□【蒼浪術師】シャボン
三日って意外と早いね。いや、一日か。
まあ、とにかく。準備はバッチリだ。れーちゃんからも<UBM>についてとか旅をする時はリアルに戻るタイミングに注意しないといけないとかいろいろ教えて貰ったし、旅の準備はリーちゃんがやってくれてる、はず。
「……まあ、今回は距離的には近いから一日で着くし、準備と言っても馬車の手配をしたら、あとは昼食とか回復薬とかをアイテムボックスに入れとくだけなんだけどネ」
「あとお水ね! たくさん!」
「それはシャボンだけアル」
むー、お水飲もうよー! お水飲まないと大きくなれないよー?
「なによそれ……意味わかんない」
ま、まあ、準備はバッチリみたいだし、あとは、護衛の依頼を受けてくれた人がいるかどうかだけど……。
「確認してきたら、一日で終わるからか<マスター>が二人受けてくれたらしいアルよ。もうすぐ来るはずだけど……」
といったところでおもむろに扉が開く。入ってきたのはまだ年端もいかない少女だった。少女は燃え盛る様な赤い長髪を後ろでまとめ、何故かセーラー服に、一昔どころか二昔も三昔も前の不良が身に付けていたような長い学ランを羽織っていた。
「よう! 護衛依頼を出したのはお前らであってるか?」
少女は快活な笑顔を見せ、そう言った。
……かわいい! この子かわいいよ!
彼女の着ている長ランの背中には、金の刺繍で大きく“完全超悪”と書かれている。
これで服屋さんとかに自分で頼んだのかな? かわいい!
「おい、今あたいのことかわいいって思わなかったか?」
「思いました」
「思ったアル」
あ、リーちゃんも思ったんだ。
つい素直に言ってしまった。かわいいもん。
するとどうだろう。これまで人当たりの良い笑顔を浮かべていた少女は、みるみるうちに凄みのある形相へと変わっていき、自らの右手の拳を左の手の平に打ち付ける。
凄まじい音と爆風でわたしとリーちゃんの髪が逆立った。
「次そんな目で見てみろ……ティアンだろうが何だろうが容赦なくぶちのめすぞ!!」
「ひぃっ! すいません!」
「ごめんなさい!」
この人怖いよー! かわいいけど怖い……じゃない。かわいいじゃないです、はい。
「ふぅ……分かればいいんだ。分かれば」
怒りが収まったのか、少女は凄みのある表情から、一転して先程の笑顔を取り戻した。よかった。
「それじゃあ改めて……あたいは
おお、準<超級>!
たしか、超級職に就いてて、かつ<エンブリオ>が第六形態の人の事を言うんだっけ。
こんなにかわ……幼いのに、準<超級>だなんて……いや、迅羽ちゃんも<超級>だったなぁ。
「よろしくアル。私は
「よろしくね! ヤーシャン!」
それにしても、よくこんなにすごい人が依頼を受けてくれたよね。依頼料も相場と変わらないのに。
「ああ? あたいは
そっかー。ん?
「そうだよ。……事前に言ったネ」
「あれー、そうだっけ?」
あー、またリーちゃんが呆れておられる……。
「なんだぁ? シャボンはボケてんのか?」
「そうアル。シャボンはいつもボケボケアル。もう付き合ってられないネ」
そ、そんなー。これからは気をつけるからー!
わたしがリーちゃんに頭を下げ、それをリーちゃんが無視し、ヤーシャンがゲラゲラ笑うという空間が出来上がっている中、扉が再度開く。
「──失礼します」
あれ? この玉虫色のコートはもしかして……。
「昨日のお客さん?」
「そうだと言うことができますね」
ほぇー、あの後依頼を受けてくれたのかな? 変な巡り合わせだなあ。
「改めまして、私は…………“そとば”と言われます」
そとばさんは相変わらず変な喋り方で喋る。
その後は、わたしとリーちゃんとヤーシャンが自己紹介をし、出発の前に各々の戦力を確認することにした。
「基本は護衛に任せるつもりあるけど、私は【幻道士】だから、逃げるのなんかは得意アルよ」
「はいはーい! わたしはですね、最近【蒼浪術師】に転職しました! <エンブリオ>はお水で、お水を操って戦います!」
「あたいはさっきも言ったとおり【大番長】だ。基本的に
おお、
「……うーん、ここまで全員戦闘系アルね」
「ひとり戦闘系ならぬ戦逃系がいるけどね!」
「うるさいアル。それより、回復がこなせる人が欲しいアルけど……そとばさんはどうアルか?」
リーちゃんはそとばさんの方に向き直り、そう問う。
「はい、私の就く【血肉術師】は回復も得意なジョブだと言えます。安心しても良いでしょう」
なにその物騒な名前のジョブ!? 怖いよ!
「怖くは無いのです。回復に強化に食事まで出来る優れものだと言えます」
「なるほどー、回復に強化に食事……食事!?」
「はい、このように。《クリエイトミート》」
そとばさんの言葉で、その場にそれはそれは大きな肉塊が出現した。
わたしの腰ほどの大きさのそれは、自らの存在を示すようにゆっくりうぞうぞと蠢いている。
控えめに言って気持ち悪い。懐かしい気持ち悪さがある。
「な、なにこれ!?」
「うげぇ、気持ち悪ぃなぁおい」
気持ち悪すぎて身震いするわたし達を尻目に、そとばは愛おしそうに肉塊を撫でる。それに呼応して肉塊はうぞうぞと蠢く。
「これを焼いて食べる事で飢えを凌ぐことが可能です」
こ、これ? これ食べるの? 無理無理、絶対無理! 絶対お腹壊すよ! お腹崩壊するよ!
「美味しいですよ?」
「
だよね! ……あ、リーちゃんが死んでる。
「あの、リーちゃんが死んで……気絶したからその気持ち悪いやつしまってくれない?」
「それは出来ないと言えますね。一度出したら食べきるまで消えることはありません」
「そ、そんなー」
リーちゃんが起きられなくなっちゃうよー!
◇
結局、《クリエイトミート》の肉塊はそとばさんのアイテムボックスに仕舞う事となった。これをどう処理するのかを聞く勇気はわたしには無い。
「とにかく! その肉の塊を出すのは禁止でお願いします!」
おお、リーちゃんがかつてないくらいに必死だ。いや、かつてなくはないか。【マネー・イフェメラ】に【かお】なんかもあったね、懐かしい。気持ち悪くなって来た。
「むむ、分かりましょう。それでは食事は無しの事ですね」
「お願いするアル」
と、みんなの戦力も確認したところで、いよいよ
「よっしゃ! 行くか!」
そう言ってヤーシァンは拳を勢い良く掲げる。
物凄い風圧と共に店内の符のサンプルが宙を舞った。
「やっべ。すまん、力入れ過ぎた」
出発する前からこんなので大丈夫なのかな、さすがのわたしでもちょっと心配してきた。
思わぬところで再会することになりました。