全てを捧げて   作:プラトン

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この小説は原作開始の七年前という時間設定で始まっています。

原作開始はあとちょっと先かな…?


虎の子

草や落ち葉を踏みしめながら、ベイルは森の中を闊歩していた。

ただ、この森はポーリュシカの小屋の近く、つまりマグノリア近くの森ではなく、ロガーの姿も見当たらない。

 

ベイルがポーリュシカの小屋を出発してからすでに一週間が経過しており、ロガーと別れてからは三日が経っていた。

 

基本的にベイルのギルドメンバーは単独行動をしており、それがギルドの活動方針でもある。

もちろんロガーも、ギルドマスターであるベイルもその例に漏れない。

 

一人一人が膨大な魔力量、強力な魔法を持ち合わせているため、戦闘面では余程のことが無い限り大丈夫だろう。

 

しかし…。

 

「皆、性格に難ありだからなぁ…。」

 

ベイルの心配は、ギルドメンバーの人格にあった。

いや、一人は獣格、一人は悪魔格と言うのが正しいかもしれない。

 

ベイルのギルド、不老不死は闇ギルドのため、常に評議院などに追われる立場にある。

だから問題を起こしてしまうと特に目を付けられやすく、そうなれば情報収集もやりづらくなってしまう。

彼もギルドメンバーにはその事を意識して行動するように念を押しており、それが功を奏してか、評議院の魔道士に狙われることもここ数年では“まだ”ない。

 

しかし、ベイルの顔色は優れなかった。

 

ベイルはポケットからある記事の切り抜きを何枚か取り出すと、苦笑いを浮かべる。

そこには『突然空から落ちてきた石による怪我人多数!』や、『昼間から老若男女に卑猥な話を持ちかける痴女現る!』などの見出しが書かれていた。

 

「ロガーとナーキュだよな、これ…。」

 

ベイルは頭の隅に、元気すぎるワイバーンと卑猥なサキュバスの顔を思い浮かべる。

それだけで頭痛を感じ、額に手を当てた。

 

「今度会ったらお説教だ。」

 

ありがたいことに、残りの三人はトラブルを抱えていないというのがベイルの唯一の救いである。

 

「四対二で言ってやれば少しは効くだろ…。」

 

記事をポケットに戻し、ポーリュシカにも協力してもらおうか、などと考えながら歩を進めていると、近くで爆発音が鳴り響いた。

 

「爆発…?近いな…。」

 

少しだが、魔力も感じる。

ベイルは気を引き締めると、爆発音の鳴り響いた方向へと駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ…!はあ…!」

 

時刻は正午過ぎぐらいだろうか。

木々の間から溢れ出る木漏れ日が、滔々と流れる川に反射している。

 

本来なら、そこは幻想的に美しい光景が広がっていたのかもしれない。

 

しかし今現在のそこは地面が削れ、木々は根元から倒れ、黒焦げになった獣の死体が大量に転がっているという、おぞましい空間が広がっていた。

 

そしてその中心には、息も絶え絶えになった女の子が立っている。

だが、膝が笑っており、今にも倒れてしまいそうだ。

 

「はあ…はあ、くぅ…。」

 

それでも倒れ臥すことは出来ない。

もし倒れたいという欲望に負けてしまえば、それは彼女の死を意味する。

 

彼女の周りを取り囲むように三十匹以上の狼が鋭い歯をむき出しにして唸りを上げ、腐敗臭の漂う涎を垂れ流していた。

仲間を殺された怒りなのか、それとも獲物を見つけた喜びなのかは分からないが、明確な殺意が狼の目には宿っている。

 

「っ!」

 

小さな咆哮をあげながら、狼の一匹が後ろから襲いかかる。

少女は間一髪身を翻して避けるも、急にバランスを崩した体を支える力は残っておらず、足をもつらせて転倒してしまう。

 

「うぁ…!」

 

好機とばかりに狼たちの目がギラリと光り、四方八方から一斉に飛びかかった。

 

少女には反撃するための魔力はおろか、声を上げることさえ出来ない。

 

恐怖やら悲しみやらの感情がごちゃ混ぜになり、涙が止めどなく溢れてくる。

 

「お許し…下さいぃ…。」

 

目を強く閉めて出たその言葉を最後に、全てが赤く染まった。

 

 

 

 

 

 

しかし、いつまでたっても痛みは訪れない。

 

「おい、大丈夫か?」

 

狼の鳴き声ではなく、人の声が聞こえる。

恐る恐る目を開くと、最初に目に入ったのは、心配そうに少女の顔をのぞき込む青年の顔。

 

少し首を傾けると、全ての狼が血を流して力尽きていた。

 

「なん…で…。」

 

「ん?」

 

「妾…は…弱者…なの…に…。」

 

「っ、おい、しっかりしろ!」

 

少女は、気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…、んん…?」

 

パチパチと弾けるような音が少女の耳を刺激する。

次に、何か香ばしい香りが花をくすぐった。

 

「ここは…。」

 

「お、目が覚めたか。」

 

ゆっくりと体を起こすと、それに気づいたベイルが声をかける。

 

少女はまだ状況が掴みきれないのか、ボーッとしながら辺りを見回した。

見えるのは森の緑ではなく、ごつごつとした焦げ茶色の岩と、自らを覆うような扇状の内壁。

 

「ここは偶然近くにあった洞窟だ。獣ももういない。」

 

混乱している少女を落ち着かせるように、静かな声で状況を説明する。

それでも少女は、何が不安なのか、若干涙目になりながら洞窟の壁際まで座ったまま後ずさり、かけられていた毛布に包まってしまった。

 

「そ、其方は…?」

 

「そなた…?俺はベイル・ミルネウス。ベイルと呼んでくれ。君は?」

 

「…ミネルバ。ミネルバ・オーランド。」

 

「ミネルバか、よろしくな。」

 

互いに自己紹介をし終えたところで、ぐ~、という音が洞窟に響いた。

ミネルバは赤面して更に深く毛布をかぶってしまうが、ベイルは微笑むと、焚き火にかけてあった焼き魚に手を伸ばす。

 

「食べるか?」

 

「…だめ。」

 

「だめ?魚は食えないのか?」

 

宗教的な問題かもしれないと思い、ベイルは一緒に取ってきた木の実をミネルバに手渡そうかと考えたが、ミネルバの言葉が彼の動きを止める。

 

「妾は弱者だから…ご飯は食べちゃだめなの…。」

 

「…何?」

 

その言葉にベイルは顔をしかめた。

同時に、彼女を助けたときのことを思い出す。

まるで弱者は助けられないのが当たり前とでも言うようなあの言葉。

 

そもそもなぜ、こんな年端もいかない少女が、たった一人であの場所にいたのか。

この辺りはまだ人の手がほとんどついておらず、自然が多いと同時に凶暴な獣や魔物も多い。

土地勘のないベイルでさえこの森に入る際に、近くを通った商人から忠告されたのだ。

 

「ミネルバは何であんな所にいたんだ?ここが危険な場所だとは知らなかったのか?」

 

ミネルバはふるふると首を振った。

 

「父上が、強者になるまで帰ってくるなって…。弱者のままなら、ここの獣に殺されてもしょうが、ない、か、

ら…。」

 

そこまで言うと、ミネルバは大粒の涙を流し始める。お許し下さいと何度も口にしながら。

 

そんな彼女にベイルは近づき、頭をポンポンと撫でた。

 

「ミネルバ、これ持って。」

 

「うっ、ひっく…、ふぇ…何…?」

 

ベイルがミネルバに渡したのは、焚き火用にベイルが集めてきた木の棒。

ミネルバはいきなりのことで訳が分からなかったが、大人しくそれを受け取る。

 

「それで俺の頭を叩いてみな。」

 

「えっ…と…、何で…?」

 

「いいからいいから。」

 

ミネルバは言われるがままに、ゆっくりと木の枝を彼の頭へと振り下ろした。すると…。

 

「ウワー、ヤラレター!」

 

「!?」

 

突然、棒読みも甚だしいセリフを叫び、仰向けに倒れた。

そして頭をおさえながら、アーヤラレターなどと言葉を続ける。

ミネルバは何が起きているのか分からず、頭の中で?マークが大量に舞っていた。 

 

少し経つとベイルは起き上がり、再度ミネルバの頭を撫でる。

 

「お前は俺をやっつけた。つまり、今ここではお前が強者だ。」

 

「へっ?きょ、強者?私が?」

 

「ああ。だから、飯を食って良いんだぞ?」

 

「っ!」

 

ベイルの言葉を聞いたミネルバは、顔を伏せて震え始める。そして顔を上げて大声で…。

 

「あはははは!」

 

笑い出した。

 

「え、何で笑う!?そこは感動の涙を流すところだろう!?」

 

「だ、だって…ふふっ、わざとらしすぎ…ぷふ!」

 

「こ、渾身の演技だったのに…!」

 

今だに笑っているミネルバに恨めしい目線を投げながらも、安心したように息を吐き出す。

 

「笑えたな。」

 

「ふ、くくっ…、え、何?」

 

「どうだ、だいぶスカッとしただろ?涙も止まったし。」

 

ミネルバは顔をペタペタと触る。涙はいつの間にか止まっていた。

 

「…ご飯、食べるか?」

 

「…うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余程腹が減っていたのか、ミネルバは脂ののった焼き魚に無我夢中でかぶりつく。

一方ベイルはそんなミネルバの様子を見守りながら水を飲んでいた。

内心では、魚の骨をのどにつっかえないかなどとハラハラしていたのだが。

 

食事をしながら、ミネルバは様々なことをベイルへと話した。

父親のこと、ギルドのこと、自らの魔法のこと、つらかったことなど、今まで誰にも言えなかったことを話し続けた。

 

話す度にベイルは彼女を褒め、励まし、共感し、悲しんだ。

それが、ミネルバはとても嬉しかった。

 

「ところで、ベイルは何でこの森に来たの?」

 

取ってきた魚を食べきり、ミネルバの話が一段落したところで、今度はミネルバがベイルに尋ねる。

腹の内を明かしたことで気持ちも晴れたのか、表情も柔らかくなっていた。

 

「俺はこの近くの遺跡に用があるんだよ。」

 

「ベイルは魔道士だよね。クエスト?」

 

「ん、まあ、そんなところだ。」

 

「ふ~ん。」

 

ミネルバは焚き火に木の枝を追加しているベイルをじっと見る。

ベイルは全くの赤の他人である自分を救ってくれた。

三十匹以上の狼を瞬殺出来る程の魔道士である彼は、ミネルバにとって、すでに憧れに近い存在。

 

ベイルみたいに強ければ、父上も認めてくれるんだろうな。

 

そう思ったとき、ミネルバの頭に一つの考えが浮かんできた。

 

「…ねぇ、ベイル。」

 

「何だ?」

 

「…妾を弟子にして!下さい!」

 

「…は?」

 

さすがに予想外だったのか、ベイルは素っ頓狂な声を上げる。

二の句が継げないベイルに対して、ミネルバは更に言葉を重ねた。

 

「ベイルに教えてもらえば、妾はもっと強くなれると思うの!お願い!」

 

ミネルバは地面に付けるように頭を下げる。所謂、土下座だ。

最初こそ呆けていたベイルだが、そんな彼女の姿を見て、表情も真剣なそれへと変わる。

 

「…すまないが、それは無理だ。」

 

「な、なんで!?」

 

「弟子を取る時間は無いし、俺は、そんな器の人間じゃない。」

 

急に変わったベイルの雰囲気に、今度はミネルバの言葉が続かなかった。

 

「うぅ…。」

 

「悪いな、他をあたってくれ。」

 

ミネルバがベイルに出会ってからまだ一日も経っていないが、初めて聞いた彼の突き放すような低い声に、ミネルバは怯んでしまう。

それでもまだ、諦め切れなかった。

 

「じゃ、じゃあ!その遺跡に妾も連れて行って!」

 

「…。」

 

「ベイルの戦い方とか魔法とかを見れば、きっと得られる物がある!足手まといにはならないから!」

 

「…駄目だ。何があるか分からないし、危険すぎる。」

 

「私は強くならなきゃいけないの!!」

 

「っ…。」

 

それは悲鳴にも似た、彼女の懇願。

ベイルの服を強く掴み、真っ直ぐ彼の目を見るミネルバは、先程と同じように涙を流していた。

 

「…だから…お願い…!」

 

「…分かった。」

 

「…ほ、ほんとに…?」

 

「ああ。ただ、遺跡での用が済んだら、お前を父親の元へ帰す。いいな?」

 

「うん!ありがとうベイル!」

 

 

 

ーなぜ、全く関係の無い小さな少女を巻き込んでしまったのか。

 

ー力を純粋に求めるその姿勢はー

 

 

 

「ベイル?どうしたの?」

 

「っん?いや、何でもないぞ。というかそろそろ寝な。遺跡に行くなら、明日は早いぞ。」

 

「はーい!」

 

ミネルバの同行を認めてしまった以上、なんとしてでも彼女を守り切らねばならない。

遺跡が危険だ、なんて確証はないが、安全という確証もない。

絶対に守らなければ。

 

そう考えながら、ベイル自身も寝る体制へと入る。

 

「あ、ベイル-。最後に一ついい?」

 

「今度は何だ?」

 

「遺跡って、何の遺跡なの?やっぱり古代人とか?」

 

「そうだな。なんでも、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ヤクマ族とかいう民族の遺跡らしい。」

 




ミネルバの幼少期の口調が難しい…。
感想、アドバイスなどもお待ちしております。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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