一瞬思考が停止し、その後生物兵器指揮特化の【
□【蒼浪術師】シャボン
さて、まだ見ぬお水を探しに行こう!
どうやって探そうか。わたしの《水脈感知》は水脈を感知するもので、普通のお水は感知してくれないので自分で探さないといけない。
ということで、目についた店を片っ端から訪ねてみることにした。
突撃隣のお水屋さんってね。……古すぎか!
お、早速お店発見。
「ごめんください! お水置いてますか!」
扉を開け、とりあえずお水を求める。
中には頭頂部がキラリと光るおじさんがギョッとしたような顔でこちらを見ていた。
「み、水かい? ここは肉屋だよ?」
はっと辺りを見回すと、モンスターのドロップアイテムらしき様々な肉が吊るされていた。
なるほど、肉屋か。肉屋ってお水売ってないのかな。
「水道水なら裏にあるけど、水は売ってないなあ……水が欲しいなら、近くに湖があるから、そこから汲むといいと思うよ」
突然のことに困惑気味だった肉屋のおじさんだけど、とりあえずお水についての情報を頂くことには成功した。
「ほんと? ありがと、じゃあね!」
「あ、ああ」
困惑気味のおじさんを背にし、わたしは颯爽と去っていった。
◇
《水脈感知》の示すままに歩くこと約十分。
目の前には、お水の底がくっきり見える程に澄んだ湖が広がっていた。
そこは土地の多くを靄に覆われた
視界は良好。お水も良好。
さて、早速一口頂いちゃおう。
わたしは湖の縁にしゃがみ、両手で器を作ってお水を掬うと、それを口に含んだ。
途端、わたしはその場にへたり込む。
……やばいよこれ。あの大河とも違う、奥ゆかしくて、それでいて神聖なミネラルの味がする。
その神秘的なまでに澄み切った清涼感はまさに神の涙。
まるで、一切の全てを許す神の慈悲が流れ出したかのごとく煌めくお水をわたしはゆっくりと飲みほした。
こんな恐れ多いお水、わたし如きが飲んじゃって良かったのかなあ……。
いや、逆だ。このお水の素晴らしさを伝えられるのはわたししか居ない!
先立ってはこのお水様を収めねば……。
わたしは右手にだけ装備している、手にピッチリとフィットするライトブルーのゴム手袋を湖へと浸ける。
「《貯水》」
そして【クラムボン】のスキル、《貯水》を使用する。
みるみるうちに湖のお水が吸い取られていく。
あんまり吸いすぎても怒られそうなので、パッと見で水位の変化がわからない程度に留めておく。
今のゴム手袋は【クラムボン】討伐のMVPに選ばれた事で手に入れた【泡沈手套 クラムボン】という装備だ。
装備枠はアクセサリーになっていて、何故か右手用しかない。ライトブルーのそのゴム手袋には、手の甲の部分に泡の様なデザインが施されている。
そして、今使用した《貯水》が、【クラムボン】のスキルの一つだ。
そういえばあの後あひる車の中で説明を確認したけど、途中で現幻原に着いてしまって最後まで見れなかったから改めて確認しておこうか。
【泡沈手套 クラムボン】
<
永き時を生きた
水に関する権限を与えると共に、
※譲渡売却不可アイテム・装備レベル制限なし
・装備補正
DEX+50%
・装備スキル
《貯水》
《水中適応》
《水操学》
《泡沫生成》
ふむふむ、水を貯める《貯水》に水中の抵抗や温度低下による影響が無くなる《水中適応》。《操水術》のレベルを上げると共に《操水術》使用時のDEXを増加させる《水操学》、あとは泡を生成する《泡沫生成》か。
《泡沫生成》以外はすごく優秀だね! 特にこの《貯水》がいい。貯めておける量がたくさんな上に、種類事にお水を分類することも可能。
あとはこのゴム手袋から直接お水を出せるから指を口に含めばそのままお水を飲めるのもいいよね。
わたしはゆっくりと立ち上がる。
「さて、と」
無事お水の回収も出来たし、そろそろ帰ろうかな。
「QEEEEE!」
その時、湖の対岸からモンスターの鳴く声が聞こえる。
「こら、大人しくしないか。ははっ、じゃれつくなって」
そちらの方を見てみると、れーちゃんが持っていた【ダック・スレイプニル】と同じモンスターに懐かれている一人の小柄な男性がいた。
ん? いや、あれ懐かれてないぞ? どちらかと言うと襲われているような……あ、吹き飛ばされた。
対岸からこちらまで軽く50メートル……いや、メテルだっけ? はあるはずなのに、男性は真っ直ぐこちらまで飛んできて湖ギリギリのところに落ちた。
大きく水飛沫が舞う。
やがて男性がぷかーっと浮かび上がってきた。
こ、これって大丈夫なのかな。死んだりして無いよね?
わたしが救出に向かおうと足を踏み出したとき、男性が立ち上がり、湖を抜け出す。
そして、着用していた白衣を脱ぎ、絞り出した。
これどうすればいいんだろうか。服を絞るのを手伝う? いやいや、違うよね。もうここから去ろうかな。……気まずい。
「……む?」
あ、気づかれた。
男性はこちらをじっと見据える。
な、なんだろう。助けなかったから怒ってるとか?
すると、まだ濡れたままの白衣を再び着用し、男性はこちらにぐっと近づいた。
え、なに。怖いよ。
「あ、あの。大丈夫ですか? 頭とか打ってないですか?」
とにかくコミュニケーションをはかってみる。
「ふむ、ふむふむふむ……」
……話を聞いてくれない。これはどうすれば……。
いいや、もうどうにでもなれ。わたしは黙って結末を見届ける事にした。
やがて、顔を上げた男性はその口を開く。
「……うん、君は【学者】に向いているだろう。間違いなくそうだ」
唐突にそんな事を言い出す男性に、わたしの頭はハテナマークでいっぱいだ。
なに? 【学者】って。なんかのジョブかな。
「え、でも【転職診断カタログ】にはそんなの出なかったけど……」
わたしがそう返すと、男性は真っ直ぐにこちらを見据えて言う。
「そんなものより僕を信じるべきだろう。僕だぞ?」
……? …………!
「そうか、君か!」
「そうさ、僕だ!」
わたし達は通じ合った! それはまさに十年来の友のように!
何故かわたしは君みたいな人を鏡で見た事がある気がするぞ!
「申し遅れた。僕は
「わたしは【蒼浪術師】のシャボン。お水が大好きです! よろしくね、シンメイ!」
わたし達は固い握手を交わす。
「で、【学者】ってどんなジョブなの?」
「ふむ、【学者】系統のジョブは主に採取やアイテム解析なんかのスキルを得られるジョブだ」
なるほど。
「だが、それだけではない。この【学者】系統の真価は上級職になってから現れる。それは、“【学者】系統の上級職で派生した学問に関するジョブスキルを奥義以外全て扱える”というものだ。もちろん、それに関するジョブには就いている必要があるがな」
どういうこと?
「例えば、僕の就く【魔物学者】なら、【従魔師】や【騎兵】、【研究者】なんかの魔物に関するスキルは全て使えるな」
おお、それはすごい……のかな? 別に同じ様なジョブに就いてれば大体スキルは使えると思うし、それで上級職を一つ捨てるのは勿体無いんじゃないかな。
「そうでもない。ジョブの関係で使用出来ないスキルは多い。例えば、主に符を使って戦う【道士】系統のジョブスキルと詠唱が必要な【魔術師】系統のジョブスキルはメインのジョブどちらかのスキルしか使用出来ない。だが、【地質学者】に就いていた場合は、地属性に限定されるが【道士】と【魔術師】の両方のジョブスキルが使える。他にも【農家】の土壌活性スキルなども使えるな」
ほえー、それは便利だねー。わたしも【学者】になりたいかも。
「あっ、でも……」
「ん? どうした?」
「……いや、なんでもないよ」
まあ、別にいいか。
「そうか。では早速現幻原にある【学者】のジョブクリスタルに向かおう。僕も着替えないと」
「……そういえば、あの【ダック・スレイプニル】はいいの?」
全然懐かれてなかったけど、多分従魔だよね。
「ああ、あの【ダック・スレイプニル】は野生だから問題はない」
え、野生のモンスターが襲ってきてあんなにフレンドリーに接してたの?
「当たり前だろう! モンスターとは野生でこそ輝く。飼い慣らされたモンスターなど、それはもはやモンスターではない。モンスターをモンスターたらしめるものこそ、その魂の宿す本能。それ無くしてモンスターとはいえない。まさに──」
「あー、それは今度聞くから。風邪ひいちゃうよ?」
面白そうな話だったけど、あんまり長くなるとモンスターが寄ってきたりするかもだから早々に切り上げる。
「む? そうか。それでは向かうとしようか」
そうして、わたし達は町へと帰還した。
◇◇◇
□【■■■■】シャボン
あ、通信用のマジックアイテムに反応が。リーちゃんからだ。
「シャボン、報告おわったけど、今どこにいるアル?」
「えっとねー、さっき友達になったシンメイって人の家だよ」
「え、
突然リーちゃんの声が大きくなった。どうしたんだろ。
「む? その声は
あれ? 二人とも知り合いなの?
「そうだな。僕と
へー、そうなんだ。偶然だね。
「シャボン、そいつが今回の目的の魔物キチアル……」
「えっ」
あー、この人がそうだったのか。
「その呼び方はあまり気分のいいものじゃないな、
「うるさい。私に野生のモンスターをけしかけてきた事は忘れないよ。……はあ、分かった。シャボンはそこに居て。私も向かうから」
「分かった。じゃーねー」
数分後、ドアが勢いよく開き、リーちゃんがやってきた。
「シャボン、大丈夫? 変な事されてない?」
そんな事をいいながらリーちゃんは自分の方にわたしを引き寄せた。
「随分なご挨拶だな、璃嵐」
「それに値することをされてきたからね、杏苺」
「君が魔物の素晴らしさを理解しないからだろう」
「しないわよ、そんなもの」
両者が睨み合う。
ってだめだよ。
「はいはーい、ストッープ! けんかしないで!」
わたしが仲介すると、シンメイはすぐに引いてくれた。
「ふむ、すまない。シャボンの前でする事では無いな」
「ほらほら、リーちゃんも。今回は頼みがあって来たんだから」
「……そうアルね。ごめんアル」
よし、仲直り。
「……なんだその洒落た語尾は」
「あー? これは<マスター>が教えてくれたアル。これ使うと客が増えるアルよ。売り上げはあんまり増えなかったけど」
「ははは、そうか。僕も使って見ようかな」
「やめとくアル。杏苺には似合わないアル」
「そうだな、僕もそう思ったところだ」
あれ? 仲いいじゃん。別にわたしが止めなくても良かったのかな。流石幼馴染。
「それで、一体僕にどんな頼みがあって来たんだ。」
あ、そうだ。わたし達はあの呪いのアイテムを引き取ってもらうために来たんだった。
腰に付けていたアイテムボックスをシンメイに差し出す。
「これをさ、引き取って欲しいんだ」
「……中身はなんだ? 呪いの類ならお断りだぞ」
「ある意味では呪いアル。この中にはとあるモンスターのドロップアイテムが入ってるアルよ」
リーちゃんが【マネー・イフェメラ】と【かお】とそのドロップアイテムについての経緯を話す。
「ふむ、【かお】か。最近耳にした“精神最強”の放したとされるモンスターと同一の名をしているな。【ゲゴニュニュ】のサンプルは持っているが、【かお】は個体数が少なく、サンプルが入手できなかった。そのアイテムはとても興味深い」
「じゃあ受け取ってくれるの?」
「ああ、もちろん引き取らせてくれ」
やった!
「これであの悪夢から救われる……」
ああ、リーちゃんがあまりの嬉しさに放心しておられる。良かった良かった。
◇
【かお】騒動もようやく終わりを告げ、今はシンメイの家で寛いでいる。
今から龍都に向かうと夜の強力なモンスターに襲われるから今日はシンメイの家に泊まらせて貰うことになったのだ。
「そういえば、さっき新しいジョブに就いたんだー」
「へー、どんなのアルか?」
「【水質学者】ってジョブだよ」
あのあと、シンメイと町へ帰ったわたしは早速【学者】になろうとジョブクリスタルに触れると、【水質学者】というジョブの条件を満たしていたのでそちらに就いたのだ。
【水質学者】とは、水系のアイテム採取を向上するスキルや水のミネラル含有量を調べたり出来るジョブだ。とても良いジョブだと思います。
きっとリーちゃんも気に入るはずだ。
「そうアルか……ん? たしかシャボンって【蒼浪術師】と【高位潜水士】っていう上級職に就いてなかったアルか?」
くると思ったよ、その質問!
「うん、だから【蒼浪術師】を辞めて【水質学者】になったんだ!」
「……はい?」
やっぱりお水を崇める者として【高位潜水士】は外せないしね! あれがないと長時間お水に包まれる事ができないのだ。
「いや、なにやってんの?」
リーちゃんが凄い形相でこちらを見てくる。
何故か凄く怒られた。解せぬ。
ちなみに【クラムボン】の《水操学》があるので【蒼浪術師】の奥義が使えなくなること以外はあんまり変わってません。
まあ、【蒼浪術師】と【クラムボン】両方あったらもっとよかったんですけどね。