スーパーロボット大戦//サイコドライバーズ   作:かぜのこ

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αIー3「この星の明日のために」

 

 新西暦一八七年 ◎月*日

 地球、サンククングダム周辺海域 《グラン・ガラン》の一室

 

 完全平和主義、ねぇ……。

 サンクキングダムを治めるリリーナ・ピースクラフトの掲げる理想について、オレはどちらかというと否定的だ。

 正直、この状況下じゃ空気読めてないとしかいいようがない。何せ、地球人類同士で戦争してるだけじゃなく、異星人やらからからな。もちろんわかりあえればいいけれど、吐き気を催す邪悪を相手に戦いを放棄するなんて出来るわけがないだろう。

 ……さすがに侵略者相手にも主義を貫く訳じゃない、よな?

 ちなみに、リリーナ嬢との直接的な接触はない。だってオレ、一介のパイロットだし。

 

 まあ、結局サンクキングダムはOZとその黒幕であるロームフェラ財団の策略によって崩壊してしまったのだが。

 しかしまぁ、ヒイロとゼクスは機体取り替えっこしたり陣営変えたり、落ち着かないヤツらだわな。

 

 

 

 新西暦一八七年 ◎月□日

 地球、某無人島 《グラン・ガラン》の一室

 

 オレは今日、ドレイクの軍勢との決戦を勝ち抜き、この日記を書いている。

 いい加減、空気も時勢も読めていない皆さんにはきっちり地底世界にお帰りいただいた。だいぶ激戦だったが、連中についてはこの程度の扱いでいいだろう。

 性懲りもなく現れたイングラムももちろん撃墜してやった。……すぐさま修復されたが。

 

 で、宿敵との戦いを終えたショウさんやシーラ様たちだが、しばらくこちらでオレたちに協力してくれるそうだ。

 まあ《ゴラオン》が別行動してるわけで、置いて帰るわけにもいかないしね。それに、地球が滅べば、そのアンダーワールドであるバイストン・ウェルだってどうなるかわかったもんじゃない。

 

 ともかく、これで物語に一つカタが付いたわけだ。

 オレたちの戦いも、いよいよクライマックスに近づいている感じだな。

 ……しかし、色を塗り替えただけで性能の上がる《ビルバイン》ってなにさ。

 

 

 

 新西暦一八七年 ◎月×日

 地球圏、衛星軌道上 《グラン・ガラン》の一室

 

 《ヱクセリヲン》、やっぱデカいな!

 外宇宙での調査任務から急遽帰還した手負いの《ヱクセリヲン》を襲うキャンベル軍、そしてジュピトリアンから防衛した。

 

 キャンベル軍、ジュピトリアンとの戦闘については特に語ることもない。ヤザン・ゲープルの《ハンブラビ》に絡まれて若干ウザかったがまあ、その程度だ。所詮、オレと《アッシュ》の敵じゃない。

 ああ、そうだ。マサキのヤツが、《乱舞の太刀》なる新必殺技を披露してたんだ。

 オイオイ、めっちゃカッコいいじゃないか。……オレもああいう必殺技を考えてみようかな?

 

 あと、トップ部隊の代わりに《ヱクセリヲン》の護衛をしていた《YFー19》のイサム・ダイソン中尉と《YFー21》のガルド・ゴア・ボーマン氏が加わった。

 さすが最新鋭のバルキリー、半端じゃない機動だったな。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月◎日

 地球圏、衛星軌道上 《マクロス》の自室

 

 三隊に分かれていたSDF艦隊は迫る決戦に向け、再び合流した。

 ソロモン攻略戦で初めての戦死者が出て自分でも解るくらい消沈していたが、なんとか気分を持ちなおした。

 

 で、はたと気がついた。

 最強のマジンガー、《マジンカイザー》がいつの間にか加わってるじゃないか。くそっ、登場を見逃した《真ゲッターロボ》の件といい《ゴラオン》隊に入っときゃよかった……!

 と《マクロス》の格納庫でorzとしてたら、偶然通りがかったアスカに「アンタバカァ?」とお決まりの悪態を吐かれてしまった。

 くっ、今回ばかりは反論できん……!

 オレと同じく悔しがるリュウセイに、ノリコが得意そうに“魔神皇帝”のエピソードを語るわけだ。

 正直、友情にヒビが入りかけた。ま、そのあとメディアの鑑賞会して仲直りしたけどな。

 ちなみにそのノリコだが、こちらもしばらく見ないうちに《ガンバスター》に乗り換えていた。……き、気づいてなかったわけじゃないんだからなっ!?

 

 

 

 新西暦一八七年 △月♪日

 地球圏、サイド3 《ラー・カイラム》の自室

 

 ついに、オレたちSDF艦隊はジオン公国との戦いに勝利した。

 アムロ大尉やクワトロ大尉、ブライト艦長にとっては七年越しの決着になるだろう。この世界での“一年戦争”は、《マクロス》の落下で休戦状態になっていたらしいからな。

 

 しかし、不謹慎だが今回はかなり燃えた。

 ジオン公国軍を率いるギレン・ザビとの地球圏の命運を左右する決戦であり、Dr.ヘルが持ち出した《量産型グレートマジンガー》《量産型ゲッタードラゴン》の大軍との激闘でもあった。

 悪の手先になったマジンガーとゲッターを、圧倒的なパワーで駆逐する《マジンカイザー》と《真ゲッターロボ》、そしてスーパーロボットたち。そして、数々の敵モビルスーツを蹴散らして巨大空母《ドロス》に肉薄する《νガンダムHWS装備型》と《サザビー》率いるガンダム軍団。某悪夢の人じゃないが、鎧袖一触とはこのことか。

 このシチュエーションに燃えずして、何に燃えろと言うのだろう。

 まあ、途中で紫ババ、もといキシリア・ザビからの停戦協定の提案があって中途半端な形に終わったのが残念だが。

 

 そんな激戦の最中を、オレはクスハ、ブリットの《龍虎王》、リオがパイロットを務める《AMガンナー》と合体したリョウトの《ヒュッケバインMkーIII・ガンナー》で小隊を組んで戦い抜いた。

 ……カップルに囲まれて、若干肩身が狭かったのは秘密だ。

 どうしてこんなに頑張ってるのに、オレにはヒロインがいないんだ……!

 

 

 

 新西暦一八七年 △月◇日

 地球圏、衛星軌道上 《ラー・カイラム》の自室

 

 いやはや、酷い目にあった。

 ジュピトリアンの巨大サイコミュ兵器“エンジェルハイロウ”による、サイコウェーブの被害だ。

 カミーユやアムロ大尉たち、感受性の強い面々は特に苦しんでいた。いや、苦しむというよりは強制的な安らぎの念に飲まれかけていたんだろうな。

 オレ?オレの念も自我もそんな柔じゃないから、むしろ対抗してやったが何か? 向こうが開けっ広げだったから、軽く交信(テレパシー)出来たし。

 まあ、そのせいでサイキッカーたちの末路を感じ取ってしまったわけだが。

 

 実際の戦闘はわりと力尽くだった。

 マサキの宿敵、DCのシュウ・シラカワ博士が持ってきた作戦、「念動力者複数名の念を増幅してサイコウェーブに対向する」を拒否して戦った。

 なぜかオレが代表して、協力するか否かを決定することになってしまった。クスハもリョウトも強く主張するタイプじゃないのはわかるが、いいのかな。

 とりあえず、クスハやリオ、アヤ大尉の身体を気遣って拒否したわけだが。

 

 戦場では、()を浚われたヒイロの《ウイングガンダムゼロカスタム》とウッソの《V2ガンダムアサルトバスター》が暴れまわり、大活躍した。

 で、戦いにより崩壊して地球に落ちた《エンジェルハイロウ》を追撃するチームと、ジオン残党とジュピトリアンを叩くためアクシズに赴くチームの二つに分かれて進撃するロンド・ベル。

 オレは地上へ、クスハとリョウトはそのまま宇宙に残留する。

 ……何か邪悪ものと接触するような、そんな予感がする。気合い、入れないとな。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月●日

 地球、某無人島近くの海上 《グラン・ガラン》の一室

 

 相変わらず、《グラン・ガラン》に間借りしているオレだ。

 それはともかく。重力に引かれて落下したエンジェルハイロウを舞台に、長らく戦ってきたジュピトリアンのベスパ軍、そしてトレーズ・クリシュナーダ率いるOZとの戦いが終わりを告げた。

 《ゴドラタン》のカテジナ・ルースにはウッソが、《トールギスIII》のミリアルドにはヒイロがそれぞれ相対し、長い因縁に終止符を打った。

 しかし、(いたずら)に世界を混乱させて、トレーズ・クリシュナーダはいったい何を考えていたんだろうな。あるいは、彼なりに世界のことを考えていたのかも知れないが。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月◇日

 地球、第三新東京市 《グラン・ガラン》の一室

 

 突如、単騎でネルフに強襲したゼ・バルマリィ帝国の特機級機動兵器《アンティノラ》と、それを操るユーゼス・ゴッツォにより精神汚染を受けたアスカを守って戦った。仲間を、友人を救うため、決死の覚悟で自爆特攻したレイの行為も《アンティノラ》を揺るがすには至らなかった。

 ユーゼス・ゴッツォ……邪悪な念を持った危険なヤツだ。アレは、オレが倒さなきゃならない存在だろう。一目見た瞬間に理解した。そして、ヤツがイングラムを縛る邪念の鎖の根元であると直感した。

 ヤツと交わした会話はこんな感じ。

 

「貴様か! イングラムを縛る邪念の出所は!」

「ほう……アウレフの集めたサンプルの内のイレギュラーか。その強念、さながら愚帝ようだな。お前を取り込むのはいささか危険なようだ。私自ら処分しよう」

「こっちだって願い下げだ! ユーゼス・ゴッツォ、貴様はオレとアッシュが断ち斬る!!」

 

 アスカを傷つけられ、レイが犠牲になって完全にキレていたオレは、サイコドライバーの力を全開にしてヤツを刻んでやった。メタ的に言うなら「気合×3、ド根性、加速、努力、幸運、ひらめき、必中、魂」の精神コマンドコンボをかけてフルボッコにしたってとこか。

 とはいえ致命傷を与えたものの、お約束的に修復されたけどな。……ちくしょう。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月☆日

 地球、第三新東京市 《グラン・ガラン》の自室

 

 しんみりとした気分で今日の日記を綴っている。

 ネルフの地下深くにあるセントラル・ドグマで、渚カヲルこと最後の使徒、第一三使徒《タブリス》と戦った。正確には彼に操られた《弐号機》とだが。

 本性を現した彼に対して、ゲッター線の申し子《真ゲッターロボ》と意志ある魔神《マジンカイザー》が過剰反応していた。向こうも、何やら両機に感じるところがあったらしい。

 短い間とはいえ、カヲルと友好を深めていたシンジにトドメを刺させるのは忍びなく、最終的にはオレがケリをつけた。

 

 彼はオレのことを「いつか太極に至る者」と呼び、「古き強念の持ち主たちが今もキミを見守っているよ」と言った。

 古き強念の持ち主、サイコドライバーのことか? たち、ってことは複数いるわけだな。そいつらが、オレをこの世界に呼び寄せたのだろうか。

 そして、太極……どこかで聞いたことのある単語だが、思い出せない。ったく、相変わらず肝心なところで役に立たない記憶だ。

 言葉の真意を確認する術はもうなく、カヲル自身、詳しく語るつもりはなかったのだろう。オレがこの世界にいる意味がわかったかもしれないのに……残念だ。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月●日

 地球圏、衛星軌道上 《マクロス》の自室

 

 再び部隊が合流したのだが、どうやら向こうもいろいろヤバかったらしい。

 バルマーの連中に、アヤ大尉、リオ、リューネ、獣戦機隊の沙羅が拉致され、洗脳されて戦うことになってしまったのだとか。ユーゼス・ゴッツォめ、最悪に迷惑なヤツだな。

 全員無事に救い出せたわけだが危なかった、いろいろと。主に本が薄くなる、そういうことだ。

 ちなみに、ブリットくんに「さらわれなくてよかったな」と冗談混じりに言ったら顔をしかめられた。さもありなん。

 あと、なぜか《ザク改》が格納庫に置いてあったんだが……あれ、何なんだろうな?

 

 さておき、女性型巨人族メルトランディとの戦いである。

 その中で、赤いパーソナルカラーの機体と戦い、マックスが相打ち気味にMIAになった。まあ、ヤツは天才だからな、ほっといても大丈夫だろう。

 

 それと、いろいろあって《ジュデッカ》から()()されたレビ・トーラーと、SRX計画から派遣されたイングラムの後任者ヴィレッタ・バティム大尉が修復された《RーGUNパワード》ともにやってきた。どうやらレビの方が《RーGUNパワード》に乗るらしい。

 つーかリュウセイよ、お前さんいつの間に敵の幹部をナンパしてきたのさ。と言ったら盛大に否定していたが、実際そんなもんだろ? フォウやプル姉妹、クェスとは事情がまるで違うんだからさ。

 まあ確かに、レビ自身からは邪悪な念は感じなかったし、どちらかと言えば《ジュデッカ》に操られている感じはしてたけどさ。

 

 ところでヴィレッタ大尉、アンタ、バルマーの人でしょう。

 わかるぞ、交戦中に関知した念は忘れない質でね。つーか、あっちも隠す気なくね?

 一応、ライ少尉と一緒にヴィレッタ大尉の意思は確認してコンセンサスは取れたので、特に事を荒立てる気はない。

 これで、イングラムのこれまでの行為が本意でない可能性に真実味が出てきたな。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月●日

 地球圏、衛星軌道上 《マクロス》の自室

 

 もうすぐ、女巨人族メルトランディの旗艦、《ラプラミズ旗艦》との決戦が始まる。

 いつものようにチームを組むクスハだが、過去最大規模の戦いを前にどうやら緊張した様子だった。まあ、ブリットがフォローするだろう。オレの出番じゃない。

 

 リン・ミンメイの歌に心打たれて“文化”に目覚めたブリタイの計らいで、彼らの旗艦にして司令であるボドルザーが協力してくれるという。若干嫌な予感がするが、まあ、大丈夫だろう。

 ひさびさに「霊感がささやく」ってヤツだな。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月●日

 地球圏、衛星軌道上 《マクロス》の自室

 

 メルトランディ及びゼントラーディとの戦いにケリがついた。

 葛城さん命名、「ミンメイ・アタック」によりメルトランディが戦意を失ったところ案の定ボドルザーが裏切り、ラプラミズらを砲撃。撃破した後、SDFに対して攻撃を開始した。

 曰く「文化は危険」なんだと。知らんがな。

 

 「愛・おぼえていますか」をバックに、宇宙を突き進む《マクロス》とスカル小隊。予想通り生きていたマックスがメルトランディの技術で巨人化、“エース”のミリアを引き連れて参戦する。

 オレたちロンド・ベルもミンメイの歌声に触発され、気力万端。ゼントラーディ軍を蹴散らして、目指すは超々弩級の艦隊旗艦《ボドル旗艦》。

 オレはリオの《AMガンナー》と《アッシュ》を合体させ、さらに《ヒュッケバインMkーIII・ボクサー》に換装したリョウト機との合体攻撃を敢行した。

 ブラックホール・エンジンとトロニウム・エンジンが生み出す莫大なパワーを一つに合わせ、4つの《Gインパクトキャノン》から放たれた空前絶後の重力波がゼントラーディの巨大戦艦を次々に薙ぎ払った。

 名付けて《オーバー・フルインパクトキャノン》。即興技と思われそうだが、《アッシュ》の前身、《MkーIII》の時点から想定されていた設計通りの運用法である。

 ……え? リョウトのポジションを奪っていいのかって? 《アッシュ》も一応《AMボクサー》と合体できるけど、趣味じゃないんだよなぁ。高機動による剣戟戦闘がオレの真骨頂なんだし。

 

 そんなこんなでオレたちの活躍もあり、ボドルザーは倒れ、ゼントラーディや生き残ったメルトランディは戦意を完全に喪失、あるいはミンメイの歌に感銘を受けて投降した。

 彼らはSDF主導のもと、地球人類と友好な異星人の第一号となるだろう。

 その先駆けとしてマックスとミリアは結婚するんだと。……ケッ、いちゃつきやがってからに。

 ――でもま、解り合うって、素晴らしいんだな。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月※日

 地球、第三新東京市 《ラー・カイラム》の自室

 

 宇宙から一転、急遽地球に降りたのにはわけがある。

 人類保完計画の発動を目論むゼーレは、ティターンズを利用してネルフを襲撃する。オレたちが宇宙にいると知って、行動を開始したのだろう。姑息なことだ。

 だが、ロンド・ベルを甘くみたようだな。《真ゲッターロボ》、《マジンカイザー》、《エヴァンゲリオン初号機》、《龍虎王》、《ヒュッケバインMkーIII・ガンナー》、そして《アッシュ》が大気圏に突入し、《エヴァンゲリオン量産機》相手に孤軍奮闘していたアスカを救出した。

 直に《ラー・カイラム》も到着し、ロンド・ベル全軍により《EVA量産機》は瞬く間に駆逐された。

 オレたちロンド・ベルがいる限り、原作のように鳥葬なんて惨いことはさせねー!

 

 オレや甲児、リョウ、クスハたちも張り切ってたが、今回一番気合いが入ってたのはシンジだろう。鬼気迫る勢いで《マゴログ・E・ソード》を振りかざし、白ウナギどもを切り刻んでいた。

 レイやカヲルの犠牲に、アイツなりに思うところがあったのだろう。シンジは、初めて会ったときよりずっと頼もしく、男らしくなったように思う。

 これで悲惨な未来を一つ、回避できたはずだ。

 

 

 

 新西暦一八七年 *月#日

 地球圏、月面 《ラー・カイラム》の自室

 

 バルマー帝国に組み込まれたキャンベル軍及びボアザン軍との戦い。正式名称を、帝国監察軍第七艦隊というらしいゼ・バルマリィ帝国との前哨戦と言っていいだろう。

 戦い自体については、豹馬が宿敵ガルーダと決着をつけたり、健一が敵将で腹違いの兄らしいハイネルを説得したり、イルムのオッサンが援軍にやってきた。あれか、元カノにいいとこ見せたかったのか。

 

 後顧の憂いも断った。

 あとは、ユーゼス――バルマーの連中を打倒し、雷王星に巣くった宇宙怪獣を駆逐するだけだ。

 ――エンドマークは、近い。

 

 

   †  †  †

 

 

 SDF艦隊ロンド・ベル《ラー・カイラム》、格納庫。多種多様、様々な機動兵器を抱えたロンド・ベルらしく、雑多で統一感のかけらもない。

 

 最終決戦を明日に控え、整備班長アストナージ率いる整備士たちは各機の最終チェックに余念がない。

 その片隅、銀髪紅眼の少年――イングは、キャットウォークの欄干に身体を預けてぼんやりと愛機《アッシュ》を眺めていた。

 甲高い足音とともに人の気配を感じ、振り向く。

 

「ん、クスハか」

「こんばんは、イングくん」

「おう、こんばんは」

 

 気配の正体、クスハが穏やかに挨拶する。

 

「なんだクスハ、休まなくていいのか?」

「うん……なんだか落ち着かなくて、龍王機の様子を見てみようかなって思ったの。イングくんも?」

「まあ、な。柄にもなく、緊張しちまってるらしい」

「そうなんだ」

 

 くすくすと小さく笑みをこぼすクスハ。年下に見える少年のキザな物言いは、彼女には背伸びしたように聞こえるらしい。

 やや憮然とするイングは、クスハのパートナーであるブリットが一緒にいないことに気づいたが、あえて指摘はしなかった。女心は時に複雑なのだと承知している程度には、彼は大人だった。

 

「あれ? 二人とも、どうしてここに?」

「なんだ、リョウトも来たのか」

「こんばんは、リョウトくん」

 

 驚いた様子のリョウトに、二人はのんびりと挨拶した。

 

「そっか、二人とも僕と同じか」

「うん」

「奇遇だったな」

 

 三人は会話を交わしながら、ゆったりと格納庫内を散策する。もちろん作業員の邪魔にならないよう、こっそりと。

 薄暗い格納庫には、三人と共に激戦を戦い抜いた鋼鉄の巨人たちが鎮座し、決戦の時を静かに待っている。

 そうして三人は、《龍王機》及び《虎王機》が駐機している場所までやってきた。

 イングたちの姿に気がつき、うつ伏せて休んでいた彼らは瞑っていた瞳を開く。その瞳はわりとつぶらである。

 

「龍王機、明日もよろしくね」

 

 穏やかに《龍王機》を撫でるクスハを背後からリョウトが見守っている。

 リョウトも念動力者である、クスハほどではないが超機人の意志を感じ取ることが出来る。《龍王機》からは、クスハを気遣う念と決戦を戦い抜く気概が感じられた。

 だが、イングはなぜか隣のスペースに留めてあった《Rー1》の足元で隠れるようにして、その様子を遠巻きに眺めている。

 

「イング、そんなところにいないで、近くに来たら?」

「イヤだね。威嚇されんだよ、近づくと」

「もう龍王機ったら、意地悪しちゃダメよ?」

 

 リョウトの勧めに顔をしかめるイング。ロボット好きな彼にしては珍しく、本気で嫌がっている。

 当初《ライディーン》から警戒されていたイングだったが、最近は超機人だけでなく《マジンカイザー》からも警戒されていたりする。逆に、《真ゲッターロボ》からは僅かながら興味を持たれているようだが。

 

 超機人の元を離れ、ぶらりと格納庫内を行く三人。

 先頭を歩いていたイングがふと振り返り、思いついたように言葉を発した。

 

「そういえば、お前ら次の戦いが終わったらどうするんだ?」

「終わったら……? そっか……もうすぐ最後なんだね、この戦争も」

「考えたこともなかったかな」

 

 イングの問いに、二人は。本当に意識していなかったのだろう。

 最初に声を上げたのはクスハだった。

 

「私は……、看護師さんの勉強をしたいな」

「看護師?」

「うん。子どものころからの夢だったの」

「へぇ、クスハらしいな。で、リョウトは?」

「僕はたぶん、マオ社に戻るかな」

「ほぉ、マオ社に務めてるって話のリオの親父さんに挨拶しに行くわけだな」

「ち、違うよっ! そうじゃなくて、実はカークさんに誘われてるんだ。「PTデザイナーにならないか」って」

 

 からかいに顔を赤らめつつ、リョウトは事情を証す。堅物なカークのことであるから、単純に彼の才能を評価したということだろう。

 表情から満更ではないことを察し、イングとクスハは微笑んだ。

 

「そういうイングくんは、どうするの?」

「オレか? オレはロンド・ベルに残るよ。いろいろと、ややこしい身の上だしな」

 

 マシンナリー・チルドレン、人造人間であることを差し、苦笑するイング。その生まれのせいで当初は万丈から疑われたり――もっとも今は後輩としてかわいがられているが――もしたが、結局彼が生まれた理由は不明なままだった。

 気遣わしげな視線を年下(?)の友人に向ける二人。しかし当のイングは言葉こそ自嘲気味だったが、声の調子はいつも通り明るくおちゃらけたもので。

 

「そんでもって、戦いから離れたお前らの未来を護ってやるよ。だから安心して、夢を叶えてくれよなっ」

 

 ニッ、と快活な笑み。どこか悪童的なイングがよく浮かべる表情だ。

 クスハとリョウトは、冗談めかした態度の裏にある彼の不器用な想いと決意を感じ取った。それは友情と言っていい純粋な思いだった。

 

「イングくん……」

「ありがとう、イング」

「よせやい。友達だろ、俺たちはさ」

 湿っぽくなった空気をからりと笑い飛ばし、イングは言う。

 友達ならば当然だと、自らが傷つくことを恐れもせず、臆面なく言えてしまう彼の強さはまるで太陽のようだと、クスハとリョウトはこのとき思った。

 

「さて、もう休もうぜ。オレたちパイロットは休息も大事な仕事だ」

「うん」

「そうだね」

 

 ――決戦前夜の穏やかな時間は、こうして過ぎていった。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八七年 $月×日

 極東地区日本 《ラー・カイラム》の自室

 

 長い戦争が終わり、オレたちは地球へと帰還した。

 

 雷王星宙域での決戦、《ヱクセリヲン》そのものをブラックホール爆弾とすることによる宇宙怪獣の殲滅、ゼ・バルマリィ帝国監察軍第七艦隊の壊滅により、地球圏での戦争は一応の終結を見たと言っていいだろう。

 だが、依然として多くの勢力が健在のままであり、特に宇宙怪獣とゼ・バルマ リィ帝国は勢力のほんの一部分でしかない。それに、雷王星でのブラックホール爆弾使用の余波で、地球圏には重力崩壊衝撃波の脅威が迫っている。

 ビアン博士の言うように、『人類に逃げ場なし』の状況はさらに続いていくのだろうな。

 

 決戦の推移を箇条書きしよう。

 バルマーに組するパプテマス・シロッコ、シャピロ・キーツとの戦いにはハマーンやガトー、ハイネルらが助太刀に来てくれた。

 タシロ提督らの犠牲をもって宇宙怪獣を撃滅した後、閉鎖空間に囚われたオレたちの前にバルマー帝国軍が現れた。

 敵旗艦《ヘルモーズ》、そしてこちらの機動兵器に対抗したという決戦兵器《ズフィルード》を撃破、するとユーゼス・ゴッツォは切り札である黒い《ジュデッカ》で決戦を仕掛けた。

 その最中、イングラムはリュウセイの決死の説得により邪念の呪縛を破り、再び味方に転じてユーゼスを追い詰める。スーパーロボット軍団の必殺技が炸裂し、《アッシュ》の《TーLINKセイバー》がヤツの邪念を斬り裂く。

 そして《SRX》の《天上天下一撃必殺砲》を受けて《ジュデッカ》は消滅し、長い戦いに決着がついた。

 

 しかし、ユーゼスの「それも私だ」の連打はシュールだったが、「じゃあ、オレがこの世界にいるのもお前のせいか?」という問いに黙ったのは最高だったな。まあ、ヤツの仕業じゃないのは目に見えてたから、あえて言ってやったんだが。

 「クロスゲート・パラダイム・システム」だったか? その完成のために地球圏に干渉し、最終的に神とやらに成り代わることが目論見だったらしいが、下らない。

 運命だかアカシックレコードだか知らないが、そんなあやふやなものに未来を決められてたまるか。運命なんぞ、オレの斬り拓いた後からついてこいってこたな。

 

 ……戦いは終わり、みんなそれぞれの道を進んでいく。別れの時だ。

 オレはロンド・ベルに残り、《エクスバイン・アッシュ》とともに戦い続けるつもりだ。

 この世界にいる意味、それを知るために。そして仲間を、平和を、地球の未来を護るためにも。

 あるいはそれすらも黒幕の思惑通りなのかもしれないが――知ったことか。オレはオレだ。

 

 ……さて、筆を置いて、それぞれの場所へと旅立つみんなの見送りに行くとしようか。

 


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