スーパーロボット大戦//サイコドライバーズ   作:かぜのこ

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αIIー3「凶鳥は三度死ぬ」

 

 

 新西暦188年 ◎月■日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 ロブがGGGに滞在していた理由が判明した。

 GGG中国支部が受け持つ「Gストーン」の欠片の一つを込めた「GSライド」を《アッシュ》、正確に言うならその後継機MkーXの動力源にするためだったらしい。

 諸々の事情でトロニウムエンジンが使用できないことを受けた処置で、ヒトの生きようとする意志に反応して無尽蔵のエネルギーを生み出すGストーンの性質に着目したわけだな。

 ということで、《アッシュ改》がまたまた改修を受けた。

 もっとも、予備のプラズマ・ジェネレーターを取り外して、そのスペースにPT用のGSライドを搭載するだけだから作業自体はすでに終わっている。

 いい加減、いじりすぎだと思うのは私だけか?

 

 ただし、現在GSライドは稼働していない状態だ。

 ロブ曰わく「理論上では完璧なはずなんだが」。獅子王博士によれば「アッシュに染み付いたイング君の念と、無垢な状態のGストーンが拒否反応を起こしてるんじゃ」。

 しばらくGストーンをイングの念に馴らしてから再度調整を行うとのことで、《アッシュ》のパワーアップに繋がらなかったことをイングは大変残念がっていた。

 

 なお、そのイングだが、Gストーンの無限情報サーキットとしての性質を生かして、勇者ロボのような超人工知能の搭載を熱望している。

 どうも《レイズナー》の支援AI、「レイ」が羨ましいらしい。もう勝手にしろという感じだ。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月☆日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 《雷龍》《風龍》が《氷竜》《炎竜》といがみ合って困っている。

 合流した当初から不穏な空気を醸し出していたのだが、ここに来て確執が表面化してしまった。どうやら《雷龍》《風龍》が未だ合体を出来ていないことが原因のようだ。

 レスキューマシンとしての色が強い《氷竜》《炎竜》と、初期から兵器として造られた《風龍》《雷龍》の違いと言えばそれまでだが。

 ロボットとはいえ、二機は私たちの部下である。どう解決しようか、頭が痛い……。

 

 

 追記。

 明日、竜崎が銀河と北斗に稽古をつけるために《ダイモス》と《電童》で模擬戦をやるらしい。ベガ副司令に、ついて行ってやってくれと頼まれた。

 訓練とは結構なことだが、妙な事件の発端とならなければいいのだが。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月◎日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 イングの戯言ではないが、昨日の日記がフラグとやらになってしまったらしい。

 

 Gアイランド・シティ近海、東京湾での一対一の模擬戦。

 結果は《電童》の辛勝だったが、そこに火星の後継者が襲来する 。例のごとく現れた《ブラックサレナ》《ユーチャリス》と協力して対抗していたのだが、奴らの目的はGGGの保有するEOTだったようで、機動兵器を陽動に北辰とその部下たちが基地内に白兵戦を仕掛けてきた。

 だが、相手が悪かった。

 獅子王凱、司馬宙のサイボーグコンビだけでお釣りがくるほどの戦力だというのに、ベガ副司令を筆頭に生身でも戦えるメンバーで返り討ちにしてやった。無論、私とイングも急行して白兵戦で迎え撃った。

 しかし、北辰集を数人始末することには成功したが、肝心の北辰を逃してしまったのは痛恨だったな。

 

 さらに悪いことは続くもので、同時に鉄甲龍による大規模なサイバー攻撃が始まった。現在も、世界規模で深刻なネットワーク障害が続いている。

 国際警察機構の調べによれば、鉄甲龍は「国際電脳」という企業を隠れ蓑にしていたようだ。

 ベイタワー基地はホシノ艦長と《ナデシコB》の管制AI「オモイカネ」、GGGメインオーダールームのチーフ、猿頭寺耕助の手でハッキングに対抗しているが、世界中の量子コンピュータから攻撃に押し負けてやや不利に陥っている。

 早急に敵本拠地を潰さなければ、こちらが危うい。αナンバーズ首脳陣の編み出す作戦に期待だ。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月∑日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 先日の日記には期待と書いたが、後手後手に回っている。

 ここは鉄甲龍の手際を評価すべきところだろうか。

 

 東京市、そしてGアイランド・シティに侵攻した八卦ロボ、《地のディノディロス》《山のバーストン》との前哨戦。人工的に地震を引き起こす《地のディノディロス》も厄介だったが、特に多数のミサイルに核ミサイルまでもを爆装した《山のバーストン》は、質の悪い機動兵器だった。

 《山のバーストン》により都市部に向けて発射された核ミサイルは、《ユウ・ブレン》《ヒメ・ブレン》を筆頭にしたブレンパワードたちが協力し、発生させたオーガニック・エナジーで宇宙に弾き出され、事なきを得た。

 またその際、《雷龍》《風龍》が《氷竜》《炎竜》から人命救助と勇者とやらの心を学び、《撃龍神》へと合体を成功させたことを特記しておく。

 

 さておき、鉄甲龍の本拠地を突き止めるべく、私たちは撤退する二機の八卦ロボを追撃したのだが、そこに最後の八卦ロボ、《雷のオムザック》が現れた。

 しかし、三度豹変したマサトからの何らかのアクションをきっかけに仲間割れを始め、最終的には《メイオウ攻撃》で消し飛ばされた。

 

 錯乱したのか、苦しんだように暴走し、こちらに攻撃しはじめた《ゼオライマー》を止めたのは他でもない、シュウ・シラカワの《グランゾン》だった。

 途中で《ゼオライマー》が停止したからよかったものの、あのまま戦い続けていたら冗談抜きに地球が終わっていたかもしれない。

 正直言って、私はあの二機の戦いに割って入りたくない。イングでさえ、顔色を変えて震えていたのだからな。

 拘束された秋津マサトの処遇は、明日に持ち越すことになった。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月▲日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 《グランゾン》と《ゼオライマー》の対決から一夜が明けた。

 

 シュウはラ・ギアスでの事件を解決させたその足で、地上にやってきたらしい。

 さらに、私たちαナンバーズに協力するつもりらしい。「因果率の収束点を自分の目で観測するため」と意味ありげに嘯いていたが、実際のところその目的は不明だ。

 イングは「利用されたどこぞの誰かを潰したいだけなんじゃね?」と核心を突いた感想を漏らしていた。

 

 シュウ・シラカワの登場と、マサトの変化で様々な事実が判明した。

 その情報を纏めるために、ここに記しておくことにする。

 

・《天のゼオライマー》とは、木原マサキの野望のために生み出されたものである。

 その木原マサキという男は大変歪んだ人物のようで、《ゼオライマー》により地上全てを滅ぼしてそこにただ独り君臨することを目的としていたようだ。

 

 

・秋津マサトは木原マサキのクローン人間である。

 マサトは木原マサキの野望を達成するための駒であり、《ゼオライマー》に記録されていた木原マサキの人格等を徐々に上書きされていた。突然の豹変はそれが原因だった。

 現在は何らかの不具合により、どっちつかずの状態に陥っているらしいことが本人の口から語られている。

 さらには鉄甲龍の幹部の殆どが木原マサキのクローンであるという。

 

・木原マサキはEOT会議のメンバーであり、ビアン・ゾルダーク博士と交友があった。

 シュウ・シラカワはビアン博士自身からその人となりを聞いていたそうで、「人間性はともかく、才能ではビアン博士にも匹敵する天才」と評価していた。

 

・「次元連結システム」の正体と原理。

 美久は次元連結システムそのものであり、人間のように成長するアンドロイドだと判明した。それだけでも驚愕すべき科学力だが、その実体がすごい。

 次元連結システムとは、アカシックレコードとも呼ばれる宇宙の根源から、木原マサキが「次元力」と名付けた無限のエネルギーを汲み取る装置であり、サイコドライバーの力を機械的に再現したものなのだという。

 なお、シュウ曰わくこの「次元力」とはラ・ギアスの概念「プラーナ」とも密接に関連しているとのこと。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月♪日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 現在、αナンバーズは未知のコンピュータウィルスに侵されたユニコーンドリル、レオサークルの治療に全力で当たっている。

 ホシノ艦長、エリスらその筋のスペシャリストたちは元より、イルイや護、ケン太、宇都宮比瑪についてきた孤児のちびっ子たちも仲のよかったデータウェポンのために、必死になって奔走している。

 

 一方、私たちはウィルスの感染源と思われる宇宙生物「ラゴウ」を捕獲するため、出撃準備中だ。

 この日記も、《ファルケン》のコクピットで書いている。

 その《ファルケン》の対面には、青白い特機サイズの機動兵器が駐機されている。《サイバスター》、ラ・ギアスからやってきた風の魔装機神である。

 

 ことの経緯はこうだ。

 先日のシュウによる暴露の後、マサトは自身のオリジナル、木原マサキの始末をつけるべく美久とともに鉄甲龍の本拠地に乗り込んだ。

 鉄甲龍の首魁にして、同じく木原マサキのクローンである幽羅帝諸共《ゼオライマー》で自爆したマサトたちだったが、何の因果か生き残ってしまった。

 そこに、北辰と火星の後継者がまたぞろ現れる。おそらくは次元連結システムが狙いだったのだろう、確かに手負いの《ゼオライマー》なら与し易い。

 窮地の《ゼオライマー》を救ったのが偶然通りすがったマサキ・アンドーと《サイバスター》だったわけだ。

 よくもまぁ、状況もわからずマサトたちに助太刀したものだと思ったが、後に聞いたところ「大勢で寄ってたかって攻撃してんだから、助けるのは当たり前だろ」との答えが返ってきた。

 

 私たちが合流したのはその辺りだったのだが、さらに乱入するものがあった。それが上記の《ラゴウ》、ガルファ皇帝のペットで金属を喰うという宇宙生物である。

 データウェポンとは何らかの因縁があるらしく、四体のデータウェポンは勝手に「ファイルロード」して立ち向かっていった。

 が、あえなく返り討ちにあい、ラゴウからウィルスを注入されてしまった。

 

 これから一時間後、消滅の危機にあるデータウェポンたちを救うべく、ラゴウの捕獲を目的にガルファの拠点がある月へと向かう予定だ。

 月と言えば、様々な勢力が入り乱れて地獄のような様相を呈している地帯である。

 ギガノス、あるいは木星帝国、はたまた星間連合の横やりが予想される。気を引き締めなければ。

 

 少し意外だったのが、マサキが宿敵シュウ・シラカワと顔を合わせても比較的冷静だったこと。ラ・ギアスで何かあったらしいが、詳細は不明だ。

 とはいえイングに、「さんざん道に迷ったあげく、シラカワ博士に先越されてやんの」とイジられて顔をしかめていたが。

 また、木原マサキと同名なためか、その名前が会話に上がる度に微妙な表情をしていることを記しておく。

 もっとも、これはヤマダにも言えることだがな。

 

 なお、ダメージが深い《ゼオライマー》はGGGに残り、マサト自ら修理するそうだ。あのビアン博士に匹敵するという木原マサキの知識に期待するのは酷だろうか。

 生き残ってしまったマサトは、木原マサキの犯した罪を購うためにαナンバーズの一員として戦いたいと決意を明かした。神隼人や剣鉄也らいわゆる皮肉屋たちが「信用できるのか」と異を唱えていたが、大河長官が認めたことで納得したようだ。長官の人徳のなせる技だな。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月×日

 地球圏、衛星軌道上

 

 結果から書くと、ラゴウ捕獲作戦は失敗に終わった。マーグ率いる星間連合の妨害によるものだ。

 しかし、ユニコーンドリルとレオサークルは無事だ。

 ウィルスに消滅する間際、GGGに保管されていた《ガオガイガー》の構成パーツ、《ドリルガオー》《ステルスガオー》の予備機をそれぞれ取り込んで復活を果たし、さらには合体して「超獣王輝刃」となり《電童》に力を貸し、ラゴウを葬ったのだ。

 

 なお、宇宙への打ち上げの際、ゾンダーによる妨害があり、アイビスが単騎で迎撃に出ている。

 データウェポンたちと仲のいいイルイのためだろうアイビスの無茶な行動の援護に、凱とゼンガー少佐、レーツェルも残っている。

 四名は無事、ゾンダーを撃退したそうだ。

 

 肝心の作戦だが、前述の通りマーグ率いる星間連合の部隊の妨害を受けた。ガルファと繋がっていたわけではなく、漁夫の利を狙っていたのだろう。

 また、その部隊にはエイジの実姉、ジュリアが婚約者の敵として実の弟の命を狙って参加していたようだ。前にも書いたが、一世紀前の昼ドラ並にドロドロだな。

 それから、あのトリ型メカに類似したサメ型メカが現れて共同?したことを記しておく。

 

 イングは輝刃の誕生を感知していたようで、私は「希望が輝いた」と小さく呟いたのを確かに聴いた。

 「輝いた」は輝刃の暗喩だろうが、「希望」とはいったい何のことだ?

 

 さておき、αナンバーズは現在地球に帰還すべく、移動中だ。

 地上に残った四名との合流とミケーネ帝国に対抗するため、北米はテスラ・ライヒ研究所に降下予定である。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月¥日

 地球圏、衛星軌道上

 

 ネオ・ジオン、及び木星帝国との遭遇戦があった。

 特筆すべきことはその部隊に《ビルトファルケン・タイプR》がおり、ジュピトリアンの巨大モビルアーマー《ラフレシア》と交戦した。あの触手、厄介だったな。

 

 戦闘時に合流したロンド・ベル旗艦《ラー・カイラム》、ブライト艦長とともに、青い《量産型F91》のパイロット、ハリソン・マディン大尉が加わった。

 アムロ大尉がαナンバーズへ参加していた間の代わりを勤めていた人物で、正規の軍人にしては出来た人柄を持っている。イングにも見習わせたいくらいだ。

 

 《量産型F91》、いい機体だ。

 アムロ大尉たちの尽力で実践配備されただけあって、試作機とほぼ遜色ない性能に仕上がっている。量産機にしては高性能すぎというのはいささか難点だが、αナンバーズには関係ない。

 量産機といえば、《レイズナー》及び鹵獲した星間連合の《ドトール》を解析した地球産SPT《ドール》が、連邦軍正規部隊で運用を開始されたらしい。こちらは元が量産機だけあって操作性やコストに優れているようだ。

 現在の連邦軍は現行の《ジェガン》に加え、《ドラグーン》《量産型F91》、《ドール》のハイ・ロー・ミックスで構成されている。あと、一部には《VFー1バルキリー》シリーズや《エステバリスII》なども使用されている。

 さすがに《量産型グレート》などの特機は配備されていないが、少数生産された《量産型グルンガスト弐式》も現役で活躍しているそうだ。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月*日

 地球圏、衛星軌道上

 

 諸々の事情で接触した《マザー・バンガード》の協力者、ベラ艦長の従姉妹であるシェリドン・ロナの子供じみた妨害には辟易と言った気分だ。

 シェリドンにより、ジュドーとともに拘束されていたトビアは《クロスボーン・ガンダムX3》を奪取し、木星帝国との戦闘に馳せ参じた。

 後になって聞いたが、シェリドンは狂信的なニュータイプ信者でそのためトビアとジュドーを拘束したらしい。「ニュータイプなんて大したことない」が持論のイングとは水と油だろう。

 

 木星帝国の首魁、クラックス・ドゥガチの娘、テテニス。ベルナデット・ブリエットを名乗り、一時期《マザー・バンガード》と行動をともにしていたらしい彼女は、実の父親によってモビルアーマー《エレゴラ》に乗せられ、αナンバーズに敵対させられることになった。

 もっとも、その小細工はトビアの活躍によって見事ご破算と相成ったわけだが。

 しかし、「海賊らしく、頂いていく」か。トビアめ、なかなか味なことを言う。

 言い放たれたときのドゥガチの顔を直に拝めなかったのが、残念でならない。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月ℓ日

 地球圏、衛星軌道上

 

 ネオ・ジオンを脱走したゼオラ・シュバイツァーを保護した。

 先日の戦闘で思うところがあったのだろう、ゼオラは元ティターンズのヤザン・ゲーブルらに追われていた。それを聞きつけて勝手に飛び出したアラドを援護して、一戦交えたのだ。

 しかし、《ストライク・デッド・エンド》のオリジナルと言える《ツイン・バード・ストライク》をぶっつけ本番で決めるとは、あの二人なかなかやるな。

 アラドの奴、普段はへっぽこなくせに相方がいると動きが抜群によくなるようだ。あるいはゼオラのフォローが上手いだけかもしれないが、それでも大したものである。

 

 さておき、いろいろあったが明日にはようやくテスラ研に到着だ。

 久々にまとまった休息が取れそうだし、イルイにかまってやるとしようか。

 

 

   †  †  †

 

 

 北米地区の荒野に建てられた研究施設、「テスラ・ライヒ研究所」。革命的な推進機関テスラ・ドライブ、そして名機《グルンガスト》を世に輩出した場所である。

 物資補給のために立ち寄ったαナンバーズの面々は、つかの間の休息を楽しんでいた。

 

 αナンバーズ所属艦の一隻、《マザー・バンガード》。

 遊覧船のような優美な船体に相応しく軍艦にしてはすっきりとした印象の通路を、ピンクブロンドの少女が金髪の幼い女の子の手を引いて歩いている。

 αナンバーズが誇るエースパイロットの一人、アーマラ・バートンと謎の少女、イルイだ。 

 

 普段は《ナデシコB》に同乗している二人は、持て余した暇を潰すべくほかの所属艦に行ってみようという話しになった。主にイルイの希望である。

 

「狭い軍艦に押し込められて退屈じゃないか、イルイ」

「ううん、毎日楽しいよ」

 

 アーマラの気遣わしげな視線を見返し、イルイは笑顔で否定する。

 

「友だちも、いっぱいできたし」

「ふふ、そうか」

 

 相変わらずαナンバーズには年少の子供たちが多いし、一部は戦闘要員として活躍している。

 《キング・ビアル》などは一族総出で乗り込んでいるし、大半のメンバーは成人前の少年少女ばかり。さらに数少ない正規軍人のブライトやアムロなどさえもかつては同類だったのだから、αナンバーズがどれだけ異質な集団であるかがわかるだろう。

 

「みんなとお勉強するのも楽しいよ」

「イルイは偉いな」

「えへへ、うん」

 

 アーマラに褒められ撫でられて、イルイはご機嫌だった。

 

 未だ学校に通っていなければならない年齢の子供たちのために、《大空魔竜》のサコン・ゲンや大文字博士などが教師役になって、彼らに一般教養を教えていたりする。

 もっとも、ジュドー以下シャングリラ・チルドレンたちやケーンらドラグナーチームなど、年齢的には「子供」の範疇に当たる悪ガキたちは、この勉強会から何かにつけて逃げ回っていたりもするのだが。

 なお、アーマラはともかく、イングも真面目に受けていることに周囲は意外に思われている。

 

 閑話休題(それはさておき)。

 

 二人は《マザー・バンガード》の食堂に立ち寄った。

 食事時ではないから、船員の姿はまばらだ。

 

「広いねー」

「そうだな。ナデシコBと同じくらいはありそうだ。――ん? あれは……」

 

 閑散とした食堂を見渡していたアーマラが、ふと何かを目撃する。

 

「あっ、お兄ちゃん!」

 

 同じものを見たイルイが、ぱっ、と繋いでいた手をすり抜けて駆けていく。

 アーマラは、やれやれ、とニヒルな仕草で肩をすくめ、その後を追っていった。

 

「なにをしてる、イング」

「んあ? アーマラにイルイか」

 

 アーマラの声に前髪に蒼いシャギーの入った銀髪の少年――イング・ウィンチェスターは包丁片手に作業していた手を止め、振り向いた。もう一方には、剥きかけのジャガイモが握られている。

 傍らにはキンケドゥとトビア、アラドが同じように包丁やらピーラーやらで黙々と山のようなジャガイモと格闘していた。

 

「何ってしてるって、ジャガイモの皮むきだけど?」

「いや、それは見ればわかるが……」

「おいも?」

「おう。ベラさんがパン焼いてみんなに振る舞うらしくてさ、キンケドゥが具にコロッケを作るんだよ。で、それを手伝ってんの」

 

 控えめにすり寄ってきたイルイの頭を撫でつつ、イングが事情を説明する。もちろん、包丁を置き、汚れた手を拭った上でだ。

 

「要するに、二人の明るい将来に向けての予行練習だな」

「ま、まあ、そんなところだ」

「今、ベラさんが奥でパン粉を練ってるんだ。ベルナデットも手伝ってるよ」

 

 軽くからかわれて言葉を濁すキンケドゥと、トビアが状況を補足した。《マザー・バンガード》の師弟コンビは、女性関係でもよく似ている。

 

「それはわかったが、どうしてアラドまでいるんだ。お前、今日はゼオラと訓練するんじゃなかったのか」

「いやー、それがなんかイングさんに捕まっちゃって。……おれって、消費するの専門なんスけど」

 

 アーマラの問いに、アラドが困ったように事情を説明する。ちょっぴり不服そうだ。

 はぁ、と頭痛を感じたようにアーマラは頭を抱えた。

 

「バッカおめぇ、今時のイケてる男子は料理が出来て当たり前なんだって。レーツェルさんとか、すげーカッコいいだろ?」

「ああー、なるほどッス」

 

(イケてる、って言葉自体がすでにダメっぽいのは言わない方がいいかな)

 

 お気楽な義兄弟コンビのやりとりに、トビアは苦笑している。

 謎の美食家ことレーツェルの料理通ぶりはαナンバーズに浸透しており、今日もその腕で何を披露してくれるか大変期待されている。――一部に、クスハの例の“アレ”を警戒する向きもあるが。

 

「オトナってのは、自分の食い扶持ぐらい自分で用意するもんだ。それにほら、お前の相方ってメシマズさんだろ? ……ウチのと一緒で」

「! たしかにっ!」

「どういう意味だ、それは」

 

 使い方の間違った言葉を軸に持論を展開するイングに、アラドが感銘を受けたように何度もうなづいている。引き合いに出されたアーマラが、眉間にしわを寄せた。

 そんなパートナーに、イングはシレッとした顔で告げる。

 

「だって、事実だし」

「バカにするな。私だって料理くらいできるぞ。お湯をかけて三分待つだけだ」

「インスタント食品は料理って言わねえのっ!」

「インスタントじゃなくて、軍用レーションだぞ」

「余計にダメだよっ!」

 

 わりとズレたアーマラの返答に、イングがすかさずツッコんだ。

 二人のやりとりがおかしくて、イルイがけたけたと腹を抱えて爆笑している。

なお、イングとアーマラは、甲児や豹馬、マサキなどから「夫婦漫才」と呼ばれていたりする。

 

「ふ、ふんっ! お前だって、大口を叩ける腕前じゃないだろうに」

「残念だったな! オレは一通りレシピを覚えたから、味付け以外は完璧だっ!」

「威張ることじゃないと思うぞ……」

 

 二人のズレズレな掛け合いに、キンケドゥが脱力したようにツッコミを入れた。

 

 もっともイングは自身が極度の甘党なだけで、他人に食べさせる料理はそれなりにまともに作れるのだが。

 一応、中の人は極々普通な一般人であるからして、料理の経験だってある。ただ、根本的に味覚がおかしいだけだ。

 

 

 ジャガイモを剥き終わったイングとアラドを加えた一行は、イルイのたっての願いで。ロンド・ベル隊旗艦《ラー・カイラム》に向かう。

 イングの(多少はアーマラの)影響を受けているイルイは、軍艦やαナンバーズのロボットに興味を示している。置かれた環境や、同世代に男子が多いことも無関係ではないだろうが。

 そのイルイは、「お兄ちゃん」におんぶされて大変ご機嫌だった。

 

「ああーっ!」と、廊下の向こうから金切り声が響く。

 声を上げ、土煙を上げんばかりに走り寄ってくるのは、銀髪の少女だった。

 

「アラドッ、やああああっと見つけたっ! 約束の時間、何時間過ぎてると思ってんのよ!」

「げっ、ゼオラ!?」

「何が、「げっ、ゼオラ!?」よ! 私との約束すっぽかして、どこいってたのっ!?」

 

 怒り心頭、憤慨するゼオラ。彼女のアクションにあわせて大いに揺れる胸をガン見していたイングが、「ありがたやありがたや」と拝んでいる。

 アホな相方のわき腹に制裁を加えつつ、アーマラは怒り心頭のゼオラと責められるアラドを取りなす。

 

「すまんな、ゼオラ。ウチの馬鹿がアラドを引っ張っていたらしい」

「あ、いえ、アーマラ少尉に謝っていただくようなことじゃ……」

「ゼオラ。何度も言うが、私はもう連邦軍の少尉ではないぞ?」

「は、はい」

 

 すると一転して畏まるゼオラ。先ほどまでの怒りっぷりが嘘のような態度だった。

 戦場では同じ《ビルトファルケン》のパイロットとして鎬を削ったアーマラとゼオラだったが、現在は良好な関係を築けていると言える。

 αナンバーズに保護され、仲間入りしたゼオラはアーマラに「生意気なことを言ってごめんなさい」と敵対中の言動を謝罪した。まだ参加して間もないが、PTパイロットの先達として敬意を払っているのが伺える。

 アーマラの方も慕われることに悪い気はしておらず、アラド共々弟分妹分としてかわいがっていた。

 

「こんにちわ、ゼオラ」

 

 話しが一段落したのを見計らっていたのか、イルイが挨拶する。

 

「こんにちはイルイ。お兄さんとお姉さんが一緒で、ご機嫌ね」

「うんっ」

 

 ゼオラの指摘に、イルイが元気いっぱいに答える。そして、改まったように通路を見やった。

 

「なんだか、狭いね」

「まあ、ラー・カイラムは純粋な戦艦だからな。ナデシコBやマザー・バンガードはもとより、大空魔竜とかと比べたら気の毒だ」

「ふーん……でも、お兄ちゃんは前に住んでたんでしょ?」

「んっ、ま、そうだな。バルマー戦役やイージス事件でも世話になったフネだよ。そういう意味では、ラー・カイラムはオレの我が家(ホーム)みたいなもんかな」

 

 イングが誇らしげに言う。

 乗船した期間は短かったものの、アーマラも同意見らしく得心したように頷いていた。

 

 この《ラー・カイラム》は未来世界から持ち込まれた艦であり、現代に残っていた方は《ジャンヌダルク》と改名されて連邦軍の正規部隊で使用されている。

 同じく、《マジンカイザー》《真・ゲッターロボ》も二機あったことになるのだが、こちらは不思議な現象により両者が一つになっている。

 イージス事件、真の最終章、自立起動した両機との熾烈な戦いはまた別の話だ。

 

 時折擦れ違う船員やαナンバーズのメンバーに挨拶しつつ、のんびりと艦内を散策する一行。

 

「あ、アムロ大尉とヴィレッタ大尉だ」

 

 と、アラドが声を上げる。通路の少し先に種類の違う軍服を来た男女の姿が見える。

 女性の方、ヴィレッタを見てアーマラが僅かに身構えたのをイングはちらりと視界の隅で確認した。

 

「ンッ、やあ」

「あなたたち、ラー・カイラムに何か用事?」

 

 フランクに挨拶するアムロに対し、ヴィレッタが前置きもなしに単刀直入に事情を聞く。

 

「イルイの社会科見学ってとこです」

「イング、それでは事情がわからんだろう。イルイがラー・カイラムの艦内を見てみたいと」

「なるほど、そういうことか。だけどイルイ、ただの軍艦を見て回っていて楽しいかい?」

「はい、楽しいです」

 

 イルイの礼儀正しく元気いっぱいの返事にアムロは微笑みを浮かべ、頭を軽く撫でる。保護者たちと違って、真面目で素直ないい子である。

 空気が一層和やかになったところで、イングが切り出す。

 

「お二人は、お仕事中ですか?」

「ああ、これからの部隊編成について軽く打ち合わせをしていたんだ」

「ゼオラが新しく加入したから、多少の変更があるのよ」

 

 アムロに続いて、ヴィレッタが事情を説明する。

 ヴィレッタは、メタな表現をするとバンプレストオリジナルチームの実質的な指揮官として活躍していたりする。

 階級的なトップはゼンガーだが、本人から指揮権を委譲された形だ。この辺り、イングとアーマラの関係に近いものがある。

 故に、αナンバーズ機動部隊のトップと言っても過言ではないアムロとは行動を共にしている姿がよく目撃されている。もっとも、両者の間にあるのは色気のある関係ではなく戦友といった風情であるが。

 

「お、お手数おかけします……」

「ゼオラ、謝ることではないわ」

「そうだな、ヴィレッタの言う通りだ。これが俺たちの仕事なんだから、」

 

 恐縮しきりのゼオラを年長二人が窘めた。

 

「それで、あなたたちはこれからどうするの?」

「とりあえず、ブライト艦長に挨拶しとこうかなと。オレもそうですけど、この機会にイルイを紹介したいんです」

「なるほど。みんな、ブライトの仕事を邪魔しないようにな」

 

「はーい」と声を上げるイング、アラド、それからイルイ。アムロは苦笑したが、お目付役のアーマラとゼオラがいるから大丈夫だろうと。

 とはいえ、艦橋が騒がしくなることは間違いない。旧友の胃の調子を心配するアムロである。

 

 

「いい顔をするようになったな、イングは」

「大尉からはそう見える?」

「出会った頃のイングは、一見明るかったけれど、どこか危ういというか不安定だったからね。今はイルイやアーマラに囲まれて、地に足が着いたように見えるよ」

 

 守るヒトが出来たからかな。アムロはそう言って、去りゆく五人の後ろ姿に目を細めた。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦188年 ◇月×日

 地球、北米地区 テスラ・ライヒ研究所

 

 現在、αナンバーズはテスラ研で補給を受けている。

 予定通り、イルイの相手をして過ごした。周囲が荒野に囲まれたここテスラ研では娯楽などないに等しいが、みな思い思いの方法で余暇を取ったようだ。

 

 イルイの願いで立ち寄った《マザー・バンガード》の厨房で、イングがキンケドゥらと見た。

 ロンド・ベル時代、厨房で下働きをしていたこともあるらしく、憎たらしいほど。器用な奴だ。

 ……やはり、私も料理のひとつ出来た方がいいのか?

 

 合流したゼンガー少佐だが、新たな特機に乗り換えていた。

 「ダイナミック・ゼネラル・ガーディアン」一号機、通称《ダイゼンガー》。《グルンガスト参式》から受け継いだ《参式斬艦刀》のみを武器に戦うイング曰く漢の機体だ。

 テスラ研に死蔵されていたDCの遺産、ビアン・ゾルダーク博士設計のスーパーロボットであるらしい。

 乗り換えたのは、テスラ研に襲来したミケーネ帝国と邪魔大王国との戦闘でのことで、例のククルとかいう女に《参式》を破壊されたからだという。イングが「また名シーン見逃した!」と騒いでいたが、どうでもいいことだな。

 ちなみに、修復された《ゼオライマー》もこの戦闘の際に合流している。

 

 また、アイビスがネオ・ジオ

ンに組みしているDC時代の同僚と戦った模様だ。合流後、顔つきや雰囲気が好ましいものに変わっていてちょっと感心した。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月†日

 地球、極東地区上海 梁山泊

 

 国際警察機構から召集を受けた私とイングは現在αナンバーズ本隊を離れ、上海は梁山泊にいる。

 同行者はイルイ、クスハ、ヴィレッタ大尉、アラド、ゼオラ、ゼンガー少佐、レーツェル、アイビスとその相方、ツグミ・タカクラだ。

 

 要件はBF団の動向について。

 かつての決戦で大幅に戦力を減じたBF団だが、最近になってにわかに活動が活発になっているという。京都で、コ・エンシャクとやりあったこともその証左だろう。

 エキスパートたちの調査により、連中がバルマー戦役の頃から進めていた「GR計画」、その正式名称が判明した。「グレート・リターナー」、大いなる帰還者、あるいは大いなる者の帰還といったところか。

 詳細は解らないが、まだ諦めていないらしいことは確かだな。

 

 それと、滞在していた安西エリ博士から例の鳥型メカについての見解を聞いた。

 「クストース」と名付けられた彼らは、あるいは超機人に関連する存在であるかもしれないとのことだ。

 

 あと、イルイがクスハに行方不明というか洗脳されているらしいブルックリンについて質問していた。

 あの子なりに、クスハを思いやって胸を痛めているようだ。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月ℓ日

 地球、極東地区上海 梁山泊

 

 梁山泊に襲撃してきた黒い《虎王機》と対決し、無事正気に戻すことに成功した。無論、ブルックリン・ラックフィールドも洗脳から解放された。

 イング曰く「テンドン」。バルマー戦役でのことを言いたかったらしい。意味がわからんが。

 例の鳥型メカ、サメ型メカの同類と思わしき豹型メカがちょっかいを駆けてきたが、合体した《龍虎王》に撃退されている。

 やはりあれらは単なる味方と見るのは危険なようだ。

 

 たが、イルイとクスハの会話のすぐ後というのはいささか出来すぎているようにも思える。

 私の杞憂であればいいが、な。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月@日

 地球、極東地区日本 GEAR本部

 

 現在、αナンバーズ各艦は沈痛な雰囲気に包まれている。

 特に、銀河と北斗の落ち込みようは見ていて痛々しいほどだ。

 

 《電童》のメンテナンスとデータウェポンのデータ取りのため、GEAR本部にやってきたのだが、ガルファとガイゾックの連合が来襲する。

 ガイゾックにより「人間爆弾」に改造された連邦兵士の乗る《ドラグーン》の自爆特攻を陽動に、《凰牙》のパイロット、アルテアが単身GEAR本部に乗り込んできた。

 その結果、ベガ副司令が無力化されて浚われてしまった。

 以前交戦したときの様子がおかしかったと言うから、その後再調整でも受けたのだろうか。

 ベガ副司令がアルテアの妹というのも驚きだが、北斗の実の母とは驚きを通り越して唖然としたな。

 

 しかし、アルテアの物言いには我慢ならん。

 何が「愚かなる人間ども」「全宇宙に破壊をもたらす真の破壊者」だ。確かにその通りだが、侵略異星人に言われる筋合いはない。大きなお世話だ。

 ご丁寧にも人類以外の勢力まで引き合いに出した御託に動揺して戦意を失うとは、銀河たちもただの子供だったということか。

 そのせいで、ユニコーンを始めとした《電童》のデータウェポンたちは契約を解除し、アルテアに奪われてしまったのだから忌々しいが。

 

 まあ、ベガ副司令を浚い、六体のデータウェポンを手にした《凰牙》だったが、久々にキレたイングと《アッシュ改》に機体をズタボロにされて這々の体で逃げ帰っていた。《凰牙》にベガ福司令が乗せられていなかったら、あのまま撃破できていただろう。

 その際の奴の返しは秀逸だったな。

「この地球は確かに争いの止まない場所かもしれない。オレたちは相手を選んでいるかもしれない。だがなッ、それを理由に貴様らガルファやガイゾックが命を好き勝手にしていい道理はないんだよ! 地球人の始末は地球人の手でつけるッ、貴様らは去れ!」

 何やら反論していたが、もはや聴くに値しない雑音でしかなかった。

 「邪念を断つ剣」に、支離滅裂な詭弁は通じんということだな。

 

 なお、他にも《ボルテスV》の剛三兄弟やエイジが強く反発していた。

 αナンバーズには地球人以外の人種も少なくないから、なおさらアルテアの言葉には説得力がなかった。 

 

 

 

 新西暦188年 ◇月*日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 星間連合やギガノス、ガルファに対抗する連邦軍の一大反攻作戦「ムーンレイカー」が発動し、現在月では大規模な戦闘が起きている。

 また、バルマー戦役以来、アステロイド・ベルトに戻り、息を潜めていた旧ジオンの宇宙要塞「アクシズ」が再び地球圏に接近しているという。

 それに、ベガ福司令を攫ったアルテアを追撃しなければならない。

 

 私とイングは例によって《ナデシコB》に同乗して《ラー・カイラム》、《マザー・バンガード》とともにアクシズに対応する。

 一方、《大空魔竜》《アルビオン》《キング・ビアル》は、ベガ副司令が囚われていると思われるガルファの戦艦に対して攻撃をしかける。データウェポンを失った《電童》も、αナンバーズメカニック陣により制作された武装を装備した《フルアーマー電童》として、戦いに赴く。

 その後、合流して月の正規軍に協力する手はずだ。

 このほどの戦乱も、もうすぐ終わりだろう。改めて、気を引き締めなければな。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月*日

 地球圏、衛星軌道上

 

 妙なことになった。

 アクシズの真意を確かめるために、味方のはずのモビルスーツ相手に孤軍奮闘する《キュベレイ》と《ヴァルシオーネR》。何がどうなってそうなったのかまったくわからなかったが、とりあえず彼女らを助け、モビルスーツ部隊を撃退した。

 

 聞いたところによると、どうもアクシズ内部でシャア派によるクーデターが起きたらしく、要塞そのものを乗っ取られてしまった。事前に危機を察知したハマーンだったが、ミネバを連れて脱出せざるを得なかった様子である。

 例によって例の如く、木星帝国の暗躍によるもののようだ。「北辰便利すぎだろ!」とはイングの叫びだ。

 

 一方、《ヴァルシオーネR》のリューネ・ゾルダークだが、マサキと共に地上にやってきた後、因縁深いジュピトリアン、木星帝国を探るために独自に行動していたようだ。

 だが、潜入や調査に長けたわけでもないリューネは地球圏をさまよっていたところ偶然、ハマーンの窮地に立ち会ったのだそうだ。

 天才ビアン・ゾルダーク博士の娘だそうだが、もろもろの経緯からしてやはりマサキとは同類のようだな。

 

 シャアに対し怒り心頭、恨み骨髄のハマーンは、αナンバーズに協力を申し出た。もちろんリューネも同様である。

 また、身の安全が確保できないとしてミネバも滞在することになる。存外子煩悩らしいハマーンは不本意なようだが、合流後には子供の多さに唖然とするだろうさ。

 

 そのミネバだが、年かさの近いイルイとうまく打ち解けることが出来ているようだ。

 《ラー・カイラム》の食堂で、コンバトラーチームの十三が焼いたたこ焼きを、二人しておいしそうに頬張っていた。

 年下のミネバ相手にお姉さんぶるイルイの仕草には、不覚にも悶えてしまった。

 

 なお、さすがのイングも鉄の女にちょっかいをかける気はなさそうだ。

 「昔のツインテールなはにゃーんさまなら別だけど」と訳のわからんことを言っていたのだが、「貴様、どこでそれを知った!」というハマーンの割と本気なリアクションからして事実らしい。

 本当に、どこでそんな情報を掴んでくるんだ、あいつは。

 

 

   †  †  †

 

 

 ――月面。

 様々な勢力が入り乱れ、地獄のような様相を呈していた激戦区。

 連邦軍による反撃で、敵性勢力は大幅にその勢力を失った。

 そして今まさに、月における雌雄を決定する決戦が行われていた。

 

 ガルファの前線基地、《螺旋城》とガイゾックの旗艦《バンゾック》を撃破したαナンバーズは、ギシン星間連合との決戦に赴く。

 その最中、地球壊滅作戦が遅々として進まないことに業を煮やしたギシン星間連合の主、ズール皇帝が自ら地球圏に来襲した。

 

 もはや用済みとばかりに半ば洗脳が解けかかったマーグを始末したズール皇帝は、激昂するタケルの《ゴッドマーズ》を一蹴、さらには結集したαナンバーズの戦力すらも圧倒するほどの邪念を振りまく。

 果敢にも立ち向かったイングと《アッシュ改》だったが、返り討ちに合い、増加装甲はおろか《TーLINKセイバー》すら失って沈黙していた。

 

『アラド、行くわよ!』

『おう!』

『これ以上はやらせん!』

『フハハハハハ! そのような脆弱な念でワシに刃向かうなど、片腹痛いわ!』

 

『ぐぅ……!』『きゃあ!?』『うわあっ!』

 

 アーマラの《ビルトファルケン》が擱坐した《アッシュ改》を守るため、アラ果敢にズール皇帝に立ち向かう。

 だが、サイコドライバーにも匹敵する超能力の前には歯が立たたず、三機は散々に打ち据えられる。

 特に、先頭にいたアーマラ機はほぼ直撃を受けた格好だ。

 

『アーマラ! っ、龍虎王! 龍王炎符水!』

 

 拡散する怪光線が念動フィールドと接触し、その衝撃で月面に叩きつけられた《ファルケン》。それを庇う《龍虎王》が展開した術符から法術の龍火《マグマ・ヴァサール》を放つ。

 溶岩の帯が砲撃となってズール皇帝を打ち据えたが――

 

『フン! あの女の下僕も、大したことはないな』

『! 超機人のことを知って……?』

『クスハ、下がれ!』

 

 戸惑うクスハを追い越して、魔法の風を纏う魔装機神が躍り出る。

 

『てめぇの存在何もかもを、アカシックレコードから消し去ってやる!』

 

 《サイバスター》は目の前に創り出した魔法陣の中心へと魔法剣《ディスカッター》の(きっさき)を突き刺し、青白い火の鳥が羽撃く。

 続いて《サイバード》形態に変形し、ズール皇帝へと突撃を敢行した。

 

『アァァァカシックッ、バスターーッ!!』

 

 《サイバスター》の代名詞、《アカシックバスター》が炸裂する。

 

『やったか?』

『マサキ、それフラグニャ』

『ここでバカニャ! とか言わないだけマシなのかニャ』

 

 魔術攻撃による爆発を見て思わず漏らしたマサキの一言に、シロとクロから散々なコメントが飛ぶ。

 それが原因ではないが、爆炎を超能力で吹き飛ばしてズール皇帝が健在な姿を現した。

 

『ほう……僅かとはいえアカシックレコードに干渉するとは、貴様からは不愉快な善なる意志を感じるぞ。ワシ手ずから、マーズともども滅ぼしてやろう』

『善なる意志……サイフィスのことか!?』

『なるほど、あなたはなかなかに博識ようですね』

『――ム……!』

 

 唐突に乱入する《グランゾン》がズール皇帝の頭上を取り、胸部装甲を展開。発生させた空間の歪み、ワームホールに拡散ビームを撃ち込む。

 

『ワームスマッシャー、発射!』

 

 ズール皇帝を取り囲むように開く亜空間から、無数の閃光が襲いかかる。

 最大65536発からなる同時攻撃――《グランゾン》の代名詞の一つ、《ワームスマッシャー》。しかし、銀河を統べる邪帝はものともしない。

 

『今の攻撃、なかなか効いたぞ。その機体、どうやらワシと同じ負の力に呪縛されていたようだな』

『……やれやれ、赤の他人に秘密を喋られるというのは、存外不快なものですね』

『ブーメランですよぉ、ご主人様ぁ』

『黙りなさい、チカ』

 

 口賢しい使い魔をシュウはぴしゃりと窘めた。

 

 

 その後も、激闘は続く。

 猛攻を加える《マジンガーZ》《ゲッタードラゴン》《コンバトラーV》らスーパーロボット軍団と、アムロの《リ・ガズィ》率いるガンダムチームが先陣を切る。

 《ガオガイガー》とGGGの勇者ロボが死中に活を見出すべく奮闘すれば、《ダンクーガノヴァ》《ザンボット3》《トライダーG7》とともに、復活した《ゴッドマーズ》が戦線に復帰する。

 正気に戻った叔父のアルテアから譲られた北斗の《騎士GEAR凰牙》と銀河の《GEAR戦士電童》が連係攻撃を繰り出し。《ブレンパワード》たちや《ナデシコB》の艦載機《エステバリス》や三機の《ドラグナー・カスタム》、《レイズナー》《ベイブル》《バルディ》が波状攻撃を仕掛ける。

 バツグンのコンビネーションで戦う《ダイゼンガー》と《ヒュッケバインMkーIII・トロンベ》。《アステリオン》とその兄弟機《ベガリオン》が合体した《ハイペリオン》が、流星のように宇宙を切り裂く。

 さらに、αナンバーズの窮地に、マオ社からリョウト、リオの駆る二機の《量産型ゲシュペンストMkーII改》と、《壱式》を最新技術で強化改造した《グルンガスト改式》のイルムが駆けつけた。

 

 しかし、その全てを相手にしてなお、ズール皇帝は強大無比だった。

 

 

 沈黙した《アッシュ》のコクピット。非常電源により辛うじて明かりが灯る狭い空間に、赤い滴が点々と漂う。

 意識を取り戻したイングは全身に痛みを抱えながら、必死でコンソールをいじり回し、打開策を模索していた。

 

「くそっ! みんなが戦ってるってのに、見てるだけしかできないなんて……!」

 

 イングの卓越した超感覚は、コクピット越しに仲間たちの命の息吹とズール皇帝の邪念を感じ取っていた。

 それが一層、彼を焦燥させる。

 

「これでいいのか、アッシュ……! こんな終わり方で、誰も護れなくて!」

 

 ただの機械に、言葉をかけても届く訳ないと冷静な部分が訴える。けれど言葉を、自分の想いの丈を尽くすことをやめられなかった。

 

「オレは嫌だ。ここにいる意味も解らず、オレ自身を勝ち得ることも出来ないで――、こんな終わり方に納得できるか!」

 

 歯を食いしばり、操縦桿を強く握りしめる。

 無力感に打ち震えるイングは、この世界で必死に生きる内に生まれた願望、それを吐露した。

 

「仲間を、みんなを護りたい……この力が誰かから与えられたもので、この想いが誰かの思惑に縛られたものだとしても、オレは――!」

 

 そのとき――、GSライドに込められたGストーンが脈動した。

 

 

 ――わたしも、あなたといっしょに……――。

 

 

 聞き覚えのない、けれどずっとすぐ側にいてくれたような気のする幼い少女のささやきが聞こえる。

 不思議な温もりがコクピットいっぱいに溢れ、イングを包み込んでいた。

 

「そうだ、オレは、オレたちはまだ戦える……まだ飛べるんだ。みんなを、護れる!」

 

 封印されたGSライドが稼働を始め、沈黙していたはずのブラックホールエンジンに再び火が灯る。

 甦らんとする愛機の脈動を感じ、イングは瞼を閉じた。

 

 ――アースクレイドルの調整槽から生まれ落ち、訳も分からぬまま、戸惑いながらも自分の心に従って、大戦を戦い抜いた。

 それは、サイコドライバーという強大な力を持っていたから出来たことかもしれないが、同時に彼が彼であったからこそこ迷いながらもここまで進めてきたのだ。

 

 彼は、■■■■はどこか頼りなさげな風貌の、どこにでもいそうな少年だった。

 悪に眉をひそめ、非道に対して義憤を燃やし、悲劇に胸を痛める、子供の頃に見た物語のヒーローたちに憧れ、平和を愛する心を育んだ平凡な少年だった。

 その気持ちをいつまでも忘れず、心の奥で育んで――、誰にでも持ちうる英雄/勇者(ヒーロー)の素質を持ったどこにでもいる少年だった。

 

 ■■は忘れていなかった。

 愛する者を護るために戦う人がいたことを。

 そして自分がその一員になれたのだということを。

 

(来い……)

 

 精神の深いところまで内没し、念を高めていく。

 心に剣、輝く勇気を携え、影さえも斬り裂いて。自分という切り札で、奇跡を導く。

 戸惑いを、恐怖を、心に巣くう闇その全てを熱い炎で焼き払う。

 立ち止まる暇なんてない。

 考える余裕なんてない。

 ありったけの想いを胸に、信じた道を突き進む――、これはその一歩目なのだから。 

 

「……来い……!」

 

 カッ、と目を見開き、イングが念を解き放つ。

 千の覚悟を身に纏い、少年は戦士として、邪念を断つ一振りの剣として再び立ち上がる。

 

「来いッ!! オレとアッシュの、ヒュッケバインの新しい翼――! アーマラッ、お前のガリルナガンも一緒にッ!!」

 

 イングの念とその心に燃える不屈の勇気に呼応して、GSライドに込められたGストーンが緑に輝くGパワーの光を放つ。

 ゾル・オリハリコニウムの特性が活性化され、損傷した部分が瞬く間に修復していく。

 

『イング!?』

 

 機体を損傷させながら、果敢にも戦線に舞い戻っていたアーマラがパートナーの突然の復活に驚きの声を上げる。

 翠緑の念動光を発し、《アッシュ》が右手を掲げた。

 それに伴い、マオ社の格納庫から念動転移で呼び寄せたMkーXのパーツが念により《アッシュ》に組み込こまれ、さらには封印処理されていた《ガリルナガン》のトロニウム・レヴをも取り込んで、《アッシュ》が新生する。

 

「――フィッティングデータ、ロード! スペック、FCS、 T-LINKダイレクト、ラーニング・スタート! モーション誤差、サーボモーター限界値、RT修正ッ! 過負荷部分はフィールド・コート! リスタートオミットッ、 オプティマイゼーション!」

 

『MkーXのパーツを、念動力で呼び寄せたの!?』

『プリセットやシミュレーションをしていたからって、あんな形で装着し、瞬時に最適化するなんてあり得ない……!』

 

 紛いなりにも「MkーX」の開発に携わっていたリオとリョウトは驚愕を隠せない。

 

『見てくれ、カーク。トロニウム・エンジン、いやトロニウム・レヴのポリーラインにピークがいくつも出来ている』

『TーLINKシステムとトロニウムの相乗効果……かつて、リョウトがMkーIIIを強制起動させたことの再現か』

『けれどこれは、それ以上に不可解な現象だ。第一、トロニウムエンジンならともかく、トロニウム・レヴとのフィッティングなんて想定外にもほどがあるだろう!?』

『恐らく、ガリルナガンのエンジン周りのパーツごと取り込んだのだろうが……あるいは、組み込んだGストーンの影響か?』

 

 マオ社から戦闘をモニターしていたロブとカークが、唖然としつつ目の前の現象を分析していた。

 

「――オプティマイゼーション、コンプリート」

『あれが、新しいヒュッケバイン……』

 

 散りゆく翠緑の燐光を《ファルケン》のコクピット越しに見上げ、アーマラが息を飲む。

 初代から続く特徴的な黒と紫のカラーリング。《エクスバイン》と《SRX》を思わせる頭部バイザーに覆われたツイン・アイが戦場を見据える。

 全身の鋭利な突起は《リープ・スラッシャー》、《ファング・スラッシャー》の流れを組む念動兵器《TーLINKスライダー》だ。

 

『愉快な芸だったぞ、地球人。だが、所詮はガラクタ、継ぎ接ぎを重ねたところで銀河の支配者たるワシには届かぬ』

「黙れ!」

『!』

 

 嘲笑するズール皇帝を一喝するイング。

 彼の駆る《ヒュッケバイン》は、リョウトが戦い続ける親友のために設計したもの。そしてこの世界において行く宛もなく、存在する云われもない彼に居場所と目的を与えてくれた無二の戦友、掛け替えのない相棒を誹謗することを許さない。

 

「凶鳥は二度死に、その魂はエクスバイン・アッシュへと受け継がれた」

 

 《EX》、《エクスバイン》、《アッシュ》……傷つき、その姿を幾度となく変えつつも、イングとともに地球の平和を、牙無き人々を守るために戦い続けてきた《ヒュッケバイン》。

 “バニシング・トルーパー”との誹りを受けながら、生み出された使命を全うすべく幾多の戦場を駆け抜けた。

 

「そしてアッシュは死をも乗り越え、灰の中から甦生する……」

 

 宇宙を覆う強大な邪念に敗れ、灰となった凶鳥が今、死を、逃れ得ぬ“運命”を超克して不死鳥の如く甦る。

 ――ありとあらゆる災厄から人類を守護する、最強のパーソナルトルーパーとして。

 

「エグゼクスバイン! ヒュッケバインの魂を受け継ぐ新たなる凶鳥が、ズール皇帝ッ、貴様の邪念を断ち斬るッ!!」

 

 強念を迸らせ、イングが吼える。

 スーパー・パーソナルトルーパー、PTXーDEX《エグゼクスバイン》。

 《MkーI》、《MkーII》、《MkーIII》、二機の《EX》に次ぐ六番目の凶鳥にして、ブラックホールエンジン、グラビコン・システム、トロニウム・エンジンという歴代の《ヒュッケバイン》の要素を結集した集大成。

 全身に念動兵器を備え、《ヒュッケバイン》シリーズの特徴である重力兵器《ブラックホール・バスター・キャノン》を使用可能な《エグゼクスバイン》は、《MkーIII》で一端は完成を見た「PTサイズの《SRX》」――さらにはGストーン、ラプラスデモンタイプコンピュータ、トロニウム・レヴ等の超技術を組み込まれた「地球製《アストラナガン》」とも呼べる超兵器である。

 

「TーLINK、フルコンタクト! 唸れ、トロニウム・レヴ!」

 

 イングの強念を受け、バイザー越しのツイン・アイが赤く光る。

 

「アカシックレコードアクセスッ! 世界よ、オレに力を貸せ! 奴の邪念を断ち斬る力をッ!!」

 

 《エグゼクスバイン》の全身から、可視化された念動光が迸る。

 ヒトの限界を突破してなお高まるイングの念がTーLINKシステムとTーLINKフレームによって増幅され、世界の根源にまでその手を伸ばす。

 高められたサイコドライバーの力は、因果律の計算すら成し遂げるラプラスコンピュータの助けを受けて、ついにはアカシックレコードにすら干渉する。

 Gストーンが()み出すGパワーに導かれ、トロニウムから発生した莫大なエネルギーがアカシックレコードの後押しを受けて形を成していく。

 ――それはまさしく、ズール皇帝に折られた《ストライク・シールド》と《TーLINKセイバー》だった。

 

『折れたTーLINKセイバーが……!』

『いくらなんでも、無茶苦茶だ!』

『ヒュー♪ やるじゃない、あの子』

『! サイバスターが、いやサイフィスが震えてんのか?』

『これが完聖したサイコドライバーの力の一端……、“宿命”に選ばれし者の真価というわけですか』

『その強念……! まさか……まさかっ、バビルの!?』

 

 全てを置き去りに、不滅の凶鳥(エグゼクスバイン)が暗黒の宇宙に羽撃く。

 

「スライダー、パージ! 来い、ストライク・シールドッ!」

 

 両腕のハードポイントに備え付けられた《TーLINKスライダー》が分離する。

 さらに、念動力により追随する《ストライク・シールド》を左腕へと接続し、黒き不死鳥がその柄を握り締める。

 

「セイバー……、アクティブッ!」

 

 奇跡の力が新生させた《ストライク・シールド》から、あらゆる邪念を断つ剣――《TーLINKセイバー》が引き抜かれた。

 

「念動フィールド、オンッ!」

 

 幾多の強敵を斬って捨てた剣が、邪悪を駆逐する太陽の念に覆われて光り輝く。

 まるで雨露を払うように《TーLINKセイバー》を振るい、背部のテスラ・ドライブが×字の航跡を描いて《エグゼクスバイン》は猛然と突進する。

 

「うおおおおおッッ!!」

 

 眼前に掲げた《TーLINKセイバー》の鋒が、背後から《TーLINKスライダー》に拘束されたズール皇帝を真っ直ぐに貫く。

 強念を込めた剣を深々と突き刺し、擦れ違いざまにすり抜ける。

 テスラ・ドライブで慣性を打ち消し、着地した月面に土煙を残す《エグゼクスバイン》が、ゆっくりと右手を掲げた。

 

「念動爆砕ッ!!!」

 

 右手を握りしめると同時に、背後で大規模な念動爆発が巻き起こる。

 後方から飛来した《TーLINKセイバー》をノールックで確保して、《エグゼクスバイン》は飛び去った。

 

『ぬおおおおおおっ!? ば、馬鹿な! 只人(ただびと)の身で、“源理の力”までもを操るというのかっ!?』

 

 αナンバーズの攻撃をものともしていなかった姿が嘘のように、ズール皇帝は傷ついていた。纏っていた邪念のベールが、凶鳥の一太刀により斬り裂かれたのだ。

 闇の支配者は、宇宙すら鳴動させる驚天動地の強念にかつて自分を打ち据えた古き宿敵の面影を見て戦慄する。

 

『おのれバビルめ、このような輩を遺していたとは! やはり地球は危険だ! マーズともども、ワシの手で滅ぼしてくれるわ!』

「ズール皇帝、貴様ではオレに勝てない!」

『――それは違うな、イング』

「……アーマラ?」

 

 黒い凶鳥の傍らに、寄り添うようにして紅い隼が飛来する。

 サブモニターには、疲労を残しつつもニヒルな笑みを浮かべた少女の姿が映った。

 

『オレたちαナンバーズには、だろう?』

 アーマラが、勝ち誇ったように胸を張る。

 

『そうだぜ、イング! このままやられっぱなしじゃ終われねぇ!』

『俺たちで奴の邪念を、この星から追い出すんだ』

 甲児とカミーユが、戦友の活躍に応えんと闘志を漲らせる。

 

『クスハ、俺たちも!』

『うん! 悪しき念、百邪は龍虎王が討ちます!』

 操者たるブリットとクスハの意気に応え、青き“無敵龍”が吼える。

 

『やっぱすっげーな、イングさんて! ゼオラ、おれたちも行こうぜ!』

『ええ!』

 

 アラドとゼオラ、“百舌”と“隼”が光の尾を引いて駆けつける。

 

『友よ、我らも彼らに続こう! この星の未来のために!』

『応!』

 

 歴戦の戦士たるレーツェル、ゼンガーの両名が、子供たちに負けじと戦場に参じる。

 

『アイビス、ハイペリオンのテスラ・ドライブは全て正常よ!』

『この期に及んでミスは許さんぞ、アイビス』

『わかってる! あたしたちの夢を、星の海をあんな奴に汚させない!』

 

 アイビス、ツグミ、スレイの三人は、自分たちの目指す先にある未来を護るため、気炎を上げる。

 

『イング、君の勇気は確かに見せてもらった。今度は俺たちが、勇気を示す番だ!』

『マーグの、兄さんの敵を討つってだけじゃない。俺たちの故郷を、地球を守るために!』

『人様の星に上がり込んで、デカい顔させとくワケにはいかないわよね』

『この地球圏に、悪が栄えた(ためし)はないと遠い星からのお客人に教えて差し上げるとしようか。僕たちの手でね』

 力強く宣言する凱と、正義に燃えるタケル。葵がクールに言い放ち、万丈が最後にキザに決めた。

 

「こりゃ、一本取られたかな」

 

 仲間たちの心強い言葉を受け、イングは不敵に笑う。「それじゃあ、改めて――」

 

「本当の戦いはここからだ!」

 

 


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