いつもの日常で、僕は何故か違和感を覚えていた。何だろうかこの違和感は……
「あの、桔梗さん?」
「ん?どうしたんだ?樹」
「いえ、ケーキ、切り分けましたよ」
考えことをしていたから、全然皆の話を聞いてなかった。ケーキって、これ樹が作ったのか?」
「どうしたのよ。桔梗がボーとしてるなんて珍しいわね」
「色々と考えることがあって……ケーキありがとうな。樹」
「いえ、味はどうでしょうか?」
「うん、悪くないよ」
見た目はちょっと悪いけど、味には問題ないな。樹も頑張ってるんだな……
もらったケーキを食べ終えると僕以外の皆が最後の一切れに手をやった。何で6人いるのに7等分したんだ?
「あれ?6等分したはずなのに癖かしら?」
「癖って……風先輩、それってどうしてですか?」
「えっ、いや……なんでかしら?」
友奈は何が気になってるんだ?7等分したのは先輩のうっかりとかじゃ……
『……ねぇ、今の私たちは……勇者はどんな存在なの?』
『きっと園子と同じ祀られていくと思う』
『祀られる……そんなの生き地獄じゃない』
『いや、地獄なんかじゃない。考え方によっては……』
『地獄でしかないわ』
『安心しろ。僕が地獄なんかにさせない。させるものか』
『き、桔梗くん、苦しい』
『っと、ごめん』
『桔梗くん。落ち込んでる女の子に優しくしたいのはわかるけど、不用意に抱きしめたりするのはいけないと思うよ』
『ご、ごめん』
『でも、ありがとう』
突然、頭のなかに覚えのない記憶が過ぎった。何なんだよ。これは……
「きょうくん?どうかしたの?」
「いや……ちょっとな……」
記憶の中の彼女は一体誰なんだ?それにこの感覚は前にもあった気がする……これは……
「桔梗、調子悪いんだったら帰ったら?」
「そうね。土曜の演劇も無理に参加しなくていいわ。あんたの場合、色々とありすぎたしね」
「………すみません」
夏凛と風先輩の二人に気を使われながら、僕は部室を後にするのであった。そして部室を出る時、友奈の表情は僕を気にかけるというより、何かしらを感じ取っている感じだった。
大赦の一室で私と彼はお茶を飲んでいた。それにしてもどうして勇者部の一人のことを私は忘れているのであろうか?
「これはバーテックスの仕業でしょうか?」
「バーテックスかもしれないし、他にも原因があるんじゃないのか?」
彼はお茶をすすりながら、そう告げると一枚の資料を取り出した。勝手に資料室から取ってきたのですか?あなたは……
「300年前、大赦はバーテックス……天の神に許しを乞うために、巫女を生贄にした。これを奉火の儀っていうらしいのだけど……」
「それは知っています。だけど大赦は……生き残った勇者は神樹の寿命が永遠じゃないということに気が付き、秘密裏に勇者システムの研究を続け、力を蓄えた。それは私と貴方の先祖である上里ひなた様も関わっていますよね」
「あぁ、おね……ひなたさんも乃木若葉さんも……」
でも、何故彼は奉火の儀の話を持ち出したのだろうか?今回の件に何か関係でも……
「今回の異変には大赦側が奉火の儀の執り行ったことが関係してるんじゃないのか?」
「待ってください!?」
大赦が奉火の儀を執り行った!?そんな話、聞いていない。それに儀式の目的は天の神に赦しを乞うためのもの……私たちはもう手を取り合って、失った大地の再生に取り組んでいるはずじゃ……
「………これはあくまで推測だけど、大赦の中には天の神側のことをまだ疑っている人間がいるんじゃないのか?」
「疑う………」
「300年続いた争いがたった7人の勇者の力で終わらした。だけど一部の人間はまだ天の神側を信じられなかった。手を取り合ったと見せかけていつか裏切るのではないかと考えた」
その結果、見出した答えは奉火の儀。生贄を捧げることで改めて赦しを乞い、不安をなくそうとしたってことなの?だけど……
「天の神側はどうして……生贄を捧げられたことを言わないんですか?」
「あっちもあっちで不安なんだろう。本当に人間を信じていいのかって……確かこっちのバーテックスは天に召された魂が天の神の住む世界に行き、天の民として住んだりしてるんだろ。それだったらいるんじゃないのか?」
「信じられない人たちがってことがですか?」
「それに天の神を守る十二人のバーテックスだけじゃなく、集まることで十二星座型のバーテックスを作り出すことだって可能みたいだし……」
「だとしても……どうして私の記憶を……それに天の神がこっちではなくそちらに来れないのは………」
「それは反対されるのを恐れたからこそ、そうするしかなかったんだと思う」
「そんな………」
きっと私は奉火の儀が行われていた事を知ったら、反対しただろう。でもだからこそ私達の記憶を……
「天の神だって、あっちに行った隙を突かれて儀式が完全に終わるまで帰れないようにしたんだと思うぞ。だけどちょっと甘かったのは、あっちには造反神や女神二人がいるってこと……それに」
彼は腕輪を見た。その腕輪に一体どんな力があるっていうの?
「天の神の力のお陰で僕はこっちに制限なくいられるようにできてるっていうこと……」
土曜日、僕は一人部屋に閉じこもり、今まで描いた絵を見つめていた。他の絵には特に気になるようなことはなかったのに、この間描いたこの絵だけ何か足りなかった。
「何が足りないんだ?」
そう呟いた瞬間、また頭のなかに映像が流れ込んできた。
『忘れない』
『嘘…』
『嘘じゃない!』
『うそ…』
『嘘じゃない!!』
『ほんと?』
『うん。私はずっと一緒にいる。そうすれば忘れない』
『僕もだ。そばに居てやる』
『友奈ちゃん、桔梗くん!忘れたくないよ!思い出したいよ!!私を一人にしないで!』
『一人になんかしないさ。なんたって僕は東郷、お前のことが好きなんだから……』
『泣かないで……もう忘れないから』
『あぁ、僕も皆のことを、君のことを忘れさせたりしない』
「ねぇ、桔梗くん」
僕はキメラバーテックスとの戦いを終わらせた後、三森と一緒に浜辺を歩いていた。
「何だ?」
「前に絵を描いてくれたよね」
前って言うと、夏凛が来る前に描いたような……
「また描いてほしいなって……」
三森は恥ずかしそうにしながらそんなことを告げた。そんな風に言われると僕も恥ずかしくなるんだけど……
「いいよ。描いてあげるよ」
「それじゃ前と同じ場所で描いてほしいな……」
「あぁ、分かった」
「忘れないでね」
「忘れないよ」
僕はすべてを思い出し、机を思いっきり殴った。何が忘れないだ。思いっきり忘れてたじゃないか。
「………くそったれ!!」
僕は感情のまま叫ぶが、誰にも届かなかった。そして僕はある場所へと向かった。僕が思い出したんだ。きっと友奈も……
勇者部が演劇をしている場所にたどり着くとそこには泣いている友奈をそっと抱きしめている園子と何が起きたのか分からないでいた先輩たちがいた。
先輩は僕のことに気がつくと……
「桔梗?どうしたの?あんたまでそんな急いで……」
「先輩……友奈、園子、思い出したのか?」
「うん……思い出したよ」
「桔梗くん………私……わたし……」
僕と園子は泣きじゃくる友奈を慰めながら、先輩に部室で何が起きてるか話すことを伝えた。
部室に戻った頃にはすでに夕方になっていたが、友奈は落ち着きを取り戻していた。
「ねぇ、あんたらどうしたっていうの?」
「………みんな、よく聞いて……今あるこの記憶は嘘ってことなの」
「嘘って……何を……」
先輩、樹、夏凛の三人が驚く中、僕は園子の代わりに続けた。
「僕がキメラバーテックスとの戦いが終わった後、何かとんでもないことが起きて……僕らの記憶にそれがなかったことにされたんだ」
「ちょっと待って、あんたら何を……樹、風、あんたら、桔梗が言ってること分かる?」
夏凛の問いかけに二人は首を横に振った。やっぱりまだ思い出せないのか……
「みんな、覚えてないの?勇者部にはもうひとりいた事を……東郷さん……東郷三森って子のことを!!」
「東郷……」
「東郷さん………」
友奈が三森の名前を告げたことで思い出したみたいだな。
「そういえば東郷ってどこに……」
「どうして……私、部長なのに……」
「いつから……桔梗さん、いつから私達……」
「これどういうことよ………」
「私………守るって、忘れないって誓ったのに……」
「ゆーゆ……」
皆が悲しむ中、僕は壁を思いっきり殴った。みんながびっくりする中、園子は後ろからそっと抱きしめてきた。
「忘れないように………か。あいつはこの事を……」
「きょうくん………」
「どうやら皆さん、思い出したみたいですね」
「やっとですけどね」
突然扉の方から声が聞こえると、そこには巫女服の少女ともう一人見覚えのある奴がいた。どうしてお前が……
「誰?」
「カイちゃん?」
「園子さん、知り合いなんですか?」
「うん、彼女は上里海。大赦の巫女だよ」
「上里って……乃木に並ぶ大赦のトップじゃない!!何でそんな人が……それにそっちの奴は……」
「同じ顔……」
皆が上里が来たことに驚く中、僕はもうひとりの方を見つめた。
「海、お前………どうして……」
「手助けと皆に何が起きてるか伝えにね」
こっちの世界でのバーテックスの設定がオリジナル設定でしたので、どうにも辻褄が……
奉火の儀の事とかは感想サイトでも言われていたので、海の推測として入れました。本当に二話が待ち遠しいです。
次回更新は二話終了したあとになります。