※本編関係なし
あの子は新たな旅路へと、歩んで行く。
二人の仲間と好奇心の先にある、深い深淵の中へと落ちる。
その旅路に様々な苦難が待ち受けていようとも、死に直面しようともあの子達なら立ち上がって探窟を続けるだろう。
私はあの子達が巣立って空き家になった家の前で嗜好品の煙草とやらをふかす。
紅色の毛皮、もふもふな成れ果ての女の子が支度を済ませて空き家から出てくる。
彼女は火葬され、魂が還っていった優しい女の子。
名前はミーティと言う。
「ええのかい、あの子らは行っちまったよ?」
(うん、いいの。ナナチやあの子達の憧れは止まらない、私は色々な事を見てきて欲しいって思ってる)
ナナチと同じ祝福されたもふもふの手を振って、見送った。
あの子達にはミーティは見えていないが、それでも進んでいくあの子達を見送りたかったらしい。
それで彼女は満足しているならば止めることもない。
もしかしたら、あったかもしれない可能性に縋る事もせずに、今は新たな憧れに向けて旅を始める。
とても優しい女の子、ミーティ。
祝福された成れ果てのミーティ。
柔らかな頭をわしわしと撫でてやり、ふかしていた煙草を消して彼女と向き合う。
「じゃあ、お前さんも行くか」
(ミーティ、私の名前はミーティだよ)
「そうかい、ミーティ。じゃあ、還る為に行くとしますか」
ミーティは緑の鳥を頭に乗せ、空き家からアビスへと向けて歩き出す。
魂は何れ、アビスへと還る。
見たこともない四層の風景に心を踊らせながら、色々な事をミーティは教えてくれた。
その殆どがナナチの事だ、あの子は本当に良い子と出会いが出来た幸せな子だろう。
深淵が近くなると、ミーティは導かれるようにアビスへと走っていく。
新たな憧れに向かい走り出す、好奇心に満ちた子供の様だ。
私はその旅路の荷物持ちとして、少しの間だけ付き合う名も無き誰か。
「いやしかし、ミーティ。お前さんはもふもふだな」
(えっへん、自慢じゃないけどナナチにだって負けないもふもふだよ)
アビスへと向かう途中、頭を撫でた時の感触が忘れられず、思わず感想を口にする。
ミーティは自らの柔らかさを自慢し、手を差し伸べてきた。
ミーティの手を優しく掴み、柔らかさに驚きながら手を繋ぎながら一緒に歩く。
もふもふの癒やし力に思わず笑みを溢しそうになる、しかし気を引き締めて必死に我慢する。
これは極上だ、自慢するのもわかるもふもふだ。
あの奈落の至宝が見たら、わきわきと手を開いたり閉じたりするに違いない。
これは譲れんぞ。
(どう?)
(流石だ、もふもふだよ。ミーティ一番や)
(えへんっ!)
褒めてやるとミーティはどんなもんだいと胸を張って誇る。
この明るさがあの子、ナナチを導いたのだろう。
劣悪な環境でも、最後まで前を向いたミーティ。
やはりミーティは強いなと褒め言葉を漏らしながら、アビスの淵に立つ。
暗闇に消えていく身体、しっかりと彼女の手を握りしめて還る。
少し、ミーティの手が震えていたので力強く握ってやり、安心を与える。
それに気づいたミーティはありがとうと感謝して、大きく息を吸い込む。
もう、彼女からは恐怖は消えていた。
ミーティにはこの先に何が待ち受けているのか、好奇心が止まらず今か今かと瞳を輝かせている。
(ほらほら! 早く行こう!)
(ああ、行こうか)
さよならアビス、ただいまアビス。