スーパーロボット大戦//サイコドライバーズ   作:かぜのこ

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αIIIー6「今遠い遙か彼方……」

 

 

 

 新西暦一九〇年 ⊿月#日

 銀河系中心宙域、バルマー星系 《ラー・カイラム》の一室

 

 

 銀河殴り込み艦隊本隊はゾヴォーク、平和解放機構、イバリューダーやプロトデビルンなどの銀河中の協力者と合流を目指し、銀河の中心へと移動中。宇宙怪獣やバッフ・クランの妨害が予想される。

 一方オレたちαナンバーズは、同じく銀河中心付近にあるバルマー本星に向かっているところだ。

 目的は、ゼ・バルマリィ帝国の霊帝ルアフと接触し、カルネアデス計画への協力を求めるため。バルマー本星があるのはBM3が起動したら被害を受ける宙域でもあるし、無視はできない。

 ちなみに発案者はアルマナ。「創世神ズフィルードなら、きっとお力を貸してくださるはずです」だってさ。同じバルマー人のエイジやゲイルさんとかは若干難色を示していたりするんだが。

 まあ、オレもここだけの話求めるだけ無駄だって思ってるけど、ゴラー・ゴレム隊に連れ浚われたイルイを助けるためならやる気も出るってもんだ。

 

 まずはホワイトスターもとい、ネビー・イームの攻略からだな。

 

 

 追記。

 なんだか誤解が広がってるみたいだから訂正するが、オレはまだDTだ!

 アーマラとはほら、チューしたというか、されただけみたいな? あるいはハグしただけみたいな?

 不意打ちで唇を奪われたんだよ。うん。

 で、自分からしといて真っ赤になったあいつがかわいくて、オレもお返しにキ(以下、黒く塗りつぶされている

 

 

   †  †  †

 

 

 ゼ・バルマリィ帝国の大深度に広がる荘厳なる神殿。

 ここで、地球とバルマー、同じルーツから始まった二つの星の宿命が、今果たされようとしていた。

 

 偽帝ルアフを排したシヴァー・ゴッツォは、自我を失わせたイルイをマシヤフ(人柱)としてコアに利用し、《ゲベル・ガンエデン》を支配した。

 だがその行為は、今や事実上、宇宙最強のサイコドライバーとなったイング、“バビル二世”の逆鱗に触れたのだった。

 

 αナンバーズの猛攻の前に因縁のゴラー・ゴレム隊、エイス、キャリコとスペクトラは敗退し、残るはシヴァーが操る《ゲベル・ガンエデン》のみ。

 その《ガンエデン》も、αナンバーズの総攻撃を受けて黒煙を上げていた。

 

『ぐぅぅぅ! ば、馬鹿なっ! ズフィルードの神の盾が、こうも容易く!?』

『借り物の力で、俺たちに敵うわけねぇだろ!』

『シヴァー……、俺たちを思い通りに出来ると思うな。イングラムに代わり、俺がお前の枷を消滅させる……!』

 

 長きに渡る因縁を精算せんと哮るリュウセイとクォヴレー。

 αナンバーズ各機の猛攻の後、鋼の戦神《バンプレイオス》と《RーGUNパワード》による合体攻撃《天上天下一撃必殺砲・改》、黒き銃神《ディス・アストラナガン》の《アイン・ソフ・オウル》――銀河に轟く最凶の必殺技が炸裂し、人造神を大いに揺るがした。

 そして――

 

「シヴァー! イルイ()は返してもらうぞ!」

 

 紅き光の巨人《エグゼクスバイン・メヴィウスU》が、宇宙誕生に匹敵するほどのエネルギーを纏う手刀――《ビッグバンスマッシュ》を《ゲベル・ガンエデン》に打ち込んだ。

 灼光(しゃっこう)の一撃が超念動フィールド、神の盾を貫いて《ガンエデン》の胴体に突き刺さる。超至近距離で発動したイングの超能力は囚われたイルイを確実に捉え、空間をねじ曲げて引き寄せた。

 

 強制的な転移により《メヴィウス》のコクピット内に現出したイルイを、イングはしかと抱き留める。

 

「イルイ!」

「おにい、ちゃん……?」

「よく頑張ったな、もう大丈夫だ」

「ん……」

 

 自分を呼ぶ声を聞き、薄く目を開けたイルイ。彼女は大好きなイング()の姿を認め、安心したように微笑んだ。

 

 安堵したイルイ()が意識を失ったのを見届け、イングは顔を上げる。

 視線の先には人造神から木偶人形に成り下がった《ガンエデン》。その紅い瞳には燃えさかる怒りを浮かべ、その胸には熱い義憤を抱き――そして清水のように澄んだ心でその力を振るうのだ。

 

『我が計画は完璧だったはず! それが、何故!?』

「テメェの志がどれだけ素晴らしかろうとッ、手段を間違えた時点で無価値なんだよ! 因果応報、所詮はユーゼスと同類だ!」

「あなたのしてきたこと、たとえバルマーの星の人たちのためだとしても許せません! この銀河に生きる命は、みんなみんな平等なんです!」

「貴様の息子があの世で待っているぞ! シヴァー!」

 

 計画が崩壊し、動揺するシヴァーの譫言を切って捨て、怒れる鋼の救世主(メシア)は偽りの機械神に引導を渡す。

 

「こいつで決めてやる! サイキックウェイヴッ!!」

 

 《エグゼクスバイン》から放たれた強烈な念動波が《ゲベル・ガンエデン》を空間に縛り付け、動きを完全に封じ込む。

 制御の要たるマシヤフを奪還され、まともに動くことも出来ない《ガンエデン》に逃れる道理はない。

 

「シヴァー・ゴッツォ! お前を縛る因果の鎖ごと、その歪んだ理想をオレたちが断ち斬るッ!!」

「貴様らバルマーとの因縁もこれまでだ! TーLINKツインコンタクトッ! 輝けッ、オウル・レヴ!!」

「行きます! リミット解除っ、エグゼクスバイン、フルドライヴ!」

「アカシックレコードアクセスッ! 次元を斬り裂け! エグゼクスカリバー、アクティブ!」

 

 覚醒したイングの髪が紅く燃え上がり、アーマラの髪もまたそれに伴って深い蒼に染まる。無限力(イデ)すら超越しつつあるサイコドライバーの力が発動し、宇宙の根源オリジン・ローから次元力を汲み上げる。

 オウル・レヴの輝きが同様に次元力を生み出すのに伴って胸部エナジーコアが分離、下部から引き延ばした柄を光の巨人が掴み取る。

 頭部に飾られた結晶体が、まばゆい光を放った。

 

「素敵に無敵に絶光超ッ!」

「天衣無縫の天動超奥義ッ!!」

 

 リミット解除のキーワード、爆発する強念。エナジーコアから放たれたプラズマスパークの光をたらふく抱え込み、流体ヒヒイロカネが結晶の刃となって一振りの剣を形成した。

 

「行くぞッ、スペリオルフラッシュ! デッド・エンドォォォッ――」

「「スラァァァァシュッッ!!!」」

 

 極光を伴った大斬撃が《ゲベル・ガンエデン》に吸い込まれ、炸裂した。

 

 《エグゼクスバイン・メヴィウス》の最大攻撃を受け、全身の至る所で小爆発を起こす《ガンエデン》。

 ノイズの走る映像には、自嘲の笑みを浮かべた。

 

『フッ……ここまでか。――地球の勇者たちよ……銀河の命運だけではなく、願わくば、帝国の臣民の未来も、護ってくれないだろうか……』

「ハッ、言われるまでもねぇ。アンタは潔くあの世に行って、オレたちの創る未来を眺めてるんだな」

 

 イングの人を食ったような返答にシヴァーは笑みを漏らし、盟友バランとアルマナに後を託して《ゲベル・ガンエデン》と命運を共にした。

 こうして、ゼ・バルマリィ帝国の守護神、創世神ズフィルードと、神となって故国を救おうとした男は光となって消滅したのだった。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一九〇年 ☆月◎日

 銀河系中心付近 《ヱルトリウム》内の医療施設

 

 無事、イルイを救い出すことに成功した。

 念を酷使させられて消耗し、衰弱しているイルイは《ヱルトリウム》の施設に収容されている。命に別状はないそうだが、心配だ。

 

 さて、ゼ・バルマリィ帝国での決戦を簡単におさらいしてみよう。

 バルマー星系ゼ・バルマリィ帝国本星に近づいたオレたちを待ち受けていたのは、監察軍第五艦隊及び第六艦隊、そして白き魔星「ネビー・イーム」。また、特使として先んじてバルマーに帰還していたバランが洗脳されて立ちはだかる。

 ちなみに、敵軍の中にはル・カインの《ザカール》率いるグラドス星のSPT部隊の姿もあり、エイジの《レイズナーMkーII》と《VーMAX》による超高速戦を繰り広げていた。まあ、決着つかず、だがな。

 

 正気に戻ったバラン、ルリアの活躍で、ネビー・イームの一つに囚われていたアヤ大尉とトロニウムを奪い返したSRXチーム。ついに真の完成を果たした《バンプレイオス》の《天上天下一撃必殺砲・改》が、エツィーラ・トーラーの《ジュモーラ》を文字通り一撃の下に粉砕した。

 なお、エツィーラの策略(悪趣味な幻影だ。トラウマシャドーか?)でマイが念を暴走させかけていたが、アヤ大尉の登場とオレの妨害(サイコドライバーにも力の差ってもんがあるのだ)で事なきを得ている。あ、イデはお呼びじゃないんで、お引き取りください。

 

 ゼ・バルマリィ帝国の支配者、霊帝を名乗るルアフ・ガンエデンは、謁見を求めたオレたちをバルマー星に招き入れた。

 だが奴は、端から協力なんてするつもりはなく、αナンバーズの戦力を力付くで奪おうとするという浅はかな真似をしくさった。ルアフめ、思った通りちっちぇえ野郎だったぜ。見た目じゃなくて器がな。

 自分らの戦力が足りないから余所から補おうってのはわからんでもないが、敵対したら本末転倒だろうに。自分以外の他者を見下す見当ハズレなエゴ、まさしく旧来のバルマー人そのものだな。

 ルアフと《ゲベル・ガンエデン》は哀れ、スーパーロボット軍団の総攻撃を受けてあえなく敗退した。

 

 オレたちに破れたルアフは無様にも逃げ出したのだが、どうやらゴラー・ゴレム隊の黒幕であるシヴァー・ゴッツォになぶり殺しにされたらしい。

 そのシヴァーは、地下帝国の邪術により自意識を奪われていたイルイをコアに《ゲベル・ガンエデン》を掌握、ゴラー・ゴレム隊を引き連れて決戦に打って出る。

 だが、所詮は借り物の力に溺れたものと負け犬の群れだ。オレたちαナンバーズの敵じゃない。

 キャリコ、スペクトラ、エイスはそれぞれクォヴレーとアーマラ(つまり《メヴィウス》で)、セレーナとヴィレッタ大尉、リュウセイたちSRXチームにより倒され、因果地平の彼方に散っていった。

 もちろん、神を気取ったシヴァーの野郎にもオレがキッチリ落とし前をつけてやった。人様の妹に手を出したのだから当然の報いだな。

 

 なお、バルマー本星は、ついに本格的に活動を開始したイデの寄越した隕石群により壊滅しているが、バルマー星系の住民はシヴァーの手により全て退避済み。サルデス、ヒラデルヒアの両名に保護されていて無事だ。

 不安に駆られる市民を慰撫するために向こうに移ったアルマナは、自分の名代としてバラン、ルリアを残している。

 アルマナを含めた船団の護衛をル・カインが買ってでているんだが、意外なことにアルマナにキチンと敬意を払ってるみたいだ。あれか、地方領主の息子的な立ち位置だから性格がマイルドになってんのか。

 

 シヴァー・ゴッツォ、万丈さん曰く「あなたはもしかしたら、この星を救う人間だったかもしれない」。

 《ガンエデン》の力を過信して晩節を汚したとはいえ、最後は思いの外潔い奴だった。敬意くらいは示しても、いいかもな。

 

 

 

 新西暦一九〇年 ☆月△日

 銀河系中心付近 《ラー・カイラム》の一室

 

 バッフ・クランとの銀河間戦争に終止符を打った。

 端折りすぎ?激戦過ぎて日記書いてる余裕がなかったんだよ。

 

 現在の状況だ。

 地球から進発した銀河殴り込み艦隊は旗艦《ヱルトリウム》を残して壊滅、かなり厳しい状況に立たされている。

 バッフ・クラン軍だが、総指揮官ドバ・アジバが旗艦《バイラル・ジン》と運命を共にしたことで戦意を喪失している。

 ハルル、カララ姉妹がなんやかんやあって和解したのは朗報と言えるだろう。お姉さんの方にはいい

 

 イデの奴め、思惑通りに進まなくてさぞや悔しがっているだろう。

 奴らは「人々の融和」を望みつつ、その一方で争いを助長するようなことをしやがる。矛盾するのがヒトって言ったらそれまでだが、あれはもっと機械的に行動するからタチが悪い。それすらも、この宇宙よりも上位にある誰かの思い描いたものでしかないのに。

 まあこれは、あくまでオレの個人的な所感でしかないんだけどな。

 

 アカシックレコードに定められた大きな流れは、この宇宙に流れ込む因果によってその形を大きく変じさせている。その果てしなき流れの果てに何が待ち受けているのか、それはオレにもわからないが、きっと誰もが想像だにしない、想像を超えた結末が待っているはずだ。

 

 明日、BMIIIと銀河殴り込み艦隊は銀河の中心にたどり着く。

 あるいは、その結末は悲劇でしかないのかもしれない。オレたちは志半ばで宇宙に散るかもしれない。けれど、立ち止まるつもりなんか最初からない。

 使命だとか、運命だとかそんなもん知ったことか。未来を掴みたいというこの衝動は、誰にはばかることもない、オレ自身のものだ。

 イデと、それからこの大戦の黒幕を一発ぶん殴ってやらなきゃ気が済まないってのも、あるけどな。

 

 どちらにせよ、最終決戦はもうすぐだ。

 

 

   †  †  †

 

 

「ふぅ……」

 

 日課の日記を書き終えて、一息つく。

 今この部屋にいるのはオレだけだ。

 エクスはイルイんとこだろうし、アーマラは《エグゼクス》の最終調整に参加している。いくらあれがメンテナンスフリーな機体だからって、整備は疎かにできないし、むしろ明日のために念入りにしないとな。

 

「……」

 

 殺風景な部屋にあって、唯一生活感のある日記帳がずらずらと並ぶ本棚に目を向ける。ちなみに他の私物は地球に置いてきた。

 ほぼ毎日欠かさず続けてきた日記(だいぶ分厚いんだぞ)も十冊を軽く越えている。よく続いたもんだと我ながら感心する。

 というか、オレってそれほど勤勉なタイプじゃなかったんだけどなぁ。

 

「んー……最初から読んでるか? これまでのバビル二世の活躍を振り返る!みたいな」

 

 ――と、思ったがやめておく。

 いろいろあったが、ことここにいたって振り返る必要は感じないし、ましてや後悔なんてあろうはずもない。

 この魂の感じるまま、命を燃やし尽くしてでも戦い抜く。そしてアポカリュプシスを、終わりのない死と再生の輪廻を乗り越えるんだ。

 もし読み返すにしても、その後でいいよな。

 

「さて、と……行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 “BMIII”――バスターマシン三号による宇宙怪獣殲滅作戦、カルネアデス計画の成功をもって大いなる終焉(アポカリュプシス)は終わりを見た。

 

 かつて例を見ないほどの宇宙怪獣の大軍勢を前に絶体絶命の窮地に立たされたαナンバーズを救ったのは、星間連合を構成していた星々、平和解放機構に連なる星々、巨人族、ゾヴォーク、イバリューダー、プロトデビルン、バッフ・クラン軍――銀河中から未来と平和を望み、集結した勇士たちだった。

 宇宙に満ちる、ヒトの意志の力――

 一つ一つは取るに足らぬものであろうとも、その志を束ねたならば逃れ得ぬ運命すら断ち斬る無敵の剣となる。

 それはまさしく無限力――イデの望んだ“融和”の光景だ。

 

「わかったぞ、イデ! お前だって生き延びたいんだよな! 俺達と一緒に!」

「どけぇーッ!! イデの巨神の力を使うぞ!!!」

 

 迷うイデの意志はコスモとの対話でヒトと共に、寄り添って生きることを決断し、その力を解放。銀河の未来を護る守護神として真に目覚めた《イデオン》の光が、災厄の破壊神を撃滅する。

 

「奇跡は起きます! 起こして見せます!」

 

 質量不足により爆縮不全に陥ったバスターマシン三号を起爆すべく、《ガンバスター》が単身中枢に突入。自機の縮退炉。

 宇宙怪獣が押し寄せる中、そこに《マジンカイザー》、《真・ゲッター》、《ジェネシックガオガイガー》、《ライディーン》、《グレートゼオライマー》、《ソルグラヴィオン》、《ガイキング・ザ・グレート》が駆けつけた。

 縮退炉の爆発を引き金に、バスターマシン三号が起爆する。

 

 奇跡は――起きた。

 

 

 

 そして――――

 

 

 

 

 

 特異点の暴走と崩壊により発生した次元空間の乱れに巻き込まれたαナンバーズは、遙か時の彼方、何処とも知れぬ暗黒宙域に投げ出された。

 悲観に暮れつつも、前を向いて未来へと歩むことを決めた彼らの前に、ついに全ての元凶がその姿を現す。

 

『我が名は霊帝……全ての剣よ、我が下へ集え』

 

 霊帝ケイサル・エフェス――

 ファースト・サイコドライバー、ゲベル・ガンエデンのなれの果て。無限力(イデ)から運命を奪取することを目論見、アポカリュプシスによって不安定となった因果を操りさまざまな異常事態を引き寄せた原因。

 那由他の彼方、生と死の輪廻に擦り切れ、宇宙破滅のエントロピーの一部となり果てた根源的破滅をもたらす者。そこにもはや原初の願いなどなく、ただ宇宙の消滅をもたらすだけの空虚な存在だ。

 

『全ての肉なる者たちよ。今こそ土塊の肉体を捨て、新生せよ。さすれば、汝らはあらゆる苦しみから解放されるであろ う。我が名は霊帝ケイサル・エフェス……心を尽くし、魂を尽くし、力を尽くして我を受け入れよ』

 

 その成り立ちと行動目的から「反イデ」とも呼べる存在。

 今、αナンバーズの眼前に現れた黒き人型に怨念が交わった翼を羽織うそれは、知的生命体の怨念「負の無限力」を操るケイサル・エフェスの台座であり、惑星に匹敵するほど巨大な機械体である。

 真理に触れて興奮してまくし立てるエツィーラを目障りだと始末した霊帝は、負の無限力を喚起する。

 

『虚無より来たれ、幾千の怨霊よ』

 

 ケイサル・エフェスの呼び掛けに呼応して、宇宙の深淵から死霊の群れが溢れ出す。

 宇宙空間に穿たれた不気味な闇から《ズフィルード》、《ズフィルード・エヴェット》を始めとしたゼ・バルマリィ帝国の機動兵器が出現。さらに《ヴァルク》シリーズ、《ヴァイクラン》などのゴラー・ゴレム隊の機動兵器や、黒と白の《ジュデッカ》までもが地獄から舞い戻る。

 また、それだけではない。

 《ナイチンゲール》、《ジ・O》、《ギルガザムネ》、《夜天光》、《プロヴィデンス》、《リジェネイト》、《オージ》。《ターンエックス》、《ガンダムヴァサーゴ》、《ガンダムアシュタロン》、《オーバー・デビル》。

 《デビルマジンガー》、《パルパレーパ・プラジュナー》、《ハウドラゴン》、《ベクターゼロ》、《超炎魔竜ファイナルドヴォルザーク》、《ネイキッド》、《テッカマンオメガ》、《ゼラヴィオン》。

 ――バルマー戦役から今日までの戦乱において、αナンバーズの行く手を阻んできた数々の強敵たちが怨念を纏って姿を現す。

 それらを操るのは“ネシャーマ”――魂、霊魂、精神、呼吸、 生き物を意味する正真正銘の怨霊である。

 

『闇の帝王に竜魔帝王、懲りない奴らだぜ!』

『そんな……! ズール皇帝やムゲまで!』

『本人かよ!?』

『いや、あれらはもう負の力に飲み込まれて自意識を失った抜け殻だ』

『だが、その力は本物みたいだね。油断しない方が良さそうだ』

 

 

『孫光龍! あんな邪念の塊に味方するなんて!』

『はははっ、哀れだね! 必死に無限力に抗ったのにもかかわらず、終いにはこんな辺鄙な時間(ばしょ)に残される! これがイデの仕打ちさ!』

『貴様、超機人の役目を忘れたのか!』

『何とでも言うといい。世の中、最後に勝ち残った方が正しいのさ。勝てば官軍、負ければ賊軍ってね!』

 

 

 強敵の復活に少なくない動揺が広がる。

 そしてイングたちの前にも、かつての強敵が姿を変えて現れた。

 

「こいつ……ガンジェネシスか!?」

『否。これなるはガンジェノサイダー、真なる破壊神なり』

 

 《エグゼクスバイン・メヴィウス》と対峙するのは暗黒の破壊神《ガンジェノサイダー》。邪念により黒く染まったクストースを引き連れて立ちふさがる。

 

「ちぃっ、下手なパチモン持ち出しやがって!」

『バビル二世、貴様に宿るバビルの残り香ごと、全次元から葬ってくれよう。世界の未来が開くことは最早無いのだ』

「やってみろよ! テメェを倒して、それで全部終わりだ!」

 

 

 少なくないダメージを負いつつも、《応龍皇》を含めた強敵たちを撃破するαナンバーズ。

 たが、ケイサル・エフェスの司る負の無限力により怨霊は何度でも甦る。無間地獄のような終わりの見えない死闘に追い詰められ、疲弊していく。

 輪廻の果てに宇宙破滅のエントロピーと一体化した霊帝は、生命の持つ負の感情を取り込み力に変え、負の感情が存在する限り尽きることのない力と再生と復活を遂げることが可能である。

 相対するαナンバーズの負の感情すら吸い上げ、さらに負の無限力の使徒が広げた銀河大戦、そして霊帝自身が起こした破壊活動による負の連鎖が更に力を与えるという悪循環が発生する状況に陥った今、霊帝を完全に消し去ることは不可能だ。

 もはや全てが破壊し尽され、滅び去らない限り倒すことはできないだろう。

 

『イング、私も戦います』

「イルイ? いや、ナシムか!」

 

 仲間の窮地を受け、無限力にアクセスして《ナシム・ガンエデン》を召喚したイルイ=ナシムが参戦する。

 地球の守護神《ガンエデン》の力は健在で、怨霊をなぎ倒していく。

 けれども、負の無限力、宇宙のマイナスエネルギーそのものとも言える存在となったケイサル・エフェスの力は絶大であり、文字通りの無限だった。

 

『く、うう……! この負の想念、すでにイデを超えている!?』

『そうだナシム、幾億万那由多の果てに我はついに(しん)なる全知全能となったのだ! 貴様らを滅ぼし、然る後忌々しい無限力(イデ)をあらゆる次元から消し去ってくれよう!!』

 

 原初の目的を失い、無限力(イデ)に対する憎しみだけが膨れ上がったケイサル・エフェスはついに宿願を達成しようとしていた。

 

 《エグゼクスバイン・メヴィウス》と《ナシム・ガンエデン》、究極の念動兵器の攻撃すらケイサル・エフェスの“負の衣”を破ることは叶わない。

 霊帝と《ガンジェノサイダー》、《ゲベル・ガンエデン》の猛攻から主を護って、《アキレス》らみっつのしもべが次々に大破する。

 武装と戦闘力の大半を失いながらも、《エグゼクスバイン・メヴィウス》は奮闘する。しかし力及ばず、その命運は尽きようとしていた。

 

『よくぞここまで戦い抜いた、運命(さだめ)の戦士たちよ。死に逝く諸君らにせめてもの手向けとして、母なる星とともに銀河に散ることを赦そう』

 

 恐るべきは霊帝の負の無限力。発生させた極大のブラックホールにαナンバーズを強制的に引きずり込み、彼らを還るべき場所――地球圏へと誘う。

 霊帝の振りまく怨念が地球圏を汚染し、阿鼻叫喚の渦が発生する。絶望を、恐怖を、憎しみを、悲しみを――負の感情を喰らい、怨霊が力を増していく。

 

『このままでは……! せめてこの身に代えてでも、ゲベルを止めます!』

 

 イルイの身体を借りたナシムが、イングを、そして地球を護るために霊帝へと決死の特攻をかける。

 かつての主を庇う《ゲベル・ガンエデン》。《フォロー・ザ・サン》と《キャッチ・ザ・サン》、二匹の巨竜が正面から激突した。

 爆散する二柱の《ガンエデン》。イングは目を見開いて妹の無事を叫んだ。

 

「ッ、イルイ!」

「わたしは、だいじょうぶ……ナシムが逃がしてくれたの。でも……」

 

 イングの膝の上、ナシムの意志により強制転移させられたイルイは目尻に涙を浮かべて、《ガンエデン》の残骸に目を向ける。すでにそこには、ナシムの意志は残っていない。

  かつては身体を乗っ取られ、操られた相手だったが、それでもイルイはナシムを許していた。彼女の平和への祈りと地球への愛は本物だったと一番知っているから。

 

『さあ、我が手で滅ぶ地球とともに破滅を享受するのだ、運命(さだめ)の戦士たちよ。だが、恐れることはない。そなたらに待ち受ける死とは即ち究極の平穏――全てが無に還れば、恐怖、怒り、憎しみ、悲しみなどという感情を感じることなど、永劫なくなるのだから』

 

 かつての同士を始末したケイサル・エフェスは、αナンバーズに最後通牒を突きつける。

 

『天よ聞け! 地よ耳を傾けよ!』

 

 漆黒の機械体の頭部が迫り出し、口ぶの先に一二芒星の魔法陣が虚空に描かれた。宇宙破滅のエントロピーが物理現象を伴って顕現する。

 

『恐れよ! 竦め! そして泣き叫べ! 我が名は霊帝ケイサル・エフェス! そなたらをまつろわす全知全能の神なり!!』

 

 全ての生きとし生ける者への見せしめとして地球を消滅させるべく、霊帝が喚起させた銀河に蔓延する怨念、マイナスエネルギーの固まりがおぞましい邪光を放つ。

 その余波がコロニーに被害を与え、地上に降り注いでは阿鼻叫喚の地獄絵図を作り出す。

 碧き星、地球消滅のカウントダウンが刻一刻と進む。

 霊帝の恐るべき権能により、その様子は時空間を超越して全銀河の人々に見せつけられていた。リアルな恐怖感を伴って。

 

 銀河に蔓延する絶望。

 今、絶対的な運命()を前に、幾多の困難を乗り越えた歴戦の勇者たちですら膝を屈しようとしていた。

 だが、それに抗うものがいた。

 

「諦めるな!」

「諦めたら全部おしまいです!」

「まだ戦えるなら、力尽きるまで戦おう! 私たちはそうやってここまで来たはずだ!」

「ヒトは諦めない限りなんでもできる、わたしはそう信じてる! だから!」

 

「オレは……オレたちは諦めない! 命ある限りッ!」

 

『そうだ諸君ッ!! 諦めるにはまだ早いッ!!』

 

 雷鳴のような一喝が宇宙に轟く。

 地球から《ヴァルシオン》率いる地球連邦軍の大艦隊が来援し、またゾヴォークの将軍、ゼブリュースらの呼びかけにより全銀河から集結した勇士たちが続々と地球圏にワープアウトする。その中には、アルマナらバルマーの人々の姿もあった。

 さらに、《マクロス》に乗艦したリン・ミンメイからのメッセージが届く。

 元ドクーガ三将軍、ブンドル・ド・メディチの指揮の下、《マイクサウンダース十三世》の兄弟たちがバックオーケストラを勤める大合奏団が演奏を開始した。

 

 宇宙が鳴動を開始し、無限力に導かれたαナンバーズは邂逅する。

 ――シャア・アズナブル、イングラム・プリスケン、巴武蔵、獅子王夫妻、兜剣造、司馬博士、相羽孝三、相羽シンヤらアルゴス号のメンバー、ハイネルとリヒテル、銀貴、トレーズ・クリシュナーダ、ロス・イゴール、岡長官――

 その生命を全うし、木星のザ・パワー……真理にたどり着き無限力と一体となった有名無名の英霊たちが、αナンバーズに、この決戦場にたどり着いた勇者たちに語りかける。

 

『この流れ……この歌、そうこの歌だ……幾億万那由多の輪廻で我を悉く阻む最大の障害! アニマスピリチュアッ、我が大望は邪魔させぬ!!』

 

『そいつはこっちのセリフだぜ!』

『ケイサル・エフェス! これ以上、貴様の身勝手なエゴにつき合うつもりはない!』

『バサラの、みんなの歌の邪魔はさせないぞ!』

 

 “歌”を阻止しようと、その中心たる《ファイヤーバルキリー》に迫るケイサル・エフェスに対し、《マジンカイザー》、《HiーνガンダムHWS》、《真・ゲッターロボ》がその進路を阻む。

 彼らの決死の攻撃により、ケイサル・エフェスが初めて明確なダメージを受けて揺らいだ。

 

『行くぜ、悪霊ども! 俺の歌を聴けーッ!!』

 

 「GONG」――バサラとミンメイ、ミク、ラクスやエイーダ、イヴ、カヲルらが協力して作成した“生命の賛歌”。運命(さだめ)に立ち向かうため、終焉の銀河へと旅立つ戦士の心情を歌った雄壮で壮大な凱歌である。

 

『鳴らすぜ、生命のゴングを!!!』

 

 ――どこかのコロニー。歌姫に憧れる少女が、宇宙を見つめてその音を歌う。

 ――とある移民船団。歌姫に成りうる少女が、空を見上げてその詩を詠う。

 ――また別の移民船団。歌姫を目指す少女が、都市の片隅でその歌を唱う。

 

 メキボスとゼブ、平和解放同盟の采配により銀河中に届けられた“歌”。人々はその壮大なメロディーと勇気ある詩に惹かれ、誰もが自然と口ずさむ。

 地球で、月で。どこともしれない星々で。遙かなる銀河で。

 惹かれ合う音色に理由などいらない。胸にわき上がった熱き思いが天を貫く。

 魂の赴くまま、生命のゴングを鳴らした。

 

 

「本当の戦いはっ――!」

 エクスの可憐な声が。

 

「本当の戦いはッ――!!」

 アーマラの凛々しい声が。

 

「本当の戦いはッ――!!!」

 そしてイングの勇ましい声が。

 

 

「「「本当の戦いはここからだッッッ!!!!」」」

 

 三人の声が重なって、奇跡の凱歌を銀河に上げた。

 αナンバーズの、全銀河の人々の諦めない心――無限の光。それが全てのヒトの魂の歌に乗せられて地球へと、太陽へと集まっていく。

“太陽は昇る”――地球の影から、一筋の輝きが空亡(くうぼう)を斬り裂いていく。

 輝く日輪。恒星に秘められた神秘の力が暗黒の宇宙を照ら出し、アキレス、ガルーダ、ネプチューン――傷つき倒れたみっつのしもべが、緑、青、赤の輝く風となって《エグゼクスバイン》を包み込む。

 みっつの風は、バスターマシン三号の発動により宇宙に満ちたザ・パワーと、生者死者を問わない人々の祈りを巻き込んで一つの巨大なうねりを生み出していく。

 それは“運命”だった。

 

『ヌゥ……!? この力、我が負の無限力を、死霊どもを奪うこれは、一体なんなのだ!』

 

 負の存在であるはずの死霊が光の直中に集まっていく様に、霊帝は困惑する。

 皆、生きたいと願うことには変わりない。それは死霊怨霊に堕ちたものたちとて同じこと。偉大なる太陽の輝きが怨念を癒し、正しき輪廻の輪の中へと――次なる世界へ導くのだ。

 

『これは、超神……?』

『ユーゼスが追い求めた光の巨人か……まさか、この目で拝むことになるとはな』

 

 風が四散し、大いなる光を纏って不死鳥の勇者(エグゼクスバイン)が再誕を果たす。

 その姿はまさしく、“ヒトの姿を取った光”と呼ぶに相応しいものだった。

 バイザーを取り払り、グリーンの瞳を露出させた《エグゼクスバイン》のフェイスに王冠のような八本の角を持つ頭部。胸部には結晶化したヒヒイロカネが輝き、上半身の青系から下半身の赤系へとグラデーションする紫の体色、全身に神秘的な光のオーラを纏い、身体の各所にある裂け目から虹色の光を放つ。

 無限の愛と無限の勇気を携えて、無限の力、希望により絶望を駆逐する究極の一(アルティメット・ワン)がここに光臨する。

 

『ク、虚仮威しを! 地球諸共消し去ってくれる!』

 

 再び喚起した負のエネルギーが、邪悪な光条となって光の巨人に向けて放たれた。

 地球を滅ぼして余りある破壊光線はしかし、光の巨人が無造作に掲げた右手に阻まれ、押さえ込まれ、そして呆気なく霧散した。

『ば、馬鹿な!?』霊帝が驚愕の声を上げる。

 

「ナシム……! もう一度だけ、私に、みんなに力を貸して……!!」

 

 光に満ちた心臓部(コクピット)、イングの膝の上でイルイが懇願する。

 光の巨人の背に六対一二枚の黄金の翼がまばゆい光とともに生じると、相打ちとなった《ナシム・ガンエデン》、《ゲベル・ガンエデン》の残骸から光り輝く二匹の巨竜が現れた。

 それは《ガンエデン》に宿っていたナシムの魂が姿を変えたものであり、《ガンエデン》に残されていたゲベルの捨て去った人間性が変じたものだった。

 

「今ここに、正と負の力が交わる! テトラクテュス・グラマトン……!!」

 

 イングが聖句を唱え、光の超神が翼打つ二匹の巨竜をその身に(よろ)う。

 全身各所に翠緑のクリスタルを配した黄金の鎧「サンライザー」、その中心には王者の石「グリタリングエナジーコア」が虹色に輝き、背から二本一対の白い尾が、両肩に竜の頭部を思わせる結晶を備える。そして左右の腕の手甲には《ナシム・ガンエデン》、《ゲベル・ガンエデン》の顔を象った蒼と紅の水晶が煌めく。

 そしてその瞳は、赫耀と燃えさかる太陽の紅と優しく広がる宇宙の蒼――二色のオッドアイへと変化を見せる。その色合いはイング、アーマラのそれに酷似していた。

 

『獣の血、水の交わり、風の行く先――そして火の文明を経て、太陽の輝きがこの銀河(じだい)を包む……だけどこのシンカは、これまでのそれとは違うようだ。ビッグ・ファイアは、ここまで予期していたのかな?』

 

 《参号機》のエントリープラグ内、LCLに包まれたカヲルがぽつりとこぼす。その表情はいつものアルカイックスマイルではあったが、それは心底から浮かべた笑顔だった。

 

 ――人間は生命体であり、そこにはどんなに進化しても消えることのない本能、そして生まれ育った大地への執着たる 「獣の血」が流れている。

 ――そして、それを持った人間は己と異なるダレカ、他のナニカを受け入れることを知り、心を通わせることで、澄み渡る「水の交わり」に至り、さらなる一歩を踏み出す。

 ――踏み出した人間は、まるでドリルで掘り進むように新たな 場所を、ものを切り開き、螺旋を描くようにして進化して いく。その辿り着く先は、「風の行く先」のように不確かで、定められていない。

 ――しかし、どんな道を辿ろうと、進化を続ける限り人間は文明に至る。螺旋の力によって発展を続ける文明は、やがてプロメテウスに準えられる「火の文明」を実現し、その力によって大地を離れ、宇宙へと生活の場を求める。

 ――過酷な環境で生きていくために人は誤解なき相互理解を求め、獣が鳥にシンカするように、その本質そのものの変革 を迫られる。

 ――それを乗り越えた先に、人は全ての始まりにして終わりたる真理を、まるで「太陽の輝き」のように明らかなものと して知る。 そして、人はシンカを遂げ、神となるのだ。

 

『ともあれイング、キミたちの成したことは僕らの想像を遙かに超えていった。おめでとう、奇跡は果たされた』

 

 銀河全ての生命が歌う凱歌、その雄壮にして壮大なメロディーに身を任せ、“自由の使徒”は人類の自由なる未来を祝福する。

 

『ふふっ、ここであえて言わせてもらおうかな。……やっぱり歌はいいねぇ、心を燃やしてくれる。ヒトの生み出した文化の極みだよ』

 

 

 人々は願う。絶望の淵に墜ちたとき。抗い難い困難に直面したとき。

 “いろいろあったが神が出てきて解決した。”

 これこそが、最後の希望。

 滅びに傾いたものたちが、絶望の闇の中でそれでもどこかで解決できるものがいるはずだと(こいねが)う。

 そしてそれを成し得るのは、いつだって“ヒーローだ。

 ただの人間が、血を吐きながら誰かの命を、未来を護るためにヒトでない何かに生まれ変わり、ヒトとしてその力を自分以外の誰かのために振るう。

 ここに集う彼ら一人一人こそが“英雄(ヒーロー)”。

 そして、彼らをこの場、この時、この瞬間へと導いた少年(イング)はついに、ヒトではない何かに到達した。

 生きたいと願う全ての者を救う救世(ぐぜ)の化身。絶望の淵にいてなお、諦めることのない人々の希望が生み出した、絶対無敵のご都合主義(デウス・エクス・マキナ)――――

 

 それは鋼の勇者たちが紡いだ『巨人の神話(サーガ)』――その集大成にして、人々の絆が生み出した心の光そのもの。

 それは人々の祈りが生み出した『最後の希望(インフィニティ)』――光のオーロラを身に纏い、ありとあらゆる奇跡を起こす創世の王。

 それは正と負の力を備えた『太陽の化身(ソーラレイカー)』――聖邪善悪……対立する二つの要素をその身に宿す、唯一無双の超絶戦士。

 

 三人のファースト・サイコドライバー――バビルの“知恵”、ゲベルの“力”、ナシムの“心”が一つとなって生まれた黄金なる超神《エグゼクスバイン・メヴィウスインフィニティ》。

 上位世界――“神”の世界の魂を持つイングに、バビル二世に相応しい姿へと神化(シンカ)を遂げた《エグゼクスバイン》の究極最終形態(ウルティメイト・ファイナル・スタイル)が、混沌の闇を貫き顕現する。

 その力、その姿はイングが脳裏に描いた“究極のヒーロー”を象っていた。

 

『おのれ、バビル二世!! 貴様に死霊どもを奪われようとも、我が負の無限力は健在なり!!』

 

 激するケイサル・エフェスは無限力を喚起し、死霊(ネシャーマ)を呼び寄せる。

 対する《エグゼクスバイン》は、胸部のグリタリングエナジーコアから黄金の光を放射する。

 そのとき、()()()()()()が起こった。

 

『な、何だと!?』

 

 放たれた黄金の輝きは宇宙を満たし、ネシャーマの現出を食い止める。

 さらには傷ついたαナンバーズの仲間たちを癒し、限りない気力とかつてないほどの活力を与えていく。

 

『この光、νのサイコフレームが反応している?』

『あの時感じた太陽の念が、暖かい思念が宇宙を満たしていく……』

『さっすが! イングさん、やることがド派手だねっ』

 

『マサト君、見て! 星が――』

『星の流れが逆行している……まさか、時間を巻き戻しているのか?』 

 

『ええっ!? に、ニルヴァーシュ、形がまた変わってるよ!?』

『レントン、ニルヴァーシュがこれならもっと頑張れるって張り切ってる。やろう!』

『う、うん!』

 

『ラーゼフォンとベルゼフォンが神聖した……? 俺たちはヒトのままなのに』

『綾人……』

『ああ。ヒトのまま、ヒトとして戦えってことか。優しい神様だな、イングは』

 

『サイバスターが勝手にポゼッションしたぜ!?』

『ヴァルシオーネの方も完調だよっ!』

『完聖したサイコドライバーの力がこれほどまでとは……いえ、彼らはそれすらも超越したということでしょうか』

 

 

『くぅぅぅぅっ! 最終決戦にこの展開! さらに三人の戦士(トリプルファイター)の誕生たぁ、燃えに燃えるぜ!!』

『……何の話だ?』

『なるほど。コロナの果て、緑の城、ということだな、リュウ』

『おっ、マイってばマニアック~。それってリュウセイの入れ知恵?』

『うん』

『イングの奴、いつも趣味に走ってるけど今回のは格別だよな』

『確かにね。超合体劇場版!って感じ?』

『あなたたち、真面目にやりなさい』

『そうね。まだ戦闘は終わってなくてよ、ノリコ』

 

 

 イングの魂と完全に同調した《エグゼクスバイン・メヴィウスインフィニティ》は源理の力(オリジン・ロー)を自在に操り、また森羅万象の遍くを例外なく統べ、そして下位次元のありとあらゆる原理・法則に縛られない。

 これこそが、かつてユーゼス・ゴッツォの生み出した「クロスゲート・パラダイム・システム」の完成型――いや、それすら超える“神”のシステム。

 もはや彼らにとって奇跡は奇跡ではなく、実現できぬことなどありはしないのだ。

 

 黄金なる日輪の出現とともに士気を取り戻したαナンバーズと全銀河連合軍が、未だ現世(うつしよ)に居座る死霊の群れを相手に激闘を繰り広げる中、黄金の超神が漆黒の邪帝と対峙する。

 《エグゼクスバイン・メヴィウスインフィニティ》が、ケイサル・エフェスに人差し指を突きつけた。

 

「最後の最後で墓穴を掘ったなッ、ケイサル・エフェスッ!」

『何ッ!?』

「貴様が私たちをこの時代、この地球圏に(いざな)ったことで勝敗は決した!」

「わたしたちには、たくさんの仲間たちがいます。あなたなんかには負けませんっ!」

 

『グゥゥゥゥッ! やれ、ジェノサイダー! あの目障りな光を消し去れ!』

 

 けしかけられた《ガンジェノサイダー》が、負の想念を迸らせて《エグゼクスバイン》に迫る。

 

「無駄だ!」

「ナシム、ゲベル……! みんなの未来のために、いっしょに戦おう!」

 

 イルイの祈りを合図に、“古き人祖(ガンエデン)”を象徴する腕のエレメントが分離、それぞれ細部の異なる黄金の柄と鍔、クリスタルで構成された刀身を持つ二振りの剣に姿を変えた。

 雌雄剣《ナシム》、《ゲベル》。

 ファースト・サイコドライバーの強念と人造神《ガンエデン》の力により、銀河一つ分にも匹敵する正負の無限力を剣の形に凝縮した神器である。

 

 一対の双剣からプラス、マイナスのエネルギーが放出され、一つに交わる。

 

「邪念だけの存在は去れ! サザンクロスッ!!」

「「「ソォォォォルッッ!!!」」」

 

 ありとあらゆる次元に存在する人々の心と繋がった光神の心臓(オウル・レヴ)、そこから無尽蔵のエネルギーを供給された二振りの剣が一閃する。

 繰り出される必滅の一撃。《サザンクロスソール》が直撃し、《ガンジェノサイダー》は抵抗することもできず葬り去られた。

 

「決着をつけるぞ、ケイサル・エフェスッ!!」

 

 雌雄剣を再びエレメントに戻し、《エグゼクスバイン》が輝くオーロラと無限の強念を纏う。

 翼を広げる黄金神の後ろから、幾つもの機影が駆け抜けていった。

 

『ケイサル・エフェス、覚悟!』

『四神の超機人、真・龍虎王が霊帝を討ちます!』

 クスハ・ミズハ、ブルックリン・ラックフィールドと地球の守護者《真・龍虎王》――

 

『銀河に消えろ、ケイサル・エフェス!!』

 トウマ・カノウと闘志の巨人《大雷鳳》――

 

『ケイサル・エフェス! 貴様を倒すのはどの世界でも、俺たちαナンバーズだ!!』

 クォヴレー・ゴードンと黒き銃神《ディス・アストラナガン》――

 

『ケイサル・エフェス、お前を倒せば全てが終わる……そう、私の復讐もね!』

 セレーナ・レシタールと麗しき幻影《ASアレグリアス》――

 

 そして、鋼の戦神《バンプレイオス》、風の魔装機神《サイバスター》、凶鳥を継ぐもの《ヒュッケバインMkーIV》――長きに渡る大戦に終止符を打つ鋼の巨人(スーパーロボット)たちの競演。

 それぞれがそれぞれの想いを必殺の一撃に込め、霊帝に、ケイサル・エフェスに叩き込んでいく。

 未だ健在の負の無限力により無限再生する霊帝だが、猛攻に次ぐ猛攻で復活が追いつかない。

 

「行くぜ、みんな! TーLINK、トリプルコンタクト!」

「了解だ、イング! 数価変換ッ、ゲマトリア修正! オウル・レヴ、フルドライブッ!!」

「アスラ・システム正常稼働っ! ラプラスコンピュータでアカシックレコードを観測、事象の書き換えを開始します!」

「目覚めてガンエデン! 今こそ、テフェリンの解放を!」

 

 左右に巨竜の幻影を従えた《エグゼクスバイン》の胸部に、額にエナジーコアを備えたオッドアイを持つ竜型の宝具が生成された。

 

「天を行く星座が作り出す十二宮……その軌道は、恒星の放つ次元力の軌跡に等しい。星々の輝きに呼応したヒトの意志、強念が霊子を動かして次元力を統べるんだ」

 

 《エグゼクスバイン》の全身から光が放たれ、四大属性に月と太陽、十二星座のシンボルを配置した黄金の魔法陣が後背に描かれる。

 《ガンエデン》の幻影は、二つの太陽を召喚して結界を形成してケイサル・エフェスを封じ込む。顎門(あぎと)を開いた竜頭の咥内に、まばゆい光が瞬いた。

 

「大いなる太陽に集約された、オリジン・ローの輝きを受けろ! トリニティ・ザ・サンッ!!」

「マキシマム・シューートッ!!!」

 

 音無き咆哮とともに竜の頭部から放たれた金色のブレスが巨竜の放った二本のブレスと一つに交わり、一つの巨大な光の柱となった。

 ケイサル・エフェスを飲み込んだ光柱は銀河を縦断し、何十万億光年の彼方へ突破していく。だが、あたかも偶然のように星々はその射線上に存在しない。

 因果律の操作による事象の改竄――それすらも、《メヴィウスインフィニティ》の権能の一端でしかなかった。

 

『グ、ォォォオオオ!? わ、我が神の盾が、負の衣がはぎ取られる?!』

「続けて食らえ! 機神ッ、絶掌!!」

 

 太陽の輝きにより大打撃を受けたケイサル・エフェスに、《メヴィウスインフィニティ》が光を引いて肉薄する。

 七色の煌めきを発する左右の拳による無数の連打の後、強烈なかかと落とし。揺らぐ巨体に向け、さらにエナジーコアから生成したまばゆいばかりに輝く光球――極小の太陽を撃ち放つ。

 恒星のエネルギーを凝縮した極光が炸裂した。

 

「お兄ちゃん、ここだと地球が危ないよ」

「だな。よし、場所を変えるか!」

 

 イルイの言葉に肯くイング。操縦桿に当たるクリスタル状の球体を強く握りしめる。

 《エグゼクスバイン》を統括するアスラシステムは、システムを介して搭乗者同士(イングとアーマラ)の意志を繋ぎ、機体(エクス)にダイレクトに伝える。故に、イングの考えは言葉を交わさずともアーマラと、そしてイルイにも伝わるのである

 

「用意はいいか!」

「はいっ、リミット解除! オウル・レヴ最大解放ですっ!」

「相変わらず無茶ぶりを……が、それがお前か。アスラ・システム、完全同調!」

「よっしゃあ! オレたちなら進める!」

 

 《エグゼクスバイン》のオッドアイが紅と蒼の光を放つ。

 眼前に掲げた右の拳に三重の強念を込め、光の速さでケイサル・エフェスに再度肉薄した。

 振りかぶる右手。強念が迸る。

 

「これがオレたちのッ、自慢の拳だぁぁぁああッッ!!」

「ハイパァァァッ!!」

「TーLINKっ!」

 

「「「ナックル!!!」」」

 

 三人の念とともに、全力の右ストレートが放たれた。

 

「「はあああああッッ!!」」

「「いっけーっ!!」」

 

 “座”たる機械体に突き刺さる拳。あふれ出す黄金の粒子。

 そこに込められた純粋無垢なエネルギーはケイサル・エフェスの機械体を破壊するだけに留まらず、その巨体を彼方へと押し出した。

 

 

 殴り飛ばされたケイサル・エフェスは、銀河を飛び越え――膨張する宇宙の最果て、事象の地平にたどり着く。

 次いで、《エグゼクスバイン・メヴィウスインフィニティ》が超光速で現れる。

 光も届かぬこここそが、超神と霊帝――宇宙開闢から連綿と続く光と闇、善と悪、正と負、希望と絶望による争いの行き着く先、終着点だ。

 

「ここなら全力でやれるぜ!」

『馬鹿め! 仲間の援護を自らを捨てるとは!』

「何を言っている? 貴様にも聞こえるだろう、銀河を、この宇宙を揺るがす生命の歌が!」

「心に光が輝く限り、わたしたちは絶望なんかに負けません!」

「どれだけ遠くにはなれてたって、みんなの想いは届いてる。わたしたちを助けてくれる!」

「ケイサル・エフェス……いや、ゲベル・ガンエデン! お前に思い出させてやる! 生命の尊さを、そしてこの宇宙の偉大さを!!」

 

 啖呵を切って、《メヴィウスインフィニティ》が黄金の翼を羽撃く。

 物理が物理を生じる弱々しいエネルギーなど、それの内側に蓄えられた思惟の複合体――、そこから無尽蔵に生じる力に比べれば影絵にも等しい。

 全身から溢れ出す黄金の光を推力に変え、虹色に煌めく燐光が筋を引いた。

 人々の願いと祈り、無限なる心の光が込められた生命の歌――「GONG」が銀河に鳴り響く中、全てのヒトの愛と勇気と希望を背負った《エグゼクスバイン・メヴィウスインフィニティ》に、負ける可能性など那由多の彼方だ。

 

『古の白き祭壇よ……!』

「オオオオ――――!!」

 

 破壊された機械体を脱ぎ捨て、巨大化したケイサル・エフェス本体――黒い人型に頭二本の角、三つの目、六本の腕を持つ黒き異形を、黄金神《エグゼクスバイン》が真っ向から迎え撃つ。

 事象の最果て――、絢爛豪華たる光の勇者と悪しき幻想の化身が壮絶なる死闘を繰り広げる。

 

『無限力による死と再生の輪廻、それを乗り越えるには肉の器を捨て去る他術は無いのだ! 何故それが解らぬ!』

「それは逃げだよ、ゲベル!」

「生きることを自ら放棄した先に、未来などあるはずがない!」

「オレたちは生きてるんだ! 生きていれば、辛いことも、悲しいことも、苦しいことだってある……だけど、それが生きるってことなんだよ!」

 

 光速を遙かに超え、次元時空を置き去りにした神々の最終戦争。

 霊帝が、反転した生命の樹(クリフォト)の描かれた符を媒体に天文学的数値の知的生命体の怨念を喚起して、光も逃さぬ終焉の銀河へと誘う。それを三重の超念動フィールドと身に纏うオーロラエフェクトにより耐え抜いた超神は、左右のエレメントから刃を持つ光輪を生成、無数に分裂させて投射する。

 拳打の応酬。放たれた閃光が空間を穿ち、繰り出す斬撃が次元を切り裂く。

 ケイサル・エフェスが闇黒を利用してテレポートを繰り返せば、《エグゼクスバイン》が光を超越した神速法(アクセラレイター)で対抗する。

 真っ向からぶつかり合う正と負の力――《メヴィウスインフィニティ》による保護がなければ、宇宙はその余波で瞬く間に消し飛んでいただろう。

 

『ならば、貴様は生きる意味があるというのか! 殺意と悪意に狂い、悲劇が()まぬ地獄のようなこの世界で!』

「そんなもんあるかよ!」

「生まれること、生きること……ただそれだけですばらしいことなんだって、わたしはαナンバーズのみんなから教わった!」

「もしも生きることに、命に意味があるとするなら。それは想いを、絆を未来に繋げていくことだ!」

 

 ちゃぶ台を返すイングとイルイの心からの叫びを引き継いで、アーマラが超然と言い返す。

 無限力により虚空から生成した橙色の長銃《ゴッドオメガ》を腰だめに構え、放たれた《日輪天照破》――無限の力、日輪の輝きが霊帝に直撃し、邪念の闇を焼き尽くした。

 

『バルシェムの分際が命を語るか! 人形は人形らしく、身の程を弁えよ!』

「だからどうした! この身が紛い物の命だとしてもッ、私の心に浮かぶ全ての情景は、誰にはばかることのない私自身の本物だッ!」

「ただの機械でしかないわたし(エグゼクスバイン)にだって、平和を願って生み出されたことがわかります! そしてその想いを、次の時代に繋げていくことだってできるはずです!」

 

 繰り出す拳打に、剣戟に万感の想いを込めて――

 霊帝の尽きることのない怨念から生成された無数の《ズフィルード》に対し、次元時間(せかい)を超越して無限に駆けつけた《メヴィウスインフィニティ》の平行存在が、光を纏った跳び蹴りで文字通り蹴散らしていく。

 

「光は絆だ! 例え絶望の闇に墜ちたとしても、いつか必ず誰かに受け継がれて再び輝く!」

 

 《エグゼクスバイン》本体が繰り出す捻りを加えたキックが霊帝に直撃。さらに、エナジーコアから引き抜いた光の剣を突き刺す。

 《リボルスパーク・ファイナルエクスプロージョン》――オウル・レヴが発する光エネルギーがエナジーコアによって増幅された太陽の次元力、それを体内に直接に送り込まれたケイサル・エフェスは、甚大極まるダメージを負う。

 

 ――がんばれ、イング君!

 ――負けるな、イング!

 ――アーマラ、わたくしたちも戦います!

 ――一緒に宇宙の先を観よう、イルイ!

 ――勝って!

 ――俺達がついているぞ!

 

 

『お、おおおおおおお!? 何故ッ、何故だ!? 何故(われ)がッ、万物を支配し圧する霊帝たる()が力が通用しないのだぁぁぁッ!!?』

「オレたちサイコドライバーの力は、理不尽な運命にも抗い、けして希望を捨てない人たちのためにある! それを忘れたお前が、オレたちに勝てるはずがねェんだよ!」

「命は一つだよ! 誰にとっても!」

「だからわたしはがんばりたいんです! みんなと力を合わせて! それが無限の力になる素だって信じて!」

「オレたちは生きるために、全力を尽くす!!」

「“努力”に!」

「“根性”!」

「“ド根性”!」

「“友情”!」

「“熱血”!」

「“愛”と!」

「“勇気”!」

「“闘志”を燃やして!」

「“ひらめき”、“集中”!」

「“鉄壁”のガードを固めて!」

「“直感”信じて狙いに“必中”!」

「“魂”ッ、“覚醒”!」

「“絆”と“夢”と!」

「“幸運”だって大事です!」

「私たちは戦う! 私たちは生きる! ここに生まれたからには! 生まれてしまったからにはッ! 命の限り精一杯に生きて、“希望”を次の未来に繋ぐんだッ!!」

 

『黙れッ! 黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇえいッ!! そんなもの、何の役にも立たない綺麗事だッ!!』

「そうだよ、綺麗事だ! でも、だけどッ、綺麗事が一番本当だから現実にしたいんだろッ! 心の光を忘れなければ、ヒトは誰だって英雄(ヒーロー)になれるッ! どんな“奇跡”だって起こせるんだッ!!」

 

 万感の想いを込め、イングが吼える。精神が、広がる心が生み出す無限の力が《エグゼクスバイン・メヴィウスインフィニティ》からさらなる力を引き出し、限りない輝きを与える。

 地球圏に残り、怨霊たちと戦っている仲間たちの声援を翼に受け止めて――――

 

「これでフィナーレだッ! TーLINKトリプルコンタクト! 天よ地よ、森羅万象の全てよ! アカシックレコードッ――、アクセスッ!!」

「オウル・レヴ、マキシマムドライブ! 閃光(ひかり)を放ち、暗黒(やみ)を切り裂け、エグゼクスバイン!!」

「食らえ、この光っ!!」

 

 遙か彼方で戦う仲間の、そして平和を祈る人々の声援を受け、光の超神が黄金の翼を広げて飛翔する。

 また、それに対抗するように、霊帝がどす黒い邪念を全身にたぎらせた。背後に、朱い邪光でクリフォトを象徴した巨大な魔法陣を描き出す。

 

「「はぁぁああッ!!」」

 

 イングとアーマラが裂帛の気迫とともに、《メヴィウスインフィニティ》が翼を羽撃いた。

 突き出した右足に竜頭の宝具を呼び寄せ、再び現出した巨竜の幻影を伴って突撃する黄金の超神(エグゼクスバイン)。眼前に描かれた金色に輝く魔法陣の中心に突入すると、周囲の光の輪を無数の円環として残して法陣ごと加速する。

 

『オオオオオオオ!!』

 

 霊帝もまた全身の邪念と怨念とを込め足先に集め、邪気をまき散らしながら突撃した。

 両者、真っ向から相対する。

 

「光を越える希望への一撃! ストライク・インフィニティ・エンドッ!!」

 

 激突する《メヴィウスインフィニティ》と、ケイサル・エフェス。宇宙が大いに揺れ、次元が悲鳴を上げる。

 わずかな間拮抗していた両者のパワー はしかし、《エグゼクスバイン》に軍配が上がる。ついに竜頭が、イングたちの光が霊帝の魂を捉えたのだ。

 

『フ――、フフ、フハハハハハハハハハッ!! 見事だ、バビル二世!! 我は滅びる! だが忘れるな、この宇宙を縛る因果の鎖が断ち切れぬ限り、我と負の無限力は何度でも現れるのだ! 無限力の覚醒とともに!!』

「そうかよ! だったら、こうするまでだッ!」

 

 金光に邪念を消し去られながらも呪詛を残そうとするケイサル・エフェス。それに対してイングはさらに念を発揮した。

 ドラゴンヘッドと黄金の魔法陣をケイサル・エフェスに叩き込んだまま、錐揉み回転する《エグゼクスバイン》。思惟の推力が、霊帝を押し込んでいく。

 

『おおおおおおおああああーッ!!?』

「でやあああああああッ!!!」

 

 事象の地平をたった光が銀河へ、地球へと一直線に伸びていく。

 

 ――――気の遠くなるような距離を一瞬で踏破して地球に飛来した彗星は、衛星軌道上に描かれた虹色の魔法陣に正面から衝突した。

 爆発する正負の無限力。宇宙創世、ビッグバンをも超越する途方もないエネルギーが炸裂する。

 完全制御された大爆発の中から、《エグゼクスバイン》が飛来する。翼を広げ、慣性を一瞬でゼロにした超神は振り返り、碧き地球を背にした。

 

「やっぱ、グランド・フィナーレはみんなで決めなきゃな!」

 

 そう高らかに宣言するイング。正と負の無限力、その究極を受けて姿を保てなくなった霊帝は、始め現れたときのような“卵”の形で衛星軌道上にたゆたっている。

 今はまだ、地球を触媒とした極大の魔法陣によりこの宇宙に留まっているが、時間をおけばその魂は虚空へと還り、また悪しき輪廻の輪に戻るだろう。

 碧き母なる惑星を背負った《メヴィウスインフィニティ》は、イングは銀河に向けて呼び掛けた。

 

「大地よ、海よ、大空よ! この宇宙に生きる全ての命よ! オレたちに力を貸してくれ!!」

 

 この宇宙で幾億万回と繰り返されてきた戦争の輪廻。その根本的な原因は、銀河を構成する負の無限力によるものではなく、ケイサル・エフェス――ゲベルが抱えた生の感情によるものだ。

 アポカリュプシスの前に力及ばず、全てを失った無念は何度もループする宇宙の深淵で澱のように降り積もり、強固に根付いている。それをゲベルが捨て去らない限り、この悪しき流れが止まることはない。

 このままでは、いつかの宇宙で再び霊帝が生まれ、また因果と運命が乱れるおぞましい大戦が引き起こされるだろう。

 人の心は無限――輝く光が尽きることがないように、広がる闇にも際限はないのだ。

 だからこそ――

 

「奴を再び甦らせないために、ここで全てのケリを着ける!」

「わたしたちの愛と勇気と希望があれば、きっと!」

「ゲベルの怨念を、みんなの光で取り払うの!」

 

 その求めに応じたαナンバーズ全機が次々に最大攻撃を繰り出した。

 過去・現在・未来――この銀河の全ての文化文明を象徴するスーパーロボット軍団による全身全霊、怒濤の総攻撃を受けた霊帝の、永遠にも等しい輪廻の輪の中で蓄えた負の無限力――怨念が浄化されていく。

 念を高めながらその様を見守るイングが、ぽつりと言葉をこぼす。

 

「……アーマラ」

「なんだ?」

「今更だけどさ、ついてきてくれて、ありがとな。お前のおかげで、お前が支えてくれたから“ここ”にたどり着けた」

「ふんっ、お調子者のお前らしくないセリフだな?」

「まあ、これが最後だと思えばしおらしくもなるさ」

 

 自嘲気味に返すイング。兄の膝の間に座ったイルイと、台座に収まったエクスが二人の様子をそわそわと見守っている。

 

「最後、か……確かにな」

 

 同意して見せたアーマラはニヒルな笑みを浮かべ、だが、と続ける。

 

「私たちの旅はまだまだ続く……そうだろう?」

「! ……ははっ、お前の言うとおりだ。――さあ、こいつが正真正銘、この大戦のフィナーレを飾る最後の一撃(ラスト・アタック)だッ! ド派手に決めるぜッ!!」

 

「ああッ!」

「はいっ!」

「うんっ!」

 

 快活な笑顔を浮かべ、終幕を宣言するイング。アーマラ、エクス、イルイがそれに応えた。

 

 銀河中に住まう一人一人の祈りたる金色の粒子、それが一本の光の柱となって《エグゼクスバイン》に頭上から降り注ぐ。

 光に満ちあふれた暖かい奔流の中、雌雄剣の柄を融合させた双頭の長刀(ツインブレード)――《天地開闢神明剣》、その刀身を天高く掲げる。

 

 「アースクレイドル」から始まった“イング”の旅。

 旅路の過程で経験した様々な苦難や出会い、別れ……それによって得た想いを、誇りを――今、その全てを解き放つ。

 

「受けろ、ケイサル・エフェス! これがオレたちの光だッ!! アークインパルスッッ!!!」

 

 大上段から振り下ろされた光の剣。

 刀身から放たれた極光纏う大斬撃が闇を斬り裂き、邪念を飲み込む。

 まばゆい光の中を、黄金神が翼を広げた駆け抜ける。その先にある、誰も見たことのない未来へと――

 

「邪念を断ち斬りッ、未来を斬り拓く!! ファイナル・デッド・エンドォォォォオオオッ――」

 

「「「「スラァァァァァァァシュッッッ!!!!」」」」

 

 クロスする斬撃が、混沌の繭に吸い込まれる。

 《アークインパルス//0(アイン・)0(ソフ・)0(オウル)》――ヒトの無限なる可能性を束ねた極光の剣が、全てを輝きの中に漂白していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――今、オレの目の前には見渡す限りの真っ白な世界が……、因果の地平が広がっている。

 ふと気配を感じて傍らを見ると、両脇にはアーマラと、エクスを抱えたイルイが立っていた。

 

「おにいちゃん」

 

 あれ見て、とイルイが前方を指さす。

 顔を上げると、三人の少年少女がいた。

 

 真ん中、いわゆる学ランを着た銀髪の少年が優しげにほほえんでいる。

 彼の両脇には見慣れぬ、だけど既視感のある女の子と男の子。

 女の子の方はイルイによく似ている。違いは、ツインテールが地面まで届くくらいのロングヘアになってることか。

 男の子は金髪で、どこか生意気そうだ。オレと目が合うと、小さく黙礼する。

 

 三人は一様に穏やかな笑顔を浮かべていて……彼らがどこの誰なのか、オレにはすぐわかった。

 だから、グッと右の拳を前に突き出した。真ん中の、銀髪の少年が満面の笑みを浮かべて拳を押し出す。

 それから親指を立ててサムズアップ!

 少年が苦笑したように、オレに応じて真似をした。

 

『――――』

 

 彼が何か口にする。声は聞こえてこない。

 けれど、その想いは伝わってきた。

 

 ――――“ありがとう” 

 

 感謝の言葉だ。

 オレは頷く。

 そして、応えようとする。

 この胸をつく熱い想いを言葉にするのは、難しいけれど――――

 

「オレたちの方こそ、ありがとう。この世界に喚んでくれて、必要としてくれて。オレはオレが成りたかったものになれたんだ」

「私とイングを引き合わせてくれて、ありがとう。私は私自身になれたような気がする」

「わたしたちの宇宙が平和になったのは、みんなあなたたちのおかげです」

「宇宙を、みんなを護ってくれて、ありがとう。……さようなら」

 

 三人は頷き、振り返る。

 そして手に手を取り合い、笑みを交わし合い、歩き出した。

 その姿は仲のいい兄弟そのもので。

 彼らの行く先には、光に満ちた世界が広がってるはずだ。きっと、絶対に――

 

 

「……オレたちも行こう」

 言って、踵を返す。オレたちの進む先は、彼らとは違うのだから。

 

「うん。みんなのところに、還ろう」

 イルイがオレの手を取る。

 

「新しい未来が待ってます!」

 エクスが楽しげに言う。

 

「行こう、イング」

 アーマラが柔らかく微笑み、オレの手握った。

 

 

「さあ、新しい時代の幕開けだ!」

 

 そうして、最初の一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新西暦一九六年 †月X日

 地球 Gアイランド・シティ 宇宙港

 

 あれから六年がたった。

 

 最終決戦の後、最後に発動した《イデオン》の手により、遠いところからきた仲間たちは自分の場所へ帰還していった。

 未来組は自分たちの時間に戻ったし、バイストン・ウェル組やラ・ギアス組、大空魔竜戦隊、バーチャロンたちも異世界に帰っていった。

 あ、帰るところをなくした《MZ23》とか綾人たちはこっちで暮らしてるぞ。遙さんが第二子を生んだってこの前聞いた。高齢出産、よくやるよ。

 

 あの短いようで濃すぎた一連の大戦と比べれば大したことはないが、この六年間にも大事件はそれなりに起きている。

 第一回ガンダムファイトの開催と「デビルガンダム事件」とか、ジオン残党によるミネバ誘拐から端を発した「ラプラス事件」とか、解体された旧ザフト兵によるユニウスセブン落とし未遂事件「ブレイク・ザ・ワールド」とか、位相を違えたバイストン・ウェルのホウジョウ軍が現れた「リーンの翼事件」とか。

 移民船団マクロスギャラクシーによる反乱とか、エグゼリオ変動重力源なんてのもあったか。

 最後がちょっとおかしいが、気にするな。もう因果の鎖はないんだからな。

 

 明日、オレたちはこの宇宙を旅立つ。

 あれからも新生BF団の首領として平和を護るために影に日向に戦ってきたが、もう大丈夫だろう。

 地球連邦、ゾヴォーク、平和解放機構を主体にして成立した超銀河規模の共同体『銀河連邦』による統治はおおむねうまくいっている。もちろん小さな綻びや腐敗はあるものの、αナンバーズメンバーの王族・指導者たちが協力し、よりよい世界を目指して日夜努力を重ねている。

 人々の心には確かな光が息づき、平和を愛するスーパーロボットたちがそれを護るために力の限り悪と戦うだろう。

 

 だけど、この世にはオレたちの助けが、ヒーローが必要な世界がたくさんあるはずなんだ。

 だからオレたちは旅立つ。

 弱きを助け、悪しきを挫くバビル二世と鋼の勇者の新たな物語の始まりだ。

 

 その旅に終わりはないかもしれない。

 でも人生なんて、生きることなんてそんなもんさ。

 オレはオレだ。イングとして、この生を力の限り、全力を尽くして全うする。

 それが想いを託して散っていった者たちに対する、残された者の責任だと思うから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球、Gアイランド・シティに新たに新設された宇宙港。

 穏やかに凪いだ海に、白亜の巨大戦艦が浮かんでいる。

 

 第八世代型次元航行型戦闘艦《エ・テメン・アン・キ》――《ヱルトリウム》級の後継に当たる艦であり、《バトル》級と同等の全長約一五〇〇m、《ヱルトリウム》を思わせる白く優美な船体が特徴。主機に大型光量子波動エンジン、推進機関にオーバー・クロスゲート・ドライブを備え、恒星間はもとより異次元すら踏破してみせる超高性能艦だ。

 銀河連邦議会の肝いりで建造されたこの艦は、旧時代の遺産バベルの塔の中枢を丸ごと移植された特別な戦艦である。

 

 トレードマークのクロークを潮風に靡かせ、バビル二世ことイング・ウィンチェスターが桟橋に立つ。

 その傍ら、風で乱れた見事な髪をかき分けるアーマラ・バートンが白亜の戦艦を見据えてつぶやく。

 

「エ・テメン・アン・キ……私たちの新しいホーム、か」

「おう。カッケー(フネ)だろ?」

 

 アーマラの発言を受け、イングが胸を張る。

 いつまでたっても(肉体年齢的には二十歳を超えているのに)無邪気で子供っぽいパートナーに半眼を向けつつ、アーマラはもう一人の同行者に水を向けた。

 

「しかし、よかったのかイルイ。おまえは学校があるだろう?」

「んー、大丈夫! 夏休みだし?」

 

 と答えるのはイルイ・ガンエデン(G)・ウィンチェスター。現在一五歳。

 六年たってすっかり成長し、今は元気いっぱいに中学校に通う現役女子中学生(JC)

 また、躯を失った憎しみにより百邪に墜ち掛けていた《応龍皇》の魂を調伏、鋼機人ベースの新造機体に封入した新世代の超機人、《黄龍皇(オウリュウオー)》の操者でもある。

 

「おい、わざわざ帰ってくるつもりか」

「……帰ってこないの?」

「いや、帰ってくるけど。オレらの世界はここだろ」

「ならばよし!」

「何なんだそれは……」

 

 テンションマックスな妹にアーマラが頭を抱えた。

 元気に成長したのはいいが、イング()の悪影響を多分に受けている感は否めない。

 

「異世界かぁ……どんな人たちと会えるんだろう!」

「ワクワクしますねっ」

 

 そんなイルイは、抱えたエクスと楽しげに会話している。

 

「どっかで、クォヴレーの奴にも会えるかもな」

「それは楽しみだ」

 

 銀河大戦の直後、クォヴレーは“因果律の番人”としての使命を果たすべく何処へと旅立った。

 以来、彼とは連絡すら取れていない。かつての部下で一応の弟にもなるので、アーマラはちょっぴり心配だったりもする。

 

「お兄ちゃん、お姉ちゃん。みんなが待ってみたいだよ?」

 

 イルイの声に、二人は顔を上げた。

 

 《エ・テメン・アン・キ》が降ろしたタラップの前でたくさんの人たちがイングたちを待っていた。

 

 先頭には軍師にして参謀、諸葛亮。いつものはわわ軍師スタイルだ。

 

 そして、“新十傑集”。

 銀河大戦時からの協力者であるビアン、イングのスカウトで参加したソルダートJ、セレーナとエルマ。そして、事が終わってなおこの世界に居座っていたカヲル。

 新顔には、白髪をお下げにした老人とアホ毛が特徴の少女。どちらも銀河大戦後に参入した。

 十傑集は現在六名で、欠員募集中。なお、アーマラとイルイは護衛団として別格扱いである。

 

 そして、A級エージェントの面々。

 弟分妹分のアラドとゼオラはもちろん、古株のロンド姉弟、Jにつき合って参加したルネ、母国運営をシュウたちに投げて地上にやってきたセニア、何故かこの世界に残っていた《フェイ・イェンHD》、俗世のしがらみから逃れてきたマサトと美久、フリーの用兵から転じたカナードなど、おなじみのメンバー以外にこちらにも新顔が何名かいた。

 元スクール所属、黒髪の女性と紫の髪の女性(ゴスロリにあらず)。

 プラントに縁の深い紅目の少年と金髪の少年、紅髪の姉妹。かつては連邦の非合法研究所にいた吊り目の少年、水色の髪の少年、金髪の少女の三人組。

 ジオン残党に潜入していたこともある赤く長い髪を首のあたりで結った女性と、元ギャラクシーのサイボーグである緑がかった金髪の青年。

 いずれも、αナンバーズのメンバーにも劣らぬ優秀有望な若者たちだ。

 

 

「それでイング、目的地などはどうするんだ?」

 

 ゆったりと歩きながら、アーマラが問い掛ける。

 

「助けを呼ぶ声があればどこへでも、ってね。まあ当面は、有用な人材をスカウトしたり新十傑集の増員が目標だよ」

「なるほど、組織の増強か。妥当だな」

 

 思いの外現実的な目標に感心を示すアーマラ。バカにしては真面目に考えているな、とわりと酷い感想を抱いた。

 

「採用の条件は?」

「十傑集なら、生身でジェガンを破壊できるか、グレートゼオライマークラスの機動兵器を操れることかな」

「ハードル高すぎだよ、お兄ちゃんっ!」

「あるいは、ウチのビアン博士みたいな一芸入社も可」

「ムチャぶりすぎます!」

「最低限十傑集走りは出来なきゃなぁ」

「いや、それはそれで難しすぎだろう」

 

 イングの常識を蹴飛ばした発言に、やっぱりこいつは底抜けのバカだったとアーマラは頭を抱える。

 とはいえ、それくらいでなければ十傑集は務まらないし、結局採用のほどはビッグ・ファイア(イング)の意向次第というか、存在のインパクト次第なのだが。

 白髪の老人などがいい例である。

 

 

 桟橋の半ばまでさしかかったところで、不意にイングが立ち止まる。

 一拍遅れて止まったアーマラとイルイが、その行動をいぶかしむ。

 

「とりあえず、締めに一言言っとくか」

 

 ますます疑問符を浮かべる二人に視線を向け、イングはニヤリ、と挑戦的な笑みを浮かべる。

 握った拳を天へ、蒼天に輝く太陽へと高く突き上げた。

 

「本当の戦いはここからだ! ――ってなッ!」

 


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