全てを捧げて   作:プラトン

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少し長くなってしまった…。


ヤクマ族

ミネルバとベイルは夜が明けるとすぐに洞窟を出た。

ベイルは夜が明ける前から起きて安全を確保するために索敵などを行っていたが、ミネルバの方は昨日の疲れが出たらしく、ベイルが体を揺すってようやく起き上がる。

 

森の中を歩き始めてもミネルバは相変わらず眠そうだったが、あくびをかみ殺して、ベイルと離れないようについていく。

 

昨日の夜のようにミネルバが色々と話をふりながら歩いていくが、楽しそうなミネルバに対して、ベイルの表情は心なしか硬くなっていた。

 

しばらく歩くと緑は少なくなり、開けた場所へと出る。

 

そこで始めに目に入ったのは、見上げる程の高さはある階段のような人工物。

その先に何があるのかは角度的に見えないが、大して広い空間はなさそうだ。

 

辺りにはそこかしこから、以前は垂直だったであろう円柱状の石柱が生えている。

 

しかし目立ったものはそれぐらいで、人が済んでいたような建造物は見当たらず、苔の生えた岩や瓦礫が散乱しているだけだった。

 

「これがヤクマ族の遺跡?人が住んでた感じはしないけど…。」

 

「祈りなんかを捧げるための場所だったのかもしれないな。」

 

ミネルバの疑問に、ベイルは石柱を触りながら答える。

微量な魔力を感じたが、何の変哲も無い石柱のようである。

 

「大して何も無さそうだな…。」

 

「それじゃあベイルから何も学べないよ…。」

 

「戦闘がないに越したことはないな。それに、そんな一朝一夕で学べるものでもない。」

 

「…でもまだ、あの建物が残ってる!」

 

「あ、おい!一人で動くな!」

 

急に階段へと駆けだしたミネルバを慌てて追いかける。

石造りの階段を上りきるとそこには、最初の予想通り大した広さはなかった。

円形の床に、円の縁には手すりにも見える石壁、そして中心には何かマークのようなものが彫られている。

 

「狭いし、何もないね。」

 

「確かに、あるのはこの記号列だけか…。」

 

ベイルもこのような記号は見たことがない。恐らくヤクマ族の古代文字だろうが、意味は全く理解出来なかった。

 

「記号だけ書き写して、どこかで解析するしかないか…。」

 

この建造物以外に情報となるような物はもうない。

一度近くの街に戻ろうかとミネルバに声をかけるが、彼女は記号を見つめるだけで何の反応も示さなかった。

 

「ミネルバ、どうした?」

 

「…レ・リア・リゴール。」

 

「…なんだって?…うお!?」

 

ミネルバが妙な言葉を呟くと、彫られていた記号列が光を放ち始め、建造物が大きく揺れ始めた。

 

咄嗟にミネルバの腕を掴んで引き寄せしゃがませる。

我に返ったミネルバも何が起きているか理解できないのか、首を左右に動かしながら困惑していた。

 

「…止まったか。ミネルバ、大丈夫か?」

 

「う、うん。びっくりした…。」

 

「お前、さっきの記号が読めたのか?」

 

「妾も初めて見たんだけど、何ていうか、急に頭の中に言葉が浮かんできて…。」

 

「浮かんできた?思念か何かか…?」

 

「…あ、ベイル!さっきのとこに穴が空いてるよ!」

 

ミネルバが指さす方向へと目を向けると、記号列が書かれていた床が抜けて空洞が出来ていた。

人間ならすっぽりと入れるほどの口が空いている。

 

「真っ暗だね…。どこまで続いてるのかな?」

 

「ちょっと待ってろ。今調べる。」

 

「調べるってどうやって…って、えぇ!?」

 

ベイルは腰に指していた短刀を抜くと、自らの左手の平に小さな切れ込みを入れる。

そこから血が溢れてくるのを見たミネルバは小さく悲鳴を上げた。

 

「い、痛いよ!何やってるの!?」

 

「これが俺の魔法なんだ。心配するな。」

 

手の平を空洞へ向けると、流れ出ていた血液がまるでロープのようにスルスルと空洞へ入っていく。

 

「…そんなに深くないな、地面の少し下ってところか。生物もいなさそうだ。ミネルバ、降りるぞ。」

 

ミネルバへ声をかけるが、またも反応がない。

振り向くと、手で口を抑えながらベイルの左手をじっと見ていた。

 

「大丈夫か?」

 

「その、見たことない魔法だったから、あと、ちょっと衝撃的で…。」

 

「よく言われるよ。で、お前はここに残るのか?」

 

「…ふぅ、よし、妾も行く。」

 

「じゃあ俺の体に掴まって。」

 

「ふぇ?あ、えっと、うん…。」

 

ベイルの胸に体を預けるようにしてしがみつくと、ベイルは空いている右手で彼女を支えながら、ゆっくりと降りていく。

 

「(なんか、ここにいると暖かいな…。)」

 

「ミネルバ、着いたぞ。」

 

「…。」

 

「ミネルバ?おーい!」

 

「えっ!?あ、何!?」

 

「いや、もう降りたぞ。なんかさっきから様子が変じゃないか?」

 

「そ、そんなことないよ!さあ行こう!」

 

ボーッとしていたと思ったら、キビキビと歩き出す。

しかし、数歩あるいてすぐに立ち止まる。不思議そうに辺りを見回す。

 

「ここ、なんでちょっと明るいの?」

 

外から覗いたときは真っ暗だったのに、とミネルバは言葉を続けた。

彼女の言う通り、ベイルたちの立っている空間は、彼らが入ってきた穴以外に出入り口のない完全な密閉空間。

呼吸するための空気穴はどこかにあるだろうが、太陽の光が入る余地はどこにもなかった。

 

するとベイルは黙って天井を指差す。

そこには淡い光を放つ魔方陣が描かれていた。

 

「俺が魔法で高さを測ったときには発動していたから、多分生態リンク魔法の一種か何かだな。今まで魔力が持ち続けていたのは驚きだが…。」

 

「生態リン…ク…。」

 

加えて、ベイルはこの空間にも違和感を覚えていた。

この地下空間は地上からほとんど離れていない。天井が雨などの自然現象により浸食されて陥落してもおかしくないはずなのに、ヒビ一つ入っていなかった。

 

「これも魔法の影響…?そこまでしてこの空間を残したかったのか?」

 

それにどこから魔力を供給しているのだろうか。

もしかしたら、地上に出ていた石柱が魔力を集めていたのかもしれない。

 

「ベイル、あれ…。」

 

ミネルバの声に、考え込んで下げていた頭をはっと上げる。

見ると、彼女は空間の奥を指さしていた。 

 

白く大きな台座の上には、対照的な色合いの真っ黒な本が一冊置いてある。

それより先はすでに壁であり、その場所が空間の最終地点であることを示していた。

 

「題名も何もない本、あるのはこれだけか。」

 

「…。」

 

ベイルは慎重に本を開いていく。

最初のページには、上に書いてあったものと同じような記号列が並んでおり、そこから先は全て空白だった。

著者名も見当たらない。

 

「本じゃなくて日記か?どっちにしろ、これじゃ大した情報は期待出来ないかもな…。」

 

「…。」

 

「ミネルバも見てみるか?…ミネルバ?」

 

ミネルバは黙り込んでいたが、ベイルの呼びかけに対してゆっくりと、静かに口を開く。

 

「それ、多分読めるよ。」

 

「この本の文字をか?だけどさっきは知らない文字だと…。」

 

「さっきの時と同じで頭に浮かんで来るの。貸してみて?」

 

ミネルバの言う通り、この空間の入口の件もあったため、戸惑いながらもベイルは本を手渡す。

 

「ありがとう、ベイル。後は私に任せて!」  

 

最初のページをめくると、ミネルバは聞き慣れない言葉を呟きながら記号列を読み進んでいく。

 

一方ベイルは、この空間に入ってからの違和感がどんどん膨らんできているのを感じた。

何か変だと思いながらも、その何かが分からない。

 

ミネルバは記号列を噛むこともなく、スラスラと読み続ける。

 

 

 

ーわたし?

 

 

 

「おいミネルバ!お前…!」

 

「レギア・ヴァリール!」

 

その瞬間、大きな揺れと共に天井が崩れ、瓦礫が二人へと降りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ははっ!やっと、やっと自由の身だー!!」

 

石造りの階段は崩壊し、かろうじて建っていた石柱もほとんどが横倒しになって土煙を上げている。

 

そしてその瓦礫の中心に立ち、歓喜の声を上げる男が一人。

服装は背丈に合っていないのか、手と足は布で覆われていて見えない。

唯一見える顔はやつれていて、大口を開けて笑うその姿が不気味さを際立たせている。

 

「まさか何百年も封印されるとはなぁ。すっかり景色も変わっちまってるし…、いや、それは俺がやったんだった。ヒヒヒヒヒ!」

 

「何がそんなにおかしいんだ?」 

 

「あ?…おっと!」

 

突然男の足元の瓦礫が持ち上がり、吹き飛んだ。

男は足を取られそうになるも、吹き飛ぶ寸前に跳躍し、軽やかな足取りで足場の悪い瓦礫の上へと着地する。

 

瓦礫の中から姿を現したのは気絶したミネルバと、彼女を抱える血まみれのベイル。

 

「格好いいねぇ~、命がけで守りましたってか?」

 

「お前、ミネルバに何をした。」

 

挑発を流されたのがつまらなかったのか、にやけ顔を止めて大げさに溜息をつく。

 

「何って、ちょこっと操らせてもらっただけだよ。俺の封印を解くためにな。」

 

「お前はヤクマ族か?」

 

「そうさ。俺はヤクマ族のガリア、んでもって、多分今じゃ一族最後の生き残り。あ、お前の名前は言わなくていいぞ。どうせすぐ殺すしな。」

 

「…。」

 

あ~、とだらしない声を出しながら面倒くさそうに首や肩を回す。

ベイルからすると、背丈に合わないぶかぶかの服は運動に適さないように見えるが、当の本人は慣れているのか気にしていない。

 

ベイルはガリアから目を離さないまま、ゆっくりとミネルバを比較的平らな瓦礫の上へと下ろす。

 

「俺もさ~、何百年も閉じ込められて色々とストレス溜まってんだわ。だから助けてもらってなんだけど、ストレス発散と復活記念にさぁ…。」

 

そこで言葉を切ると、ガリアは足元にある鋭く尖った瓦礫を手に取り、身をかがめてベイルの懐へと高速で飛び込む。

ガリアの細長い足からは想像も出来ない速さだった。

 

「死んでくれねぇかなぁ!?」 

 

「…そうか、それは奇遇だな。」

 

ガリアの狙いはベイルの首元。

鋭い尖端がそこに近づくにつれ、ガリアの顔が狂気じみた笑みに染まっていく。

しかし…。

 

「俺もストレスが溜まったところだ!!」

 

「ごふぁ!?」

 

すぐに笑みは苦痛の顔に塗りつぶされた。

ベイルの背中から生えた赤黒い触手で腹を強打され、打ち上げられるように弧を描くようにガリアの体が吹き飛ぶ。

 

そのまま地面に叩きつけられ、激しく咳き込む。

だが、ガリアの顔は苦痛ではなく怒りに染まっていた。

 

「気持ち悪ぃ魔法を使うなぁ…。こりゃテメエら二人じゃ足りねえ、テメエらと仲良しこよししてる奴も全員皆殺しだぁ!!」

 

その言葉にベイルが微かに反応を示すが、ガリアは気づかない。

膨大な魔力がガリアに集中し、魔法の影響か、近くの小石や小さな瓦礫が彼の周りを漂い始める。

 

「血まみれの貧弱な体じゃ俺のヤクマ十八闘神魔法は耐えきれねえ!そこのザコ娘と一緒に吹き飛びな!」

 

魔力がガリアの突き出した右手へと一点集中し、弾け飛ぶ。 

 

「ャグド・リゴォラ!!」

 

地面から巨大な石像が現れ、弾け飛んだガリアの魔力が石像に叩き込まれる。

石像は強烈な光を放ち、光の柱となって地面を抉り、雲を割いた。

 

「はははは!!跡形もなく消え去りやがった!」

 

光が収まると、そこに二人の姿はない。

死んだことを確信したガリアは口を歪めて高笑いを響かせる。

 

「やっぱ俺が正しかったんだ。これだけの力がありゃニルビット族も敵じゃなかった。俺を封印なんかしなけりゃ、ヤクマ族が全てを支配していたんだ!」

 

ガリアの叫びには誰も答えない。

それでも彼は吠え続ける。まるで、今は亡き者たちに見せつけるように。

 

「甘っちょろい馬鹿ども、精々地獄で見てやがれ!俺がヤクマ族の偉大さを知らしめて全てを統治してやる!ヒヒッ、ハハハハハ!」

 

「…随分と大きい独り言だな。」

 

「ハハハ…は?」

 

あり得ない、確実に、それこそ影も形もなく消し飛ばしたはずだ。

 

ガリアはゆっくりと後ろへ振り向く。

 

血まみれのベイルが立っている。

 

「てめ…あの魔法から、どうやって…!」

 

「お前がザコ娘とのたまった、ミネルバの力だよ。」

 

ミネルバは意識は戻っているものの、ベイルの足元で力無く瓦礫に背を預けながら座り込んでいた。

ミネルバは目にたくさんの涙を溜めながら血まみれのベイルを見上げる。

 

「べ、ベイル…。」

 

「ミネルバ、もう少しだけ、そこで待っててくれ。」

 

「え…?」

 

ベイルはミネルバと目を合わせるように屈み、優しく声をかける。

身体中から出血しており、その血液が鞭のように何本も蠢いていた。

それでも彼女は、彼を恐いなどとは少しも思わない。

 

彼の声と眼差しは、とても暖かいものだから。

 

「あいつをぶっ潰してくるから。」

 

「うん…。」

 

そこでミネルバは気を失った。

 

「…さて、お前に二つほど聞きたいことがある。」

 

「聞きたいこと?」

 

再びベイルはガリアと相対する。

魔法を避けられたことは予想外だったが、それを行ったミネルバが気絶したことにより、ガリアは余裕を取り戻しつつあった。

 

「マレバラント、という名前を知っているか?」

 

「はっ、誰だそりゃ。聞いたこともねーな。」

 

「…二つ目の質問だ。お前は先程、仲良しこよしも殺すと言ったな?それには、俺の家族も含まれるのか?」

 

「ヒヒッ、だったら如何するんだ?血だらけの脆弱野郎がよぉ!!」

 

ガリアが右手を突き出す。ベイルとやり取りをしている間に魔力を集中させ、魔法の準備を整えていたようだ。

 

「今度こそ吹き飛べ!ャグド・リゴォラァ!!」

 

一度目よりも濃縮した魔力が地面から現れた石像を貫き、天にも届く大爆発を引き起こす。

 

「…。」

 

「っ!?」 

 

白く輝く閃光の中から歩いて近づいてくるベイルは左腕から肩にかけてなくなっていた。

 

その姿を視認したガリアに生まれたのは、手傷を負わせたという喜びでも、あの爆発で左腕一本で済んだのかという驚きでもない。

 

 

 

 

恐怖。

 

 

 

 

「血流乱舞。」

 

「ぐああああっ!!?」

 

ガリアの身体中を打ち付けるように赤黒く尖ったベイルの魔法が貫いた。

その数は百本を優に超え、全て急所を外している。

 

「ああっ、がっ、はぁ!お、い、待て!待ってくれ!!」

 

「言っただろう?」

 

ベイルは静かに右手を空に掲げる。

 

串刺しにされているガリアを大きな影が覆う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“ぶっ潰す”ってさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大な赤黒い塊が上空から降りかかり、ガリアを“ぶっ潰した”。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…、んん…?」

 

ミネルバが目を覚ましたのは、昨日彼女らが寝泊まりをした洞窟の中。

 

パチパチと弾けるような音が洞窟に響き、香ばしい香りが漂っている。

 

ゆっくりと身体を起こすと焚き火の前には、自分の命を救い、自分の笑顔を作り、血まみれになってまで自分を守り続けてくれた青年の姿があった。

 

「ミネルバ…。」

 

ベイルも起きたミネルバに気が付き、顔を上げる。

彼の姿はすでに血まみれなどではなく、消えたはずの左腕(ミネルバは知らないが)も元に戻っている。

 

「…ごめんなさい…。」

 

ベイルの姿を見たミネルバから最初に出た言葉は、謝罪の言葉だった。

 

「あんなに…血が出て…大怪我させて…ごめんなさい…!」

 

「…。」

 

「足手まといにならないって…言った…のに…!」

 

拭っても拭っても、止めどなく涙が溢れてくる。

 

ベイルはそんな彼女に静かに寄り添い、そっと抱きしめた。

 

「…よかった…。」

 

「っ、ベイル…?」

 

「無事で、本当によかった…!」

 

ベイルは、震えていた。

ガリアの精神介入に気づかず、また守れないのかと、失うのかと、恐怖した。

 

「お前はよく頑張った、足手まといなんかじゃない。…気づいてやれなくて、ごめんな…。」

 

「う、あ…、ごめ、なさ、うああぁ…!」

 

洞窟の中に鳴き声がこだまする。

焚き火の暖かい光が、静かに二人を照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、二人は最寄りの街へ向かうために森を抜けようとしていた。

ミネルバが言うには、父親はその街に滞在しているらしい。

 

「ねぇ、どうしてベイルはそんなに強いの?」

 

「またその話か…。」  

 

ベイルの戦い方は独特すぎて、正直ミネルバには参考にし難いものであった。

強くなるためにベイルに同行したものの、彼女は何も学べなかったことが心残りのようだ。

 

しかし、すでにミネルバは強くなっていると、ベイルは言う。

 

ガリアの一度目の魔法を避けられたのはミネルバの魔法、絶対領土《テリトリー》があったからこそである。

 

「それにミネルバはヤクマ文字を覚えているんだろ?ならその言葉を理解出来れば、あいつの使っていたヤクマ十八闘神魔法も扱えるようになるはずだ。」  

 

「それはそうなんだけど…。なんて言うか、ベイルが強いのは魔法とか力とかだけじゃない、もっと違う強さがある気がするの。」

 

ミネルバはベイルの前へ小走りに回り込むと、立ちはだかるように立ち止まる。

 

「妾は単純な強さじゃなく、そんなベイルの強さに近づきたい。」

 

街が近いのか、街特有の人々の喧騒が遠くに聞こえてきた。

 

「…じゃあ最後に一つだけアドバイスをしてやろう。」

 

「アドバイス?…あうっ。」

 

ベイルはミネルバに視線を合わせるためにしゃがむと、彼女の頭に手を置いてポンポンと撫でる。

 

「人間はな、本当に守りたいものが出来たときに一番強くなるんだ。」

 

「守りたいもの…。」

 

「だからミネルバ、何を犠牲にしても、自らを捨てても守りたいと思うものを見つけるんだ。」

 

「…。」

 

「すぐに見つかるもんじゃないし、焦らなくていい。これからお前が生きていく中でゆっくりと探せ。」

 

ミネルバは実感がわかないのか、曖昧に頷く。

そんな彼女にベイルは微笑み、そうだ、と言いながらポケットからある物を取り出す。

 

それは細長い六角柱の小さな赤い結晶。

紐で繋がれているそれをミネルバの首へとかける。

 

「綺麗…。」

 

「俺のからのお守りだ。魔力と俺の意思を込めて作ったから、何かあったとき、きっと助けてくれる。」   

 

深紅に輝く結晶を、ミネルバは優しく手で包み込む。

 

「うん!ありがとう、ベイル…///」

 

「ああ。…さて、そろそろお別れだ。」

 

その言葉を聞いた瞬間ミネルバの笑顔が一転、泣き出しそうな顔になるが、涙を零さないようにぐっとこらえる。

 

もっと彼と一緒にいたい。

でも、泣いてばかりはいられない。

ベイルのように強くなるには。

 

「…また、会えるよね?」

 

「もちろんだ。」

 

「妾は、次会うときはもっと強くなって、大切なものもきっと見つけるから!」

 

「お前なら、きっと出来るさ。」

 

「それと、あの、えっとね…///」

 

「ん?」

 

「えっと、じゃあ、またね!」

 

「…?ああ、またな。」

 

ミネルバは森と街の出入り口へと走り出す。 

ベイルはその姿が見えなくなるまで見送ろうとしていると、ミネルバが急に振り返り、大声で叫んだ。

 

「ベイル-!大好きだよー!!」

 

「!」

 

それだけ言うと彼女は今度こそ振り返らずに、街へと消えていった。

 

「ったく、あいつは…。」

 

残されたベイルは面食らったものの、照れくさそうに笑いながら、一人呟く。

 

「よしっ、俺も頑張んないとな。」

 

気を引き締めるために頬を二回たたくと、次にすべきことを頭の中で確認する。

と言っても、やるべきことは大体決まっているのだが。

 

「まずは場所を特定しないとな。」

 

次のベイルの目的、それはガリアが口走っていたある民族の痕跡を探すこと。

 

その民族の名は、ニルビット族。

 

 

 

 

 

 

 




時間の矛盾が起きていないか心肺になる今日この頃…。

感想、アドバイス等もお待ちしております。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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