果たして彼の目的とは……
では、どうぞ。
「とりあえず、立ったままでは何ですので……」
マスターに促され、俺とマスターは向かい合って座った。
「346プロダクションのプロデューサーさん……ですか」
貰った名刺をテーブルの隅に置き(名刺ってどうすればいいんだ?)、相手を見据える。
夏だというのに、店内には冷え込んだ空気が充満していた。この人雰囲気がそうさせるのだろうか……
「あ、冷房効き過ぎてたわ」
……プロデューサーさんは関係なかったな。
「この度は、うちのアイドルがお世話になりましたので、遅ればせながらご挨拶にうかがいました」
プロデューサーさんが切り出したものの、空気は重い。釘を刺しにきたのだろうか?
高森さんのお泊まりの件がバレたのか、高森さんと小日向さんを自宅へ招いたのがバレたのか、はたまた五十嵐さんとの買い出しの件か――
「あ、私、P.C.S担当プロデューサーです」
よし! 高森さんの件は少なくとも大丈夫なようだ。
「それで、こちらのお店で島村の誕生会を開いていただいたと聞きまして、伺いました」
「それはわざわざありがとうございます」
この流れは大丈夫かな?
「えっと……プロデューサーさん?」
「はい?」
「敬語じゃなくてかまいませんよ?」
むしろタメ口で話してもらった方が、気が楽なんだけど。
「いえ、お構いなく。」
ニコリと笑ってプロデューサーさんは告げる。
「さて、ここからが本題なのですが……」
プロデューサーさんはノートパソコンを取り出し、何かを操作してこちらに見えるように向ける。そこに映っていたのは――
「よく撮れてますね。撮影はあなたが?」
先日の島村さんの誕生会。その時の五十嵐さんの買い物の時の映像だった。
「は、はい」
――コレの件だったか……五十嵐さんに提案されたこととはいえ、撮影スタッフを騙りアイドルと買い物をしたのだ、何かしらの責任を取らねば――
「素晴らしい!」
……は?
「アイドルの日常と銘打って、買い物や調理の様子を撮影するとは……確かに料理番組のオファーは何件もあったものの、食材自体は準備されたもの。食材を選び抜くことなんてなかった!」
「あ、あの……」
「さらに、響子の心の内をさらけ出すなんて、撮影スタッフや我々プロデューサーでは、響子が気を遣ってしまうかもしれない!」
「えっと……」
「トドメはこれです!!」
プロデューサーさんが再びパソコンを操作し、動画を早送りする。
「こんな熱い響子は見たことがありません!!」
それは俺と調理しているところだった。
「響子が企画を持ち込んで来たときは何事かと思いましたが、チェックして、これをお蔵入りさせるのは勿体ないと思いました。それで、詳細を聞いたところ、卯月の誕生会を開いた時に撮影したものだと伺いました」
お、おう……ってか興奮してるせいか、アイドルを名前呼してるぞ? こっちが素なのか?
「と、いうことで、あなたにお礼とお願いに参った次第です!」
ここまで言いきり、プロデューサーさんはアイスコーヒーをグッと飲み干した。
「えっと……とりあえず2点ほどよろしいですか?」
「あ、どうぞ」
「この企画を提案したのは五十嵐さんです。もともと俺は1人で買い出しに行くつもりでしたので……」
「ええ。ですが、慣れないであろう撮影をこなし、響子のこともインタビューしていただきましたので」
「あぁ……それは……ありがとうございます? で、2点目。お蔵入りにするのは勿体ないとのことでしたが?」
「えぇ。つきましては、この動画を『五十嵐響子ファンサイト』のコーナーにアップさせていただきたいんです」
……what?
「これを載せるんですか?」
「はい!こんな響子の姿をファンにも見せてあげたいんです」
「えっと、プロデューサーさん? これ、俺も映っているんですが……大丈夫ですか?」
主にフラ○デーとか、セ○テ○ススプリ○グ的な意味で。
「あ″!? 本当ですね」
今気づいたのかよ!? 有能かと思いきや、抜けてるなこの人。
「では、『某所にて行われた島村卯月の誕生会』としっかり前置きした上で、『喫茶店のお兄さんとの料理バトル』として載せましょう!!」
は!? それでいいのか!?
「何かあったら、もみ消しますから」
うん。何か怖いこと堂々言われたけど、気のせいだよな。
「そして、ここからがまぁ、お願いの部分に当たるのですが……」
一体何されるんだ? 最初のうちだと『うちのアイドルに近づかないで下さい』と言われると思ったが、もうここまで来たら読めないぞ!?
話が混沌としてきているからな。
「……まず、我が346プロダクションアイドルを対象に料理教室を開こうと思っているんです。そこで、お二方に講師として来ていただけないかと思いまして……」
「あ、今回はまじめなんですね」
「優也!」
あ、やべっ!? 混沌としすぎての真面目な話に思わず口を滑らせてしまった。
「営業先でもよく言われます」
アハハと笑うプロデューサーさん。大丈夫なのか? この人。
「お受けしたいのはやまやまですが、自分は店がありますので、優也に行かせます。予定が会えば行きますが」
マスター……涙流して悔しそうな顔してなければかっこいいんだろうけどね……って!!
「俺ぇ!?」
「なんだ? 不満か?」
「なんで俺が……」
おじさんならともかく、俺はそんなにアイドルなんか――
「……給料」
「イカセテイタダキマス」
これも人助けのためだ。ナイテナイヨ。
「では、料理教室の件は決まりですね。次に……うちの……P.C.Sの『日常』と称して先ほどの動画のような企画を検討しています。つきましては、そのカメラマンをやっていただきたいのです」
「ちなみに3人に許可は?」
「五十嵐響子、小日向美穂は了承済みです」
少しは疑おうぜ!? ホントに!!
「島村さんは?」
「島村に関しましては、担当プロデューサーとの兼ね合いもありまして……」
ん? どういうこと?
「卯月ちゃんもあなたが担当してるんじゃないんですか?」
マスターが俺と同じ疑問を投げかける。
「五十嵐、小日向は私が担当プロデューサーなのですが、島村はNGのプロデューサーが担当してますので……」
いろいろ大変なんだなぁ。
「まぁ、俺でよければお受けします」
「本当ですか!? 助かります。では、お礼と言ってはなんですが……」
そういってプロデューサーさんが封筒を取り出し、その中身――チケットを2枚封筒から出した。
「こちら、夏フェスの招待チケットになります」
はぁ!?なんだと!?
「嘘……だろ? 本物?」
マスターがオアシスを求め、砂漠を歩いた旅人みたいに見える。
「はい! 係員に見せていただければ、関係者席までご案内いたします」
「ひゃっほー!!!」
「えっと……すみません」
クリスマスプレゼントをもらった子供のようにはしゃぐマスターに変わってお礼を言う。
「いえいえ。では、私はこのへんで――」
ググゥゥゥゥ
……なんの音?
音の原因を探ると、プロデューサーさんが顔を真っ赤にしていた。
「……お昼、食べ損ねたんでした。ハンバーグ、いただけますか?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
プロデューサーさんにそう告げると、まだ騒いでいるマスターの襟首を掴み、キッチンへ連行した。
プロデューサーさんとの遭遇を果たしたその日の夜、俺は自室で頭を悩ませていた。
「誕生日プレゼント、どうしよう」
女友達がここ最近までいなかったため、JKが欲しがる化粧品や服なんかはよく分からない。
高森さんの欲しいものをあげたいのだが、彼女に聞いても『川嶋さんに貰えるならなんでもうれしいです』と言うに違いない。
化粧品にしようにも、化粧に縁が無い(あったら、それはそれで怖い)俺に対し、相手はアイドル。あちらの方が詳しいに決まっている。
服にしても、好みを完全に把握しているとは言えない。
「趣味で考えてみるか」
高森さんといえば、写真……カメラか!
ネットを開いてみる。画素数、機能、手ブレetcetc……
やはり門外漢には分からない。
他の趣味……散歩!散歩といえば靴か!そういえば――
「お散歩用のカワイイ靴を探してるんです」
と聞いたことがある。
だが……靴のサイズが分からない。さすがに
「高森さん、靴のサイズを教えて」
とは堂々と言えない。教えてくれるかもしれないけれど、なんか変態みたいでヤダ。
と、なると……由奈ちゃんならどうだ!?
いや、そもそも連絡先知らないし、高森さんが近くにいたらOUTだ。
俺が連絡先を知っていて、高森さんのことを知っていて、なおかつ秘密にしてくれそうな人……あ!
1人思いついたけど……大丈夫だろうか。
背に腹はかえられないが、お腹も大事だよ? ストレスとかで痛んだりしたら大変だし……。
「えぇい! 覚悟を決めろ!」
自分に気合を入れてスマホを手に取った。
side ???
「お疲れさまで~す」
「おう、お疲れ」
仕事を終えて、駅までダッシュ!この時間帯の電車に乗れるかで帰宅時間が変わっちゃうワケですよ。
まぁ、女子寮に入ればいいんだろうけど、そうすると、学校行くのに遠くなっちゃうしね。
「よし、間に合った!」
余裕をもって、改札を抜けて、ホームへ――
ブブッ
「おっとぉ?」
ラインが来たみたい。プロデューサーかな?
そう思って開くと、非常に珍しい子からだった。
やりとりしたのは、彼の誕生日の時かな?
「ムム?」
『こんばんは
夜遅くにごめんなさい
25日までの間で開いている日はありますか?
付き合ってほしいのですが……』
デレステのライブパレードが思った以上にやる気が出ない。まだエリア4つ目かなぁ。
無料1回で美玲ちゃんお迎え。森久保出れば揃うのになぁ