隠れ家喫茶ゆるふわ(凍結中)   作:ハマの珍人

54 / 70
 限定響子ちゃん爆死記念!


見た目と中身は必ずしも一緒とは限らない

 346プロダクション 某1室

 

「えっ!? 五十嵐さん来ないんですか?」

 

 夏休みに顔合わせ兼レクリエーションをして、今回で2回目となる料理教室。

その打ち合わせの席――

 

「うん。申し訳ないんだけど、仕事が入ってしまってね……」

 

 おなじみのP.C.Sのプロデューサーさんが申し訳なさそうに告げた。

 

「まぁ、仕事じゃ仕方ないですよね……」

 

 あちらはメディアに出るお仕事。こっちはアイドル向けの料理教室。どちらが大事か一目瞭然だ。

 仮に五十嵐さんのスケジュールを合わせても、肝心の生徒さんのスケジュールを合わせなきゃいけない。

自由参加とはいえ、生徒が少なくては開催できないし――

 

「じゃあ、今回は自分1人ですか?」

 

「そこは大丈夫ここに――」

 

 プロデューサーが鞄から取り出したるは――

 

「ここにスケジュールが空いてるアイドルの名前が書いてあるカードがある!」

 

『多田李衣菜』、『佐久間まゆ』、『城ヶ崎美嘉』と書かれたカードを並べて見せる。

 

「これをこうする!」

 

 裏返しにして3枚を重ねる。

 

「そしてこうする!!」

 

 3枚をシャッフルする。

 

「そしてこうだ!!!」

 

 扇状になるように持って――

 

「引けぇぇぇぇぇ!!!」

 

 プロデューサーさんの妙なテンションにドン引きした。

 

「いやいや、どなたも顔見知りじゃありませんし」

 

「ワクワクするだろう?」

 

 ――不安でしかねぇよ。この人信じて大丈夫なのかって不安しかない――

 

「お三方とも料理は出来るんですよね?」

 

 ここで『出来ない』って言われたらキレかねない。

 

「そこは安心してくれていいよ。ただ、まぁ……うん」

 

「……」

 

「……」

 

 ――なんか言えやぁぁぁ!!――

 

「引くの怖いんで引かなくていいですかね?」

 

「それじゃあ面白くないじゃん」

 

「すみません。料理教室のアシスタントに面白さは求めてないんですが……」

 

「まぁまぁ、1枚どうぞ」

 

 仕方ない、と腹をくくり手を伸ばす――

 

「まぁ、少しクセはあるかもだけどね」

 

 ――五十嵐さん、カムバァ~ック!!――

 

 プロデューサーさんも壊れてきているなぁ(涙目)

 

「ちなみに、どんな人か検索h「ダメ!」……はい」

 

 もう何を言ってもダメらしいので、腹をくくり、カードを1枚取る。

 

「これだぁ!」

 

 

コンコンコン

 

 待つこと1時間、ドアがノックされる。

 

「ど、どうぞ」

 

 待ち人来る。しかし――

 

 ――どんな人なんだろうか。3人とも高校生ってことだから同い年ぐらいだよね。それにしてもこの苗字ってお嬢さm――

 

「やっほー。はじめまして★美嘉だよ~」

 

「チェンジで」

 

「はい?」

 

「チェンジ!!」

 

 ギャルだった。髪の毛ピンクな圧倒的なギャルだった。

 

 ――誰だよ! お金持ちのお嬢様とかほざいたヤツ!! ギャルじゃねぇか!! 謝れ!日曜6時の国民的アニメに出てくる髪の毛ロールしてるお嬢様に謝れ!――

 

「え、いきなりなに?」

 

 俺の怒りに戸惑う偽ヶ崎。

 

「俺は、俺はなぁ、ギャルが大っ嫌いなんだ! どこでも集まれば騒ぎ立て、『マジで』、『ウケる』、『それな』って単語だけで会話のキャッチボールをしようともしない」

 

「いや、それってかなりの偏見――」

 

「そもそも、長い爪で料理する気じゃないよね?」

 

「それはないよ。爪の間にひき肉とか入ったりしたら気持ち悪いし、何より不衛生じゃん」

 

 ほら、と両手の爪を見せてくる。

 

「一応、アシスタントの話があるかもしれないってPさんに言われたから、お弁当作ってきたんだけど……」

 

 お弁当?

 

「アシスタントの話来たの、今日だったはず」

 

「だから、話来てから1時間で作ってきた」

 

 ――マジすか!?――

 

「食べてみてよ★」

 

「お、おう」

 

 あまりの展開に混乱しているが、その挑戦、受けてしんぜよう。

 

 

「参りました」

 

 色合い、バランス、味の濃さ、全てにおいて想定以上だった。これを1時間で作られたら――

 

「本当にすみませんでした!!」ゴンッ!

 

 土下座である。非礼な態度ともども謝罪する。

 

「え、ちょ、どうしたの!?」

 

 いきなりの土下座に城ヶ崎さんは驚きの声をあげる。

 

「なめていたのは自分の方でした。本当にすみませんでした!! それとお弁当美味しかったです! ごちそうさまでした!」

 

 何気に誰かにお弁当作ってもらったのは初めてだ。

 

「謝るか、お礼言うかどっちかにしてよ……」

 

「すみません!」

 

 土下座というか、床に頭をねじ込むようなレベルである。

 

「あぁ~、もう、面倒くさいなぁ。頭上げてよ」

 

 城ヶ崎さんのお許しが出たので、頭を上げようとするが、ふと、城ヶ崎さんの靴が視界に入る。思ったより近くにいるようだ。

 

 ――あれ? 城ヶ崎さんの服装って……!――

 

ガンッ!

 

「!? ちょっ! なにやってるの!?」

 

「城ヶ崎さん……非常に申し訳ないんですが、下がっていただけますか?」

 

「え、なんで!?」

 

「~~~! 非常に申し上げにくいんですが、このまま頭上げると……見えちゃうんですよ」

 

「なにが!?」

 

「えっと……城ヶ崎さん、ご自分の服装を確認していただけますか?」

 

「普通の服だよね? もしかして、センス悪い?」

 

 ――違う! そうじゃない。そうじゃないんだ――

 

「服のセンスは自分には分かりませんが、お似合いだと思います!」

 

「は、はずいって~」

 

「ですが、スカートが少し短いかなぁっと……」

 

 ――頼む! 察してくれ!!――

 

「え? 普通じゃない?」

 

「では、俺の状態を見てください」

 

「状態って言っても……あ」

 

 城ヶ崎さんの靴が視界から消える。

 

「ご理解いただけました?」

 

「う、うん……ごめん……もう頭上げていいよ」

 

 城ヶ崎さんのお許しが出たので頭をあげる。

 

「あ!ほら、おでこ赤くなってるじゃん」

 

 そう言いつつ、俺の目線になるようにしゃがみ込んで額を触ってくる。

 

「あの、城ヶ崎さん。近いです」

 

「なぁに照れてるの★ さっきまでの勢いはどうしたの?」

 

 ――勘弁してください。俺が悪かったです――

 

ガチャ

 

「優也くん、城ヶ崎s――」

 

「「あ」」

 

 ドアが開き、プロデューサーさんが入ってきて――

 

「みんなには黙っておくから……ごゆっくり~」パタン

 

 よくマンガとかアニメだと、くっついている2人が、誰かが入ってくる前にそれぞれ離れた場所に移動しているっていうシーンがあるけど、実際はそうもいかないんだな。

 入り口から見ると、城ヶ崎さんと俺がキスしているように見えたのだろうか。そんな事実ないんだけどなぁ~。

 城ヶ崎さんは少しテンパっているのか、顔を赤くしてアワアワ言っている。慌てても仕方ない。冷静に、そう、冷静に。

 

「「ちょっと待てぇい!!!」」

 

 このあとめちゃくちゃ説明した。

 

 

 

「はい、皆さんこんにちは~……」

 

「「「こんにちは~!!!」」」

 

 元気のいいあいさつが返ってくる。

 

「うん、みんな元気だね……あいさつは元気が1番だよ……」

 

「ゆうやお兄さんの方が元気ねぇですよ」

 

「なにかあったんですか?」

 

 うん。プロデューサーさんの誤解を解くのに疲れたなんて言えないよね。

 プロデューサーさんであれなんだから、背伸びしたいお年頃の子たちに話したら、料理教室どころの騒ぎじゃない。

 

「うん。心配してくれてありがとう。季節の変わり目だからちょ~っと疲れが出てきちゃってるかなぁ。

 みんなは大丈夫かな?」

 

「だらしねぇなぁ。オレはサッカーやってるから全然平気だぜ」

 

 ――ははっ、若いってうらやましい――

 

「そもそも、私たちはプロなんですから、体調管理なんて出来て当然です」

 

 ――はい。返す言葉もございません――

 

 他にも何人かは元気~と答え、何人かは俺の体を心配してくれた。うん。まっすぐ育って欲しい。

 

「さて、今日なんですけど……五十嵐さんが都合が合わないためにお休みです」

 

「えっ、響子お姉さん来ないの?」

 

「お仕事ですから……仕方ありませんね……」

 

「んじゃ、優也くんが1人で教えるってことかな?」

 

 想定内の質問が飛んでくる。

 

「そこは大丈夫です。強力な助っ人を呼んであります! どうぞ~」

 

「やっほー★ 美嘉だよ~」

 

「美嘉ちゃん!」

 

「えっ!? お姉ちゃん!?」

 

 お姉ちゃん? 城ヶ崎さん、妹いたのか……あ、これかな? 城ヶ崎莉嘉さん。

 

「ところで……周子ちゃんと文香さんは、なんでいるの?」

 

 さすが強力な助っ人。こちらがスルーしていたことを聞いてくれる。

 

「料理の……勉強を……」

 

「美味しいものを食べにきたよ~」

 

 ポニーテールにしてやる気を見せている鷺沢さんと、食べる気満々の塩見さん

 

「「食べたいなら、働いて(ください)」」

 

「2人とも、息ぴったりやねぇ~」

 

「~~~っ」カァ~

 

「はい、このコンビネーションで頑張っていきます!」

 

 おちょくられる前に、あえてそこを強みにする。

 

「と、いうわけで今日はみんな大好きハンバーグを作っていくよ~」

 

「ハンバーグ!?」

 

「やった~!!」

 

 やっぱり子どもの好きな食べ物で一二を争う人気のハンバーグ様だ。

 

「今回は、刃物とかフライパンを使うから、指を切ったり、火傷しないように気をつけてね?」

 

「「「はーい!!」」」

 

 

 

「じゃあ、タマネギとニンジンを切っていくよ~」

 

「押さえる手はねこの手だよ~★」

 

 そう言いながらねこの手をしてみせる城ヶ崎さん。

 

「ねこさんの気持ちになるですよ~」

 

「そうそう。そんな感じで押さえてね」

 

 城ヶ崎さんと2人で確認して回る。

 

「包丁を渡すときには、危なくならないように、平らなところに置こうね」

 

「包丁使うときは、大人の人がいるときに使おうね?」

 

「「「はぁい!!!」」」

 

 ――この場に大人がいない気がするけど、黙っておこう――

 

「じゃあ、ここでみじん切りをしていくんだけど……まずは、美嘉さんにデモンストレーションしてもらおう!」

 

「ふぇ!?」(い、いきなり名前呼び!?)

 

「美嘉さん、お願いできますか?」

 

「ま、まっかせなさ~い!」

 

 と、包丁の先端側の峰を押さえながら、軽快にみじん切りしていく。

 

 ――おぉ、やっぱりやり慣れているなぁ――

 

「どうですか?」

 

「目が痛くなってきたよ……」

 

 うん。予想通り。

 

「と、いうわけなので、皆さんにはこの、『フードプロセッサー』を使っていただきます!」

 

「「「おぉ~!!」」」

 

「えっ!?」

 

「使い方は簡単、ある程度切った材料を入れて、この紐を引っ張っていただくだけでOK!」

 

「ちょっと!?」

 

「そうすると、中の刃が回転して野菜を切るという仕組みです! さぁ、みんなもやってみよう!」

 

「「「はぁい!!!」」」

 

「ふん!」ガスッ!

 

「美嘉さん、さすがにスネは痛いっす」

 

 

「はい、みじん切り出来たらかな? そうしたら、材料を混ぜてこねるよ~」

 

 用意していたひき肉、卵などを混ぜたタネに野菜を入れてこねる。

 

「なんかねちょねちょするね」

 

「粘りが出るからね。そしたら空気を抜いていくよ~」

 

「空気を抜くんですの?」

 

「空気があると……熱で膨張してしまい、割れてしまうそうです……」

 

「さすがです、文香さん!」

 

 ――鷺沢さんがいると、説明をしなくて済むからありがたいね――

 

「と、いうわけで、ある程度丸めて両手でキャッチボールするように抜いていくよ~」

 

「「「はぁい!!」」」

 

 教室にパンパンという音が鳴り響く。

 

「あう……」

 

「鷺沢さん、大丈夫ですか?」

 

「理論は分かっているものの……うまくいきませんね……」

 

「そういう場合、こう、下に手を構えて、そこに落とすくらいでもいいらしいですよ」

 

「勉強になります……」

 

 なんか、鷺沢さんに教えていると不思議な感覚になるな。

 

「友紀なら得意そうだな」

 

 結城さんがぼそっと呟く。

 

「友紀さん?」

 

「あぁ、キャッツ大好きなアイドルなんだけどなかなり贔屓してるんだよなぁ」

 

「へぇ、料理出来るの?」

 

 それならぜひ来ていただきたいな。

 

「いや、ネギをバットにしてたな」

 

「あ?」

 

 結城さんが俺の顔を見てビクッとしているどうしたんだろう? まあ、ともかく――

 

「次回連れてきてよ」

 

 笑顔で言うと、結城さんは怯えながらコクコク頷いていた。どうしたんだろう?

 

 ――とりあえず、友紀さんには教えてあげなきゃね。食材で遊ぶな、ということと、星の球団も悪くはないと――(星の球団ファン)

 

「さて、空気抜いたら、小判型に成形していくよ~★」

 

「小判?」

 

「こんな感じのだ円形だよ」ジャジャーン

 

「塩見さん、何気に上手ですね」

 

 少し意外だった。

 

「まぁ、実家が和菓子屋だったからね。似たようなことはしていたし」

 

「へぇ~」

 

 ――練りきりのことかな? なんか違う気もするけど――

 塩見さんのご実家が和菓子屋というのは少し意外だった。

 

「まぁ、京都に来ることがあれば寄っていってよ」

 

「はい」

 

 あれ? 修学旅行、京都だったような……

 

 

「よしじゃあ、くぼみを作ってから焼いていくよ」

 

「えっ? へこませるの? なんで?」

 

「くぼませることで、肉の収縮を抑える……型崩れを防ぐといった効果があるそうです……」

 

「さすがです、文香さん!」

 

 ――さすがです、ありすちゃん――

 

「橘です!」クワッ

 

「いきなりどうしたん?」

 

「いえ、何でもありません」

 

 なんで人の心読めるのさ……

 

 

 

 

「すみません、洗い物まで」

 

「いいのいいの。片付けまでが仕事でしょ?」

 

 食器等の片づけを城ヶ崎さんと2人で行っている。

元々、時間が少し押してしまったこともあり、自分1人でやるつもりだった。

 子どもたちは帰さなきゃいけなかった。

塩見さんと鷺沢さんも手伝うと言ってくれたものの、急な仕事が入ってしまい、プロデューサーさんが迎えに来ていた。

 

「城ヶ崎さんには感謝しきれませんね」

 

「ん~、美嘉でいいよ」

 

「はい?」

 

「だって、調理中ずっと『美嘉さん』って言ってたし」

 

「それは、妹さんもいたので、混乱しちゃうかなぁ……と」

 

「うん。だから美嘉でいいよ。あたしも優也くんって呼ぶし」

 

「あー……じゃあ、それで」

 

「うん、よろしく★」

 

 相変わらずギャルは苦手だけれど、この人のおかげで、少しはギャルも悪くは無いかなと思えるようになるかもね。

 

 後日、結城さんが言っていたらしいのだが、

 

「料理のお兄さん、川嶋優也に逆らってはいけない。逆らうと目だけで3枚におろされる」

 

 と、いう噂が流れていた。それは俺以外の誰かなんだと信じたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。