新西暦一八七年一二月――
地球へと、バルマー戦役最終決戦の際に生じた超重力崩壊の脅威が目前に迫っていた。
それを防ぐため、各スーパーロボット研究所の協力と破嵐財閥、マオ・ インダストリーのもと、地球を丸ごとバリアで覆う“イージス計画”が着々と進められていた。
しかし、SDFが宇宙で外敵と戦っていた間、詐術により地球の指導権を奪ったティターンズは、超重力崩壊という災害を利用してスペースノイドを粛正しようと企んでいたのだ。
SDF艦隊、そしてロンド・ベルは解体の憂き目に合い、メンバーは散り散りとなる。あるものは戦いから身を引いて姿を消し、あるものはティターンズに捕らわれた。
そんな中、拘束を逃れたイングは、囚われた友を救うべく、愛機《アッシュ》を駆って戦っていた。
「協力してくれるかい、イング」
「勿論です、万丈さん。地球を護るためにも、ティターンズの横暴を許しちゃおけない」
「よろしい。頼りにしているよ、“最強の念動者”」
「なんです? それ」
「キミの通り名らしいよ」
「安直ですね。事実ですけど」
「そこで素直に認めるところ、」
独善的な思想を暴走させるティターンズや、トレーズの後継者と称して地球の覇権を狙うマリーメイア軍に対抗するため、そして迫り来る超重力崩壊から地球圏を守るため、破嵐万丈主導の下、SDF、ロンド・ベル、カラバなどの残存人員で結成された“プリベンター”。
その一員としてティターンズなどに抵抗するイングの前に現れたのは、もう一機の《EX》――
「紅いヒュッケバイン……、タイプEXだと!?」
「イング、エクスバイン・アッシュ……貴様を倒し、私が出来損ないではないということを証明する!」
真紅の《ヒュッケバイン》を駆るティターンズからの刺客、“念動者”アーマラ・バートン。アムロやブライトを人質に取られ、やむなくティターンズに従うクワトロやエマとともに現れた彼女は、執拗にイングを追う。
この機体は、事故を起こした《ヒュッケバイン》の片割れ、《008L》がSRX計画により強化された機体であり、極東支部に保管されていたものをティターンズが強引に接収したものだ。
《009》を元とする《アッシュ》とはまさしく兄弟機。同じ凶鳥の血族同士が念動力者に操られて対決する。
「っ、女か!?」
「女で悪いか!」
「かわいい声してんなって思っただけだよ!」
「かわっ!? っ、世迷い言を!」
クワトロらを退けたプリベンター。
万丈が密かに雇い入れていた銀河の始末屋「J9」により囚われていたブライトらが救い出され、鎖は砕かれた。
かつての仲間たちが集結していく。
カエス基地においてマリーメイア軍との決戦。
かつての戦友、五飛がマリーメイア軍の尖兵として立ちはだかる。
「イング、貴様らは正義なのか!」
「その言葉、そっくりそのまま返してやるぞ、五飛! 侵略者が健在な今、地球人類同士で争うことが正しいと言えるのか!?」
「ッ、だが、連邦政府は未だ強権を翳し、スペースノイドを不当に弾圧している! これは正義ではない!」
「だからオレたちプリベンターが、元凶のティターンズを叩いてるんじゃないか! マリーメイアは世に混乱を招いているに過ぎない!」
ラ・ギアスからやってきたマサキの仲間たち、魔装機神の操者とラ・ギアス人たちを新たなメンバーに迎え、戦いは続く。
「さすが地上の軍隊、ガンダムがいっぱいね!」
「王女さん、ヒュッケバインはどう?」
「ガンダムに似てるわよね、主に顔が」
「それは言わないでよ、大人の事情で消されるじゃない。いや、もう消されたのか」
「私の造る魔装機のモデルを、ガンダムじゃなくてヒュッケバインにしてあげるから落ち込まないの」
「さすがお姫様、話が分かる! 結婚して!」
「お断りです」
「ヌビア・コネクション」のカーメン=カーメンを撃退し、。
ダカール「マクロスシティ」。偽りの式典を強襲したプリベンターは、ティターンズとの戦いに終止符を打つべく奮闘する。
《YFー19》による奇襲に合わせ、テレポートによる突入を試みたイングは真紅の《ヒュッケバイン》と再び対峙する。
念動力者、そして凶鳥同士の戦いは激化していく。
「お前はなぜ戦う、アーマラ・バートン!」
「私の価値を示すためだ! 特能研で、ティターンズで、私を“出来損ないの念動者”と蔑んだヤツらを見返す――、最強の念動者である貴様を超えれば、それが証明できる!」
「自分の価値なんざ、自分で決めろ! それにお前はこうして、オレと互角に渡り合えてるじゃないか! それのどこが出来損ないの念動者だ!?」
「ッ! うるさいッ、黙れーッ!!」
機体性能の差、そして念動者としての資質の差。それらが噛み合い――あるいは噛み合わず――、戦いは終始イング優勢に運んだ。
そして、決着。《TーLINKセイバー》が《ヒュッケバインEX》の両腕を斬り飛ばし、無力化した。
「っ、きゃあ!」
「これで終わりだ。投降しろ、アーマラ」
「く……殺せっ」
「断る。お前の念は歪んじゃいるが、邪悪じゃない。オレはもう邪悪なヤツ以外は殺さないって、決めたんだ」
「何……!?」
「お前だって、地球を護るためにバルマー戦役を戦い抜いた戦士だろう? それに、かわいいコを好き好んで手にかけるような倒錯した趣味はないよ」
「っ!?」
アーマラを下し、ティターンズの精鋭部隊と雌雄を決さんとするプリベンターの前に現れたのは《グランゾン》、その真の姿《ネオ・グランゾン》だった。
蒼き魔神を操るシュウ・シラカワの、まるでティターンズに協力するかのような行動に困惑するプリベンターへ、問答無用の攻撃を開始した。
「この期に及んでノコノコ現れて、なんのつもりだ! シュウ・シラカワ!」
「フフ、さて、どうでしょう? 私を倒せば、目的がわかるかも知れませんよ」
「ちっ、相も変わらず胡散臭い! ……その機体に纏わりついたドブ臭い邪念、アンタのものじゃないな?」
「ほう……流石ですね、
「やってみろ! シュウ・シラカワ!」
煙に巻くような物言いで真意を隠すシュウに、イングとプリベンターの仲間たちが立ち向かう。
マサキを始めとした魔装機神の操者たちの協力もあり、苦戦の末《ネオ・グランゾン》を撃破したプリベンターを謎の力が襲った。
「アーマラ!!」
不可思議な現象が辺りを、イングは咄嗟に《アッシュ》の手をすぐ側で擱坐していた《EX》に伸ばす。
しかしその手は届かず、イングの視界は真っ白に漂白されていった。
† † †
《ネオ・グランゾン》の開いたワームホールにより辿り着いた「惑星ゾラ」。プリベンターの面々は、散り散りになって各地をさまよっていた。
それはもちろんイングも同様で、彼は一人、北アメリア大陸のウルグスクという“ドームポリス”に流れ着いた。
成り行きで「ヤーパンの天井」の“エクソダス”に協力したイングは、ゲイナー・サンガやゲイン・ビジョウらとともに「シベリア鉄道警備隊」の追っ手と戦いながら、この星のどこかにいるであろう仲間たちを探して旅を続ける。
「ゲイナー、お前って、ゲームチャンプなんだって?」
「そうだけど、それがなにか?」
「いやさ、オレもそこそこ腕に自信があってね。ちょっと対戦してみない? あるんだろ、本体」
「本体って……まあ、いいよ。なんだか久しぶりにオーバーマン・ファイト、やりたくなってきたから」
イングは《キングゲイナー》のパイロットであるゲイナーを始め、ヤーパンの天井の人々と交流を深めた。
前世とも言うべき記憶によって、彼はこの惑星ゾラが地球のはるか未来の姿であると確信していた。
眼前に広がる荒野、イージス計画の失敗により滅びた文明――
自身の敗北による結果をまざまざと見せつけられ、複雑な思いに駆られるイング。一刻も早く仲間に合流し、なんとしてでも元の時代に戻る――楽天的でおちゃらけた彼らしくない焦燥感を抱え、焦っていた。
そして、仲間たちと同じようにこの時代に流れ着いているかも知れないアーマラの身を心配していた。
旅の最中、「中央大陸」を支配する「塔州連合」に対して反逆する「ゲッコーステイト」の空中戦艦《月光号》と遭遇し、済し崩し的に共闘して手を結ぶ。
同じ中央大陸の政府組織に反発するもの同士、両者の協力はスムーズにすんなり行われた。
そんな中イングは、ゲッコーステイトの見習い?である少年、レントン・サーストンと出会う。
「よお少年、お目当ての美少女とは仲良くなれたかよ?」
「あ、イング。それがぜんぜんなんだよ。ていうか、何話せばいいかわかんないし……」
「そんなの、当たって砕ければいいだろ」
「だよねー……って、いやいやいや、そこは砕けちゃダメでしょ!?」
「あはは。冗談だよ、ジョーダン。おもしろいヤツだよなー、レントンって。ホランドさんがかわいがるのも無理ないな」
「……あれ、かわいがられてるのかなぁ。邪険にされてるだけじゃ?」
「ま、大の大人のツンデレってのもみっともないけどな。あの人なりに、お前のことを心配してるのは間違いない。オレが保証する」
自分なりのアドバイスや人間関係のフォローをするイングは、《ニルヴァーシュ type zero》を操る少女エウレカの正体やレントンたちに待ち受ける過酷な運命に気づきながらも、静かに見守ることにした。
そうするのは、覚束ない知識としてではなく、直に触れあった実感として彼らなら試練を乗り越えられるはずだと感じたからである。
物資の補給のために立ち寄ったとある集落。
ガンダムタイプのモビルスーツを保有する“バルチャー”、ニュータイプを保護するために旅をする《フリーデン》一行と遭遇した。
町を散策していたイングは彼らと偶然親しくなり、寡黙なニュータイプの少女、ティファ・アディールと交流を持つ。
「……あなたも、特別な力を持っているんですね」
「おう、何を隠そう念動力者だ。読心や未来予知だって出来るぞ」
「……イヤじゃ、ないんですか……?」
「別に。いろいろ便利だしな、念動力。そういうティファはその力、疎んでるんだろ?」
「……はい」
「知り合いのニュータイプが聞いたら怒られそうだけど、ニュータイプなんて大したもんじゃない。世界を変えられるわけでもないし、ましてやオレみたいに化け物じみた力があるわけじゃないんだ」
「……」
「そんなのを恐れたり、追い求めたりするヤツらの気が知れないよ。あ、これ、ジャミルさんの悪口じゃないぞ?」
「……あなたは、化け物じゃないわ」
「ふっ、そっか。ありがとな」
いつか近い将来、少女が巡り会うであろう“道”に思いを馳せ、《フリーデン》一行と分かれた。
旅は続く。
大陸を南下した南アメリアの地にて、月からの帰還者「ムーンレイス」との抗争の渦中にある「ミリシャ」に保護されていた一部メンバーと、ようやくの合流を果たした。
ミリシャの唯一とも言っていい戦力、旧世界の遺産、白い
「ホワイトドール、ねぇ……」
「あの、何か?」
「いや、確かに神様みたいな機体だよなぁ、って感心してただけだよ」
「知ってるんですか、この機械人形のことを」
「知ってるっちゃ知ってるし、知らないと言えば知らないかな。別段重要なことでもないし、ロランにとっては関係ないんじゃないか」
「は、はあ」
「ようは使い方を間違わなければいいのさ。どんなに恐ろしい兵器だって、結局のところは使い手の心次第なんだから」
「そうですね……」
ロランだけでなく、地元の令嬢ソシエ・ハイムと低レベルな口喧嘩をしたり、その姉キエル・ハイムにコナをかけてあしらわれたりと、イングは普段通りに新しい仲間たちと友好を深める。
また、時を前後して同じく、ティファの能力により導かれた《フリーデン》とジュドーやウッソら、そして最新型のウォーカー・マシン《ザブングル》を擁すカーゴ一家の《アイアン・ギアー》と行動を共にしていた鉄也を始めとしたメンバーも加わり、一行は一気に大所帯となった。
そんな中、イングは紆余曲折あって《ガンダムX》のパイロットに納まったガロード・ランに絡まれた。
「アンタ、イングってんだって? ティファから聞いたぜ」
「なんだ少年、ヤキモチか?」
「や、ヤキモチって……そんなんじゃ……!」
「お前もたいがいあからさまだっつーの。……ま、そんな警戒することはないさ。何せオレは、通りすがりの念動力者だからね」
「なんだい、そりゃ?」
「お前がティファを死んでも護れってことだよ、ガロード」
「お、おう!」
捻くれているようで根は素直な自称「炎のモビルスーツ乗り」を上手くノセたイング。ガロードとティファの行く末を見守り、手助けしようと心に決めた。
新西暦の頃のように面倒見の良さを発揮して、意気投合したガロード、ゲイナー、レントンの三人から年の近い兄貴分として慕われることになる。
義理と恩を返すため、イングは「ヤーパンの天井」の旅を助けることを決め、ニュータイプがいるというフォートセバーン市へ向かう《フリーデン》に同行するメンバーや、あるいはそのまま「ビシニティ」に残るメンバーとは道を違えることとなる。
再びの再会を誓い、イングは仲間たちと別れた。
その後、《アッシュ》の《TーLINKセイバー》が盗まれたり、レントンが《月光号》から家出したり。誤解やすれ違い、苦難を乗り越えて一行は進む。
道中、SRXチームのリュウセイとヴィレッタと合流することができ、イングは親友との再会を喜ぶ。
ビシニティに残ったメンバーが見つけ出した《アーガマ》、フォートセバーン市にむかった《フリーデン》、そして《アイアン・ギアー》と再び合流した一行。
彼らは、大気の異常が見受けられた地域へ調査に向かっていた。そこでプリベンターは、かつてゲッターチームに敗れ、滅びたはずの「恐竜帝国」の尖兵と遭遇した。
地上を我が手に――、遙か未来においても彼らは地球支配を諦めてはいなかったのだ。
恐竜帝国を辛くも退けたプリベンターの激戦は続く。
「シベ鉄」の刺客、心の声を暴くサイコ・オーバーマン《プラネッタ》の能力による仲間割れとそれに伴う「告白合戦」による混乱、エウレカの変調など乗り越えて――
塔州連合「アゲハ部隊」からの刺客、強敵《ニルヴァーシュ type the END》及び《ドミネーター》に苦戦するプリベンターの前に、
突如戦場に乱入した漆黒の機動兵器は両機に攻撃を加えあっという間に退けると、今度は《アッシュ》に斬りかかりフェイスガードに傷跡を刻む。
「フフフ……見つけたぞ、イング」
「グ……ッ! その声、アーマラか? だがその機体は……」
謎の機動兵器のパイロットが新西暦での因縁の相手だと知り、イングは驚きと安堵を覚える。
三度プリベンターの前に現れたアーマラ・バートン。彼女の駆る機体、《ヒュッケバイン》の面影を残したその姿は、かつて激闘を繰り広げた同じ色の堕天使に類似していた。
「このガリルナガンで、貴様を刈り取る! そして今度こそ、私の価値を証明してみせるの!」
「こんな状況で、まだそんなことを……!」
「黙れ! 貴様にはわかるまい、どれだけ血反吐を吐いて努力しても認められない者の惨めな気持ちが!」
何者かの手により変貌した《ヒュッケバインEX》――《ガリルナガン》は、圧倒的なパワーで《アッシュ》に襲い掛かる。
未知の技術――否、バルマー帝国を由来すると思われる超技術により強化された《ガリルナガン》と、有り合わせの資材で急造された《アッシュ》のスペックの差は歴然。さしものイングも苦戦を強いられた。
「やめろ、アーマラ! オレたちがこんなところで戦う必要なんてない! 今は協力して、一刻も早くオレたちの時代に戻ることが先決だろうが!」
「そんなもの、どうだっていい! 貴様を討てれば、それで!!」
「馬鹿が! そうやってエゴを丸出しにするから、お前の念は不完全なんだ!」
言葉とともに強念が迸り、《TーLINKセイバー》と《バスタックス・ガン》が激突して火花を散らす。
焔を巻くかのような《ガリルナガン》の猛攻に圧倒される《アッシュ》。マクロスシティでの決戦とは全く逆の展開が繰り広げられる。
だが、イングは一人で戦っているわけではない。
ガロードの《ガンダムX》、ゲイナーの《キングゲイナー》、レントンとエウレカの《ニルヴァーシュ》。そしてロランの《∀ガンダム》やジロンの《ザブングル》、プリベンターの仲間たちが加勢に入り、形勢は逆転した。
「ちぃ、邪魔が入ったか」
「アーマラ!」
「決着は預けるぞ、イング。貴様を倒すのはこの私だ、それを忘れるな」
捨て台詞を残し、急速に離脱していく黒き狩人。その常軌を逸した速度に追いつける機体は皆無だった。
「っ、馬鹿野郎……!」
見えなくなったライバルの機体を視線で追いかけて、イングは苛立ちを吐き捨てた。