死の支配者と白い悪魔”たち”   作:ごはんはまだですか?

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 彼らの慢心だった。
 竜の王と(あが)められ、誰よりも大きく、そして誰よりも強いと口に出さないまでも腹の底でふんぞり返り、世界の理を守ってやっているのだと驕っていた。

 星がまたたく静かな夜空に見事な望月がかかる。白い天体は遠くあっても大きく、暗い夜も明るく照らし出す。その月が陰る。
 雲ではない。それよりもはるかに巨大な、この世界の誰もがみたことのない、白い兵器が重力に縛られるものをあざ笑うかのように宙に浮かんでいた。

 ガンダムを知っているだろうか。
 二足歩行のMSで高さ18mもの巨大な兵器だ。そのガンダムにも色々な種類がある。陸戦用、変形型、太陽炉搭載。装備もサイズも様々だ。
 どのガンダムが一番強いか決めようとすれば論争を招くだろう。だが一番大きなガンダムと問うなら答えは一つだ。

 全長140m
 陸で最大の動物の象が体長6m、地球上で最大の動物であるシロナガスクジラが体長30m。と書けばその大きさがわかるだろうか。ここに揃ったどの竜よりも大きな機体からは、巨体に見合っただけの長い大砲が2本備えられている。人間が住めるほどの大砲がゆっくりと角度をかえ敵に狙いを定めた。

 それはデンドロビウム。
 我儘な美女に例えられる優艶な花の名をつけられたガンダムだ。表面に施されたマグネットコーティングが星の光を反射し白い身体を幻想的に飾る。内側から光らんとばかりの輝きは戦場には似つかわしくない嫋な花盛りの美しさであった。
 あるいは散るを知る刹那の美しさ。

「貴様は一体何者だ……」

 誰もが唖然と宙を見上げたまま動かないでいる中、ぽつりと疑問が口をつく。
 彼らから遥か遠い場所に位置し、竜の声が聞こえるはずもないのに男が答える。問われれば答えねばならぬ。それは宿めだった。それは彼らの誇りだった。


 誰何(すいか)されれば、名乗る名はただ一つ。

 「俺は、俺達は―――」



第一話 死の支配者とチェシャ猫とマイスターと脱走兵

 ユグドラシルの最後を迎えるに相応しい部屋。広さがよけいに静けさと寂しさをかきたてる場所の最奥に据えられた王座には、そこに座るにふさわしい格好をした死の支配者がいた。

 ギルドの名を冠したスタッフを持ち、金糸で縁取られたダウンをゆったりと纏ったモモンガの骨しかない右腕が、まるでピアノを弾くように空中を踊る。コンソールのキーボードを操っているのだ。

 

「まぁ、こんなものかな」

 

 そして、また少し考えてから、今度はためらいがちに指が動き、最後は迷いを断ち切らんばかりにEnterキーが叩きつけられる。モモンガは最後で最初の“わがまま”を行っていた。ギルドマスターという名の調整役に就き、10数年間をギルドの和を円満に保ってきた彼の、自分のためには一度も使わなかった長としての権限が振るわれる。それは後10分もないわずかな時間だけでも最後の時を寄り添ってくれる者が欲しいという、ささやかな“願い(わがまま)”だった。

 

『モモンガを愛している』

「「うわ、恥ずかしい」」

 

 書き終えたと同時に後悔と羞恥心がわき起こり、思わず顔を手で隠す。

 しばし暗闇をみつめていたが、被った台詞に一拍置いて驚き、慌てて声の聞こえた方を勢いよく振り返る。

 天井付近までそびえ立つ王座の途中にある出っ張りに腰かけ、こちらを見下ろす男の顔は標準の表情で固定されているのに、にやにやとした笑顔が浮かんでみえるのは付き合いの長さ故にか。

 

「俺ァ、いいと思うぜ。女を自分好みに染めあげんのは男のロマンってヤツだ」

「誤解です、少尉」

「――ただ、現実の女でヤったほうが100倍、楽しい」

 

 ツンと逆立った黒髪に三白眼の人間形態をした男、ルーツはピョンとそこから降りると、唖然としているモモンガの肩をぽんと叩いた。彼はアインズ・ウール・ゴウンのメンバーだ。人間の姿をしているのは、本体でいると攻撃力と防御力が高い代わりに活動しているだけであっという間にMPが尽きるほど燃費が悪すぎるからだ。彼に限らず、同じ種族のものたちも全員が戦闘時以外は人間形態をとっているため、ギルドメンバーが全員そろうと異形種のみのギルドにも関わらず人間が半数を占めるというおかしな見た目になるのだ。

 なぜ同一種族ばかりがこんなに大量にいるのかというと、かつてナザリック墳墓を攻略したばかりの頃に、ちょうど本拠地を探していた同じメイン種族が集まってできた彼らのクラン『ガンダム』が合流したからだ。

 なお、慰めるように何度かモモンガの肩を叩く男は、典型的なプレイヤーネームを勢いで決めたはいいが、あとで恥ずかしくなったタイプだ。それゆえに本名であるリョウ・ルーツか少尉と周りに呼ばせている。口さがないものはニヤニヤ笑いからチェシャ猫なんてあだ名しているが。

 

「そ、それよりも、なんで少尉はこの部屋に?」

「ギルド長を待ってたんだ。ぜってェ最後はここに来ると張ってたからな。だがまあ、遅かったな」

「ヘロヘロさんと先ほどまで円卓で話し込んでました」

「おお、あの社畜ヤローまだ生きてんのか!」

 

 性格も口も悪いが、カラカラと笑うルーツの口調は明るく軽快で話していて嫌な気分にならない。自分勝手で祖業が悪くとも嫌われないのは、付き合いが長くなれば自然と分かる、それを上回る魅力ある人柄ゆえにだ。おまけに追い詰められるとヘタレになるのも愛されているポイントだった。

 

「てっきり他の連中と上で花火大会してると思ってたぜ?」

「え、他の人たちも来ているのですか?」

「メールみてねェのか? 参加の誘いが来てただろ」

「今日は忙しくてチェックしてなかったです。すみません」

 

 ーーー嘘だ。

 今日のためにわざわざ有給を取り、一日の予定を開けている。だけど、メール箱を開かなかったのは、不参加を詫びるメールを見るのや、返事すらこない事をこれ以上、知るのが怖かったからだった。せめて最後の時まではもしかしたら来てくれるかもしれないという希望を抱き続けていたかったからだった。

 

 そんなモモンガの心境を知らず、俺は逃げてきた。と笑うルーツに<伝言(メッセージ)>は届かない。彼のメイン種族には、通信や感知などの魔法とスキルを無効化する特性がある。近くにいる他のプレイヤーにまで影響するソレは、使い方によっては種族ボーナスにもペナルティにもなる種族特性だった。

 

 彼らがいるのならば情報系魔法が効かないのでアイテムの<遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)>を使って、ナザリックの地上部を映し出す。

 

 

 

 燃費の悪さゆえにすぐ補給できるよう、ログイン場所を円卓の間ではなく四階層の地底湖にある格納庫に変更している彼らはきっとその足で、倉庫にため込んでいたありったけの弾丸を抱えて出て行ったのだろう。これで最後だからと出し惜しみせず、ヘルヘイムの闇までを吹き飛ばさんとバンバンと火を吹く大砲が辺りを明るく照らしている。まるでナザリックだけ昼のようなありさまだ。辺りに生息していたはずのツヴェークたちモンスターは遠の前に倒されたのか、姿はどこにもない。

 かつてのクランの名をとり<ガンダムチーム>と呼ばれる彼らの仲はわりとバラバラだ。暑苦しいほどの友情を築く者。顔を見せれば喧嘩をする者。一匹狼で他者と関わらない者。よきライバルとして互いに高め合う者。彼らのクラン時代はきっとまとまりなく混沌としてことだろう。だが、今のように一塊になって動く様をみれば確かに強い絆で結ばれた仲間だった。だから彼らはギルドの中にあっても“チーム”と呼ばれるのだ。

 

 時折、逸れた弾が味方に当たってはいるが、フレンドリィ・ファイヤは無効になっているのでダメージはない。だがムカつきはするので撃ち返し、撃たれた者がまた撃ち返す。そうこうしているうちに現場は混戦状態に陥っていた。交戦するもの、逃げるもの、我関せずに花火を上げ続けるもの。鏡越しの乱痴気騒ぎは、まさしくいつものアインズ・ウール・ゴウンそのものだった。

 

「うへぇ、逃げてきといて正解だったぜ」

「はは、そうですね」

 

 転移して今から合流しても、どんちゃん騒ぎに紛れて気付かれそうにないし、モモンガは王座に腰かけたまま楽しそうな光景を画面越しに眺めていた。その心に九階層の廊下を歩いていた時の寂しさや虚しさはもうなかった。

 

「モモンガ、後で同じメールを見るだろうけど、オフ会の招待状、渡しとくぜ」

「オフ会ですか」

「俺は出るつもりだ。ネバダに用があるついでだがな。ほかのコロニーの連中はわざわざオフ会のためだけに下りるなんて言ってたぜ」

「はは、オフ会なら、ちゃんとプレイヤーネームで呼び合わなくてはいけませんね―――“ALICE(アリス)”さん」

「嫌なこった。そんなら行かねェえよ」

 

 互いに軽口を応酬しながら談笑する。ゲームは終わるが仲間たちとの絆は終わらない。こんなにも沢山のものたちがきてくれていたのに、一人ぼっちだと寂しがって八つ当たりして、でも最後にこんな光景をみられて本当によかった。すれ違ったままにならなくて、本当によかった。鏡の向こうでは一層激しくなった応戦の光が目を焼かんばかりに眩しい。

 

 

 一つの外れ弾が鏡に当たり、やがて映像は終わった。

 

 

 ガシャンと硬質な音を立てて鏡が割れるのを合図にするように、王座の間に新たに仲間がはいってきた。「ここにいたのか」淡々と話すのは、あちらこちらにはねている猫毛が幼さを感じさせ、オリエンタルな雰囲気を纏った青年だ。

 外宇宙に出ていて通信が遅れて届き、誘いのメールに急いできてくれたのだ。

 

「ガキ、おせェぞ」

「すまない遅れた」

「いえいえ刹那さん、ギリギリセーフですよ」

 

 慣れたように場をとりなしながらモモンガは、鈴木悟は、アバターに反映されない笑みを口元に浮かべていた。

 円卓に一人いた時には最後を寂しく迎える悲しさがあった。だが外では沢山の仲間がかつてのように騒ぎ、ここには2人の仲間が共にいる。ゲームが終わった後もまた会える。本音をいえば最後を全員で向かえたかったが、すでに十分過ぎるほど満ち足りていた。

 

 

 深く息を吐き、王座にもたれかかる。

 

 ちらりと確認すれば時計は0時を過ぎていた。まったくあの運営は最後まで駄目だな。

 だがお陰で挨拶をする時間が出来たのはいいことだ。最後までナザリックと共にあるつもりだったがこの調子ではいつサービスが終わるのかは定かではない。終わらせられるよりも終わらせるほうがマシかもしれない。

 

 コンソールを呼び出そうとモモンガは、慣れた動きで右手を振るった。だが、骨の指は宙を切っただけでなにも変らない。

 

「……ん? おかしいな」

 

 コンソールが出ないことに思わず口から戸惑いが漏れるが、からかうルーツに真面目な答えを返す刹那の二人は会話に夢中で気が付かない。

 だけど、答える声が一つ。

 

 

 

「どうかなさいましたか、モモンガ様」

 

 それは喋るはずのないNPCアルベドだった。




事故でけがをしました
座るのも辛いので感想、誤字報告、反応遅いです



>一番大きいガンダム~
「……」ゲシゲシ
「コウ・ウラキ、無言で脛を蹴るのはよせ」
「…ドモン、まだデストロイヤとかサイコなら許したが、デビルガンダム。あれは認めない」ゲシゲシ
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