隠れ家喫茶ゆるふわ(凍結中)   作:ハマの珍人

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 いよいよ季節は移ります。
そして、あの人気キャラを出します!
 ポニテとかマジ半端ないって! 出すなら言うといてくれや!!
 無事に迎えられたからいいけど。


それぞれの秋

 長かったような夏も終わり、季節は秋――といっても、秋になったから急に炎天下から解放されるわけはない。

 

 ランチタイムを終えた昼下がり。店内には隅の席で読書をしている女性が1人。大学生だろうか? この時間になるとよく来るけど、話かけたりしたことないから分からない。

 

 ――読書の秋……か――

 

 気温も落ち着いてきて、何をするにも過ごしやすいから○○の秋っていうんだっけか。

 

 たまには本でも買って読もうかなとは思うんだけど、開いて2、3ページも読むと寝落ちするのは目に見えているんだよなぁ……。あんな風に読書に集中出来る人がうらやましい。

 

 

「あの……」

 

「は、はい!」

 

 じーっと見ていたのが気に障ってしまっただろうか。

 

「アイスコーヒーの……おかわりをいただけませんか?」

 

「かしこまりました」

 

 グラスを受け取り、コーヒーを注ぐ。

 

「ありがとうございます……」

 

「っ! ごゆっくりどうぞ!」

 

 1礼して離れた。

 

 びっくりした。前髪で隠れてあまり見えなかったけど、美人だった。色白だし、なにより目が青空のように澄んで綺麗だった。

 しかし、本を読む姿1つとっても絵になる。

描く人が描けば相当な値打ちが付きそうだ。

 俺は描けないよ。苦手だもの。

 

カランカラン

 

「いらっしゃいませ~」

 

 ドアベルが鳴り、挨拶をしながら入り口を見ると――

 

「こ、こんにちは」

 

 緊張した様子の橘ちゃん。

こういうところ初めてなのかな?

 

「橘ちゃん、お一人? 小学生だけでのご来店は――」

 

「あ、はい。それは分かってはいるんですけど、その……」

 

 言いたいことがあるんだろうけど、どう伝えていいのか分からないのかスカートの裾を握りしめている。

 

「あ、怒るつもりは無いし、学校とか事務所に報告することはないから安心して」

 

「はい……人を探してて」

 

 人探し?

 

「このお店によく来ているらしいんです」

 

 うん。該当者いっぱいいるんですけど……アイドルの方ですけど……

 

「どんな人?」

 

「黒髪で長くて、身長高くて、大人っぽくて――」

 

 該当者が1人になりました。

 

「よく本を読んでますね」

 

 あれ? 本読んでいるところは見たことないけど……

 

「あとは、目が綺麗なんです! いつもは前髪で隠れてますけど……」

 

「んんっ!?」

 

 あれ? なんか急に1人該当者が浮上したんだけど……

 

「えっと……橘ちゃん?」

 

「はい?」

 

「もしかして、お探しの方って、あちらの方?」

 

 橘ちゃんの目線を該当するお客様に誘導する。

 

「文香さん!」

 

 あ、やっぱりあってた。っていうか、アイドルの方だったんですね。

 一方、文香さんと呼ばれた女性は、気づいていないのか本を読み続けている。

 

「文香さん! 文香さん!!」

 

 橘ちゃんが呼びかけるも、本の世界に入り込んでいる。

 

「えっと、橘ちゃん。急ぎかな?」

 

「いえ、レッスンまでまだ1時間ほどあるんですけど……文香さん、本を読んじゃうと周りが一切見えなくなっちゃうので……」

 

 うん。今実感してるね。

 

「なるほど。まぁ、まだ時間があるなら、パフェでもどうかな? パフェ食べ終わる頃には読み終わるんじゃないかな?」

 

 あ、でも、レッスン前だしダメかな?

 

「パフェ!? あ、でも……」

 

「ん?」

 

 目をキラキラさせたと思ったら、顔を伏せて、またスカートの裾を握りしめた。

 

「お金……」

 

「あ~……今回は俺の奢りってことで――」

 

「でも、売り上げとか合わなくなっちゃいます!」

 

 うっ、子供と侮る事なかれ。橘ちゃんは賢かった。

 

「じゃあ、今度来るときはお客さん連れてきてよ。保護者っていうか、高校生以上との来店なら大丈夫だろうし。

 それで、売り上げに貢献してくれればいいから」

 

「それでしたら……」

 

「よし、決まり。じゃあ、文香さんのテーブルで待っててよ」

 

 子供は素直が1番。難しいことは考えず、好意に甘える。それでいい。

 

 

「はい、イチゴパフェおまちどおさま」

 

「わぁ~」

 

 目をキラキラ輝かせる橘ちゃん。

大人っぽく振る舞うこともあるけど、こういう年相応の反応も悪くないぞ。

 

「いただきます」

 

 橘ちゃんはスプーンを手に、パフェの全体を眺める。

パフェって細いグラスみたいな器にアイス、フルーツ、シリアルが層になってるからなぁ。普通に食べ進めちゃうとふにゃふにゃのシリアルが残るし、バランスよく食べようとしても、クリームやらアイスやらが崩れてしまう。気にしない人は気にしないけど、橘ちゃんはこだわりがあるようだ。

 戦略が決まったのか、スプーンを入れていく。

 

「~~っ」

 

 おぉう! 1口食べた途端に表情がとろけるような顔に変わった。その後も止めることなくスプーンで掘り進めていく。

 

「ふぅ~……あ、ありすちゃん……」

 

 本を読み終えた文香さんが目の前でパフェを食べているのに気づいた。

 

「レッスン前にこちらにいらしてるのではと、探しに来てくれたんですよ」

 

「失念していました……」

 

 橘ちゃんが言ってたとおりだね。

 

「それで、待っている間にパフェでもってことで」

 

 あ、お代は結構ですよ、と先に制する。

 

「文香さんも常連さんなので、これからも来ていただければ嬉しいです」

 

「あれ?私……名乗った覚えは……」

 

「あ~……橘ちゃんが『文香さん』と呼んでいたので」

 

 流石に、いきなり名前呼びはまずいよね。……藍子的にも。

 

「そうだったんですね……申し遅れましたが、鷺沢文香と申します……」

 

「ご丁寧に。自分は――」

 

「川嶋優也さん……ですよね……お噂はかねがね……」

 

 ――ろくな噂じゃないんだろうなぁ~――

 

「こちらのお店の雰囲気が……好きですので、通わせていただきます……」

 

「それはよかった。いつでもお待ちしております」

 

 橘ちゃんはまだパフェの世界から帰ってこないようで、2人で橘ちゃんを眺めている。

 

「凛としているのに、こういうところは年相応でかわいいですよね」

 

「ありすちゃん、頑張り屋さんなんです……私のことも気にかけてくれますし……」

 

 マイペースだけど、包容力のあるお姉さんと、しっかり者のちょっと背伸びしたい妹かな?

 

「なんていうか、お2人は姉妹みたいですよね」

 

「姉妹……ありすちゃんみたいな妹なら嬉しいですね……」

 

「ふぅ~。ごちそうさまでした」

 

「ありすちゃん……ほっぺにクリーム付いてますよ……?」

 

 紙ナプキンを手に取り、橘ちゃんの左の頬を拭う鷺沢さん。

 

「あ、ありが――文香さん!?」

 

「はい……?」

 

 びっくりしたのと恥ずかしいので、かなり取り乱す橘ちゃん。

 

「えっと、その、いつから?」

 

「はい……?」

 

 ここで、お節介という名の助け船。

 

「鷺沢さんが本を読み終えたのは、橘ちゃんがパフェを5口食べたあたり。で、その後は2人で橘百面相を見てました」

 

「な、な、なんで声をかけてくれなかったんですか!?」

 

「「邪魔するのも悪いかと……」」

 

「子供っぽくてすみません」

 

 大人っぽく振る舞おうとする橘ちゃん。

 

「「年相応ではないかと……」」

 

「なんで2人でハモっているんですか!?」

 

「「どうしてでしょう……?」」

 

 鷺沢さんと顔を見合わせて首をかしげる。

 

「あ、ところで、レッスンの時間は大丈夫ですか?」

 

「そうでした……」

 

 本末転倒、ミイラ取りがミイラになるところだった。

コーヒーの支払いをして、2人は店を後にした。

 2人を見送った後で、ロッカーから自分の財布を取り出し、お金をレジの下の箱に入れた。

 

 

 槙原さんがバイト上がりにパフェを頼む(客として)ことで急きょ決まったcloverのルール。

 従業員は3割引で商品を注文できる。お金は直接払うのではなく、レジの下の箱に払い、帳簿に書いた上でマスターに申告すること。最も、従業員が3人しかいない上、信頼があるからこそ出来ることであるのだが……。

 

 

「誰か来たのか?」

 

 休憩を終えたマスターが戻ってきた。

 

「ん~……いつもの常連さん」

 

 とりあえずマスターには黙っておこう。

 

「あ、イチゴパフェ1つね」

 

「お前がパフェって珍しいな」

 

「ちょっと……ね」

 

「ふぅ~ん。休憩はいるか?」

 

「ん~……お客さんが来な――」

 

 カランカラン

 

「こんにちは!!!」

 

「……まだ入れないね」

 

 あはは、と笑いながらフロアに戻る。

 

「いらっしゃいませ~」

 

 フロアに戻ると珍しい組み合わせだった。

 

「えっと……2人で、隅の方で」

 

 1人はもはや常連さんの凛さん。

 

「かしこまりました。ご案内します」

 

「お願いします!!」

 

 もう1人は元気の塊、日野さん。

ユニットが違う2人が来るなんて、どうしたのだろう。

 

「珍しい組み合わせですね。今日はお仕事かなにか?」

 

 お冷やを持っていき、尋ねる。

 

「仕事というより、自主練ですね!」

 

「実は、スポーツの秋ということで、スポーツに挑戦することになって……」

 

 あぁ~、そのための基礎トレーニングなんだろう。

 

「で、そのスポーツって?」

 

「……ロードバイク」

 

 違いがよく分からないけど、トライアスロンのバイクみたいなものかな?

 

「それで、体力作りのためにランニングをしようと思って……それで茜にお願いしたんだ」

 

「ええ! 不肖、日野茜! 凛ちゃんのトレーナーを仰せつかりました!!」

 

「でも、茜のペースが思った以上に速くて……」

 

「え、そんなに速かったの?」

 

「あれは、ランニングじゃなくてRunning(走っている)だよ」

 

 えぇ~……

 

「だから、自分のペースで走るように言ったんですけど……」

 

 おぉう! 申し訳なく思ったのだろう。日野さんのトーンが下がっている。

 

「そうなんだけど、付き合ってもらっているのに悪いかなって……茜にも予定あるのに時間とらせちゃうようでさ……」

 

 そこまで気を使わなくてもいいと思うのだが、使ってしまうのが凛さんなのである。

 

「凛ちゃん……」

 

「茜……」

 

「あ~……ところでご注文お決まりですか?」

 

 変な空気になりそうなので、切る。空気を読んであえて切る。

 

「えっと、カフェオレとサンドイッチで」

 

 あまり食欲ないけど、何かしら入れておこうという考えであろう凛さん。

 

「カツカレー大盛りと、お茶で!」

 

 体力使ったんだから食べる! 体が資本だ! さぁ食うぞ! カロリー!? んなもん走って、動いて消費しろ! という考えが……あるかどうかの日野さん。

 

「えっと……麦茶でいいですか?」

 

「構いません!」

 

「少々お待ち下さい」

 

 俺がキッチンに引っ込んだ後も、2人でトレーニングの話をしているようだ。

 まぁ、無理しないトレーニングをしてくれればいいけどね。

 

 

 その後、撮影を気に、凛さんはロードバイクにハマってしまったようで、日程が合えば、ロードバイクのイベントに呼ばれるようになり――

 

「走ったときに受ける風の爽快感がもうね――」

 

 一方の日野さんは某テレビ局の鬼ごっこ番組のオファーが来たらしい――鬼役で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 川嶋優也の噂
絵はかなり下手らしいが、マキアートは上手いらしい。
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