不道千景は勇者である   作:幻在

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荒れ狂う獣

矢が飛来し、それをラヴァンドが躱す。そこへすかさず風が大剣を叩きつける。だが、それすらも躱され、隣の飛行機へと飛び移られる。

そんなラヴァンドに向けて武器を向ける風、佐奈、真斗の三人。

だが、ラヴァンドは視線を横に向けて、舌打ちを一つ。

「まさかそんな方法で乗り込んでくるとはね」

「少人数の方が動きやすいからな」

「やれやれ、君たちには困ったものだよ。あの数相手だと、流石に手厳しいだろうからね・・・・ここで撤退させてもらうよ」

「な!?待て!!」

佐奈の叫び虚しく、ラヴァンドは虚空に消える。

「くっ、逃げられたか」

「佐奈、それよりも・・・」

「ああ、そうだな・・・」

真斗の呼びかけに頷きつつ、佐奈は、城の方を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

とにかく敵城に乗り込むことに成功した勇者一行。

しかしやはりというべきか、早速城内にいた骨の兵隊―――『竜牙兵』や『土人形(ゴーレム)』の襲撃にあっていた。

「うおりやぁぁああ!!!」

明日香が大剣を振り回し、竜牙兵たちを無双する。

彼の剣は全ての異能を無効化し、正しい形へ正す。故に剣に触れるだけで異能で動いている竜牙兵たちはがらがらと崩れて地面に崩れていく。

それだけではない。防人部隊に新たに支給された大口径アサルトライフルは一撃一撃の威力が以前のものより遥かに高く、その銃身につけられた銃剣の頑丈さも切れ味も比較にならないほどに強化されている。

さらに楯も強化されており、任意による展開型の結界を張れるだけでなく、楯そのものの強度もかなり底上げされており、仮令、レオ・バーテックスの火球が飛んできても防げるほどの強度を誇っている。

これを見れば、創代という神のすさまじさが見て取れる。

「B隊!右からの兵に対応!C隊!衝撃に備えて!A隊はC隊が攻撃を受け止めた直後に反撃!」

芽吹の凄まじい指揮能力が、防人隊たちの一糸乱れぬ行動を可能にしている。

「ほんと、すごいわね!」

その一方で、夏凜たちは巨大なゴーレムたちを相手取っており、個々の力が強化された今、敵ではなかった。

他もそうだ。

海路の光弾が打ち貫く、樹のワイヤーが切断する、幸奈の拳が粉砕する、雅が押し潰す。

そのほか、誰もが襲い掛かるゴーレムたちを粉砕していっていた。

だが、いつまでもここで戦っている訳にもいかない。

「夏凜、行きなさい!」

「芽吹!?」

「ここは私たち防人だけで十分よ!私たちがこいつらをやっているうちに貴方たちはさっさと親玉を倒して来なさい!」

「そう、分かったわ!!」

芽吹の言葉に、他の全員も頷く。

「そういうなら、そうさせてもらいます。行きましょう!」

優が誰よりも早く、竜牙兵の集団を突破し、それに続くように勇者たちが奥へ突き進む。

「よし・・・さあ!根性見せるわよ!!」

『応!』

芽吹の言葉に、全員が応じて、戦いは、さらに激化していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで!この先通路が三つに分かれてるんだけどどうするの!?」

虎の文字の影響で夜目に強い白露がそう叫ぶ。

「私たちは真っ直ぐいくわ」

「それは何故ですか!?」

美森の言葉に、優が聞き返す。

「・・・この先に友奈ちゃんがいる」

『―――!』

美森の根幹的能力は月。月の光は、万物の戒めを解くといわれており、故に浄化の力に特化しており、そして、闇を感じる事が出来る。

「じゃあ、私たちは真っ直ぐに行くのね」

「あ、あの、お姉ちゃんを待った方が・・・」

「それもそうね・・・」

樹の言葉に頷きかける美森。

「では、私は右に行きましょう」

そこで優がそう発案する。

「おそらく、右にはラヴァンドがいます。彼の能力はおそらく異能に特化しており、それに対して私の能力が有効な筈です」

「大丈夫か?」

信也が心配そうに聞いてくる。だが、優が睨み返す形で言い返す。

「誰にものを言ってるんですか?私は先代の虚像布所持者である安座間椿の娘ですよ?余裕です」

そう得意気に言い切る優。

「じゃあ、私が優についていくわ。あと、弘君も一緒にいいかしら?」

「僕でよければ」

「冬樹も一緒に来て」

「分かった」

「よし、それじゃあ後は左に行って」

雅が、そう発案し、残った者にそう促す。

「分かった。皆、気をつけろよ」

「分かってる。勇者部五箇条、『成せばたいていなんとかなる』」

おまじないのように呟き、美森、樹、夏凜の三人は真っ直ぐに、優、雅、弘、冬樹の四人が右へ、そして、左には信也、幸奈、美紀、真武郎、海路、白露の六人が向かう。

長い通路を走り抜け、彼らは今、その先に待つ強大な敵と対峙する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、それは、この男も同じだった。

巨大な扉を潜り抜けて、辰巳は、愛しき相手と対峙する。

「あら、もうここまで来たのですか」

「あんな骨くず共に後れを取る訳がないだろう」

ヒュアツィンテが、玉座から辰巳を見下し、辰巳が、床からヒュアツィンテを見上げた。

「ふふ、一応彼らも貴方と同じ、竜の骨から作られたのですけどね」

「だとすれば随分と脆かった。どこの竜から作られたんだあれは」

背中から、大剣を引き抜く。

「そんなくだらない事を俺は言いに来たんじゃない」

「あら、では何を言いに来たのですか?」

「―――お前を連れ戻す」

次の瞬間、辰巳は地面を蹴っていた。

そう、()()、だ。

一度の踏み込みで、弾丸の如く加速した辰巳は、一気にヒュアツィンテへと疾走する。

「野蛮だこと」

しかし、そんな辰巳の動きを、ヒュアツィンテは()()()()()()

「『毒の女帝(セミラミス)』」

「ッ!?」

次の瞬間、辰巳の口から血が吐き出される。

「ぐっごほ・・・!?」

絶叫が迸り、辰巳は思わず膝をつく。

「貴方用に調合しておいた、対竜用の霧毒です。触れれば、即、体が焼け爛れて細胞組織が崩れるのですが・・・・」

 

「来やがれ―――『ファブニール』ッ!!!」

 

辰巳がファブニールを飛び出し、鎧に身を包む事でその毒を完全ではないにしろ遮断。そのままその鎧の治癒力をもって崩れた組織を再生させる。

「ふふ、その鎧があればまだまだ楽しめそうですね」

ヒュアツィンテの顔が愉悦に歪む。

「ちくしょうが・・・・!」

そんなヒュアツィンテを、辰巳は鎧越しに睨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左の通路へ入った信也たち。

「佐奈さんたち、大丈夫かな・・・?」

「俺はどっちかっていうと東郷たちの方が心配だがな・・・」

信也の懸念は最もだと思う。なぜなら、風達が相手にするのは、かつて勇者部に所属し、皆のムードメイカーとして盛り上げていた結城友奈なのだ。

そして、彼女たちの掛け替えのない、友達でもあった少女だ。

いざって時に、手加減をしないだろうか。それが、信也の心配だった。

だが、そんな信也の肩に、真武郎が手を置く。

「俺たちは俺たちのやる事に集中していればいいんだよ」

「真武郎さん・・・ああ、そうだな」

信也は前を見る。その視線の先には、扉が一つ。

「行くぞ!」

「おう!」

「ええ!」

「「うん!」」

「ああ」

皆の返事を聞いて、信也が、その扉を蹴り開ける。

そこは、一見して、ドーム状の広い空間であり、なんの変哲もない空間だった。その部屋には、一人の男が待ち構えていた。

「来たか、罪人ども」

「絶望のブルーメ・・・」

「予想的中だね」

皆、すぐさま臨戦態勢に入る。

「ふむ、六人か。ずいぶんと舐められたものだ。あの三ノ輪剛とかいう男よりもやりがいの無い奴らが何人集まった所でオレに勝てる訳がないが、たった六人とは、随分と舐めた真似をしてくれる」

「言ってろ獣野郎。テメエはここでぶっ倒れてろ」

「口先だけは言い様だな。だが―――」

瞬間、

「遅い」

「ッ!?」

ブルーメの姿が消え、信也の後頭部を、恐ろしい程重い衝撃が迸って吹き飛ばされる。

「信也く―――」

いつの間にかブルーメが信也の背後に立っており、地面を何度も跳ねる信也を恐ろしい速度で追いかける。

「づっ、このッ!」

どうにか態勢を立て直し、信也は、高速で迫るブルーメを迎え撃つ。

「『獣ノ力(ビースト・フォース)』――――『兎の跳躍(ラビット・ジャンピング)』ッ!!」

ここでブルーメは地面を蹴って弾丸の如く信也に突進。そして、拳を引き絞る。

一方の信也は左足を下げて、爪先を地面に引っ掛けるように構えて―――

「『馬兎蹴(バットキック)』ッ!!」

渾身の回し蹴りがブルーメの顔面を狙う。

だが、顔面を狙ったブルーメの頭の高さが唐突に低くなる。

「なっ!?」

「フハハッ!!遅いぞ!!!」

ブルーメは、突進する際、わざと態勢を高くしていた。それは、信也が反撃してくることを予想し、その為にわざと頭を突き出す事で顔面を狙わせたのだ。そして、その目論見は成功し、信也の仰角の高い蹴りは見事に空振り、そしてブルーメは瞬次に信也の背後に回って、その後頭部を叩いて地面に叩きつける。

「ごっ!?」

「フハハハ!!のろい、のそいぞ罪人共よぉ!!」

が、そこでブルーメがすぐさま飛び退き、そこへ白露の爪が錯綜する。

「かわされた!?」

「問題ない」

すかさずブルーメが逃げた先の周囲に光の方陣が無数に展開され、ブルーメに向かって一気に解き放たれる。四方八方から襲い掛かる銃弾の嵐。それをブルーメは掻い潜り、白露へ『大猿ノ鉄拳(コングブロウ)』を叩き込もうとする。その一撃を白露はその柔軟性を生かして躱し、さらに懐に潜り込んではその腕の上に乗って、ブルーメの顔面に蹴りを入れる。だが、

「惜しいな」

「やばっ」

その蹴りは受け止められていた。

ブルーメがその足に力を込めようとした所へ。

「その手を放せぇえ!!」

幸奈の拳がブルーメの腹に叩き込まれる。

「無駄だ」

「ッ!?」

だがそれですら、ブルーメの展開する『犀ノ鎧(ライノメイル)』に阻まれる。

このままでは白露の足は握りつぶされる。だが、それを黙って見過ごせる程、真武郎は甘くなく、そのブルーメに向かって槍を投擲する。

恐ろしい速度で飛んでいく槍はすぐさまブルーメの胸に飛び込むも、その刃はやはり光の鎧によって防がれる。

だが、真武郎の目的は直接的な攻撃ではなく――――

「爆ぜろ」

爆発によって吹っ飛ばすことだった。

「ぬうお!?」

その衝撃でブルーメは靴底をすり減らしながら後退。吹き飛ばされた拍子に白露を話してしまう。

「助かったよ真武郎さん!」

「なーにお安い事よ」

どうにか踏み止まったブルーメは状況を確認する。

健在なのは幸奈と白露、そして狙撃手に槍の男だ。床にめり込ませた信也は死んではいなくてもしばらく動けない筈だ―――

(・・・もう一人はどこだ?)

確か、部屋に突入してきたのは六人のはずだ。だが、今確認したのは五人。一人足りない事に、ブルーメは気付き――――

「そこか」

「うわ!?」

背後からブルーメの首を掻っ切りに来た美紀を殴り飛ばす。

「美紀ちゃん!?」

メスが砕かれている。だが、吹き飛ばされる最中で美紀は態勢を立て直し、どうにか着地する。

「大丈夫!」

見ればブルーメの拳に一筋ながら切り傷が出来ていた。

殴り飛ばされる瞬間、ブルーメでさえも見えない程細いピアノ線とメスで防いだのだ。

「ぬぅ・・・」

「オラァッ!!」

さらに、もう復活した信也が上空から踵落としを叩きつける。

「ぬるいわ!!」

「づっ!?」

しかしブルーメはそれを真正面から迎え撃ち、逆に信也を吹き飛ばす。だが、信也の足には思った以上のダメージは来ておらず、くるくると空中を回転した後に、幸奈達の元へと着地する。

「くっそ、どんな反応速度だよ」

「威力はともかく、頑丈過ぎて攻撃が通らない」

「私の速さにも追い付いてくるし・・・」

「でも、効いていない訳じゃないと思うよ」

真武郎が指差す先。ブルーメの胸板がやや焼け焦げている。

真武郎が爆撃した所だ。

「高威力の攻撃なら通用するようだねぇ・・・」

「だったらやる事は簡単だ」

信也が炎に包まれる。

「真解―――『炎帝ノ蹴馬』」

それに続くように、白露、幸奈、美紀も己の奥の手を発動する。

「真解―――『月下之白虎』」

「ぶっ壊せ―――『スリュム』ッ!!」

「やっちゃうよ―――『ジャック・ザ・リッパー』」

四人の姿が変化する。

「フハハ、それが貴様らの奥の手か。ずいぶんとちんけな恰好だな」

「うっせえよ上半身裸野郎」

「ちんけかどうかは、一度やり合ってから決めなさい!!」

幸奈が仕掛ける。

その背後で、海路が狙撃銃を構え、その引き金を引く。

銃口からだけではなく、空中に方陣を描いて放たれた弾丸は全部で五発。

それらがまるで蛇のような軌道を描いて、四方からブルーメを狙う。

「笑止ッ!」

だが、それらすべてを一度に叩き落され、次に迫る幸奈を迎え撃とうとする。

そうして、幸奈がブルーメの射程範囲に足を踏み入れた瞬間、両側から影が一つ幸奈を追い抜く。

「ぬっ!?」

「やぁ!!」

白露の爪がラヴァンドを襲う。だが、それをラヴァンドは白露を逆に殴り飛ばす事でそれを防ぐ。

「がっ!?」

そこへすかさず幸奈の全てを凍てつかせる拳が叩きつけられる。しかし、それを恐ろしいまでの柔軟性で、体を逸らす事で躱され、その態勢で体を回転させて、拳を幸奈の腹に叩きつける。

「げぼっ!?」

天高く飛ばされる幸奈。しかし、

「ぬっ!?」

拳が凍っていた。

幸奈の全身は常に氷点下の冷気が纏われている。それがブルーメの拳を凍らせたのだ。

そこへ、三発の火球が迫る。

それがブルーメに直撃する。が、その三撃はブルーメの展開する鎧に阻まれていた。

信也の『火炎砲撃(フレイムシュート)』である。

「はっ、その程度か?」

嘲笑うブルーメ。そして()()()()()()()()()()()()()()()

確かな手ごたえ。しかし肉の手応えではなく金属の手応えだ。

「あう!?」

吹き飛ばされる小柄な影。

その影は吹き飛ばされる中で態勢を立て直し、上手く着地する。

「くっ・・・!!」

砕かれたメスを見て、美紀は悔しそうする。

「ふはは。同じ手が何度も通用すると思うな」

腹を殴られた筈の幸奈は、冷気を感じたブルーメが拳を減速させたお陰で大事には至っておらず、白露はその柔軟性を使って衝撃を上手く逃がし、ダメージを軽減していたので、無事に着地していた。

そして、その場にいる全員が、ブルーメに勝つつもりで彼を睨んでいた。

それを感じ、見たブルーメは、

「・・・・不快だ」

その身の内に巣くう殺気を増大させた。

『――――ッッ!?』

「貴様らのような罪人が、我々と張り合おうなどと片腹痛いわ」

押し潰されるような殺意の重圧。空気が張り詰め、呼吸がままならなくなる。

「いいだろう。ならば貴様らに思い知らせてやろう。貴様らに希望などなく、あるのは絶望だけと。罪人が行きつく先には絶望しかないのだと、それを今ここで証明してやろう」

ブルーメの殺気が増大するとともに、ブルーメの纏う魔力が膨れ上がる。

(こいつは・・・獣なんかじゃない・・・!!)

そんなものは生温い。これは、獣などとは明らかにかけ離れている。

そう、これは、例えるなら、この、怪物は―――――

 

 

―――『魔獣』だ。

 

 

「『魔獣ノ力(ビースト・フォース)』―――」

次の瞬間―――

「がっ!?」

海路が沈んだ。

「なッ!?」

「海路――――」

次に、真武郎が吹き飛んだ。

その時、幸奈は、瞬きをした。

そして次に目を開けた時には、

「あ・・・・」

信也は壁に叩きつけられ、白露は地面に倒れ、美紀は、ブルーメの手で血塗れになってぐったりとしていた。

真武郎は、あの一瞬で吹き飛ばされて壁にめり込み、海路は地面に頭をめり込ませていた。

残っているのは幸奈であり――――

「貴様で最後だ」

その声を最後に、幸奈の意識は吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優たちが向かったのは、ブルーメの部屋と同じく、だだっ広い部屋だった。

そこには、さも当然のようにラヴァンドが待ち構えていた。

「やあ来たねぇ。少し竜牙兵たちに足止めされるかと思ったけど、どうやらそれすらもできなかったみたいだね」

「あんな雑魚、遅るるに足りんわ」

「うおっ、優って怒るとこんな口調になるんだね・・・」

「という、か、こっち、が、素」

「へ?」

「そんな事より構えなさい。来るわよ」

雅の言葉に全員が構える。

「準備が早いのは良いことだよ。まあ最も、それで君たちが勝てる保証は、ないんだけどね」

そこでラヴァンドが指を鳴らす。次の瞬間、ラヴァンドを中心に床に波紋が広がり、さらに部屋中に、剣や槍やらが出現する。それもどれもこれも地面に突き刺さっている状態だ。

「これは・・・!?」

「これ全部僕の支配下にある剣だよ。だからまあ・・」

「ッ―――」

真っ先に対応に走ったのは弘。空中に剣を展開する。だが、その展開した剣は、地面から突然、飛び跳ねるかのように浮き上がったかと思うと、浮き上がったと認識する前に、弘の展開した剣を全て自らの刀身(からだ)もろとも砕き散らせた。

「なッ・・・!?」

「こうして先手を打つことができる」

ラヴァンドはすでに剣を用意している事に対して弘の方は展開してから射出する。それ即ちワンテンポ、弘は遅れるという事であり、何事においても先手を打たれる事になってしまうという事でもあるのだ。

「やられた・・・」

「僕、これでも結構めんどくさがりでね。だからさっさと死んでもらうよ」

いくつかの剣が浮き上がり、その切っ先が全て彼らに向けられる。

それに対して、彼らはそれぞれの武器を構えて迎え撃とうとする。

そして、彼らに向かって一気に剣が叩きつけられる―――その瞬間に、

「『呪詛返し(フルカウンター)』」

威力が倍増されて、全てラヴァンドにはね駆ってきた。

「ッ!?」

それには、流石のラヴァンドも驚き飛び退る。

「ああ、そうだったね」

そして思い出す。

「君はそういう技を持ってたんだっけ」

殺到する剣を弾いたのは、優ただ一人。ありとあらゆる物理攻撃、及び異能攻撃全てを威力を倍増させて撃ち返す事の出来る、反撃特化の真解『呪装滅布』を起動させることで、ラヴァンドの放った剣を全て撃ち返したのだ。

「貴様は私が殺す・・・」

呪詛のような言葉と共に、地面を蹴る優。

「ちょっ!?」

その行為に思わず瞠目する雅。

「雅姉、本、体は、任せ、て、私、たち、は」

「ええ・・・ええ、そうね。準備はいいかしら?」

「いつでも」

襲い掛かる刀剣を迎え撃つ雅達。その一方で優は真解によって肉体の成長による身体強化された体による踏み込みでラヴァンドに迫る。

拳が空ぶる。ラヴァンドは上空、すかさず飛び上がって手刀で追撃するも、やはり躱され背中を蹴られて地面に叩き落とされる。どうにか着地した所で、背中に気弾が何十発も叩き込まれる。

だが、優の防御力はそんなものを通す事は無く、見事耐え切って振り向きざまに後ろ回し蹴りを繰り出す。しかしそれすら躱され、距離を取られる。優はすぐさま距離を詰めて拳を握りしめるなりラヴァンドではなく地面を殴る。半径五メートルの範囲に亀裂が迸り、そしてその亀裂の上を踏んだラヴァンドの足に隙間から布が飛び出し拘束する。

「なにッ!?」

「ゼァア!!」

優の拳がついにラヴァンドに届く。それによってラヴァンドは吹き飛ぶ。

「どうだ・・・」

「と、思うじゃん?」

「ッ!?あぐっ!?」

しかし背後から声が聞こえ、振り返れば頬に衝撃が走り、吹き飛ばされる。

何故か、後ろにラヴァンドがいた。

「ど、どうして・・・!?」

「単純な話、あれは偽物で、僕が本物だ。いや・・・・それはどうかな?」

気付けば、優の周囲には数十にもわたるラヴァンドが出現していた。

「分身か・・・」

「その通り」

そのラヴァンドたちの一人が優に襲い掛かる。

「ふぅー・・・」

それに対して、優は深呼吸をし、そして腰を落としては拳を腰に当てる。

そして、ラヴァンドの手に握られていた剣が、優の首に向かって叩きつけられる。

だが、それはある意味では悪手だ。

ラヴァンドの攻撃が直撃した瞬間、そのラヴァンドの腹から鮮血が飛び散る。

「ごふっ!?」

「『自動反撃(オートカウンター)』」

ありとあらゆる攻撃に対して、ほぼ脳髄反射で相手に反撃する、優の基本戦術。

相手からの物理攻撃を誘い、そして相手が射程に入り込み、そして、攻撃という絶対的な隙が出来る瞬間にその攻撃を自ら受けて反撃する。

その後手必勝の力を持つ優だからこそ、この数を相手にしても一切怖気づく事がない。

「なるほどねえ。それはちょっと厄介だな」

「分かったのならさっさと死ね」

「それは嫌だ。僕はこれからも怠惰に生きていたいんだ。だからね」

全てのラヴァンドが優に向かって手を掲げた。

「?」

「その力、ちょっと封じさせてもらうよ」

「何を言って・・・うぐあ!?」

次の瞬間、ラヴァンドから電撃が発せられ、優に直撃する。

「くう・・・これが一体・・・」

『やばいぞ優・・・』

その時、彼女のサポートAI的立場にいる虚像布専用の精霊『虚』が、震える声で優を呼び止める。

「虚君・・・?」

『体が柔らかくなっていやがる・・・化身刀(タケミカヅチ)が解除されていやがる!!』

「な!?」

「そういう事だ!」

ラヴァンドの一人が剣を振り上げて襲い掛かってくる。

その一撃を、優は思わず拳で迎え撃ち、弾き返すが、もう一方から襲い掛かるラヴァンドが優の脇腹目掛けて襲い掛かる。

(大丈夫、私の体は鋼だ。だから刃は通さない、通さないはず―――)

次の瞬間、ラヴァンドの刃が、優の脇腹を抉った。

「うっぎぃっあぁぁぁあぁああああ!?!?」

鋭い痛みが脇腹から迸る。そして優は、絶叫する。

「ッ!?優・・・!?」

その事に気付く冬樹。

「う・・・ぁ・・・」

痛みに耐え切れず、地面に崩れ落ちる優。

(な、なんでこんなに・・・!?)

痛みなら、椿との特訓ですでに克服している。だが、この痛みは、その時の何十倍も痛い。そう、まるで、感覚を引き上げられたかのような――――

「正解だよ」

ふと、突然ラヴァンドが何かを肯定し始める。

「あの電撃には君の固い皮膚を柔らかくするだけじゃなく、感覚を操作する効果もあるんだよ。今の君は、痛覚だけを引き上げさせてもらっている。そうだな、分かりやすく言えば、ただの人間の拳が弾丸ぐらいの威力に感じる程かな?」

「感覚・・・・を・・・・そう・・・・さ・・・!?」

「そう、これが僕の『贋作技(フェイカースキル)』の一つ、『無慈悲なる拷問(クルーエル・トーチャー)』。これを発動すれば、相手の感覚を強化し、逆に剥奪させることもできる・・・例えば、こんな感じに」

次の瞬間、優の視界から全てが消え失せる。

「え・・・あ・・・」

突然の視界のブラックアウト。景色はともかく、手すらも見えない。

「今、君からは『視覚』を剥奪させてもらった。ほとんどの生物は周囲への認識のほとんどを目に頼っているからね。突然何も見えなくなるのはとてつもない恐怖になるだろうね」

耳元でささやかれた。優は己が勘に頼り、振り向きざまに手刀をなぐ。

だが、手応えが無い――――

「次に、君からは嗅覚を遮断させた」

気付けば、流していた筈の血の匂いが消えていた。

いや、違う。これは、匂いがしないんじゃない。嗅げなくなったのだ。

「さらに、触覚」

地面に足をつけている感覚が消える。

「あ、あれ・・・?」

(私・・・・倒されたの?それとも、宙に浮いているの?)

何も感じない。何も匂わない上に、目も見えない。

(でも、まだ・・・耳が――――)

「そろそろ、君から全ての感覚を剥奪してみようか」

次の瞬間――――本当に何もわからなくなった。

(あ・・・れ・・・・)

平衡感覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚、遠近感、視覚など、全ての感覚が消え失せ、全てが無に帰す。

何も感じないし、何も聞こえない。

(やだ・・・怖い・・・・)

その、何もなさが、優におぞましいまでの恐怖を与える。

(誰か、助けて、怖い、怖い・・・暗いのは怖い・・・誰か、誰か答えて・・・お願い・・・誰か・・・いや・・・一人は・・いや・・・助けて・・・一人にしないで・・・千景さ―――)

そして―――体のほとんどが抉り飛ばされたと錯覚するような痛みが、駆け巡った。

 

 

「ぎぃぃあぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁああああぁぁああぁぁぁぁああぁあああぁあああぁあぁぁぁぁあああぁああああああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁあああ!?!?!?!?!?」

「そして痛覚を最大にまで高めた。普通の人間ならこれでショック死して死んじゃうんだけど、君は並大抵以上の精神力を持っているようだね。ただ絶叫するだけで気絶しないだけマシだね」

地面を転がり暴れる優を見下して嘲笑うラヴァンド。

ラヴァンドは、優への攻撃を鞭を叩きつける事にしたのだ。

たったそれだけで、優の精神へ多大なるダメージを与えたのだ。

「優!!」

「優ちゃん!!」

今すぐに助けに行こうとする冬樹たち。だが、その彼女たちの前に、ラヴァンドの分身体が立ちふさがる。

「そこをどけ・・・真解『水底之武士』ッ!!」

羽織を脱ぎ捨て、身軽になり、さらに身体能力に大幅な強化が施される冬樹の最強形態。

その状態で踏み込んだ冬樹の動きはもはや不可視の領域であり、常人にはまず防ぐことは出来ない。

だが、ラヴァンドはあろうことかそれを躱し、そしてがら空きの腹へ光弾を叩き込もうとする。

しかし寸での所で足裏から水を高圧で噴出し、前に飛び出す事で直撃を回避する。

「ッ、手強い・・・!!」

分身体なのにこの強さ。冬樹は思わず歯噛みしてしまう。

「うあぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁああああ!?」

「ッ!?」

絶叫が迸り、見れば、ラヴァンドが優を徹底的に攻めていた。

「あぎっひ、が、くあ、あぎぃっあ」

倒れ伏し、悶え苦しむ優の上空に光の球が浮遊している。ラヴァンドが手を掲げ、それを振り下ろせば、球は矢となって優に降り注ぐ。

「あぁぁぁああぁぁあああああぁぁあああああ!?」

彼女のイメージではすでに自身の体は滅んでいるものと同じ程の苦痛が何度も何度も叩きつけられているのだ。

まだ小学生である彼女には――――あまりにも荷が重い。

「あ・・・うあ・・・・」

これ以上は、優の身が持たない。

急いで駆け付けなければ。

「こっのぉ!」

弘が門を開いても、すかさずラヴァンドの剣に弾き飛ばされる。

「くっ!」

雅が重力砲を放とうとすれば、すぐさまラヴァンドの分身体が異能を率いて妨害してくる。

そして、冬樹に至っては――――

「く、う・・・」

凄まじい連撃によって完全に封殺されていた。

「さて・・・」

「うぐあ・・・」

優の腹を、ラヴァンドは踏みつける。

「そろそろ命乞いをしたらどうだい?そうすれば、すぐに楽にしてあげるけど?」

聴覚だけを戻し、そう囁くラヴァンド。

ここまで痛めつけたのだ。そろそろ楽になりたいだろう。

「ッ・・・絶対に・・・いや・・・・」

だが、そうであっても、優は決して、首を縦に振らない。

「ふーん・・・じゃあ、痛みに悶え苦しみながら、死ね」

ラヴァンドが優から離れる。そして、片手を掲げると、優の真上に何かの塊が出現する。それは物質ではない。別の何かだ。

「これは痛みと苦しみが詰まった『痛覚の檻(ジェイル・ペイン)』ていう技でね。蓄積したダメージや痛みを、凝縮したのがこれだよ。さて問題だ。これを、今の痛覚を最大にまで引き上げている状態で使ったらどうなるんだろうねえ?」

「なっ、まさか・・・!?」

「やめろぉ!!」

雅や弘の言葉など当然聞き入れる訳がなく。

「さあ・・・・人生最大の苦痛を味わってから、死ぬと良いッ!!」

ラヴァンドの手が振り下ろされ、痛みの塊が振り下ろされる。

すでに、優に動けるだけの余力はない。

(ち・・・かげ・・・さ・・・・)

ただ思う事、それは、先に逝ってしまった、想い人の事だけだった。

そして、『痛覚の檻』が、優に落とされた。

「優ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああん!!!」

雅の絶叫が迸る。炸裂した光は拡散し、爆発を引き起こす。

「終わったね・・・・ん?」

その様子に、ほくそ笑んでいたラヴァンドであったが、突如として優がいた方向から矢が飛来する。

「うわっと!?」

「『雷神の一撃(ミョルニール)』ッ!!!」

「なにッ!?」

さらに、ラヴァンドの真上から、極太の雷が落とされる。

「今の雷は・・・まさか・・・!!」

「うん・・・おまたせ・・・・」

「真斗君!!」

見れば、そこには巨大な体躯を持った少年、真斗が片手にハンマーをもって佇んでいた。

「優も・・・無事・・・」

そして、真斗が指差す先には、

「・・・よく頑張ったな」

腕の中で、静かな寝息を立てる少女が生きている事を確かめ、そして、その傷つき様に、ぎゅっと、その小さな体を抱き締める。

「やれやれ酷いなぁ、一応僕は君たちに恨みなんてないんだけど?」

「当然だ。なぜなら私たちはお前たちに、一切、攻撃なんてしていないんだからな」

優をそっと寝かせ、彼女は立ち上がる。

「だが、私にはある」

怒りを瞳の奥で滾らせて、佐奈は、ラヴァンドを睨みつけた。

「やれやれ、こんな所まで追いかけてくるなんて。君、案外僕に気があったり?」

「私が生涯愛する者は、すでにいる」

「それは残念。そのついでといっちゃなんだけど、ここで引いてくれると嬉しいんだけど・・・その気は全くなさそうだね」

「ああ、私はその為にここにいる。お前を討ち、マギアクルスを狩る。それが、私がここへ来た目的だ」

佐奈が、弓を引き絞る。

「構えろラヴァンド。この安室佐奈、罪人(とがびと)としての贖罪の為に、今ここで貴様を討つ!!」

ラヴァンドの瞳に、暗い苛立ちが垣間見えた。

「罪人が何が贖罪なのかを決めるんじゃないよ。それじゃあ断罪人としての立場がなくなっちゃうじゃないか。だから、僕が君に贖罪とはなにかを教えてあげるよ」

一触即発の緊迫感が、部屋を満たす。

だが、その拮抗はすぐに破れ、ラヴァンドが走り出していく。そして佐奈は、そんなラヴァンドに向かって矢を解き放つ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四国香川県丸亀市、乃木邸にて―――

 

 

 

乃木の家には、代々より受け継がれてきた、一本の刀がある。

 

初代勇者が振るっていたとされる刀であり、言い伝えによれば、その刀には、その初代勇者の魂が刻まれているという――――

 

 

その刀から、唐突に青い炎が燃え広がり、保管されていた地下室から天井へ一気に飛び上がり、そしてそのまま乃木邸の屋根をどこへともなく飛んでいく。

 

 

一体、何がどうなって、そうなってしまったのか。

 

 

 

 

 

 

 

その理由は、誰にも分からない―――――

 

 

 

 

 

 

ただ、その刀が飛んでいった先にあるもの。それは――――神樹の御神体だった。




次回『願いを求める者(エゴイスト)

願いとは、その者の自己(エゴ)である。
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