水無月水樹の水紀行   作:七草青菜

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 二章開始です。大分時間が経過しています。


第二章 認識し、伝染する存在災害
第一話 旅の準備


 □【蒼浪術師】シャボン

 

 デンドロを始めてリアル換算で早数ヶ月。病院も無事退院し、今日も今日とてわたしはお水を飲む。

 もちろんお水の量はなるべく減らしている(当社比)。その分お風呂は3時間になったけど。

 学校は、戻ったと思ったらすぐに夏休み。勉強が心配だったけど、れーちゃんのおかげで期末テストもわりと何とかなった(当社比)。

 

 そしてデンドロの方でも結構変わった。

 ジョブは四つめ、<エンブリオ>も第四形態になった。

 れーちゃんが言うには、やっと初心者を抜け出せたくらいだから油断はするな、だそうだ。

 

 今のメインジョブである【蒼浪術師】というジョブは、【水術師】の上級職だ。ジョブの特性としては【水術師】の時から特に変わらず、ただスキルが強くなったくらい。

 “【水術師】のクエストを一定数クリアする”っていう条件が結構難しかった。

 水脈を見つけたり、畑の方に引いたり、中々に疲れる依頼ばっかりだったけど、ちゃんと依頼を達成出来たので良かった。

 

 <エンブリオ>の方はといえば、ちょっと変わった。これまではただお水の量が増えていくだけだったんだけど、第四形態では、何やら<必殺スキル>っていうものが増えていた。

 

 れーちゃんに聞いてみると、どうやら名前の通り、その<エンブリオ>が持つ必殺技みたいなものらしい。

 <上級エンブリオ>になると自然に生えるらしいけど、第四形態になった途端に増えるのは、れーちゃん曰く早すぎらしい。わたしすごい。

 

 <必殺スキル>は、たぶん三つ目のジョブに就いていたからこのスキルになったんだろうなあ、なんて思っている。

 

 最近は、<幻花>の手伝いをしながら暇な日は大河の方にレベル上げに行く日々を送っている。

 早く強くなってれーちゃんに会いに、もといまだ見ぬお水に会いに行きたいな。

 

「──やったアル!」

 

 今日は店番をしながらボーッとしていると、店の奥の方からリーちゃんの大きな声が響いた。

 

「どったの?」

「やっとあの魔物キチと連絡がついたネ!」

「おー! やっとあの呪いのアイテムとおさらば出来るんだ!」

 

 今もなお、店の片隅に封印されているアイテムボックスをちらりと見る。

 ああ、こうして別れるとなると何だか寂し……くないわ。世界一無いわ。

 

「で、いつ出発?」

「そりゃもう今から……と、いきたいところだけど、こっちにも準備があるから、三日後くらいに出発って事で」

「なるほど」

 

 三日後なら……リアル換算でちょうど一日後。うん、行ける。

 

「ねえ、それわたしも行っていい?」

「もちろん、ていうか来てくれないと困るアル。シャボンも当事者なんだから」

 

 それもそうか。

 よく考えたらわたしも当事者か。

 

「あと、護衛も雇わないといけないアルね」

「え、わたしとリーちゃんだけでいいんじゃないの?」

 

 自分で言うのもなんだけど、わたし強いよ? 最近は大河のモンスターにも全然負けないようになったし。

 

「いやいや、油断禁物アルよ。最近は何やら変なモンスターが大量発生してるらしいアルし」

 

 あー、居たなー気持ち悪いやつ。ミミズにゲジゲジの足が生えた様なのが。あのときは百匹くらいいっぺんに出てきて危うく失神仕掛けたよ。

 あー、思い出しても気持ち悪い。あの【かお】に次ぐ気持ち悪さだったよ。

 

「それに、今から行く都市への道中には、【浮沈泡沫 クラムボン】っていう賞金首モンスターが徘徊してるらしいアル。気を付けないと、私はまだ死にたくないアルからね」

「そうだよね。念には念を入れた方がいいか。ごめんね」

 

 ゲーム感覚でやってるわたしとは違って、リーちゃんはこの世界が現実だもんね。わたし何にも考えて無かったよ。反省しないと。

 

「それじゃあ、私はギルドの方に依頼してくるから、引き続き店番よろしく」

「はーい」

 

 とりあえずは店番をもっと真面目にやろう。真面目に。

 

 ◇

 

「ごめんください」

 

 ……うーん? はっ! お客だ!

 

「はい! ようこそお越しくださいました! どーぞ見ていってください!」

 

 危ない危ない。完全に寝てた。真面目が聞いて呆れるね。

 お客さんは……こういうのなんて言うんだっけ? 玉虫色? とにかく鈍い虹色のコートを羽織った男の人だ。右手の甲に紋章があるので、どうやらマスターらしい。

 

「……これは何物でしょうか?」

「え、あー、それは売り物じゃないんですよ……あんまり近寄らない方がいいですよ」

 

 お客さんは店の片隅の呪いのアイテムボックスをじっと見つめていた。

 

 何故店の奥に置かずに店内に置いているかというと、「誰もいないとこに置いておいたらいつの間にか枕元に入ってきそう」とリーちゃんが言ったからだ。流石にそんな事は無いと思うけど……無いよね?

 

「……そうですか。それでは、私はこれを買います」

 

 そう言って男の人が差し出して来たのは、《投影》の符だった。え、こんなの何に使うんだろ。リーちゃんも、作れるから作ったけど誰も買わないよねとか言ってたけど。

 まあ、これなら在庫が……あった。

 

「はい、こちらは、えっと……5000リルになります」

「それでは、同じ物をあるだけください」

 

 はい?

 

「え? あるだけ、ですか?」

「はい、それは私の作業を格段に短縮出来るものだと言えます」

 

 な、なるほど。よく分からないけど、買ってくれるのならいいか。

 

「じゃあ、30枚なので合計……150000リルですね」

「では、これで払います」

 

 うわぁ、日本円で150万円をぽんと払った。すごい。

 

「ま、まいどありー! ありがとうございましたー!」

 

 男の人は買った符をポシェット型のアイテムボックスにしまうと、お店を去っていった。

 

 はー、いろんな意味で変な人だったなー。

 

 ◇

 

 リーちゃんが冒険者ギルドから帰ってきた。

 

「依頼して来たアルよー」

「あ、リーちゃん、おかえり」

 

 依頼は無事出来たらしく、三日後までに人が集まればそのまま出発、集まらなければまた魔物キチさんと連絡して決めるらしい。

 

「あ、そうだ! 《投影》の符が売れたよ!」

「え、あの符売れたアルか?」

「うん! しかも全部!」

「全部!? あれ効果の割に高価な素材を使うお高いやつだよ!?」

 

 何だっけ? 自分の想像した事を映写する符だっけ?

 

「そうそう。で、想像力が無いと意味わからないぐちゃぐちゃなものが出来上がるアルよ。私も一回使ってみたけどあんまり上手くいかなかったネ」

 

 そうなんだ。わたしもやってみたいな。でも全部売っちゃったからなー。

 

「あ、私のアイテムボックスにちょっとだけ入ってるアルよ。使ってみる?」

「使う使う!」

 

 中庭にてリーちゃんから符を受け取り早速発動。

 

 何作ろ。お水の……リーちゃんとか。

 

「うわ、水で出来た私アル。しかも凄く精巧に出来てる。シャボンすごいアルね!」

「え、すごい? すごいよね! わたしすごいからね!」

 

 いやー、最近のわたし何か冴えてるね! すごい!

 

 ◆

 

「創造主様、今日はとてもいい買い物が出来ました」

「■■■■■」

「はい、良かったと言えます。これで創造主様が悩む事も少なくなるでしょう」

「■■■」

 

 創造主様と呼ばれた異形と男は、街の外へと消えていった。

 

 ──この後、思わぬところでこの男と再会する事になるのだが、シャボンがそれを知るのはまだ先になるだろう。

 

 

 

 

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