水無月水樹の水紀行   作:七草青菜

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 遅れてすいません。くさばくんの思考の解読に時間がかかりました。


第七話 最後の平穏と狂気の降誕

 □水無月水樹

 

「いや、あんたなにやってんのよ」

 

 今日は夏休み唯一の登校日。

 夏休みの間の夜更かしが抜けきってないようでみんな寝むたそうに欠伸をしている。かくいうわたしも眠い。

 

 なので、眠気覚ましも兼ねてれーちゃんの机の周りで二人でおしゃべりをしている。

 

 ちなみに、昨日の出来事をれーちゃんに話してあげたら、「帰りどうすんのよ、あんたも戦力に入ってるんでしょ。報連相くらいちゃんとしなさい」って怒られた。

 

「別にジョブ変えたのを悪いとは言ってなかったでしょ? 多分」

「それは……確かに」

「一言断りを入れておいたらそのリーランって子だって文句は無かったと思うわよ」

「うう……」

 

 深く反省します……。

 

「はぁ、まあいいわ、私は部外者だし。それより、聞いてよ水樹!」

 

 あ、れーちゃんがいつもの妄想話をする時の顔になった。いや、あれはデンドロの事って言ってたか。

 

「なあに?」

「グランバロアに<SUBM>がでたのよ!」

 

 <SUBM>? なにそれ。<UBM>じゃなくて?

 

「うん、私も詳しくは知らないんだけど、<UBM>よりも遥かに強いらしいのよ! なんか醤油抗菌っていう変な名前の奴が発見したらしいんだけど、一人じゃ倒せないから、グランバロアの軍事船団総動員で事にあたるんだって」

「ふーん。すごいんだねえ」

 

 よくわかんないけど。正直<UBM>である【クラムボン】はあんまり強くなかったし。リーちゃん曰く相性がものすごく良かっただけらしいけど。

 

「で、今回その<SUBM>討伐に私達のクランも参加する事になったの!」

「おお!」

 

 それはすごいね! わたしデンドロでのれーちゃんについて全く知らないけど、軍事船団? の人が行く中でれーちゃんのクランも参加ってのはすごい事だよね。……多分。

 

「っていっても、私達は物資の補給をするだけなんだけどね」

「ありゃま」

 

 なんだ。やっぱり世の中そんなもんか。

 まあ、水分の補給って大事だからね。塩水なんて飲んだらお腹壊しちゃうよ。

 ん? お水じゃなくて物資? 物資ってお水以外にあるの?

 

「……でも、一緒に行ってたら<SUBM>を見かける可能性もあるんだし、ちょっとくらい応戦してもいいわよね」

 

 あ、スルー。はい。

 

 で、応戦かー。昨日芽香に怒られたわたしとしては何も言えないんだけど。ってわたし怒られてばっかだな。

 

「もしMVPに選ばれたらどうしよう!」

 

 れーちゃんは目を瞑って妄想の世界に旅立つ。

 

 いつもクールなれーちゃんがこんなにはっちゃけるなんて、<SUBM>ってすごいんだねえ。

 

 あ、言ってなかったな。

 

「そうだ。MVPといえば、私も昨日<UBM>倒してMVPに選ばれたんだよ」

「へー、それは凄いじゃん。…………は?」

 

 れーちゃんが目を見開き、驚愕の表情でこちらを見る。

 辺りを沈黙が支配する。周りにいる生徒達の声が聞こえてくる程に、まるでこの空間だけ切り離されたかのように静まり返っていた。

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

「あ、チャイムだ」

「え、ちょっと」

「話は後でだよ、れーちゃん」

 

 わたしとれーちゃんの席は離れているので、わたしは自分の席へと戻っていった。

 れーちゃんは何故か授業中、心ここに在らずといった感じでこちらをちらちらと見ていた。わたしは寝ていた。

 

 ◇

 

 授業が終わると、次は体育館に移動だったので急いで向かう。れーちゃんはこっちに来ようとしてたけど、目が怖かったので他の友達と向かった。

 れーちゃんもわたし以外の友達に捕まっていたので問題はないはず。

 

「ねえ水樹、レーラさんすっごい顔してこっち見てるけどいいの?」

「……さあ?」

 

 問題ない……はず?

 

 そして体育館での授業も終わり、下校の時間。

 

 クラス委員長ちゃんの礼に続き礼をして、下校する。

 さて、帰ってお昼ご飯食べてお風呂入ってデンドロしようかなー、と思っていたら、何者かに手を掴まれる。

 

 おっと威圧感。

 

「<UBM>倒したってほんと?」

「……どうしたのれーちゃん、お顔が怖いよ?」

 

 れーちゃんの顔があからさまに嫉妬にまみれたものになっている。

 

「ほんとなの?」

「いや、まあ、うん。ほんとにたまたまだけどね?」

 

 芽香が居なかったら命が危なかっただろうし。

 

 わたしがそう答えると、れーちゃんは声を荒げる。

 

「<UBM>なんて、私もまだ倒した事ないどころか、あった事すらないのに! ヒーローといいあんたといい!」

 

 知らないよ、そんなの己の運を恨んでよ。いや、そもそもヒーローって誰よ?

 そんなことよりも、このあからさまに嫉妬まみれのれーちゃんからどうやって逃げようか。あいにくわたしの運動神経は0。むくんだ足で走ってもすぐに追いつかれてしまうだろう。

 じゃあ言いくるめる? いや、わたしがれーちゃんに口で勝てるわけがない。すぐに言い負かされるのがオチだろう。

 じゃあお金だ。お金で手を打ってもらおう。いや、わたしデンドロ買ったからお金ないんだった。そもそもれーちゃんはお金で釣られるほど金欠でも無かったか。

 

 あれ、詰んだ。

 

 ああ、いつもクールなれーちゃんなんて本当は居なかったのかもしれない。

 

 静かににじり寄って来るれーちゃんを達観した瞳で見つめながら、辞世の句を考える私なのであった。

 

 全ては流転する万物のお水に……。

 

 

 このあとめちゃくちゃ根掘り葉掘り聞かれた。いや、別にいいんだけどね。<UBM>に出会えない哀れなれーちゃんに話を聞かせるくらい、別にね。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 ■現幻原<仙湖>

 

 現幻原は希少な魔物の多く生息する<仙山>に周りを囲まれた町だ。

 何故そのような場所に町が存在するのか、それは希少な魔物を研究する【学者】や、<仙山>にて修行をする【道士】、【僧兵】などの者が集まり、その中継地点として作られた町だからだ。

 

 故に、この町の者達は皆何かしらの戦闘技術か、もしくは習熟したモンスター知識を有する、まさにモンスターに関してのエキスパート達である。

 

 そんな現幻原、その周りを囲む<仙山>。その麓付近にに存在する、自然魔力の多く含まれた通称<仙湖>。

 現幻原に住まう人々はその<仙山>に住まうモンスターを食料に、<仙湖>より湧き出る水を飲料水とし、外界からの干渉を絶っている。

 

 そんな<仙湖>、つい先程までシャボンと杏苺(シンメイ)が居たその場所に、そとば──否、“精神最強”くさばは居た。

 くさばは湖に足を入れ、幼い子供がするように足を上下に振り、バシャバシャと水面に波紋を作っていた。

 

 

 

 くさばは水が好きである。

 

 それは、水に触れているその瞬間、自らがまだ始まっていない(・・・・・・・)時の事を思い出すからだ。

 

「……羊水、懐かしい響きです」

 

 くさばは自らが羊水に浸かっていた時期を思い出す。

 あの頃は本当に毎日が新鮮だった。

 常に移り変わる色とりどりの景色に、時折現れる白衣の人達。

 くさばの目に映るもの全てが初めてで、それはとても愛しいものだった。

 

「あの時はまだ幼かった……」

 

 白衣が皆居なくなった頃、“ますこみ”に追われる中、くさばを匿ってくれたその人達。

 

 その時の事は今でも鮮明に思い出す事が出来る。一言一句、景色や音、匂いまで、鮮明に。

 

『貴方の親は、きっと草葉の陰から見守っていてくれるわよ、ね?』

 

 脳内で生涯一番の言葉が反響する。

 

「……ちゃんと、見守っていてくれるでしょうか」

 

 くさばがくさばであると知った時、その時から、くさばは本当に始まった。始まることが出来た。

 

「ついに知ることができなかった“感情”という脳の化学反応。それを解き明かすことは出来るのでしょうか」

 

 そんな事を呟いたその時、不意に背後から声がかかる。

 

「■■■、■■■■■■」

「その声は、創造主様ですね」

 

 そこに居たのは、くさばの<エンブリオ>である異形だった。異形は幾重にも絡まり合う触手を揺らしながら、こちらに寄ってくる。

 

「創造主様、あまりうろうろして頂くと困るのですが。創造主様は戦闘能力もあまりありませんし」

 

 そう、彼の<超級エンブリオ>、TYPE:プラントガーディアンの【狂創造主】には単体での戦闘能力があまり無い。その弱さたるや、下手をすればそこらの有象無象のモンスターにすらやられてしまうほどだ。

 

「■■■■」

「分かって頂ければ良いのです」

 

 【狂創造主】の奇怪な音にくさばは満足し頷く。

 

「では、始めましょうか」

 

 そしてくさばは自らの<エンブリオ>、【狂創造主】に新たな生命についての話し合いをする。

 

「今ある材料(・・)ではより恐怖を与えられる一体を創るのがよろしいでしょう」

「■■■■」

 

 くさば、正確には【狂創造主】の《供えあれば愁いなし》によって現在保管されている特典武具は一つ。それならば創造する生物をより強大な一つに絞った方がいいと双方の意見が纏まった。

 

「そうだ、少々お待ちしてください。この間買い取ったあれを使いましょう」

 

 そうしてくさばがアイテムボックスから取り出したのはこの間<幻花>にて買い占めた《投影》の符である。

 

「早速役に立ちましたね。……では、いきます」

 

 くさばが《投影》の符を使用する。

 禍々しい光の後にそこに映し出されたのは、まさしく異形の物体であった。

 それは直径10メテル程の冒涜的なまでに黒い球体の周りを、様々な大きさの白い球体が複数、絶えず回り続ける、まさに宇宙的恐怖を思わせる悪夢の天体、もしくは狂気的なまでに整った動きをし続ける原子配列のようであった。

 

 おおよそ常人には理解も出来ないだろうそれを見た【狂創造主】は、少しの思考の後、声を発する。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■?」

 

 指摘の様なニュアンスを含んだその言葉は、くさばに一考の価値を持たせた。

 

「……そうですね、やはり白黒の生命体よりは色味を持たせて、より視覚的に恐怖を与えた方が、わかりやすいと言えます」

 

 くさばの納得の声に満足したのか、【狂創造主】は自らの触手を伸ばし、くさばの取り出した《投影》の符を一枚掴むと、今度は自分が見せるとばかりに符を使用した。

 

 それは鋼でできたメビウスの輪をより複雑に、そして狂気的なまでに入り組ませた様な幾何学的な物体であった。

 

「なるほど、今回は無機物系で行くのですね。それでは、次は私が──」

 

 くさばと【狂創造主】の狂気の生物創造会議は続く。

 

 ◆

 

 結局、今回創り出すモンスターは、最初のくさばの案と【狂創造主】の案を組み合わせた様なモンスターに決定した。

 

 各々の案が採用され、ほっと一息吐く両者である。

 

「やはり、この符は便利ですね。とても良い買い物だったと言うことが出来ます」

 

 くさばはまだ残っている《投影》の符をヒラヒラと手で扇ぐ。

 

 通常なら【狂創造主】と話し合いを重ね、二人が納得するものを作り上げるか、もしくは【狂創造主】に酒を差し出し、気前の良くなったついでに色々と作ってもらうしかなかった。

 尚、酒を経由した場合に出来上がるのは【なまこ】や【ゲゴニュニュ】の様な娯楽用(・・・)のモンスターがほとんどで、戦闘用や狂気用のモンスターを創るなら、やはり話し合いを重ねる必要があった。

 

 しかし、今回使用した《投影》の符を使用すれば話し合いという過程を飛ばして自らの創りたい生物のイメージを直接相手に見せることが出来る。

 

 もっとも、《投影》の符は常人が使用しても、形成するものに対しての愛着がよっぽど無ければ想像力が足りずに影の様なぐちゃぐちゃした何かが形成されるだけなのだが。

 

 ならば何故先程までの様に様々な生物を想像のみで映し出すことが出来たのか、それは彼の脳内に巣食う神話級特典武具、【脳糧災 カニバル・カーニバル】により脳の持つ本来の機能を普通よりも多く発揮しているからに他ならない。

 

 もちろんそのような行為はプレイヤー保護の観点から普通は(・・・)出来ないだろう。しかし、くさばには出来た。

 何故なら、くさばにとってこの脳の状態こそがデフォルト(・・・・・)だからだ。

 リアルにおいてもデンドロにおいても、常人にはなし得ない脳の働きを可能としているのがくさばなのである。

 

「それでは、いつものように《不気味の谷》を解除してからスキル発動をお願いします」

 

 くさばのその言葉に応じ、【狂創造主】は自身のスキルである《不気味の谷》を解除しどこからともなく声を出す。

 その声は、いつものような規則的ではあるが不気味な音のようなもの……ではなかった。

 

「■■……いくよ(・・・)、《生命創造の詔(ゲノム・インスピレーション)》」

 

 【狂創造主】の放った言葉は、それまでの様な不気味な音ではあったが、それは確かに万人に分かるように翻訳(・・)が成されていた。

 

 スキルを発動した【狂創造主】の大量の触手が絡まり合い、そして限界を超えて伸びる、やがて、触手は辺りの空間を包み込むと半径10メテル程の球状へと変化した。

 その中からはこの世のものとは思えないおぞましい音が鳴り響く。それは何かを潰す音であったり、切り刻む音であったりした。

 

 そうして産み出される新生物。種族は魔蟲で統一しているが、スキルについては完全にそのモンスターの資質に委ねられる。ある程度の方向性を決めることは可能だが、最終的に決めるのは少しの運とそして【狂創造主】の愛だ。

 

 数時間が経過し、やがて【狂創造主】の触手が解けていき、縮んでゆく。中から現れたのは先程くさばが提案した天体配列、そして【狂創造主】が提案したメビウスの輪、その二つを混合した狂気の生物であった。

 

 巨大な漆黒の球体の周りを、絶えず変色し続けるテレビの砂嵐の様な色合いの大量の球体とおぞましい光沢を見せる銀の棒が偏在する。

 複雑に、しかし規則的に絡まり合いその配列はまさに狂気と言う他無かった。

 

 鳴き声などは特には無いが、絶えずラジオのノイズの様な音と、金属の擦れ合う奇怪な音が響き続けるその様は、より一層の宇宙的恐怖を演出していた。

 

「めぼしい材料全部無くなっちゃった」

 

 《不気味の谷》が解除されたままの【狂創造主】は翻訳の成された声でそう呟く。だが、その声には喜色が多分に混じっていた。そしてそれはくさばも同じである。

 

「おお、とても素晴らしい。では創造主様、名前はどうしましょう」

 

 そうしてくさば達は、この異形の生物に名付けを行う。その工程を経て《生命創造の詔》を終了するのだ。

 

 そう、彼等の創り出した【ゲゴニュニュ】や【かお】などのモンスター達、その名前はくさばと【狂創造主】によって付けられていたのだ。

 

 そして、このくさばと<エンブリオ>、本人達の付けた名を誰よりも気に入り、そしてお互いがお互いの名付けを素晴らしいものであると思っている。

 

 実際には、【なまこ】や【かお】などのくさばの命名はよく言えばシンプル、悪く言えば雑で、【ゲゴニュニュ】や【ネピルス】などの【狂創造主】の命名はよく言えば独創的、悪く言えば意味が分からないものになっているのだが。

 

「決めてもいい?」

「そうですね、やはり創造主様が決めるものがいいと言えます」

 

 【狂創造主】はその大きな目玉を左右に揺らし、思考を始める。くさばはその様子を緊張の面持ちで見守っていた。

 

 少しの時間が経過し、やがて【狂創造主】の声が響く。

 

「──よし、この子は【ゼボラボ・ペナトトトス】だ」

 

 その名はやはり意味のわからない単語ではあったが、ともあれこれで《生命創造の詔》は成された。

 

「それでは、墜しましょうか」

 

 ──存在災害が始まる。

 

 

 




 つまり作中で何が言いたかったのかというと、くさばくんはリアルでもデンドロでも脳を常人より使用出来ているということです。

 人間は脳を10%しか使用出来てないと言われてるあれが本当なのかは物議を醸してるそうですが、作中ではその説を採用しています。

 まあ、主にくさばくん想像力が人間離れしてるってだけなんですけどね。



・<エンブリオ>紹介

【狂創造主 ■■■■■】※■の文字数は関係ない。

TYPE:プラントガーディアン

生命想像の詔(ゲノム・インスピレーション)
・ノリで新生物を創る。一度創ってしまえばあとは材料さえあればいくらでも創れる。なのでオンリーワンな特典武具を使用している生物は完全に一点物。

《供えあれば愁いなし》
・特典武具以外のドロップアイテムが全て創造主様に勝手に回収される。特典武具のお供えも出来る。

意訳:お供えしておけば(モンスターいっぱい創れて)寂しく(愁いが)ないね!

《不気味の谷》
・一般人がその身を目に入れたり、その声を耳に入れたりしたら【狂気】に侵される。その付属効果として管理AIによる翻訳がシャットアウトされる。
 一応その状態でも法則性があるので、【狂気】を乗り越えた上で《解読》みたいなスキルを使えば何言ってるのかは分かる。

※上記以外にも【狂創造主】のスキルはあります。


 ちなみに今回くさばくんが創ったモンスターはクトゥルフ神話の外なる神ダオロスがモデルです。
 まあ、原型はとどめてないしくさばくんはダオロスを意識して創ってないんですけど。


・くさばについて

 彼は“人間”です。ヒト科ヒト属ヒト種のソレと変わらない“人間”です。医学的にも、法的にも、紛れもない“人間”です。
 それはとても悲しいことなのですが。



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