水無月水樹の水紀行   作:七草青菜

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第三話 シャボン・ミーツ・シャボン

 □【蒼浪術師】シャボン

 

 現幻原(シェンファンユェン)は修羅の町だ。

 周りを仙山(シェンシャン)と言われる山々に囲まれ、その付近には強力……というよりは特殊な魔物が闊歩している。

 

 例えば、自らが弱点とする属性による攻撃を得意とし、自らの攻撃により減ったHPに応じてステータスが上がるモンスター。

 

 例えば、三人パーティで挑んだ場合以外に限り、ステータスが5倍になるモンスター。

 

 例えば、地中を泳ぎ、その土壌によってENDが上昇する魚型のモンスター。

 

 そんな、どうして生まれたのかも定かではない、まるで実験体(・・・)のようなモンスター達は、まるで死に場所でも探すかのように彷徨いつづけている。

 

 現幻原の民たちは皆その特殊な魔物達を討伐し、そしてその素材を得るため日々その対抗策を研究し、そして自らの武の研鑽を積み続けている。

 

 もちろん、天地と比べるにはその強さはいささか物足りないだろう。だが、それは天地以外の町と比べると、まさしく修羅なのだ。

 

 ……っていうのを今リーちゃんから聞いた。

 

「これも事前に言っておいたネ」

「ホントにシャボンはボケボケだな。あんまりボケてるとリーランに見捨てられるぞ?」

「えー、そんなことないでしょー」

 

 あれ? どうして何も言わないの? なんで目を逸らすの? おーい、リーちゃーん。

 

 ……おーい。

 

 どうしよう。何か話題はないかと辺りを探ってみると、わたし達の乗る馬車を引いているモンスターが目につく。

 なんだこのモンスター。全然気づかなかったけど凄い形してる。

 

 全体的に見れば……なんだろ。アヒルに近いのかな? ただし足にヒレは無い。っていうか蹄になってるし六本だしやたら速い。

 あとは何やら身体から(もや)だか(かすみ)だかがモワモワと出ている。あまり可愛くはない。

 

「……あの、この馬車っぽいのを引いてるモンスターはなんな……なんですか?」

 

 リーちゃんにお伺いを立ててみる。これは聞いてない……はず。

 

「…………はあ、これは言ってなかったアルね」

「あ、だよねー!」

 

 やっぱりそうだよね! わたしちゃんと覚えてるもん!

 

「うん、これはね、【ダック・スレイプニル】って言って、私の従魔ネ。実はこの子も現幻原で捕獲したんだよネ。……アイツと一緒に」

「アイツって?」

「これから会う魔物キチのことだヨ」

 

 リーちゃんはその時の出来事を思い出したのか、露骨に嫌そうな顔をする。

 一体どんな人何だろう、リーちゃんがそんなに嫌うなんて。

 

 と、そこでこれまで黙って周囲の警戒をしていたそとばが口を開いた。

 

「皆さん、何者かが現れました」

「んぁ? あー、あれだろ最近流行りのみみずむかで」

 

 あー、ほんとだ、遠くにあの気持ち悪い生物がいる。いっぱいいる。無理。

 

「ひぃ! も、もう私はあれには近づかないから! 家鴨(ジャヤー)! 逃げるよ!」

「QUEEEEE!!」

 

 わたしと共にトラウマを植え付けられたリーちゃんは、【ダック・スレイプニル】にそう命令すると、アイテムボックスから符を人数分取り出し前方にバラまいた。

 えーっと、確かあれは《幻実》の符だっけ? 《囮》の符の上位互換で、質量を持った幻影が現れるという……この符すごい高級な奴じゃなかったっけ?

 

「あんなのに群がられるよりマシだよ」

 

 さいですか。

 リーちゃんは【ダック】に続く手綱を操り、大きく迂回する事で奇妙生物を避けていた。

 

 あ、幻のわたし達が群がられている。うわぁ……。

 

 化け物の大群に咀嚼されている幻のわたし達から目を逸らしていると、そとばさんがとんでもないことを言い出した。

 

「あれは【ゲゴニュニュ】ですね。可愛いものです」

「ええ! アレが!?」

 

 どこが!? 一体どこが可愛いの!?

 

「ふむ、例えば、身体の艶や、足の動く様、咀嚼の光景などだと言えますね」

「オイオイ! (あん)ちゃん頭おかしいな!」

「その事は良く言われると言うことが出来ますね」

 

 いやー、世の中には変わった人もいるもんだなあ。れーちゃんも「レジェンダリアにだけは近づいたらだめ。万が一にも適応してしまったら戻れなくなるから。あんたならありうる」って言ってたし。結構いるんだろうね。

 

 ん? 何かわたしの《水脈感知》が異常な程に反応してる……どこ? え、上?

 上って……空だよ? お水はないと思うんだけど……。

 

 その時、

 

「っ! 《送拳(ソンチュン)》!」

 

 突然芽香が叫んだと思うと、その拳を高く振り上げ、ボクシングで言うところのアッパーをした。

 かと思うと、その肘より上が唐突に消えた(・・・)

 

「おや?」

 

 そして、耳をつんざく程の物凄い爆音と共に、空が割れる(・・・・・)

 その表現でいいのかわたしには分からないけど、とにかく、空に罅が入り、そして割れたのだ。

 

 芽香の腕を見ると、断面が黒い穴で染まり、まるでブラックホールにでも吸い込まれた様だった。

 

「やばいよ! 【クラムボン】だ!」

 

 そのリーちゃんの言葉に合わせる様に、掻き消える爆風から一つの大きな泡が出現する。

 泡は幾重にも重なっており、中心にはお水が溜まっている。そしてその周りにも、大小様々な泡が浮かんでいた。

 泡は、空中をふよふよと浮かび、まるでこちらを挑発するように周りの泡々を回転させている。

 

 それはまさしく【浮沈泡沫 クラムボン】だった。

 

「うっしゃ! ぶっ倒すぞ! MVPは早い者勝ちな!」

 

 え? やるの? 逃げない?

 

「では、私は回復を務めることとしましょう」

 

 あ、やるんだ。

 

「シャボン、相手はエレメンタル。私の主力である《精神破壊》の符は使えないネ。逃げる時は言ってね。何とかするから」

 

 ……もー、しょうがないなー。

 

 やるかー。

 

「《■■■■■■■■■■■(オケアノス)》!」

 

 でもまあ、やるからにはMVP取らないとね!

 

 がんばります!




 実験体のようなモンスターが闊歩する山。
 この山は管理AI9号のクイーンが、かつてジャバウォックに「もっと凝ったモンスターを作れ」って言われたのに密かにショックを受けていて、それで品種改良をしてみたけれど結局は挫折して、その時のモンスター達が住み着き、繁殖していった山です。
 能力がどこか脳筋っぽかったり中途半端だったりしたのはそのためですね。
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