隠れ家喫茶ゆるふわ(凍結中)   作:ハマの珍人

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 サブタイは某女子高生たちのゆるゆるライフの話より。


お祭りに行こう!(表)

 今日も今日とて喫茶cloverは大騒ぎ。

ただ、今日はいつもと違って――

 

「戸締まりOK、元栓OK、貼り紙OK、持ち物……OK」

 

 一つ一つ声に出して、指を差しながら確認する。こういったことが大事だからね。

 

「おじさーん! 準備できたぁ?」

 

「おーう。今行く!」

 

 しばらくするとおじさんが姿を現した――タキシードで。

 

「チェンジで」

 

「いや、こういう場にはふさわしいかっk」

 

「チェンジ」

 

 おじさんは渋々といったように着替えに戻る。

少なくともアイドルのライブにタキシードで行く人はいないと思うんだよなぁ。

 

 しばらくすると着替えを終えて戻ってきた――特攻服で。

 

「これ、今日のために作ってきたんだぜ。いかしてるだろ?」

 

『愛羅武奏』だの『奏命』だの『愛死輝』だの刺繍がしてある藍色(?)の特効服だ。

 

 とりあえず『奏』さんのファンだというかとは分かった。

 

「いやいや。電車で行くんだから、その格好はやめてくれ」

 

「この格好でライブ来る人いるぜ?」

 

「よそはよそ!うちはうち!」

 

「お前、時々オカンになるよな。義姉さんはそんなタイプじゃないのに……誰に似たんだ?」

 

「いいから! 早く!」

 

 

 

「何とか間に合ったね」

 

「そだねー」

 

 おじさんの着替えを待っていたら、乗る予定だった電車の時間を過ぎてしまった。トラブル回避のために早めの電車を予定していたのだが、やむを得ず1本遅らせることになったのだが……。

――悪びれる様子ないし……。

 

「本当は1本早い電車で来る予定だったんですがねぇ!?」

 

「それに関しては申し訳ない。でも、会場は駅から目と鼻の先。いくら優也でも道に迷ったりはしないさ」

 

「まぁ、そうだけど……」

 

 駅の改札を抜けて右へ――

 

「優也、左だぞ?」

 

「うっ……」

 

「……少し心配になってきた」

 

 ――た、たまたまだ!

 

「ところで、ライブなんだよな?」

 

「うん。ライブだよ」

 

「なんかハロウィンの仮装行列に並んでる気分だな」

 

 同じ方向をに行く人を見ると、特攻服だったり、ゴスロリだったり、メタルだったり……様々な格好の人がいた。

 

「お祭りだからね。と、言ってもみんな節度は守るぞ? 自分がルールを破れば、それは自分の好きなアイドルに迷惑がかかることになるからな」

 

「ヘぇ……」

 

 そこまで無法地帯でもないようなのが意外だった。

と、名刺交換している人がいた。

よく見るとあちこちで名刺交換しているようだ。

 

「あの人たちはなんで名刺交換しているの?」

 

「あぁ。俺らファンはプロデューサー、推してるアイドルを担当って言ってるんだ。だからあれはプロデューサー同士の名刺交換だな」

 

「へぇ……」

 

 そういうのも面白いと思った。

――じゃあ俺の場合は高森藍子担当P、川嶋優也ってことか。

 

「あ、そうそう忘れてた」

 

 ポンッと手を打つおじさん。

――何を忘れたんだろう? 財布……なワケはないから、チケット? それは勘弁。

 

「優也! ドームですよ! ドーム!」

 

「いや、SAAだろ?」

 

「まぁ、お約束ってヤツだ」

 

 はぁ、スッキリした、とおじさんは一仕事やり終えたぁといった顔をした。

 

「えらいすみません」

 

 そんなとき、不意に声をかけられた。

 

side out

 

 

side ???

 

「あぁ~、今日もぎょうさんお客さんいてはるなぁ」

 

 会場の外をブラブラ歩きながらつぶやく。まぁ、おってくれた方がありがたいことなんやけど――いつもなら。

 

「こん中から2人探せって、偉い難儀やなぁ」

 

 少し前のこと。やることもないので、近くにいた後輩に外をぶらつくことを伝えると、

 

「外に行かれるなら、探してきてほしい人がいる。自分が会う予定だったけど、手が離せないのでお願いしたい」

 

 ということだった。僕に頼みごとするってどういうことかわかっとるんやろか? 

先輩でも頼みごとはせぇへんのに。僕に何かをお願いする際は『命令』ってことにしてるらしいなぁ。

 まぁ、かいらしい後輩のためや。今回ばかりは一肌脱いだりましょ。

 

 ブブッ

 

「おっ、来たかな」

 

 後輩が尋ね人の画像を送ってきた。

 

「ほうほう。これは中々」

 

 喫茶店のマスターとバイトの子らしいなぁ。

なんや事務所でも話題になってるとかで、うちの子らもなんか言うとったなぁ。

 しかし、こういう出会いとかを逃さないあたり、アイツは持ってるなぁ。

 

「さて、ライブまでに見つかるか……日頃の行い次第やね」

 

「――ドームですよ! ドーム!」

 

「いや、SSAだろ?」

 

 ――それは先輩事務所なんやけどなぁ

そう思って見ると――

 

「おやおや、日頃の行いの賜物やな」

 

 目的の2人組を見つけ、近づいた。

 

「えらいすみません」

 

side out

 

「はい?」

 

 声をかけられたことでおじさんが対応する。

声をかけてきた人はスーツを着た男性だった。

肌が白く、目は細め。体格も華奢な感じで、どこかキツネのような印象を覚えた。

 

「私、こういう者です」

 

 名刺をスッと取り出す。慣れたような所作だ。営業の方なのだろうか。

 

「あ、ご丁寧に。私はこういう者です」

 

 おじさんと男性は名刺を交換する。

 

「あ、『羽衣小町』のPさんでしたか」

 

『羽衣小町』? 缶詰作ってる会社じゃないだろうし……。

 

「へぇ。そちらは奏ちゃんの担当Pさんですか……そちらの方は息子さんですか?」

 

「あ、いえ、甥っ子でして」

 

 俺はとりあえず一礼する。

 

「ふむふむ、なるほど」

 

「?」

 

「あ、着いてきてもらってもよろしおす?」

 

 何かに納得したかと思うと、急に着いてこいと言い始める男性。妙な関西弁が胡散臭い。

 

「はい、喜んで~」

 

「ちょっ! おじさん!?」

 

「まぁまぁ。アイドル好きに悪い人はいないから」

 

 ニッコリ笑ってサムズアップするおじさん。

――むしろ、アイドルが好きすぎる方がストーカーだったりして警察のお世話になっているんですがねぇ……

 

「ほなら、はぐれんように着いてきてな」

 

 そう言って男性は会場の裏手へ――

 

「ちょっ、本当に大丈夫なのか?」

 

「まぁまぁ。……何かあっても一緒だよ?」

 

 小声で言った俺に、おじさんは引きつった笑みで返す。

 ――それは大丈夫とは言わない。道連れという

 

 しばらくすると男性は別の入口から中へ――

 

「えっ!? いいの!?」

 

「構へん、構へん。ほら、着いてきぃ」

 

 と、手招きする男性。

 ――怒られるだけで済めばいいけどなぁ

 

「プーローデューサーさぁん?」

 

 不意に声が聞こえておじさん共々ビクッと背筋を伸ばす。振り返ると、蛍光グリーンの事務服を着た女性が立っていた。

 

――蛍光グリーンの事務服ってあるのか……

 

「あぁ、ちひろちゃん。ご機嫌麗しゅう」

 

「こんなところで何油売ってるんですか?」

 

「油揚げは好きやけど、油は売ってないなぁ~」

 

「誤魔化さないでください!」

 

 2人のやりとりをテニスの試合を見るかのように見る。

 

「まぁ、うちの子らは僕がおらんでもなんとかなるやろし」

 

「でしたら、別なことを――」

 

「うん。だから連れてきたんよ。大事なお客様を」

 

 そこで『ちひろ』と呼ばれた女性は男性の後ろにいた俺達の存在に気づいたのか、顔を真っ赤にして――

 

「や、やだ! それだったら先に言って下さいよ」

 

 ドスッ!

 

「ガハッ!!」

 

「「!?」」

 

 ドスッという音とともに膝を折る男性。何があったのかは長身な彼の背中しか見えなかったので分からなかった。

 

「ちひろちゃん。僕に対して当たり強すぎへん?」

 

「羽衣Pさんにはこれぐらいしないと、お灸にもならないでしょう?」

 

 ――えっと……色々説明してもらえますかね?

 

 

 聞いた話をまとめると、まずファンの男性だと思っていた人は、346プロ所属の本物のプロデューサーさんだった。そして、蛍光グリーンの事務服を着た女性――千川ちひろさんは事務員だということ。

 本来はP.C.Sのプロデューサーさんが案内してくれる手はずだったのだが、様々な処理に追われて手が離せないので、代わりに羽衣Pさんが来たとのことだった。

 

「大人なんだから、説明責任は果たしましょうよ!」

 

「まぁ、そうなんだけど、ちひろちゃんに説明してもらった方が分かりやすくていいかなぁって」

 

「説明もなしに連れてくるなんて誘拐と変わりませんよ!」

 

「せやったらちひろちゃんも共犯者やな」

 

「なんでですか!?」

 

「身代金、要求しよか?」

 

「……」

 

 ――なぜそこで黙る!?

 

「はっ! 騙されませんよ!?」

 

 ――騙されてますよ~。

 

「さ、事務員さんは置いといて、お席の方に行きましょかぁ~」

 

 カラカラ笑いながら『関係者用通路』を突き進む羽衣Pさん。

ん? 『関係者用』通路?

 

「え、俺ら関係者じゃないですよ!?」

 

「ん? 構へん、構へん。どうせ席は関係者用の席なんやから」

 

「「うえっ!?」」

 

 初めて明かされる新事実。そういえばチケットに席番書いてなかったような……。

 

「でも、関係者通路ってことは、アイドルの方も……」

 

「通るやろね」

 

「優也。俺ワクワクしてきたぞ!」

 

 ――大の大人が少年のように目を輝かせてワクワクしないでください。

 

「まぁ、今頃は控室にいてるやろし、出会うことは――」

 

「あ、プロデューサーさん! 何処ほっつき歩いてたん?」

 

「あったねぇ」

 

 羽衣Pさんを呼ぶ声に振り返ると、銀髪色白、目の大きな女性がそこにいた。

 

「あれ? そのお二方はどちら様?」

 

「こちら、今回のVIPのお二人。ほら、ご挨拶」

 

「塩見周子です。よろしゅうお頼み申しますぅ」

 

 と、頭を下げる塩見さん。

 

「あ、ご丁寧にどうも」

 

 俺も急いで頭を下げる。

 

「うわぁ~、うわぁ~」

 

 語彙が壊滅的な中年。

 

「で、本当にどちら様?」

 

「ほら、今事務所で有名な、かふぇ~のマスターはんとバイトのおにいさんやで~」

 

「おぉー! ……とりあえずプロデューサーさんは似非関西弁使わんといて」

 

「ははっ、手厳しい」

 

 ――似非関西弁だったのか!?

 

「あたしはまだいいけど、さえはんが聞いたら、怒髪天だろうなぁ」

 

「気をつけます」

 

「よろしい」

 

 すると、今度はこちらに向き直り、

 

「いやぁ、一度行ってみたいと思ってたんだよね。今度寄らせてもらおっかなぉ」

 

「本当ですか? ぜひいらしてください。お待ちしております」

 

 社交辞令だと思いながらも対応する。と――

 

「はい、あ~く~しゅっ!」

 

 と言いながら左手を出してきた。

右手を出しそうになったけど、左手を出した。すると塩見さんは両手で俺の左手を握った。

 

「それじゃあ、楽しんでいってね~」

 

 と言って去っていった。

 

「……優也。とりあえず手を握らせてくれ」

 

 復帰したおじさんの第一声がそれだった。

 

 

 羽衣Pさんの案内で関係者席に到着した。

位置的には最上階のバルコニー……といったところだろうか。

 

「高いけど……少し遠いかな」

 

 さすがにアリーナはないだろうけども顔が見えないのは……

 

「ほい、オペラグラス」

 

 カバンから取り出したのか、おじさんがこちらに寄こす。

 

「何であるの?」

 

「必需品だろ」

 

 ――知らなかった。

 

「お疲れさまです」

 

 羽衣Pさんはすでに座っていた男の人の近くに行く。

 

「おう。お疲れ」

 

「NGPさんだけですか?」

 

「まぁ、時が来れば必然と集まる。そんなもんだろ?」

 

「そんなもんですかねぇ」

 

「で、そちらの方が?」

 

「あ、はい」

 

 羽衣Pさんの言葉を聞くや立ち上がり、こちらへ向かってきた。

 

「はじめまして。私、NGのプロデューサーをしている者です」

 

 そう言って、名刺を取り出す。

 

「先日はうちのアイドルがお世話になりました」

 

「いえいえ、こちらも楽しい時間を過ごさせていただきました」

 

「「これからもよろしくお願いします!」」

 

 おじさんとNGのプロデューサーさんが同時に言った。仕事出来る人ってスゴい。改めてそう思った。

 

「あー……ところで、物販ブースってどちらですかね?」

 

 おじさんは相変わらずマイペースだった。

さっきまでの感動を返せ。

 

「でしたら私がご案内しましょう」

 

「あ、お願いします」

 

 NGPさんとおじさんが去っていった。

――実質看板ユニットのプロデューサーさん自ら案内するとか……346プロ恐るべし。

 

「えーっと……川嶋くんやったっけ?」

 

 気を遣ったのか、羽衣Pさんが沈黙を破る。

 

「はい!」

 

「あ、そんなに堅くならんでええよ。川嶋くんはどの子が好きなん?」

 

「!?」

 

 ――落ち着け、俺。そういう意味じゃなく、『どのアイドルのファンなのか』っていう意味だ。うん。間違いない。

 

「自分はアイドルのことに詳しくないのですが……高森さんですかね」

 

「ほうほう……ちなみに藍子ちゃんはお店に来たことは?」

 

「1番最初に来てくれたお客さんですね」

 

「ふぅ~ん」

 

 細目の羽衣Pさんの目が開いた気がした。

 

「そっかぁ、川嶋くんは藍子ちゃんが好き……と」

 

 ――あれ? 何か含みのある言い方だな。

 

「お疲れ~」

 

 居心地の悪さを感じたところで救世主現る!

 

「あ、セクギルPさん。お疲れさまです」

 

「おぉう。あれ、こちらは?」

 

「例の喫茶店のバイトのおにいさんです」

 

 ――例の喫茶店で通じるのか。

 

「あぁ? あぁ~。納得。んん?」

 

 カタギに見えない男性が顔を近づけてくる。

正直怖いです。

 

「なぁ~んか、早苗さんに教えてもらった不審者に風貌が似てる気がするんだよなぁ」

 

 ――不審者……そういわれれば間違えられましたっけ。

 

「あれって、藍子ちゃんの誕生日ライブの日でしたっけ?」

 

「あぁ、何でも蘭子を出せ! だっけかな? そんなことを警備員にのたまわったとか……」

 

 ――ハイ、オレデスネ。だから、2人してチラチラ見ないでください!

 

「闇に飲まれよ!」

 

 そこに現れる救世主! 救世主?

 

「おう、やみのま」

 

「やみのま~」

 

 ――あぁ、神崎さんと二宮さんのプロデューサーさんだというのが分かってしまうね。ダーク……イルミネイトだったっけ?

 

「さぁ、我らが同胞よ! 間もなく舞踏会の幕が開くぞ!」

 

「「そだね~」」

 

「えっと……その……」

 

 懐から手帳を取り出すダークPさん。

 

「グリモワ(笑)」

 

「グリモワ(笑)」

 

「き、禁忌に触れるな~!」

 

「まぁまぁ、あまりいじめてやるなよ」

 

 威厳のある声とともに現れたるはNGPさんだった――グッズの入った袋を提げて。

 

 ――看板ユニットのプロデューサーさんを荷物持ちにするおじさんェ

 

「それより、舞踏会の始まりだ。彼女たちの輝きを己が目に焼きつけよう」

 

『大変お待たせいたしました。346プロダクション合同ライブ、once upon a time~シンデレラの舞踏会~、開演です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 長くなりそうなので区切りました。
(ネタ切れともいう)
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