかく、戦えない千景は東郷と一緒に行動して。いいわね」

「分かりました」

風の提案を受け入れた直後、世界が光に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来た!」

友奈がそう呟く。

その先には、なんだか舌ベロをだらしなく垂らしているような巨大な怪物がやってきていた。

「あれが五体目・・・・」

「山羊型・・・・山羊座(カプリコーン)か」

美森が狙撃銃(ライフル)のスコープを覗き込み、千景は美森の端末を借りてその怪物の名を呟く。

「どこがヤギなんだよアレが・・・・」

「はいはいそこは突っ込まないでね剛。言ってもしょうがないから」

「一ヶ月ぶりだから、上手くやれるかな・・・・」

「えーっと、ここを、こう・・・・」

「おお!」

友奈に自分の端末の画面を見せる樹。

「エェーイ!なせば大抵なんとかなる!しのごの言わず!どうにかするわよ!」

「は、はい!」

「風先輩!」

そこで千景が叫ぶ。

「どうしたの!?」

「東郷より、我、敵ヲ視認!以前の奴らを思われます!」

「以前って・・・まさか・・・!」

風の顔が強張る。

「おい!数はどうなんだ!?」

剛が叫ぶ。

「東郷、数は?」

「・・・・五」

美森の声が僅かに震える。

「・・・前の剣の人はいないみたいだけど・・・・・」

「・・・・武器無しがいるのか?」

「・・・ええ」

ギリッ、と美森が歯を食いしばる。

おそらく、幸奈だろう。

「怒るのは分かるが、今はバーテックスだ。配置を教えてくれ」

「ええ・・・バーテックスを守るように取り囲んでるわ。あの包囲網を突破しない限りは・・・倒すどころか封印も出来ないかもしれない」

「そうか・・・・風先輩」

『ええ、聞いたわ。私と剛で突っ込む。バックアップよろしく』

「分かりました」

風の作戦を承諾する美森。

この場合、千景は観測手になる。

幸い、美森の端末のカメラ機能で視界を拡大。それによって、指示を出す算段だ。

 

 

 

一方で、こちらは幸奈たちの方で。

「早く来ないかな~」

小柄な少女、『針目(はりめ)美紀(みき)』は樹海の足場に腰をかけ、パタパタと足を振っていた。

「油断しないで美紀。翔琉さんが怪我で動けないんだから、ちゃんと周囲を警戒して」

「んー、でも怪我したのは翔琉君の自業自得でしょ?」

「それでも、よ。貴方も自業自得で怪我しない事ね」

「はーい」

軽々と飛び降り、カプリコーン・バーテックスの周囲を警備しに行く。

「・・・・阿室(あむろ)さん、敵は見えましたか?」

「ああ、真っすぐこっちに。十二時の方向。ほぼ真正面だ」

弓に光矢をつがえながら、『阿室(あむろ) 佐奈(さな)』は答える。

「敵の狙撃手に気をつけて下さい。かなりの使い手です」

「承知している。ただ、あの鎌の男はいないようだ。何かあったのか・・・?」

「・・・・」

それを聞いた幸奈の心が、少し安心感を覚えた。

「・・そうですか」

「終わらせる・・・・邪魔させない・・・・アイツの為に・・・・壊す・・・・この世界・・・・」

「・・・真斗、少し落ち着いたら?」

幸奈の隣で、ぶつぶつと何かを呟いている大柄な男は『車田(くるまだ)真斗(まと)』。

その手には、剛の戦槌とは形の違う巨大なハンマーが握られていた。

「あの・・・幸奈ちゃん・・・」

「どうかしたの?加賀」

ふと、幸奈の傍に、『加賀(かが)(ひろし)』がやってくる。

「今回、成功するかな?」

「させるのよ。絶対にね」

幸奈は拳を握りしめる。

「もう・・・千景君が傷つかなくて済む様に・・・・」

「そろそろ射程だ」

阿室の声が聞こえる。

「分かりました。それじゃ・・・・」

幸奈が何かを言いかけたその時。

 

 

バーテックスの上部が突然爆発した。

 

 

『!?』

いきなりの事に、驚く一同。

「なに!?」

「東郷さん!?」

美森が狙撃銃を下ろしながら答える。

「・・・私じゃない」

「さっきのは・・・・刀か?」

千景がかろうじて見えた爆発の正体を呟く。

そして、上空を見上げた。

 

 

 

「ちょろい!」

「夏凜ちゃん、バーテックスは任せたよ。僕は周りの奴らを引き離しておくから」

「分かりました!翼様!」

「だから様はつけなくていいって・・・まあいいか、行くよ!」

「はい!」

碧い閃光が走る。

それは空中で加速し、真っ直ぐに幸奈たちに向かっていく。

「敵!上から!」

「撃ち落とす!」

佐奈が弓を上空へ向ける。

そして、その光の矢を放つ。

だが・・・

「甘いよ」

「な!?」

その閃光はまるで()()()()()()()()()()()()その矢を回避する。

「零戦飛行」

空中で加速。

そのまま右腕を前に突き出す。

その右腕には、装着型のボウガンがあった。

弓の部分が開く。

すると、そのボウガンの前に青白い円形の光の楯の様なものが開く。

「マシンガンボルト」

次の瞬間、その光の円盤から無数の光の矢がまるで機関銃のように放たれる。まるでサジタリウスの様に。

「な!?」

それには全員、回避に移る他ない。

 

ただ一人を除いて。

 

 

「ミョルニールぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううう!!」

 

 

力任せに振るわれた巨大なハンマー。それには僅かなプラズマが纏われていた。

すると次の瞬間、それは巨大な稲妻として碧い閃光へ向かう。放っていた矢は全て弾き飛ばしていた。

「うっわ、これは・・・」

だが、その閃光の判断は至って冷静。

弓の部分を収納し、右腕を振りかぶる。

 

「ボルトパンチ」

 

稲妻が彼を襲う。

「おいおいあれ大丈夫なのか!?」

「直撃した・・・!?」

剛と風が言葉を失う。

だが、巻き起こった煙の中からは、無傷の少年が出てくる。

 

その姿はブルースターを想起させる青の装束に身を包んでいた。

 

右目は眼帯に包まれ、その表情はなんとも安らかである。

「なん・・・で・・・!?」

「真斗君のミョルニールを喰らって無傷でいられるなんて!?」

真斗と加賀が驚愕に顔を強張らせる。

理由は至極簡単。先ほどの、ボルトパンチなる技。

『ボルト』とは『矢』の意。

彼のボウガンは、矢が自動装填される仕組みとなっており、マシンガンボルトは、その原理を空間そのものとし、乱発する技。

一方で、このボルトパンチは、自動装填の原理を、一ヵ所に圧縮する絶技。

その上、あのミョルニールという雷撃技はあまりにも飽和しすぎているため、一点に攻撃を加えるだけで一部を相殺し、回避したのだ。

「チッ、ならば・・!」

だが佐奈はすぐに動いた。

矢を一本、つがえ、思いっきり引き絞る。

最大まで引き絞った所で、矢が巨大化する。

「喰らえ・・・!」

低く叫び、矢を放つ。

その矢は先ほどとは比にならない程の速度で少年に向かっていく。

「うわっと!?」

「なに!?」

だが、少年は何の苦も無く空中で回避する。

「あの人・・・空中で動けるの!?」

樹がそう驚く。

だが、その間に少年は地面に着地する。

次の瞬間、少年はありえない速度で走り出す。

その速度は、肉眼ではとらえられない程に速い。

少年は加賀に接近する。

「くっ!」

加賀はそれを右手の剣で迎撃しようとする。

 

加賀の武器は西洋剣(レイピア)。それも無限に増産可能な使い捨て型。

 

蹴りが迫る。

ダッシュによって加速増幅された一撃が彼を襲う。

加賀は、それを避けれないと判断。レイピアで受け止める。

だが、その威力は絶大だった。

踏ん張りも効かずに吹き飛ばされる加賀。

「加賀!?」

幸奈が叫ぶ。

だが、彼女らが青い少年に気を取られている間に、もう一人の存在がバーテックスの封印に入っていた。

「封印開始ッ!」

ヤマツツジを想起させる赤い装束を身に纏う少女。

その手には、刀が握られている。

「思い知れ、私の力ッ!」

「まさかアイツ・・・・一人でやる気か!?」

千景がまさかという表情でつぶやく。

だが、封印は成功しており、カプリコーンが御霊を吐き出す。

その直後、その御霊が大量の煙を吐き出す。

「ガス・・!?」

それは、猛毒のガス。

「あぶな!?俺あそこにいたら死んでたぞ!?」

「なにこれ!?」

「何も見えない・・・!」

煙は友奈たちを包むも、精霊たちによって弾かれている。

「そんな目くらまし・・・」

だが、少女は一切怖気づく事なく、飛び上がる。

「気配で見えてんのよッ!」

そして、一切の狂いなく、御霊を両断する。

「殲・滅」

『諸行無常』

なんともカッコつけたセリフ。

「!? しまった!」

「さて、これで任務終了かな」

そして、自分たちの失態に気付いた幸奈達に対して、少年は安心したかのように一息つく。

「ふう」

同時に一息ついた少女。

「えーっと、誰?」

友奈が真っ先に全うな質問をする。

そんな友奈や呆然としている一同に対して少女は・・・・鼻を鳴らした。

「ふん、そろいもそろってボーッとした顔してんのね。これが神樹様に選ばれた勇者ですって?ハッ」

なんとも高圧的な態度。

「あのー・・・」

「ご苦労さま」

「どういたしまして」

友奈が困ったように笑い、その後ろへ美森に抱えられた千景がやってくる。

「何よチンチクリン」

「ちんッ!?」

いきなりの友奈に対しての罵詈。

「私は『三好(みよし)夏凜(かりん)』。大赦から派遣された正真正銘、正式な勇者よ」

そう名乗りをあげる、夏凜という少女。

「つまりあんた達は用済みって事よ。ほい、お疲れさぎゃん!?」

突如、どこからともなく光の矢が飛んできて彼女の頭部に直撃する。

『えええ!?』

それに愕然とする一同。

吹き飛ばされ、地面に倒れ伏す夏凜。

「きゅう・・・」

目を回し、気絶している。

矢が飛んできた方向を見ると、そこには、あの青色の装束の少年がこちらに向かってボウガンを向けていた。

「・・・聞こえていたのか?」

「さあ・・・」

引き攣った笑みを浮かべる剛に、樹がそう返す。

その間に、樹海化が解除されていく。

ただ、その中で、美森は、あの少年が、自分に向かって、悲しそうに微笑んでいる事に、気付いた。

 

 

 




次回『自己紹介』

交友を深める為に。
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