スーパーロボット大戦//サイコドライバーズ   作:かぜのこ

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αIIー4「サイコドライバーズ」

 

 

 新西暦188年 ◇月♯日

 地球圏、月面 マオ・インダストリー社

 

 星間連合との決戦から一夜が明け、現在αナンバーズはマオ社に止まり傷を癒している。

 ズール皇帝はかつてない強敵だった。正直、イングの力がなければ私たちは宇宙の藻屑となっていただろう。 

 そのズール皇帝だが、散り際すら余裕な態度を崩さなかった。イングは「あれは本体じゃない」と表していたが、もしもそれが本当なら。

 

 ともかく、ガルファとガイゾック、星間連合の撃破により、月面での大勢は決したと言っていい。

 未だギガノスが残ってはいるが、こちらも連邦宇宙軍正規部隊の猛攻で著しく勢力を失っている上に、どうやら政変が起きて内部分裂しているらしい。敗退した星間連合も一部の戦力がバーム星人と合流したようだが、指揮官を失った時点でもはや烏合の衆でしかない。

 どちらも語るに落ちた、と言ったところか。

 

 明神の兄マーグは、ズール皇帝により指令艦を潰されて生死不明だ。明神は彼の生存を信じているようだが、あれでは絶望的だろう。

 それから彼の副官で、私も何度か交戦したロゼが投降を申し出てきた。マーグの遺志だとのことだ。

 コスモクラッシャー隊のメンバーといざこざを起こしていたが、私とて似たような立場だったからな。強くは拒絶できん。

 それに、「邪念は感じられない」とイングやカミーユからのお墨付きも出たから、まあ心配ないだろう。

 

 さておき《アッシュ》もとい《エグゼクスバイン》は、完成早々にオーバーホールと相成った。イングの念で外部から無理矢理に安定させていたのだから無理もない。

 戦場では物理的に換装できなかった部分を「MkーX」用の部品に取り替えて、応急処置を施すそうだ。

 特に間接部の損傷が酷かったそうで、「トロニウム・レヴなんてよくわからないシロモノを組み込むからだ」とはロブのコメントだ。

 あれはもともと私の《ガリルナガン》のものだったのだから、そんな言い方はしないでほしいが。

 

 《エグゼクスバイン》といえば、いささか困ったことが発覚した。

 中枢部、具体的に言えばGストーンにイレギュラーな人格、いわゆる超AIが発生しているようなのだ。イングの特異な念を大量に浴びたことが原因らしいが、馬鹿の一念という奴か?

 無難に「エクス」と名付けられた超AIのジェンダーは女性で、年の頃を人間に換算すると13、4歳程。真面目で大人しくどこか引っ込み思案な印象の話し方をする割に、妙に古くさい言い回しをする。イング曰く「無限の楽園の白雪姫と同じ声」。

 今のところAIとしては未成熟だが、コクピットのコンソール周りに簡単な改装を施して、《レイズナー》や《ドラグナー》のような対話型戦闘支援AIとして正式に整備された。

 性格もろもろ含めて正直、戦闘支援としては役に立たないと言わざるを得ないのだが、イングは満足しているらしい。

 よくわからんが、何故か胸がムカムカとしてきたので、今夜はここで筆を置くことにする。

 

 

   †  †  †

 

 

 月面決戦から数日後。

 とある日の午後。《ラー・カイラム》の通路をアーマラが一人歩いていた。

 

 《ラー・カイラム》本格参加に際し、母艦を《ナデシコB》から移動したアーマラとイング。士官待遇の二人には、士官用の個室を与えられている。イルイはアーマラと同室だ。

 αナンバーズの艦隊旗艦は名目上《大空魔竜》だが、あちらは特機を運用するための戦艦であり、《キング・ビアル》と折半する形で特機とそのパイロットたちが詰め込まれている。仮にもPT乗りの二人には《ラー・カイラム》が合っていた。

 最新技術で改装を重ねられている《ラー・カイラム》は《ナデシコ》級のようにオートメーション化が進んでおり、生活スペースには多少の余裕がある。

 とはいえ、生活環境は都市をまるまる艦に納めた《マクロス》《ヱクセリヲン》とは比べようもないが。

 

 自室の隣にあるイングの部屋の前。

 アーマラはノックもせず、不躾にドアを開く。勝手知ったる何とやらだ。

 

「イング、ちょっといいか」

「んあ?」

「……何をしてるんだ?」

 

 気の抜けた返事をするイングの様子に、アーマラは用事も忘れて疑問を挟んだ。

 彼の周りにはドライバーなどの工具類、導線、機械基盤や用途不明の部品が散乱していたのだ。丸い金色の物体を使って弄っているようである。

 その背中にもたれるようにして一人遊び中のイルイ。《マジンガーZ》、《Zガンダム》等を模したイングの私物のおもちゃ――主に完成品。彼は、遊ぶ用・飾る用・保管用に同じものを三つ所持している――を使って、「αナンバーズごっこ」をしている。

 

「何って、工作?」

「何故に疑問系だ。……プラモデルを作っているわけではなさそうだが」

 

 気の抜けた脈絡のない返答にアーマラは顔をしかめる。彼女の推察通り、明らかに工作というレベルの作業ではない。有り体に言うと、かなり専門的だ。

 するとイングはきちんとした説明をし始めた。

 

「いや、「エクスが一人でいるのはかわいそう」ってイルイが言い出してさ。自由に動けるマスコットロボみたいなのを作ってやろうかと思って」

「なるほど」

「アストナージさんからジャンクパーツを融通してもらってさ。設計は、アムロ大尉とかカミーユとかリョウトに手伝ってもらったんだ」

 

 イングが事情を端的に説明する。どうやら、錚々たるメンバーが協力しているようだった。

 

 エクスとは、《エグゼクスバイン》完成に伴いGストーンに発生したイレギュラーな人格だ。

 イングの莫大な強念を一身に浴び続けた結果生まれた存在であり、《エグゼクスバイン》そのものとも言える。

 それ故、《ヒュッケバインEX》時代からの記憶も持っているらしく、「ずっと、ずーっとイングさんとお話ししたかったんです」と無防備な好意を露わにして、イングを大いに照れさせていた。

 シュウ曰く「ラ・ギアスにおける精霊に極めて近く、限りなく遠い存在」。イングは「九十九神みたいなもんかな」と自分なりに納得している。

 

「確かに、アムロ大尉といえばハロだしな。私も、特脳研時代に持っていたぞ」

「意外な過去だな。アムロ大尉ってば、ハロのパテントで何気に結構な資産家だって話だし……羨ましいぜ。そしたらプラモとかフィギュアとか超合金が買い放題だもんなぁ!」

「お前は……、それ以外に使い道が思いつかんのか」

「おう!」

 

 二人のやりとりを、後ろでイルイが面白がって笑っている。

 イングがそんな無茶なお金の使い方を出来るのも、αナンバーズが仮にも軍事組織であるからこそなのだが。

 

「で、完成図がこんな感じ」

 

 設計図を写していたタブレット端末に、モデリングされた3D画像が表示される。

 丸みを帯びたフォルムに、突起のような足が四本。くちばし状の口に、透明な青いカメラ・アイ。ボディのカラーリングは、柔らかな(チェリー・ブロッサム)色で口や目の回りが純白(ピュア・ホワイト)だった。

 

「超小型テスラ・ドライブに永久電池、TーLINKフレームの端材……かなり本格的だな。この色は?」

「今は素材の色で金ぴかだけど、後で塗装する予定だよ」

「チョイスがお前らしくないな? 《エグゼクス》と同じ色にはしないのか」

「それはほら、日曜朝八時半枠だから」

「はあ?」

「クロスオーバー劇場版枠でも可」

「ますます意味が分からん」

 

 イングの意味不明な供述にアーマラは首を傾げるのだった。

 なお、イングは完成品に「サイコロン」と名付ける(あわよくば商品化も)つもりだったのだが、エクス本人の強い反対により頓挫している。

 曰く「おならはいやですっ!」とのことだ。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦188年 ◇月¥日

 地球圏、衛星軌道上 《ラー・カイラム》

 

 コンビを組んで一年程度経つが、未だにイングの考えることは理解できん。

 まあ、イルイが喜んでいるようならいいか。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月▲日

 地球圏、衛星軌道上 《ラー・カイラム》

 

 ネオ・ジオンの偵察艦隊を撃破した。

 そしてどうやって宇宙(ソラ)に上がってきたのか、ククルが単身、ゼンガー少佐と決着をつけるために現れた。

 少佐の意を汲んで、私たちは撤収した。イルイが心配していたのが印象的だったな。

 

 後に少佐によると、クストースが現れ、ククルにトドメを刺して行ったらしい。

 奴ら、何がしたいんだ?

 

 

 

 新西暦188年 ◇月◎日

 地球圏、衛星軌道上 《ラー・カイラム》

 

 シャアめ!やってくれたな!

 と、思わず日記に殴り書きしてしまうような出来事に直面した。

 連邦軍とαナンバーズの注目が月面に向いている隙を突いて、ネオ・ジオンが小惑星「5thルナ」を奪取したのだ。

 同盟者であるはずのギガノスを囮に使うとは、いい面の皮をしている。

 

 現在5thルナは核パルスエンジンを推力に、地球に向けて接近している。かつてのジオン公国の「コロニー落とし」ように質量爆弾とするのだろう。

 あれを、あんなものを地球に落とさせるわけにはいかない。

 エクスは「わたし、堪忍袋の尾が切れました!」だそうだ。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月×日

 地球、北米地区テスラ・ライヒ研究所

 

 負けた。私たちは負けた。ネオ・ジオンの隕石落としを防げなかった。

 αナンバーズの攻撃により砕けた5thルナの破片は、連邦議会のあるラサに落ちて甚大な被害をもたらしたと聞く。

 ネオ・ジオンとの戦闘の余波と大気圏突入で仲間と散り散りとなりながらも、私とイングは何とかテスラ研にたどり着くことができた。他のメンバーも無事にいいのだが。

 特に、コクピット付近に深刻なダメージを負った《クロスボーン・ガンダムX1》が心配だ。

 

 しかし、いくら《エグゼクスバイン》の念動フィールドが強力だからって、大気圏に突入しながら《ブラックホール・バスター・キャノン》による破砕活動を敢行するとは、相変わらず無茶苦茶な奴だ。

 ま、そんな無茶苦茶につき合った私も大概だがな。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月●日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 にはαナンバーズのメンバーの大半が集結した。だが、やはりキンケドゥの姿はない。

 彼の恋人であるベラ艦長や、弟子のトビアは酷く心配していた。

 また、現在《ナデシコB》と《エステバリス》隊は別行動を取っている。

 大方、かつての《ナデシコ》の乗員たちを迎えに行ったのだろう。ホシノ艦長は彼らを揃えることに拘っていたようだからな。

 

 それと、合流した伊佐未勇の《ユウ・ブレン》の姿が変わって?いた。新たな名を《ネリー・ブレン》というらしい。同時に保護されたアイビスに事情を聞いてみたのだが、微妙なリアクションで答えを濁されてしまった。

 微かに、悲しみのような念を二人や《ネリー・ブレン》から感じたが、私のような半端な念動力者ではそれを汲み取ることが出来ない。

 昔は些末なことだと切り捨てていただろうに、私も変わったものだ。イングの影響かな。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月※日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 ようやくしつこいグンジェム隊とのケリが着いたな。

 配下を討たれて追いつめられ、本国からの支援もなくなったのだろうグンジェムが悪趣味な色をした大型のメタルアーマー、《ギルガザムネ》とか言ったか、を持ち出し、Gアイランド・シティに強襲を仕掛けてきたのだ。

 重厚な見た目の割に動きは軽快、さらには大量のミサイルによる火力を持つというかなり厄介な敵だったが、どうも質の悪いシステムを積んでいたらしく突然暴走し出して味方を攻撃し、破壊した。

 錯乱した《ギルガザムネ》はその性能を発揮することなく、《ドラグナー》チームによる連係攻撃で撃破された。

 まったく、「ギガノスの汚物」らしからぬ呆気ない最期だったな。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月♬日

 地球、極東地区日本

 

 5thルナ落下による地上の混乱を突き、ついにミケーネ帝国が大侵攻を開始た。

 恐竜帝国や邪魔大王国の残存戦力を吸収して肥大化したミケーネの前に、情けないことだが、連邦軍は為す術もなく敗退し、瞬く間に主要都市を制圧されてしまった。

 

 特記戦力を多数有する私たちαナンバーズは、例の如く敵の本隊を討つことで事態の収拾を図る。

 まずは日本地区の各地で暴れ回る戦闘獣の排除からだ。

 

 私たちが急行した現場では、どこに隠し持っていたのか、白鳥九十九が旧木連派の特機型機動兵器《ダイテツジン》で、ミケーネ相手に大立ち回りを演じていた。

 確か奴は、旧姓ハルカ・ミナトと結婚してヒモ同然の生活をしていたと。木連の軍人が堕ちたものだと呆れていたが、存外に意気地がある。

 またミケーネにより民間人が多数拘束されていたが、こちらは私とイング、凱や宙、竜崎、ベガ副指令などいつもの白兵戦メンバーで突入、救出した。ここでは《ボルフォッグ》が大活躍だったな。

 

 意気地があると言えば、人質にされていた女子高生がミケーネの兵士相手に啖呵を切っていたな。

 白鳥ミナトが教師をしていると聞く、陣代高校の生徒だったように見えたが。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月★日

 地球、極東地区日本 連邦軍極東支部ビッグファルコン

 

 結論から記する。ミケーネの連中を撃退することに成功した。

 

 科学要塞研究所で暗黒大将軍との決着を着けたαナンバーズ。

 間髪入れず、光子力研究所と新早乙女研究所から奪取された《マジンカイザー》と《真・ゲッターロボ》を伴い、かつてのDr.ヘル、地獄大元帥が極東支部を陥落させんと侵攻する。

 両機は、《ミネルヴァX》のように人工

知能により制御され、さらにはコクピットに人質として弓博士、早乙女博士が囚われており、迂闊に攻撃も出来ない。

 未来世界に続いて、つくづく敵に奪われる特機たちである。いや、《カイザー》は奪われていなかったか。

 

 何とか両機にダメージを与えて弱らせたものの、二機の特機は停止しない。人質諸共破壊するしかないのか。そんなときに活躍したのが最新鋭のナデシコ級、《ナデシコC》だ。

 修復された《ゼオライマー》に救出されたというキンケドゥとともに駆けつけた《ナデシコC》には、先日保護した白鳥ミナトを筆頭に、アオイ・ジュン、メグミ・レイナード、アマノ・ヒカリ、マキ・イズミ、イネス・フレサンジュ、ウリバタケ・セイヤらかつての《ナデシコ》のメンバーが乗艦していた。

 皆、それぞれに生活があったのだろうが、この非常事態にはそうも言っていられないらしい。

 さらには空気を読んだのか、ボソンジャンプを駆使して世界各地で遊撃していた《ブラックサレナ》と《ユーチャリス》が登場し、まさしくナデシコ・オールスターズが勢揃いと相成った。

 

 電子戦に特化した《ナデシコC》により制御系を強制ハックされた《マジンカイザー》、《真・ゲッターロボ》はさすが最強のスーパーロボットと言うべきか、抵抗してみせる。おそらく、ミケーネの奴らも《ミネルヴァX》の一件でジャミングやハッキング警戒していたのだろう。

 とそこに出現した三機の動物ロボ。クストースらの不可思議な力により、ようやく無力化され、弓、早乙女両博士は無事に救出された。

 

 進退窮まった地獄大元帥は《マジンガーZ》、《グレートマジンガー》、《ゲッタードラゴン》による合体攻撃《ファイナルダイナミックスペシャル》により完膚無きまでに撃破された。

 

 続けて日本地区の地下にあったミケーネの前線基地を叩き潰し、奴らの野望を挫いたというわけだ。

 ようやく配備された《νガンダム》と《Hiーνガンダム》が大暴れした。ちなみにアムロ大尉が《Hiーν》、フォウが《ν》を任されていた。

 ヤマダの「スーパーロボット軍団、怒りの大反撃だな!」という感想はなかなか的を射た表現だったな。

 

 なお、《ブラックサレナ》《ユーチャリス》は一連の戦闘終了後にボソンジャンプで姿を消した。

 やはり、復讐を遂げるまではホシノ艦長らに会う気はないようだ。強情なことだな。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月★日

 地球、ユーラシア大陸沿岸

 

 リクレイマーと接触し、話し合うために浮上したオルファンに向かう。

 だが、やはりと言うべきか、リクレイマーもエゴイストの集まりであることは変わりないらしい。この地球の危機に際してなお、「オルファンが飛翔すれば関係ない」などと自分たちの都合ばかりを優先するのだからな。

 

 会合の機会すら得ることも出来ず物別れに終わり戦闘が開始される中、ドクーガ三将軍、ケルナグールにより核ミサイルが発射されたが、ブレンパワードとグランチャーが協力して宇宙空間へと弾き返して事なきを得た。八卦ロボ戦でのそれとは比べものにならないパワーだった。

 そう言えば、久しぶりにドクーガを見たな。

 

 オルファンの声を聞いたというイングは「あれはひとりぼっちで寂しがり屋の単なる子供」と評していた。

 寂しいから、ひとりぼっちだから他人との距離が上手く取れず、傷つけてしまう、と。

 なんというか、身につまされる思いだな。

 

 

 

 新西暦188年 ☆月◎日

 地球、欧州地区 アイスランド

 

 《ゴーショーグン》の母艦《グッドサンダー》から連絡が入り、北欧はアイスランドで接触することに。

 が、それをドクーガに嗅ぎつけられたらしく、包囲されてしまった。

 

 相手はドクーガだけではなく、ビムラーを狙うメガノイドやゾンダーロボ、さらにはガイゾックの置き土産であろうメカブーストの大群だ。

 とはいえ、所詮有象無象。数だけの雑魚に手こずるαナンバーズではない。

 その戦いの中、ビムラーの成長により強化された《ゴーショーグン》の《ゴーフラッシャー・スペシャル》がいろいろな意味で危険なドクーガの戦闘メカ、《ドスハード》に炸裂する。

 《ゴーフラッシャー・スペシャル》を受けたドスハードは大破するのではなく、自ら自爆するという不可解な形で消滅した。ケン太とイング、そしてエクスが「戦うくらいなら死んだ方がマシ」との声を聞いたという。

 なお、イングは《ドスハート》を見て、「あれがいいならヒュッケバインだって問題ないだろう」と何故か憤慨していた。よくわからんが、ガンダムオタクのニナ・パープルトンと五十歩百歩だな。

 

 それにしても、ビムラー、機械に命を与える意志を持つ超エネルギーか。地球に生命を与えた力と聞くが、まるでゲッター線のようだな。

 シュウ曰く「この宇宙を支配する大いなる意志の一つ」。マサト曰く「次元力の一種」。αナンバーズのメンバー中でも超技術関連に造詣の深い二人は、これなる不可解な力すらも把握していたらしい。

 さらにシュウは、ビムラーの成長は「地球のソウル」として選ばれた真田ケン太とともにあり、本来ならばもっと後であったとも推察し、ビムラー自身(!)が何らかの要因で覚醒を急いでいるのではないかとも話していた。

 まったく、ケン太もよく解らないものに見込まれて災難だな。本人は気にも止めていないようだが。

 

 

   †  †  †

 

 

「んんーっ……、こんなものか」

 

 日課の日記を書き終え、アーマラは大きく伸びをした。

 デスクには、しっかりとした作りの真っ赤な日記帳が置かれている。この新西暦にあって手書きというアナログな手手法を取っているのは、偏にイングの影響である。

 共に行動するようになってそれなりの時間を経て、アーマラのイングに対する八つ当たりじみたわだかまりこそなくなった。だが、未だに妙な対抗心を燃したりしているのは、相手が見た目が年下(大した差はないが)の男の子だからだ。

 要するに、お姉さんぶりたいお年頃なのである。

 

「……イルイ?」

 

 ふと振り返る。同居人の妹分、イルイがベッドの隅でうずくまり、陰鬱な雰囲気を漂わせていた。

 普段ならアーマラが日課を済ませている間は、勉強したり絵を描いたり本を読んだりと子供らしく一人遊びしているにもかかわらず、今夜はどこか様子がおかしい。

 

「イルイ、どうした?」

 

 アーマラが声をかける。

 イルイが顔を上げた

 

「あ……うん、なんでもないよ」

「……そうか?」

 

 お茶を濁したような態度を訝しむアーマラ。しばらくの間、じっ、と見つめられてイルイはとうとう観念したのか、ぽつりぽつりと胸の内をこぼし始めた

 

「……どうして」

「うん?」

「どうしてあの人たちは、あんなひどいことができるの?」

「ネオ・ジオンのことか?」

 

 こくり、とイルイが頷く。

 そして、どこか危うい様子で心情を打ち明けた。

 

「悪いのは……、ネオ・ジオンや他の星から来た人達……。あの人達さえいなければ……」

「イルイ、それは短絡的な考えた方だな」

「でもっ」

「お前の言うことはある面では正しい。星間連合やゾンダーはともかく、この情勢下で今更地球人同士の内輪もめなどバカバカしい。ネオ・ジオンやギガノス、木星の奴らはどうかしてるのさ」

 

 アーマラの嘘偽りない感想だった。

 バルマー戦役を経てなお地球人類は愚かな。これではアンセスター、狂った機械(メイガス)の言うとおりではないかという。

 

「だがな、イルイ。異星人とスペースノイドが全て悪いと決めつけるのはよくないぞ。仮にもティターンズの兵士だった私が言うことではないがな」

「……」

「納得いかないか」

「……うん」

 

 アーマラに諭されたイルイは不服そうだ。

 

「まあ、そうだろうな。未だに大多数のスペースノイドは、“シャア・アズナブル”の虚像に期待を寄せているようだし。……あんな情けない男に、何が出来るものか」

 

 呆れた風に人々の妄信を斬り捨てるアーマラ。短い間とは言え上官だった男の行動に思うところは多々あった。

「……やっぱり……」イルイの表情がますます暗くなる。それをちらりと見て、アーマラは努めて冷静に言葉を続ける。

 

「しかしお前の言い方も、そんな身勝手な理屈を振りかざす奴らと一緒だと、私は思うぞ」

「……う」

「αナンバーズは、そんな理不尽と戦うためにあるんだ」

 

 普段クールで皮肉屋な態度を崩さないアーマラらしからぬ熱い発言に、イルイが目を丸くする。

 

「……と、イングなら諭しただろうな」

 

 冗談めかして末尾を切る。

 その言葉で少しは救われたのか、イルイは儚げに微笑む。

「さて」アーマラがデスクチェアから立ち上がった。

 

「シャワー、浴びにいくか」

「うんっ」

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦188年 ☆月@日

 地球、極東地区日本近海

 

 日本近海で補足された《グッドサンダー》を支援し、ドクーガと決戦した。

 

 ドクーガの首領、ネオネロスが現れ、そして倒された。

 イング曰く「ズール皇帝の同類」。悪の意識体であるネオネロスは、ビムラーのケン太だけでなくイングにとっても打倒すべき邪悪だったようだな。

 まあ、そのズール皇帝と比べると脅威度は大したことがなかったようにも思えたが。

 

 倒れたネオネロスは置き土産として大量の中性子ミサイルを残していった。

 もちろん、全て破壊処理した。旧世紀の遺産であるとはいえ、所詮ミサイルだ。何するものぞ、だな。

 

 

 

 新西暦188年 ☆月@日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 イルイが行方不明になった。ドクーガとケリを着けた矢先だ。

 本当に、煙のように忽然と姿を消したイルイを私とイング、αナンバーズの仲間たちは夜通しで探したのだが、足取りの一つも掴むこととが出来なかった。

 

 このベイタワー基地からは出ていないはずだということは、監視カメラの映像等からも明らかだった。

 あるいは何者かにさらわれた可能性も考えたが、イングやその他の感受性の高いものたちからの証言で否定されている。この情勢下だ、イルイの身が心配でならない。

 それでも、私たちは前に進むしかない。

 この地球の未来のためにも。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八八年――

 “バルマー戦役”、“イージス事件”という大戦を辛くも潜り抜けた地球圏に、新たな争乱が噴出する。

 後に“封印戦争”と呼ばれることとなるこの戦乱は最終局面を迎えていた。

 

 ビルドベース、司馬博士により判明したミケーネ帝国の本拠地、火山島基地を叩く。

 地上に逃れた地獄大元帥、アルゴス長官らミケーネの幹部を全滅させたαナンバーズの前に、ミケーネ帝国の支配者、邪気の権化たる闇の帝王が現れる。

 クストースの協力を受け、《マジンカイザー》、《グレートマジンガー》――二体の魔神を筆頭に、αナンバーズのスーパーロボット軍団がバルマー戦役からの因縁を断つべく激闘する。 

 ついに闇の帝王は倒れた。

 

 東京市23区。ゾンダープラントと化した東京は多数の民間人を抱えたまま、浮上を開始する。

 大気圏から突入を計るαナンバーズを復活したドン・ザウラー率いるメガノイド軍団が立ちはだかる。

 辛くもメガノイドを退け、ゾンダリアン四天王をも撃破したαナンバーズの前に、ゾンダーの親玉、《EIー01》ことパスダーが姿を現す。

 地球全てを「機界昇華」せんと猛攻するが、「弾丸X」により強化された勇者ロボたちの勇気が限界を超え、ついには邪悪な機界神を討ち滅ぼした。

 

 星間連合の生き残り、ド・ベルガンとリオン大元帥暗殺から始まった争乱の元凶、オルバン大元帥を討ち、バーム星人との和解を成功させたαナンバーズ。

 そこに、小バーム周辺宙域に潜んでいたゼーラ星の支配者――ダリウス大帝が、ズール皇帝、オルバン大元帥が倒れたことを好機と見て襲い掛かる。

 《ガイキング》、《ダイモス》、《ボルテスV》が先陣を切り、彼らの野望を挫いた。

 

 地下勢力、星間連合が壊滅したことを契機に、再び人類勢力の活動が活発化すした。

 αナンバーズは部隊を分け、戦争の早期終結を計る。

 

 月面。ギガノス帝国の切り札、ギガノス機動要塞戦攻略戦。

 母を人質に取られたケーンが寝返るというアクシデントがあったものの、義により助太刀するマイヨ・プラートとその仲間たちを加えたαナンバーズ分艦隊は、図らずもギルトール元帥を廃し、ギガノスの実権を握ったドルチェノフを倒すことに成功する。

 こうしてギガノス帝国は崩壊した。

 

 一方、火星。極冠遺跡を舞台にした火星の後継者との決戦。

 極冠遺跡を掌握し、そのオーバーテクノロジーによって連邦政府へ攻撃を仕掛けようとする火星の後継者に対し、《ナデシコC》による電子戦攻撃を皮切りに、αナンバーズ分艦隊が猛攻する。

 そこに現れる《ブラックサレナ》と《ユーチャリス》。黒き復讐鬼はその鎧を脱ぎ捨て《夜天光》を討ち、因縁に終止符を打った。

 

 

 外敵が滅びたことを受け、ついに大気圏からの離脱を開始するオルファン。

 オーガニック・エナジー枯渇の危機を防ぐため、オルファンとの対話のためにαナンバーズが急行する。

 自身のエゴを振りかざすリクレイマーたちとの戦いの中、勇と比瑪の必死の呼びかけをオルファンは受け入れ、地球の生命は救われた。

 

 そこに再び姿を現したドン・ザウラーらメガノイドが、倒したはずのパスダーを伴ってオルファンを乗っ取るべく強襲する。

 リクレイマーのクィンシーら、そしてゾンダリアン四天王、ピッツァがαナンバーズに協力する。

 そして激闘の末、《ダイターン3》、《ザンボット3》、《トライダーG7》の合体攻撃《無敵コンビネーション》が炸裂し、ドン・ザウラーはついに倒れたのだった。

 

 地球のソウルたるケン太の意志がビムラーに伝わり、オルファンに宇宙へと羽撃く力を与えた。

 オルファンが地球を離れる。

 

 

 そして――――

 

 

「アクシズ、行け! 忌まわしき記憶と共に!」

 

「アクシズが、地球に落ちる……!」

「ダメ、オルファンさん!」

「シャアめ! 私を追い出し、アクシズを掌握したのはこのためだったか!」

 

 ボソンジャンプにより突如として転移したアクシズが、地球の引力に引かれてオルファンと衝突の軌道をひた走る。

 シャア・アズナブル率いるネオ・ジオン艦隊と、クラックス・ドゥガチの木星帝国が最終作戦を発動したのだ。

 

 火星の後継者やギガノスの残党をも取り込んで、地球人類を粛清せんと地球に迫る。

 アクシズ、あるいはオルファンが地球に落ちれば致命的な事態になることは間違いないだろう。

 だがあまりにも地球に近く、またオルファンと接近しているこの状況ではαナンバーズのスーパーロボット軍団の力を持ってしても、アクシズを破砕することは簡単なことではない。

 それでも彼らは決死の覚悟を持ってアクシズ破壊に望む。

 

 だが、ネオ・ジオンも指をくわえて見ているわけではない。全戦力を持ってαナンバーズに対抗する。

 全身に核武装した白き破壊神、木星帝国の超巨大モビルアーマー、《ディビニダド》がドゥガチの歪んだ憎悪をはらんで行く手を阻む。

 《クロスボーン・ガンダムX3》が、《ムラマサ・ブラスター》を手に立ち向かう。

 

「真の人類の未来? 地球不要論!? そんなものは言葉の飾りだっ!  わしが真に願ってやまぬものは唯ひとつ!  紅蓮の炎に焼かれて消える 地球そのものだーっ!」

「安心したよ、ドゥガチ! あんた……まだ人間だっ!  ニュータイプでも新しい人類でも、異星からの侵略者で もない! 心の歪んだだけのただの人間だ!」

 

 《ドラグナー1・カスタム》と《ファルゲン》は恐るべき速さで駆け抜け、メタルアーマーを斬って捨てる。

 

「マイヨさん、いいのかよ? 奴ら、元お仲間だろ」

「ギルトール総帥のご意志を履き違えた輩だ、構わん」

「へっ、そうかい。頼りにしていいんだよな?」

「無論だ!」

 

 一方、《ナデシコC》と《ユーチャリス》が《グラビティブラスト》を連続して放ち、ネオ・ジオン艦隊を蹴散らす。

 《ブラックサレナ》と青い《エステバリス・カスタム》もまた、直衛機として獅子奮迅の闘いを見せていた。

 

「アキト!」

「ああ。復讐者の戦いはもう終わった。これからは地球を護るための戦いだ」

「おうおう、いいこと言うじゃねーか、アキト! 地球を守るため、力を合わせるスーパーロボット軍団ッ! くぅーっ、最高に燃えるぜ! これだよこれこれ!」

「フッ……」

 

 

 αナンバーズとネオ・ジオン、木星帝国連合の最終決戦。

 道を踏み外した宿敵との決着を着けるため、アムロの《Hiーνガンダム》が宇宙(ソラ)を切り裂く。《Zガンダム》、《ZZガンダム》、《キュベレイ》がその後を続いた。

 迎え撃つのは赤きモビルアーマー、《ナイチンゲール》。直下の《ギラ・ドーガ》が指導者を守ろうと間に入るが、瞬く間に撃墜された。

 

「シャア!」

「アムロ! もはやアクシズを止めることは出来ん! 重力に引かれた人類は粛正され、私は父の下に召されるだろう!」

「この期に及んで、世迷い言を! 火星の後継者と組んでいたのは、このときのためだったのか!」

「そうだ、お前たちαナンバーズには感謝している。地球圏の混乱を収めてくれたのだからな!」

「地球を徒に混乱させておいて、どの口が言う!」

 

 言葉が迸り、《ファンネル》が交錯する。

 カミーユ、ハマーン、ジュドーがそれぞれの思いを乗せ、鋼の巨人が。

 地球圏最高峰のニュータイプたちによる白と赤の決戦は、激しさを増していく。

 

「オレたちを忘れてもらっちゃ困るな」

「! イングか!」

 

 《TーLINKスライダー》のビームが直上から降り注ぎ、《エグゼクスバイン》が戦場に乱入する。

 《ビルトファルケン・タイプL》、《龍虎王》、《量産型ゲシュペンストMkーII改》がそれに続いた。

 

「クワトロ大尉!」

「もう止めましょう! こんなことをしたって、世の中は変えられませんよ!」

「クスハ、リョウト、すでに賽は振られた。私とお前たち、どちらかが倒れるまで戦うしかないのだ!」

 

 クスハとリョウトの懇願を一考だにせず、シャアは攻撃を続ける。

 両機を一蹴した《ナイチンゲール》に、《エグゼクスバイン》が《TーLINKセイバー》を振りかざして挑む。

 激突する剣と盾。スパークが迸る。

 

「シャア・アズナブル、いやさ、キャスバル・レム・ダイクン! ニュータイプなんて曖昧なものに縋って、これ以上間違いを犯すな!」

「ニュータイプの否定、お前の持論だな。だが、実際にニュータイプには力があり、人類が革新しなければ地球が保たん時が来たのだ!」

「どうだか。アムロ大尉や、あんたが憧憬するララァ・スンはどこで生まれた?」

「っ! それは――」

「そう、地球だ。今、オレたちがニュータイプと呼ぶものが、あんたの親父さんの唱えた「ニュータイプ」と同じ存在だって保証はない。いや、ザビ家が歪めた選民思想を土台にしてるんなら、それはもはや別のものなんじゃないのか!?」

 

 イングの指摘に図星を突かれ、動揺するシャア。《ナイチンゲール》の巨体を押し出し、《エグゼクスバイン》は《TーLINKセイバー》を引き抜いた。

 念動力をたぎらせて、イングが吼える。

 

「ニュータイプ、戦争をしなくていい者を目指しながら争いしか出来ない――そんなあんたの歪んだ理想を、このオレが断ち斬るッ!!」

 

 

 αナンバーズの総攻撃によりアクシズは破砕され、オルファンも被害を免れた。

 そして死闘の末、《ナイチンゲール》は《Hiーνガンダム》と《エグゼクスバイン》により大破に追い込まれる。

 だが、砕けたアクシズの半分は地球に落着する軌道を取ったまま、大気圏に突入していく。

 

「たかが石ころ一つ、ガンダムで押し返してやる!」

「大尉! オレたちも!」

「わたしたちで、みんなの地球を守るんです!」

 

 アクシズの破片に取り付く《Hiーνガンダム》。イングとエクスが発憤し、アムロに続く。

 大気との摩擦で両機は瞬く間に真っ赤に染まった。

 

 《マジンカイザー》が。

 《真・ゲッターロボ》が。

 《グレートマジンガー》が。

 《Zガンダム》が。

 《ZZガンダム》が。

 《サイバスター》が。

 《鋼鉄ジーグ》、《ガオガイガー》、《ネリー・ブレン》、《ガイキング》、》、《クロスボーン・ガンダムX3》、《ダイモス》。

 《ウィングガンダムゼロ》、《ガンダム・ステイメン》、《ダイターン3》、《コンバトラーV》、《ボルテスV》。

 《電童》、《ゼオライマー》、《ドラグナー1・カスタム》、《ブラックサレナ》、《ザンボット3》、《ゴッドマーズ》、《トライダーG7》《レイズナー》、《ダンクーガノヴァ》――

 αナンバーズに所属するすべてのスーパーロボットがアムロとイングに倣い、アクシズに取り付いていく。

 無駄な抵抗だろう。

 愚かな行為だろう。

 だが確かに、アクシズの速度は僅かだが低下していた。

 

 その姿に感銘を受けたのか、争っていたはずのネオ・ジオンの機動兵器や、地球の危機に馳せ参じた連邦軍正規部隊が駆け付けて、アクシズを押し返すべく参加する。

 推力が足らず重力に引かれて地球に落ちていく《ギラ・ドーガ》に《ジェガン》がマニュピレータを伸ばす。

 しかし、うまく掴むことが出来ず、重力の井戸に転落していく。そのまま爆散するかに見えた《ギラ・ドーガ》だったが、間一髪で《龍虎王》が助けに入って事なきを得た。

 そういった光景がそこかしこで見られた。

 

「Hiーνガンダムは――」「エグゼクスバインは――」

 

「「伊達じゃない!!」」

 

 アムロとイングの思惟がサイコフレームとTーLINKフレームによって増幅され、共鳴現象を起こす。

 《Hiーνガンダム》の装甲表面が淡いエメラルドグリーンに染まる。

 

 二人の、αナンバーズの、そしてこの宙域にいる全ての人の思いが虹となって、宇宙に伝播した。

 オルファンの発するオーガニック・エナジーがアクシズを包み込む。不可思議な虹はまるで一人一人違う心の在り様のようにきらきらと様々な色に輝き、漆黒の宇宙(ソラ)を彩った。

 

 人の心の光――

 宇宙に瞬く綺羅星のような命の輝きが地球の遍く人々を救ったのである。

 

 

 アクシズの消滅を持って、ネオ・ジオン、木星帝国連合軍との戦闘は終結した。

 生き残った兵士たちは全員投降、シャア・アズナブル以下、名だたる幹部は戦死、ないしは行方不明となった。

 

 ――だが、戦いは終わっていなかった。

 アラビア半島、ナフール砂漠の地下深くから、先史文明の遺跡「バラルの園」が浮上する。

 《ガンエデン》――

 先史文明により創り出された強大なる念動兵器、ファースト・サイコドライバーの玉座にして人智を越えた力を持つ人造神。創世神ズフィルードとしてバルマー星に文明を築き、結果的にビアル星人を地球へと導いた機械の女神である。

 《カナフ》、《ケレン》、《ザナフ》、三体のクストースとその量産機を引き連れ、地球を守護/封印せんと強力極まりない結界を張り巡らし、コロニーや月、小バーム、オルファンに対して攻撃を開始した。

 

 《ガンエデン》としての本性を現したイルイは、αナンバーズに語りかける。

 自分の許へと下り、地球を守護する剣となれ、と。

 地球に害を為す組織を全て壊滅させたαナンバーズを守護者と認め、惑星封印への理解を求めたのだ。

 だが、しかしαナンバーズは地球を封印し、月、コロニーに攻撃を行い排除しようとすることを良しとせず、敵対。機械の女神に戦いを挑む。

 ドクーガ三将軍、クィンシー・イッサー、そしてリヒテルとハイネルが助太刀に現れる。

 

「イング、あなたをこの世界に招いたのは、他ならぬ私です」

「な、に……! 何を、根拠に!」

「あなたの本当の名は浩一、山野浩一……思い出しましたか?」

「!!」

「あなたは私と“あの人”の力を以て、外なる宇宙より招かれた強き魂。この地球(ほし)を護る剣として……そして、大いなる災いから逃れるために」

「大いなる災いだと!?」

「そう、それは根源的な破滅。森羅万象、ありとあらゆるものの破綻です。それを回避することこそ、あなたがこの世に遣わされた意味なのです。さあ、イング、我が許に下るのです。私と共にあることが、あなたの使命なのですから」

「断る!」

「……それは何故です?」

「オレはオレだ! ガンエデン! 例えお前の言うことが全て真実であろうが、関係ない! あらゆる邪念を断ち斬る――それは他ならぬオレが、オレ自身に科した使命だからだ!」

「どうしてもと言うのですか」

「くどい! 大いなる災厄とやらを防ぐのは、お前を倒してからにさせてもらう!」

「愚かな……仕方ありません。まずはあなたのその強靱な精神を折り、屈伏させることにしましょう」

 

 激しい戦いの最中、イングはイルイに――《ガンエデン》に取り込まれたイルイ自身の意識に触れた。

 《ガンエデン》の呪縛からイルイを解き放つために、αナンバーズのメンバーは思いの丈を彼女に投げかける。

 閉じられた念、封じられた意志が徐々に目覚めていく。

 

「私は言ったはずだぞ、イルイ! 今のお前の在り方は、身勝手な理屈を振りかざす奴らと一緒だと!」

 

 紅い《ビルトファルケン》を駆り、アーマラが声を張り上げる。

 言い様こそ突き放したような物言いだが、そこにはイルイに向けた優しさと厳しさが込められていた。

 少なくない時間を仲のいい姉妹のように過ごした少女たちの絆は、いつしか本当の家族にも勝るほど強く結ばれていたのだった。

 

「そして、αナンバーズはあらゆる理不尽と戦うためにある!」

「そうだ、イルイ! お前の本心は、こんなこと望んじゃいないはずだ!」

「!」

「お前の心が泣いている! 誰も傷つけたくないと、友達を傷つけたくないと! 友達になれるかもしれない人たちを傷つけたくないと!!」

「イルイちゃん、ガンエデンに負けないで! それでいっしょに帰りましょう、みんなのところに!」

「わ、わた、し、私、は……――お兄ちゃん……!」

「イルイ! お前がオレを兄と呼ぶなら、オレは兄貴として、お前を救ってみせる!  そしてガンエデン! お前のその妄執、ここで断ち斬ってやる! このエグゼクスバインでな!」

 

 イングとアーマラとエクスと――αナンバーズの想いを乗せて、不滅の凶鳥が機械の女神と対峙する。

 

「エクス!」

「はい、イングさん! GSライド、フルドライブっ! ブラックホールエンジン、トロニウム・レヴ――、シンクロナイズ!」

「TーLINKダブルコンタクトッ! フィナーレだ、アーマラ!」

「ああ! これで決まりだ!」

 

 《エグゼクスバイン》と《ビルトファルケン》が念動剣の柄を握る。

 重ね合う手と手。重なり合う意志の力。イングとアーマラ、二人分の念動力によるダブルコンタクトの相乗効果、莫大な念の光が《TーLINKセイバー》の刀身を覆い尽くしていく。

 まるで天を突くが如き念動剣が完成した。

 

「「デッド・エンド・スラァァァァッシュ!」」

 

 振り下ろされる極大の斬撃――両機による《ストライク・デッド・エンド》が光の帯となって、《ガンエデン》を貫き、バラルの園をも両断した。

 

「おおおおッ!」

 

 《エグゼクスバイン》が念動フィールドを纏い、突進する。

 《ガンエデン》に宿ったファースト・サイコドライバーの莫大な強念が解放されれば、地球は被害を免れない。

 それを押さえ込み、《ガンエデン》と最期を共にしようとするイルイ。間一髪、イングは外部から強制的に念を封じ込めることで彼女の救出に成功した。

 ここに至り、イングの念はファースト・サイコドライバーすらも超越していたのだった。

 

 

 中核たる《ガンエデン》を失い、崩落を開始するバラルの園。イルイを救出することに成功したイングとαナンバーズは脱出を計る。

 そのとき、全天を強大な思念が覆い、バラルの園を捕らえ、地球、遙か古の時代にメソポタミアと呼ばれた地域の一角から光の柱が立ち上った。

 

 光の柱――強烈な念動光とともに降臨したのは白と金に彩られた神秘的な巨人。どんな材質で創られたのかもわからないその姿は、あるいは古代の石像のようにも見えた。

 

「ぼくの名はバビル。もっとも、きみたちにはビッグ・ファイアと名乗った方が通りがいいかもしれないね」

 

 白髪の少年――ビッグ・ファイアは語る。自身は《ガンエデン》の意志――、ナシムと同じ太古の人類、ファースト・サイコドライバーの一人、「バビル」だと。

 彼は今現在、ナシムと同様に肉体を失い、神体《ガイアー》に思念を封入して存在を維持している。先史文明人として一度滅びた地球に生命の種を蒔き、遙か太古から気の遠くなるような時間をかけて地球人類を見つめ続け、またBF団を組織して人類社会の裏側を牛耳ってきた。

 人類最強の汎超能力者(サイコドライバー)

 

「ビッグ・ファイア……彼は新生を司る者達の一人、神であって神でなく、 人であって人でない存在。50万年前の終焉をゼ・ バルマリィ帝国の創世神ズフィールドと共に生き延び、現在の世界を創り上げた人物です」

「そのとおりだ、シュウ・シラカワ」

「ビッグ・ファイア……、ゼーレにも伝わる創世神、無限力(むげんちから)に選ばれ、次元力を自在に操るファースト・サイコドライバーだ」

「きみは生前、彼らと繋がりがあったのだったね、木原マサキ。いや、いまは秋津マサトか」

「まさか、ギシン星の神話に残る邪神!?」

「名答だ、マーズ。ズールがきみをこの地球に送り込んだのはぼくに対する攻撃だったようだね」

 

 ビッグ・ファイアは、ことここに至ってαナンバーズの前に姿を表した真意を明かす。

 

「イング。ガンエデン――、ナシムはきみを“アポカリュプシス”に対抗するための単なる戦力としてしかみていなかったようだけど、ぼくは違う」

「どういう意味だ?」

「きみの肉体は、ガイアーに残されたぼくの遺伝子データを基にして生み出された。BF団を通じてイーグレット・フィフに接触、提供することでね」

 

「自由に動けないぼくの代役として地球を護ってくれたきみは、ナシムの撃破を以てついにサイコドライバーとして完聖した。いまこそその肉体を召し上げるときが来た」

「それではまるで……!」

「イングラム・プリスケンのようだと言いたいのかい、ヴィレッタ・プリスケン」

「! 貴様、どこまで知っている?」

「ふふふ……、さてね」

「私に、エンジェル・ハイロゥの攻略法を伝えたのも、その一環というわけですか?」

「そうだ、シュウ。諸葛亮を通じてきみやイングラムに策を与えたのもすべてはこのときのため、ぼくが現世に復活する布石だったんだ」

 

 ビッグファイアの語るイング誕生の真相に、一同は言葉を失う。

 

「外なる世界から招かれたきみは、この世界を支配する因果律、アカシックレコードには縛られない。そのきみをガイアーに取り込むことで礎にし、肉体を得て蘇ったぼくはこの地球に再び君臨する。言うなればきみは人柱なんだよ」

 

 ビッグ・ファイアは言う。それこそが真のGR計画、きみの存在理由だと。

 

「αナンバーズ。きみたちはよくやってくれたけれど、ぼくがこうして立ち上がった以上もはや用済みだ。完全復活した暁には、ナシムの残したガンエデンシステムにより改めて封印を施し、この地球に安寧と平和をもたらそう」

 

「ふざ――、ふざっけんな!」

 

 イングが激昂する。自身の生誕の真実を突きつけられても、彼の精神は折れなかった。

 積もりに積もった理不尽に対する憤りが爆発したのだ。

 

「テメェら、揃いも揃ってくだらねぇ御託並べやがって! お前らの都合なんか知ったことか! もう一度言ってやる、オレはオレだ!」

「その選択は愚かだ、イング。……しかたない、絶対的な力の差というものを教えてあげよう。G(ガイアー)R(リライブ)……七神合体!!」

 

 《ガイアー》を中心に不可思議な魔法陣が描かれ、現れた六神体が《ゴッドマーズ》と同様のプロセスを経て合体、完成する巨神――《ガンジェネシス》。ズール星にて建造された六神ロボの原型であり、言うなれば《真・ゴッドマーズ》とも呼べる存在である。

 遙か昔、先史文明人により《ガンエデン》と共に建造された創世の人造神。《ガンエデン》が惑星の守護神であるなら、《ガンジェネシス》は外敵を打ち砕く絶対の破壊神。地球、いや、宇宙最強の汎超能力者(サイコドライバー)ビッグ・ファイア――バビルの人智を越える超能力を十全に発揮させる、前人未踏の念動兵器だ。

 

 恐竜帝国、邪魔大王国、鉄甲龍、ガルファ、ガイゾック、ギシン星間連合、ミケーネ帝国、メガノイド、ゾンダー、ギガノス、リクレイマー、木星帝国、ネオ・ジオン――長きに渡った“封印戦争”、その最終決戦。封印を破ったαナンバーズと、封印から目覚めたビッグ・ファイアの戦いは熾烈を極めた。

 

「ぼくに従え、イング」

「う、がああああッ!?」

「お兄ちゃん!」

「イング! しっかりしろ! 私を倒したお前が、特Aエキスパート“ワンゼロワン”が情けない様を晒すなど許さんぞ!」

「――! ったく、お前にそう言われちゃ、負けてらんねーよな!」

 イングを操ろうとするビッグ・ファイアの強念を仲間たちの、そして何よりアーマラの声がはねのける。

 

「バビルお兄ちゃん、もう止めて! αナンバーズのみんなは地球を護ろうとしているのよっ!」

「イルイか。彼らを倒した後で、もう一度ナシムの器としてあげよう」

「!」

「そんなこと、させるわけねーだろ!」

 イルイの懇願を一蹴するビッグ・ファイア。イングがその態度に激怒する。

 

 無限にも思える無尽蔵のエネルギーと圧倒的なパワー、そして「マシン・セル」を彷彿とさせる化け物じみた再生能力を持つ《ガンジェネシス》を前に、αナンバーズは一人、また一人と脱落していく。

 けれども、彼らの攻撃が無駄だったわけではない。

 仲間たちの攻撃を呼び水にした《マジンカイザー》、《真・ゲッターロボ》、《Hiーνガンダム》による決死の攻撃で《ガンジェネシス》が初めて揺らいだ。

 

「我が名はゼンガー、ゼンガー・ゾンボルト! 神を断つ剣なり!! ――チェストォォォォオッ!!」

「龍虎王が超奥義っ! 龍王破山剣ッ! 天魔降伏! ()ーーんッ!!」

「「ツイン・バード! ストラァァァァイクッ!!」」

「マニューバーGRaMXs! フィニィィイッシュ!!」

 

 すかさず《ダイゼンガー》、《龍虎王》、《ビルトビルガー》と《ビルトファルケン》、《ハイペリオン》がそれぞれの必殺技を叩き込む。

 そして、《ゴッドマーズ》の《ファイナルゴッドマーズ》が炸裂した。

 

「くっ、六神体が……!? ガンジェネシスを維持できない!」

「この瞬間を待っていたんだ! 来い、ブラックホールバスターキャノン!」

 

 仲間の援護を背に、イングは念動力で巨大な砲を呼び寄せる。

 パージした《TーLINKレボリューター》による念動結界「サターン・フォーメーション」が《ガンジェネシス》を捉えた。

 

「ヒュッケバインから受け継いだ力を……! 今こそ! 見せてやる!」

 

 《エグゼクスバイン》の最強兵器、《ブラックホールバスターキャノン》が発射された。

 

「超重獄に墜ちろ! ビッグ・ファイア!!」

「っ、まだ、六神体をやられただけだ……!」

 

 極小のブラックホールにより、完全に破壊された《ガンジェネシス》から《ガイアー》が分離した。

 

「イング、きみとの決着だけは着けさせてもらう!」

「しまっ……!?」

 

 大爆発の中から現れた《ガイアー》は、《エグゼクスバイン》に組み付くと諸共念動転移する。

 

「イング!」

「お兄ちゃん……!」

 

 そしてアーマラとイルイの悲鳴を残し、両者は虚空に消えた。

 

 

   †  †  †

 

 

 BF団の本拠地、超古代文明の遺産「バビルの塔」。

 地底、地下深くに広がる巨大な空間で凶鳥と巨神が激突する。

 

「いい加減往生際が悪いぜ、ビッグ・ファイア!!」

『それはぼくのセリフだ、イング!』

 

 無数の光弾を放つ《ガイアー》。念動力により、まるで《ファンネル》のように飛翔して《エグゼクスバイン》を追い立てる。

 対する《エグゼクスバイン》の動きは精彩を欠いていた。

 リクレイマー、シャアとの決戦から《ガンエデン》、《ガンジェネシス》と連戦を演じてきた機体はすでに限界に近く、全身至る所にガタがきている。サブコンソールにはエラー情報が飛び交い、警告音が耳を劈く。

 さらには《ガイアー》の性能も《ガンジェネシス》に負けず劣らず強烈だ。

 光弾の雨霰に、近接戦のエネルギー衝撃波。全身から超高熱の炎を吹き出し、さらには念などのエネルギーを吸収すらしてしまう。

 それでもイングは諦めない。強くしなやかな心は折れたりしない。

 仲間たちのもとに帰るため、最強のサイコドライバーとの孤独な戦いを続ける。

 

『これでどうだ!』

「ぐあ……! ね、念動フィールドォォッ!」

 

 念動力による引力で引き寄せられ、至近距離で光弾を受ける《エグゼクスバイン》。

 イングは念動フィールドの応用で《ガイアー》を無理矢理引き剥がすが、ゼロに近い距離で光弾を叩きつけられたダメージは深刻だ。

 

「イングさん、これ以上は機体が保ちません!」

「まだだ、まだやれる! まだ終わりじゃない! 限界を超えたとき初めて見えるものがある、掴み取れる力が……! オレたちならやれるはずだ、エクス!」

「は、はいっ!」

 

 エクスの警告を退けて、イングは哮る。

 けしかけた《TーLINKレボリューター》は全て破壊され、《フォトン・ライフル》、《グラビトン・ライフル》もエネルギーを使い切るか喪失した。

 残った武装は数本の《ロシュ・ダガー》と《TーLINKセイバー》のみ。

 しかしイングの闘志はますます燃えさかる。ビッグ・ファイアは疑問を呈す。

 

『イング。どうして、そうまで戦えるんだ? きみを突き動かしているのは単純な正義感だろう。けれど、その正義感を向ける相手に、ヒトに命を懸けるほどの価値ない』

「だからどうした! アクシズを防いだ光を見ただろう! ヒトはそんなに捨てたもんじゃない!」

『あの暖かい光を創り出せるヒトが、同時に残酷で愚かな行為をいとも簡単に犯す。それは歴史が証明している。だからぼくはBF団を組織した。愚劣なるヒトが地球を滅ぼさないように、監視するためにね』

「じゃあ、そうさせないようにするさ。あんたを倒してな!」

『それでどうする、イング。所詮、きみの力はぼくの劣化コピー。オリジナルには勝てない』

「コピーがオリジナルに劣ると誰が決めた! 例え、お前から与えられたものだろうとも! この力、みんなの笑顔のために使うんだッ!!」

 

 決意が意志を動かし、意志が強念を生む。

 イングの念は魂の力。ビッグ・ファイアの肉体を基礎としたものであっても、結局のところは彼の意志によるものでしかない。

 揺るがぬ精神と、確固たる信念が新たな力を呼び覚ます。

 

「唸れ、トロニウム・レヴ! Gストーンよ、おまえが無限の力を発揮できるというなら、オレの勇気を燃やして光り輝け!」

 

 《エグゼクスバイン》に搭載されたトロニウム・レヴが唸りを上げ、Gストーンが勇気を力に変えて輝く。

 それに伴い、イングの髪がまるで燃え立つように真赤(まっか)に染まった。

 

「アカシックレコードアクセスッ! 限界を超えろ、エグゼクスッ!!」

 

 まばゆいばかりの光を放ち、不滅の凶鳥が息を吹き返す。

 《TーLINKスライダー》の接続コネクタから念動力で形作られたブレードが出現し、機体全体が翠緑の光を帯びる。

 《ストライク・シールド》から《TーLINKセイバー》を引き抜き、《エグゼクスバイン》は限界を超越し、極限(エクストリーム)に到達する。

 

「オオオオ――ッ!!」

『速い……!?』

 

 光り輝く極限の凶鳥が、圧倒的なスピードですれ違いざまに《ガイアー》を斬り裂く。

 僅か一瞬の接触は、エネルギー吸収の隙を与えない。

 

「この念、ぼくを超えている……!? 無限力(むげんちから)を掌握しているとでも言うのか! これが“神なる世界”の者の力……! イング、きみは危険だ!」

「ようやくオレの存在を認めたな、ビッグ・ファイア! オレはお前の複製でもなければ、影でもない! ましてやお前の(にえ)になるなんて以ての外だ! オレは一人の人間として、地球人としてお前を倒す!  忘れるな、オレの名前はイング・ウィンチェスターだ!」

 

 乗機を一方的に切り刻まれて初めて狼狽を見せるビッグ・ファイアに、イングは決然と言い放つ。

 振り下ろされた《TーLINKセイバー》が《ガイアー》の左腕を断ち斬り、残った右手が放った光弾がそれを弾き飛ばす。

 

 それは死闘と呼ぶに相応しい戦いだった。

 激しい攻撃の応酬。天地を揺るがす強念の激突で、バベルの塔が悲鳴を上げる。

 そして……

 

「ヒトの世界にッ、カミは――いらないッッ!!」

 

 ついに、イングの信念が込められた拳が、大地の名を持つ巨神を貫いた。

 

 胸に風穴を空けられた《ガイアー》は、破損部を激しくスパークさせて空中に漂う。残った四肢はだらりと力なく垂れ下がっていた。

 

『み……見事だ、イング……。それで、こそ、ぼくが、後継者として見込んだ、男だ』

「何っ!?」

『こ、これで、ぼくも……心おきなく、因果地平の彼方に、無限力に逝くことができる……』

「ビッグ・ファイア、お前……そういうことか」

 

 イングは悟る。

 数々の困難を与え、「イング」を後継者として育て上げる――それこそが、真のGR計画なのだと。

 最後に自らが試練として立ちふさがり、打ち倒されたことで目的を果たしたビッグ・ファイアは満足そうだった。

 

『イング……虫のいいことだけれど、最後にひとつだけ、頼みが、あるんだ……』

 

 譫言のように、ビッグ・ファイアはイングに語りかける。

 

『ナシムは……ぼくの、ほんとうの妹だった……。ナシムの血を色濃く、受け継いだイルイを……そして、彼女の愛した地球を、ぼくらの代わりに、護ってやって、ほしい……」

「わかった。イルイはオレの妹でもあるんだ。地球を護るのも、妹を護るのも、あんたに言われるまでもない」

『ふふ……、ありがとう、イング……』

 

 イングの素直でない物言いに、ビッグ・ファイアは微笑んだ。まるで憑き物が全て抜け落ちたような、安らかな笑みだった。

 

『ナシムの願いで……、ぼくらは、バルマーを離れた……。それ自体は、今でも、間違いだったとは……思わない。でも、でもそのせいで彼が……ゲベルが、歪んでしまったのなら、ぼくは――』

 

 誰に語るでもない途切れ途切れの言葉には、ビッグ・ファイアの――バビルの深い後悔の念が込められていた。

 

『地球を、この宇宙の未来を頼む……バビル二世……』

「ああ。頼まれた」

 

 後継者に未来を託して、《ガイアー》が爆散する。

 《ガイアー》の残した光が粒子となって、《エグゼクスバイン》のTーLINKフレームに吸い込まれていく。

 地球を誰よりも愛し、ヒトを厳しくも愛おしんだファースト・サイコドライバーの最期だった。

 

「…………」

「イングさん……」

 

 暫し、黙祷するイング。エクスが気遣わしげにする。

 ビッグ・ファイアの――バビルの残した“(しゅくふく)”を受け入れて、“バビル二世”はここに完成した。

 

「――帰ろう、エクス。みんなのところに」

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――《ガンエデン》、《ガンジェネシス》という太古の念動兵器群に辛くも勝利したαナンバーズ。

 無事地球に降下したαナンバーズのメンバーにより、《ガイアー》とともに姿を消した《エグゼクスバイン》の捜索が続けられていた。

 

 だが、イングの行方は蓉として知れなかった。

 

 

 紅い《ビルトファルケン》に搭乗し、イングを捜索していたアーマラとイルイ。彼女たちは休息もそこそこに、懸命な捜索活動を続けていた。

 

「あ……!」

「この暖かい念は……」

 

 イルイとアーマラが何かに気づく。

 二人は顔を見合わせると、すぐに移動を開始した。

 

 慣れ親しんだ念を関知した場所に、《ビルトファルケン》が着陸する。

 ひざを突く《ファルケン》。コクピットを開き、アーマラはイルイを抱えて慌ただしく飛び降りる。

 そこは青々とした背の低い草花が生い茂るなだらかな草原だった。

 

 武装の大半を失い、損傷も激しい《エグゼクスバイン》の足下に立つ、銀髪の少年の後ろ姿。傍らには、鮮やかなピンク色のマスコットロボが浮遊している。

 

「おにーちゃーんっ!!」

 

 抱き上げられていた腕をするりと抜けて、イルイが一目散に駆けていく。

 少年が振り向いて、彼女を迎える。

 アーマラは苦笑し、ゆっくりと歩いてその後を追った。

 

「イング」

「アーマラ」

 

 イルイを抱き上げ、言葉少なに自分を迎える少年――イングが、アーマラにはどこか大人びて見えた。

 

「勝ったのか」

「ああ。ビッグ・ファイアは……バビルは逝ったよ」

「バビルお兄ちゃん……」

 

 落ち込むイルイの頭を軽く撫で、イングが空を見上げる。

 雲一つない抜けるような青空には、燦々と光を振りまく太陽とオーガニック・エナジーの虹が瞬いていた。

 

「……勝手にこの世界に呼ばれて、訳も解らず戦争の中に放り込まれて……、始めは単純に怒りとか憤りとか、そういう感情で戦ってた」

 

 長いようで短い旅の記憶を手繰り寄せ、イングは述懐する。

 責任を感じているのだろう、イルイが腕の中で心配そうに見ている。

 

「ロンド・ベルの、αナンバーズのみんなと出会って、いつからかこの地球に愛着を感じるようになって。たくさんのヒトがいて、たくさんの命にあふれてて、たくさんの想いがあって……それを護りたいって思えるようになったんだ」

 

 そう思えたのも、イングが純粋だからだろう。

 英雄(ヒーロー)に対する憧憬は時として歪みに変わり、最後には身の破滅に変わることもあるのだから。

 

「自分が今ここにいる理由がわからなくても、それでもいいって思ってた。けれど……、オレにも託されたものがあった。ここにいる意味があったんだ」

 

 視線を落としたイングは、しばし口を噤む。

 

「オレは、ここにいる」

 

 そして瞼を開き、晴れ晴れとした表情で力強く言った。

 アーマラは、そんなイングの横顔を見つめていた。見惚れていたといってもいい。

 それは気高い戦士のようで、年相応の少年のようで――とても尊く思えたから。

 

「アーマラ」

「……」

「アーマラ?」

「んッ? あ、ああ! なんだ?」

 

 自分が惚けていたことに気付いたアーマラは、訝しげな視線に狼狽する。その頬は、薄く薔薇色に染まっていた。

 様子のおかしいアーマラに首を傾げつつ、イングは本題を切り出した。

 

「これから、地球、いやこの銀河には今までにない大災厄が訪れるだろう。それはこれまでの戦いとは比べものにならないほど辛く、厳しいものになるはずだ。そしてオレは、その戦いの真っ直中に行くつもりなんだ」

 

 それが託された願いだから。

 それが英雄(ヒーロー)の姿だから。

 それが誰にはばかることのない自分自身の望みだから。

 

 だからイングは命を懸けて戦うのだ。

 人々の志を束ねる希望の太陽として。終わらない平和を求めて。

 

「……それでも、オレと一緒に戦ってくれるか?」

 

 少しだけ弱気な顔を覗かせる。

 ふっ、とアーマラが笑う。いつものニヒルで、けれどもどこか背伸びをした表情は彼女のいつものスタンスだ。

 

「馬鹿者。私はお前のパートナーだぞ。そんなもの、言うまでもない。お前が嫌と言ったって、離してやるものか」

「お兄ちゃん、わたしもいるよっ」

「わたしとエグゼクスバインもお供します!」

 

 アーマラの勝ち気な宣言。健気なイルイとエクスが続く。

 

 彼らの頭上に、連絡を受けて集結したαナンバーズ艦隊と仲間たちの姿がある。

 心強い仲間に恵まれた自分の幸運に感謝して、イングは破顔した。

 

「行こう、終焉の銀河に。この世界を終わりにさせないためにも」

 

 

 

 

 




※おまけ

特殊技能『サイコドライバー』
 気力140以上で発動
 全ステータス+20、全地形適応S、毎ターンSP20回復、SP消費80%、
気力最大値+30、EP時回避率30%up、攻撃力+1500、CT率10%up、サイズ差無視、最終ダメージ1.3倍、移動時のコスト無効

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