サイゼで晩飯を食べ終えた俺と一色は公園に来ていた。
と言っても、子供用の滑り台とブランコに鉄棒が置いてあるだけの、簡素で何の変哲もない小さな公園だが。
そこで俺と一色はブランコに座り、ゆらりくらりと足を地面へ付けたまま揺れていた。
下を向いていた一色が、ふと顔を空へと上げぶっきらぼうに俺を呼ぶ。
「せーんぱーいー」
「なんだ」
「なんでこんな夜遅くまで付き合ってくれるんですか?」
時刻は既に20時を回っている。
俺にとっては正直どうでもいい質問だったが、一色の声音が低かった。その雰囲気からしても、何となく感じ取ってしまう。一色にとっては大事なことなのだろうと。
ならば、俺はその答えを誠実に返すしかない。
「こんな所に女一人を置いていくわけにはいかないだろ。急にまだ帰りたくないなんて言い出して」
「あはは~……それを言われると耳が痛いです」
「全く……まぁそれに、お前といるのもそんなに悪くないからな」
何だかんだで小町に似ている所があるしな。むしろ新しい妹ができたまである。
面倒見があるとは、きっとこういうことを言うのだろう。
そんなことを考えていると、一色はしばらく俺の顔を見つめると同時に、何故か頬を赤らめていた気がした。
暗闇の中にいるので、悪魔で気がしただけだ。
「……そうですか」
「ああ」
再び、今度は俺も揃って空へと顔を向けた。
しばらくの沈黙が続くが、どこかこの空間が心地よいように思えてくる。
これもきっと彼女のおかげなのだろう。あれから孤独へと戻った俺に声をかけてくれた、唯一の救い人なのだから。
「……まだ帰らないのか」
「はい、もうちょっとだけ」
「そうか」
俺は知ってるんだ。言葉がなくとも人は会話ができるのだと。言葉がなくとも相手に意思を伝えることは出来るのだと。
ろくに会話してこなかったからな。
休み時間の寝たふりとか、頼み事をされた時の嫌そうな表情とか、仕事中のため息とか。
……もちろん、それが全てではないが人の心は、気持ちは言葉がなくとも伝えることができるのだ。
だって、言葉がなくとも意思表示はしてきたから。
長年続けてきたボッチの中で育んだ技術と、まだ半年も経たない時の中で知り得た一色という女の子。
その二つのおかげで、俺は一色の心情を知ることができた。
この場を離れたくないのだと。
絶対にそうとは言い切れないが、間違ってはいないだろう。なぜなら、不思議と俺も同じ感覚に囚われているから。
「先輩……」
「ん?」
「……なんでもないです」
「そうか……ところでもうこんな時間なんだけど、まだ帰らないでいいのか?」
スマホのロック画面を見ると、そこには21:00ときりよく数字が表示されている。
さすがに高二とは言え、こんな遅くまで男と二人で外に連れ出すのはマズいだろう。警察にでも見つかったら逮捕されるのは間違いない。いや、何も変なことはしてないけどね?
「そうですねー、そろそろ帰りましょうか。私もこれ以上は親に怒られてしまいそうなので」
「だな……ほれ、行くぞ」
立ち上がり、歩き出そうとする。しかし、なぜか一色は立ち上がったままこちらをキョトンと見ているだけだった。
「どうしたんだ」
「いえ、その……すぐそこなんで大丈夫ですけど」
「いや、しかしな……近いとは言えど変な奴に絡まれないとは限らないだろ。お前になんかあったら親御さんに申し訳が立たなくなる」
「……はっ!?なんですか段階すっ飛ばして親に付け込もうとしてたんですかごめんなさい一番最初は私からにしてくださいすいません」
「はいはい、さあ早く行くぞ」
「む~、素っ気なさ過ぎないですかね。こんな美少女なのにー」
「そうだなー」
ことごとく彼女に塩対応を食らわせ、俺はそそくさと一色の歩幅に合わせ先へと進んでいく。
俺が素直になれない理由。
それは他でもない俺が知っている。
だから俺はその理由を知らないようにするために繕い隠すのだ。他でもない、俺のために。
「先輩ここです」
「おう、じゃあまた明日な」
「はい、ありがとうございました……おやすみなさいです」
「ああ」
一色が家の中へと入っていくのを見送ると、俺は帰路へと立った――――。