全てを捧げて   作:プラトン

8 / 10
今回は長くなってしまいました…。


ララバイ

そよ風程度なら心地良いのかもしれないが、この強風には快適さなど微塵もない。

本日二回目ともなればなおさらだ。

 

でも私は悪い気分じゃない。

 

殺害対象が、向こうから来てくれたしね。

 

「…んだその目は。俺とやろうってのか?」

 

「俺と?何それ、あんたの方が私より上だとか言いたい訳?」

 

「悪ぃが、今俺はクソむかついてんだ。邪魔すんならガキだろうと容赦しねぇぞ」

 

「おー怖い怖い」

 

あの引っ捕らえた男によれば、元々暗殺稼業をしてたんだっけ?

それにしちゃ大したことない殺気である。

まるで、弱者の前でしか威張れないガキ大将。

 

体の火傷や傷跡を見るに、さっきの魔道士たちにやられたんだろう。

 

今みたいに、相手を侮って。

 

まあ別に、侮ること自体は悪いことじゃない。

相手を余裕に難無く潰せるのは、闇ギルドとしても悪としても賞賛すべきことだ。

 

だけどそれは、相手による。

 

相手の実力すらまともに測れない馬鹿に許される行為じゃないね。

 

だから、私は強者として…。

 

「あんたにハンデをあげる」

 

「アァ!?」

 

「私はここから動かない。動かない的にぐらい、あんたでも当てられるよね?」

 

「っ…、なるほどよ~く分かった。…ぶち殺されてぇようだな、くそガキィ!」

 

「闇ギルドのいろはを教えてやるよ」

 

「バラバラになりなぁ!!」

 

空気をも切り裂く鋭い刃が、メロの小さな体を切り刻んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…!はぁ…!」

 

「どーしたの?私はちっとも動いてないよ~?」

 

ありえねぇ…!なんだこのガキ…!

 

確かに今の俺はさっきの火吹き野郎とのやり取りで魔力も体力も減ってはいる。

だがそんなことは関係なく、もっと早々に終わるはずだった。

 

加えてあのガキは空中の鏡の上で鎮座して、少しも動いていない。

 

そうだってのに…!

 

「暴風波!」

 

「はい、吸収」

 

「っ、クソがぁ!」 

 

何なんだあの鏡は!

 

自分の魔法は全て、彼女の周りを浮遊している小さな鏡により打ち消されてしまう。

いや、彼女の言葉通りなら、あの鏡に吸収されているのだろう。

 

これでは彼女にダメージを与えられない。

 

なら鏡を破壊してしまえばいいのか?

 

出来ればとっくにやっている。全ての魔法が効かない時点で破壊など出来そうにない。

 

終いにゃ、彼女は大口開けてあくびをする始末だ。

 

「…ねぇ、別に手加減しなくてもいいんだけど?」

 

「アァ!?」

 

「まさか今が本気とか言わないよね?私が女でガキだから手加減してくれてるんでしょ?そんな気遣わなくてもいーよ~?」

 

「このくそガキ…!」

 

完全に遊んでやがる…!

多分あいつは、俺が全力を出していることに気づいている。

 

それを理解して、俺を挑発しているのだ。

 

「お前、何者だ…!?」

 

「何いきなり、時間稼ぎ?そんなことしてると、私が動かないっていうボーナスタイムも終わっちゃうよ?」

 

「…」

 

「そうなったら~…、あんた即死だから♪」

 

彼女はニヤリと、白い歯を見せながら笑った。

 

…なんて凶悪な笑みだ。

あの歳の少女がしていい顔じゃない。

 

「ならお望み通り…本気で相手してやるよ」

 

「へえ、それは楽しみ」

 

このガキ相手に出し惜しみはもう無しだ。

確実に殺して、魔力が戻ったら逃げりゃいい…!

 

「暴風衣《ストームメイル》!」

 

「おお、竜巻を体に。器用だね~」

 

彼女は今のところ攻勢にはでていないが、その状況に甘える訳にもいかない。

風の鎧で身を固めつつ…。

 

残りの魔力で、吸収出来ないあらゆる方向からの魔法で仕留める!

 

「翠緑迅《エメラ・バラム》!!」

 

「!」

 

「ははっ、調子こいて座り込んでるからだ!微塵切りにしてやるよぉ!」

 

既に自分の風は彼女を取り囲んでいる。避けることは不可能だ。

 

「俺の勝ちだ!」

 

鉄をも切り裂く風が少女の頬を撫でた、その刹那ー

 

 

 

 

風が、消えた。

 

 

 

 

「は…?」

 

「…これが本気?まじで?」

 

少女の周りには新たに、幾枚もの鏡が漂っている。

彼女を守る盾のように。

 

「かすってもないんだけど」

 

全て吸収されたのか。

 

俺の魔法が。

 

あんな薄っぺらい鏡に。

 

「…クソガァァァァ!!!」

 

気付けば、俺は無我夢中で彼女に肉迫していた。

そんなことをしても、何にもならないのに。

 

「はあ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タイムオーバー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青が見える。

 

気持ち悪いぐらいに透き通った、青空が。

 

「知ってた?細長い鏡ってのもあるんだー」

 

俺の体は赤だらけだってのに。

 

「動けないでしょ?…動く気すらおきないかな?」

 

「…」

 

「自分の魔法に八つ裂きにされた気分はどう?新鮮だったよね」

 

「…お前は、なんだ…?」

 

「…本当の闇ギルドさ。くすんだ闇ギルドの魔道士さん」

 

ああ、そうか。

 

「じゃ、そろそろ“おねんね”しよっか」

 

こいつが本当の、

 

「じゃあね♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死神か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、とりあえずうちのギルドはまだ問題視されてないみたいねぇ」

 

ここはクローバーの街。

先程まで正規ギルドのマスターによる定例会が行われていた。

 

その名の通り各ギルドのマスターだけが集まるものであったのだが…。

 

「ちょっとお腹空いちゃったなぁ…」 

 

一人の悪魔が潜り込んでいた。

 

その悪魔の名はナーキュ。

 

彼女は悪魔の心臓の依頼とは異なり、ベイルからの指示で今回の集まりに潜入していた。

 

内容としては、これからの正規ギルドの動向を把握、そして問題視されている事柄の調査。

 

お得意の変身魔法で姿を変えて入り込み、ベイルからの指示は無事遂行出来たところなのだが…。

 

「どうだいお嬢さん、俺と食事でも…」

 

「いやいや、ぜひ私と…」

 

「ありがたいお話ですが、今回は遠慮しておきます♪」

 

この通り、脱出が困難な状態であった。

 

ナーキュとしてはこのように男性から言い寄られるのは慣れているし、それ自体に嫌悪はしていない。

 

事実、彼女は変身魔法を使おうが使うまいが、世界に一人しかいないのではないかと思われる程の美女である。

 

しかし、正規ギルドを束ねるマスター程の存在が、ここまで下心を丸出しにして女性を誘うだろうか。

 

それだけでも彼女は辟易していた。

 

「あ~ら、じゃあそのお食事、私もご一緒して良いかしら~ん?」

 

「げっ、マスターボブ…!」

 

「い、いや…。あ、私は急用を思い出したので失礼するよ…!」

 

そして、そんな男性たちよりも危ない存在が近くに一人。

 

「…はあ、正直助かりました。ボブさん、ありがとうございます」

 

「いいわよこのぐらい♪…それよりあなた、とっても可愛いわねぇ♪」

 

「そ、そうですか?」

 

「そうよ~。だから是非うちのギルドに入って欲しいわ~」

 

「とても魅力的ですが私はしがない記者ですし、今度客としてお邪魔させていただきます」

 

「ん~、礼儀正しいし、本当に良い子ね~。じゃあ機会があったらギルドでサービスしてア・ゲ・ル♪」

 

「ヒィ…あ、ありがとうございます…」

 

…悪魔をたじろかせるとは、大した男である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

定例会は既に終了しているが、彼女にとっては、マスター間の交友関係やパイプを持てる良い機会であった。

 

そのためナーキュは、青い天馬のマスターボブに加え、四つ首の番犬のマスターゴールドマインと談笑(情報収集)に勤しむ。

 

『この笛いい音が出るんで、ちょっと聞いていって下さいよ!』

 

「…何かしら?…っ!」

 

何か林の中が騒がしい。

見ると、林の中には体中に包帯を巻いた男と、その男の膝元ぐらいの背丈しかない老人の姿が。

 

「あら、面白そうなことになりそうよ?」

 

「見に行ってみるか?…そこのマカロフんとこの坊主共も黙って見てな」

 

「な、離して下さい!このままではマスターが…!」

 

ナーキュは木陰からその老人と男のやり取りを見つめる。

 

彼女の隣ではボブたちと、どこからともなく現れた四人の魔道士と猫?が騒いでいたが、ナーキュはそれに構ってはいられなかった。

 

包帯の男が手にしている、禍々しい笛。

 

「ララバイ…」

 

その瞬間、様々な考えが彼女の頭をよぎった。

 

なぜあの笛がここに?

 

あれはメロの仕事であったはずだ。

 

まさか失敗したのか?

 

「あ、やっぱあんたここの担当だったんだ」

 

「ちょっと静かにして。落ち着いて考えられな…って、メロ!?」

 

「よっ♪」

 

ボブたちが騒いでいる方とは逆側のすぐ隣に、いつの間にかメロが立っていた。

 

「あなた、ここで何を…!」

 

「そりゃ鉄の森メンバーの皆殺しだよ」

 

「はぁ?」

 

偉そうに胸のない胸を張りながらそう言い放ったメロに対し、ナーキュは絶句せざるおえない。

よく見てみれば、彼女の服は返り血か何かなのか、真っ赤に染まっていた。

元々赤い服だったと言われても、違和感が無いほどに。

 

「メロ、自分の仕事を忘れたの!?」

 

「そりゃ鉄の森メンバーの皆殺しだよ」

 

「違う!同じ言葉そっくりそのまま返さないで!あなたの仕事はララバイを…っ!」

 

「うわっ…!」

 

お忘れかもしれないが、彼女たちが言い合っている間にも時間は刻一刻と過ぎている。

もちろん、マスターマカロフによるカゲヤマへの説得も続いていた訳で…。

 

『どいつもこいつも腰抜けばっかだなぁ!俺が自ら全員呪殺してやるよ!』

 

「…あれがララバイの真の姿…」

 

ララバイが真の姿を見せるのもまた、時間の問題であった。

 

「そうだ!私の仕事はララバイを殺すことだった!よぉし、さっそく…」

 

「ちがーう!あなたの仕事はララバイの確保でしょ!?」

 

「あぁそうだった。…でも、ララバイめっちゃボコボコにされてるよ?」

 

「えっ!?」

 

ナーキュがララバイに視線を戻すと、メロの言う通り、三人の魔道士によってララバイは圧倒されていた。

既に体中に穴が空いている。

 

「もう…!メロ、ララバイを死守して。私も魔法の準備をするから」

 

「え~、あんな魔道士共にやられる兵器なんていらなくない?」

 

「いいから早く!」

 

「…分かったよ」

 

ナーキュは普段おっとりとふざけた性格をしている反面、怒ると怖い。

メロは半面、ナーキュの気迫に押されるように、鏡に乗って飛び出した。

 

「火竜の煌炎!」

 

「アイスメイク・ランス!」

 

「天輪・繚乱の剣!」

 

それと同時に、三人の魔道士もとどめの魔法を繰り出す。

ララバイも疲労しているのか、その場から動くことが出来ない。

 

そのまま放たれた魔法はララバイに直撃し、見事に倒されると思われたが…。

 

「…あっぶねー、間に合った~」

 

「「「!?」」」

 

間一髪、メロの魔法により直撃を免れた。

 

突然現れ、しかも魔法を消滅させた少女に、その場に居たマスターや魔道士は勿論、守られたララバイでさえ状況を把握出来ない。

 

「うん、ボロボロだけど、まだ生きてるね」

 

しかし皆が唖然とする中で、メロだけがいたって普通にララバイへ語りかける。

 

だが、そこはさすがゼレフ書の悪魔と言ったところか。

 

『っ、どこの誰か知らんが、俺をかばったつもりか小娘ぇ…!』

 

「わっ」

 

細くも巨大な手でメロを鷲づかんだ。

 

『この距離なら今の体でも、貴様一人ぐらい簡単に呪い殺せるわ!』

 

「おい、まずいぞ!」

 

「その子をはなしやがれぇ!」

 

ララバイの一言により、固まっていた魔道士が動いたが、当の本人はどこ吹く風。

 

「…呪い殺す?私を?」

 

『はははっ!人間ごときが、永遠の眠りにつけぇ!』

 

間に合わない。

 

その場に居る全員が少女の死を覚悟した瞬間ー

 

「だったら死ね」

 

 

三枚の鏡から放たれた光により、ララバイの顔が吹き飛んだ。

 

 

「なっ…!」

 

「うそ…」

 

「まじかよ…?」

 

体の司令塔をなくした悪魔はそのまま体のバランスを崩し、定例会の会場を押し潰した。

 

「…あ、やべ。つい…」

 

周辺を一時の沈黙が支配する。

 

人々の視線が一人の少女へと集中する。

 

誰も何もしゃべらない。

 

しかし聞かない訳にはいかない。

 

赤髪の騎士、エルザが静かに尋ねた。

 

「君はいった…い…?」

 

「え?」

 

唐突に、エルザが倒れた。

 

「何…こ…れ…」

 

「ね…む…」

 

「くかー…」

 

それに続くように、次々と地面に伏せていく人々。

最終的には、立っているのはメロと…。

 

「はぁ、次から次に状況が変わって、ついていけないよ」

 

「やってくれたわね…メロ」

 

悪魔のナーキュだけである。

ナーキュは既に変身魔法を解いているのか、頭には白い角、背中には翼が生えている。

 

若干、怒っているようだ。

 

「だって私殺されかけたのよ?正当防衛よ、正当防衛」

 

「確保しろって命令でしょ!?眠らせてもないのにドンパチやってくれちゃって!」

 

「はいはい、反省してます。それよりも今は…」

 

いまだに憤慨しているナーキュを軽く流し、メロは一人の男に近づく。

 

その男はここまでララバイを持ち出した張本人であり、鉄の森の魔道士。

 

メロの、殺害対象。

 

「やめ…んか…」

 

「んー?」

 

「あら」

 

だがそこに第三者の声がかかり、メロの動きを止めた。

振り返ると、そこには一人の小さな老人。

 

膝をついてはいるが、起きている。

 

「凄いわね、私の魔法を食らって起きていられるなんて…」 

 

「何この人?どっかのマスター?」

 

「その者に…手を…出すな…」

 

「勝手に命令しないでもらえる?こいつは闇ギルドの魔道士、生きる価値がないの」

 

マカロフの言葉が彼女に通じたのも一瞬だけ。

メロは構わず倒れているカゲヤマの首を鏡で引き裂こうと屈みこむ。

 

しかしそこへ、マカロフにとっては意外な助け船が現れた。

 

「待ちなさい。すぐに撤退するわよ」

 

「…!」

 

「ナーキュまで何言ってんの?この老いぼれの肩を持つつもり?」

 

「ララバイを確保どころか抹殺した挙げ句、これ以上問題を引き起こすのかしら?」

 

「知るかそんなこと。こいつを殺さなきゃ私の気がすまな…」

 

「さすがのマスターも黙ってないわよ」

 

「っ…、分かったわよ…」

 

メロはしぶしぶと、手に持っていた鏡を消す。

そしてすねてしまったのか、そのまま鏡に乗り、星が煌めく夜空に一人飛び出してしまった。

 

ナーキュとしても、これ以上この場に留まる必要は無い。

 

「く…う…」

 

「あら、まだ起きてたの。安心して?数分後には皆元気よく起き上がるから」

 

「お前たちは…一体…?」

 

「…知る必要のないことよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お休みなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

マカロフの意識は妖艶に微笑む悪魔によって、完全に刈り取られた。

 

 

 

 

 

 

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