再度、やはり俺は本物を求める   作:火南 蛍

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名前の知らない彼女はアイツに似ている

 四月も下旬となり、とうとう現れた体験入学生。

 そして日は流れ、明日はサヨナラパーティーだ。体育館内で生徒会メンバーや先生含め、参加する生徒も大掛かりで準備に取りかかっている。

 

「生徒会長、これはどこにやればいいですか?」

 

「あ、はい。それはあそこに──」

 

 不精する一色も、今日ばかりは奮励しているようだ。

 

 俺は汗水垂らしても、尽力してもいないが、これでも頑張って仕事に努めている方ではある。

 なんせ俺、力仕事とかあまり得意じゃないからね。

 

「あっ……」

 

 一瞬だが一色に睨まれた気がする。

 一色検定3級保持者(資格を勝手に入手)の俺は、一色の今の一瞬の行動に込められた意思を読み取ることができた。

 

 誰にも気づかれていないであろう、睨んだコンマ数秒の間。その刹那に読み取った内容は──

 

『お前、私が本気で仕事してるのに吞気に働いてるとかいい度胸だな』

 

 である。

 間違いなくこんな意味をはらんだ目つきだった。

 

 いろはす怖い!やめて!怖い!

 

 いや、ほんとにちゃんと働いてますよ?そもそも俺、生徒会のメンバーでもサヨナラパーティーに参加するわけでもないんですよ?完全なとばっちりじゃないですか……

 

 それに……俺は一人で仕事しているから、どうやっても重い物を運ぶのに時間がかかるんだよ……なんたって俺、ボッチだからね。

 

 それと俺は──学校中からの嫌われ者だから。

 

 周りを見れば、皆が二人三脚となって動いている。

 まあ自分から進んで周りと協力しようなんざ、さらさら思っていない。それでも一人で作業することが、どれほど効率の悪いことか俺は知っている。

 

 一緒にやってくれそうな人、手当たり次第に当たってみるか……

 

「なあ、何か手伝えること――……」

 

「お、おいっ、あっちの方手伝いに行こうぜ」

 

「そ、そうだな」

 

 近くにいた二人組に声をかけてみたが、スルーという想像通りの結果になる。

 見たところ一つ下の二年の者たちだろう。俺の噂を知らない者がいるのだとしたら一年の奴らになるのだが、やはり俺の噂は一人残らず耳にしているはずだ。

 

 畢竟、俺と協力関係となってくれる人間など存在しなかった。

 

 一つため息をつき、スグ仕事に戻る。

 

 相手を探す時間が無駄だと判断することができた俺は、自分で言うのも何だが有能であり無能なのだろう。矛盾しているが。

 

 さて次は何をしようか。

 そう悩んでいるところに悪魔はやって来た。

 

「せーんぱいっ」

 

「ああ……一色か、どうした」

 

 近づいてきていることに、さも今気づいたかのように答える。

 何故かって?とてつもなく嫌な予感しかしないからだ。化けの皮を被った一色の中にあるおぞましい何を感じ取れるほど、俺はコイツへの危機感地能力を高めていたらしい。

 

「先輩、今仕事探してましたよね〜?」

 

「いや、そんなことないが……」

 

 一色は一歩コツンと俺に詰め寄り、声のトーンを落として再度問う。

 

「探してましたよねー?」

 

「は、はい……」

 

 いろはす怖い!近い!怖い!

 なんでめっちゃ笑顔なのにこんな冷たい声が出るんだよ……

 

「じゃあ丁度良かったです!あそこにある机を全部片付けておいて下さいねー」

 

「まさかだけど……山のように積んであるあそこのことか?」

 

 まさかと言わずとも、一色が指さす方には山積みにされた長机しかない。

 

「当たり前じゃないですか」

 

 お前はアホかと言わんばかりに呟き、ゴミを見るような目を向けられ、挙句の果てにはため息を吐かれる。

 ゲームであれば三コンボという表示が出ているところだ。

 

 口答えすれば罵詈雑言を並べられることは目に見えているため、言い返しはしない。

 

 おっくうではあるが、どちらにせよ仕事を探していたので丁度いいだろう。

 

「へいへい、わかりましたよ」

 

「はい、わかればいいんです。……はー、すっきりした」

 

 聞こえないように言っても丸聞こえだからね?むしろ嫌味なの?そんな子に育てた覚えはありませんよ。

 

 一色がスタスタと別の場所へ走っていく様を見て、俺は机運びを始めた。

 なかなかの重量がある長机。三往復ほどしたところで、「もう仕事したくない!」と告げんばかりに腰が痛みを伝えてくる。

 

「はぁ…………──ん?」

 

 痛みなど気にしたら負けであり、俺は四往復目へと差し掛かったのだが、持っていた長机の後方がふと軽くなった気がした。

 

「手伝い、ますよ」

 

 振り返ると、そこには見覚えのない女子が長机を持ちながら立っていた。

 

 身長や制服の着慣れさを見るに、今年入学してきた一年の生徒であろう。

 流れるような黒髪に少しあどけなさがあるものの、大人びた美少女であり、才色兼備であった彼女(・・)の姿を思い出すほどに相似していた。

 

「他の奴とは、仕事しないのか?」

 

「一緒にやる人、いないですから」

 

「そうか」

 

 悲しいことに、友達がいない所まで同じらしい。

 それでも、彼女は自らの意思で俺の手伝いをしてきた。その点については、孤高であったアイツとは違うかもしれない。

 

「……俺なんかと一緒にいていいのか?」

 

「別に……そういうの気にしてませんし」

 

 残念なことだが、これ以上俺は会話を振ることが出来ない。ボッチなんてそんなもんだ。

 

「比企谷先輩は、なんで手伝いなんかしてるんですか」

 

「生徒会長に付き合わされてるだけだ」

 

「へー……仲良いんですね」

 

「そうでもないけどな……」

 

「まあ、どうでもいいですけど」

 

「だな…………お前は何でこんなことしてるんだ。パッと見興味無さそうにだけど」

 

「内申稼ぎですよ。親も生徒会に入れって言ってますし、まあ参加するのも悪くはないかなって」

 

「そうか……」

 

 無言。

 これ以上ないとまで思わされるほどの無言。

 

 そもそもボッチに会話なんてモノは必要なかった。会話なんてしなくとも生きていけるしな。

 

「なあ──」

 

 だが俺は、ただ一つだけ聞いておきたかったことがあった。

 

「お前は、友達って必要だと思うか?」

 

「…………どっちでもいいんじゃないですか。人それぞれですよ、そんなこと」

 

「そうか……」

 

 彼女はこれから先、きっと上手くやれる。

 

 何となく。

 何となくであるが、そんな気がした。

 

 未来のことなど、誰にもわからない。

 俺にも、名前の知らない彼女にも、学校の先生も。それが当たり前であり、それが自分の人生である。

 

 今までの事を後悔しても、もう遅い。

 だから、これからを精一杯生きるしかないのだろう。

 

 そんなことを思いながら、俺は彼女と仕事を進めた────。

 

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