体験入学も無事終わり五月の中旬に差し掛かった頃。
空はお日様の支配下にあるように晴天で、休日ということも合間って千葉駅前は人で活気づいている。
「はぁはぁ、おはようございます。先輩遅くなってすいませんっ」
一色が俺のもとへと、ててっと小走りでやってきた。
「おう超待ったぞ、おはよ」
いろはす、おっそーい。と不満げに言うとむすっと表情が変わる。
「むぅ~、前にも言いましたけど、ここは今来たところだよとか言うべきじゃないですかね?」
「お前相手にそれを言ってもな……」
実際に待たされたし……。
約束の時刻は10時丁度。手持ちのスマホを見て時刻を確認すると、そこには10時10分と記されている。
東口側の一つの柱が俺たちの集合場所になっているのだが、もう何度もここを待ち合わせ場所にしているため俺を見つけれなかったということはまずない。
つまるところ、単純な遅刻だ。
「なんですかそれー、こんな美少女とデートできるだけで光栄なことなんですよーっ」
「はいはい……そりゃありがとうございます」
「それ絶対に思ってないですよね……」
ああ、と相槌を打つ。
それもそうだろう。俺が好き好んでデート(と勝手に一色が言っているだけ)などするはずがない。
こうなった理由は昨日に遡る——
「先輩、明日暇ですよねー?」
生徒会の手伝いが終わり帰り道。
隣でちょこちょこと歩くに尋ねられた。
「ああ、残念ながらすっごい予定詰まってるわー」
この流れはいつもの、デートに誘うフリして荷物持ちやらなんやらこき使われておしまいなパターンだ。
さすがの俺もそろそろ学習する。完璧なまでの返答をした。
「暇なんですね」
「な、なんでわかった……」
「だって先輩、棒読みなんですもん」
俺の行動は全て読まれていたらしい。
これが比企谷検定三級保持者の実力か……。
「じゃあ明日千葉駅に10時待ち合わせで、よろしくですっ」
「お前他にもついてきてくれる人沢山いるだろ……なんで俺が……」
「先輩、諦めって肝心ですよ。逆になんで目の前に付いてきてくれる人がいるのに別の人誘わなきゃいけないんですかー」
「た、確かに……」
なぜか一色が言うと説得力がある。
そしね悲しいことに、俺に白羽の矢が立った瞬間だった。
「てことで明日よろしくですー」
──と、こんな感じだった。
まぁいつものやつだ。
「それで、今日はどこに行くんだ?」
「えっとですね、まずショッピングモールで服を見てから、先週出来たばかりのスイーツカフェに行こうかと」
「はいよ……じゃあ行くか」
「はいっ」
一色が隣で歩く。
彼女の歩幅に合わせて俺も目的地へと向かう。
それからは、なんの他愛もない雑談をし、気づけば一色は洋服屋の試着室へと入っていた。
「先輩先輩〜、これなんかどうですか〜?」
一色が試着して身に纏っているのはピンクニットにデニムズボンのカジュアルコーデというものだ。
小町が家でよく騒いでいたので覚えている。
「おう、似合ってるんじゃねぇの」
「むー、イマイチの反応ですね……」
上手く褒めたつもりだったのだが、一色はあまりいいようには受け取っていなかったようだ。
すぐさまカーテンを締め、別の服に着替え始める……が。
「拷問かなにかかこれ……」
ボソッと俺は呟いた。
先程から一色が着替える時に聞こえてくる、布の擦れる音がどうにも心臓に悪い。
いや決して変なこと想像してるわけじゃないですけどね?この先に一色が下着姿でいるとか想像してませんけどね?
懸命に思考を真っ白にしていると、どうやら着替えが終わったらしくカーテンが開けられた。
「じゃーんっ、これなんかどうですかー?」
一色は白のワンピースを完璧に着こなしていた。
これから暑くなっていくことを考えての選択なのだろうが、少し肌寒いのではと思う。
いや……そう無理矢理に思わせた。
「せーんぱい?」
「お、おう……まぁ、なんだその……似合ってるんじゃねぇの……」
少し目をそらし、先程と同じ返答をする。
素直にぶっちゃけるなら、無茶苦茶似合っている。
前々から白い服が似合うとは思っていたが、ここまで俺に効果抜群だとは思いもしなかった。
可愛いと思うのは少し癪である。
「ほほぅ、先輩はこれが気に入ったんですね〜。じゃあこれ買ってきます!」
「お、おい……」
パシッとカーテンを締められ、僅かな時間で元いた姿へと戻っていた。
ワンピースを持って会計へと向かう一色の姿を見て、こう思ってしまった。
……それだけ早く着替えれるならなんで遅刻したんだ。