水無月水樹の水紀行   作:七草青菜

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よろしくおねがいします。


第十四話 ねこです

 □ねこです

 

 《認識し、伝染する存在災害(ネコデスヨロシクオネガイシマス)》。それはガードナーの必殺スキルにはありがちの、ガードナーとの融合スキルである。

 

 しかし、他のガードナーと明確に違う点。それは、自身とガードナーとの融合ではなく、他とガードナーとの融合である点だ。

 

 彼女の<エンブリオ>、【存在肯定 ネコデスヨロシクオネガイシマス】は、相手の注目を集めることに特化した<エンブリオ>である。

 

 そこに存在する。それだけで敵は注意の何割かをねこに割いてしまう。しかし、ねこにはHPのステータスが存在せず、およそ普通の方法で死ぬことがない。

 結果、レーラ──スワンと戦いをするものは、皆ねこという障害を乗り越えなければならない。

 常人にとって、それは状態異常に等しい行動の制限に他ならない。スワンと戦闘するものは、強烈な認識のデバフを背負った状態で臨まなければならないのである。

 

 もちろん、それは常人なら、の話。常人でなく、超常なれば、そのような障害など意に介さず剣を振り、言霊を紡ぐことができるであろう。

 

 なれば、この必殺スキルとは──

 

 ◇

 

 □【心剣士】スワン

 

「《認識し、伝染する存在災害(ネコデスヨロシクオネガイシマス)》!」

 

 あー舌噛みそう。微妙に言いにくいのよねこれ。のうしんとうのやつとかめっちゃ楽そうでいいわ。

 

 私の手の内から離れたねこは、それが当然であるかのように、有から無へと還った。

 

 そして、私が両手を前に差し出すと、装備していた手袋がスゥっと消え、両手のひらの上にねこは現れた。

 

「おー」

 

 水樹がねこを興味深げにまじまじと見つめる。もう、なんの為にパーティに入れたと思ってるのよ。

 

「水樹、このねこ触っちゃだめだからね」

「え、そうなの」

 

 通常スキルはパーティ枠にいれておけば大丈夫だけど、これは無差別だから。

 

「触ったら混ざるのよ」

「混ざる……?」

 

 見せた方が早いわね。

 ねこをガッと掴み、力任せに投げる。

 

 放物線ではなく直線を描き、ねこは一直線に水樹と相対していた男──くさばの方へとむかう。

 

「おや」

 

 くさばは特に何の疑問を抱く事無くそれをキャッチする。

 

 これで装備面は無力化できるかな。

くついでにくさばもねこになれば楽だけど、流石に超級職持ちの<超級>にステータスで有利取るとか無理だからねー。

 

 ──瞬間、ぽん、という小気味のいい音と共にくさばが弾けた。

 

「え?」

 

 え? なんで?

 

 ◇

 

 《認識し、伝染する存在災害(ネコデスヨロシクオネガイシマス)》は私の装備枠を任意で消費してその数のねこを発生させる必殺スキルだ。

 

 そして、そのねこはアイテム、もしくは私のステータスの十分の一以下の生物に触れた場合、それらに溶け込み、混ざり、ねこにしてしまう。

 

 もちろん、新たなねこも《存在伝染》、《認識災害》のスキルは継続してもっていて、パーティ外の生物がねこを認識するとねこのことが頭から離れなくなる。

 

 っていう、そんなスキルのはずなんだけど……。

 

「れーちゃん……つよい」

「スワンさんそんなつよつよスキル隠し持ってたんですか!? さっすがー!」

 

 水樹とのうしんとうが、上半身の弾け飛んだくさばを見て口々に褒める。

 

「え、いやいやいや、これそんなスキルじゃないし、なにあの人……」

 

 光の塵にもならないし……え、つまり生きてるの? 気持ち悪。

 さっきの爆発は、くさばが大量のねこに変わったことで、その場に留まることが出来ずに結果ねこが弾け飛んだという経緯だった。

 意味が分からない。

 仮にくさばのステータスが私の十分の一以下だったとしても、ねこは一匹のはずだ。装備枠拡張だとしても百を超えるのは多すぎだし、アイテムボックスがねこになっても中身がぶちまけられることは無い。

 本当に意味がわからない。

 

「ねこ、ですか」

「うぇ!?」

 

 声が、一匹のねこから声が聞こえた。

 確かにねこと融合しても意識は残るけど、口もないのにどうやって発声してるのよ!?

 

「かわいいですね」

「ひっ」

 

 なんなのよこいつ……水樹はこんなやつに立ち向かってたの……? いや、私が立ち向かわせた……?

 恐怖に支配される。

 怖い。気持ちが悪い。

 

「スワン! 気をしっかり持って!」

 

 ヒーローに声を掛けられ、思考が現実へと呼び戻される。

 危ない、完全に飲まれてた。

 

「相手は“最強”、殺したくらいじゃ死なないだろ!」

「うん、ごめん。行くよ!」

 

 そして右手に剣、左手に秤をもったヒーロー、剣を構えた私。共に下半身だけとなった“精神最強”へ向かう。

 

「《清き心に天恵を(ブレッシング・クリアハート)》!」

「《明鏡止水》!」

 

 ヒーローのスキルによって私のステータスが引き上げられるのを感じながら、【心剣士】の奥義《明鏡止水》によって集中力を極限まで引き上げる。

 これで大丈夫。もう怖くない!

 

「あぁぁ!」

 

 赤黒い断面が見える腰目掛けて袈裟斬りを行った。

 

「嘘っ!?」

 

 だけど、くさばは膝を突き出すと私の放った剣の腹を正確に捉えてそのまま弾いてしまった。

 だが、その背後(?)には既にヒーローが居る。

 

「《疾風切り》!」

 

 脚を両断しようと横一線に切りかかるヒーロー。そんなヒーローの一撃を靴の裏で逸らしたくさばは片足だけで大きく飛び上がると、身を寄せあって固まっていたねこ目掛けて落ちていった。

 

 なにあれ、自爆?

 でも、これを逃す手はない。

 

「そこだぁ! 《水源動地》!」

「便乗しまーす! 《ハイドロ・プレッシャー》!」

 

 水樹が【オケアノス】を滞空中のくさば目掛けて放ち、のうしんとうがそれを圧縮する。

 全てを溶かす水の弾丸となったそれを、くさばは空中で脚を捻ることで難なく避けた。

 

「点ではなく面です」

「え、じゃあ私戦犯!?」

 

 ねこ(くさば)の言葉にのうしんとうが答え、遂にくさばはねこの元へ到達してしまった。

 

 え、本当に何がした──

 

「ねこですね」

 

 ──弾けた。

 

 また!? なんなのよもう!

 くさばは下半身までもを大量のねこへと変異させ、遂に完全にその身を捨てた。

 

「くさばさんのくさばさん部分消えましたねぇ」

「いえ、私は私です」

「なんですとっ!?」

 

 なんでのうしんとうはアイツと会話できるのか不思議でならない。

 

「ねこです」

「しかし、私です」

「ねこは私です」

「私はねこであり、私でもあります」

 

 複数のねこを介してくさばが言葉を吐く。

 声と声とがハウリングを繰り返し、とても嫌な音となって脳を揺らす。

 

「……れーちゃんこのねこ溶かしていい?」

「あー、無理。ダメージ完全遮断」

 

 でも、一応これで無力化はされたのよね。ねこだし。

 このスキルは時間経過以外で解除する術がない。だからこのまま時間が過ぎるのを待つしか無い。

 すごく気持ち悪くて吐きそうだけど、ネネさんも居るし、これで終わりかな。

 

「私は私を定義します」

「ねこです」

「くさばです」

 

 あーうるさい気持ち悪い。

 早くどっかに隔離しないと──

 

「──おわりませんよ?」

「へ」

 

 ねこが一斉にこちらを向く。

 

 あまりの突拍子の無さ、そして非日常感に脳の理解が追いつかない。

 そんな私が硬直していると、ねこは一斉に飛びかかってきた。

 

 え、よく分からないけど体のパーツ事にぐちゃぐちゃになってねこと混ざったんでしょ?

 

 なんで動けるの? 理解出来ないんだけど。

 思考が固まり動きが鈍る。

 だめだ、避けきれない。

 だめだ。

 

「《水源動地》!」

 

 スキル宣言。

 水樹が放った【オケアノス】がねこを洗い流す。

 

「あれ触っちゃダメなんだよね?」

「うん、ありがと」

 

 寸でのところで私を助けてくれた水樹に感謝し、私はねこの方へ向き直る。

 私が一番ねこを知ってるんだから、私が頑張らないと。

 

 ってか、本当にどうやって動いてるのよあれ、これまでねこになってから動いた人間なんていなかったわよ。ましてやくさばはどういうわけか、パーツ事にねこへと変化しているし。普通は動けない。ってか普通に変化しても動けないはず。

 普通に動けたのなんてそれこそねことあまり姿が変わらない魔獣系モンスターくらいのものだし。

 

「あのー! それどうやって動いてるんですかー!?」

 

 のうしんとうが直接ねこ(くさば)に尋ねる。

 

「これは【血肉術師】の《ボディ・コントロール》を使うことをしています」

「私は私を使ってねこをしています」

「ねこです」

「動きます」

「跳びます」

「全てのねこを私がします」

 

 ……つまり百を超えるねこを一人で操ってるってこと……? そんなこと、人間に可能なの?

 

「頭おかしいですね!」

「いえ、おかしいではないです」

「私はねこです」

「ねこを使います」

 

 想像してしまう。複数の肉塊が蠢き、形取り、ねこになっていく様を。鮮明に。

 

 【恐怖】で身体が震える。《明鏡止水》の効果はとっくに切れていて、精神系状態異常がいくつも私に襲い掛かる。

 

「いやっ……!」

 

 無理だ、無理だよこんなの。

 私が悪かったんだ、水樹を焚き付けて、ヒーロー達を巻き込んで……。

 ヒーローが自分の後ろに私を庇う。

 

「スワン、下がってて」

「え……」

 

 右手が温かい。

 

 水樹が手を握ってくれたからだ。

 

「ごめん、水樹。私、全然」

「ううん、大丈夫」

 

 水樹は大丈夫と言ってくれた。

 

「だって、れーちゃんはちゃんと来てくれたもん。それがわたしにとってすっごく嬉しかったんだよ?」

 

 握った手は離さずに、水樹はくさばを真っ直ぐと見据え、右手を前に向けた。

 

「れーちゃんが居れば、わたしは誰にも負けないよ! 《流神脈動》!!」

 

 私達が踏み締めている地から水が染み出し、溜まりを作る。

 それは人にとっては何ら障害とならないもの。でも、ねこにとってそれは動作の自由を奪われたことに他ならない。

 もがくように足をばたつかせたねこ(くさば)達だったが、水樹の操る水によってそのまま遠くへ流されてしまった。

 

「シスター、あと水樹さん、頼めますか?」

「ええ。貴方達も、回復が欲しかったら戻っておいでね」

「れーちゃんはわたしに任せて、行ってください!」

 

 なによ、もう。

 あんなに萎れてたくせに、やっぱり水樹は水樹じゃん。

 

 水が誰より大好きで、いつも私に元気を分けてくれる、私の一番の親友だよ。

 




くさばさんは全身のパーツ事にモンスターが置換してるのでパーツ事にねこになりました。くさばさんのステータスではなく置換してるモンスターのステータスで判定したので全部ねこになりました。ダメージじゃなくて変化なので再生はしません。
なんで変化に対して対策を取ってないかというと、くさばにとって変化はあんまり障害にならないからです。こんなふうに。

【存在肯定 ネコデスヨロシクオネガイシマス】
type:レギオン・テリトリー

《認識災害》
・ねこはいます。ねこはそこにいます。みんながねこをみられるようになります。みんながねこにみられるようになります。よろしくおねがいします。

《存在伝染》
・ねこです。ねこはいました。ずっとあなたのこころのなかに。ずっとみんなのこころのなかに。そしてねこはみんなのせかいへと。よろしくおねがいしました。

認識し、伝染する存在災害(ネコデスヨロシクオネガイシマス)
寂しがり屋の野良猫は、ずっと見つめ合う誰かを探していた。
みんなねこになります。【ねこ化】します。ねこはつよくないですが、ねこはねこです。こわくはないですよ、ねこなので。ありがとうございました。
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