水無月水樹の水紀行   作:七草青菜

24 / 25
お久しぶりです。

〜前回までのあらすじ〜
変なモンスターの変なドロップアイテムを預けに(捨てに)璃嵐(リーラン)の故郷である<現幻原(シェンファンユェン)>へとやって来たシャボン一行。
しかし、そこで待ち受けていたのは、“精神最強”くさばによる存在災害であった。
そんなくさばと相対し、心が折れてしまったシャボン──水樹を救ったのは、親友であるスワン──レーラ。
スワンは自らの仲間を引き連れ、遠く離れたグランバロアから、黄河帝国まで助けに来てくれた。
だが、その程度で何とかなるようでは、くさばは“精神最強”とは呼ばれていない。
事態はクライマックスへと向かおうとしていた。


第十六話 VS“精神最強”

 □【水質学者】シャボン

 

 音がする。

 

 激しく戦っている音だ。

 

 助けに行くべきだろうか。

 

 いや、わたしに仲間と協力して戦うなんて出来ない。行っても迷惑になるだけだ。

 

 わたしはわたしに出来ることをやろう。

 

「れーちゃん、大丈夫?」

「はぁ……大丈夫、心配かけてごめん」

 

 だめだ、まだ辛そう。

 握る手は離さない。

 だってまだ震えてるから。

 

 と、茂みががさがさと動いたかと思うと、そこから電車の運転手みたいな格好をした人が現れた。

 

 警戒を込めて手を前に出す。いつでもお水を呼べるように。

 

「……水樹、あの人は味方だから」

 

 れーちゃんが教えてくれる。

 

 あ、そうなんだ。さっきの空飛ぶ列車の持ち主かな?

 

「皆さん無事でありますか?」

「ええ、今ヒイロさんとしんとうさんが抑えてくれてるわ」

 

 れーちゃんの介抱をしているおばあさんが答える。

 

 ……そう言えば名前知らないな。

 

 そう思い、意思疎通をしやすくする為にも名前を教えてもらおうとした。その時だった。

 

「逃げてくださいっ!」

 

 さっきの人──ヒーローの声だ。れーちゃんの手は握ったまま、咄嗟に【オケアノス】を紋章から勢いよく召喚することによって、ジェット噴射のようにその場から離脱する。

 

 どぉん、と凄まじい音がして、とんでもなく大きな肉の塊が降ってきた。

 

 咄嗟に避けることが出来たのはわたしと、手を握っていたれーちゃんだけだった。

 

「ネネさん! 車掌さん!」

 

 れーちゃんの、悲鳴にも近い叫びが耳に届く。

 

 ──大量のねこがいた。

 

 さっきねこにされたくさばが、戻ってきた。

 

 れーちゃんが震えてる。

 

 大丈夫、大丈夫。手はぎゅっと握ったままだ。怖くない、怖くない。

 

 わたしが何とかする。わたしなら何とかできる!

 

「《全き流転する果ての領域(オケアノス)》!!」

 

 必殺スキル。山を覆い尽くしたさっきとは違い、小規模な発動。前方のねこの軍団目掛け、全てを無に還すお水様を展開する。

 

 ねこにHPはないからダメージはない。でも、その足は確実に鈍るはず。

 

「《死海の羽衣(ソルト・ヴェール)》!」

 

 わたしが展開したお水様を突き破って、ヒーローが飛び出してきた。

 ヒーローの装備は所々溶けていて、お水様の超純水的効果を完全には防ぎきれなかったことが分かる。

 

 そうだ、ヒーローを巻き込んでたんだ。やってしまった。

 

「びっくりした……」

「ごめん……!」

 

 まだ連携に慣れてない。他の人と息を合わせるってどうやるの? そんなのわたしできないよ。

 

 思考が()れる。

 

 違う。

 

 わたし一人でやるんだ。わたしならやれる!

 

「巻き込まれないように下がってて! 《水源動地》!」

 

 お水ごとねこを遠くへ飛ばす。

 

 これでしばらくは帰って来れないはず。

 

 どうする? ねこからくさばに戻った時が反撃のチャンスでもあり、わたし達の終わりでもある。

 一撃で決めないと無理だろう。

 

 どうしよう。どうしよう。

 

「……樹!」

 

 お水様、わたしは一体どうすれば……!

 

「水樹!」

「はいっ!?」

 

 びっくりした。れーちゃんがずっとわたしに呼びかけいたみたいだ。

 聞こえなかった。いや、聞いてなかっただけかもしれない。

 

「れーちゃん?」

「一人でやろうとしないで」

 

 一人でやろうとしないで。

 

 どういうこと? みんなで力を合わせる?

 

 無理だ。わたしにみんなと合わせることなんて出来ない。

 

「私はもう大丈夫だから。力を合わせるの」

 

 れーちゃんが無事そうなのは嬉しい。

 でも、でも無理だよ。

 

「わたし連携なんて……」

「私とヒーローが合わせる」

「僕も!?」

 

 ほら、ヒーローも驚いてる。わたしみたいな人の事なんて知らないのに、合わせられるわけない。

 

「いや、まぁそれしかないね。うん」

 

 いいの!?

 

 みんなできるんだ。

 わたしだけ出来ない。また(・・)わたしだけだ。

 でも、合わせてくれるならそれでいいか。まだ大丈夫。大丈夫。

 

「僕に作戦がある。上手く決まるかは正直分からない。でも、やらないよりはやった方がいいと思う」

「……どんな作戦?」

「えっと、まず──」

 

 ヒーローは語ってくれた。

 必勝でもなければ、定石でもない。継戦の為の策を。

 

 ◇

 

 ザッ、ザッという足音が響く。ねこがくさばへと戻ったんだ。

 

 れーちゃん曰く、身体のパーツがばらばらになっていたはずなのに、何故か普通に人型としてくさばは佇んでいた。

 

 いや、もう驚かない。くさばはなんでもできる。だから、なにかする前に終わらせる。

 

「《水虎流々》!」

 

 水の制御は得意だ。たとえ動き回る鳥にだって、ミリ単位で正確に輪郭を捉えるとこができる。

 それに、くさばは止まっている。

 

 わたしはくさばを、輪郭に沿って一縷の隙間も無く閉じ込めることに成功した。

 お水は生きているみたいにくさばに纏わり付き、その流れを止めることなくギュルギュルと廻り続けている。

 

 ……溶けない。【オケアノス】は超純水なのに、絶対のはずなのに、くさばにはそんな常識は効かない。

 

 でも、これは分かっていた。

 あの時、<現幻原>全体を水没させた時もくさばは溶けなかった。だったら今も溶けないのはおかしい事じゃない。

 

 わたしの目的はくさばの拘束。

 

 【オケアノス】は超純水だ。

 そして、現実で言うところの超純水と、こちらの超純水は、実は少し異なる。

 

 こちらのお水には、自然魔力がミネラルのように含まれている。つまり、魔力はミネラル(元素)の一種だ。

 

 【オケアノス】には、その自然魔力すらも全く含まれておらず、ミネラルと同じように魔力も吸い付くし、混ざる。

 

 つまり、わたしがくさばを包み込んでいる限り、くさばは魔法を使えない。

 

 そして、それは好機。大きな隙となってくさばを襲う。

 

「──《明鏡止水》、《死突・本能外し》」

 

 背後。くさばにとっての完全な死角からの一撃。対人の中でも読み合いに特化した【心理剣士】に就くれーちゃんだからこそできる、頭を狙った渾身の一撃。

 

 でも、防がれた。

 腕だけで、完全に逸らされた。

 

 見てる。くさばはわたしを見ている。

 

 違う、わたしの目だ。わたしの眼球の動きから、れーちゃんの位置を割り出して、そこから剣筋を読んだんだ。

 意味が分からない。でも、そうなんだ、と思わせるだけの圧がくさばにはあった。

 

 無機質な目がこちらを覗き込んでいる。まるで蟲みたいだ。感情が分からない。怒ってるの? 笑ってるの? それとも……。

 

「泣いてる、の?」

「届け! 《醜き心に天幕を(ブラインド・アグリーハート)》!!」

 

 ──すぐ後ろで闇が迸る。

 振り向かない。予定通りだ。わたしはわたしにできることをやるんだ。

 

「っ! 《極集中(コンセントレイト)》!!」

 

 れーちゃんがくさばの蹴りをギリギリで避ける。れーちゃんのスキル使用に加え、水の中でくさばの動きが鈍っていることによって、やっとの事で避けることができた。

 多分次は無い。そう思っていた。

 

 違った。

 

 次は無いというか、もう終わっていた。

 

 くさばの手のひらに付いている口がガパッと開き、くさばに纏わり付くお水を全て飲み干してしまった。

 

 わたし達の抵抗は、ここで終わった。

 

 ◇

 

 ■<現幻原>跡地

 

「なんで、どうして」

 

 くさばは顔に付いている方の口を開いた。

 

「悪いことをしたら、叱ってくれないのですか?」

 

 くさばの言っていることは誰にも理解出来ない。ともすれば、本人も理解出来てないのかもしれない。

 

「私のことを、誰か知ってください」

 

 でも、くさばは感情を知っていて、感情をする(・・)ことが出来ていた。

 

「私に私を見せてください」

 

 いつの間にか手に持っていたジョブクリスタルを割る。

 

 くさばが、本日幾度目かの転職を行う。

 

 【血肉術師(フレッシュマンサー)】から、【蟲将軍(バグ・ジェネラル)】……ではない。

 くさばは、自身の二つ目の上級職【大蟲創師(グレイト・バグ・クリエイター)】へと転職を果たした。

 

 正直なところ、くさばは【蟲将軍】を使いこなせない。

 彼は自身の作成した配下である蟲を愛しているし、死んだからといって爆発させるなんてことしたくない。

 

 だから、《コロニー・フォー・ワン》は常にOFFにしているし、【億奇邪口 トライポフ】によって呼び出した蟲のみを呼び出しているときにしか《一寸の虫にも五分の道ずれ(イーブン・ア・ワーム・ウィル・バーン)》を使わない。

 

 故に、【トライポフ】が破壊された今、くさばに【蟲将軍(バグ・ジェネラル)】を使用するという選択肢は無い。

 

 くさばが手を前に出す。

 

 くさばの手のひらには地獄に繋がる大きな口が付いており、無数の蟲が犇めき合い、ギチギチと狂った音を奏でていた。

 蟲達はくさばの願いに呼応し、三色の玉を押し出す。

 

「《創造(クリエイト)嫌悪する黒(コックローチ)》」

 

 くさばが三色のうちの一つ、黒く照る丸い素を地面に叩きつけると、それが弾けて大量の黒光りするアレ──ゴキブリへと姿を変える。

 

「《創造(クリエイト)数多ある赤(センチピード)》、《創造(クリエイト)文明食む白(ターマイト)》」

 

 同様に赤と白の素を叩きつけると、丸い塊が解けるようにムカデとシロアリが大量にぶちまけられる。

 

「──《ナーヴ・コネクト》」

 

 そして、【大蟲創師】の奥義を使用し、全ての蟲の神経を繋げる。

 

 ──繋がった。

 

 細く白い糸──菌糸の様に張り巡らされたそれは、蟲の脳に寄生し、伸びきったゴムがそうするように、パチンと縮んでまとまった。

 

 ──クリスタルが割れる。

 

 まだ終わらない。これは災害、存在災害である。

 至った職は、【適応術師】。

 

 常人にはただの下級職であるそれは、くさばの手にかかれば超級職を凌駕する戦略兵器と化す。

 

「《アダプテーション・リンク》」

 

 それは、“対象一体の耐性を、自身と全く同じにする”という【適応術師】の固有スキル。そして、その対象とは、《ナーヴ・コネクト》によってスキル的に繋がった蟲の塊。

 

「《水脈解放》!」

 

 もちろん、シャボン達も折れた訳では無い。必死の、決死の抵抗は未だに止むことは無い。

 でも、足りない。

 

「《ミナマータ》」

 

 もはや、何もかもが足りない。

 くさばはもう隙を作らない。

 

 そもそもの話をすれば、くさばの目的はここ<現幻原>を跡形もなく滅ぼすことだ。

 そして、その目的は、他でもないシャボンによって果たされた。

 故に、本当はもうくさばは戦わなくてもよかった。

 

 ただ、未知に出会って、驚いてみたかった。

 

 でも、沢山の未知に触れたくさばは、それでも、驚けなかった(・・・・・・)

 

「勝てない……」

 

 くさばが未知を放棄した今、くさばに勝つ道筋は、完全に潰えたと言っても過言ではない。

 

「ヒーロー! まだなの!?」

「まだだ! でも近い!」

 

 まぁ、シャボン側のそもそもの話をするのならば、

 

「──《真火真灯爆龍覇》!!」

 

 そもそも、シャボン達は勝たなくてもいい。

 

 ただ、勝てる者を呼べれば良かった。

 

 ◇

 

 彼方伸ばした手、星天にも届こうとせん。

 

 されど、今は怨敵へ。

 




助けに来てくれました。
そして、これで今章の登場人物は全員揃いました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。