不道千景は勇者である   作:幻在

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随分と遅れて申し訳ありません。
いや最近、とじともにはまってそれでそれに関する小説書き始めたからじゃないんですよ?(見苦しい言い訳)
これからリアルがかなり忙しくなりそうなので、しばらく更新がかなりのカメになってしまう可能性があるので、その点については悪しからずです。

では、本編をどうぞ。


それでも君を愛してる

天井が破壊される――――そこから現れたのは、一人ではなかった。

 

「―――って、うおあぁぁぁあぁあああ!?」

「なんで考えなしに床破壊するのよ貴方はぁぁあああ!?」

それは、緑色の装束を身に纏った集団。そう、彼らは――――

「防人・・・!?」

防人部隊だった。そんな彼らが真っ逆さまに落ちてきていた。

「何故、こんな所に・・・・!?」

これには流石のヒュアツィンテも動揺を隠せない。

「ん?あ!あれは足柄さんではなくて!?」

落下するなか、夕海子が辰巳に気付く。

「ちょっと待って!向こうには金髪の美女が!?」

「金髪の美女ってなんだ!?敵だろうが!」

落下していく防人たち。

その様子に動揺していたヒュアツィンテは、とにかく彼らを敵と認識して剣を向ける。

それを見た明日香と芽吹は、いちやはく対応。

明日香が『(ブラック)』を発動。それによる飛行能力でむかってくる剣を全て弾き飛ばす。

その最中に芽吹が指示を飛ばし、それに対応した者たちが一斉にヒュアツィンテに銃口を向け発砲。放たれた弾丸の嵐はヒュアツィンテを襲う。

しかしそれらは躱され、しかしすかさず明日香が接近してヒュアツィンテに襲い掛かる。

剣が入り混じり、火花が散る。

その援助に優理と将真が行き、その間に芽吹たち残りの防人たちは辰巳の元に向かっていた。

「辰巳さん!」

「お前たち、何故・・・!?」

「至急、貴方に伝えたい事があって・・・」

「うおあ!?」

明日香の叫び声が聞こえ、振り向けば巨大な火の龍が明日香たちを襲っていた。それだけではなく、血の刃や地面を焼き尽くすように燃え上がる闇の炎が、彼らを襲っていた。

「くっそこいつやっぱつえぇえ!」

「チッ、時間がない・・・・辰巳さん、彼女に隙を作ってください。その間に我々が彼女をどうにかします」

「本当にどうにか出来るのか?」

「ええ。貴方の望む形で、確実に」

芽吹の真っ直ぐな視線に、辰巳は押し黙る。

「うおあぁあ!?」

「芽吹さん!このままでは優理たちが・・・!」

夕海子が急かす。

「辰巳さん・・・!」

芽吹が真っ直ぐに辰巳を見る。その様子に、辰巳は一度、ヒュアツィンテと戦う明日香たちを見る。

明日香の全てを正し無効化する剣、優理の操る霊子によって生成された矢、将真の地面を操る踊り。それらを彼らは駆使してヒュアツィンテを抑え込んでいた。

しかし、このままでは押し切られるのは目に見えている。

「・・・・芽吹」

「はい」

「任せた」

大剣を両手に持ち、防人の集団を突っ切って、炎を掻い潜ってヒュアツィンテに肉迫した。

「ッ!?」

「オォォオオ!!」

辰巳の剣の一撃がヒュアツィンテに叩きつけられる。その一撃はどうにか掲げた剣によって防がれるも、押されていた。

その間に、芽吹は部隊を集合させていた。

「手筈通り行くわよ。いいわね」

『応!』

「よし、行動開始!」

芽吹の指示で部隊が動く。

辰巳とヒュアツィンテが激しく剣を交えているその横から、防人のうち、男子の二人が辰巳の両脇か銃剣を突く。しかしそれは躱される。だがすかさず屈んだ護盾隊の味方を踏み台にして飛び上がった三名の女子の防人が一斉に銃撃する。

その弾丸は辰巳の頭上を通り、ヒュアツィンテに直撃、剣によって防がれる。

だが、その横から横五列縦二列に並んだ防人たちが一斉射撃。その銃弾の嵐がヒュアツィンテを襲う。それを喰らってヒュアツィンテはその方向にふらつき、しかしそこへ突然粉塵が巻き起こる。

「な!?」

「どうだ見えまい!」

将真が地面を叩き、土煙を起こしたのだ。これで視界がふさがれる。

そして、そこへ、明日香がヒュアツィンテの懐に潜り込み、大剣を振りかぶっていた。

「これで―――」

「舐めるな!」

しかしヒュアツィンテの背後から剣が飛んできて、明日香の額に迫る。

「うお!?」

思わず態勢を崩す明日香。だが、剣は尚も明日香の額に吸い込まれていくかのように飛んでいき、

「シッ」

優理の矢がその剣を弾き飛ばす。

だが攻撃を中断された明日香はその場にひざまづき、

「ハァァアア!!」

「うおりゃぁぁあ!!」

その背後から、夕海子とシズクが迫り、銃剣をないできた。

「なっ!?」

これで防げたのは流石か。首に直撃する寸前で剣二本で防げたのはほぼ奇跡に等しい。

しかし、本命は()()()()()()

本命は、上空の芽吹だった。

実は夕海子とシズクの背後には雀がいて、その雀が後ろに盾を掲げて芽吹の踏み台となり、そして、夕海子とシズクに注意をひかせることで上空への注意を逸らし、奇襲してきたのだ。

「そんな・・・がっ!?」

上から芽吹に襲い掛かられ、地面に倒れ伏すヒュアツィンテ。芽吹は、マウントを取るようにヒュアツィンテの上に乗っかり、そして、その左手に、何か、青い鍵のようなものがあり―――

 

『―――記憶(メモリー)

 

鍵の取っ手部分のボタンを押すと、そのような音声が響き、ヒュアツィンテの額に、鍵穴のようなものが出現する。

「これで・・・!」

「待って、何をする気で・・・・!?」

ヒュアツィンテの制止を振り切り、芽吹はその鍵穴にその鍵を突っ込み、そして捻った――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

振るわれる槍、錯綜する斬撃、振りぬかれる刀身。

どれもこれもがミスれば命に関わるものばかり。

だが、それでも彼らはその刃をふるう事をやめない。

どれほど傷つこうとも、今、この瞬間を戦い続けるために。

「ハァァアア!!」

園子が槍を薙ぎ払う。それをジガは飛んで躱し、そこへ春信が飛び込んで渾身の刺突を叩きつける。それを槍の柄で受け、逸らしたジガはすぐさま槍の柄頭で春信の顎を打ち据えようとするが、すかさず園子の操る刃がその柄頭に叩きつけられ、阻止される。しかしそれにジガはさほど驚いた様子もなく、槍を回転させて穂先を春信に向けると、既に刃を引き戻した春信と激しい程の斬撃の応酬を繰り広げる。

凄まじいまでの連撃の末、互いに弾き飛ばし合って、距離を取り合う。が、園子が刃を操作して踏ん張っている春信の足裏にひっかけさせ、それを使って春信は剣を大きく掲げ、()()()()()()()

「―――『竜月』ッ!!!」

三日月型の斬撃を繰り出す対天剣術が技の一つ、『竜月』。春信や辰巳程の腕となれば、その斬撃は飛翔し、敵に迫っていく。

その一撃をジガは弾き飛ばし、続く園子の無数の刃を槍を振り回して一つも撃ち漏らすことなく叩き落とす。

だが、続く第二波に対応しきれないと悟るや、ジガは掌から熱戦を放出、一気に薙ぎ払って溶解、蒸発させる。

炎の壁が立ち上る。その壁を突っ切って、影が一つ踊り出てくる。

春信が、突っ込んできたのだ。

ほぼ不意打ちに近い状態。春信の振り下ろしを槍で受け止め、一方の春信はそのまま一気にジガを押し込む。

その春信を蹴り上げて上空へ弾き飛ばしたのち、さらに飛んできた園子と激しく刃を交わらせる。

そして、上空からの春信の斬撃。それを後ろに飛ぶことで躱す。

「見事だ・・・お前たちの剣からは、守るべきものを持つ戦士の気迫を感じる」

距離をとり、二人をそう称賛するジガ。

「どうやらお前たちを倒すには、今のままでは不足らしい・・・!」

雰囲気が、変わる。

ジガの発する熱量が、膨れ上がる。

「「ッ・・・」」

その熱量は色を変え、赤から青、そして紫へと変化していく。

「故に俺には、絶対破壊の一撃が必要だ!」

発せられる。それは、すでに吸い込むだけで肺を焼くほどのものだったものが、さらに強力になり、吸っただけで肺が蒸発しそうな程の熱量へと跳ね上がる。

「ッ・・・!」

そして、二人は気付いた。

ジガの体が崩壊しかけていると。

おそらく、ジガも自滅覚悟でその大技を放つつもりなのだ。

放ち、当てれば必勝、されど命懸け。

文字通り、命を削って放つ、必殺技。

回避は不能。防御する事も、おそらく不可能。

それに対し、二人はどのような行動をとればいいのか?

「オォォァアァァアア!!!」

答えは簡単(シンプル)だ。

 

真正面から迎え撃つ。

 

彼らは、外側に武装されるべき満開のエネルギーを内側に押し込める昇華を併用している。

圧縮されたエネルギーの威力は、水鉄砲の穴が小さいほど遠くに飛ぶのと同じように、通常の数倍の威力を持つ。

故に、刀や槍の切っ先という『小さな穴』から放たれる一撃は、とてつもない一撃となりえる。

「我が人生において、最大にして最強の好敵手に敬意を表して、この一撃を捧げよう」

「来い・・・!」

掲げられた槍に、ジガの体から放出されている熱が収束する。

「園子」

「うん」

春信の剣が、紅く、朱く輝き出す。

それと同時に、園子が自らの操る全ての刃を、何重もの円を描くように、春信とジガの前に展開した。

そして、それが高速回転すると同時に、光の粒子が、その円いっぱいに広がる。

それは、発射台だ。

 

「――――それは怒り。それは轟き。これは世界の叫び。命の源たる、炎の証」

「――――我振るうは、たった一太刀。故にそれは我が集大成」

 

春信とジガが同時に駆け出す。園子が作り出した光の円に自ら飛び込み、その粒子を纏い、加速する。

 

「故にこれは神の力。神々の慈悲である」

「振るうはただ一刀のみ。されどその一刀神にも届かせてみせよう」

 

第二、第三の光を纏い、春信は加速していく。その最中で、春信は感じる。

 

「全てを殲滅せし、今、ここに神の一刺しを」

「これは全てを両断する、最後の一刀なりッ―――!!」

 

その光に込められた、園子の『想い』を―――

 

「――――焼き尽くせ『大地焼き払う、神の槍(ホワイトアウト)』ッ!!!」

「――――討ち斬る『蓮華の太刀』ィィイッ!!」

 

もはや星の最大温度にまで到達して白い光と化したジガの槍と、己が全てをただ一刀に収束させた春信の一撃が、今ここで錯綜する。

「春信さぁぁぁぁぁああん!!!」

そして、園子の絶叫が響いた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

錠が、開く、音がした。

その瞬間、芽吹の持っていた鍵が光の粒子となって消失。そのまま、光はヒュアツィンテの額に入っていく。

静寂が、一瞬よぎり――――

「あぶねえッ!!」

明日香が危険を察知して芽吹の戦衣の襟首をもって引っ張った瞬間、芽吹の目の前で何かが錯綜した。

それは、ヒュアツィンテの操る、二本の剣。

「まさか・・・失敗・・・!?」

「いや・・・」

狼狽える芽吹の言葉を明日香は否定する。

「ちゃんと成功してる・・・だから―――」

立ち上がったヒュアツィンテの顔は―――泣いていた。

そして、その髪の色も、金から黒へと変わっていく。その髪色は、元の、上里ひなたのもの。

「自分の罪を自覚した・・・じゃあ!」

思い出した。

そう言おうと雀の言葉を遮るように、ヒュアツィンテは―――ひなたが周囲に無差別攻撃を始めた。

「あぁぁぁああ!!」

「ッ!?」

想定外の事態。

突然、絶叫と共に、自らの操る剣全てを滅茶苦茶に動かす。

「ッ・・・ひなた!」

辰巳が、ひなたの名を呼ぶ。それに、ひなたの表情がさらに青ざめ、浮遊したまま逃げ出す。

「なっ・・・待ってくれ!」

辰巳が叫ぶ。だがひなたは待たない。

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・!」

そのまま、ひなたは部屋の反対側にある扉へ一気に突っ込む。

このままでは、逃げられる。

(ひなた・・・!)

折角、会えたのに。

あの日、守れなかった彼女が、目の前にいるのに。

また、届かないというのか。

滅茶苦茶に振り回される剣が、近寄る事を拒むように振り回される。

近付こうとしても、逆にどんどん距離が遠のいてしまう。

このままでは、彼女は扉の向こうに消える。

また、届かないのか。

「ひなた・・・行かないでくれ・・・!」

もう、離れたくない。だから――――

 

「―――逃がすなぁぁぁぁああ!!」

 

明日香の絶叫が、ドーム状の部屋に轟く。

「誰でも良いから扉を塞げェ!!」

次いで、芽吹が指示を飛ばす。

それにいち早く反応したのは将真と優理。

すぐさま土の壁と光子の壁を生成し、ひなたの退路を塞ぐ。

「あっ―――」

「逃がすかよ!!」

そこへ、いつの間にか突破してきていたシズクが飛び掛かり、ひなたにその銃剣の刃を突き立てようとする。

「くっ!」

ひなたは、苦しい顔をしつつ、自分のすぐ傍にあった時穿の剣を操り、シズクを弾き飛ばす。

「っ()―――――!!」

だが、そこへ芽吹の号令による防人部隊全員による一斉射撃が降り注ぎ、ひなたは、一層扉から離れていく。

「くぅ・・・!」

「どこに行こうってんだよ!」

「ッ!?」

いつの間にか、(ブラック)化した明日香が、襲い掛かってきていた。

その斬撃を、ひなたは間一髪で躱し、続く第二撃を、時穿の剣で受ける。

「きゃああ!?」

「旦那が待ってるぜ!」

地面に叩き落され、ひなたは立ち上がる。

そして、目の前に―――辰巳が立っていた。

「辰巳さん・・・」

ファブニールとジークフリートを解除している為、その姿は、かつての勇者装束とは違い、幾分か成長しているが、その姿は、紛れもない、彼女自身が愛した、足柄辰巳その人だった。

「・・・ひなた」

「来ないで!」

一歩踏み出した瞬間、境界線を引くように、『紅蓮の魔女(ジャンヌ・ダルク)』が駆け抜ける。

吹き上がる粉塵と風の中、辰巳はそれでも前に進もうとする。

「来ないで!」

次は、『嘘殺しの龍女(キヨヒメ)』が、その大口を開けて辰巳に噛みつこうとする。

「ぐお!?」

まさかの本気の直撃。それに辰巳が飲み込まれる。

「辰巳さん!?」

「辰巳師匠!」

その様子に、防人たちが冷や汗を流す。

だが、その竜はすぐさま斬り裂かれる。

その中から、多少火傷すれど、すぐさま回復に入っている辰巳の姿があった。

「・・・ひなた」

「だから、来ないでって言ってるでしょう!」

ひなたは、泣きながら、自分の操る剣を全て辰巳にぶつける。

そのどれもが、辰巳の硬い皮膚を貫く程だった。

「どうして分かってくれないんですか!?私は、わたしはもう、貴方に見合う女じゃなくなったんです!自分の世界を破壊したクソ神様に付き従ってしまった悪女なんです!だから、だから、もう、貴方の隣にいる資格はない・・・もう、初代勇者と共に戦った巫女『ひなた』はいないんです!」

時穿の剣が、辰巳を吹き飛ばし、そして叩きつける。

「私は、『第三の罪(サード・シン)』の『ヒュアツィンテ』!貴方の敵です!敵だから、私をそんな目で見るなぁ!」

泣きながら、ひなたは、辰巳に言う。

もう、あの頃には戻れない。三百年がたち、何もかもが変わった世界で、敵として人を滅ぼそうとした自分は、彼には相応しくない。

そんな思いが、辰巳を拒絶していた。

こんな思いをするぐらいならば、そもろも、思い出したくなんてなかった。

悪女『ヒュアツィンテ』のまま、彼に討たれたかった。

「・・・・」

「どうしたんですか足柄辰巳!私は敵です!敵ならその剣を向けて私を討ってみてくださいよ!」

考える事を投げ出し、ただ彼の剣で討たれる事を望むひなた。

舞い上がる土煙。砕けた床に、辰巳は埋もれて、そのまま沈黙していた。

「・・・・ああ、くっそ」

だが、次の瞬間、粉塵が振り払われ、辰巳が姿を現す。

「どんな言葉掛けようかと思ったが、なんも思いつかない」

そう言いながら、辰巳は立ち上がって、剣の切っ先をひなたに向ける。

「だから(これ)で語る事にする」

その言葉に、周りは―――絶叫した。

「「「は、ハァァァァアァァアアアアア!?」」」

「ななな何考えてんすか貴方はぁぁあああ!?」

「ひなたも剣を持っているんだ。だったら後は簡単だ。目には目を、拳には拳を、剣には剣で語り合うしかないだろ」

「いやいやいや相手女の子ですよ!?女の子であんたの奥さんですよ!?それなのに何故剣で語り合うという戦士の思考になってるんですか!?」

「もともと話し合いなんざ出来る状況じゃないんだ。だったらこれで分からせるしかないだろ」

剣を八相に構えて、辰巳は、地面を蹴った。

「俺がどれだけひなたを愛しているかをなァ!!」

「「「結局それかぁぁぁい!!」」」

全員のツッコミを受けつつ、辰巳は、ほぼ一瞬にしてひなたに接近。

そのまま振り下ろせばひなたは慌てて二本の剣を呼び寄せて防御する。

「さあ、始めようか」

「何をですか・・・!?」

「決まってるだろ・・・夫婦喧嘩だ!」

辰巳がひなたを蹴り飛ばす。

「なんですかそれ!」

それに対してひなたが辰巳のすぐ傍の剣を操作し、それを辰巳に叩きつける。それによって辰巳も吹き飛ぶ。

「意味が分かりませんよ!?」

「俺だってお前の言ってる事分からねえよ!」

だがすぐさま態勢を立て直した二人は、またぶつかり合う。

「お前はひなただ!俺が生涯で唯一愛した女のひなただ!」

「私はマギアクルスの配下のヒュアツィンテです!貴方の敵です!敵敵敵!」

「いいやお前はひなただね!その眼の下のほくろとか、綺麗な肌とかこの黒髪とか!全部俺の知ってるひなただ!俺だけのひなただ!」

「だから知らないって言ってるでしょう!何度言ったら分かるんですか!?馬鹿なんですか!?」

「馬鹿に馬鹿って言われたくないね!」

「ハア!?馬鹿なのはそっちでしょう!?私との約束破って死にかけたり!皆さんの裸を舐めるように見たり!挙句の果てには歌野さんと良い雰囲気になったり!」

「なってねえよ何言ってんだお前!?そういうお前こそ、しっかりしてるように見えて、意外と抜けてる所あったぞ!つまみ食いして太って隠れてダイエットしてた事とか!?」

「なんで知ってるんですか!?」

「ついでに神樹に一番近い巫女の癖に勝手に誘拐されやがって!すげえ心配したんだからな!?」

「それは申し訳なく思ってます!でも助けてくれたじゃないですか!?」

「そりゃあ大切な人だからな!助けるに決まってんだろ馬鹿!」

「ま、また馬鹿って言いましたね!?貴方だって同じようなものなのに!同じなのに!」

「うるせえ言ったもん勝ちだ!」

「それなら私だって言わせてもらいます!馬鹿!辰巳さんの馬鹿馬鹿馬鹿!」

もう、戦いを通り越して痴話げんかである。

やってる事は互いの命を奪い合う殺し合いなのに、言い合っている事は全く持って低レベルな次元の話だ。

「うわぁ・・・」

「これはまた・・・」

「何これ!?」

「あらあらまあまあ!」

「何をやっているんだあの人たちは・・・」

「うぉぉぉお!そこだぁぁぁあ!!やれぇええ!」

「貴方は相変わらずうるさいわね!?」

「誰が痴話げんかしろと言った!?」

これには防人組も呆れていた。

だが、その間にも戦いはより過激になる。

「大体なんなんですか!?私たち敵同士なのに、どうして貴方は私を取り戻そうとするんですか!?」

「愛してるからに決まってんだろうが!」

「嘘です!この三百年で絶対に褪せてます!」

「褪せるか!この三百年ずっとお前への想いを途切れさせた事はねえよ!」

「嘘です!人間が記憶できる年月はたった百五十年分なんですよ!?覚えてる訳ないでしょう!?」

「その理論で言ったら俺は人間やめて竜になっとるわ!ドラゴンだぞ今の俺は!」

「全然ドラゴンっぽくないでしょう!」

「だとしても俺はお前の事忘れた事なんてないわ!」

「うるさいうるさい!もうほっといてくださいよ!」

ひなたが、時穿の剣を使って、未来を見る。

次の瞬間、降り注いだ辰巳の滝打をかわし、右手に持った時穿の剣でその首を刎ねに行く。

だが、その刃は届くことはなく、頭突きでその剣の機動を反らし、頭上へそらす。

「無茶苦茶・・・!」

「知ってるだろ!」

「ぅう・・・もう!なんで貴方はそんなに・・・!!」

凄まじいエネルギーが、ひなたのもう一本の剣に収束する。

それは、辰巳の持つバルムンクと全く同じ形状の剣。

「恰好良いんですかぁぁぁああ!!」

「「「ええぇぇぇえ!?そこぉぉぉおお!?」」」

「お前こそ可愛いだろうがぁぁああ!!」

「「「もうなんなのお前ら!?」」」

次の瞬間、二人が同時に黄昏の咆哮をぶっ放す。

 

「『吠えよ、我が愛する者の黄昏の大剣(クリームヒルト・フォン・バルムンク)』ぅ――――ッ!!!」

「『黄昏に咆える邪悪なる竜(ファブニール・フォン・アテム)』ゥ――――ッ!!!」

 

二つの強力な砲撃が真正面から衝突し、凄まじい爆発を引き起こす。

それと同時にとてつもない衝撃が辺り一面に叩きつけられる。

その衝撃波によって、二人は強制的に距離を取る。

「いつも、いつもそうですよ!貴方だけは私のペースを完全に乱してくる!貴方だけにはいつまでたっても勝てない!それがどうしても悔しい!」

「そりゃ勝たせる訳ねえだろ!俺は剣士だ!どんな事があっても勝ちは譲らない主義だ!」

「たまには勝ちを譲ってくださいよ!そんな主義もってるから私以外にモテなかったんじゃないですか!?」

「ハッ!お前に惚れられてるってだけで十分過ぎるわ!」

「~~!!もう!貴方はいつもいつも!私がみじめに見えるじゃないですか!」

「お前ほど綺麗で可愛い女はこの世のどこ探しても見つからねえわ!みじめだとか言うな!この馬鹿!」

「また!また言いましたね!馬鹿って!馬鹿って!貴方だって馬鹿なのに馬鹿って言わないでください!」

「そうだ!俺もお前も馬鹿だ!この三百年で戦いを終わらせなかった俺も馬鹿だ!勝手に敵に寝返ったお前も馬鹿だ!もう馬鹿以外の何者じゃねえよ!」

「貴方は、いつも、そう自分勝手に!!!」

ひなたが時穿の剣を掲げる。

「自分勝手なのはどっちだ!?」

辰巳もバルムンクを掲げる。

その瞬間、ひなたからは全てを飲み込む闇色の光が、辰巳からは全てを融解させる黄昏の光が立ち上る。

「・・・・おい、これやばくないか?」

明日香がそう言うや、

「全員退避ィィイ――――――――ッ!!!」

「なんで痴話喧嘩で大技ぶっぱなそうとするんだあの馬鹿どもはァァア―――――!?」

すぐさま全員、ドームの隅へ全速力で走る。

 

「――――我司るは時」

「刮目せよ。我は邪竜、我は竜殺し、故に我は黄昏の覇者」

「時は全てに平等を与えられ、決して止まる事は無く、戻る事はない―――」

「邪悪なる竜は失墜し、英雄は竜の血を浴び、栄光をその身に受ける」

「されど我は時を司る。それ即ち未来を見通し、過去に行き、時間を歪める―――」

「されどその人生に叶えた願いは無く、英雄に喜びはなく」

「全ては私の思うがまま。何故なら私は、時を司る神―――『時司る神(クロノス)』なのだから」

「邪竜に生は無く、されど満足することも無く、その人生に終わりを告げる」

「故にこれは、我が力の全て」

「我が手には我が振るい、我を討ちし、黄昏の魔剣」

 

「―――称えよ『狂い乱れる時の神の咆哮(クロノス・アテム)』ぅッ!!!」

 

「―――解き放つ『天魔撃ち落とす黄昏の大剣(バルムンク・オーバーロード)』ォッ!!!」

 

片や、時を司る神の力が内包された究極の神剣。

片や、聖と魔の両側面を持つ竜を殺した魔聖剣。

それを、完全開放による全力の砲撃を、真正面からぶつけ合う二人。

当然、その余波を受けた者たちはただではすまない。

「「「ぎゃぁぁぁぁあぁあああ!?」」」

「そ、想像以上に威力が強すぎるぞ!?」

「ぎゃぁぁああ!!死ぬぅぅうう!?」

「た、耐えるのよ!もう耐える以外に私たちに選択肢はないわ!」

「んな無茶苦茶な!」

凄まじい衝撃が周囲に振り撒かれる最中、二人の砲撃は拮抗する。

ひなたが操るのは『時』。

『時間』に関係する事なら、対象の動きの時間のみを止めたり、逆に自分一人だけ時を止めた世界を動けたり、さらには未来の事象すらも観測して予知する事が可能。

そして、その力を使って、過去に名を馳せた偉人のその歴史的背景を利用して、それに見合った能力を発動する事が出来る。

そして、それは自由に入れ替える事も可能だ。

そして、この『狂い乱れる時の神の咆哮(クロノス・アテム)』は、『時』を歪める程のエネルギーを放つ事で、相手の時を歪め、時間を破壊して、『一瞬の永遠』に葬り去るという能力を秘めている。

それに対して、『天魔撃ち落とす黄昏の大剣(バルムンク・オーバーロード)』だが、これは竜の咆哮そのものであり、膨大な熱エネルギーそのものだ。

その熱エネルギーは()()()()()()()()ほどの力を秘めている。

 

時と空間。

 

その二つを歪める砲撃が、真正面からぶつかり合えば、一体何が起こるだろうか。

答えは簡単だ。

 

 

 

時空が壊れる。

 

 

 

それは突然の事だった。

突如として世界そのものを揺らす程の揺れが起き、この城だけでなく、神樹の守る結界内にまでその影響が及ぶ。

今までに類を見ない程の大地震が、否、空間そのものが揺れる事で全ての世界やら宇宙やらが歪む。

海は突如として暴れ出し、空気は吹き荒れ、地面が割れる。

まさしく大惨事である。

そして、その『揺れ』の原因―――時空の歪みが、辰巳とひなたの衝突した砲撃から発生し、その『揺れ』によって態勢を崩し、砲撃が中断される。

だが、それで割れた時空が元に戻る筈がない。

「うわぁああ!?あれは絶対やばいってぇええ!!」

「ッ!?やべえ!」

その危険性をいち早く察した雀と明日香。

その予想通り、歪みが何もかもを飲み込もうとするかのように、その歪みに向かって全てが吸い込まれようとする。

「ッ!?皆!何かに捕まって!もしくは地面に銃剣を刺すなり盾を突き立てるなりすればいいから!」

芽吹の指示に、全員が反応し、全員が必至に歪みに飲み込まれまいと踏ん張る。

「明日香!」

「おう!」

そして、芽吹の叫びに応えるように、明日香が飛翔する。

明日香の能力は『正』。全ての異能や奇跡によって歪められた事象をあるべき姿に正す能力だ。

その明日香が、(ブラック)化してその能力を強化、飛翔し、一気に歪みに突っ込む。

だが、そんなとんでもない事態になっているにも関わらず、この夫婦(ふたり)はなおも戦いをやめない。

砲撃を外しても辰巳はなおも上空のひなたに向かって駆け出す。

それに対して、ひなたは自らの操る時穿の剣以外の八本の剣を駆使して辰巳の接近を阻止しようとする。

剣が、辰巳を襲う。それを辰巳は、対天剣術『縄張』をもって全て叩き落そうとするも、全ては仕留めきれず、肩や脇腹を僅かに抉られる。だが、止まらない。

背後から襲い掛からせようとも、正面から止めようとしても、横から吹き飛ばそうとしても、弾かれ、例え喰らっても止まらない。

「ひなたぁぁぁぁああぁあああ!!!」

辰巳が絶叫し、飛び上がる。

「辰巳さぁぁぁぁぁああああん!!!」

ひなたも絶叫し、時穿の剣を振りかぶる。

一見、達人である辰巳に対して、ひなたは剣を振る事に関しては素人だ。だが、ひなたは剣を操作するときと同様に時穿の剣すらも操作し、速さだけでも追いつこうとする。

高所から飛び掛かる辰巳と、それを迎え撃つひなた。

そして、歪みを塞ぐべく飛翔する明日香。

三人の刃が錯綜するとき、全ての戦いが幕を閉じる。

そして――――

「だらっしゃぁぁぁぁあぁあぁあぁああ!!!」

明日香が、歪みと交差するように剣を振るい、歪みを一瞬にして塞ぐ。

時空の歪みが収まり、その明日香の眼下では、辰巳が、床に倒れるひなたの顔のすぐ横に剣を突き立てている姿が見えた。

その胸元の服は斬り裂かれ、血も流れていた。

「ハア・・・ハア・・・」

「ゼエ・・・ゼエ・・・」

互いに息を挙げており、辰巳は、倒れまいとして剣を杖代わりにしていた。

そんなひなたは、僅かに痛む胸元の事を無視して、疲労しきった辰巳の顔を見上げていた。

「・・・・こんなに、激しく喧嘩したの・・・初めてです」

「ハア・・・ハア・・・ああ、俺もだよ。まさか、お前とこんな形でガチにやりあうとは思わなかった」

そんな風に言い合い、ひなたはまた話し出す。

「私は・・・戻ってもいいのでしょうか?」

「何度も言わせんな。良いに決まってんだろ」

「でも、私は、今は敵ですよ・・・?」

「よくある話だろ。好きな人が実は敵だったり敵に寝返ったりっていうパターン」

「でも・・・私は・・・貴方や、他の人を、沢山・・・」

「んなもん、俺が全部帳消しにしてやる。もしそれでお前の気がすまないっていうなら謝りに行けばいい。俺もついていくから」

「でも、私は、これでも三百歳のおばあちゃんなんですよ?そんな私でもいいんですか?」

「何言ってんだ。それなら俺だって三百過ぎてるジジイだ。それに、どんだけ時間が経っても、俺の気持ちは変わらねえ」

辰巳は、ひなたを抱き上げて、顔を近付かせる。

「どんだけしわくちゃのばあちゃんになっても、どんだけ時間が経っても、それでも俺はお前を愛している」

この三百年、一度も変わらなかった想い。

彼女との、戦いを終わらせるという願いを叶えられず、されど変わらず、色褪せる事のなかった想い。

辰巳の、たった一つの真実。

「例え敵だろうがなんだろうが、俺がお前を想う気持ちは変わらない。それだけは、何があっても変える気はねえよ」

「・・・本当に、私で良いんですか?」

その、ひなたの問いに、辰巳は――――

 

「お前じゃなきゃだめなんだよ」

 

それ以上の、言葉は不要だった。

それ以外の感情は全て、戦いの中でぶつけ合ったのだから。

大勢の少年少女に見守られる中で、二人は、その唇を重ねた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衝突した二つの一撃の衝突の瞬間、春信は悟った。

 

―――三秒で死ぬな、と。

 

どれほど洗練された究極の一撃であろうと、神のもたらす本気の一撃には遠く及ばない。

視界を真っ白に染める程の熱量は、園子の司る千剣の力をもって、溶ける事を防いでいるが、その熱エネルギーのもたらす威力は、流石の春信をもってしても、打ち勝つ事は不可能だった。

その衝突の瞬間、春信は、己の全神経を極限にまで活用して、目の前の状況を打開する策を模索する。

 

頭ではなく、体の細胞一つ一つで。

 

与えられた三秒間という猶予の中で、春信の体は必至に考える。

視覚から送られてくる情報よりも肌で感じる情報を頼りにする。

衝撃で全ての音が消えうせた為に耳からの情報も頼りにならない。

残り、二秒。

次の瞬間、春信が動く。

それは、己の最期を悟っているが故の行動だった。

(神樹よ――――)

神樹への祈祷。その瞬間、自らが纏っていた満開を()()()()()()()()()

咲き誇った花に目を見開くジガだったが、それでもねじ伏せるという結論に至ったまま、そのまま槍を押し込もうとする。

その一方、満開によってさらなる力を得た春信であったが、それでも、届かない。

どうやら三秒という力の差は、そう簡単には埋まらないらしい。

ただ新しい三秒が出来ただけだ。ここから、さらなる手段を模索しなければならない。

だが、どうする?もはや使える限りの手段は出し尽くした。後はこの一撃をいかにして相手に叩き込むかという事だ。

どうする?

だが、そこでふと春信は思い出す。

()()なら、この三秒で、この一撃をどうにかしてくれるだろう、と。

 

そして、それは、残り一秒で現実になる。

 

それは、彼女の血。彼女の血脈。その血の辿った宿命にして人生。

かの始祖の少女は願った。全てを守れる力が欲しいと。

人々は思った。彼女には、矛が相応しいと。

だが、少女はすでに戦える体ではない。

ならばそれは子孫に託すことにしよう、と少女は言った。

既に戦える身ではない。だが子を産み、育む事は出来る。

であるならば、未来に託すしか道はない。

それは、辛く険しい道であろう。だが、それでも少女は未来に縋るしかなかった。

その縋った結果が――――彼女の矛だ。

 

「―――屠れ『生ノ太刀(イクノタチ)倶利伽羅(クリカラ)』ァ―――ッ!!!

 

それは、神すらも恐れる、魔王の炎。全てを焼き尽くし、全てを焼土に変える、地獄の炎。

その炎の一撃が、ジガの槍の横から叩きつけられ、機動が逸れる。

例え、全てを焼き尽くす真っ白な炎であっても、悪魔のくべる地獄の炎に打ち勝つ事は不可能なのだ。

だが、威力そのものは殺せず、その一撃は、春信のすぐ右を通過、背後の全てを穿つ。

圧倒的熱量が、春信の半身を僅かに炙り、されど春信はとまらず前に踏み出す。

「おぉぉぉおおッ!!」

右手で掲げた刀の渾身の刺突。

だが、その一撃は、ジガの掲げられた手によって防がれる。

刃が突き刺さるのと同時に、刃ごと腕を動かし、無理矢理そらす、それによって、最後の一撃が逸らされた――――かに思えた。

「ォォォアアァァアアア!!!」

「―――ッ!?何―――」

いつの間にか、春信の左手には、園子の槍が握られていた。

春信が刺突を繰り出した際、園子が手渡したのだ。

完全な虚。決定的な隙。完璧なタイミング。

そして、想い。

戦いの終着点。それが今、叩き込まれる。

 

園子の槍の春信の一撃が、ジガの心臓を貫いた。

 

「――――一手、及ばなかったか」

貫かれた胸を抑え、よろよろと後ずさりをするジガ。

その顔は、満足気だった。

「この人生、ずっと戦いに捧げてきた」

槍の柄を地面に突き立て、男は一人、二人の男女の健闘を称える。

「この戦い、お前たちの勝利だ」

「ああ、そうだな・・・ぐふっ・・・」

春信が、膝をつく。

「春信さん!」

「ぐぅ・・・そろそろ限界か・・・」

満開を、維持出来なくなっている。

もはや体を動かす為の力すらも、満開の維持に回さなけれならなくなるほど、春信は限界なのだ。

おそらく、満開を解除すれば、その瞬間―――

「他の者が見れば、無様だと思うだろうな。勝った者が見上げ、敗者が見下すこの光景を」

「ああ・・・そうだな」

園子に抱えられ、春信は、悠然とその場に立つジガを見上げる。

「戦いしかなかった人生において、お前は・・・いや、お前たちは、最高の好敵手であった。二人で一人、比翼連理とは、この事か」

ふっと笑うジガ。

「そういえば、お前の名は聞いていなかったな。冥土の土産に、名前を聞いておこう」

「乃木・・・園子・・・」

「乃木園子・・・良い名だ。そして先祖の名に恥じない素晴らしい戦いであった」

「そっか・・・だったら、嬉しいかな」

園子は、ジガの言葉に、笑みを零す。

ふと、気付けばジガの体が朽ちて崩れている事に気付いた。

「ん?ああ、俺の体は、死すれば炭化して崩れ去るようになっている。そういう一族だ。その上、我が最大最強の一撃を放ち、そして敗北したのだ。こうなる事は必然だ」

「そんな・・・」

「悲観するな。もとより我らは敵同士。であるならば命の奪い合いは至極当然だ」

左腕が、崩れ落ちる。

「そろそろ時間か・・・まさか、戦いの中に生きた俺に、こんなにも安らかな死がもたらされるとは・・・・」

本当に、満たされたような表情で、ジガは消え去っていく。

「三好春信、乃木園子。お前たちの名前、このジガの脳裏に死してなおも永久に刻まれるだろう。誇るがいい。お前たちは、この俺に勝ったという事を」

体の崩壊が、ついに、顔にまで到達する。

「最後に、ベリアル―――結城友奈についてだ」

「結城友奈・・・ゆーゆがどうかしたの?」

途端に、園子の目が冷める。

当然だろう。何せ、彼女は、多くの友達の心を裏切ったのだから。

「奴は――――」

ジガが告げた言葉。それは、春信と園子をおおいに驚愕させるには十分なものだった。

「・・・嘘だ」

「信じるか信じないか、お前たち次第だ。だが、これだけは覚えておけ―――

 

―――奴と勇者たちの相性は、『最悪』だ」

 

それを最後に、ジガは完全な炭となって消えた。

「・・・」

その言葉を、園子は頭の中で反芻する。

「園子・・・」

だが、そんな事よりも、園子は、春信の方を見る。

「春信さん・・・!」

「どうやら・・・もう限界のようだ・・・」

春信の勇者装束に、亀裂が入っている。それは、どんどん広がっていっていた。

満開の外装が、外れかけているのだ。

春信は、最後の満開による体の崩壊を、この外装によって抑えているのだ。

だが、それに亀裂が入ってきているという事は、もう。

「そ・・・っか・・・・」

震える声で、園子は、呟く。

「じゃあ、最後にお話ししよっか」

無理な笑顔を浮かべて、園子は、自分の膝の上に、春信の頭を乗せる。

「春信さん、私、頑張りましたよね?」

「ああ、今までにないくらい頑張ったな。だが、本当の頑張りどころはここからだぞ」

「分かってますよ~。すぐにわっしーの所にいかなくちゃいけませんから」

「分かっていると思うが、結城友奈は、勇者の頃よりも圧倒的に強くなっている。油断すると、簡単にやられるぞ」

「限界を超えた私ならおちゃのこさいさいですよ~」

「まあ、お前ならそのテンションの方がいつもの力を出せるだろうな」

「えへへ~。勝ったらすぐに婚姻届ださないとな~」

「お前、まだ十四だろう?結婚するのは二年後だ」

「え~。それまで待てませんよ~」

「舐めるな。俺がそこらの女に目移りすると思うか?」

「ありえませんね」

「だろう。だから気長に待て」

「はーい。子供は何人ぐらいほしいですか?」

「多すぎても困る。多くて四人だ。少なくとも男は二人は欲しい」

「じゃあ残り二人は女の子ですね~。私、頑張るんよ~」

「あんまり気張るなよ。母親が健康である事が一番だからな」

「分かってますよ~」

ふと、そこで会話が途切れる。

理由は、目に見えていた。

園子の両目から、涙が溢れ出て、それが春信の顔に滴っていた。

「あれ・・・おかしいな・・・泣かないって決めてたのに・・・なんで・・・」

その時、もう動かすのもつらいであろう春信が、そっと傷だらけの手で、園子の頭を撫でる。

その行為に、園子の顔が、くしゃりと歪んでしまう。

「はる・・・のぶ・・・さ・・・・はるのぶさん・・・・!」

一度溢れだした感情を、抑える事は出来なくて、園子は激しく嗚咽を漏らし、そして、泣きながら春信に言う。

「いや・・・だよ・・・・やだよ・・・はるのぶさん・・・私、はるのぶさんと・・・いっしょにいたいよぉ・・・!!」

「わかっている・・・俺だって、出来ればお前と一緒に生きたかった」

「ちゃんと、けっこんして・・・こどももつくって・・・それでわっしーたちとこどもがあそんでるところをみてわらって・・・それで・・・それで・・・さいごまで、いっしょに歳をとっていきたい・・・こんな・・・ところで・・・別れるなんて・・・やだよぉ・・・!!」

涙は、次から次に溢れてくる。しかし、いくら喚いたところで、春信の勇者装束の亀裂はとまらない。

いずれ限界が来て、春信の命は消える。

「園子・・・」

「ひっく・・・えぐ・・・」

「最後に、お前と共に戦えて良かった・・・お前のような強い女に見惚れられて、俺は幸せ者だ・・・だから・・・」

春信は、力を振り絞って、最後の願いを口にする。

「笑ってくれ」

それは、春信の、心からの願いだった。

「お前は、笑顔が一番だ」

その言葉に、園子は、溢れ出る涙を拭って、力いっぱい、笑顔を作る。

それでも、涙は溢れ出てくる。

不格好になってしまっただろうか。

でも、今は、これが精一杯だった。

「笑う・・・・笑うよ、春信さん。これからもずっと、春信さんが心の底から羨むぐらいに、幸せになるからね」

すると、春信は安心したように手を園子の顔から離す。

「なら、安心だな」

そう言って、目を閉じた春信。

それと同時に、春信の勇者装束が、亀裂で埋め尽くされる。

 

次の瞬間、園子の視界が真っ赤に染まる。

 

押し込められたエネルギーが一気に開放されたのか、春信の血が、辺り一面に広がる。

全身に春信の血を浴びた園子は、腕の中の春信の顔を見つめて、そして―――

 

 

泣いた――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここに至るまで、ゴーレムや竜牙兵の邪魔は多くあったものの、無事に辿り着くことが出来た。

途中、風と合流出来た事も幸いだった。

これなら、決して遅れをとる事はないだろう。

 

ここに至るまでに、様々な感情が、胸中を駆け巡っていた。

 

憤怒、憎悪、困惑、嗟嘆、愛絶、激憤、自棄、呪詛――――

 

数えれば、キリがない程に、彼女への感情は沢山あった。

だが、やはり一番に来るのは、恋人を殺された事に対する『憎悪』と、裏切られた事に対する『絶望』と『怒り』だった。

あの日、初めての土地で不安を感じていた自分を救ってくれた、初めての友人。

感謝もある、悲しみもある、躊躇いもある。

だが、それよりも、倒さなければならない『使命感』と、それを後押しする『憎悪』が、何よりも勝っていた。

だから、この引き金を引くことに、躊躇いはもう無い。

隣にいる風も、同じだろう。

後ろにいる二人はどうなのかは知らない。

だけど、もう、止まる事は無い。

 

 

 

 

部屋に入れば、そこには彼女がいる。

 

 

「アハ、久しぶりだね。東郷さん」

「――――友奈」

いつも通りの彼女に、フッと怒りが沸いて、ドスの効いた声が出てしまう。

だが、これでいい。

 

もう、かつての関係には戻れないのだから――――




次回『決戦 勇者部VSベリアル友奈』

かつての友を討て。
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