水無月水樹の水紀行   作:七草青菜

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※この話には原作キャラがオリキャラに敗北する描写があります。



エピローグ 狂気の胎動

 □【水術師】シャボン

 

 “金食い虫”と気持ち悪い顔との戦闘から早一日。

 デンドロにログインしたわたしは<幻花>にてリーちゃんとドロップアイテムの確認作業などを行っていた。

 

 いやー、昨日は危なかった。ログアウトしたら丁度お母さんがお見舞いに来たんだもん。デンドロのことお母さんに言ってなかったから危うく怒られるところだった。

 

 でも、ちゃんと勉強もするのと夜遅くまでしないっていうのを条件にデンドロをするのを許可してくれたから良かった。

 

「【マネー・イフェメラ】のドロップは【亜竜黄金】の【金塊】と【マネー・イフェメラの宝櫃】っていうやつだったよ」

 

 リーちゃんが【気絶】してる間にわたしがドロップアイテムを全部拾っていたので、わたしが報告担当だ。

 

 宝櫃がよく分からないけど、どういうのなんだろ。

 選択したら【オープンしますか?】って出てきたし。

 

「ああ、【宝櫃】っていうのは強いモンスターからドロップするものネ。開けるとそのモンスター由来のアイテム一つとモンスターの強さに応じたアイテムがいくつか入ってるアルよ。開けてみよ」

「うん」

 

 YESを選択する。

 

【【金蜉蝣の指輪】を獲得しました】

【【エメンテリウム】を獲得しました】

【【エメンテリウム】を獲得しました】

【【エメンテリウム】を獲得しました】

【【エメンテリウム】を獲得しました】

 

 わ、なんかいっぱい出てきた。

 

「【金蜉蝣の指輪】と【エメンテリウム】四つだったよ」

「おー、結構出たアルね。やっぱり価値のあるものを溜め込んでたのかな」

 

 なるほどー。

 ちなみに【金蜉蝣の指輪】はレアドロップアイテムのドロップ率を上げるスキルが付いていた。

 

「じゃあ、どう分ける?」

「私は全部売ってから半分ずつにするでいいと思うけど、シャボンは【金蜉蝣の指輪】とかいる?」

「それは別にいらないけど、リーちゃんは今回の件で符をいっぱい使ったんだから、その分を引いてから半分に分けよう?」

「え、いいアルか?」

「当たり前じゃん。リーちゃんには戦い方も教えて貰ったしね」

「そうアルか、じゃあ遠慮なく。ありがとね」

「うん」

 

 と言った感じで、分け前については割とすんなり決まった。

 

 ……さて、と。

 

「で、顔型モンスターのドロップアイテムなんだけど……」

「見たくない」

 

 ですよねー。

 わたしも見たくない。

 でも出さないと呪われそうな気がする。

 あれと一緒のアイテムボックスに入ったお水なんてわたし飲みたくないよ。

 

「ということでどばー」

「いやあぁぁ!!」

 

 アイテムボックスより現れたのは【かおの眼球】、【かおの唇】。

 どうやらあのモンスターは【かお】と言うらしい。意味わからん。

 

「気持ち悪いー! シャボンー、やめてー」

「わたしもこんなの持ってたくないよ、ほんとに。拾っても無いのにアイテムボックスに入ってたし。呪いだよこれ」

 

 ていうか良く見るとちょっと蠢いてるし。

 アイテムの説明を見ると、蠢きの原因っぽい【微振動】と勝手にアイテムボックスに入るという【自動収納】というスキルを持っていた。世界一要らない。

 あ、アイテムボックスに戻った。

 

「なんでシャボンはそんなに冷静でいられるアルか!?」

「なんかもう恐怖が限界突破したというか。冷静にならないと発狂しそう」

 

 まじ気持ち悪い。やばみ。

 

「で、これの処遇なんだけど……」

「いらない! こんなのいらないから捨ててきて!」

「だよねー」

 

 わたしも同意見だけど、これ捨てていいのかな? 祟りとか起きない?

 捨てても戻って来るし。どうしようもないよね。

 これはもうアイテムボックスごと捨てるしか……。

 

 リーちゃんもそれに気付いたようで、うんうん唸っている。

 

「…………私の知り合いにモンスターの研究をしてる奴がいるネ。そいつなら喜ぶかも」

 

 やがて、リーちゃんは絞り出すようにそう呟いた。苦渋の決断をしているようだ。

 そんなに会いたくない人なのかな?

 

「じゃあ、すぐにでもその人に会いに行こうか」

「いや、あいつは突然行っても会ってくれないから予定を合わせないと……」

「……え、じゃあこのアイテムは?」

「……シャボン持ってて?」

 

 ハートがつきそうなくらいに可愛く言われても普通に無理なんだけど。

 

 その後もいろいろと話し合った結果、呪いのアイテム達は符を貼り付けて<幻花>の片隅にアイテムボックスごと封印しておくことになった。

 

 ちなみに新しいアイテムボックスを買って大河のお水はそっちに移した。呪われてませんように。

 

 

「あれ?」

「どうしたアルか?」

「わたしの<エンブリオ>第二形態になってる」

「へー、それは凄いアルねー」

「ねー」

 

◇◇◇

 

 □水無月水樹

 

「いや、“凄いアルねー”じゃねーよ!」

 

 怒られた。わたしじゃなくてリーちゃんが言ったのに。理不尽極まりないことこの上なし。

 

「何? 第一形態通り越して第二になったの!?」

 

 えへへー。すごい? わたしすごい?

 

「はぁ……うん、まあすごいわよ」

「でしょー!?」

 

 わたしすごいからね!

 

「で、いったいどんな事があったら孵化したてから一日で一から二まで一気に上がるの?」

 

 わたしはれーちゃんに話してあげた。“金食い虫”の事、【かお】の事。そして迅羽の事なんかを。

 

 ◇

 

「──うーん、いろいろと言いたい事はあるけど、とりあえず<エンブリオ>孵化おめでとう」

「ありがとう」

 

「で、【オケアノス】ね。まあ、水樹らしいっちゃらしいわね」

「でしょ? これもう運命だよね!」

「いや、<エンブリオ>は自分のパーソナルから発現するから別に運命でも何でもないけど」

 

 あれ、そうだっけ? あー、なんかトゥイードルさん達が言ってた気がする。

 

「でもまあ、それならいきなり第二になったのも納得かな」

「どれなら?」

「水樹の水好きは頭がおかしいレベルだから、一気に上がってもおかしくないってこと」

 

 口が悪すぎない? 泣くよ?

 ……いや、水分が減るから泣かない。

 

「水樹の<エンブリオ>はいいとして、あんた迅羽にあったの?」

「うん。迅羽ちゃん強かったよ」

 

 一撃でモンスターを倒すのは今思い出しても圧巻だった。あ、【かお】がチラつく。やめて。

 

「迅羽っていうと、黄河の決闘ランキング第二位、“神速”の迅羽のことでしょ?」

「そうらしいね」

 

 あのあとリーちゃんに教えて貰ってびっくりしたよ。

 

「知ってて迅羽ちゃん呼ばわり……あんた凄いわね」

「えへへー、それほどでもないよ!」

 

 れーちゃんは何故か呆れるように首を振っている。何故?

 

「はあ……で、その【かお】だっけ。気持ち悪いわね」

「でしょー!? いやもうほんとに気持ち悪くてさー! あんなモンスターもいるんだねー」

 

 今思い出しても気持ち悪い。ほんとに気持ち悪い以外に表現のしようがない位に気持ち悪い。

 

「その事なんだけど、それ本当にその大河周辺のモンスターだったの?」

「ん? どういうこと?」

「いや、私が知る限りそんなあからさまに気持ち悪いモンスターいなかったと思うのよね」

 

 もちろん、私が知ってるモンスターが全てじゃないけど。と、れーちゃんが続ける。

 

 確かに、あのモンスターは他とは一線を画していた。

 名前も【亜竜黄金】とか【マネー・イフェメラ】とかはゲームっぽいけど【かお】ってなんだ。

 いくら何でも安直すぎると思う。

 

「そもそも種族からわかんないわよ。多分アンデッドかキメラだと思うけど。どっちにしろ山にいる様なモンスターじゃないわよ」

 

 うーん、謎だ。

 

「だから、何らかのジョブか<エンブリオ>のスキルで作られたモンスター何じゃないかなって」

 

 え、そんなことも出来るの?

 

「例えば、【研究者】系統にはモンスター製造のスキルもあるし、<エンブリオ>も割と何でもアリだからモンスター製造に特化してるやつがあってもおかしくはない」

 

 つまりそれは……。

 

「うん、そのモンスターはマスターかティアンの第三者が造って、その【マネー・イフェメラ】ってのに寄生させたんじゃないかと思うのよね」

 

 なるほど、誰かが意図的に起こした事かもしれないって事か。

 あんなに気持ち悪い生物を作れるとは、きっと本人も気持ち悪いに違いない。注意しとこ。

 

「それにしても、エンブリオって本当に色んな事が出来るんだね」

 

 わたしの<エンブリオ>はただのお水だからよく分からないけど。

 そういえば他の<エンブリオ>見たことないな。大河の時は運が良かったのか悪かったのか<マスター>が迅羽ちゃんしか居なかったし。

 あ、迅羽ちゃんの腕って<エンブリオ>だったのかな。

 うーん。

 

「……他の<エンブリオ>ってどんなのがあるの?」

「そうねえ、私が見たことあるのだと……空飛ぶ電車とか自在に変わる声とか醸造工房とか」

「ふむふむ……ちなみにれーちゃんの<エンブリオ>はどんなのなの?」

 

 さらっと聞いてみる。

 

「……あれよ。第六形態」

「第六形態の〜?」

「……第六形態のガードナー系列よ」

 

 ガードナーってなんだ? いや、まあいけそうだから後ででいいや。

 

「ガードナーの〜?」

 

 しつこく聞いてくるわたしに勘弁したのか、れーちゃんはその重い口を開いた。

 

「…………猫」

「ねこ?」

 

 ねこって、猫? ニャーの?

 

「そうよ、うん、猫。しかも攻撃能力は皆無のただの猫よ。だから言いたくなかったのに」

 

 あー、それはその……。

 

「いや、わたしもただの水だから! 大丈夫、お揃いだよ!」

「慰めなくてもいいわよ。なんだかんだで気に入ってはいるし。クランの皆も受け入れてくれてるし」

「クラン?」

 

 クランってなんですか? また新情報が出てきた。

 

「ああ、クランっていうのは──」

 

 その後も面会時間の終わりまでれーちゃんにいろいろと教えて貰った。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 このインフィニット・デンドログラムには<超級>と呼ばれる者達がいる。

 

 超高速超射程攻撃を繰り出す、高耐久高魔力の器用超万能。

 

 装備反比例強化と戦闘時間比例強化を用い、時間経過するほど手がつけられなくなっていくもの。

 

 ジョブスキル十倍化という脅威のスキルで強化された悪魔軍団を使役するもの。

 

 など、<超級>の強さは他とは一線を画している。

 

 しかし、そんな<超級>の中においても尚、強者として君臨する者達がいた。

 

 人々はそれを“最強”と呼んだ。

 

 物理的なステータス全ての合計が全プレイヤーの中で一番高く、その攻撃は世界を震わす一撃。それは結果的に(・・・・)広域殲滅型にもなるという。

 まさに“物理最強”。

 

 無限にも思えるMPを駆使し、“四大魔法”とも呼ばれる神技を繰り出す。その魔法は一切の全てを土へと還してしまうという。

 まさに“魔法最強”

 

 個人戦闘型であり、広域殲滅型であり、広域制圧型でもある。修羅の国、天地において決闘第一位に君臨する。

 まさに“技巧最強”。

 

 そして──

 

 ◆

 

 ■黄河帝国 とある大河の畔

 

 黄河に存在する大河。その畔に腰掛けているのは一人の男だった。

 男は足を交互に振り、パシャパシャと水面に波紋を作っている。

 

「今回はもう少し恐怖を与えることができたと言うことができます。次はもっと良い演出を思考してみましょう」

 

 男の喋り方はどこか変だった、まるで最近言葉を覚えたかのような、そんなちぐはぐな喋り方をしていた。

 

「それに、最近離した【ゲゴニュニュ】もあまり話題になる事がありません。どういうことをしましょうか」

 

 男は異形だった。遠目からは普通の人間にしか見えない。しかし、近くで良く見てみると、男の手のひらには口があった。

 手のひらの口には食べかけなのか、それとも出しかけなのか、虫の足のようなものが引っかかっている。

 

 

「■■■■■」

 

 男の背後から、この世のどんな音とも取れない奇妙な音が聞こえる。しかしその一つ一つには規則性があり、それはまさしく言語と呼ぶにふさわしかった。

 

 その言葉を発しているのは、まさしく異形だった。大量の触手が二つの何かを包む様に絡まりあい形成された体躯には、大きな目玉が二つ伸びていた。

 

「あ、創造主様」

 

 だが、男は驚くこともなく、事も無げに会話を交わした。

 男にはその何語ともとれない言語がどういうものであるか分かっているようだった。

 

「■■■■■■■■■?」

「まさに、そうであると言えますね」

「■■■■■■■■■■■■■」

「それは、少し酷いと言うことが出来ます」

 

 男と触手は、日常会話をするように二言三言と言葉を交わす。

 

 ──そんな大河に突如現れたのも、また異形だった。

 

 それは中華帽を深く被り、大きな符を貼り付け、顔を隠している。

 それの手足は異様に長く、天にまで到達してしまいそうな程だった。

 

 ──それはまさしく、黄河帝国決闘ランキング第二位、迅羽だった。

 

 

「お前カ。ここ数ヶ月黄河を荒らしてたのハ」

 

 迅羽は男に向けて言い放った。

 

「……あなたは一体何者でしょうか」

 

 だが、男は迅羽の言葉を聞き流すと、自己紹介を求めた。

 

「ハッ、レディーに名前を聞く時は自分から名乗れってママに教わらなかったのカ?」

 

 迅羽の言葉に、男は少し考えるような動作をして、答えた。

 

「確かに、そうであると言えますね。私はくさばと言われます」

「……なるほど」

「では、あなたは何者でしょうか?」

「あア、そうだナ。お前に名乗るような名前はねーヨ!」

 

 そう言い放つと、迅羽はその長い手を放つ。

 

「──《彼方伸びし手・踏みし足(テナガ・アシナガ)》!」

 

 そして、自らの<必殺スキル>を使い、くさばの心臓を抜き取った。

 

 だが、心臓を抜かれたはずのくさばは平然としている。

 

 迅羽は確信した。

 

「やっぱりお前の仕業カ。“精神最強”くさば」

 

 ここ一週間ほど噂になっていた、“奇妙な生物”の大量発生。その調査に繰り出されていた迅羽はそう言った。

 

「そうであると言えますね。【ゲゴニュニュ】や【かお】を放ったのは私です。皆さんが怖がってくれれば大変嬉しく思いました」

 

 くさばは、そう呟き、自らの手のひらにある口から何かを出す。それはミミズのような体にゲジゲジのような足をくっつけた、まさに“奇妙な生物”だった。

 

「私からすれば、【ゲゴニュニュ】は可愛く思うものですが、何とも不思議です」

 

 【ゲゴニュニュ】を指でつつき、愛でながらくさばはそうこぼす。

 

「■■■■、■■■■■■■」

「そうでした、恰好いい、ですね。申し訳もございません」

 

 これまで沈黙を保っていた触手の異形は堪えきれないとばかりに声を紡いだ。

 

「おっと、創造主様は危険が危ないので戻る事をお願いします」

 

 くさばと触手の会話の間に触手に符を貼り付けようと超音速で手を伸ばした迅羽だったが、その前にくさばは超音速で触手の異形を紋章へと戻すと、迅羽へと向き直る。

 

「……そういえば、その心臓、持っているのはなかなかに危ない(・・・)と言えるでしょう」

 

 ──その忠告は少し遅かった。

 

 ◆

 

 迅羽は分かっていた。自分一人では“最強”を相手取るのは分が悪いことも。心臓を抜きとられた位で“最強”が死ぬはずが無いことも。

 故に誘導しようと思っていた。大将、すなわち【武神】のいる修行場へと。

 

 だがしかし、それさえも出来なかった。

 

 超級職の奥義、大量の符、その他様々な自らの手札を使い、【武神】のいる修行場へと誘導しようとした迅羽だったが、ついにそれが叶うことは無かった。

 

 小さな蟲(・・・・)に全身を包まれた迅羽が最後に見たものは、新しい心臓(・・・・・)を飲み込もうとするくさばの姿だった。

 

 ◆

 

 ──曰く、幾千、幾万もの異形を従え、使役するという。

 

 ──曰く、人々を怖がらせ、狂気に染まらせ、そして発狂死させるという。

 

 ──曰く、その狂気とも言えるモンスター達を用い、これまで何人ものマスターを引退に追い込んで来たという。

 

 <超級>最強の一角──【蟲将軍(バグ・ジェネラル)】、“精神最強”くさば。

 

 

 

 ──《第二章 認識し、伝染する存在災害》

 

 To be continued

 




 これで第一章終了です。だいぶ不穏な終わり方ですが、お水があるので大丈夫です(?)
 今後は外伝を挟んで次章に続きます。水樹さんの水紀行はまだまだこれからも続いていきますので、これからも本作のことをよろしくお願いします。
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