不道千景は勇者である   作:幻在

92 / 98
覚悟

園子が失踪して三日・・・・相も変わらず上里家主導による六道家による捜索は続いているが、いくらなんでも痕跡が無さすぎた。

「そのっち・・・・」

青い空を見上げて、美森は、いなくなった親友の名を呟いた。その直後、彼女が身を隠していた木にいきなり矢が突き刺さる。

「わ!?」

「余所見とは良い身分だな」

亜門優理である。

「亜門君・・・!!」

次の矢が飛んできたことを予想し、走り出す美森。

そして、矢筒の中の矢を引き抜き、次の矢が飛んでき所を屈んで躱し、態勢を戻すとともに矢を番えて矢を放つ。

「うぐっ!?」

確かな手応え。様子を見に行けば、そこには地面に仰向けに倒れている優理の姿があった。

その傍には、矢先にゴムのついた矢が落ちていた。

「今日は私の勝ちね」

「くそっ・・・」

そう吐き捨てる優理に苦笑する美森。

ここはゴールドタワーの近場にある森の中。ここで二人、というよりかは、射撃武器を主とするものは、ここで実践訓練をしていた。

集団の連携よりも、個人の成長。

それ故に、行うのは常に一人でのタイマンかバトルロワイアルだ。

「他の皆は終わったかしら・・・・?」

「さあな」

「それなら心配いらねえぜ」

ふと、上から声が聞こえた。

見上げれば、そこには、なにやら目つきが鋭い山伏しずくがいた。

「シズクの方か」

「おうよ。それよりも、早くゴールドタワーに戻れとのお達しだぜ」

「何かあったの?」

美森が聞くと、シズクは真面目な顔で答えた。

「乃木の奴が帰ってきた」

 

 

 

 

 

 

 

数分後。

ゴールドタワーにて、乃木園子は帰還していた。

電車を使って丸一日を使ってここに戻ってきたらしい。

騒然とする広間の中で、乾いた破裂音が一つ。

「・・・・」

美森が、園子の顔を引っ叩いたのだ。

園子は、何も言わず、美森は泣きそうな顔で園子を睨んでいた。

「・・・どれほど、心配したか・・・」

「・・・・うん、ごめんね、わっしー」

園子は、笑ってそう返す。

その笑顔を見て、美森は、園子に抱き着く。

「・・・・おかえりなさい」

嗚咽を漏らす美森の背中を優しく撫でながら、園子は、目の前に立つ春信を見た。

「・・・・春信さん、一試合、お願いします」

「・・・・いいだろう」

「ただし」

そこで、園子が付け加えた。その内容は―――

「・・・真剣でお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

対峙する、園子と春信。

「何考えてんのよ園子の奴は・・・」

額に手を当てて頭を抱える夏凜。

その理由は、二人の持つ得物にあった。

春信のは、正真正銘の真剣、それに対して、園子も本物の刃のある槍を装備していた。

防具も無く、ただ相手の命を刈り取れる武器を、互いに持っているという事実がそこに存在していた。

「両者、真剣による一騎打ち・・・下手をすれば、どっちかが死ぬかもしれない・・・いいえ、自分が死ぬかもしれないってわかってるの・・・・!?」

「それでも、そのっちはそう言ってきた。きっと、何か、あるんだと思う」

夏凜の横で、美森は、穂先を春信に向けて構える園子を見つめた。

「戻ってきたんですね・・・・」

一方、優は呆れ半分にその戦いを見ていた。

「戻ってきて残念か?」

「何を得たのか知りませんけど、こうして死にに戻ってきたあの人に、愚かだと馬鹿にしてるだけですよ」

「お前は相変わらずだな。小学生とは思えねえほどの冷酷さだよ」

「言っててください」

そっぽを向く優に、信也は苦笑する。

これでも、優は優しいのだ。その名に相応しく、冷たさの中に、確かな優しさを持っている。

(さて、どうなるかな・・・・)

最悪、血を見る事になるかもしれない。それでも、この戦いは、誰にも止める事は出来ない。

そして、園子と対峙している春信は、

(なるほど・・・何か、雰囲気が変わったな・・・)

今までの、あっけらかんとしたものでも、焦りに身を任せる姿勢でもない。

確かな勝算があって、ここに立っている者の目を、園子はしていた。

(下手をすれば、こちらがやられるかもしれない・・・)

この際、春信は自分が真剣を持っているという事を忘れた。ここに彼女が立っている以上、彼女は、死ぬ覚悟があってここに立っているのだろう。ならば、それに答えないというのは、彼女に対する侮辱だ。

その手にもつ刀を両手で握りしめて、春信は、園子と対峙する。

「・・・・来い」

その、短い問いかけに、

「――――参りますッ!!」

園子は、叫んで走り出す。

一直線に、真っ直ぐ突っ走る。

それに対して、春信は、全ての判断を体へと委譲。ありとあらゆる全ての攻撃を、思考を排して対応する。

体の節々が判断し、無情のままに対応する、武術の最奥。

それを以て春信は園子を迎え撃つ。

一直線に、園子は春信に向かって行く。槍を左に振り被り、ただ、真っ直ぐに――――

 

春信の刃が、園子の眼前に迫っていた。

 

常人どころか、達人であっても防ぎようのない一撃。袈裟懸けに振り下ろされた必殺の刃が、園子の眼前に迫っていた。

もはや回避は間に合わない。このままいけば、刃は園子の右鎖骨を砕きながら左脇腹へ突き抜けていくだろう。

だが―――

 

園子は、あろうことかその刃を弾いた。

 

左に振り被っていたはずの槍はいつの間にか春信の刃に潜り込ませていた。それで刃を頭上へ弾いたのだ。

春信の体がのけ反り、これには流石の春信も驚く。が、やはり歴代最強の称号は伊達ではなく、すぐさま態勢を立て直し、頭上から一気に園子の頭を叩き割るべく刃を光速で振り下ろす。

その刃が、園子の頭上に振り下ろされる―――――

 

 

――――引く勇気は、それ以上の進む勇気をくれる。

 

 

園子は、そんな言葉を思い出し――――槍を捨てて春信の胸元へ飛び込んだ。

刃を振り下ろすときには、手と体の間に、腕の分だけスペースが出来る。園子は、そこへ飛び込んだのだ。

だが、何故槍を捨てる必要があった?拳の一撃か?

春信には、ありとあらゆる可能性を考えた。一体どんな、どのような攻撃がやってくるのか。

だが、来たのは、あまりにも予想外な一撃だった。

頭の後ろに、腕を回される。そして、引かれるがままに頭を引き寄せられ―――――

 

 

 

 

 

春信と園子の唇が重なった。

 

 

 

 

 

『なァッ!?』

そんな叫び声が聞こえて、気付いた時には春信は天井を見上げていた。

一体、何が起きたと言うのだろうか。

自分は、一体、彼女に何をされたと言うのだろうか。

ただ、分かるのは、あまりにも衝撃的な何かをされたという事だけ。

ふと、胸に温かいものが圧し掛かっているという事に気付き、見下ろせば、そこには、金紗の髪をした少女の頭があった。

それは、もぞもぞを動くと、こちらを見て、やがて、にへらと笑う。

「一撃、入れちゃいました」

何の悪びれもなくいう彼女に、どういう訳かくらっと来て。

「・・・ァあ、そうだな」

春信は、初めて降参を受け入れた。

「俺の負けだ、園子」

「えへへ、やったぁ」

起き上がる園子が、本当に嬉しそうにはにかむ。

と、そこへ、園子の両肩に別々の手が置かれる。

「ん?」

「いやー、まさか園子があんな大胆な行動に出るのは思いもよらなかったナー」

「そうねぇ。私としてはやっとそのっちが自分の気持ちに正直になってくれて嬉しいんだけどネ」

「わ、わっしーに、ミノ、さん・・・・」

意味ありげに頷く二人の親友に、園子は顔を引きつらせて・・・・

「「・・・頑張れ」」

そして、良い笑顔でそうサムズアップしてきた。

「~~~~!!!うわぁぁぁあぁああぁあああああ!!!」

そして自分が何をやったのかを自覚して、顔を真っ赤にして、園子は突如として逃走。そのままどこかへ行ってしまう。

「あらあら」

「仕方のない奴だな~」

「悪魔かお前ら」

真っ黒い笑みを浮かべる銀と美森に若干引きつつ、夏凜も夏凜で、自分の兄の事をからかいにいく。

「それで?自分を慕う少女からの猛烈なアタックはどうでしたか?春信先生?」

「うむ・・・そうだな・・・・」

「ん?」

片手を口元に当てて、頬が若干赤みがかっている。

「なに?もしかしてまんざらでもなかったとか?」

ここで否定したところをさらに追い打ちかける、そう夏凜は思っていた。

「・・・・そうだな」

「・・・・はい?」

だが帰ってきたのは全く予想外な返しで、立ち上がった春信は、まるで園子を追いかけるように走っていった。

「・・・・・」

「あり?どうしたんだ夏凜?」

「・・・・・まーじでー」

思わず喋り方が変になるほど、夏凜の顔は引きつっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うううう~~~なんであんなことをぉ~~~」

廊下の曲がり角にて、しゃがみこんで両手を頬に当てて悶絶する園子。

(いくら春信さんに勝つためとはいえ、いろいろとやらかしちゃったよ~!!!)

床を羞恥のままにごろごろと転がりまくる。良家の娘とは思えない程の暴れっぷりである。

(でも・・・でも・・・・)

言葉ではないが、行動で想いを伝える事は出来た。

春信がよっぽどの鈍感でなければ、これで気付いてくれるだろうが、生憎と今の園子にその事を追及する頭は残っていない。

だが、今は、これでいいと満足しているのも事実。

「よーし、切り替えよう。今日からもっと厳しい訓練になるんだから」

「園子」

「ひゃいッ!?」

そこで背後から春信が声をかけてきた。

「はははは春信さんんんん!?」

「そこまで距離を取らんでもいいだろ・・・」

尻餅をつきながら思いっ切り後退する園子。

「な、なんでここに・・・・!?」

「お前に伝えたい事があって来た」

「え・・・・!?」

全くなんの悪びれもせずにそんな事を言ってのける春信。

それに対して園子は、一旦フリーズした後、

(―――えぇぇぇぇえぇえぇえええ!?そ、それってまさかこ、こここ―――ええ!?)

大パニックに陥っていた。

(ま、まって、まってくださいお願いここ心の準備ができてな、ああああ!!お、おしゃれとかしてないしこんな場所でなんてロマンのない、いやいやそんな事を考えている間なんて―――)

「園子」

「は、はい!!」

思わず、直立姿勢になってしまい、春信から紡がれる言葉に、半ば目をつむって覚悟して待った。

 

「――――俺は、今回の戦いで必ず死ぬだろう」

 

「・・・え?」

だが、放たれたのは、全く別の言葉で、その言葉の意味を、園子はすぐには理解できなかった。

「年齢越えの勇者への変身は、穢れた存在であるがゆえに、拒絶反応によって本人の体を崩壊させていく。その結果、一回の変身だけで、本人は死に至ってしまう。俺の場合は、そんな柔な鍛え方をしていないがゆえに、三回までの使用が可能だが、俺が相手にすることになるだろうジガという奴に対して、昇華と満開を使わずに勝つことは不可能だ。だから、お前の気持ちには答えられない。すまない」

本当に、申し訳なさそうに謝る春信に、園子は、何も言わなかった。

だが、と春信は続けた。

「もし、俺が死んだら、お前に看取って欲しい」

それでも春信は、真っ直ぐな眼差しで、園子を見た。

「本当なら、俺は、誰にも知られる事なく死ぬつもりだった。夏凜を残す事が心残りになるが、そうするつもりだった。せめて、ジガだけは仕留めてみせると。だが、そんな時にお前のあの行動から、お前の気持ちを知った。そして、俺は自分の気持ちに気付けた。馬鹿な話だ。まさかこんな幼い少女に、俺は心を奪われていたとは」

「はる・・・のぶ・・・さ・・・」

「だからこそ、俺はお前に看取られたい。どれほど生きる努力をしても、こればかりは俺の力ではどうにもならない。だから、奴との戦いを、お前にだけ見届けてもらいたい・・・・それではダメか?」

そっと、聞いてくる。

その問いかけに、園子は、言葉を発する事が出来ず、俯く。

「・・・・私は、春信さんの事が、好きだよ」

「・・・・ああ」

「私は・・・春信さんに、死んでほしくない・・・」

「・・・・そうか」

「・・・・どうしても、死んでしまうの?」

「・・・・そうだ」

「・・・・そ・・・っか・・・・」

酷く、小さな声が、聞こえた。

俯くその姿が、酷く、惨めに見えた。

「・・・その」

名前を呼ぼうとした、その時。

 

春信が()()()()()足取りで、園子は春信の胸元に飛び込んだ。

 

「・・・!?」

「・・・・分かった。春信さんの戦いを見届ける。だけど、場所は、春信さんの隣が良い」

抱きしめる腕に力がこもる。

「春信さんの隣で、一緒に戦う。春信さんの隣は私のものだって言い張る。春信さんは、私の、乃木園子のものだって、自慢する。私の持つ全てを、春信さんの為に使う。その我儘だけは通させてもらいます・・・」

「・・・・ああ、分かった」

園子の声に込められた想いは、本物で、春信に、それを否定する事は出来なかった。

「それと・・・」

園子が、下から春信を見上げた。

「春信さんを・・・私に刻んでほしい・・・死んでも、もう会えなくなっても、忘れないように・・・・貴方に、傷をつけてほしい。この体の奥深くに・・・・」

涙の滲む眼差しで見つめられる。その眼差しに、春信は諦めるように目を細めて―――

「・・・分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰還した園子は、目に見えるほど成長していった。

一分一秒の全てを糧としているかのように、恐ろしい速度で成長していった。

まるで、限界の壁を突破して、そこに溜まっていた水が一気に溢れ出るかのように。

まさに、勇者の家系たる、乃木の名に相応しい程の成長ぶりだった。

 

 

 

 

 

 

「・・・そうか、分かった、ありがとう。今度は、戻った時に」

通話を切り、ポケットにスマホを仕舞う辰巳。

ふと、後ろですさまじい音が聞こえたと思ったら、何かがバキバキと音を立てて倒れる。

「・・・・ふむ、大分使いこなせるようになってきたな」

大量に倒れる木々の上に立つのは、木刀を持つ一人の少女。その上半身は、サラシで胸を隠している状態のみで、その上半身から分かるほどの筋肉がついていた。

師匠(せんせい)の教えが良いからですよ」

その少女はニッと笑うと、その木々の山から下りてくる。

「いよいよ明日だな」

「そうですね・・・」

その少女は、自分の手を見た。

剣ダコだらけになって固くなった自分の手を見て、握っては何かを思うように、表情を険しくする。

「よし、そろそろゴールドタワーに戻ろう。今晩はゆっくり休んで、明日に備えよう」

「はい!」

夕焼けに染まる空。

その空を見上げて、少女は、もういなくなってしまった愛しい人の事を思い出す。そして、次に、その人を殺した、後輩の少女の事を思い出す。

「・・・・待ってなさいよ」

確かな怒りを滲ませて、少女は―――犬吠埼風は、歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「武器の手入れは出来てるかしら?」

「ん?」

明日香の自室に、芽吹が入ってくる。

「ああ、準備も何も万全だぜ。どっから来ても大丈夫だ」

そんな明日香の傍らにあるのは、巨大な二対の大剣。片方はおおよそ人が振るうものではないほど巨大な、鉄塊のような大剣、もう片方は、こちらは両手で振るうような大きなものだ。

これを、明日香は片手で振るう事が出来る。

「他の奴らにも声をかけてきたのか?」

「ええ、防人全員にね。貴方は最後」

「悪いな」

立ち上がる明日香。しかしその身長はお世辞にも高いとはいえず、むしろ低い。

立ち上がっても、まだ芽吹が見下ろすぐらいだ。

「これが、最後になるのよね・・・」

「ああ、この三百年間の戦いを、俺たちが終わらせるんだ。それに、今の勇者たちと一緒に戦えるんだ。わくわくが収まんねーよ」

「相変わらずね・・・でも、そうね。気分が高揚しているのは分かる」

自分の手を見る芽吹。この二週間で、大幅なパワーアップをした実感がある。

その証拠に、手の皮膚が、大分固くなっている。たった二週間でここまで行けるとは、流石六道家といった所だろうか。

「初めて三好さんに負けて、六道さんに惨敗して・・・そして防人隊のリーダーになって、世界の命運を決める戦いに参加している・・・勇者と共に、私たちも戦えるという事が、私たちが勇者と同列になったという実感を与えてくれる。貴方はどう思う?明日香」

その問いに、明日香は、いつものように、不敵な笑みを浮かべて。

「もちろん、勇者たちと一緒に戦えるってのは今までにねえほどわくわくする。だけどそれだけじゃねえ。俺たちが知らない力で同じことをしてたやつらが一緒に戦ってくれる奴らが、あんなに沢山いるんだ。俺は、その繋がりに感謝したい。この繋がりをくれた運命って奴にありがとうって叫びたいぐらいだぜ」

「何よそれ。ほんと、貴方は馬鹿ね」

明日香の物言いに、笑みを零す芽吹。

「でも、その馬鹿さ加減が私たちを・・・私を救ってくれた」

勇者になれなかった劣等感が、これまでにないほど自分を焦らせていた時期があった。

自分たちが勇者よりも価値のないもの、いや、人間としてすら思われていない事に腹を立てていて、そんな現状が許せなくて、他の隊員に八つ当たりのような事をしていた。

そんな中で、明日香が芽吹を止めてくれた。馬鹿な癖して、自分を超える身体能力で負かしたあの日の事を、芽吹は忘れないだろう。

その時の言葉も、きっと忘れない。

 

『お前がどんな気持ちで防人やってんのか知らねえけどよ、その気持ちを他人に押し付けんな!この馬鹿!!』

 

馬鹿だからどんな困難にも立ち向かっていける。馬鹿だから、理屈が通せない。馬鹿だから、絶対に諦めない。

その、諦めの悪さが、いつも防人たちを引っ張って、背中を押して、彼の勢いに皆がついていった。

自分も、その一人だった。

「明日香」

「ん?」

芽吹が、手を差し出す。

「私たちで、あのくそったれな神どもをぶっ飛ばしてやりましょう!」

「へ、おうよ!」

その手を、明日香が叩きつけるように掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・結局、参加するんですね」

優が、ジト目で園子の背中を見ながらそう言う。

「うん。でもゆーちゃんこそ、まだ小学生なんだから無理しなくていいんだよ?」

「子ども扱いするなそしてその名前で呼ぶな」

「お断りするんよ~」

(シャア)ッ!」

必殺の手刀が園子の頸筋に叩き込まれる―――と思いきや、霞に消えるが如く、優の背後に回り込み、抱き上げる。

「わあ!?」

「対天武術『陽炎』。まだまだ甘いね~」

「くぁあ!?この、離せ!!」

「丁度いい、そのまま遊んでもらえ」

「信也さん!?」

同じく傍にいた信也がニヤニヤしながらその様子を見ていた。

「ちょ、助けてください・・・!!」

「お前は愛想が無さすぎるんだよ。たまにはそうやってかわいい所見せてやれよ」

「いやぁあああ!!舐められるからいやぁぁああ!!!」

ギャーギャーと騒いで暴れる優。

しかし園子の拘束からは逃れられない。

明らかに急激な成長をしているお陰だ。

「んっふっふ~」

「ん?どうした園子?」

「そういういーすんも、ゆっきーにべったりされてるけどね~」

「ぐっ!?」

実際には、信也は幸奈にくっつかれていない。ただ()()()()()()彼にまとわりついているだけである。

「愛されてるね~」

「そ、そんなわけあるかよ。アイツはどっちかっていうと千景の方が好きで、あれはあくまで俺をからかってるだけだろ?」

「うわ、君今までそんな風に思ってたの?なんかひくわ~」

「ああ!?」

否定する信也に対してディスってくるお風呂上りの白露。

「本気で幸奈の気が、千景にしか向いてないと思ってるの?」

「んだよ?なら誰に向けられてるっていうんだよ?」

「それは・・・」

「ちょっとストップ!」

「んむぐ!?」

突如として口をふさがれる白露。

「んぐ・・・何をするかー!?」

「ストップだよしらっち、こればっかりはいーすん自身が気付かないといけないんだから」

「うーん・・・それもそうね・・・」

園子の手が口から離れる。

「結局誰なんだよ?」

「んー・・・気が変わったからおしえなーい!」

「な!?どこいく!?待てゴラ!!」

どこかへと逃げる白露を追いかける信也。

「んー、青春だねー」

「それはどうでもいいですけどさっさと降ろしてください三枚に下ろしますよ?」

「私は魚じゃないんよ~」

「正論で返さないでください!!!」

むきーっ!と怒り頂点状態の優を抑えつつ、園子は、自分の腹のやや下あたりに触れる。

(私は生き残る・・・何があっても生きるよ)

誓いを胸に、園子は今を噛み締める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

様々な、少年少女たちの想いが巡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・」

「よっ」

「あ、銀・・・それに、佐奈さんまで・・・・」

ゴールドタワーのベランダにて、美森、銀、佐奈が会っていた。

「気分はどうだ?」

「大分」

「そうか・・・味覚の方は、大丈夫か?」

美森は今、味覚を失っている。千景の死、友奈の裏切り、そして、翼の死。その三つのショックがまとめて降りかかってきたのだ。無理もない。

そして、まだ回復なんてしていない。

「いえ、まだ・・・・佐奈さんの方は・・・・」

「突き刺さる視線の中でやる訓練は、流石に堪えるものがある・・・あの様子じゃあ、士道と会う事も許されないだろうな・・・」

士道とは、翼の兄の事である。

かつては佐奈が想いを寄せていた相手であり、向こうも、彼女に想いを寄せていた、いわゆる両片思いな関係だ。

佐奈は、大赦に収監されていた頃は手紙を出していたのだが、どういう訳か返事が返ってこず、何度も送っているのだが、今回の訓練の事で色々と察しがついた。

「そんな事は・・・・」

「もう六道にはかかわるなとも言われてしまったし、このまま一生独身で生きる事になるのかな・・・もしくは・・・・」

その先は、声にならず、佐奈の喉奥に押しとどめられた。

「いや、今する話じゃなかったな。忘れてくれ」

「いえ・・・そんな事はありませんよ」

「そうですよ。もっと自分に自信もってくださいよ。佐奈さん綺麗なんだからさ」

「ふっ、そうか。ありがとう」

夕焼けに染まる空を見上げる。

「・・・・私たちが負ければ、この空を見る事は、もうできなくなるんだろうな」

「そうさせない為にも、アタシたちがいるんです」

「そうです。そう簡単に終わらせたりなんかさせません」

「ああ、それは分かっている・・・私が心配なのは、お前たちの方だ」

佐奈の懸念。それは、結城友奈の事だ。

友奈が裏切り、翼と剛を殺した。

そうであっても、彼女は勇者部の一員。かつての仲間を、彼女たちが迷いもなく討つ保証はどこにもない。

「お前たちは、かつての友を倒す事は出来るのか?」

だから、佐奈は心配だった。彼女たちが、かつての仲間を、友を、殺す事が出来るのだろうか、と。

「・・・・それは、分かりません」

答えたのは、美森だった。

「もし、あの友奈ちゃんに、まだあの頃の心が残っていたのなら、私はきっと、引き金を引くのを躊躇います。ですが、もう、あの頃の友奈ちゃんでなかったのなら、私は、きっとこの引き金を引くでしょう」

ぐっと拳を握りしめて、美森はそう呟く。

「私の担当が言っていました。迷えば迷うほど、たくさんの命が失われる。無駄になっていく。だから迷わずに引き金を引け、と・・・だけど、いざ友奈ちゃんと対峙した時、私は、引き金を引けるかどうか分からない・・・・ですが、それと同時に、友奈ちゃんの答え次第では、私はきっと、鬼にもなれると思います」

その目に、迷いは無い。

「そうか・・・・全ては、会った時に決めるか・・・分かった。今はそれで良しとしよう」

佐奈は、その答えに頷き、ふと語り出した。

「おそらくお前たち・・・讃州中学勇者部は、結城友奈討伐に出るんだろう」

「ええ・・・」

「ならば、私たちは他の奴らの相手をする。お前たちは、他の事を気にせずに戦えばいい」

「それは・・・ありがとうございます・・・」

言葉に、力が乗らない。やはり、まだ迷いがあるのだろうか。

そんな中、背中をバンッと叩かれる。

「うあ!?」

「そんな気負うなよ。それじゃあ、いざって時にやられちまうぞ」

「銀・・・」

「お前が迷う理由もわかる。だけど、いつまでも迷ってたって答えは出ないぞ」

銀が、美森を見つめる。

「お前がちゃんと真っ直ぐ引き金を引けるように、アタシがお前を守ってやる。翼の分も、兄貴の分もアタシがお前を守ってやる。だから、お前はお前の思うがままに引き金を引けばいい」

「・・・そうね。その時はよろしく頼むわね、銀」

「おう!大船に乗ったつもりでいろ!」

美森の返しに、銀は大いに笑って返す。

その様子を、佐奈は微笑まし気に見つめた。

(瑠香・・・私とお前との道は分かたれてしまったが、彼女たちは、きっと私たちのようにはならないだろう・・・・きっと、大丈夫だ)

 

 

 

 

 

決戦の日は、もう目の前――――

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん!」

「うわっと」

ゴールドタワーへと帰還した風に樹が抱き着く。が、飛び込んだ腹が異常に硬い事に思わず顔をしかめる。

「かたっ!?」

「あっはは~・・・まあ散々鍛えられたからね」

「そのようね。それでこそ我等が部長よ」

そんな風をねぎらうように、肩に手を置く夏凜。

師匠(せんせい)お帰り~」

「お疲れ様です」

「ああ」

そして、辰巳の事も、園子と春信が出迎える。

「ん~」

「ん?どうした園子?」

「ヤング師匠(せんせい)がなんだか新鮮だな~って思って」

「そう言われると、そうかもしれないな」

「でも春信さんには負けるけどね~」

「言ってくれるな・・・」

神樹に若返らせてもらった故に、見慣れていないのが現状だ。

しかし全盛期の実力は伊達ではない。彼もまた勇者の一人なのだから。

「おかえりなさいませ、犬吠埼風様、足柄辰巳様」

『!?』

だが、そこで仮面を被った女性が、彼らに声をかけた。

「装備の最終調整の為、広間にいらしてくださいませ」

「そうか、分かった。行こう」

そのまま、一同は案内されるがままに広間に案内される。

 

 

 

 

 

広間ではすでに他の者たちは着替えていて、残すは勇者部の面々だった。

用意された端末で変身を施し、一同はそれぞれの装備を確認していた。

「ん?なんか武器の形が変わったような・・・」

風の大剣は、形状こそ変わっていないものの、鍔の部分にリングと円盤のようなものが取り付けられていた。

「説明書きによると、お前の剣に四大元素の力を込めていて、円盤を回せばそれぞれの属性に変化させることができるらしい」

唯一下手な変身が出来ない春信が説明書きを読み上げてそういう。

「へえ、そんな機能つけてくれたのね。攻撃の手段が増えるというものね」

片手で軽々と振り回す風。

「お姉ちゃん・・・少し見ない間に凄い事になってる・・・」

そんな姉の姿に若干顔を引きつらせつつ、樹は自分の二つになった手首のリングを見る。

さらにワイヤーの数を増やして、手数を増やした仕様らしい。合計十本。一本だけでも拳を作る事は出来るが、それでは威力が弱いために片方全てのワイヤーを使わなければならない為に、これは若干助かったりする。

「ふっ、ほっ」

夏凜と銀はもともと春信の端末を受け継いできたのだ。

ただ、代を重ねるにつれてコンセプトは変わり、初めの春信は火力担当だった故に、爆発的なエネルギーを斬撃として飛ばす事を重視した近中距離戦闘を可能にした仕様、次の銀はその火力を斧による攻撃時のブースト仕様、そして最後の夏凜は最も負担が少ない、火力を刀に圧縮して炸裂させるというものだ。

今回、銀の斧のブースト能力はそのままに、そのブーストを強化、一方の夏凜の刀は二人の能力を受け継いでいる。即ち、ブーストと飛翔斬撃、そして炸裂爆弾の使用が可能というフル仕様である。

一方の園子は槍だけでなく、春信と共に戦うという事で、勇者装束の強化も施されている。

丈夫さだけでなく動けやすくしており、槍も切れ味と頑丈さも底上げされている。

それであるのにかなり手に馴染むらしい。

そして、辰巳は、かつて使った『炎輪炉心機関(タマエンジン)』と『零式吹雪撃鉄(ブリザードトリガー)』を強化した、『氷火竜式能動強化(ハウリング・バースト)・改』が新たに装着されていた。

他の者たちも、自分たちの纏う力の強化仕様に馴れようとしていた。

そんな中、檀上に、上里ひよりが立つ。

「二週間の訓練、お疲れ様でした。よって、これより、敵勢力地への反抗作戦を開始します」

時刻は正午。

 

 

 

 

敵地への突入が始まる――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神樹の結界の上空にある、宮殿にて。

 

 

 

 

 

ヒュアツィンテが、ある部屋に入る。

そこには、ブルーメ、ラヴァンド、ジガ、そして友奈の四人がいた。

「遅いぞヒュアツィンテ」

「申し訳ありません。少し準備に手間取っていました」

「女は準備に時間がかかるって奴?そこにいるソイツは誰よりも先にここにきてたぞ?」

「褒めてもなにも出ないよ?」

「褒めてねーし」

「喋るのはそこまでにしておけ」

ジガの一言で、一同は黙った。

「四神官と処刑衆が全滅した今、次の戦力の補充まで時間がかかる。それまで、我々はこの宮殿を護衛しなければならない」

「攻めるっていうのはないの?ほら、向こうは主力の二人を失っている訳だし」

「今からでは無理でしょう」

ラヴァンドの物言いにヒュアツィンテが口を挟む。

「どうやら、向こうはこちらへの反攻の準備が整ったようです」

「ほう、あの虫ケラどもが、随分と殊勝な事をしてくれる、自ら死にに来るとは」

ブルーメが嘲笑う。

「へえ、皆来るんだ~。嬉しいな~」

その中で、友奈は嬉しそうにはにかむ。

「笑いごとではありませんよ?()()()()

ヒュアツィンテが、そんな彼女を咎める。

「はーい」

「敵がこちらに攻めてくるという事は、それなりに勝算があるという事だ。油断はしない事だ」

ジガ、諭すようにそう言う。

「俺たちは、この罪人たちを迎え撃つ。この愚かな罪人どもに、現実というものを教えてやれ」

攻めてくるのなら好都合。こちらから攻める手間が省けるというもの。

ならば、徹底的に叩き潰してくれよう。

自分たちが、どれほど愚かな事をしているのかを、この手で思い知らせてくれる。

「分かったのなら、それぞれ準備に入れ」

ジガの一言で、それぞれがそれぞれの準備に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベリアルさん」

ヒュアツィンテが友奈に―――ベリアルに声をかける。

「なあに?ヒュアちゃん」

「今回の戦い、手加減はしないでくださいね?」

「しないよ?何を言ってるの?」

笑みに隠れた殺気が、ヒュアツィンテの叩きつけられる。しかしヒュアツィンテは怖気づくどころかビビる事なく、ベリアルの横を通った。

「ならいいです。頑張ってくださいね」

ベリアルを背に、ヒュアツィンテは去っていく。

 

 

 

 

ヒュアツィンテがやってきたのは、だだっ広いドーム状の空間の中心に、やや塔のようなものの上に玉座がある、無駄に広い部屋。

ここはこの城の防衛システムを司る部屋。ヒュアツィンテは、複数の剣を同時に操るがゆえに、ここの防衛システムも全て一人で操作できるのだ。

その玉座に、ヒュアツィンテが座る。

「さあ、来てくださいな。可愛くて可哀そうな罪人さんたち」

城の防衛システムを全て掌握し、ヒュアツィンテは、これから来る敵を迎え撃つ。

 

 

 

 

 

決戦が、始まる――――




次回『飛翔攻防戦』

開戦の合図は砲撃。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。