水無月水樹の水紀行   作:七草青菜

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あけましておめでとうございます。今年も頑張ります。


第四話 【浮沈泡沫 クラムボン】

 ■???

 

 【浮沈泡沫 クラムボン】。それは一つの泡だった。

 

 黄河帝国の森に存在する沼池。そこから湧き出す泡が魔力を吸収することで生まれるエレメンタルの突然変異、【シャボン】。

 

 【シャボン】の持つスキルはただ一つ。《泡状生命体》と呼ばれるそのスキルは、“HPに関係なく、自らの身体が割れると【即死】する”というものだ。

 このスキルにより、長く生きられる個体はまれである。

 

 だが、そのひとつの【シャボン】は長く生き残った。

 ただ単に運が良かった事に加え、もう一つ、その【シャボン】には自らの身体が二重にあった。

 つまり、【シャボン】は自らである泡の外に、もう一つ(ストック)を持っていたのだ。

 

 そのおかげもあり、【リトルゴブリン】という【シャボン】にとっての強敵から命からがら逃げ延びることに成功した【シャボン】は、生命線でもあった自らのストックを失い、途方に暮れふよふよと浮いていた。

 

 ストックを失った今、自分はもはやただの【シャボン】だ。このままでは他の【シャボン】と同じようにその生を終えるだろう。

 

 ならいっそ、この森から出てみよう。そして森の外の景色を見てみるのだ。そうして自らの生を終えよう。

 そう決心した【シャボン】は、早速行動を始めた。

 

 それからの生活は運を天に任せる毎日だった。他の生物が寝静まった頃に行動を開始し、多くのモンスターの中でも一際弱い、それこそ自分でも不意を討てば倒せるくらいのモンスターを、自らの身体に取り入れることにより窒息死させる。

 そうしてちまちまとレベル上げを繰り返していた。

 

 普通の【シャボン】にはそのようなことを成す時間も、知性も無かったであろう。

 だが、その【シャボン】には、ストックを備えていたが故の考える猶予があり、それを成せるだけの知性を備えることが出来た。

 

 いつの間にかそれは進化を果たしていた。【シャボン】から【ハイ・シャボン】へと。

 【ハイ・シャボン】へ至った事により、新たに《身体貯水》という水を身体に貯めるスキルや《アクア・コントロール》という水を操るスキルを手にいれた【ハイ・シャボン】は、ついに森の浅域まで到達しようとしていた。

 

 そんなある日、【ハイ・シャボン】はとある“何か”を見つけた。

 これは一体なんなんだ。見えているはずなのに、それが何なのかが認識できない。だけど、理解すらできないそれに、【ハイ・シャボン】は何故かとても惹かれた。

 

 しかし、【ハイ・シャボン】は慎重だった。おおよそどのモンスターよりも死を恐れていた。

 それが何なのかが分からない。なのに惹かれる。これは絶対におかしい事だ。

 

 【ハイ・シャボン】はそれを観察する事にした。何かしらの害が無いかどうかを。

 

 しばらくそうしていると、一匹の【リトルゴブリン】が通りかかる。【リトルゴブリン】はそれをしばらく見つめると、【ハイ・シャボン】が止める間もなく、躊躇する事無く口に入れた。

 

 するとどうだろう。【リトルゴブリン】は突然空を掻きもがき、苦しみだした。

 かと思うと、徐々にその体躯を膨らませていき、最後には爆発四散した。

 

 その光景に、【ハイ・シャボン】は安堵した。やはり自分の考えは間違いでは無かった、と。

 

 そうして、後ろ足を引かれながらも、その“何か”から離れるように森の浅域へと進もうとした。

 

 しかし、突如現れた存在に、【ハイ・シャボン】は、金縛りでも受けた様にその足(?)を止めることになる。

 

「やはり普通のモンスターでは“これ”に適応する事は出来ないか」

 

 その存在は【リトルゴブリン】の様に二本足で立つ生き物だった。だが、【リトルゴブリン】とは程遠い存在感があった。

 男は、【ハイ・シャボン】の方を向く。

 

「……ふむ、君ならこれに適応出来るだろう」

 

 男はそう言うやいなや、その手に持つ“何か”を【ハイ・シャボン】へと放った。

 

 【ハイ・シャボン】にこれを避ける術はなかった。

 

 【デザイン適合】

 【存在干渉】

 【エネルギー供与】

 【設計変更】

 【固有スキル《気水適応》付与】

 【固有スキル《気水操作》付与】

 【固有スキル《泡沫生成》付与】

 【スキル《SP自動回復》付与】

 【死後特典化機能付与】

 【魂魄維持】

 【<逸話級UBM>認定】

 【命名【浮沈泡沫 クラムボン】】

 

 ◆◆◆

 

 【クラムボン】には分からなかった。

 

 いつの間にか【龍帝】が居なくなり、やっと森から出ることが叶うと思った矢先、<マスター>と言われる人種が現れた。

 <マスター>は恐れを知らない。高笑いしながらモンスターを狩り、恐怖を感じぬまま死んでいく、そしてしばらく経つと同じようなものがまたやって来る。

 

 まさに化け物のような存在だった。

 

 化け物は日に日に数を増やしていき、そして力をつけていった。

 

 このままでは埒が明かない。そう思った【クラムボン】は決意をした。

 一度外に出て、そして【龍帝】に酷い目にあってからずっと逃げ篭っていた森。その森から出て、どこか遠く、それこそ<マスター>が絶対に近づけない深い海の底にでも行く決意を──。

 

 【クラムボン】には分からなかった。

 

 ここ最近自分を狙う<マスター>が増えてきた事も、その<マスター>達が「ショウキンクビ」や「トクテンブグ」と言っていた事も。

 

 【クラムボン】には分からなかった。

 

「っ! 《送拳(ソンチュン)》」

 

 いつもの様に<マスター>に泡を落として撹乱させてから逃げようとしたら、突然自らの(ストック)を割られた事も。

 

「《全き■■■■果て■■■(オケアノス)》!!」

 

 仕方なく相対しようと構えたら、突然周りが空中から水中(・・・・・・)に変わった事も。

 

 【クラムボン】の持つ《気水適応》は空中だろうと水中だろうと、どのような気圧でも水圧でも抵抗なく同じように動く事が出来るというスキルだ。

 それでもなぜか(・・・)この水中では動けなかった。

 

「あァ!? 《雷拳(レイチュン)》! ……通らねぇ! 《震拳(ヂェンチュン)》!!」

 

 化け物の手によって、自らの(ストック)が剥がれていく。

 

 【クラムボン】には何も分からなかった。

 

 ただ一つ分かったことと言えば、自分は今から死ぬという事だ。

 後悔がないと言えば嘘だが、ただの【シャボン()】であった自分がここまで長生き出来たのは誇らしい事なのだと思っている。

 

 ああ、最後は泡らしく弾けて消えようか。

 

「《流龍》ぅ!!」

 

 それはまさに泡沫(うたかた)の様に……。

 

 ◇◇◇

 

 □【蒼浪術師】シャボン

 

 わたしが第四形態になった直後に発現した必殺スキルの効果により、【クラムボン】は周りをお水で包まれた、まさにお水結界とでも言うべきものに囚われることとなる。

 

「あァ!?」

 

 先に飛び出していた芽香は、突然現れたお水結界にギョッとした表情を見せる。

 が、それに驚きはしたがすぐに立ち直り、構えるだけしていた右拳に力を込めると、その拳が消失し(・・・)、代わりに先程のような黒い穴が出現する。

 そして、お水結界の中にも黒い穴が発生すると、そこから芽香の拳が出てきた。

 その拳にはいつの間にか雷が纏われている。

 

「《雷拳(レイチュン)》! ……通らねぇ!」

 

 おお!? 芽香の雷を纏った右拳がわたしのオケアノス(お水結界)に突き刺さる! が、超純水は雷を通さないのだ! あ、ここ豆知識ね。

 

「《震拳(ヂェンチュン)》!!」

 

 しかし、ここで諦める芽香ではない! 通らないと分かるやいなや右拳を抜き、今度は左の拳を黒い穴へと差し込む!

 今度は無事お水を伝い、その拳より発せられる振動によって【クラムボン】の幾重にも重なった泡がポンポンと弾けて消えていく!

 

 って見てる場合ではなかった! 【クラムボン(シャボン)】のMVPはわたし(シャボン)が頂くのだ!

 

「この世の全てのお水よ! わたしに力を! なんかものすごいお水パワーをくださーい!」

 

 よし、《詠唱》完了!

 

 わたしは【オケアノス(お水)】に意識を傾け、そして叫ぶ!!

 

「《流龍》ぅ!!」

 

 するとどうだろう。【クラムボン】の周りを覆い尽くすオケアノス(お水結界)はその体積をどんどん小さくしていく。

 お水が減っている……否、質量は変わらず、体積のみ変わっている、つまり凝縮していっているのだ!

 

 哀れ【クラムボン】は、凝縮されたお水(オケアノス)によって、その泡沫の全てを破裂せしめた。

 

「儚き泡沫よ……流転するお水の元へと帰りなさい……」

 

 ──決まった。

 

 わたしかっこいい!

 

 




 シャボンはパーティ規模での戦闘がよく分かってないので、普通に芽香の邪魔をしています。
 ゲームなんてした事なかったから仕方ない(仕方なく無い)。
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