あと、奈緒、誕生日おめでとう。
結局間に合わず。残念です。
side 奈緒
昨日からうちの学校は修学旅行で京都に来ている。
昨日は金閣寺とかを見て回って、今日は班別での自由行動。
「あれ?」
ふと前の十字路で見覚えのある男子を見かけた。
――いやいや、アイツがいるわけないか――
そういえば、同じホテルに今日から泊まる修学旅行生がいるとか言ってたっけ。
制服も着ているし、彼がそうなのだろう。世の中に似たような人が2人、3人はいるって言うし、他人のそら似だろう。
と思っていると――
「――!!」
さっきの声が聞こえたのかこちらに振り返る男子生徒……って、やっぱり優也じゃん。
優也はものすごい勢いでこっちに近づいてきて――
「――!?」
一瞬のうちに抱きしめられていた。
何が起こったか分からないけど、抱きしめられていた。
抱きしめ……は!?
「奈緒さん!! 良かった! 良かったよぉ!」
あたしが思考停止していることを知ってか知らずか抱きしめて喜びの声をあげる優也。ってか、泣いてないか!?
そんなことより――
「は、はーなーせー!」
「奈緒さん、奈緒さん!」
「ちょっ、本当に離れろ!」
なんとか抵抗を試みるも、体格差と男女の力の差もあって効果はまるで無い。
――こんなとこ誰かに見られたら――
そんなことを思ったときだった。
「奈緒~! どこのコンビニまで行ってんの~?」
神様って残酷だ。救いを求めるときは、『お前何言ってるの?』レベルで見て見ぬふりするくせに、こういう時は嬉々として弄りにくる。
信仰心もないくせに都合のいいことを言うなと言われそうだけど、これはあんまりだと思う。
「奈……緒……」
パシャ
「!?」
「あ~、私たちお邪魔みたいだから、先行ってるね~(棒読み)」
「奈緒は急がなくても大丈夫だからね?(棒読み)」
「むしろ、彼氏くんと別行動でもかまわないからね(力説)」
「じゃあ、ごゆっくり~」
言うだけ言ってそそくさと去ろうとする班員。
「ちょっ、ちょまっ!」
「奈緒さん~!」
いまだに現実に戻ってこない優也。足枷どころか拘束具になっている。
もはや恥ずかしさよりも苛立ちすら出てきた。
「お前は、いい加減に、しろぉ~!!」
あたし1人を押さえられる優也でも、あたしの怒りまでは抑えられなかったらしい。むしろコイツ自身が怒りの原因だしな。
「ンガ!!??」
あたしの右足は優也の左脛にヒットした。
心の中でやり過ぎたかな? と思いながらも、理由を説明するために班員を追いかけた。
side out
「すみませんでした」
近場のファミレスのボックス席。ランチ兼俺の釈明会をすることになった。自業自得だよな。
「あの十字路で迷子って……」
「信じがたいことだけど……」
まぁ、確かにね。聞いてみればホテルからそんなに離れてないらしいし、俺も同じ立場なら信じられない。
「ソイツはガチの方向音痴だよ。しかもたちが悪いことにアクティブな方向音痴なんだ」
向かいに座る奈緒さんが腕を組みつつ、こちらを睨む。
ちなみに今の座席は壁側奥に奈緒さん、向かいに俺、俺たち2人を逃がさない(?)様に4人が2人ずつ隣に座る。
「どういうこと?」
「電車で2駅ほどの場所に走って行って2時間彷徨ってる様なヤツだ」
「それはなんとも……」
信じてもらえたようだけれど、なんか納得いかないなぁ。
――あ、この人のグラス、空だ――
ふと斜向かいの子と、その隣の子のグラスが空なことに気がついた。他の店に行くと目についてしまって、あぁ職業病だなぁとは思っていたんだけど――
――コレはチャンスだ――
顔に出さないようにしながら内心ほくそ笑む。
正直人慣れしてきたとは思いながらも奈緒さん以外に見知った人がいないのは居たたまれないしね。
「グラス、空ですね。何か持ってきましょうか?」
「あ、私行ってくるよ~」
「私も~。川嶋君は何がいい?」
「あ、えっと……お任せします」
機先を制されてしまった。
と、言うか、奈緒さんと3人のご友人が『あ~あ』って顔してるのは何ででしょう?
「さてと、じゃあ奈緒と川嶋君の馴れ初めでも話してもらおうか?」
「あ、カツ丼注文する?」
失礼ながら悪い顔になってますよ、お2人とも。
「な、なりぇそめぇ!? はぁっ!? そ、そんなんじゃないし!!」
うん。奈緒さんや。その反応は何かあると勘繰られてしまっても仕方ないですぜ?
「まぁ、奈緒ったら大きな声出しちゃって」
「はしたないですわよ?」
さて、顔を真っ赤にして、涙目でこちらを睨みながら助けを求めてくる奈緒さんを楽しむのアリかなぁとは思うんだけど、後が怖いしなぁ。
「えっと……馴れ初めもなにも、付き合ってないです……よ?」
言った瞬間に、場を沈黙が支配した。
「いやいや、またまたぁ~」
「嘘つかなくても、黙ってるから大丈夫だってぇ~」
広められても困るから嘘をついているのだと思われてしまった。
「そもそも、白昼堂々道のどまんなかで抱き合うなんて、恋人同士なもんでしょ?」
「むしろバカップルだよね」
「ぁ……」
側頭部を巨大なハンマーで殴られたかのような衝撃を受けた。もちろん物理的ではないけれど。
おかげで、
『実は知らない地で迷子になってしまって、絶望しかけたところに知人が来て、感極まって抱きしめてしまったんです』
と言おうと思っていたのに、口が動かなかった。
「で、どうするんだよ?」
「……え?」
どう受け答えしたか覚えていないものの、奈緒さんと俺は奈緒さんのご友人と別行動を取ることになった。
「いや、『え』じゃなくてだな。その、アタシがテンパって何も出来なかったのもあるけど、アタシら……その、恋人、みたいに勘違いされちゃったし、どうするつもりなんだろうって」
「あ~……」
「てっきり、優也がキッパリ否定してくれると思ってたんだけど」
ジト目で睨む奈緒さん。
「すみません……」
奈緒さんが言ったところで恥ずかしがっている様にしか思われない。俺が否定するしかなかった、のだけど……
「そうなんだよなぁ、恋人じゃないのに抱きしめちゃったんだよなぁ……」
感極まったこととはいえ、罪悪感がこみ上げる。
「まぁ、確かにそうだけど……アタシは優也が藍子のことを第一に考えていることを知ってるし、抱きしめられたのも、びっくりしたけど、何かしら理由があったんだよな?」
さすがに抱きしめるのはどうかと思うけど、と奈緒さんが指摘する。
「すみません……」
とにかく頭を下げる。
「いいって。……優也が説明さえしてくれれば」
ですよねぇ~。
「じゃあ、腹括るか!」
「へ?」
腹括る? どういうこと? 何させられるの!?
「ここは京都だろ?」ニヤリ
ニヤッと笑う奈緒さん。確かにここは京都。京都と言えば、新撰組、新撰組、鬼の副長……
「な、奈緒さん、切腹ですか!? ジャパニーズハラキリですか!?」ガクブル
『大丈夫、何か理由があるのは分かってるから。でも、それはそれとして落とし前をつけなきゃな』ってことですか!? 介錯はしてやるから腹切れと!? 奈緒さん、恐ろしい子や!
「違うから! 確かに京都だけど、そこまで求めてないからな!?」
あ、違いました? 良かった。
「ったく、お前の考えがアタシは時々分からなくなるよ」ハァー
頭を掻きむしりながらため息をつく奈緒さん。
考えていることが顔に出やすいって言われるんですがね、矛盾してませんか? って――
「奈緒さん、ダメですよ。髪の毛痛んじゃいますって」
「いや、誰のせいだよ」
とは言いますけどねぇ~、
「奈緒さんの髪って割と好きなんですよ。ふわふわしてて」
「んな!? ~~~っ、この天然女たらし!!」
顔を真っ赤にして奈緒さんが吠える。
天然女たらしって、俺のこと!? そんなつもりはないんだけど……
「ほら、行くぞ!」
ぐんぐん進んでいく奈緒さん。
「えっ、どこにですか?」
「いいから! 黙ってアタシに着いてこい!」
奈緒さん、男らしい。俺が女だったら惚れてた。
ん? ちょっと変か。奈緒さんは女性なわけだし……あれ?
そんなことを考えている間に奈緒さんは先に行ってしまう。
「ま、待ってくださいよ~」
また迷子になるのは勘弁なので、急いで奈緒さんの後を追った。
清水寺
読みは『しみずでら』ではなく『きよみずでら』。12月には今年の漢字が発表されたり、過去にはかの有名なゴジ○すら観光に訪れたとか。さて、清水寺と言えば――
「ほら、飛んでみろよ」
「切腹と変わらないじゃないですか!?」
ニヤリと悪い顔しながらサラッと酷いことを告げる奈緒さん。
しかもセリフがカツアゲっぽい。から揚げは好きですけど、カツアゲはちょっと……
「まぁ、それは冗談だけどさ。こっから飛び降りるよりは決心つくよな?」
清水の舞台から飛び降りる――大きなことなすときの決意を表す様。
「しっかし、確かにコレは決心いるよな~」
「まぁ、そうですね。でも下ばかり見るよりは、前向いて景色を見る方がいいですよね」
生憎まだ紅葉シーズンには少し早かったのか、まだらなんだけどね。
「すみませ~ん」
と、後ろから声が聞こえる。
振り返ると老夫婦がいた。もしかして、邪魔だったかな?
「写真を撮っていただけませんか?」
「えぇ。喜んで」
もちろん即答して、奥さんからカメラを受け取る。
断る理由が無いからね。
「じゃあ、この辺をバックに撮りましょう」
背景を考え、老夫婦をセンターに捉える。少し、旦那さんの表情が硬いかな? 失礼とは思いながらも話しかけてみようかな。
「京都へは旅行ですか?」
「えぇ。主人が先日、定年を迎えてね」
「それは、長い間お疲れさまでした」
「ありがとう」
お、気難しい人かと思ったけれど、そうでもないのか。
「で、仕事人間だったから旅行の1つもしたことなくてね、娘夫婦がプレゼントしてくれたの」
「おい!」
「まぁまぁ、ご主人も家族のために頑張った結果なんですよね。ってことは、第二の人生のはじめの一歩ですね」
ご主人が少し不機嫌になってしまいそうだったので、急いでたしなめる。
「では、スタートのための1枚、笑顔でいきましょう! 笑う門には福来たる。お2人のこれからの人生、福でいっぱいになりますように。はい、笑ってくださ~い」
奥さんは笑顔。旦那は……照れくさそうではあるけど、笑ってくれた。良かった。
「じゃあ、いきます! はい、チーズ」
パシャ
幸せの一瞬を切り取る。
「もう1枚いきましょう! はい、チーズ」
パシャ
「うまく撮れたかしら?」
「こんなもんでどうでしょうか?」
奥さんが来たので確認してもらう。
「あなたの笑顔、ぎこちないわよ?」
「いえいえ、中々いい笑顔ですよ。めったに笑わない人の貴重な笑顔ですから。これなら福も来てくれますよ」
「そう? ありがとう。じゃあ、次はあなたたちね」
はい?
「ほら、彼女さんも並んで~」
「ふぇっ? か、彼女!?」
俺の後ろで見ていた奈緒さんが顔を赤くして驚いている。
「まぁ、初々しい。ささ、スマホを貸してちょうだいな」
「あ、いや、俺たちは」
急いで説明しようとするも――
ポン
「妻は言い出したら絶対に聞かないんだ。すまないが諦めてくれ」
旦那さんにそう告げられてしまった。
「「アッハイ」」
諦めて2人でスマホを差し出す。
「はい、並んで~。彼女さん、表情硬いわよ~。彼氏くんももっと彼女さんに近づいて~。はいチーズ」
パシャ
「なんか、どっと疲れた」
奈緒さんがかなり疲れ果てた顔でつぶやく。
あの後、構図を変えて、各スマホで3回ずつ撮られたのだが、とにかくこだわりが強かったので疲れた。
「とりあえず、戻るか?」
もう戻りたいのか、奈緒さんが告げるが、
「もう1カ所付き合ってもらえませんか?」
「もう1カ所? どこだ?」
「お土産を買いに行きます」