急に思いついてしまった話。
俺は悪くねぇ! ンミナミィとリーナが悪いんだ!
※優也くん及び、あーちゃん。出ません!
「ワン、ツー、スリー、フォー」
麗さんのカウントと手拍子に合わせて踊る。
スタジオにはシューズが奏でる摩擦音、衣擦れの音、麗さんのカウントと手拍子だけが響く。
「渋谷ー! どうしたぁ? 疲れたかぁ!?」
「だ、大丈夫です」
呼吸を整えながら答える。
「そうだよなぁ! いつもならまだまだ余裕のはずだよなぁ!!」
確かにいつもの私ならまだ大丈夫のはず。でも実際、今の私は正直バテていて、作り笑顔すら出来ない。
『大丈夫』と言ったものの、心に体がついてきていない。
いや、頭で考えないようにひたすら踊って、ペースを間違ってしまったのかもしれない。
「……今日のレッスンはここまでだ。明日までコンディションを整えておくように。特に渋谷。分かったな?」
「「「「はい!」」」」
「はい……」
急にレッスンの終了を告げられ、みんなでクールダウンするものの、頭の中はスッキリしなかった。
シャワーを浴びて汗を流し、頭も冷えたけども、頭の中はモヤモヤしたままだった。
ツンツン
「ん?」
考え事をしながら歩いていると、肩を突かれた。
振り返ると――
「うっ……」
「ふふっ、だ~れだ?」
「楓さん……それ違います」
振り返ると、頬に指が刺さり、『してやったり』といった顔をした楓さんがいた。
楓さん――高垣楓さんは346プロが誇る看板アイドル。
元モデルというのも頷けるルックス。左右の目の色が違うオッドアイ、醸し出す神秘性は女神のよう。
また、トップクラスの歌唱力は、蘭子をして『世紀末歌姫』と称されるほど。
みんなの憧れでありながら、親しみやすい人なんだよね。
ロビーのソファに促されるままに座る。
「えっと……カフェオレで良かったかしら?」
「すみません! お代を……」
「いいから、いいから」
「すみません……」
隣、失礼するわね、と一言断って楓さんが座る。
「凛ちゃんが悩んでるようでしたので、高垣楓のお悩み相談室でも開こうかと」
『25歳児』と言われることがあるほど自由奔放な楓さんだけど、こういうところを見ると、大人なんだなぁって思ってしまう。
「ちなみに……私の悩みは、合宿中はお酒が飲めないことですね。
「は、はぁ……」
片目を閉じて、舌をペロッと出して事も無げにダジャレを言った。
実際はそんなに悩んでないのかもしれない。
「まぁ、凛ちゃんより年を重ねている分、経験は豊富ですので、お姉さんに話してみてもらえませんか?」
楓さんに気を使わせてるようで申し訳ない。
さっきのダジャレも空気をなごませるためだったのかな……。
「ところで凛ちゃん」
「はい?」
「さっきのダジャレはどうでした?」
目をキラキラさせて聞いてきた。
「あ、オモシロカッタデス」
そんなことは無かった。
「それでは、高垣楓のお悩み相談室。高垣楓がお送りします」
「アッハイ」
何で番組風なんだろう?
「えっと……実はケンカしちゃいまして……」
「相手は? 卯月ちゃん? それとも未央ちゃん?」
「いえ……」
「加蓮ちゃんか奈緒ちゃんかしら?」
「違います……知り合いの男の子です」
「高垣楓のお悩み相談室。高垣楓がお送り致しました」
楓さん!? 番組終わっちゃったんですけど!!
「凛ちゃん、私には荷が重すぎたわ……」
経験豊富とはなんだったのだろう……
「楓さん、諦めないで!」
何故か私が慰めている光景がそこにはあった。
「なるほど。ケンカして、殴ってしまったと」
「はい……」
「その経験は私にはないけれど……」
楓さんが誰かを殴るところ……想像出来ないな。
「その子がそんなことを言ったのには理由があった。
そして、凛ちゃんが殴ったことにも理由があったのよね」
「はい……」
ん~、と顎に人差し指を当てて唸る楓さん。
「それはその子も分かってくれていることだと思います。
だから、あまり考え過ぎないことをおすすめします」
クイッと頭を引き寄せられ、楓さんの膝に――
「楓さん!?」
「凛ちゃんは少し考えすぎね。たまには自分の思うままに行動するのもいいものよ」
そういって、しばらく楓さんの膝枕を堪能した。
食堂へ向かうと、人影が1つ。
「あ、凛ちゃん」
「あぁ、今日の当番、李衣菜だったっけ?」
李衣菜――多田李衣菜は、1つ上の自称ロックなアイドル。ロックをよく知らない私から見ても、到底ロックとは思えないほど良い子。
もちろん、ロック=不良って考えは持ってないけど、どう頑張っても李衣菜=ロックって考えに至らない。
属性クール、見た目はキュート、思考はパッションがみんなの総意。
そして、家庭的なのが輪をかけてロックから遠ざけている。
曰く、にわかロッカーだと。
「そうそう。だから期待してくれていいよ」
合宿中は日替わりで食事を用意することになっている。
「美波さんは、さすがって感じだったよね。楓さんは……まぁ、その、うん」
「夕飯……というよりはおつまみかな」
「予想外だったのは、蘭子ちゃんだよね。普通に料理出来るとは思わなかった」
合宿の2日目。みんなの予想を裏切り、ハンバーグにサラダ、スープを作ってみせた。
手つきは危なっかしく、
「あぁ! 蘭子ちゃん、指切っちゃうわ、みくちゃんの手よ! みくちゃんの手!」
と、ハラハラしながら美波が助言していたのが印象的だった。というか、テンパっている?
「手伝おうか?」
「もう大体終わったんだけど……お皿準備してくれるかな?」
「分かった」
李衣菜の指示の元、皿を準備する。
「凛ちゃん……」
「んー?」
「間違ってたらごめんね。何か、悩んでる?」
「っ!?」
びっくりしてバランスを崩して、皿を落としそうになる。
「大丈夫!?」
「うん……李衣菜に心配されるなんて思わなかったからびっくりした」
「ちょっと~。それどういう意味? 私も一応年上何だけど」
ぷうっと頬を膨らませる李衣菜。そういうところが童顔なのも相まって子どもっぽいんだよね。
「じゃあ、李衣菜にも聞いてもらおうかな」
「なるほどねぇ」
作業を続けながら李衣菜は聞いていた。
手際がいいのが一目で分かる。ホントにロックってなんなんだろう。
と、手を止めて向き合う李衣菜。
「凛ちゃんはそのことを誰にも打ち明けずに、今日まで悩みに悩んだんだよね?」
「うん……」
「で……答えは出てるんだよね?」
「……うん」
「じゃあ、後は行動にうつすだけだね」
「え?」
「人に悩みを話すときには、その人の中ですでに答えが出てるものなんだよ」
それに、と李衣菜は続ける。
「悩みに悩んで、悩み抜いて、その結果指針が決まったなら突き進む、それがロックなんだよ」
ニカッと笑う李衣菜。なるほど。彼女のロックたる所以はこれなのか。
ロックに関してはブレブレなのに、こういったところは確固としたものを持っている。
「凛ちゃん?」
「李衣菜の口から正論が出るとは思わなかった」
「もう! それってどういう意味?」
再び頬を膨らませる李衣菜に心の中で感謝する。
背中を押してくれてありがとう、李衣菜。
「さて、みんなを呼んできてご飯にしよう?」
「うん」
ニカッと笑うと、李衣菜はみんなを呼ぶために食堂を出て行った。
この合宿所は保養所も兼ねているのか、大浴場がある。
もっとも、今利用しているのは私たちだけなので貸切状態なワケなのだけど。
カラカラ
「!?」
髪を洗っていると、戸が開いて誰かが入ってきた。
「あ、凛ちゃん」
「美波……」
シャンプーしていて、目を閉じているのだが、入ってきたのは美波のようだ。
美波――新田美波は現役大学生アイドルだ。
大学生といわれても信じられない色気。
生徒会長をやっていたらしく、リーダーシップもあり、今回のユニットのリーダーにもなっている。
何より、熱意とチャレンジ精神があって、何事も経験がモットーらしい。
正直、私があと3年でこうなれるかと聞かれたら無理だと答えるだろう。それだけ美波は大人に見える。
「隣、いいかな?」
「うん」
シャワーで頭のシャンプーを洗い流す。
――身長は同じなのに、スタイルいいなぁ――
美波がシャンプーしている間、ジーッと美波を見ていた。
――シャンプーしているだけなのに、なんでここまで色っぽいの!? ――
同性なのに、何故か恥ずかしくなってしまう。
「凛ちゃん、どうしたの?」
私の目線に気づいたのだろう。
「あ、えっと、背中、流そうか?」
さすがに『美波に見とれていた』というわけにはいかず咄嗟にごまかした。
『本当!? じゃあ、お願いしようかな』
ちょっと待ってね、とシャンプーを洗い流し、コンディショナーをつける美波。
――あ、私もしないと――
「じゃあ、お願いします」
髪を邪魔にならないように前に持ってきて、背中を晒す美波。
なんというか本当に綺麗で、同性として自身無くすんだけど……。
「えっと、失礼します?」
「あははは、そんなに緊張しないで、リラックス、リラックス」
スポンジにボディーソープをつけて泡立たせたあと、美波の背中に当てて擦る
「んふっ」
「!?」
「くすぐったいよ。もう少し強くしていいから」
「えっと……これくらい?」
「うんうん、良い感じ」
あまり強すぎず、かといって弱すぎず、洗い残しがないように万遍なく洗う。
「凛ちゃん、何か悩み事あるんだよね?」
思わず、ピクッと手が反応した。
まぁ、美波なら気づいているとは思ったけれど。
「良かったら話してくれないかな? 凛ちゃんの力になりたいの」
「実は――」
「ケンカして、ビンタしちゃった……と」
「うん」
美波が体を洗い終え、今度は私が背中を流してもらっている。
「でも、凛ちゃんはケンカしたとしても先に手を出す子じゃないと思うんだよね」
私の主観だけど、と美波は告げる。
「何かしらの理由があったからビンタしたと思うんだよね」
――美波には敵わないな――
「もちろん、叩いてしまったことは謝ろうね? それが理由でケンカ別れなんて寂しいでしょ?」
状況を判断し、その上で姉のように諭す。
私は一人っ子だけど、こんなお姉さんがいてくれるならなら嬉しいな。
「にしても、凛ちゃんにも彼氏かぁ」
バレないようにね? と言ってきた。
「ん!?」
「初めての出会いはいつ?」
「えっと……美波?」
「大丈夫、みんなには内緒だから。ね?」
「彼氏じゃないよ?」
「またまた~、ゆっくりお話聞かせてもらうから、ね?」
背中を流してもらっているため逃げられず、このあとめちゃくちゃ弁解した。
みんなも寝静まった夜、目が覚めてしまった。
みんなを起こさないようにこっそりと部屋を出た。
ふと外に出てみようと思ったが、夏ということもあり、蚊もいるだろう。刺されるのイヤだしなぁと考えていると――
「凛さん……」
声が聞こえ、振り返ると――
「蘭子……ごめん起こしちゃった?」
「目が覚めちゃって……外、歩きませんか?」
そう言いながら虫除けスプレーを出す蘭子。
「用意してたんだ」
「はい!」
えへへと笑う蘭子。
――蘭子は最近、自分を出せるようになったね――
まだカメラの前では熊本弁なんだけど、アイドルの前とかでは普通に話せるようになった。
それこそ『瞳を持つ者』を得たのだろう……川嶋さんだろうけど。
「星空が綺麗だね」
余計な明かりがないから東京に比べて星が明るく見える。
「悩みも小さく思えますよね」
「蘭子は悩み事あるの?」
「それはありますよ~。伝えたいことも伝えられなかったし……」
――うん。蘭子の言葉は独特だからね――
「でも、アーニャちゃんが『悩んでるときはズヴィスター、星を見ましょう、悩みも小さくなりますよ』って教えてくれて……」
「そっか……アーニャが」
伝えたいことも伝えられないという意味では、アーニャも同じだしね。
「最近の悩みは、仲の良いお兄さんとお姉さんがケンカしているかもしれないこと……ですね」
「うっ……」
――蘭子にも心配をさせていたらしい――
「2人ともいい人だし、私は2人とも大好きなので……そんな2人がケンカしているのは悲しいかな」
「蘭子……」
「いろいろ意見が違ってぶつかり合うこともあると思う。
でも、最後には仲直りしてほしいんです。
私にとって、優也さんはお兄ちゃんで、凛さんはお姉ちゃんだから」
「蘭子!」
「わぷっ!!」
思わず蘭子を抱きしめていた。
さっき、美波をお姉さんみたいと言ったけど、蘭子が妹でもいいかもしれない。
「ごめんね。心配かけて」
「り、凛さん。苦しいです。むきゅー」
「蘭子、蘭子~」
蘭子が愛しくて、しばらくもふもふしてたら、
「禁忌に触れるなぁ~!!」
と、顔を真っ赤にして怒られた。
とりあえず、東京に戻ったら、川嶋さんに謝ろうと心に決めた。
高垣楓の噂 他の人がダジャレを言ったとき、面白くないと真顔になるらしい。
そのうちユニットごとの話かけたら良いな。