隠れ家喫茶ゆるふわ(凍結中)   作:ハマの珍人

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 なんやかんやで修学旅行回。



そうだ! 京都に行こう

 拝啓 藍子

元気ですか? 東京はどうですか? ……と言っても、たった2日。よっぽどのことが起こらないと変わらないし、そのよっぽどのことが起こったとニュースになってもいないので大丈夫でしょう。

 京都は紅葉が鮮やかで、深まる秋を感じます。

写真を撮りましたが、藍子に見せてあげられないことが悔やまれます。

 俺はどうやらここまでのようです。藍子にもう一度会いたかったのですが、それが叶わないと思うと、涙が出そうです。

 どういうことかと言うと――

 

「ココ、ドコ?」

 

 迷子になっちゃいましたっ。

 

 

 

『昨日』

 

 

「よし、お前ら集まったか? いないヤツはいないか?」

 

 東京駅にていつものように腕を組みながら俺らを虎の――優しい眼差しで見張――見守る武d――御館様。

 

「御館様! 僭越ながら美人のバスガイドのお姉様が居りませぬ」

 

「中野、大丈夫か? ココナッツクラッシュでいいか?」

 

 的外れな冗談にも優しく対応する。

 

「新幹線で行くのに、バスガイドがいるわけないだろう?」

 

 ――まぁ、確かにそうだよな――

 

「では、現地に行けば、会えると?」

 

「まぁ、期待して待っていろ」

 

「はっ! 一生着いて行きます! 御館様」

 

 俺が呼んでいたこともあって、武田先生の呼び名が『御館様』で定着してしまった。

 

「いや、お前の面倒一生見るとか遠慮するわ」

 

「ヒドイ!!」

 

 ――まぁ、ごもっともだと思う――

 

「まぁ、冗談はこれくらいにして、新幹線に乗るわけだが……切符は持ったな? 忘れたヤツは置いていくぞ」

 

 御館様が見渡す。さすがに忘れた人はいないらしい。

 

「もちろん他の乗客もいるわけだから、節度を持って行動するように! 守れなかったら……分かるよな?」

 

 不敵に嗤う御館様。

 

「じゃあ、行くぞ!」

 

「カチコミじゃあ!!」

 

 駆けこみ乗車ならぬカチコミ乗車をしようとして鉄☆拳☆制☆裁されたヤツがいたと記しておく。

 

 

「現地に着けば、美人のバスガイドお出迎えしてくれる」

 

「そう思った時期が私にもありました」

 

 結論から言えば、女性の添乗員さんでは無かった。

ただ――

 

「本日は○○観光をご利用いただきまして、ありがとうございますぅ。本日の旅のガイドを勤めさせていただきます、仙道と申しますぅ。先導役の仙道と覚えてください~」

 

 ――うん。なんていうか、キャラが濃いな。営業のためなのか、少々オネエがはいってるなぁ――

 

「あらぁ、坊や~いい男ねぇ。今晩どう?」

 

 ――あ、これガチなヤツですね――

 

「さて、皆さんは今日は修学旅行でしたっけ? 今日が奈良で、明日が京都ですかぁ。いやぁ、残念ですねぇ。今日が京都でしたら、うちの1番の添乗員だったんですけどね。奈良なので、2番目が来ちゃいましたぁ~」

 

 ――本当に濃い~(白目)これが営業トーク出会って欲しいところだ――

 

「皆さん、旅行って行かれますぅ? よくね、京都・奈良ツアーなんてございますけどぉ、そう言う風に言いますと、奈良の方がオマケみたいに感じません? そんなことございませんよ~」

 

 と、近所のおばちゃんのような仕草で小粋(濃い気?)にトークする仙道さん。

 

「もちろん、奈良にもいいところはございますぅ。ま・ず・は~、鹿がおります。しかも、今しか見れないわけではございませぇん。いつもかわいらしい姿を見られます」

 

 ――お、おう……他にも見られる場所はありそうだけどな――

 

「あとは~。歴史がありますねぇ。京都、平安京は794年……今では変わったんでしたっけ? まぁ、私世代の時はまだ794年で覚えさせられたんですけどね?

 それに比べて、奈良は710年です。奈良が日本の首都と言っても過言ではありませんねぇ」

 

 ――いや、過言だろ――

 

「それと、奈良漬け! これさえ覚えておけば大丈夫です」

 

 ――いや、他にもあるだろ!!――

 

 周りからも失笑が漏れていた。

 

「ではでは、はりきっていきましょ~!!」

 

 

「川嶋、大丈夫か?」

 

「ん~……」

 

「目、開いてないぞ?」

 

「ん~」

 

 ホテルの割り振られた部屋。夕食後、班ごとの反省会、明日の京都での自由行動での確認等を終え、就寝時間までの自由時間となったのだが――

 

「じゃあ、俺は他の部屋行ってくるな? 鍵は持っていくから」

 

「ん~……」フリフリ 

 

 目は開かないものの、入り口に向かって手を振る。

 今日は、バイトとは別の意味で疲れた。

薬師寺の僧侶? 住職? の法話を聞いたり、仙道さんに絡まれたり、奈良公園で鹿せんべいやったり、鹿に手を噛まれたり(せんべいを持っていない手を噛まれた)、仙道さんに絡まれたり、鹿に体当たりされたり、仙道さんに絡まれたり、仙道さんにツーショット写真せがまれたり……日頃、集団行動をとらないから疲れたのかな?

 

 ――いつもより早い時間だけど、寝てしまおう――

 

 このまま眠気に身を任せて寝てしまうのもいいかもしれない。夜中に語り合うのも修学旅行の醍醐味だとは思うけれど、今日は無理そうだ。

 

 ――とりあえず、藍子にメール位は入れておこう――

 

 天岩戸(重たいまぶた)を無理矢理こじ開け、スマホに手を伸ば――

 

「あ」

 

 ちょうどいいタイミングで電話が鳴った。藍子かな?

 

「ふぁい、もひもひ」

 

 ぼぉっとした頭で電話に出る。

 

「あ、夜分遅くにすみません。島村卯月ですけど……寝てましたか?」

 

 ――は?――

 

 スマホを耳から離し、画面を見る。

 

『通話中 島村卯月』

 

 おう。目が覚めたわ。

 

「ごめん。少し微睡んでた」

 

「ごめんなさい。お店にいなかったようなので、気になったので……」

 

 そういえば、マスターと槙原さんと藍子にしか言ってなかったっけ。

 

「今、修学旅行で奈良に来てるんでね」

 

「あ、修学旅行だったんですか! 今、大丈夫なんですか?」

 

 気を遣わせちゃったかな?

 

「同部屋のヤツが他の部屋に行ってるから大丈夫だよ」

 

「それならいいんですけど……」

 

「卯月さんの学校は、修学旅行はいつなの?」

 

「私の学校は、3年生になってからなんです」

 

「えっ!? わざわざ受験とか就職活動とかで忙しいタイミングで!?」

 

 思わず、大きな声が出てしまった。

 

「まぁ、気晴らしとかの意味合いもあるとは思いますよ?」

 

 まぁ、それぞれの学校で違うからね。

 

「あれ? そういえば、誰かが修学旅行で京都に行くって言ってたような……」

 

 ――はて、誰だろう? 知っている人だろうか――

 

「まぁ、紅葉の時期だからね。俺も明日が楽しみだよ」

 

「いいですねぇ。私も京都に行きたいです」

 

「卯月さんは京都に行ったことないの?」

 

 ――アイドルだと地方ロケとかで行くイメージあるけど――

 

「はい。周子さんや紗枝ちゃんにお話は聞くんですけどね」

 

 ――そういえば、塩見さんは京都出身だったっけ。おすすめスポットとか聞いておけばよかったかな――

 

「ところで、奈良はどうだったんですか?」

 

 ――あぁ、聞いちゃうか、聞いちゃうか~――

 

「ちょっと話長くなるけど、大丈夫?」

 

「大丈夫です! 優也くんのお話聞きたいです!」

 

 おう、きっと目の前にいたら、目をキラッキラ(通常時の5割増)させてるんだろうなぁ。そんなに面白い話ではないんだけどね。

 

「じゃあ、まずは――」

 

 ※

 

「で、何故か分からないが、鹿せんべいを持っていない方の手を噛まれちゃったんだよね。いやぁ、見た目によらず、シカは怖い」

 

「えぇっ!? 大丈夫だったんですか!?」

 

 やはり驚きの声を上げる卯月さん。

 

「痛みは無かったね。違和感あって、『何これ?』と思って振り返ったら、左手をカプッといってて、『ナニコレ!?』ってなったけど」

 

「優也くんの手に、旨みが染みこんでいるんですかね?」

 

「いや、俺の手はアルギン酸とか含まれてないし、出汁出ないから!」

 

「え、えっと……アレルギン?」

 

「あっと、その話は後日にしよう」

 

 話が脱線するところだった。と――

 

ガチャ

 

「うーす」 

 

 田中が戻ってきたようだ。とりあえず、電話しながら『スマン』とジェスチャーをすると、気にするなというように手を振りながら自分のベッドに腰を下ろしていた。

 

「それで……そっちはお仕事どうだったの?」

 

 少しトーンを抑えながら卯月さんの今日の出来事を聞く。さすがに俺だけ話して、はい、サヨナラはダメだろう。

 

「それがですね――」

 

 

 

 うん。今日の出来事の話ならそんなに長くならないんじゃないかと思っていたけど、忘れてた。卯月さんの趣味は長電話だった。心なしか、田中の視線がつらい。かかといって、こちらから切り上げるのも――

 

「あぁ! もうこんな時間ですね。ごめんなさい。私ってば、また長電話を」

 

「あ、ううん。大丈夫。こっちも話せて楽しかったよ」

 

 おっと、田中の視線がさらにキツくなったぞ。

 

「こちらこそ。じゃあ、おやすみなさい」

 

「おやすみ」

 

 電話を切って――

 

「田中、スマン!」

 

 速効で謝った。

 

「彼女か~?」

 

 ニヤニヤしながら聞いてきた。

 

「いや、友達だよ」

 

「いいか、川嶋」

 

 ズズイッと寄ってくる田中。

 

「おう……」

 

「男女の友情なんて存在しない!」

 

「いやいや、そんなことは……」

 

 ガシッ

 

「!」

 

 肩を掴まれる。

 

「いや、存在しないね! それを今から教えてやる!」

 

 ――まだ長くなりそうです――

 

「田中……彼女いないの?」

 

「ば、馬鹿言っちゃいけねぇよ! 俺にだって彼女の1人や2人いるわぁ!」

 

 ――え、彼女って1人いればいいんじゃ――

 

「俺が言いたいのはな、男だろうと、女だろうと『友達』である以上はどちらかを優先しない。しちゃあいけねぇんだ。

 それがどうだい。異性の友達を優先して、経験値ためたら恋人に進化してるんだぜ? そんで先輩面して『お前らも恋人が出来れば分かるさ』だとぅ!? そもそも――」

 

 

 

 

「はっ!?」

 

 気づいたら朝だった。田中の深夜のテンションによる講説を聞いていたら寝落ちしたようだ。

 

 ――えっと……今何時?――

 

 スマホを探すも見つからない。昨日どこにやったっけ?

 

「あった!」

 

 ベッドから落ちたのか、床に冷たくなった状態で発見した。

 ボタンを押すが――

 

「あれ?」

 

 画面が表示されない。壊れちゃったのか――

 

「あ″」

 

 そういえば昨日長電話してから充電してなかった。

とりあえず、ホテルチェックアウトまでの間少し充電したが、果たして持つやら……

 

 

「皆さん、おはようございます~」

 

「「「おはようございます!!!」」」

 

 あぁ、田中が言っていたことを今日実感した。

 

「本日より皆さんの旅のお供を勤めさせていただきます、椎名結と申します。よろしくお願いします」

 

「「「ゆいちゃーん!!!」」」

 

 仙道さんとは昨日でお別れし、今日からは椎名さんという添乗員さんが付いてくれることになったのだが――

 

 ――この変わりようである――

 

 椎名さんは小柄の割にスタイルがよく、幼さを残したような顔をしている。早くもうちのクラスのヤツらのアイドルになったようだ。

 

「はい、ありがとうございますっ。実は私、皆さんの高校のOBなんですっ」

 

「「「おーっ!!!」」」

 

「つまり、あと数年早く生まれていたら結ちゃんと青春出来ていたのか!?」

 

「クソッ! オヤジの精子め! もう少し早く仕事しろよ!」

 

 ――その結晶がお前なんだけどな――

 

「私の時の担任がここにいらっしゃる武田先生なんですっ」

 

「御館様!?」

 

「なんと言うことだ! 時を超えてもなお我々の前に立ちはだかるのか!」

 

「お前ら……」

 

 御館様が頭抱えてる。

 

「えっと、皆さんは午後から自由行動なんですよね? では、午前中はお供させていただきますっ。よろしくお願いします」

 

「午前中と言わずに午後からもお願いしたいです!」

 

「むしろ末永くよろしくお願いします!」

 

「お前ら、静かにせんか!!!」

 

 遂に御館様の雷が落ちた。

 

 

 

 

「川嶋、本当に大丈夫か?」

 

「うん。トイレ借りて、充電器買ってくるだけだから、先行っててくれ。すぐ追いかける」

 

「じゃあ、先に行ってるね~」

 

 自由行動になった。

それぞれが決めたところに行き、5時までに宿に帰ってくること。遅れたら、それなりのペナルティーがあるらしい。

 ひとまず、班員と別れ、コンビニで充電器を購入――することにしたのだが――

 

「あれぇ? この辺じゃなかったっけ?」

 

 バスでの移動中に見かけたので、寄ることを決めたのだが、たどり着けない。

 

「仕方ない。一旦戻ろう」

 

 そう決めて振り返れば――

 

「どう来たんだっけ?」

 

 

 こうして俺は、よく分からない地で迷子に――

 

「あれ? もしかして――」

 

 そこで救世主に声をかけられるのであった。

 




 いざ奈良のことを思いだそうとしたら、法話とシカに手を噛まれた話しか覚えてなかった。
 さて、迷子の優也に声をかけたのは――
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