スワンの日常
■グランバロア近海 不法密輸船
グランバロアの近海。そこには密かにグランバロアへと侵入しようとする一つの船があった。
その船は密輸船、グランバロアへと違法に物品を密輸しようと企む船である。
これまでも別の国で何度も密輸を繰り返していた彼等は、また上手くいった、と喜びあっていた。
彼等は成功した。
──そう、思い込んでいた。
◆
その船の甲板にて見張りをしていた【水兵】の男は、船首の方に何やら蠢く影を見つけた。
その影へとライトを向けると、どうやらそれはねこであるようだった。
「お、ねこじゃねえか」
男はちょいちょいと手を動かし、こっちへ来いという意思をねこへと伝える。
そうしてやってきたねこを愛でていた彼は、こちらへと近づく仲間に気づく。
「どうした、何かあったか?」
「いや、ねこがいたんだよ」
「はあ? ここは海だぞ? 猫なんているわけ……いや、確かにねこだな。これは紛れもなくねこだ」
「お、俺ちょっとみんなに伝えて来るよ! ねこが居たってさ!」
その男は興奮したようにそう言うと、船内へと消えていった。
「おいおい。それじゃあ俺が見張りしなきゃいけなくなるじゃねえか……それにしてもねこだな」
後から来た男はねこを愛でた。
ねこは鳴かない。
◇
「おーい、みんな! ねこが居たぞー……って、ここにもねこが居るじゃねえか!」
突然見張りをほっぽり出して意味の分からない事をぬかしながら船内へとやってきた見張りの男に、その場の誰もが仕事をサボり出したがための行動だと思った。
「はあ? 何言ってんだお前」
「遂に頭までおかしくなりやがったのかよ!」
「ギャハハハハ!!」
男達は口々に見張りの男を罵る。だが、次第に見張りの男の様子がどこかおかしい事に気付き始めた。
「ねこがいたんだ! ……いや、ねこがいるんだ! そこにも! あそこにも!」
「お、おい。どうした?」
「ああ、あああ!」
「おい! しっかりしろ! 猫なんてどこにも……うわぁ!?」
猫など居ないことを見張りの男に伝えようと、その目で確認する男だったが、そこにはねこがいました。
ねこはしろく、そしておおきなめをしていました。
「ひぃ!? ねこがいる!」
「お前までどうしたんだよ? ……ねこだ!」
そこからは早かった。
船内の至るところにはねこがいました。
船員は何故かねこがいることを他の者に教えなければという気持ちに駆られ、そして他のものもねこにあえました。
わずか数刻の間に船内は阿鼻叫喚と貸していた。
もはや船を動かすことすら不可能な程に。
「おいテメーら! 何してんだ!!」
騒ぎを聞きつけ、船長室よりやってきた、【大海賊】でもある彼等の
「か、
確かに、そこにねこはいました。ねこはどんな角度からも、みんなをみていました。
「ああ? 確かにねこだが、それがどうしたぁ! ねこごときにびびってる奴は俺がぶっ飛ばしてやらぁ!!」
確かにねこが居ると認識する
「ふーん。これに耐える奴がいたんだ」
唐突に船の甲板への扉が開き、そこから一人の女が現れる。
「誰だぁ!!」
こんな海のど真ん中で、一体どうやってこの船に乗り込んだのか。そんな疑問を感じる余裕の無い
ガキィン、と鈍い音が響く。どうやら女の方も、自身の剣を抜いたらしい。
こうして何合か剣を交わした二人だったが、
(ああクソ! ねこの事が気になって仕方が無え! あのクソ女の背後にねこがみえる!)
「気になるでしょ? 集中出来ないでしょ? ……それで十分なんだよね」
「うわぁぁぁ!!」
やけくそ気味に突っ込む
「…………ねこでした。ってね」
◇◇◇
□【海賊剣士】スワン
「あー、疲れた」
私は疲れを癒す様に大きく伸びをした。
ここは【天空列車 タカラブネ】の一号車。
車内には先程捕まえた密輸犯、占めて三十七人を目隠し、猿轡をしてロープで簀巻きにした状態で放置していた。
「お疲れ様であります。スワン」
「ありがと、車掌さん」
車掌さんからお茶を受け取り、一気に飲み干す。
「はぁー生き返る」
水樹じゃないけど、生命の源っていうのも分かるわね。まあ水樹の場合は水だけど。
「どうでありましたか?」
「うん、とりあえず全員捕縛出来たと思うよ。船の方は依頼に無いから知らないけど、たぶんグランバロアの海賊船が拾いに行くんじゃないの?」
いつもならもっと早く終わるし、私が前線に出ることも無いのに、今日はヒーローが居なかったから、その分私の仕事が増えちゃったじゃない。
「あいつ、もうログインしてるのよね?」
「そうでありますね。夕刻にはログインすると言ってましたので」
「こき使ってやる」
「はは、程々にしてあげてください。彼もリアルが忙しいのでありましょう」
「……まあ、それは分かってるけどね」
あいつも私と同じく学生らしいし、 部活や勉強が忙しいのはよく分かっている。
「っと、そろそろクランハウスに就くでありますよ」
「あ、はい。ねこー、どこいったー!」
全く、言うこと聞かないし、そもそも言葉を理解してるのかもわかんないし。自分の<エンブリオ>ながら、不便ねえ。
私はねこを探しに別の号車に移動した。
あ、結局ねこは五号車に居た。
疲れた。ねこを見ると癒され……無いわね。余計疲れる。
◇
私達のクランハウスの片隅にて、今日も私と彼は言い争いをしていた。
「だーかーら! 言えねえって言ってんだろ!?」
「だから、その理由を言いなさいよ」
「それは、企業秘密だって!」
「なんかやばいものでも使ってるんじゃないでしょうね」
「あんだと!?」
いや、絶対怪しい。何度聞いても怪しい。<エンブリオ>の能力も実物も明かしておいて名前だけ内緒だなんて、絶対何か隠してる。
絶対やばいスキルとか持ってる。
「まあまあ、お二人共。落ち着いて」
「「ああん!?」」
「ひいっ」
あ、いけない。ついいつもの調子で。
「ごめんごめん」
気弱なヒーローくんは、深呼吸をしてから呟く様に答える。
「だ、大丈夫ですよ、スワンさん。
「いや、それは分かってるけど……」
正直、何が入ってようと燃獅の味噌は美味しいし食べるけど。
「私、っていうか皆<エンブリオ>の名前とかスキルを明かしてるのにあんただけ教えないのが気に食わない」
「教えない。バレたら絶対誰も俺の店に来なくなる」
そこまで言うとか、逆に怪しいのに気づかないのかしら。
「はいはい。その辺でおしまいにしましょうね」
修道服を着込んだ、文字通りシスターであるシスターネネは、パンパンと手を叩くと、みんなの視線を集中させた。
「それよりも、今回の依頼で私達のクランもようやく三十位に入れましたね」
「そうでありますね。これでやっとランキング掲示板に載ることができます」
そう。三十位以内に入るということは、ランキング掲示板に載るという事だ。
私達のクランは人助けクランと言う名目で市民から貴族まで、様々な人を助けてきた。その成果が実ったという事ね。
「これで、俺達のクランに依頼する奴も増えるってこったな」
「危ない依頼はあんまり増えて欲しくないけどね」
と、そこでクランハウスの扉が勢いよく開く。
そこからやって来たのは私達のクランのオーナーだった。
「なーに言ってんの! 我らが特攻隊長ヒーローくん!」
「だから、僕ヒーローじゃなくてヒイロですって……」
この話は何度も繰り返されたので、もはや誰も気にしない。
それより、オーナーが持ってるあの袋は何なのかしら。
「それより! クランランキング三十位記念パーティ用の食材買ってきたよ!」
早くない? 私今依頼完了の手続きしてきたんだけど。
「そんなもの、スワンちゃんが依頼失敗すると思ってなかったからに決まってんじゃん!」
あー、はいはい。分かったから。近い近い。あとデカい。癪だから何がとは言わないけど。
「さあ皆! パーティしよ! パーティ!」
パーティ大好きかよ。ことある事にしてるじゃん。この間も燃獅の店の開店記念でパーティしてたし。
「まあ、いーじゃん! ほら、料理手伝って!」
そんなこんなで、グランバロアクランランキング三十位、<いつでもみんなのお側に参上! なんでもお助け隊>の夜は更けていく。
……いつ見てもダサい名前だなあ。変えたい。
今回の話からは深刻な収容違反が発生しますので、その旨をあらすじに記載しておきます。ねこでした。
SCP-040-JP「ねこですよろしくおねがいします」
http://ja.scp-wiki.net/scp-040-jp