不道千景は勇者である   作:幻在

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園子の強さ

深夜、春信は、自室にて、六道家の者たちが送ってきたレポートを見ていた。

どれもが、全ての勇者や防人たちの個人的な身体能力や性格、そして、才能について、事細かく記載されていた。

それを、一つ一つ、しっかりと精査していく。

そんな中、扉からノックが聞こえた。

「神代です」

「入れ」

振り向かずに返事を返した後、扉から、奏が入ってくる。

「進捗はどうでしょうか?」

「まず第一に、犬吠埼樹の才能は目を見張るものがある。対人戦に対する才覚、隠された凶暴性、そして、どのような状況下でも屈しぬ精神力と発想力。どれをとっても、戦いにおけるセンスはずば抜けているらしい」

「救導者の中では、どのような?」

「やはり磯部だろう。サッカーにおける持久力とキック力は申し分ないらしい。シュートを打つ際の正確さも見受けられる。だから、鍛えれば狙った場所を狂い違わず蹴り撃つ事が出来るだろう。脚力はもちろん、そのあたりも鍛えていくらしい。命中性、といった所だろうな」

「そうですか・・・」

「・・・・何か聞きたそうだな」

春信の言葉に、奏は一瞬驚いて、やがて、不安そうに春信に聞いた。

「・・・・乃木、園子さんについてです」

「・・・・」

「彼女は、この作戦に参加できるのでしょうか?」

奏のその問いに、春信はため息を吐いて、手に持っていた書類を机の上に置いた。

「率直に言って、このままじゃだめだ」

「それは、何故・・・」

「・・・・園子はあれ以上、強くはなれない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼間――――

「ど、どうして・・・」

一撃でも当てられなければ、作戦には参加させない。

そんな言葉に、園子は動揺を隠せなかった。

「そのままの意味だ。俺に一撃を当てる事が出来なければ、お前はここで待て」

「ふーん、そっか・・・」

改めて言われて、気持ちの整理がついたのか、園子は槍を構えて得意気に笑う。

「じゃあ、春信さんに一回攻撃を当てられればいいんだね」

その答えに、春信はため息をついた。

「そういう意味じゃない」

「え・・・?」

春信の言葉に、首を傾げる園子。

「夏凜」

「ん?何、兄貴」

突然、春信は夏凜を呼びつけた。

「十本だけでいい。園子と試合してくれ」

「え?別にいいけど・・・」

「園子もそれでいいな?」

「うん。春信さんが言うなら」

なんともなし崩し的に決まった夏凜と園子の十本勝負。

夏凜は当然のように二刀の木刀を、園子は木製の槍を。

「言っとくけど、手加減はなしよ」

「うん。どっからでもかかっておいで」

対峙する二人。

その様子を、芽吹は春信の隣で見ていた。

「・・・春信さん」

「なんだ?」

「これに、一体どのような意味があるのでしょうか?」

「見ていればわかる」

芽吹の疑問に、春信は、そう答えた。

 

 

一本目は、園子が勝利した。

突っ込んだ夏凜に対して突きを繰り出し、それを夏凜が避けて園子の懐に潜り込もうとした所で、足払いをかけた。しかしその一撃は躱され、飛んで背後に回った夏凜だったが、園子が槍の柄頭を後ろに突き出し、それを寸でのところで防御した所を、園子の裏拳が夏凜の顔面を打ち据えた。そして、槍を突きつけて園子が勝った。

 

二本目も、園子が勝った。

やや夏凜が対応してきた所で、園子が知略を巡らせての勝利。

三本目も園子が勝ったが、そこで、芽吹は気付いた。

 

そして、決定的な事実が分かったのは、四本目以降だった。

 

 

 

 

 

十本目――――

「ハァッ!!」

「うあ!?」

夏凜の右の振り下ろしが、園子の槍を打ち据え、地面に叩き落とす。そして、流れるような動作で左の木刀を園子の喉元に突きつけた。

 

ほぼ、瞬殺。

 

ここまでくると、芽吹は気付いた。

「まさか・・・」

「お前の懸念通りだろう」

春信が歩き出す。

「ご苦労だった、夏凜」

「兄貴・・・これってまさか・・・」

夏凜も、気付いたようだ。

そして、園子も。

「理解したか?園子」

「う・・・ぁ・・・」

呻くように、声を漏らす園子。その両目は、春信ではなく、自身の、何もない掌に向けられていた。

 

 

四本目以降は、全て、夏凜が勝利した。

 

それも、回数を重ねていく度に、その決着までの時間が短縮されていった。

 

それは何故か。

 

園子には、もう、()()()()()()()()()がないのだ。

 

即ち――――

 

 

「お前はこれ以上、強くなれない」

死刑宣告ともいうべき事実が、園子に叩きつけられた。

「どれほど鍛えても、お前はそれ以上強くなる事はない。どれほど研鑚を積もうが、お前の実力は、そこまでなんだ」

春信の容赦のない言葉(やいば)が、園子に浴びせられる。

「いいか。その実力で、なおも敵と戦おうとするなら、せめて生き残る努力をしろ。後ろに控え、決して自分では突っ込まず、防御に徹しろ。最も、もはや完成したお前の実力では、奴らの攻撃を防ぎきれる保証はないがな」

それを最後に、春信は、もはや立ち上がれなくなった春信に背を向けて、去っていく。

夏凜は、項垂れる園子を心配していたが、自分が声をかけた所で、負かされた相手に慰められるなんて仕打ちをする勇気はなく、仕方なく兄の後を追っていった――――

 

 

 

 

園子は、いわゆる、伸び代が人より短いのだ。

例えば、同じだけの量の修行をしている人間が二人いた。一方は、十年でその修行を完了させてしまい、もう一方は十五年で修行を完成させた。

果たして、同じだけの量をこなした二人の内、どちらが強いか。

当然、後者である。

前者より才能のあった後者は、前者より強くなる事が出来、そして長い修行をこなしていったのだ。

結果、後者は前者に勝つことが出来たのだ。

 

常人が、十年修行する事でその体を完成させる事が出来るのなら、園子は、たった五年でその体を完成させてしまう体質なのだ。

 

無論、そんな修行をしていない一般人が園子に勝てるわけが無いのだが、だが、園子の実力は、その一般人に、修行されれば簡単に追い抜かされる程度の実力しかもっていないのだ。

そう、園子は、弱いのだ。

全ての乃木の血を受け継ぐもので、最も弱いのだ。最弱だ。伸び代があまりにも短い、無能の塊。

武道における才能においては、園子は、あまりにも弱い。

だから、辰巳は彼女を幼少から鍛える事にしたのだ。

仮令、頭が相手の動きに対応できても、体が対応できなければ、意味がないからだ。

頭脳は飛びぬけているのだが、武道に対する実力は、まるで足りていない。それが、園子なのだ。

だから、今の園子を向かわせるのは、みすみす殺されに行かせるようなものだ。

だから、春信は、園子を戦線に外す理由と、それを実感させることで、園子を戦いに参加させないようにしたのだ。

 

 

「そんな・・・」

「今回の一見で、園子はかなり焦る筈だ。後はそこを叩けばいいだけの話。対応は簡単だ」

冷酷に告げる春信。

その様子に、奏は、何も言えない。

春信の背中が、これまでにないほど、悲しそうだったから。

「・・・・貴方は、どうして、彼女にそこまでするんですか?」

何気ない、質問。答えてくれるとは思っていない。だが、聞かずにはいられなかった。

 

何故、一人の少女の想いを踏み躙ってまで、そこまでするのか。

 

「・・・・確かにな」

春信は、窓から見える星空を見上げた。

「俺のような人間が、勝手に一人の子供の人生を捻じ曲げるなんて事をしていい筈がない・・・・だが、俺は、一人でも死なせない事が出来るなら、なんでもしよう。俺は、その為にここにいる・・・」

すでに、勇者となれる期限を過ぎた身での、変身をしたのだ。

「都合三回・・・満開を使えば俺は、解除した瞬間に死ぬだろう・・・」

「嘘・・・」

年齢越え(期限切れ)による変身は、本人の体に多大なるダメージを与える。春信でなければ、たった一回で今後の人生にかなりの支障をきたす程のダメージを負う事になる。

春信であっても、先の戦いによって一回消費して、残り二回という回数制限を設けられている。

元々、超人的な身体能力を持っているからこそ、春信は体にかかる負荷に耐えられたのだが。

「まさか・・・死ぬつもりなんですか・・・?」

「もはや俺には死ぬ前提以外での選択肢はない。あのジガという男は、俺でなければ対処できない・・・だから、俺には、勝って死ぬ以外の選択肢は残されていない」

拳を握りしめる春信。自分でも気付かない程の死が、すぐ眼前に迫っている。

だが、その恐怖は、これ以上誰かが死ぬという恐怖なんかより、ずっとずっと些細なものだった。

「もし、園子が限界を超える事が出来たのなら、俺はこれ以上何も言わない。話は、これで終わりだ」

また、書類の精査に戻る春信。

その様子に、奏は、悲しそうに眺め、やがて立ち上がってドアに向かう。

そのドアの前で、一旦立ち止まった奏は、

「最後に、一つ、いいですか?」

「なんだ?」

春信に背を向けたまま、奏は、春信に問うた。

「園子ちゃんの事、貴方は、()()()()()どう思っていますか?」

その問いは、ちょっとした悪ふざけでもあった。同時に、意地悪でもあった。

「・・・・死んでほしくはない、とは思っている」

「そうですか」

「アイツは、意外と、もろいがな」

「・・・・そうですか」

それを最後に、奏は、部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、二日目。

 

「「「うぉぁぁぁぁああああ!?」」」

明日香を含め数十名は、今、樹に襲われていた。

正確には、樹が自らのワイヤーで()()()鉄拳なのだが。

それが恐ろしい速度で逃げ回る武装した集団に襲い掛かる。

一人、また一人と無限に伸び続ける鉄拳の餌食となっていき、場外に出される。

「ご、ごめんなさいぃー!!」

その彼らに、樹は涙目で謝る。

「別に、謝る必要はないわ。うちじゃこれが普通だし」

そんな樹の横では一人の女性教官がそう呟いていた。

彼女は樹の訓練指導官。樹のワイヤーは樹の意思によって無限に伸び縮みする上に編んで何かの形にする事も出来る。その事は、すでにかつての美紀戦で実感はしているが、ここまで破壊力のある攻撃が可能とは思いもよらなかったのかもしれない。

「ワイヤーってのは武器としての攻撃力はいまいち、ただし、細くて丈夫な分、圧力がかかって、何かに括り付けた時の切断力は剣よりも強い。固いコンクリートなんかも、細さと丈夫さ次第では簡単に切断できるわよ」

「そ、そうなんですか・・・・」

「ただま、貴方のワイヤーは破壊力もあるし応用力も高い。このワイヤーを使って結界を作るのもいいわね」

まさしく千変万化。樹の能力は、この場の誰よりも応用力があるのだ。

そして、今の訓練は、樹が同時に扱える五本のワイヤー全てを使って編み込んだ拳『無限(パンチ)(仮)』の操作を向上させる為のものだ。

そして、その標的として、体力と瞬発力を鍛える為に、男子のほとんどが参加していた。

「鈴木がぶっとばされたぞー!!」

「ああ!?今度が高田が」

「馬鹿!重なるな!まとめて吹っ飛ばされるぞ!?」

「ちょ!?おま、俺を楯にすんぐわぁぁあ!?」

「何してんだお前らー!?ちゃんと避けろぉ!樹ちゃんに失礼じゃないかァ!!」

「テメェは暑苦しいんだよ!?」

「すいませーん!!」

襲い掛かる『無限(パンチ)(仮)』。新幹線の如き勢いで迫る拳の一撃は、彼らを車にはねられたが如く、宙へと吹き飛ばす。

「謝っていても容赦ないわね・・・・」

その様子に雅は顔を引きつらせていた。

「樹おねえさん、本当ならもっとすごいよ」

「え」

だが、背後で美紀が呟いた言葉でさらに顔をひきつらせ、一方の美紀はボロボロの状態ながらも自分の担当の教官の所で行ってしまった。

「・・・・あの子、どんだけ底が知れないの・・・」

その呟きは虚空へ消えていく。

 

 

 

 

 

 

毎日が、激動の日々。親の方には、事前に連絡が行っていたようで、特に気にせず、訓練に打ち込むことが出来た。

 

くじけそうになっても、結局は世界は終わってしまう。くず折れる度に仲間からの励まし(一部そう言う名の道連れ)もあり、誰一人としてギブアップする事無く、確かな実感の元に、彼らは訓練を続けていた。

 

 

 

 

そして、五日目の事。

 

 

 

 

 

 

美森は、廊下を歩いていた。

「んん・・・・あぁぁぁあああ・・・・毎度思うけど、あの人たちのマッサージは友奈ちゃんにも劣らないわね・・・・」

訓練の後、滋養強壮の効果のあるマッサージと漢方薬を飲み、恍惚とした表情となっている美森。

最近になって、この厳しい訓練にも付いていけるようになって、その実感が現れ始めてきた。このままいけば、間違いなく、奴らと対抗できるだけの力が手に入るかもしれない。

このまま、ついてこれずに諦めなければ。

ふと、目の前を一人の男子が歩いている事に気付いた。

(あれは確か・・・)

「磯部君」

「ん?ああ、東郷か」

声をかければ、案の定、信也が振り向く。

「調子はどうかしら?」

「絶好調、と言いたいところだが、マッサージ受けても体力が完全に回復する訳じゃねえし、明日も同じ事すんだろうなって思うと、気が滅入る」

「アハハ・・・」

確かに、この訓練は普通の部活動の猛練習よりもキツイものだ。元々勇者になった拍子に身体能力は向上している故にこんな激しいメニューを組み立てられたんだろうが、普段はただの一般人。精神的にはかなり堪える。

「でも、翼君は毎日こんなに厳しい訓練を続けてたんだもの。私はまだまだやるつもりよ」

「俺もそのつもりだ。このままやられっぱなしで終わるつもりはないからな」

そう言って、信也は腰に手をあてて、

「お互い頑張ろうぜ」

「ええ」

互いに、そう頷き合う。

「っと、そうだ」

「ん?」

「お前、千景の事は名前で呼んでたんだろ?」

「ええ、そうだけど・・・」

「俺、というか、俺たちの事も名前で呼んでくれよ。なんか苗字呼びってなんか距離あるからさ」

「それもそうね・・・あ、でも私は東郷って呼んでくれなきゃいやよ?」

「それは何故だ・・・」

「なんででしょう?」

美森自身もあまり分かっていないようだ。

「まあ、いっか。じゃ、話しは俺から遠しとくから、頼むぜ東郷」

「ええ、任せて、信也君」

と、ここまでは良かったものの、ふと美森は、何やら信也の背後が薄暗くなっているような気がした。

よく目を凝らしてみると、壁の角から顔を半分だけ出してこちらを睨んでいる幸奈の姿があった。

「うぅぅう・・・」

心なしか、唸っているようにも見える。

「・・・何してるの?稲成さん・・・」

「え?あ、幸奈じゃねえか、何してんだよ?」

振り向いて信也も気付く。

「うぅぅううう・・・・」

「・・・いや、マジで何してんだお前?」

心なしか、美森の方を睨んでいるように見える。

そうこうしているうちに、幸奈は角から出てきてすたすたと二人に近付くと、

「ん」

「え」

「あ」

信也の腕に抱き着いた。

「・・・・私の」

そして、掠れるような声でそう呟いた。

どうやら、抱き着いた所で自分が今何をしているのかを自覚して、恥ずかしさのあまり口が回らなくなり、どうにか声を絞り出した、という感じだ。

「んん?」

「あらあら」

信也は何故そうなっているのか理解できていない様子で、一方の美森はそんな彼女の微笑ましい様子に生暖かい笑顔を送っていた。

「何をしているんですか貴方は・・・」

そして、その後ろから優が歩いてくる。

「あ、優ちゃん・・・」

「貴方に名前で呼ばれる筋合いはありません」

名前で呼んだ瞬間、まるで殺すような視線を向けられて意気消沈する。

「おい、別に名前で呼ぶくらいいいじゃねえか」

「貴方が許可しても私が許可した覚えはありません。そんな事より、乃木さんを見ませんでしたか?」

「え?そのっちの事?」

何故彼女の口から園子の名前が出てくるのか。

「そのっ・・・いえ、この際聞かないでおきましょう。先ほど、夜遅くまで訓練していたようなので、大人しく休むように言って休ませたのですが、どこか上の空の様でしたので様子を見ようと思ったのですが、どこにもいなくて・・・」

「部屋にはいないの?」

「それがいなくて。今、雅さんや奏さんが探してくれてます」

「まだ風呂とかそんなんじゃねえのか?」

「だといいんですがね」

どこか忌々し気な優。

「小耳にはさみましたが、あの人、これ以上強くなれないそうですよ」

「え?」

「は?」

そして突然吐き出された何かの事実。

「強くなれないって、どういうこと?」

「そのままの意味です。伸び代がどう、とか、そういうものが一切ないそうですよ」

「待って、それ、一体だれが・・・」

「夏凜さんたちです。大本は春信さんだそうですよ」

なんという事だろうか。

まさか、こんな事になっているなんて・・・

「このまま、春信さんに一撃を入れる事が出来なければ、あの人は今回の戦いに参加できないとか」

「そんな・・・」

「まあ私は同感ですね。弱い人がついていった所で、足手纏いなのは事実なんですから」

「そのっちはそんな・・・・!!」

「弱くない、といいきれますか?貴方も気付かないうちに乃木さんより強くなっているのかもしれないのに」

優の鋭い視線が美森に突き刺さる。

「今のあの人は強さに飢えています。自分より強い人を妬むようになっているでしょうね。そんな状態で、今回の作戦に参加させてみてください――――死にますよ。わりと最初の方で」

まるでそれが決まっているかのように、そう断言する優。

「貴方は、どっちを選びますか?共に連れて死なせるか、置いて行って生かすか」

「それ・・・は・・・」

「足手纏いを庇いながら、貴方の仇を討てますか?弱い者を守りながら、敵を倒す事は出来ますか?今回の戦いは、一人でも弱い人がいるだけで、そこの突かれて一瞬で戦線は崩壊します。戦いにおいて、どれほど弱点を補えるか、とは言いますが、正直言って、彼女は間違いなく集中して攻撃されます。攻撃が出来ないどころか防御もままならない彼女が、果たして、あの五人の攻撃を防ぎきれるかどうか」

手厳しい言葉が、次々に口に出される。

「なあ、優」

そこで信也が口を出す。

「なんですか?」

「本当に乃木の奴は成長していないのか?」

「先日、夏凜さんと乃木さんが戦ったようでして、結果は三対七で夏凜さんの圧勝のようです」

「その内の二回は乃木が勝ったんだろ?」

「ええ、()()()()()だけは」

まるで説明が面倒くさいかのように、優は語る。

「回数を重ねるにつれ、戦いが決着する時間は短くなっていったんです。それは、夏凜さんが戦いの中で成長している証拠ともとれます。それじゃあ、乃木さんは?」

そこまで言われて、美森、信也、幸奈の三人は気付く。

「一切成長していない・・・・!?」

「そう、こうして数値的な要因でも、彼女が成長していないのは事実。多少の動きは覚えられても、その間の対応を考えても、彼女の体はそれについていけずに一撃をもらう・・・ここまで言えばわかりますよね?」

もう二度と、園子があれ以上強くなる事はない、と。

「・・・・」

「決断を、東郷美森さん。これは、彼女の未来を決める事です。連れていくか、連れて行かないか。全ては、貴方たち勇者部の判断にゆだねます」

冷たい、優の視線が美森に突き刺さる。

「ん・・・?」

「ん?どうした、幸奈」

「今、あそこに誰かいたような・・・」

誰もいない虚空を見つめ、幸奈は、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日、乃木園子はゴールドタワーから姿を消した。




次回『乃木』

英雄の血を引く彼女は――――


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