東方記末神伝 〜Undefined Apocalyptic Museum. 作:らむねこ。
この戦いが終わったら――
壱/ある男の決戦の前夜
「酒は醸した、後は巫女の承諾を得るだけだ。祭祀は整いつつある……」
輪切りにされた大木の卓上の前で胡座をかく男は茶褐色に染まる自分の頭をぽりぽり掻いた。
「名も知らぬ勇ましき水の神、この申し出を有り難き事と思います」
老夫婦の片割れが水の神と呼んだ男にねぎする声をかける。
男はその言葉に一切興味を示さずそわそわした様子で辺りを見回した。
「なぁに、頭を垂れるでない。ついでにだが水の神とは呼ばんでくれ……」
その言葉の後に一息着いた水の神は、
「して、其の娘は何処に?」
と老夫婦の父親を問い質した。
老夫婦の父親は男にこう応えた。
「『暫く一人に成って冷静に考えたい』との事で部屋に篭って居ります」
「そうか、一人に成りたいと……。明日迄に決めてもらわんとならんと言うのに其の娘は何をしておるのだ……」
水の神は訝しそうな表情を見せる。
「その答えは暫し待っては頂けませぬか。私等にとっても時間が無いのです。娘もそれは自覚していましょう。……少ない時間でこれ程迄に重大な話を娘に決めさせるのは難しいことなのです」
「……左様か。ならば明日迄ゆっくり待つとしよう」
➕
とある部屋に人影が一つ。
「……私は、私は彼の者と、契りを交わさねばならぬのでしょうか。教えて下さい、御天道様」
小部屋に一人、木彫りの机に平伏す少女は声の届きもしない頼り甲斐の無い者の名を呼んだ。
「母上父上が助かるにはやはりあの者の
『そんなことは無い。貴様が私を受け入れる事があるとするならば、貴様の
突然聞こえた声に木彫りの机から頭を上げ叫ぶ。
「何者!?」
『今はまだ知る時に無い。それもまた何れ解る事に過ぎないだろう』
謎の声はそう言い残すと後は何も話さなくなった。
「何れ……。ね」
主が残した声に何かを感じ取った彼女もまた、味も匂いもしない最後の晩餐の為にその席を立った。
➕
「彼の神はお眠りなさいました」
部屋から顔を出した彼女を見て老夫婦の母親が告げる。
言葉の通り件の神の様子を見てみると、他人の敷居だというのにも関わらず床の上に大の字になって大き過ぎる鼾を一つ二つと鳴らしている。
「……どうするのです?私達にはこれ以上事を長引かせる事は出来ません。……私達の事なんて考えなくても良いのです、貴女のこれからの為に貴女自身が決めるべき事なのですよ。
母親は問い質した。
「……母上。……私はまだ、父上母上と相変わらずこれからもこの地で共に過ごしてゆきたいのです。叶わぬ願いだと言うのは分かっています。……それでも――」
「仕方の無い事なのです。これが貴女にとって辛い選択だという事も私は分かっています。ですが、この二者択一の問題は貴女にしか解決出来ないのです」
「母上。それでも私は……っ」
「しっかりなさい、貴方は生命の象徴でもあるのです。私はそんな気の弱い娘に育てた覚えは有りません。……早く決めるのですよ」
「……はい」
暫くして出された晩餐を音も立てずに食べた彼女は足早に居間を出ていった。
➕
夜が更け、日が落ちるとまた暗闇を伴い夜が降りてくる。
➕
「私、決めました。……
山小屋の様に小さな家の中で反響する程大きな声を上げ奇稲田は言った。
「……その言葉を待っていた。良かろう、ならば今すぐに大蛇退治と洒落込もうではないか!」
立ち上がった須佐之男は叫ぶ様に言葉を返すと老夫婦が醸した酒を背負い奇稲田に背を向けた。
「御待ち下さい、私も行きます。……否、行かなければ成らないのです」
「何事だ?」
須佐之男を呼び止めた奇稲田は神妙な面持ちで言葉を紡いだ。
「……八岐大蛇は邪神故、姿を見せし時は最低限、巫女の力が必要だと言われております。しかし代々巫女を努めてきた姉様達は既に……。なので今代巫女を努める資格は私に御座います。……どうか、私も御一緒させて頂けませんか」
「うむ……。仕方なかろう、その代わりと言ってはなんだが……」
須佐之男が放った光が奇稲田の頭から足の爪の先まで全てを包むと一瞬にして彼女を櫛の姿へと変貌させた。
「戦は危ないからな。今はこれで我慢してくれ」
奇稲田からの返答は無かった。
➕
須佐之男は家の外に出ると宵闇の空をも劈く様な怒号で叫ぶ。
「
途端、ゴゴゴゴと大地が唸り始める。
『我を呼ぶのは何処の者ぞ』
これまた空を貫き通す様な声色を立てて山の様な、否、山の姿の蛇が頭を擡げる。
「御前、蛇だけに結構な蟒蛇なんだってな。どうだ、俺と呑み比べでもしようじゃないか」
『我と呑み比べをしたいと?高が小童に引けを取る訳がなかろう。良いだろう、受けて立つ。泣くでないぞ、小童め』
八岐大蛇の快諾の声を聞き、須佐之男は背負っていた二つの酒樽をどすんと置いた。
『まさかそれだけとは言わんだろうな?』
「当たり前だ、酒なら幾らでもある。……そんな事は気に止めずさっさとやろうじゃないか」
勢いよく二つの大きな酒樽の蓋を叩き割った。
➕
『あぁ、もう前も良く見えんわい……。それにしても貴様、ここまで余り酔わずに良く耐えられたな』
呑み過ぎ焦点が合わなくなった大蛇は山の様な自らの頭をその地に垂れ、その場に平伏した。
「そんな事はないさ〜。俺だって大分酔ってやがるよ〜……」
平地の上に胡座をかいていた須佐之男はふらっと立ち上がると千鳥足のまま八岐大蛇の近くへと寄って行った。
「おいおい蟒蛇さんよ。まだまだ行けんだろぉ〜……?」
『我はもう、限界だ。……投了。投了だ……』
「何でだよ〜。もっと楽しもうぜ?最後の晩餐をよ」
“なぁ?”
最後の一言に威圧の意を込め、ドスの利いた声のまま八岐大蛇に問う須佐之男の手には十拳剣の柄が握られていた。
『き、貴様。一体何を……?』
「一体何をって、何しているか分からないのか?」
須佐之男の手から伸びる十拳剣の刀身は八岐大蛇の首筋にぶすりと突き刺さっている。
『貴様、謀ったな……?』
「あぁ、俺がずっと呑んでいたあの樽の中身はただの水さ。因みにお前に渡していた樽の中身は七度醸したやばいほど辛い酒だ。幾ら蟒蛇のお前だろうと呑み続ければ何時かは酔いが回る」
首筋からどくどくと禍々しい鉄血を垂れ流し呻きながら大蛇は聞く。
『……何の、為にだ』
「厄災を討ち滅ぼす為だ。さぁ、永遠に眠るが良い!」
首筋から剣を抜くと朧月を映し輝いたそれを目一杯力を込めて大蛇の首に振り下ろした。
➕
八岐大蛇が最後に聴いたのは二人分の足音と、継いで呻き昏倒する須佐之男の声だった。
初めましてですね。名前の方はちょいと難しいですけどカタカナで(コヒツジ ヤジリ)と読みますです。
趣味で作品を書いてたのですがある人に唐突に「サイトだかどっかで出してみたら?(無感情)」と言われたのがきっかけでそれなら東方の二次創作を書こう!という気分になったのでペンを取らせてもらった次第です。実を言うと大体の粗筋は決まってますがまだ書き終えていません。\ヤベェ/ 幸先不安な作品となっております。それでも楽しんで頂けたら私も嬉しく思います。
追伸、次回からは本編に入りますし、こんな長ったらしい後書きも書きません(多分)