お楽しみ下さい。
高森さんを駅に送って帰る途中、渋谷さんに路地裏に連れ込まれた。いきなりすぎてビックリしたけど。
「えっと……とりあえず落ち着ける場所でお話しませんか?」
少なくとも『相談』である以上、その辺で話を聞くのも失礼かもしれない。
「それもそうだね」
渋谷さんはそう言いながら髪を再びまとめて帽子を被る。俺に正体を明かすためにポニーテールをといたと考えると申し訳なくなる。
「とりあえずcloverでいいかな?」
「あー……」
「何? 何かあったりした?」
「いえ、マスターいないんですが大丈夫ですか?」
一応鍵は預かっているんですけどね、と付け足す。
「私は大丈夫だけど、逆に大丈夫?」
渋谷さんが気を遣ってくれた。見た目と違ってかなり優しい娘のようだ。
「まぁ、大したおもてなしは出来ませんが、機密という点は保証できますよ」
「じゃあ、行こっか」
渋谷さんを伴って歩き出す。
なんか、昨日から女の子と2人で歩いてるな。と考えてしまう。
「ところで川嶋さん」
「どうかしました?」
「いや、川嶋さん敬語だなって。私の方が年下なんだけど……」
「イヤですか?」
「イヤっていうか、なんかなれないなぁって」
まぁ、私はタメ口なんだけどさ、と渋谷さんがポツリと言った。
「俺の場合、だいたい初対面とか、会って間もない人には敬語ですね。あと、敬語かどうかは気にしませんね」
たかだか1年早く生まれただけで、敬われるほどでもないしね。
「確かにそうなんだけど……この間アレだけ話した後だから何か距離を感じるかなぁって」
アレってチョコレート談義のことかなぁ。確かに討論みたいにはなってたけど。
「だからさ、タメ口で話してもらえるかなって」
「わかった。じゃあタメ口で」
高森さんにも同じこと言われたなぁ。
「島村さんの誕生会をcloverでしたい!?」
渋谷さんの相談というのは、同じユニットの島村卯月さんの誕生会とニュージェネのライブの打ち上げをここでやりたいとのことだった。
なんでも、当日に島村さんのバースデーライブを行い、後日事務所でも誕生会は行われたらしい。
しかし、渋谷さんも本田さんも仕事が入っていたため出られなかった。
その後、ニュージェネのライブが決まり、今月の中旬に行われるのだが、その打ち上げも兼ねて遅くなったけど誕生会をやろうとのことらしい。
「どうにかお願い出来ないかな?」
「マスターに確認してみなければなんとも……」
最もあのマスターならニュージェネのために貸切なんてことは簡単にしそうだけど。
「でも、打ち上げなら他のところでやるんじゃないのかな? わざわざウチでやらなくても……」
「いや、この間未央と2人で来た時に、卯月も来たがってて……だから私たちの打ち上げと誕生会はcloverでやりたいなって・・・。」
この間……あぁ、本田さんがこっちを凝視してたなぁ。あれは怖かった。
「大丈夫?」
「え?」
「なんかスゴイ怖い顔してたから。具合悪いのかなって……」
「大丈夫。問題ない。」
「ならいいけど。」
そんなにスゴイ顔してたんだろうか。
「ちなみに日時とか人数は決まってるの?」
「一応この日だとみんなのオフが揃うから、この日で。人数は5人かな」
「5人……ニュージェネは3人だよね?」
「うん。それと卯月のユニットの娘2人も含めた5人」
「なるほど」
5人ならそれほど大規模じゃなくても大丈夫かな。
渋谷さんに詳細を確認しながらメモをとる。
渋谷さんは先ほど入れたココアを一口飲んだ。
「ちなみに希望とかあるかな?」
「希望?」
「そうそう。このメニューはいれてほしいとか、この食材は使わないでほしいとか」
「ん~……」
渋谷さんはテーブルのメニューを手にし、髪を耳にかける。
「ホッケ?」
「はぁ!?」
嘘! この間居酒屋メニューはすべてメニューから消したはず、まだ残っていたのか!?
渋谷さんの持っているメニューを確認する。
居酒屋メニューが書いてあったところは……修正テープで消されている。
渋谷さんを見ると……こちらを見て笑っている。
からかわれた-!
「ゴメンゴメン、この間の居酒屋メニューのインパクトが強くて……まさかそこまで反応されるとは……クフフ」
お、おう、涙目になるくらい面白かったのか。
とりあえず渋谷さんの笑いが治まるまで待つことにした。
「ふう、笑った笑った」
「ソウデスネ」
「ゴメン。あ、でも、一人はそういったおつまみ系?が好きみたいだよ?」
「おつまみ系が好きな女子高生……」
ちょっと想像しづらいかなぁ。最もいるんだろうけど、今のところあったことないなぁ。
「もう1人は料理上手で料理番組にも出ているし……」
「ふうーん」
なんかハードルが上がってしまったなぁ。
これは腕によりをかけて作らなければ……
「川嶋さんってアイドル詳しくないの?」
渋谷さんがこっちに視線を移して尋ねる
「マスター……叔父さんなら詳しいみたいだけどね。俺はそっち方面はあまり……。最近曲を聞くようになったぐらいかな。」
「ふうーん」
渋谷さんは再びメニューに視線を戻す。
「ねぇ、川嶋さん。生ハムメロンって作れる?」
え!? 生ハムメロン!?
「生ハムメロン?」
「そう、生ハムメロン。卯月の好物らしいんだけど……」
島村卯月さん、実はブルジョアなのか?
普通の女子高生が……というか、大体の人に馴染みがないと思うけど……
「作る云々よりまず食べたことないかなぁって」
それに甘いメロンに生ハム……合う気がしない。
さらに、当然メロン自体がまだ出回ってない。
「まぁ、そうだよね。私も食べたことないし」
「そもそも甘いメロンに生ハム……」
「合う気がしない」
「ちょっと調べてみようか」
スマホを取り出しポパピプペ、困った時のG先生。
「メロンじゃなくてマクワウリかぁ……」
「どっちにしても時期じゃないね」
「そう言えば、キュウリにハチミツつけるとメロ「それはいけない」はい」
食材への冒涜はいけないね。
渋谷さんと粗方の予定を立てた後、マスターに電話をかけている。ちなみにスピーカーホンにしてある。
「あ、マスター? 今大丈夫?」
『今忙しい。手が離せないんだ!』
「え? ごめん。何やってたの?」
『格闘!』
格闘!?何かあったのかな・・・。
「何かトラブル!?」
『コイツには本気でとりかからなきゃいけないみたいでな……電話しながらは無理だな。』
そんなに大変なことしてるの!?
渋谷さんも大丈夫なの?といった目で見てくる。
「分かった。警察沙汰にはならないでね?」
電話を切ろうとすると――
『はぁ!? 警察沙汰? 何言ってんだ?』
「え?だって格闘してるって……」
『あぁ、格闘してるぞ……カニとな』
少し時間が経っただろうか。渋谷さんがジト目でこちらを見てくる。俺が悪いわけではないけど、言いたいことは分かる。
『おーい。もしもーし』
叔父さんが何か言っているが、正直頭が痛くなった。電話切りたい気持ちをなんとか抑えて、渋谷さんに電話を渡す。
説明おなしゃ~す。
「……もしもし、店長さん?渋谷です」
『はい? シブヤ??』
「渋谷凛です」
『うぇーええ!? 凛ちゃん!? 凛ちゃんナンデ!?』
おぉ、渋谷さんがかなりビックリしてる。
「実はお願いがありまして『いいよー。』え?」
内容聞いてないのにオッケー出したぞ!?
『凛ちゃんのお願いなら連帯保証人でも喜んでやるさ!』
しかも割と重い方で勘違い。まずは人の話を聞きなさい!
「いえ、そうではなくて――」
渋谷さん説明中
「はい、ではその日時でお願いします」
『あ、凛ちゃん。スピーカーホン解除して優也と変わってくれる?』
「あ、はい」
渋谷さんからスマホを受け取る。
「どうしたの?」
『アイドルと2人きりとか……帰ったら説明してもらうぞ?』
そう言って電話が切れた。
「店長さん、なんだって?」
「アハハハハ」
とりあえず笑って誤魔化した。
その後、もう少し打ち合わせして駅まで送る際、
「川嶋さん。連絡先教えてよ?」
「え?」
「途中で予定変わったりとかあると悪いし、そのために……ね?」
「まぁ、確かにね」
毎回来てもらって打ち合わせするのも大変だろうし。
と、いうことでお互いの連絡先を交換した。
「ライブに向けてのレッスンとかであまり返せないかもしれないけど、詳細とかあったら連絡するよ」
じゃあ、と彼女は改札を抜けて去って行った。
後々になって、アイドル2人と連絡先交換してしまったけど大丈夫だろうかと不安にかられるのだった。
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次回の投稿でお会いしましょうノシ