□【蒼浪術師】シャボン
お水の圧縮により、残りの泡および核を潰され、【クラムボン】の生はあっけなく終わりを告げた。
【<UBM>【浮沈泡沫 クラムボン】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【シャボン】がMVPに選出されました】
【【シャボン】にMVP特典【泡沈手套 クラムボン】を贈与します】
やった! やったぜ!
わたしがMVP!
これには流石のわたしも両手を上に挙げてばんざい!
「“ばんざい!”じゃねーよ!」
そう叫んだ芽香は、一瞬にしてわたしの懐に潜り込む。
しかしそれを認識した時には既に芽香によって胸倉を掴まれていた。
「ひぃっ! な、何ですか?」
怒ってる!? 絶対怒ってるよねこれ!?
わたし何かしたっけ? かわいいとは言ってないし思ってもない。攻撃が当たった訳でもないし他には……思いつかない!
「何もクソもねえよ! お前あたいの邪魔しやがっただろ!」
そのままわたしの足が地面から離れる。腕を高く掲げた芽香は、凄い剣幕でこちらを睨んだ。
「変な水出しやがって! アレのせいで足止め食らっちまったじゃねえか!」
あ、それか! たしかに、わたし芽香の邪魔しちゃってたかも。
いや、でもそれは、
「だ、だって早い者勝ちって言ったじゃん!」
「……あァ?」
わたしの言葉にたじろぎ、考え込む芽香。胸倉を掴んだその手は緩めてくれない。緩めて。痛い。
ちなみにわたしは痛覚はオンに設定している。お水をよりリアルに感じたい本能と痛いのは嫌だという理性がせめぎ合った結果だ。はい現実逃避終わり。
リーちゃんのハラハラとした視線が刺さる中、しばらく考え込んだ芽香は、やがて胸倉から手を離し、わたしの顔に存在するヒレを両手で摘みぐにーっとのばし始めた。
「あークソ、変なヒレ付けやがって!」
「いーやー! ちーぎーれーるー!」
それアクセサリーじゃないんです! 本物なんです! 痛覚も通ってるんです! 痛い!
そんな状態が続き、やっとヒレから手を離したと思うと、今度は頭を勢いよく下げた。
ど、どういうこと?
「すまねえ、あたいが悪かったよ! そうだったな。早い者勝ちって言ったのはあたいなんだし、あたいが文句は言うのは筋違いだった」
「で、でしょー? わたしは早い者勝ちって言ったから早く倒そうとしただけだしー」
と強くがってみたら、こんどは後ろからチョップが飛んできた。
「いたっ」
「何開き直ってるアルか。相手は<UBM>。下手すれば全滅も有り得たんだよ? 仲間同士で邪魔しちゃ駄目ネ」
「……ごめんなさい」
だって、わたし一人かリーちゃんと二人でしか狩りしたこと無かったし、よくわかんなかったし。
「まあ、もういいさ。MVPを逃したのは悔しいけど、あたいが受けたのは護衛の依頼だしな。誰も死ななかっただけで良しとするか」
ということで、わだかまりも無くなったところで再び馬車に乗り込み旅を再開することとなった。
ちなみに、わたし達が言い争っている間、そとばさんはずっと周囲の警戒及びよってきたモンスターの迎撃をしていたらしい。迷惑かけてすいません。
どうやってモンスターを倒したのかは怖いので聞かない。
「倒してませんよ。【ゲゴニュニュ】が襲って来られましたので、《クリエイトミート》を使い、【ゲゴニュニュ】達を誘導したと言えますね」
聞かないと言ったのに丁寧教えてくれたそとばさんの指し示す方向を見ると、そこにはびっしりとゲジゲジミミズの張り付いた肉の塊があった。
「ひぃ! に、逃げるアルよ! 早く乗って! 早く!」
言われなくとも乗りますとも! だから置いてかないで!
いそいであひる車に乗り込み、その場を去った。
◇
ガタガタとあひる車が振動し、
周囲の警戒及び迎撃は芽香のエンブリオの能力で出来るらしいので御者のリーちゃんを除いて三人ともあひる車の中に乗り込んでいる。
「さっきはすまねえな。お詫びにアタイの<エンブリオ>のことを話すよ」
え、それって旅の途中で話してくれる約束だったんじゃ……。
「なンだ?」
「何でもないよー? どんなのかなー?」
あー怖い。そんな顔で睨まないでおくれ。
「よし! アタイの<エンブリオ>の名前は【受送接続 ベル】。type:ワールド・アームズで、転移と伝達に特化した<エンブリオ>だ。つっても、転移はかなりコスパが
そう言って芽香は右手の中指に嵌め込まれている装飾のなされた黒い指輪を見せる。指輪は太陽の光に反射してキラキラと光った。
「基本的には【魔拳士】とか【気拳士】のスキルを使って戦うんだが、遠距離……は無理だが中距離の相手なら【ベル】を使って攻撃を届かせる事が出来んだ。どうだすげえだろ!」
すげえね! つまりさっき黒い渦が出てたのは<エンブリオ>の能力だったんだ。
ってあれ? 芽香って【大番長】じゃなかったっけ?
「ああ、【大番長】は基本的にパッシブスキルしかねえからな。【魔拳士】や【気拳士】っていう【拳士】系統のジョブのスキルをメインにしてんだよ」
なるほど。
「で、シャボンの<エンブリオ>はどんなのなんだ? さっきのって<必殺スキル>だろ? そっちの詳細は話さなくていいから教えてくれよ」
どんなのって言っても、出発前にも言った通りお水だし、<必殺スキル>を除いたらもう言うこと無いんだよなあ。
とりあえずエンブリオの名前やtype、あとはお水が超純水である事なんかを教えてあげた。あとはお水についてもっと教えてあげようとしたけど、途中で遮られた。解せぬ。
「むー、じゃあそとばさんの<エンブリオ>はどんなのなの?」
そとばさんは少し考え込んだが、やがて顔を上げた。
「秘密、だと言うことが出来ます」
「えー、教えてよー。けちー」
「おいシャボン。あたいは戦ってたら分かるやつだからいいけど、切り札を隠しておきたいやつも居んだよ。諦めろ」
外見年齢年下の子に諭された。ショック。
「まあ、言えることもあるでしょう。私の<エンブリオ>はとても可愛いくて、そして恰好いいものです」
慈愛、というよりは敬愛に近い表情を浮かべてそとばさんは語った。
「可愛い……っていうことはガードナーかな?」
「いや、メイデンかも知れねえぜ」
「何それ?」
わたしの知らないtypeだ!
と、そんなこんなで、到着まで<マスター>同士の交流をしたり、お水を飲んだり、時折現れるモンスターを迎撃したり、運転席?の方まで行ってリーちゃんと話したりお水を飲んだりして過ごした。
◇
「ついたネ。ここが
「おおお!」
そこにはただでさえ幽玄な黄河の中でも、より一層幻想的な空間が広がっていた。周囲には目指できる程に霞がかっていて、まさに秘境という雰囲気が漂っていた。
「じゃあ私達はとりあえずギルドにクエスト達成の報告に行くネ。シャボンはどうする?」
「わたしはちょっとその辺を歩きたいかなー」
もしかしたらいいお水が売ってるかもしれないし。
「分かったアル。じゃあ、終わったら通信用の魔道具で連絡するアルよ」
「はーい。じゃあ、芽香にそとばさん、ここまでありがとうございました!」
ここまで迷惑かけた分も含めて深く頭を下げる。
「ぁあん? 礼なんていらねえよ。こっちは依頼でやったんだしな」
「そうですね。報酬も頂くことになりますので」
それでも、お世話になった事には変わりないので!
「んー、そうだな、礼くらい受け取っとくか。じゃーな。なんだかんだ楽しかったぜ!」
「また会えることを私は望んでいます」
「うん! ばいばーい!」
と、そんな感じで芽香、そとばさんと別れを告げた。
さて、ここからはお水の時間だよ! 秘境のお水を探すぞ!
名称:【受送接続 ベル】
<マスター>:
TYPE:ワールド・アームズ
能力特性:受送信
到達形態:第六形態
紹介:
芽香の<エンブリオ>。
指輪型の<エンブリオ>で、右手の中指に嵌められている。
自身や自身の体の一部の転移、回復やバフの横流し、デバフの押し付け、周囲の気配の探査など、いろいろと万能にこなせる。
しかし、転移に特化している他の<エンブリオ>同様リソースが多く削られているので、三つ以上の事は同時に出来ないらしい。