フェアリーテイルの二次創作を書かせていただきました。
拙く読みづらい文章ですが、楽しんでいただければうれしいです。
「…これも違う、関係ない。」
壁一面に本が敷き詰められた部屋には荒々しく本をめくる音と、青年の声だけが響いていた。
棚に入っている本が整然と並べられている一方で、彼の回りには、投げ捨てられたかのように本が散乱している。
「…これも違う。」
もう一度同じように呟くと、次の本へと手を伸ばしながら、読んでいた本を無造作に投げ捨てた。
しかし部屋に響いたのは本の落ちる音ではなく、青年へと向けられた声。
「近頃の若造は書物の扱い方すら知らぬのか?」
先程飛んできた本を近くの机に置きながら、貴重な文献が床にばらまかれているという惨状に、声をかけた男は溜息をついた。
「ベイルよ、聞いているのか?」
その青年、ベイルは読んでいた本を荒々しく閉じると、背中を向けたまま口を開く。
「図書館ではお静かに、そんなことも知らないのか?ハデス。」
「本を投げ捨てる若造に言われたくないのだがね。」
「さっきから若造若造と、皮肉のつもり?」
「私から見れば精神的にも身体的にも、うぬは若造よ。」
今度はベイルが大きく溜息をつき、首や肩を回しながら椅子から立ち上がる。
首などを回す度に鳴るポキポキという小気味良い音が、ベイルが長時間同じ姿勢で本を読みふけっていたことを証明していた。
「それで、何しに来たんだ?」
「久方ぶりに顔を出したと思えばこの書庫に籠もりきり。“うぬらの呪い”に関して、何か得る物はあったのか?」
「…全く、何もない。」
そこでベイルは振り返り、初めてハデスと目を合わせる。
ベイルはすまし顔で答えたが、その声は悔しさや悲しみを孕んだように低いものだった。
そんなベイルの様子を見てハデスは落ちている本を一冊手に取りながら、そうか、と一言だけ呟く。
「しばらくはここも大人しくしているんだろ?」
「また放浪の旅とやらに出るのか?」
「目的があって旅に出るんだ、放浪じゃない。数年は戻らないだろうから、他の奴らにも伝えておいてくれ。」
「私に言付けを頼むとは偉くなったものだ。…書物は戻していくようにな。」
すでに部屋の出口へと向かっているベイルに、ハデスは背中越しに声をかけた。
すると同時にハデスの持っていた本に、赤黒い紐が巻き付くように絡みつく。
いや、ウネウネと動くそれは紐というより触手という方が正しいかもしれない。
ハデスが本から手を離し辺りを見回すと、散乱していた本にも同じように触手が絡みついており、そのまま棚へと収納されていく。
「全く、いつ見ても奇怪な光景よ…。」
その触手の発生源は部屋の扉へと向かっているベイルの
手の平。そこから何本もの触手が伸びて、部屋中を蠢いている。
その光景は第三者が見れば発狂するのではと思うほどに異常なものだったが、ハデスは慣れてしまっているのか、少しも動じない。
やがて全ての本を棚へ戻し終えると、赤黒い触手も、収束するように彼の手の平へと戻った。
「連絡は常時取れるように。」
「善処する。」
ベイルは後ろ手に返事をすると、そのまま部屋を出る。
ハデスだけが残されたその部屋で、彼は本日二度目の大きな溜息をついた。
「眩しっ…。」
巨大な魔道戦艦から降りたベイルは、いつの間にか天高く上っている太陽の眩しさに思わず目を細めた。
魔道戦艦が停泊しているのは何処かの森林で、近くに人影はなく、風の音と木々のざわめきだけが広がっている。
「やっぱり外の空気の方がいいな。雑音もないし、落ち着ける…ん?」
しばらくここの空気と音を堪能してから出発しようと歩き出したその時、ベイルを覆うように影が出来た。
ベイルは顔を上げたが、今日は空に雲一つない快晴。
なのになぜ自分を影が覆っているのか。
「…スター!」
「この声は…。」
ベイルが声のする方へ振り向くと、その影を作り出した原因が彼へと猛スピードで近づいていた。
もちろんベイルには唐突に現れたその白い弾丸を止めるすべは無く、そのまま…。
「マスタアァァー!!」
「ぐほぁ!?」
衝突。
そのまま後ろへと吹き飛ばされ数回地面を転がってようやく止まる。
「ロガー…、いきなり…何を…。」
「何って、マスターを迎えに来たんすよ!」
「違う意味で迎えが来るかと思ったぞ…。」
ロガーと呼ばれたその生物は、大の字に寝ているベイルの腹からパタパタと蝙蝠にも似た翼を動かしながら離れると、不思議そうに首をかしげる。
どうやらベイルをなぎ倒した罪悪感などは感じていないようだ。
ベイルが起き上がるのを待ってから、相変わらず元気な声で会話を切り出した。
「レーリアさんにご挨拶をしに行くんすよね?他の皆はもうし終わって、すでに出発したっすよ。」
「ああ、今から行くところだ。ロガー、頼む。」
了解っす!、とロガーが答えると魔方陣が展開し、彼の純白の鱗をごつごつとした岩が覆っていく。
ベイルの腕に収まるぐらいの大きさだったロガーの体は、一台の乗用車程の大きさまで達して、魔方陣は消滅する。
「行くっすよー!」
ベイルが背中にまたがったことを確認すると、重々しい翼をはためかせて、雲一つない空へと飛び出した。
ごうごうと空気を切る音が耳に響く。
この分なら十分程で着くだろうなどと考えながら、以前より速くなっているロガーの成長ぶりにベイルは舌を巻いた。
「…それにしても、態々迎えに来なくても良かったんだぞ?」
「何を仰るんすか。我らがギルドマスターのため、これくらい朝飯前っす。」
「別に俺らはギルドって訳じゃない。ただ魔道士が集まってるだけだ。」
「これだけ強い魔道士が集まってるんすから、同じことっすよ。評議院にも認定されてるじゃないっすか。」
「…悪魔の心臓傘下の闇ギルド、不老不死《エターナル・ユース》、か…。」
ベイルの呟いたその言葉はとても小さい声であったが、ロガーの耳にはしっかりと届いたようで、慌てて励ましの声をかける。
「だ、大丈夫っすよ!闇ギルドなんて言われてるけど、マスターの今までの行動は正規ギルドと何ら変わらないものっす。今生きているあっしらがその証拠っす!」
気にしているのはそこじゃないんだがな、とベイルは思ったが、それはおくびにも出さなかった。
「ありがとな、ロガー。」
「ど、どういたしましてっす!…あ、もう着くっすよ!」
森の中にぽつんと建っている小屋の前に降りると、ロガーの体を覆っていた岩が剥がれ、元の白く小さな体へと戻った。
ベイルはロガーに入口の前で待機するように伝え、扉へと手をかける。
「失礼すぐほぁ!?」
「マスター!?」
扉を開けたベイルに空の透明な空き瓶が飛来し、ベイルの顔面へと直撃した。
かなり硬い空き瓶だったらしく、空き瓶は割れずに地面を転がり、それに続いて彼も後ろ向きに倒れ込む。
「おや、またあの娘が来たのかと思ったけど、あんただったのかい。」
「ポ、ポーリュシカ…いきなり何を…。」
倒れているベイルと、彼の傍らで泣き喚いているロガーを冷たい視線で見下ろしているポーリュシカ。
「さっきまであんたらの連れのサキュバス娘がいたんだよ。まったく、ギルドメンバーの世話すらろくに出来ないなんてね。」
「俺も一応、あんたの患者だと思ってたんだが…。」
「元気にギルドマスターやってる奴を患者にするつもりは毛頭無いね。」
赤くなった額をさすりながら空き瓶を拾い、小屋の中へと入る。
その間にポーリュシカとロガーの論争が始まっていた。
「このピンクハバア!マスターであり患者様であるマスターになんてことするっすか!」
「焼き鳥にされたくなきゃ口の利き方に気を付けな!後、前から思ってたけどね、語尾に“っす”て付けるの止めな!うっとうしいったらありゃしない!」
「これはあっしのチャームポイントであり、個性っす~。魅力も個性もないからって、嫉妬は醜いっすよ~?」
「焼き鳥に個性?はっ、笑えない冗談だね!」
「あっしは鳥じゃなくてワイバーンっす!」
ギャーギャーと騒ぐ一人と一匹の口論を尻目に、ベイルはカーテンに遮られた一つのベットへと近づいていく。
「騒がしくしてごめんな、レーリア。」
カーテンの向こうには少女が横たわっていた。
規則正しい呼吸音がするだけで、レーリアは何の反応も示さない。
彼女の周りは、まるで時間が止まっているかのように静かだった。
「また、しばらく出掛けてくる。…自分勝手な兄ちゃんでごめんよ。」
そこで言葉を切り、先程入ってきたばかりの入口へと向かっていく。
「いってきます。」
最後に顔だけをレーリアに向けながら呟くと、小屋の扉を閉めた。
「もういいのかい?」
いつの間にか口論は終わっていたようで、見計らったようにポーリュシカが声をかける。
ロガーは、痛いっす…、などと言いながら地面の上でピクピクと痙攣し、伸びていた。
…仮にも魔法を使えるこの生物をどのように倒したのか気になるところではあるが。
「あぁ、あまり長いのもあれだからな。」
「そうかい…。だったらさっさと出て行きな。」
「分かってるさ。行くぞ、ロガー。」
伸びているロガーを肩に担ぎながら、ベイルは離れていく。
そんなロガーの背中へ一際大きな声が届いた。
「あの子のことは任せな!だから、さっさと帰ってくるんだよ!」
その言葉に、ベイルは片手を挙げて答える。
彼の口からでた、“ありがとう”という言葉は、静かに木々の中へと吸い込まれた。
感想やアドバイスもお待ちしております。
最後までお読みいただきありがとうございました。