『八幡、この日空いてるかな?(汗)』
リビングのソファーでケータイゲームをしていると、ピロリンとスマホのバイブがなる。
スマホの画面を見ると、戸塚からのラインの文章がスマホのロック画面に表示されていた。
『ああ、空いてるぞ』
完結かつ素早く戸塚へと返信する。
これが材木座や一色なら無視して、気が向いた時にでも返信するが、ラブリーマイエンジェル戸塚たんの為なら例え平塚先生からの説教中にでも返信する勢いだ。
『じゃあこの日の10時に待ち合わせねっ!』
既読を付けて終わらせようと思ったが、その後に可愛らしい猫のスタンプが送られてきたため、時間も時間なのでおやすみと書かれたアニメキャラのスタンプを送り返しておく。
俺が送ったスタンプくらい戸塚可愛い。文面でこんな可愛く魅せれるのはやはり、ラブリーマイエンジェル戸塚たんくらいだろう。今すぐでもハスハスしたい。
「さて、寝るかーー」
それから一週間と少し経った五月末の土曜日のこと。
「おい、どうしてこんなメンツになったんだ……」
集合場所の千葉駅前。
俺の目前に集まるメンバーを見て、少し憂鬱になってしまう。むしろ既に鬱状態になっているまである。
「あはは……なんでだろ……」
戸塚もあまり把握していなかったのか、少し戸惑っている。
「クククッ、こんなところで出会うとは驚いたな——待ちわびたぞ、比企谷八幡!!」
「な、なんだとっ!?」
驚いたのに待ちわびてたってどういうことだよ。こっちが驚くわ。
舞い散る白い紙(実際には舞っていない)を掻きわけるようにして、俺は相手の姿を見極める。
果たしてそこにいたのは……いや、知らない知らない。材木座義輝なんて今日呼んだけど俺は知らない。知っていても関わりたくない。
もうすぐ六月に差し掛かるのに、汗をかきながら学生服の上にコートを羽織って指ぬきグローブをはめている。
そんな奴は知ってても知らない。
「はあ……朝っぱらからやかましい」
「そうですよ先輩ー、一目があるんだからもっと大人しくしててください、一緒に居る私の身もなってください恥ずかしい」
「いや、恥ずかしいのは俺も一緒なんだけど……」
何を好き好んでこんな中二病と一緒に居なければならないのだ。
あれほどラインで服装はちゃんとしたものにしろと言っておいたのに。
「はぁ……朝からうるさいわね。バカみたい」
長く背中まで垂れた青みがかかった黒髪の女、川崎沙希がこちらを呆れた眼で見てそう言う。
今日はいつものだらしない制服姿とは違い、清楚感のある私服で来ている。だが、相も変わらずぼんやりとした遠くを見つめるような覇気のない瞳をしている。
「ほら、先輩のせいで沙希先輩が怒ってますよ、どうしてくれるんですか~」
「いや、だからなんで俺のせいなんだよ……そもそもなんでお前いるんだよ、聞いてねえよ。あれか、ドッキリなのか?こんなドッキリいらないんだが」
「む~、なんですかそれ~!」
両手を腰にあて、頬を膨らませてムスッとする一色。前かがみになっているため、一色の平凡な胸も少しばかり谷間が露出された。
こいつ、無防備すぎだろ……。
「もう現実逃避しないで、ちゃんと今の状況を飲み込んでください。ちなみに、私と川崎先輩がここにいるのは~、戸塚先輩からたまたま遊び行くの聞いて無理やり頼み込んで混ぜてもらったからですっ!」
「結局全部お前のせいじゃないか……」
今度は胸を張ってふふんとドヤ顔をする。
ただバカなのか、喜怒哀楽の移り変わりが激しいのか。恐らく前者なので、仕方ないとため息をついて諦める。
「あはは……まあ、みんな居たほうが楽しいしね、ね、八幡?」
「そうだな……」
ここで、ホントは戸塚と二人がよかった!なんて言い出せば、また何言われるか分かったものではないので黙っておく。
「じゃあ皆さん早速行きましょ~!」
何故か無理やり参加した一色が仕切りだし、それに呆れたようについていく。
はあ……。
俺は心の中で、もう一度ため息をついた。