3月、別れの季節になった。
僕らが勇者になってから色んな事が起きた。バーテックスとの戦い、世界の真実、天の神との和解、勇者に憧れた少女を利用した魔王との戦い。
「桔梗くん、どうかしたの?」
「ん?色々と思い出してたんだ」
別世界での造反神との戦い、異世界でのキメラとの戦い、そして古のシステムとの戦いで、世界は本当の意味で作り直された。
これから先、どんな未来が待っているかわからないけど、きっと平穏な未来が待っているんだろうな………
「桔梗くん、そろそろ行こう。みんなが集まってるよ」
「あぁ、行こう。美森」
僕は美森と一緒に部室へと行くのであった。なんてたって今日は大事な日だからな。
今日は卒業式、風先輩は今日で讃州中学を去る日でもある。部室にはみんながもう集まっていた。
「あ、桔梗くん、東郷さん。何処行ってたの?」
「ようやくひと目を気にしていちゃつくようになったの?」
夏凛、別にいちゃついていたわけじゃないんだけど……
「今度いちゃつく時は場所を教えてね~見に行くから~」
「園子、あとで姫野さんに報告しておくからな」
僕がそう言った瞬間、園子は体を震わせていた。どうにも昔物凄く怒られたらしくそれ以来姫野さんのことを怖がっているみたいだ
「何ていうか樹、頑張りなさい。部長になったんだからみんなをまとめるんだから」
「えっと、夏凛さんも手伝って下さいね」
「わかってるわよ。部長」
「うんうん、部長も副部長もこれなら安心できるわ。まぁ私はちょくちょく遊びに来るけどね」
卒業しても来るのかよ。下手すれば怒られそうなんだけど……
「そういえば海くんたちは来なかったね」
友奈は少し寂しそうにそう言っていた。海たちは卒業式前に元の世界に帰っていった。本当は式には参加したかったらしいけど……
「あの子たちもあの子達で色々と大変なのよ」
できればいてほしかった。ちょっと見せたかったものがあったし……
「そういえば桔梗。あんた、さっきから大事そうに持ってるそれ何?」
先輩は僕が持っているスケッチブックを見つめていた。これはあの戦いが終わってから書き続けたものだ。
「先輩も卒業ですから、ちょっとした記念に……」
僕はみんなに絵を見せた。それはみんなが勇者に変身した姿の集合絵的なものだ。
「あんたって本当に……」
「前に私達の絵を一枚一枚書いてくれましたし……」
「一応家にしまってあるけど……」
「私もしまってあるよ」
「私は額縁に飾ってあるわよ」
「いいな~私もらってないよ~」
「園子のは後で描いてやる。それにこの絵、ちゃんと全員分あるぞ」
僕は集合絵をみんなに渡した。ちゃんと一人ひとり真ん中に立っているように描いたものだ。ただ渡したい奴らがいないのが少し残念だ。
「また会えるよ」
美森は僕の気持ちを察してかそう言ってくれた。そうだよな。またいつか会えるよな。
すると部室の扉からノックが聞こえ、誰かが入ってきた。
「こんにちわ。4月から入部希望の上里海です」
「海様、お願いですから走らないで下さい。怪我したら怒られるんですよ」
巫女姿の海と灯華がやってきた。そういえば来賓席に座ってたな。流石に神官がきたらまずいということで灯華がお付きとして来ていたみたいだし
「だって勇者部をお作りになった犬吠埼風様の卒業なんですよ。ちゃんと挨拶をしておきたいので、卒業おめでとうございます。風様」
「様はいらないわよ。これからあんたも勇者部に入るんだから……」
「そうですね。では先代で」
「そ、それもどうかと思うけど……まぁいいか」
海と先輩は握手を交わす中、今度は部室の天井に穴が空き、そこから誰かが落ちてきた。
「おっと、場所間違えた」
「「銀(ミノさん)!?」」
「よっ、須美、園子、私もお祝いしに来たんだけど、部外者でもいい感じかな?」
「あらいいわよ。人数が多いほど盛り上がるしね」
「天の神もよく許したな。まぁいいや、ほらこれ」
僕は銀にも絵を渡した。銀は少し驚いた顔をしていた。
「私ももらっていいの?」
「当たり前だろ。お前も勇者部の一員なんだから」
「そっか……ありがとう」
銀にも渡せてよかった。でも残った4枚の絵……いつになったら渡せるだろうな……
そう思った瞬間、僕の端末に誰かから連絡が入った。
「知らない番号?誰だ」
『繋がった、繋がった。世界は別でも番号は同じなんだな』
「海!?お前、帰ったんじゃないのか?」
『一回報告しに……それよりも全員で窓の外見てくれないか?』
「海くんから?」
「何だっていうの?」
美森と先輩の二人は電話の内容を気にしている中、僕はみんなに窓の外を見るように言った瞬間、遠くの方から花火が上がった。あれって……
『先輩に言っておいてくれないか?卒業おめでとうって』
粋な演出だな。卒業祝いに花火なんて……というか怒られないか心配なんだけど……
ふっと気がつくといつの間にか四枚の絵がなくなっていた。そしてある声が聞こえてきた。
『届けておくね』
この声って……あんたも来ていたのか……ありがとう、この恩はいつか返すよ。
「パパ、どうだった?花火みたいに爆裂勇者パンチを撃ってみたんだけど」
「あぁ、良かったぞ。もう師匠を越えたんじゃないのか?」
「えへへ、私はまだまだだよ」
「でも許可をもらっているとはいえ、本当に良かったんでしょうか?」
「う~ん、大丈夫じゃない?私達の結婚式の時にめぐみんちゃん、花火上げてくれたし……怒られたりしなかったよ」
「そ、それは異世界だからじゃ……」
四人でそんな事を話す中、上から紙が落ちてきて、僕らはそれを拾い上げた。
「これって……」
「お父様が書いたんですよね」
「素敵な絵だね」
「うん」
なんでこんな所にあるんだろうって思ったけど、絵が届いた瞬間、ある声が聞こえた。
『届けたよ。世界が紡いだ証を』
この声……いつか恩を返さないとな。姫野さん
それから僕らは部室で精一杯楽しんだ。本当は夕方になったら解散するつもりだったのだけど、いつの間にか園子が許可をもらっていたらしく、学校に泊りがけでパーティーを楽しみ……
深夜、僕は外で空を眺めていると美森が隣に座ってきた。
「綺麗だね」
「あぁ」
「戦いは終わって、世界は再生して……これから大丈夫なのかな?」
神樹の祝福がなくなって、二人の女神の祝福に満ちあふれているけど……どんな未来が待っているかわからない。だけど……
「世界がどうなるかわからないけど、僕はお前を幸せにする未来は確実だと思うぞ」
「………桔梗くん……」
「結婚しような。美森」
「はい」
僕と美森はキスをするのであった。これからさきの未来を一緒に歩めるように……
300年前、人類と天の神との戦いが始まった。それは辛く長い戦い……いつか来る平和を望み続けた。そして私が勇者として戦ったとき、彼と出会った。彼は大切な親友の願いで勇者の力を得たけど、彼もまた辛い思いをすることになった。私のせいだと自分を攻め続けたけど、彼は許してくれた。彼は勇者になり、友達と一緒に戦い続け、自分の過去と向き合い、友達を……大好きな人を救うために自身を犠牲にした
彼は天の神との対話で、世界を、神々を繋ぐもの……境界の勇者になり、世界は一時の平穏が訪れた。だけど人類の中には悪意を持つものがいた。その人は勇者に憧れた少女の思いを利用し、勇者に対抗するシステム、魔王システムを作り上げ、平穏を壊そうとしていた。だけど境界の勇者と私達勇者は立ち上がり、少女の思いを守り、魔王を打ち倒した。
彼は異世界で、二人の勇者と出会った。一人は女神に祝福された勇者、みんなのためにその身を犠牲にした優しい子。一人は勇者たちを守り続けると決意した守り神の勇者。出会いを得て、異世界を救った。だけど戻ってきた彼に待っていたのは、愛した人との別れだった。彼女は自分が犯し罪を償うためにその身を犠牲にしようとした。だけど、仲間たちに救われた。
だけど僕らに待っていたのは、人一倍誰かを救けたいという思いを持った少女にかけられた呪いだった。誰にも話すことが出来ず、彼女の心は壊れかける中、女神の勇者に、僕ら勇者部に支えられ、呪いを打ち消すのであった。これで本当に平穏が訪れるのであった。
「こんなもんでいいのか?」
「うんうん、ありがとうね~二人とも忙しいのに」
「大丈夫だよ。そのちゃん。でもどうして私達二人なの?東郷……美森さんや風先輩、樹ちゃん、夏凛ちゃんたちに書いてもらったほうが良いんじゃ……」
「大赦としては、二人に是非書いてほしいって言うんだって、私もそれが良いって思ったの」
「それにしても勇者御記がこんな感じで書くことになるとはな」
ましてやアレから10年後にこんなことを頼まれるなんて思ってもみなかった。
「今生きている人たちに、未来の勇者たちに語り継いでほしいから……私達の物語を」
いまを生きている……未来の勇者って言うと……
「そういえば大丈夫かな?訓練の方?」
「大丈夫だろ。同じかどうか分からないけど僕らは会ったことがあるんだから」
あれから10年、僕と美森は結婚、友奈も結婚して一児の母になった。そして友奈も考えることが一緒だなんて……
「未来の勇者、牡丹と友海か」
「私の初恋の人がいいって言ってくれたから……」
初恋の人か、あいつは今頃何してるんだろうな?幸せにやっているだろうか……でもきっと幸せだろうな。
「二人とも、この本のタイトル言ってもいいかな?」
「勇者御記じゃないの?」
「ううん、違うよ。タイトルは『勇者よ永久に』だよ」
僕らは歩き続ける。未来を。紡いで語り継いでいく。未来を生きていく人たちに……
これにて最終回です。
勇者の章は見ていて辛かったりありましたが、ハッピーエンドを迎えられて良かったです。
この小説は最初に書いたものの続編ということでしたが、微妙に改変したり、オリジナル設定にどう活かすか苦労しました。
最初は海は出すかどうか迷いましたが、正直出して良かったです。
これにて本小説は終わりですが、桔梗、海の活躍は花結いの方で、そして姫野の方はまだまだ続きます。