不道千景は勇者である   作:幻在

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飛翔攻防戦

結界上空の城にて。

「では、ラヴァンドさんとジガさんは私と一緒に対空戦闘をして、ブルーメさんとベリアルさんはもし侵入された際の防衛線として機能してもらうと」

「そうだ」

空中に現れたモニターのようなものを操作しながら、確認するように聞き返すヒュアツィンテに、ジガはそう返す。

「でもいいのですか?貴方も外に出て」

「問題ない」

「そうですか」

ヒュアツィンテはそれ以上聞かなかった。

聞いたところで、この男は自分たちの仲では最強なのだ。

仕損じる可能性がどこにあろうか。

「では、今から城壁に転送いたしますので、準備をお願いしますね」

「ああ」

操作一つでジガを城壁へ転送し、索敵魔術に何かないか調べる。

今、彼女たちの主神(ボス)であるマギアクルスはこの城の奥深くにいる。

おそらく、来たる日に備えての戦力の増強を図っているのだろう。

そう思いつつ、索敵装置から対空兵装について何か異常はないかと探っていると―――

 

警報が鳴った。

 

「来ましたか」

ヒュアツィンテの顔が愉悦に歪む。

「さあ、来なさい。哀れな罪人さんたち」

 

 

 

戦いが始まる――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敵は、複数の飛行物体を使って飛んできていた。

それは、いわゆる旅客機というもので、それが合計十六機、楔型陣形で突っ込んできていた。

その先頭にそって三角に分かれる位置にある機体に、敵はいた。

正面には辰巳が立ち、その右には真斗、左に風、そのまた右には佐奈で左に弘が立っていた。

「なるほど、防御力の高いものを外に配置して、他の人は全員旅客機の中・・・なかなか考えましたね。そして数を用意したのはどれに乗っているのか悟らせないためでしょうね。その証拠に全てに索敵妨害の術式を施しているようですね。それもとびきり強力なのを」

その証拠に、ヒュアツィンテの使う索敵魔術が機内まで索敵できないようになっている。

「ですが、わざわざそんな中途半端な配置にしたという事は、人がいる所に乗っているという事ですよね」

基盤を操作する。標準を、一番先頭にいる機体、即ち、辰巳が立つ機体に主砲を向けて――――

「では、さよならです」

砲撃した。

 

 

 

 

 

 

 

その砲撃は、十二と一の騎士を元にして作られた、全十三個の棺。その威力は、その騎士が使っていた聖剣の生み出すエネルギーに匹敵し、その砲撃を一度浴びれば、一瞬にして灰塵と化す、強烈な砲撃である。

その内の一つが、今、辰巳に向かって叩きつけられる――――が、

「ハァッ!!」

気合の一声と共に、砲撃が割れ、後ろに向かって通過していく。

砲撃を防いだのは、楯。

かつて、とある神の妻の一柱にして、神の籠る家屋の鉄壁の女性、と言われた、守護の神の力が籠った楯である。

その楯を回転させ、さらに竜の力を込めた事によって防御力は倍増、その上、バリアまで張って砲撃を凌いだのだ。

「・・・・よし」

防御は、可能だという事が証明された。

そして、一体何が対空兵器なのかを知る事が出来た。

辰巳は、横にいる美森に視線で合図を送る。

それに美森は頷き。

「銀、出番よ!」

そう連絡を送った――――

 

 

 

 

 

 

「よもや防ぐとは・・・忌々しい限りですね」

顔は笑っているが目が笑っていない状態で防がれたと実感するヒュアツィンテ。

「さて、次はどのように・・・ん?」

ふと、飛行機群の後方から、凄まじい勢いで何かが近づいてくる。

気になってモニタを出してみると――――

「これは・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

楔型陣形で飛ぶ飛行機群の上空を、何かが通過する。

それは、白い体を持ち、否、骨の体であり、翼と腕は一体化し、武骨な足を持ち、長い尻尾と長い首を持つ、それは―――――まさしく、ドラゴンであった。

『OOOOOOOOOOOOO!!!』

その竜は咆哮し、翼にある噴出孔から熱量によるブーストをして白に一機に突っ込む。

「ひゃっほう!!!」

その上で、園子は槍を振り回しながら手綱を握っては叫びながらも暴れる竜を立派に制御して城に突っ込んでいく。

 

この骨の竜は、いわずもがな銀である。

怪物化(モンスターモード)』状態では、銀の理性は吹っ飛んでおり、あるのは彼女に眠る野生と力に振り回される事によって起きる暴走状態だ。

目につくもの全部にぶつかり壊すような状態の彼女を、ではどうやって制御すればいいのか。

早い話、なるべく人が乗れるサイズになってもらい、手綱をもって馬のように操るしかない。こればっかりは二週間で制御させることが出来なかったのだ。

そして、そんな彼女を制御できるのは天才的な感性を持つ園子と究極系の天才である春信のみ。

さらに、『怪物化』を発動させる際、ある程度のイメージをもって発動させればその形への変身も可能だ。

 

だから銀は、『怪物化(モンスターモード)竜型(モデルドラゴン)』を発動させることにより、敵の対空兵装を破壊する役割を与えられたのだ。

 

 

 

そして、今は園子が銀を操っているが、実は園子に後ろには春信が乗っており、いざって時は春信が操作する事になるのだ。

 

 

 

銀が怪物化する際にともなう熱量によるジェットブースト。それによって戦闘機並みの機動力を確保した銀を、砲撃でとらえることは不可能だった。

そして、そのまま接近されて――――

「まず一つ目ぇぇええ!!」

棺に向かって突進する。

すると一撃でその棺は粉砕され、砕け散る。

「よし!」

「油断するな!」

「ッ!?」

春信の叫びに園子は慌てて前を見る。

なんともう一つの棺がこちらに狙いを定めていた。

「油断大敵ですよ」

ヒュアツィンテがほくそ笑む。

「くぅ!!」

砲撃が放たれる。

だが、そこで園子が自身の勇者システムに組み込まれたバリアシステムを展開し、その砲撃を受ける。

「ハァァアアアア!!!」

すると、園子はその砲撃を受け切った。

「なっ・・・!?」

これには流石のヒュアツィンテも驚く。

「驚いた?鴉天狗はね、仏教の迦楼羅天っていう守り神が変化した存在だって言われてるの。その神様の防御力を舐めないでよね!」

飛翔する銀たち。

それに、ヒュアツィンテはふむ、と考える。

「なるほど・・・ですが、いくらその神が守護の神であっても、いずれ破られるものです・・・しかし時間が惜しい。ジガさん」

『なんだ?』

「周囲を飛び回る羽虫を叩き落してください」

『了解だ』

城壁に立つジガが応答する。

「悪いな。そこまで好き勝手される訳にはいかない」

ジガが、空中へ躍り出る。

「むッ!」

「春信さん?」

「ジガが来る」

「!?」

春信が見上げる先、そこからジガが、足の裏から発する熱量によって銀たちに近付いてくる。

それを見た園子が手綱を操り、銀を旋回させる。するとすぐ横をジガが通り抜ける。

「なるほど、あれが奴の能力か!」

ジガの能力は、とてつもない熱量を操る事。

火ではない。熱だ。万物に存在する熱を、彼は操っているのだ。

あの熱線も、おそらくその能力の用途に一つ。そして、この飛空も、熱による噴射で移動しているのだろう。

そして、その速度は、体の小さいジガの方が圧倒的に速い。

「く!」

手綱を握る園子の顔に焦りが生じる。

「落ちろ」

ジガが、槍を振るう。

その一撃が、園子に向かって振り下ろされる。しかし―――

 

その()()を、春信が全て叩き落とす。

 

「ぬっ!?」

「園子、操縦に集中しろ!」

「ありがとう春信さん!」

春信が、銀の上に立つ。

そして、剣を頭上に掲げる。

「対天剣術――――」

「!?」

「―――竜月(リュウゲツ)ッ!!!」

三日月型の斬撃が、ジガに向かって神速で飛んでいく。

「くぅ!?」

突然の事で反応できなかったジガは、その一撃を槍で受け止めた。

「園子、お前は棺の破壊に集中しろ」

「うん、わかってる」

「待っているぞ」

「・・・うん」

そんなやり取りを交わしたのち、春信は、銀が城の城壁の上に来た時に、その身を空中へ投げ出す。

「ッッ・・・!!春信さん!!!」

園子は、叫ぶ。

「絶対に、行くから!絶対に、それまで絶対に死なないで!!」

園子の叫びを背中に受けつつ、春信は、城壁に降り立つ。

「・・・・ああ、当たり前だ」

包丁のような大剣を、前に突き出して、春信は叫ぶ。

「満・開ッ!!」

次の瞬間、赤い花が咲き乱れて、春信の装束が変化する。

広かった袖は腕に合わせて細くなり、纏う腰マントは腰全体を覆うようになり、まるで、鎧をつけない侍のような装束に変化する。

そして、その手に持つのは、あの巨大な大剣ではなく、その莫大なエネルギーが圧縮された事によって細くなった、どこにでもあるごく普通の刀が握られていた。

満開と昇華の合わせ技。

満開の莫大なエネルギーを、体内に圧縮した結果の、春信の最後にして最強の形態。

「来い・・・!!!」

それを見たジガは、

「すまんヒュアツィンテ、奴ばかりは無視できん」

『そうですね・・・仕方がありません。彼女はこちらで対処します』

「頼む」

ヒュアツィンテからの応答を聞いたジガは、春信に向かって飛ぶ。

次の瞬間、二人の武器が真正面から衝突する。

「決着をつけるぞ、三好春信」

「望む所だ、ジガ!」

床が崩壊し、春信とジガは、城内へ落ちていく――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「園子・・・・春信さん・・・」

その様子を、遠方より眺める事しか出来ない佐奈は、胸に拳を押し当てて今にも溢れそうな感情を抑えていた。

だが、そんな事を気にしていられない事態が発生する。

「佐奈さん!上!」

「!?」

美森の叫びに佐奈は上を見る。

すると、上空から、何かが突っ込んでくるのが見えた。

「ッ!!」

それを見た佐奈は、突如として隣の飛行機へ飛び移るべく走り出す。

 

「我に力を――――アタランテッ!!」

 

その最中で、佐奈は精霊をその身に宿して、最速を誇る女狩人、アタランテを憑依させて、その脚力で隣の旅客機に飛び移る。次の瞬間、先ほどまで佐奈がいた飛行機の翼が折れて落下していく。

その落とした相手というのは――――

「ラヴァンドッ!!」

どういう訳かトロイア戦争とかで使われた戦車に乗るラヴァンドだった。

その神速は、佐奈が憑依させるアタランテに迫るほどだ。

そしてラヴァンドは、佐奈を標的に襲い掛かる。

「くッ!!」

それを見た佐奈はすぐさま迎撃に入る。まるでマシンガンのように矢を連発し、ラヴァンドの操る天翔ける戦車を撃ち落とそうとする。

だが、その速さにどうしてもとらえられない。

「ほらほら?どうしたの?この戦車、実は君たちの世界で言う所のアキレウスが操ってた戦車なんだけどねぇ!!」

「ッ!?」

ラヴァンドのその言葉に、佐奈はゾッとする。

アキレウス。

アタランテと同じくギリシャ神話に登場する英雄の一人であり、トロイア戦争ではたった一人で戦況を覆した勇将でもある。

その理由はその不死性であり、右のアキレス腱以外の全てが不死身であり、弱点をつかなければ決して死ぬことのない大英雄でもある。

アタランテは狩りにおいては類まれなる才を発揮する。

だが、人間相手ではとてもではないが後れを取る。それも、アキレウスという世界に名だたる英雄であるのならば、それは狩人の領分である狩りではなく、戦争における戦闘となる。そして、この状況では、もし狩りであるならば佐奈は獲物だ。

「くそ!!」

悪態を吐き、それでもなお佐奈は矢を射続ける。

だが、それでも当たらず、どんどん佐奈が飛び移る飛行機を落とされていく。

「どうすれば・・・」

「佐奈!!」

ふと、そこで辰巳の叫び声が聞こえた。

「もはやアキレウスに対抗するには、それ相応の英雄で対抗するしかない!!」

「しかし・・・私の戦闘スタイルは弓と格闘技だ!!しかし、ヘラクレスは私にはあまりにも荷が重すぎる・・・・!!」

ヘラクレスは、アキレウス以上に有名で屈強な大英雄だ。

ギリシャ神話において知らぬ者はいないと言われるほどの英雄であり、十二の試練を乗り越えたギリシャ神話最強の英雄だ。

しかし、そんな英雄だが、その強大さは酒呑童子に匹敵し、それ故、佐奈の体がその強大さに耐えられず崩壊してしまう。

そう言い合っている間に、ラヴァンドの駆る戦車を引っ張る三頭の馬が上空から突っ込んでくる。

「しまっ」

しかし、その進行方向上に光の矢が通過し、ラヴァンドは戦車の軌道を慌てて切り替えた。

「ッ!?」

「佐奈さん!空を見てください!」

美森の叫びに、佐奈は思わず彼女を見返す。

「空に浮かぶ黄道十二星座!その内の一つにある、いて座の星座!常に弓を引き絞っているその姿は、まさしく馬人の雄姿!されどその星座となったその者は、ギリシャ神話における英雄のほとんどに、その知恵を与えた、教師の鏡!」

黄道の星座は、メソポタミアが起源ではあるものの、ギリシャ神話から出ているものも多い。

その内の一つ、いて座にはこんな話がある。

 

神話に登場する英雄たちに知恵を与え、戦い方を教え、気性の荒い馬人であるにも関わらず穏やかな生活で、人々を助け生きた賢人。

神の子であり、半人半馬でこの世に産み落とされた存在であり、不死であり、数々の英雄にその知恵を教えたその人物の名は――――

 

「なるほどな・・・それは良いかもしれないな・・・!!」

にやり、と佐奈は笑う。

それなら、足の速さはアタランテに劣るかもしれない。だが、応用力なら、断然上だ。

「アタランテ、解除!!」

アタランテを解除する佐奈。

その瞬間、佐奈の身体能力は大幅に下がる。それを見逃すラヴァンドではない。

「ふ、馬鹿だねぇ――――『虚・撃ち出される剣閃(ソードバレル)』」

光速で駆ける戦車の周囲に展開された無数の剣、それが、一気に佐奈に狙いをつけて放たれる。

「―――『巡る大地の根源(ジオ・リング)』」

風が、大剣に新たに備えられたリングを回転させる。

すると、剣に風が纏われ――――

「―――『荒れ狂え、地の上翔ける暴嵐よ(ジオ・ウィンドカリバー)』ッ!!!」

その風が解き放たれ、ラヴァンドが放った剣を全て吹き飛ばす。

「なっ!?」

「うっわ!?」

だが、威力が思った以上に強かったのかバランスを崩す風。

「ふう・・・これ、思った以上の威力が出るわね・・・」

想像以上の威力に汗を掻きつつ、風は佐奈に向かって手を振る。

「これで足りるかしら!?」

「ああ・・・十分過ぎるぐらいだ!!」

佐奈が、その身に英雄を宿す――――

 

「我に力を―――『ケイローン』!!」

 

佐奈の装束に変化が起こる。

全体的に灰色を基調としたその衣装は武人を連想させ、腰から伸びる尻尾は馬。

頭に馬耳といった風貌であり、その表情は、まさしく冷静そのもの。

その、冷徹に、鋭い視線を、空中を駆けるラヴァンドに向ける。

「ッ!?」

その視線で睨まれた途端、先ほどとは全く違う威圧を与えられる。

そして、間髪入れずに、佐奈は弓を、マシンガンの如く乱射し始めた。

それは、まさしく精密機械が如きであり、放たれた矢はどれもこれもラヴァンドを――――ではなく、その戦車を駆けさせる馬に狙いを集中されていた。

「チッ!」

舌打ちの後にラヴァンドは手綱を引っ張って攻撃をかわす。

「奴は私に任せろ。お前たちは当初の作戦通り、城へ突入しろ」

「分かった!」

辰巳の返事を聞き、佐奈は、空中を駆ける戦車を見た。

「さて・・・我が教え子の大事な戦車を返してもらうぞ」

矢を引き絞り、自然を漏れ出た声に、なんの不快さも抱かずに、佐奈は矢を放った――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砲撃が襲ってくる。

しかし、その攻撃をどうにかバリアで防ぎつつ、とうとう七つ目の棺の破壊に成功する。

「ハア・・・ハア・・・」

だが、数が減るにつれてエネルギーを集中させることができやすいのか、威力がどんどん上がっていき、バリアでは完全に防げなくなってきている。

その証拠に、銀の骨の体は、ところどころ砕けて削れてしまっており、園子も決して無傷ではなかった。

「あと・・・六枚ぃ・・・!!」

叫び、突撃する園子。しかし、無慈悲にも砲撃が彼女たちを襲い、ついに銀の体に砲撃が直撃する。

「あぁぁあああ!?」

『OOOOOOOOOOO!?』

戦闘機が墜落するかのようにぐるぐると落ちていく二人。

だが、銀がどうにか砕かれた部分を骨で修復し、立て直す。

「はあ・・・はあ・・・く!」

『OOOOOOOOOOOOOO!!!』

(ぎん)が、頼もしく鳴く。

「うん、そうだねミノさん・・・行こう!!」

手綱を握り、園子は空を駆ける。

放たれる砲撃、それを、園子は巧みな操縦で躱していく。

八つ目。

「でやぁぁああ!!」

槍の一撃が叩き込まれて破砕する。

九つ目。

『OOOOOOOOO!!!』

銀の砲撃が直撃し、爆散する。

棺の砲撃が彼女たちに直撃する。しかし、バリアによって防がれる。

「くぅ、ぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁああああぁあああああ!!!!」

絶叫と共に、二人は突き進む。

そのまま十、十一と破壊する。

「あと、二つぅぅぅぅううう!!!」

これらを全て破壊出来れば、辰巳たちがこの城に到達できる。

そうなれば、作戦の第一段階が終了する。

そうなれば、あとは、春信の元に行くだけだ!!

十二個目の、棺が破壊される。

「残り・・・・ッ!?」

突然、眩い光が輝きだす。

溢れ出る光は棺に収束されており、突如として、その棺の蓋が吹き飛び、その中から一本の剣が現れる。

それを見た園子の背筋が、深海のように底冷えする。

あの剣は――――あの聖剣は、まずい。

あれは、この世の全てを光に飲み込む、星の剣にして『最強の幻想(ラスト・ファンタズム)』。

そうか、ヒュアツィンテは、ありとあらゆる歴史を剣として操る事が出来る。

であるならば、実在したと言われる聖剣すらも操れて当然の筈だ。

仮令、本来の担い手ではなかったとしても、その力を発揮するならば、十分な程に、魔力が籠められている。

あれを喰らえば、ただでは済まないのは必至。

避けようにも間に合わない。おそらく、他の全ての棺の破壊がトリガーの一撃だ。すでに発射準備は整っている。避けようにも、もう間に合わない――――

『OOOOOOOOOOOOOOO!!!!』

「ミノさん!?」

突如として、銀が動き出す。口を大きく広げ、首を、体を、大きくのけ反らせる。

そして、銀の体が、黄昏色に発光する。

「ミノさん、まさか――――」

次の瞬間、全てを極光へと飲み込む一撃が放たれる。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 

対して、銀が放ったのは竜の咆哮。

 

怒り狂う邪竜の咆哮(ファブニール・ブレス)

 

その二つの光が正面から激突する。

だが、完全にチャージされていた向こうの聖剣とは違って銀の咆哮は即興の砲撃。

威力があまりにも違い過ぎる。そして、案の定銀の砲撃は押され、聖剣の一撃が押し込まれていく。

精々、時間稼ぎが精一杯だ。

 

―――そう、時間稼ぎなら。

 

「え」

突如として、誰かに抱き上げられる。

振り返れば、そこには――――

「ミノさん・・・!?」

「いけ、園子」

園子を持ち上げる銀が、大きく振りかぶっていた。

そして――――

「オゥラァァァアアアアア!!!」

「ミノさぁぁぁぁぁぁぁああぁああああん!!??」

投げ飛ばされ、振り返った瞬間、微笑む銀が、極光に呑まれた。

砲撃を喰らった竜が、燃え盛る大地へ落ちていく。

「――――ッッッッ!!!うわぁぁぁぁあぁああああぁあぁああああああ!!!」

絶叫、後に、槍の切っ先を最後の棺に――――その聖剣に向けた。

「伸ォびィろォぉぉぉぉおおおおおぉぉぉおおおぉおぉおおおおお!!!!」

砲弾の如く、伸びた槍は真っ直ぐに聖剣へと放たれ、その贋作であり、先ほどの砲撃でボロボロになった聖剣を、一撃で粉砕した。

そのまま槍を元の状態に戻して、投げ飛ばされた勢いのまま城壁へと落ちる。

ごろごろと転がり、どうにか止まった所で園子は慌てて下を見て、銀の姿を探した。

そして、燃え盛る大地で、焼け焦げた骨の体の竜がぴくりとも動かずに沈黙していた。

「あ・・・・」

その姿に、園子はゾッとする。

もし、あれで死んでいたら。

「み、ミノさん・・・!」

急いで端末にある生存確認アプリを起動して、銀の容体を見た。

すると、銀は健在であることが確認されて、そして、今は失神しているという事が分かった。

「良かったぁ・・・・」

これは創代が作ったシステムであり、もしもの場合を考えて、全員の健康状態を確認する為のものだ。

とりあえず、これで銀の生存は確認できた。きっと骨の体を楯にしてあの砲撃を凌いだのだろう。

であるならば、自分のするべきことは一つ。

「春信さんの所にいかないと・・・」

「あら?どこに行くんですか?」

「!?」

声が聞こえた。聞き覚えのある、女性の声。

「ひなたさん・・・!」

「またその名前ですか。よくも私の『円卓の十三騎士(シール・サーティーン)』を破壊してくれた挙句に、そんな屈辱的な名前で呼んでくれるものですね」

ヒュアツィンテの顔は笑顔だ。だが、そこに込められた憎しみの感情は、見るからに漏れ出ていた。

「しかし、変ですね。貴方たちはどうして、あのような機動性の低そうな機体を使って突撃をしてきたんでしょうか?まるで『落としてください』と言わんばかりのおろかっぷり・・・もしや、こちらに攻め込んできているのは彼らだけで、残りは全て本拠地の防衛の回したのでしょうか?それだとしたら、私たちの事を舐めすぎではありませんか?」

重たい重圧が、園子に掛けられる。

確かに、あんな鈍重な機体では、彼女の防衛システムを抜けられる訳がない。

防衛機能を破壊する為の時間を稼ぐためならいざしらず、あれほどの数を用意するのなら何人かの犠牲が考えられる。

しかし、彼らはそう簡単に犠牲を容認するような人間たちではない。

であるなら、何故。

その疑問に、園子は、不敵な笑みを浮かべる。

「すぐにわかるよ」

「そうですか。では、その時が来る前に貴方は片付けさせてもらいます」

次の瞬間、園子の急所全てに、ヒュアツィンテの八本の剣が全て殺到する。

しかし――――

「ハアッ!!」

「!?」

槍の一薙ぎで、全ての剣を叩き落した。

「馬鹿な・・・」

「乃木の名前を舐めないで。それに、その名前の凄さなら、貴方が一番よく知ってるはずだよ」

何故なら、彼女は、その人物の親友なのだから。

「でも、貴方の相手は私じゃない」

「何を言って・・・」

突如として、上空から、凄まじい轟音が聞こえてきた。

見上げれば、そこには―――――

「見つけたぞ、ひなた!!」

「足柄辰巳・・・!?」

なんと、剣から放出される黄昏の火力によって、飛行機から城壁まで一気に飛んできたのだ。

「オラァ!!」

上段に構えた大剣を、一気に振り下ろす。凄まじい衝撃と風圧が叩きつけられ、煙がまき散らされる。

だが――――

「・・・逃がした」

そこにヒュアツィンテの姿は無く――――

「うわぁ・・・」

床に大きな穴が開いていた。

「相変わらずの豪快さだねぇ・・・」

「園子、俺はこれからひなたの所へ向かう。お前はすぐに春信の所にいけ」

「分かりました」

辰巳の言葉に園子が頷いた後、辰巳は穴の中に入っていった。

「さて、私も春信さんの所にいきますか」

後ろでこちらに向かってくる仲間の事を気にかけつつ、園子は春信の元へ走り出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

激しい空中戦が繰り広げられる。

矢が飛来し、それを躱し、反撃に突撃と応射をする。

そんな異次元にも似た戦いが、今、佐奈とラヴァンドの間で繰り広げられていた。

ただし―――

「くっ!!」

次から次へと飛行機を飛び移る佐奈。

そして、飛び移った瞬間に飛行機がどんどん落とされていく。

反撃に、佐奈が矢を撃ちまくるも、その悉くを躱され、すかさず敵の体当たりが迫る。

「回れッ!!」

ケイローンの記憶にある魔術を行使。飛行機に仕掛けられていた術式を読み解き、飛行機を操作。それによってその機体がローリングし、そのまま突っ込んでくるラヴァンドに向かって落ちてくる。

「チッ!」

それを見てラヴァンドはすぐに対策を思考、回避は不可能と判断して両手を掲げた。

そして、そのまま落ちてくる飛行機を()()()()()()()()()()

「な!?」

「ぬぅぉぉおおおお!?」

予想外の力技。否、あの光速で動き回る戦車を操っていたのだ。それ相応の腕力が無ければ扱える訳がない!

そして、その予想は的中し、ラヴァンドは、その機体をもって()()()()()()()()()()()()()

「無茶苦茶な!!」

思わずその異常さに笑みがこぼれ、そして渾身の魔力をこめた一撃でその飛行機を爆砕した。

当然、ラヴァンドはその爆発からは逃れている訳で。

「惜しかったね」

背後から佐奈目掛けて槍を突き出していた。

「ああ――――」

だが、それに対して佐奈は避けようともせず。

()()()()()

「ッ!?」

次の瞬間、戦車を引っ張っていた馬たちが()()()()()()

「然るべき刻、然るべき座標、然るべき速度。―――必要なのはそれだけだ」

ケイローンはケンタウロス、即ち弓の名手であり、狩りの達人。さらにそこにケンタウロスとしての荒々しさは無く、あるのは冷静沈着な頭脳と積み重ねた経験則、そしてすさまじい程の膨大な計算式。

矢の速度は知っている。であるならば問題なのは向こうの速さであり、どのように動くのかという事。

あらかじめ撃っていた矢が到達する位置。そこに敵を時間通りに誘導するなんて事は本来不可能だ。

だが、この英雄ならそれを可能にする。

何故なら、ギリシャに出てくるほとんどの英雄たちに、その知恵を授けた、賢者なのだから。

だから、こんな事は造作もないのだ。

「チッ」

舌打ちをして、ラヴァンドは呆気なくその戦車を捨てた。

操縦者を失った戦車はただ真っ直ぐに走り抜け、やがてどこかへ消えていく。

そしてラヴァンドは飛行機の上に降り立つ。

「やれやれ参ったね。まさかこんな方法で戦車から引きずりおろされるとは思わなかったよ」

「そうか、まあこちらとしては()()の所有物を開放できて幾分か気分は良くなっている。だが――――」

佐奈が、矢を引き絞ってラヴァンドにその鏃を向けた。

「弟子の名誉を傷つけた事は、お前の命をもって償ってもらう」

確かな怒りを滲ませて、佐奈はラヴァンドに矢を向けた。

「やれやれ。君たちにはつくづく不快にさせられるよ。罪深き人間の癖に、よくもまあ償いだとか言えた者だね」

「私たちにとってはお前たちの事などどうでもいい。だが、過去に人類を殺戮し、それだけでは飽き足らずに領土まで奪った。そんな相手に、一体どうやってこの怒りを抱かずにいられる?」

「それ、君が言えた事かな?」

「もはや私には償い以外ありえない。そして、この戦いは私の贖罪だ」

確固たる決意。それに、ラヴァンドはため息をついて――――

「じゃあここで死んじゃいなよ」

佐奈など比較にならない程の圧力が放たれ、彼の周囲に、凄まじいまでの武装の数々が出現する。

 

彼の能力は模倣。ありとあらゆる敵の能力、技を模倣し、コピーする。

 

それは、一度見ただけでその特性などを劣化版ではあるが()()()でき、さらにその性質まで深く理解する事が出来たなら、()()()()()()()なチート能力。

それが、こいつのバカげた『贋作者(フェイカー)』という能力なのだ。

「さて、どんな風に切り刻んでやろうかな?」

笑っているが目がそうじゃない。完全にこちらを()る気だ。

とてもではないが、佐奈一人では、このラヴァンドの相手は荷が重すぎる――――

 

そう、佐奈一人なら――――

 

「―――『咆え轟け、怒れる火山よ(ジオ・フレイムカリバー)』ッ!!!」

炎を纏った大剣が横に薙ぎ払われる。その一撃はラヴァンドを背後から襲い、されどラヴァンドはその攻撃を郡の楯で受け止める。

「マジッ!?」

「甘いよ」

「と、思うじゃん?」

風が大剣を異空間に収納させ、伸び退く、それと同時に佐奈も別の機体へ飛び移る。

そして、上空が輝きだして――――

 

「――――『原初へ回帰する雷神の鉄槌(ソア・ミョルニール)』ッ!!!」

 

雷神の鉄槌が振り落とされ、飛行機を消滅させる勢いでラヴァンドに叩きつけられる。

「やったか?」

「ちょ!?佐奈それフラグ!!」

だが、叩きつけられた雷の柱ははじけ飛んでしまう。

「んー・・・惜しかったね」

ラヴァンドは、まったくの無傷。借り物とはいえ、神の一撃を耐え切るなど、あまりにも規格外だ。

「く、なんて奴だ・・・」

「こうなりゃこっちもこっちで奥の手使わないとまずいかもね・・・」

左足の太ももにある満開ゲージ触れる。

「いや・・・」

しかし、佐奈が手で制す。

「城に到達するまで時間を稼ぐことは出来る。それまでの間に、東郷を城に到達させればいいんだからな」

「それもそうね」

風がジオ・リングを回転させる。

その属性は、水。

「『狂い流れ、紺碧の激流よ(ジオ・マリンカリバー)』」

水を纏い、その水圧を利用する事による機動力と回避性に特化した属性。

「行くぞ。二人とも」

「ええ!」

「うん!」

佐奈の言葉に風と真斗が答え、襲い掛かるラヴァンドを迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅん、そういう事か~」

ヒュアツィンテのいる無駄に広いドーム状の制御室にて、ベリアルが何かに気付いたかのように呟いた。

「何かに気付いたので?」

「うん。とても強い隠蔽をされてたけど、あの飛行機、()()()()()()()()()()

「全部・・・まさか、本当に・・・」

「ううん、そんなんじゃないよ。あの人たちはきっと全戦力を投入する気だよ」

「ほう・・・どうやってですか?」

「東郷さんは巫女さんだからね~、だから、神樹様だけじゃなく、他の巫女とも繋がっているんだよ」

「他の巫女と・・・繋がって・・・・ッ!?まさか!?」

ここに来て、ヒュアツィンテは顔色を変えた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「跳躍範囲内・・・」

佐奈たちが必死にラヴァンドを足止めしてくれたおかげで、美森の乗る飛行機が、城の城壁のジャンプ範囲内に到達した。

否、正確には、勇者単体での跳躍では届かない距離で――――

「いっけぇぇええ!!東郷ぉぉぉぉお!!!」

誰かに飛ばしてもらう事で、城壁に到達できる距離に来たという事。

そう、彼らの目的は、初めから一つ――――

風が、『荒れ狂え、地の上翔ける暴嵐よ(ジオ・ウィンドカリバー)』をもって美森を吹き飛ばす。

そうすれば、美森は簡単に敵の城壁に到達できるわけであり――――

「―――カガミブネ、起動」

床に手をついた美森を中心に、方陣が構築され、光が迸る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、気を付けてください」

国土亜耶の心配そうな表情に、芽吹はその頭を撫で、微笑む。

「大丈夫、必ず全員生きて帰って見せる」

「おう!しっかり待ってろよ!」

明日香がサムズアップをして、二人は、光り輝く方陣へと足を踏み入れる。

その様子を見届け、亜耶は、叫ぶ。

「頑張ってください!」

その言葉に、方陣の中にいる全員が頷く。

「最後の確認をするわ!!」

芽吹が叫ぶ。

「この最終決戦の最終目標は敵の親玉である断罪の神『マギアクルス』の討伐!そして、裏切り者結城友奈と、他四名の討伐!これに失敗すれば、人類に未来はない!!いいわね――――これが最後よ!!」

光が全員を包み込む。

そして、次に、彼らの視界に映ったのは、見るも巨大な城の城壁の上。

「転送完了を確認―――カガミブネ、成功・・・!!」

「作戦開始ィ!!!」

勇者、襲撃者、防人、そして救導者。

今、人を守るために戦う者たちの、最後の戦いが始まる――――

 

 




次回『荒れ狂う獣』

その獣の名は――――『絶望』
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