不道千景は勇者である 作:幻在
――――刃が錯綜する。
赤い流星が、赤熱する熱線に突っ込み、空中に波紋を広げる。
そして立ち上るは熱の壁。それを、手に持つ刀によって一気に切り裂く。
その時、頭上に熱を感じて見上げれば、形を成した熱が、槍として三本も形勢されていた。
「ゼェアァアア!!」
気合の声と共に、それらが叩き落される。
それらが彼に当たり、爆発を引き起こす。大きなきのこ雲が立ち上る。
だが、その熱の中を、青年はその装束を燃やしながら、討つべき敵に突っ込む。
「オォアァア!!!」
「くっ!!」
突進、刃を押し付けるように、敵に激突する。そのまま弾き飛ばし、追撃の斜め下からの切り上げを続行。
刃が掠める。しかし当たらず、神速の突きが彼を襲う。されどそれらを斬り払い、青年は反撃に斬撃を飛ばす。
されどその斬撃は弾かれ後ろに飛び、その背後の地面を断克する。
「―――見事だ」
敵が―――ジガが称える。
「お前は、俺が今まで戦ってきた者の中で、誰よりも強い。その技に、剣に乗せた想い。それら全てが称賛に値する」
「それは光栄な事だ。だが、俺はお前に勝たなければならないッ!!」
青年―――春信はそう叫ぶなり、弾丸の如き速さでジガに接近する。
繰り出される神速の斬撃、それらをジガは全て防ぎきる。
だが、最後の一発、槍が思いっきり弾かれる。
「ぬっ!?」
「竜月ッ!!」
そして、春信最大の得意技『竜月』が炸裂する。
竜の爪の如き勢いで、月を描くように斬撃を繰り出す事から、その名がついた技。
「見事―――」
その一撃すら、ジガは称賛する。
「お前の剣から、守るべきものを持つ、戦士の気迫を感じる―――」
突きの構えを取る。
「このままいけば、俺は負けるだろう」
地面を蹴り、突きを放つ。
「どうやら今のままでは、不足らしいな」
その言葉に、剣閃が鈍る。
不足。それは一体どういう意味なのか。
鈍った剣閃を弾かれ、距離を取らされる。
「故に俺は、お前に勝つために、さらなる力を解放するしかない」
「さらなる力だと・・・!?」
「そうだ。お前たちで言う所の、満開というのだろうか・・・・だが、お前たちは神からその力を借りている身、この力は、正真正銘、俺の力だッ!!」
ジガの熱の色が変わる。
「我が
その色は、青。
膨れ上がる、絶対的圧力。
ジガの胸が、背中が青く、発光する。
「『
熱が解放される。
「ぐぉ!?」
放たれる熱量は、先ほどの比ではなく、一気に肺が焼かれてしまう程熱い。
ジガの体は青く発光し、周囲の物質が一気に溶けていく。
その姿は――――まさしく神。
「お前は・・・一体・・・!?」
「さあな。だが、ただ分かる事は――――俺は熱の化け物だという事だけだ」
ジガが構える。
「行くぞ」
そしてそう呟いた瞬間、春信が吹き飛ばされる。
「ぐぅあ!?」
吹き飛ばされた春信は、そのまま砲弾のように飛んでいき、すぐさま追い付いてきたジガに地面に叩き起こされる。
そして、先ほどとは比べ物にならないほどの威力となった熱線が放たれるる。
「『
体を転がす事によって回避。だがそのビームは春信に向かって薙ぎ払われ、一気にその射線上の地面が大きく抉り溶かされる。
その様子を見届けるジガの横から春信が飛び掛かる。
叩きつけられる刃を、ジガは受け止める。
「甘いッ!!」
「ッ!?」
ほぼ反射的に体を捻る春信。その横を、ジガの熱線が通過する。
耳が僅かに焼け、痛みが響く。だが、それを気にしていられる時間はない。
左手に持った刀を一気に薙ぐ。だが、それすらも躱されて、ジガが上空からあの青い熱線を放つ。
「竜月ッ!!」
反撃に渾身の斬撃を飛ばす。
熱線と斬撃が正面からぶつかる。
だが、その拮抗は、五秒で終わり、春信の方へ押し込まれていく。
「ッ!?」
その熱線が、春信に直撃してしまう――――その時、その熱線が突如として拡散する。
「「ッ!?」」
それに目を見張る春信とジガ。
「ヤァァア!!!」
そして、ジガを横から、襲う者が一人。
金紗の髪をなびかせて、一人の少女がジガに襲い掛かる。
その手には、柄の長い、槍。
放たれる斬撃は千剣が如く、その斬撃がジガに一気に叩きつけられる。
それらを全て弾き飛ばし、ジガはすかさず、熱線を放とうとして腕を振りかぶる。だがその手に向かって、どこからともなく何かが飛来し、それの狙いがジガの手だと悟るや、ジガはすぐさま攻撃を中止し、その何かを弾く事に対応する。
そして、そのジガに向かって、少女の蹴りが叩きつけられ、吹き飛ばされる。
ジガはどうにか態勢を立て直して地面に着地する。
「・・・ふむ」
蹴られた胸に触り、ジガは関心を示す。
「良い太刀筋だ。あの時とはまるで別人のようだ」
「それはありがとう。でも、私は貴方を倒すからね」
少女は槍を手の上で踊らせる。
そして、背後に立つ春信に、少女はこう声をかける。
「遅れてごめんなさい、春信さん」
少女は―――乃木園子はそう言った。
「やれやれ、お前という奴は・・・・」
そんな園子に春信は思わず笑みを零す。
「いつも、良いタイミングで来てくれる」
「えへへ」
その言葉がよほど嬉しいのか、はにかむ。
園子の隣に立って、ジガにその剣を向ける春信。
「約束だ。俺の隣で戦え、園子」
「うん。絶対に、貴方の隣は誰にも譲らないから」
そんな、二人の様子に、ジガはなるほどと納得する。
「比翼連理とはこのことか・・・・良いだろう。二人まとめてかかってくるが良い」
ジガがその両手に熱を集める。それを見た二人が一気に駈け出し、次の瞬間、ジガと園子と春信がぶつかる――――。
「だぁああ!!倒しても倒しても全然減らねぇぇええ!!!」
襲い掛かる竜牙兵やらゴーレムやらを数えきれない程倒して、明日香はそう絶叫する。
「黙れ明日香!気が散るだろうが!!!」
「そしてこの辛辣な返し!」
「でも、確かに疲弊が激しいわね・・・一旦、どこかに退避するわよ!」
指揮官として、部隊の疲弊を案じて後退を支持する。
「もう少し倒して成果を挙げたい所ですけど、仕方ありませんわね」
「チッ!しゃあないか」
「将真、『
「承知した!」
将真が地面を叩く。床が砕け、無数の礫が空中に散らばる。将真はそれを操り、襲い掛かる竜牙兵に向かって一気に放つ。
「銃剣隊構えッ!!目標、敵集団の一点ッ!ってー!!」
素晴らしい程整った動きで構えられた銃剣が一斉に火を噴く。その方向は今まさに背後から襲い掛かろうとしていた竜牙兵の集団に向かって叩き込まれ、一気にその数を減らされる。
「今よ!護盾隊!突撃ィ!!」
そして、護盾隊が銃剣隊と入れ替わるようにその方向へ突撃。ほとんど竜牙兵を倒したとはいえ、まだ生き残りがいる。その生き残りに向かって盾による突進を敢行したのだ。
案の定、生き残っていてももはやその突進を耐え切る余力のない竜牙兵たちは一気に砕かれ、彼らの突破を許す。
「走って!!」
芽吹の叫びに、他の者たちも一気に駆け抜ける。
そうして、しばらく走った後、唐突に戦闘を走っていた雀が突如として通路の片隅にある部屋に突っ込んでいった。
「雀!?」
「あそこだぁ!」
一目散にその部屋に入っていく雀。
「皆!雀に続きなさい!」
雀の未来予知にも匹敵する生存本能があそこを示したのだろう。ならば従わない手はない。
彼らはまとめてその部屋に入る。幸い、その部屋は広く、防人部隊が全員入ってもかなりの余裕があるほどの部屋だった。
そして、大急ぎで扉を閉め、全員に静かにするようにと合図を送り、壁に耳を当てる。
がしゃがしゃと竜牙兵の骨同士が擦れるような足音がいくつも聞こえていく。
だが、その音はやがて遠のき、完全に消えた所で、芽吹は一息つく。
「どうにか凌いだようね・・・」
とりあえずは一安心といった所だろうか。
その事に、芽吹のみならず防人部隊全員が安堵の息を吐く。
「だがどうする?このままここで戦っていてもじり貧である事には変わりないぞ」
「もう敵の所にはついているでしょう。一応、足止めするっていう役割は終わったわ。後は、彼らの援護に行くだけよ」
そこで芽吹は腰のポーチから何かの端末を取り出す。
タブレットサイズの携帯端末ようだ。
「それって確か・・・」
「ええ、神代さんがくれた、勇者全員の安否を確認できる端末よ」
ついでに、全ての勇者が通った通路についても自動でマッピングしてくれる優れものである。
「辰巳さんがヒュアツィンテと単独で戦闘、他の勇者たちは四人に分かれていて、浅羽さん、磯部さん、新井さん、稲成さん、森谷さんがブルーメと、桐馬さん、安座間ちゃん、水霜さん、加賀さん、車田くん、安室さんがラヴァンドと対峙してて、そして東郷さん、樹ちゃん、夏凜、風さんが今結城さんの所に向かっているわね。そして春信さんと乃木さんがジガと交戦・・・・三ノ輪さんは今の所戦線離脱って所ね・・・・」
「辰巳師匠・・・一人で大丈夫だろうか・・・」
そう呟く将真。
「大丈夫だって」
「明日香」
「辰巳師匠が強いって事は皆知ってるだろ?誰に扱かれたと思ってんだよ」
そう言って胸を叩く明日香。
そんな明日香に、皆呆気にとられ、そして次に全員が一斉に噴き出す。
「そりゃそうね、一番やられたアンタが言うと説得力あるわ」
「あれー、なんか場の空気が和んで良い事のはずなのに、なんか嬉しくねー」
妙にしっくりこない明日香の差し置いて、座っていた芽吹が立ち上がる。
「じーっとしててもどうにもならないわ。今から複数の班に分かれて、それぞれの援護に向かうとしましょうか」
その芽吹の提案に、一同が頷きかけた時、
「隊長!」
一人の男子隊員が、部屋の奥から声をかけてくる。
そちらに一斉に視線を向ければ、そこには三人の男子隊員が、謎の球体を指差していた。
「あれなんでしょう?」
その球体はガラスのようで、その中には、何か、結晶のようなものが入っていた――――
剣が飛来し、それを辰巳は弾き飛ばす。
「ふふ、一体いつまで逃げ回るつもりなのでしょうか?」
そんな辰巳の様子を、ヒュアツィンテは嘲笑い、いつまでも、ドーム状の部屋の周りをぐるぐると走り続ける辰巳を眺める。
「くそっ・・・」
悪態を吐くも、それでも剣は襲ってくる。
炎を纏う『
それを大剣の一撃で薙ぎ払えば、今度は『
その火炎が直撃し、その炎の中から辰巳が転がり出てくる。
「ハア・・・ハア・・・」
初めの毒の影響で、酷く体が重い。だが、それでも、対応できない程ではない。
「なかなかしぶといですね。人の身に圧縮された竜の力が、私の毒を吹き飛ばしているのでしょうか?いいえ、ありませんね」
ヒュアツィンテが、八本の剣の内、七本を集合させる。
「『
剣が回転する。
その一回転で、その剣の形状が変わる。
「ッ!?」
「やりなさい『
一際巨大な剣が襲い掛かる。それを横に飛ぶことで躱すも、その剣が叩きつけられた地面が、呆気なく割れる。
「なんッ!?」
「『
銃弾が飛び、辰巳の足を撃ちぬく。
「がッ!?」
「『
さらに、一本の短剣による突撃を喰らい、吹き飛ばされる辰巳。
「ぐぅあ!?」
「まだまだ行きますよ。『
さらに、二本の剣が飛んでくる。一方はカトラス、もう一方は、引き金のついた銃剣―――
「ッ!!」
突っ込んできたカトラスを弾くもすぐさま返ってきては追撃の斬撃を放ってくる。それの対応に見舞われる辰巳に、背後からゆっくり狙うは引き金のついた銃剣。
そして、カトラスが器用に辰巳に攻撃をしかけていると、辰巳に出来た一瞬の隙に向かって、背後の銃剣が弾丸を放つ。
放たれた弾丸の狙いは、辰巳の肩。その弾丸は、寸分違わず彼の肩を撃ち抜く。
そして、そこへカトラスが辰巳の首を跳ねんと水平に斬撃を放つ―――だが、その斬撃を、辰巳はあろうことか素手で止めた。
「この、程度で・・・」
撃ち抜かれた肩の傷は、すでに塞がっていた。
「俺を仕留められると思うなッ!!」
一気に地面に叩きつける。そして、背後の銃剣に向かって竜月を飛ばし、弾き飛ばす。
「一か八かだ――――ッ!!」
後ろに振りかざした大剣が黄昏の光を纏う。
「ふむ、そう来ますか――――」
それを見たヒュアツィンテの声に動揺は無く。
「―――『
ヒュアツィンテの左目に、時計が映る。その時計が、高速で回転し、そんなヒュアツィンテの視界に見えたのは―――――
「見えました、貴方の未来が」
不敵に笑い、ヒュアツィンテは、一本の剣を手に取った。
「―――『
そして、辰巳の剣の光が、その臨界点を突破し、そのエネルギーが一気に解き放たれる。
「―――
放たれた黄昏色の光。それはまさしく邪竜の咆哮であり、全てを融解させる必殺の一撃。
それが、ヒュアツィンテに向かって放たれる。
その光が、ヒュアツィンテに迫る。
だが、それでもヒュアツィンテは冷静そのものであり、
「―――――我、司るは時」
手にある剣が、時計回りに回転する。
そこへ辰巳の『
「時は全てに平等に与えられ、決して止まる事は無く、戻る事はない――――」
だが、その光が螺旋状に拡散してしまう。
「なッ!?」
「されど我は時を司る。それ即ち未来を見通し、過去に行き、時間を歪める―――」
その理由は、ヒュアツィンテの手の中で回転する、一本の剣にあった。
「全てが私の思うがまま。何故なら私は、時を司る神―――『
その光が、眩く光り―――時の咆哮が放たれる。
「称えよ――――『
それは、全てを時間の狭間に消し飛ばす時の怒り。重力以上に全てを飲み込む、次元の一つが収束された砲撃が、辰巳に向かって放たれる。
「ぐぁぁぁああぁあぁあぁああああ!?」
それに飲み込まれ、絶叫を上げ、吹き飛ばされる。
時の咆哮は、壁に直撃する瞬間、空間の穴が開いて吸い込まれ、消滅する。
「・・・ふふ」
そして、その惨状を見たヒュアツィンテは、ほくそ笑んだ。
「無様ですね。もはや、立ち上がる力もないでしょう?」
気付けば、辰巳は地面に倒れ伏していた。
「ぐ・・・・あ・・・・」
「哀れですねえ。貴方の渾身の一撃も、私の『
七本の剣が倒れ伏す辰巳の上空にかざされる。
「貴方はその前に死にますけどね」
次の瞬間、七本全ての剣が辰巳に向かって振り下ろされた――――
剣が飛翔してくる。それをアタランテの瞬足をもって部屋を駆け抜け、躱す。
そして出来た隙に矢を撃ちこむ。だけど、それら全てはいともたやすく弾かれ、反撃の砲撃が迫る。
それすらも佐奈は躱し、そして、その砲撃が着弾した衝撃によって打ち上げられた剣が一斉に佐奈の方をむく。
「させるかっ!!」
そこへ弘がすかさず剣を射出、それら全てを砕き落とす。
さらに、剣を操っているラヴァンドの死角から、雅が黒玉を多数出現させて、それらを一気に放つ。
「甘いよ」
それに対してラヴァンドも同じ黒玉で対抗。全て相殺し、さらに――――
「『
神速の矢が反撃として放たれる。
「ッ!!」
それを雅はさらなる黒玉で防御。そこでラヴァンドの側面から冬樹が接近。
「一歩――――」
一度、踏み込んでは飛び、
「二歩――――」
二度、速さの壁を超える。
「三歩、で、最速―――ッ!!」
三度、達人の領域へ。
これぞ浅葱色を身に纏う、最強の剣士の最速の剣。
「―――絶技・三段突きッ!!」
神速の突きが放たれる。
それに対して、ラヴァンドはその手に剣を―――刀を取り、そして、冬樹と全く同じ形で全く同じ技を撃ち返した。
「ッ!?」
(私の技を・・・・!?)
「言っただろう?僕の能力は模倣だって」
「ッ!」
相殺した所でラヴァンドは手を振りかざし、空中に鎖を展開する。
「それはっ!?」
「『封印縛鎖』」
千景が御神刀『天鎖刈』を率いて使う、相手に起きる全ての事象、行動、身体機能に制限を駆ける能力。
それを、冬樹は間一髪の所で逃れる。
「お前・・・ッ!!!」
だが避けたにも関わらず、冬樹の顔は怒りで歪んでいた。
「便利だろう『
多い。あまりにも多い。これが、全てを模倣する『
だが、そんな数の技を保有している事はどうでも良い。
ただ、冬樹が許せない事はただ一つ。
「お前のような奴が・・・千景の技を使うなぁぁあ!!!」
冬樹の姿が掻き消える。
「へえ・・・」
それを見て、ラヴァンドは顎に手を当てて口角を僅かに上げる。
気付けば、冬樹は無数の残像が現れる程に、ラヴァンドの周りを駆けまわっていた。
恐ろしい速度である。
否、残像が見えるように緩急をつけて走っているのだ。
「お前は許さない・・・!!」
その言葉を発すると同時に、攻撃をしかける。恐ろしい速度で、ラヴァンドの襲い掛かる。
斬撃が斬撃に続き、残像が残像に消える。
それほどまでに激しい連撃。それを、ラヴァンドはあろうことか全て躱していた。
まるで、踊るかのように、激しい冬樹の攻撃を全て躱していた。
(動きが・・・読めない・・・!?)
まさしく水流。冬樹の激流とは違い、まるでされるがままに流れる水のように、軽く躱していた。
「奴は踊る事で一種のトランス状態になっている!!今の奴は意識が薄れている状態と同じだ!気配を読んで動きを先読みする事は出来ないぞ!!」
佐奈の叫びが耳に届く。だが、冬樹は、下がらない。
「冬樹!?」
(こいつ・・・こいつだけは・・・!!)
千景を侮辱された。だから胸糞が悪い。許せない。だからコイツは、こいつだけは絶対に斬る。何があろうと、絶対に――――!!
「やれやれ、聞き分けの無い子供は、将来ろくな大人にならないよ」
「お前に、説教、される、筋合いは、無い!!」
斬撃がラヴァンドに向かって飛来する。
「無駄だよ」
突然、足に鋭い痛みが走る。
「なッ!?」
その痛みに、思わずよろける。
何が起きたのか。それは、ほんの些細な事だ。
小さな棘が、冬樹の足を甲まで貫いていた。ただそれだけ。
だが、足を攻撃されたのは致命的だった。
踏み込んだ足が、痛みにがくりと落ちる。
その隙を狙って、ラヴァンドの掌が、冬樹の右肩に触れる。
「『
衝撃が、冬樹の体を貫く。
「がッ!?」
その衝撃によって冬樹の体が宙を舞い、ごろごろと地面を無様に転げる。
「冬樹!!」
雅が悲鳴を上げる。
だが、冬樹を吹っ飛ばしたラヴァンドに向かって、雷が落ちる。
「―――『
全てを原初の塵へと
その雷槌を振り下ろした真斗。だが、その背後にはすでにラヴァンドがいて――――
「はい、残念」
「うがッ!?」
その体を、鎖によって何重にも縛られ、動きを封じられ、倒れる。
「う・・うぅぅうう!!!」
「外そうとしても無駄だよ。これは不道千景の鎖じゃない。神の力を封じる為に作られた特別製でね、今、トールとかいう神の力を使っている君じゃあ絶対に外せないよ?最も、素の頑丈さもすさまじくで、仮令解除しても無駄だけどね」
ラヴァンドが嘲笑う。
どれほど頑張ろうとも、その鎖が決して切れる事がないという絶対的な自身があるのだろう。
「このッ!!」
雅が、重力を収束させる。
「『
放たれる砲撃。それが一気にラヴァンドに迫る。しかし、その砲撃は、ラヴァンドの掌の前にあっけなく霧散する。
「そんな・・・・!?」
「重力の反対のものをぶつければ、簡単に相殺できるよこんなの。仮令どんな防御手段を率いても防げない攻撃でもあっても、それを相殺できるものをぶつければ、対応なんて簡単だ」
気付けば、雅の足元にロープのようなものが巻き付いていて――――
「がぁぁぁあぁぁぁあぁぁああ!?」
凄まじい電流が流れ、雅の体に凄まじいまでの電撃を与える。
「が・・・か・・・・」
その電流が流れるのが終わると、雅が、力尽きるように、倒れる。
「ッ!桐馬!!」
「さて、最後は君たちだけだね」
ラヴァンドは、まだ残っている弘と佐奈の方を見る。
佐奈と弘は身構える。
攻撃手段があまりにも多い。衝撃波や真斗の雷撃を躱した瞬間移動、雅の超重力砲すら防ぐ能力。そして、千景の鎖。
手数じゃこちらが圧倒的に不利だ。
「さて、どんな風に料理してあげようか」
ほくそ笑むラヴァンド。
しばしの膠着、だが、それはすぐに破られる。
「よし、こうしよう」
「ッ!!?」
次の瞬間、佐奈の背筋に、凄まじい悪寒が走り抜ける。
そして、佐奈は弘を蹴り飛ばした。
「うぐあ!?」
蹴り飛ばされた弘は訳が分からず、地面を転がる。
そして、どうにか転がるのを耐えた所で顔を上げた瞬間、
「ぐぁぁぁああぁぁぁぁぁあああぁああ!?」
佐奈の絶叫が迸った。
見れば、ラヴァンドの蹴りが脇腹を掠っただけのようであり、それに佐奈は絶叫を挙げて、地面に膝をつく。
「ぐ・・・が・・・!?」
「『
今度は、確実な一撃が佐奈の腹を叩く。
「ぎぃあッ!?」
唾が口から飛ぶ。
さらに追撃が叩き込まれ、佐奈をさらに追い立てる。
限界にまで引き延ばされた痛覚。自分が今どうなっているのか分からず、攻撃すらも予測できないこの状況。
まさしく、無慈悲なる拷問。
「ほらほらほらほら!!もっと叫べ!もっと苦しめ!!罪人は罪人らしく、痛みにのたうち回っていればいいんだ!!!」
様々な攻撃が、佐奈に一方的に叩き込まれる。
佐奈は、声にならない悲鳴をあげながら、その攻撃を受け続けている。
「佐奈さん!!」
弘は、迷わず佐奈を助けに行こうとする。
「邪魔をするなよ」
「ぐあ!?」
だが、その足へラヴァンドの剣が突き刺さり、固定され、倒れてしまう。
「ッ・・・佐奈さん!!」
「そこで見てなよ。ここで、君たちの仲間が苦しむ姿をさ」
ラヴァンドが、さらに佐奈を責め立てる。ありとあらゆる攻撃が佐奈を打ち、一方何も見えず、何も感じる事の出来ない佐奈は、その攻撃を一方的に貰い続ける。
そして、痛覚を限界にまで引き上げられた今の状態では、仮令、軽く小突いただけでも弾丸の一撃に匹敵してしまう。だから、今、佐奈を襲う痛みは、今までの何よりも辛く激しいダメージとなっている筈だ。
そんな彼女に、ラヴァンドは容赦なく、攻撃を叩き続ける。
すでに佐奈は満身創痍。このままいけば、確実にやられる。
だが、それでも、佐奈は倒れない。
それに、ラヴァンドは思わず疑問に思う。
(おかしい・・・普通ここまでやられたら地面をのたうちまわると思うんだけど・・・)
「まあ、いっか。この方がやりやすいからねぇ!!」
ラヴァンドの拳が、引き絞られる。
「次で楽にしてあげるよ」
その拳が妖しく光る。
「『
それは、とある武術化が編み出した、二度打つことを必要としない、一撃必殺の拳。
「――――『
その拳は、仮令牽制やフェイントに使ったとしても、確実に相手の命を取るといわれた凶拳。
その拳が、今、佐奈の顔面に吸い込まれるように迫り――――
やがて、拳が炸裂する音が響いた――――
「呆気なかったですね」
七本の剣に串刺しにされて地面に倒れ伏す男を見て、ヒュアツィンテは嘲笑う。
「もう少し骨があると思ったのですが・・・所詮は人間で罪人。この程度ですね」
拳が引き抜かれ、ヒュアツィンテの元へ戻る。
「さて、他の方の援護に向かうとしましょうか・・・・」
そう、言った直後だった。
「――――――■■■■■■■■■ッ!!!」
おおよそ形容しがたい絶叫を挙げて、ヒュアツィンテに、絶命した筈の辰巳が襲い掛かる。
「ッ!?」
その一撃を、ヒュアツィンテは思わず六本の剣を率いて防ぐ。
「まだこのような力があったとは、驚きです・・・・」
そして、残り二本のうち、一本を手に取り、その剣に黄昏色の光を収束させる。
「消えなさい――――『
黄昏の咆哮が、辰巳を飲み込み、されどあまり効いていないようで、ただ吹き飛ばされるだけにとどまる。
地面に上手く着地し、鎧越しに、辰巳はヒュアツィンテを睨みつける。
「その剣・・・・なぜ、持っている?」
「あら、自分と同じ剣を持っている事がそんなに珍しいですか?これは、とある英雄が持っていた剣を、その妻が復讐に使ったからこそ私の手元にあるのです」
「そうじゃない。お前、何故その剣を入れ替えなかった?」
「・・・・」
その問いに、ヒュアツィンテは答えられなかった。
「見た所、全ての剣を入れ替えたように見えた。だがお前は、ただ一つ、その剣だけ入れ替えなかった・・・・それは何故だ?」
「それ・・・は・・・」
指摘されて、初めて気付く。
他にも、この剣以上の力を備えている剣はいくらでもある。だが、なぜか、この剣だけは、今の今まで決して入れ替えなかった――――ただ一つ、自分の能力である『
一体・・・なぜ・・・?
「安心した」
その事に、辰巳は、本当に心の底から安心したような声を漏らす。
「お前が、俺と同じ剣を、ずっと使ってくれていた事に、とても安心した――――」
辰巳が、立ち上がって、剣を構える。そして、黄昏色の光が、彼を包む。
「やはり、お前はひなただ。俺が見間違える筈がない。俺が好きになって、愛して、それでも守り切れなかった、俺の大切な人だ」
光が、彼の体に変化を与える。
銀色となり、長くなった髪。兜は外され、されど鎧は体を包み、そしてエメラルド色の瞳は、ヒュアツィンテを映す――――
拳が炸裂する音が響いた―――――
その時、誰もが、佐奈の死を覚悟した。
何故なら、ラヴァンドの放ったのは、相手を必ず死に至らしめる、必殺の拳だ。
一方の佐奈は、全ての感覚を封じられ、唯一、痛覚だけが限界にまで引き上げられている。
だから、避けるなんて不可能。そう、誰もが思っていた。
そう、誰もが、佐奈が死ぬという未来を確信していた。
あの時と同じように。翼と剛が死ぬ時と同じように。
「ごぼぁ・・・・」
だが、拳が炸裂していたのは――――ラヴァンドの方だった。
佐奈の左拳が、ラヴァンドの顔面に突き刺さっていた。
一方のラヴァンドの拳は、佐奈の顔のすぐ横を通り過ぎており、当たっていない。
そう、佐奈は反撃したのだ。
何も見えず、何も聞こえず、何も感じない、その状況から、反撃したのだ。そして、直撃した。
「な・・・・なんで・・・・!?」
何が起きたのか、分からないラヴァンド。
だが、次の瞬間、さらなる攻撃がラヴァンドに叩き込まれる。
「ハアッ!!」
「うごあ!?」
右のブロウが腹に直撃する。その時、ラヴァンドだけでなく、佐奈の顔も苦痛に歪む。
それもそうだ。拳を叩きつけた時の衝撃は、僅かながら自分にも返ってくるのだ。そのついでに、今の佐奈は触られるだけで激痛に苛まれる状態。ただで済むはずがない。
だが、佐奈は、それすらお構いなしにラヴァンドを殴る。
「うおあ!!」
「ッ!?」
また、拳がラヴァンドに迫る。その一撃を、どうにか受け止める。
「なんでだ・・・なんで僕の位置が分かる!?なんで攻撃を当てる事が出来る・・・なんで、お前は動く事が出来るッ!?なんでだ!?」
ラヴァンドには、訳が分からなかった。
全ての感覚を奪い、そして、痛覚を限界にまで引き上げて、そして痛めつけ、まともに動けないようにした。
それでも、佐奈はラヴァンドの位置を的確に狙い撃ってくる。
それは、何故か――――
「・・・・はは」
その時、弘が力無さげに笑う。まるで、何か、バカげたことを思い出したかのように。
「そうだった。佐奈さんはそういう人だった。理屈で動いているように見えて、本当は、馬鹿みたいにふざけた事をする人だったっけ・・・」
弘は、否、襲撃者たち全員が知っている。
安室佐奈という女を。その強さを、その、願いを――――
「
佐奈だからこそ、こんな事は容易い。佐奈だから、どんな苦境に立たされても戦える。
そう、佐奈は、
「・・・・・お前たちが、一体、どんな想いで、どんな気持ちをもって戦っているのかは知らない。だが」
唐突に、佐奈が話し出す。
「私は、願いを叶えるためなら、どんな事でもやってやる。仮令、どれほどつらく、厳しい道だったとしても、私は、私を貫き通す・・・!!」
ラヴァンドが、左拳を振りかぶって、佐奈の顔面を殴ろうとする。だが、それを佐奈は受け止める。
「私の願いは、この世の全ての子供たちが、笑顔でいられる事だ!!荒唐無稽な話だろう!!だが、それでも私は私の願いを貫き通す!!!そうだ、足柄辰巳だって、この世界を救うという約束を背負って戦っている!!自分の
ラヴァンドの拳が、みしり、と音を立てる。
「私はお前を倒し、願いを叶えるッ!!」
その時、ラヴァンドの拳が握りつぶされる。
「ぐぁあぁあああ!?」
「あぁぁぁあぁあ!!!」
そして、その握りつぶした手を握りしめて、佐奈は、ラヴァンドを殴り飛ばす――――
「俺は、俺の願いの為に、この戦いに参加した。その願いはただ一つ。ひなた、お前を取り戻す事だけだ」
「何を・・・いって・・・・」
たじろぐヒュアツィンテ。それをお構いなしに、辰巳は、言葉を続ける。
「思えば、安室佐奈も、たった一つの願いの為に、世界を壊そうとした。仮令操られていたとしても、それは、紛れもない、アイツの願いだ。アイツは、その願いの為だけに、自分の全てを投げ打った・・・・」
剣を正眼に構える。
「正直に言って尊敬する。ただ一つの願いの為だけに、それだけの事をやってのける事の出来るアイツを、俺は、称賛する。それだけの
左腕の『
「だから、俺も俺の
黄昏色の光が迸る。その様子に、ヒュアツィンテは、目元をおさえて、苛立った声音で言葉を漏らす。
「な・・・にが
計八本の剣が、ヒュアツィンテの周囲に展開される。
「憎い、憎い憎い憎い!!!それだからお前たちが人間が憎いんです!!傲慢で浅はか!!己の領分を弁えない
ヒュアツィンテが、剣を操り、そして一気に振り下ろす―――
追撃をした筈の佐奈の顔面に、ラヴァンドが放った光弾が直撃し、破裂する。
「ぐぁぁああぁぁあああ!?」
絶叫が迸り、佐奈は地面に倒れ伏す。
「ぐぅぁぁああ・・・・!!!!」
その痛みに悶え苦しみ、そして、その上をラヴァンドが踏みつける。
「調子に乗るな・・・下等な人間がッ!!」
ラヴァンドのその表情は怒りに歪んでいた。
「何が願いだ。お前たちに叶えられる願いなどない・・・・お前たちはただ、断罪の名の元に駆逐されるだけの有害因子だ!!お前たちのその身勝手な行いの所為で、お前たちは自らの滅亡を招いている事に、まだ気付かないのかっ!?お前たちの傲慢な行いが、破滅を招いている事が、まだ分からないのかァ!!!」
踏みつけられ、佐奈の顔が、苦痛に歪む。
「そうか。分かった・・・・」
ラヴァンドが、片手を掲げる。
「分からないというのなら仕方がない。このまま、地獄に落ちて自らの過ちを悔い改めるんだなァ!!」
そのまま、ラヴァンドの一撃が、佐奈に振り落とされるその寸前――――
「まだだァ!!!」
「ッ!?」
いつの間にかその手に持っていた弓に三本の矢をつがえ、そして一気に放つ。
その矢、全てが、ラヴァンドの胸、右肩、右手首に突き刺さり、攻撃を中断させる。
「ぐごあ!?」
そして、その勢いのまま吹き飛ばされ、地面に倒れる。
「げほっ、ごほっ・・・!!!」
荒く咳き込む佐奈。
だが、それでも佐奈は立ち上がる。
放たれた剣が、一斉に弾き飛ばされる。
「ッ!?」
それに、ヒュアツィンテは目を見張る。
「・・・下してみろよ」
そこには、全ての剣を弾き飛ばし、剣を振りかぶった状態で静止する辰巳の姿があった。
「どれほどお前が否定しようともお前も結局は俺たちと同じだ。そんなやつに、俺は負けない」
剣を後方に構え、腰を低くして、ぐっと足に力を込める。
「行くぞひなた・・・・これが俺たちの、二回目の夫婦喧嘩だッ!!!」
そして辰巳は、弾丸の如き勢いで、ヒュアツィンテに突進する。
「倒れているんだろう・・・・立てッ!!」
立ち上がった佐奈が、床に倒れ伏すラヴァンドにそう怒鳴り散らす。
「貴様が何をしようが、どんな事をしようが、私はお前を倒すッ!!何があろうと、どんな事が起きようと、私たちはお前を必ずぶっ倒すッ!!!」
指を突きつけ、佐奈はそう怒鳴る。
「行くぞラヴァンド・・・・・ここから先は、私たちのステージだッ!!!」
次回『希望VS絶望』