もしもシンゴジが艦娘の存在する世界で現れたら 作:watazakana
東京都大田区 蒲田ーーー
整列したまま捨てられた自動車は無慈悲に薙ぎ払われる。民衆の悲鳴も足音も、自動車の轟音と巨大不明生物の這いずる音、エラのような器官から漏れ出る赤い体液の落ちる音で掻き消されていった。
阿鼻叫喚の様相を呈する蒲田周辺では避難指示が交錯し、より一層の混乱を極めていった。
東京都品川区 北品川ーーー
「陸型艦娘即応隊都心第一部隊!全員配置につけぇ!」
陸型艦娘ーー艦娘という洋上戦略兵器を陸上でも運用可能にした試作型艤装を装備した艦娘ーー、その重巡級が北品川に配置していた。まだ直接の被害を受けていない品川は避難指示が通りやすく、予想より早く避難が完了した。
「今作戦は、今こちらに進撃している巨大不明生物の駆逐だ!隊長は私、那智が務める!火器は最低限の使用に留められるが、木更津からも「鶴翼」が出るので確実に仕留められるが、用心してかかれ!」
「「「了解っ!」」」
高雄と愛宕は弾の装填を終え、位置についた。
「巨大不明生物ねぇ…なんかいい呼び名ないのかしら?呼びづらいわ」
「愛宕、私語は謹んで。ほら、来るわよ」
不明生物は780mほど前方から猛然と這いずって来ていた。他の重巡級も装填を済ませ、後は観測員の合図を待つだけだが…
「…⁉︎止まった…だと⁉︎不明生物の動きが止まった!観測員!」
巨大不明生物の進撃が急に止まったのだ。
『ちょっと待って、巨大不明生物の様子がおかしい!』
巨大不明生物の異変は終わらない。ググ…と力を溜めるような動作をした後、おぼつかない様子ではあったが、確実に立ち上がった。ヒレは腕に、エラも消え、まるで両生類が爬虫類に変貌をとげるように。しかもありえない速度で。
「立った…⁉︎」
「もはや水生生物じゃないわ…」
「進化だ…」
皆が呆然と立ち尽くす中、那智はいち早く司令部に報告する。
「コマンドコントロール!コマンドコントロールッ!目標の形状が変わった!射撃の可否を問う!」
『こちらコマンドコントロール。射撃は待て。彼の動向を監視せよ』
ヤツが幾多の命をどれだけ奪ったと思っている‼︎那智は舌を打ち、巨大不明生物の方を見やった。
永遠と錯覚してしまう沈黙の数秒間、巨大不明生物は微動だにしない。
『こちらコマンドコントロール。陸型艦娘即応隊の射撃を許可する』
この一言だけで一触即発の修羅場は戦場へと変わっていく。
「全砲門、開けぇええええええ!!」
一声に数多の砲門が一斉に反応した。
「目標‼︎巨大不明生物ッ!火器の使用は最低限と言われていたが!陸型艦娘即応隊その第一部隊の全火力を以って殺すぞ!!」
「「「了解っ!」」」
砲門は慎重に、確実に彼を殺す準備を進めていた。やがてその準備が終わり…
「よォーい…!」
火をあげ轟音を轟かせ、彼の命を奪うその引き金を那智は合図と共に…
『待って!巨大不明生物のそばに住民がいる!待機!たーいき!コマンドコントロール!射撃の可否を問う!』
あと少しのところで引けなかった。
「んなッ…⁉︎」
『こちら観測員!住民に砲門を向けるわけにはいかないから射撃待機‼︎』
その言葉で、那智の憤りは頂点に達した。
「そんなバカな話があるか‼︎今しかないかもしれないんだぞ‼︎これからウン千人死ぬかもしれないんだ‼︎それだけじゃない、東京が!首都が‼︎このまま一人二人の住民のせいで滅茶苦茶に蹂躙されてもいいと言うのかッ‼︎貴様も見ただろう‼︎アイツの進化を!今すぐ射撃の許可を乞う‼︎」
と憤慨し怒鳴る那智に摩耶が「それ以上言ったらマズイぞ!」と制止した。
「あたしだって撃ちたいさ!討ちたいさ!この主砲で!皆の仇を!皆にあった明日の予定を、来週の予定を、全部何もかもぶち壊しにしやがったあのバケモンを!だがこれでぶっ殺せたとして、その住民が巻き込まれたら!隊長もその住民もその家族も破滅するんだぞ!」
息巻く那智、それを必死に制止する摩耶。そんな彼女らを尻目に巨大不明生物はまた倒れ、先程のように這いずりながら去って行った。
「これが上の決断だ。私達じゃどうしようもねぇんだよ」
那智は言い切れぬ悔しさと自責の念を涙ににじませ、その場に崩れ落ちた。
彼は2時間という短時間で蒲田周辺を壊滅させた後、何事もなかったように海へ帰っていった。
巨大不明生物、二足歩行な形態に移行。直後、以前のように這いずり海に去る。
現在
死者 約5300名
負傷者 約12000名
陸型艦娘即応隊ーーー洋上戦略兵器である艦娘の艤装を陸上でも運用できるように改造した艤装を背負う「陸型艦娘」を、いざという時に陸上でも瞬時に対応できるよう編成された即応隊。出番は概ね無いに等しい。第一部隊は切り込みに長けた重巡艤装「陸II型」を標準装備としている。
コマンドコントロールーーー司令部のこと。コマンドポストと迷ったが、結局これにした。
観測員ーーー利根の水偵に搭乗する妖精さん。那智の怒号で泣きそうになった。
鶴翼ーーー陸型艦娘の瑞鶴・翔鶴のみが扱える専用機。形状はB-35に酷似している。集中爆撃に特化しているが、そのかわり機動力に致命的な欠陥を残している